雨の音は再び動き出した二人の時を彼らに伝える悲歌のように…。
・2018年8月12日 夜
思えばお金はあった、私が(能力)で手に入れた汚れたお金。
ううん、実際は汚れてなどいないお金だ。
私が自分で働いて手に入れた(証)であり、私が考えて増やしたお金。
ただ、それがあまりにも金額が大きくなってしまっただけの話だ。
私にはこれを増やすことなど指を動かすだけで簡単に出来る、出来てしまうのだ。
どういうことなのか普通の人間には分からないだろう、私にだって(能力)のすべてが
分かっているわけではない。
ただ今の私には世界を好き放題出来る力があって、その力によって私は不可能を完全に
消し去ってしまった。
望めばどんなことでも可能にしてしまう、解決にする方法を脳が勝手に導き出して
しまうのだ。
でも、ひとつだけ出来ないこと事があった。
それは「失ったモノ」。
時間や選択、生命などはどう考えても取り戻すことはできない。
「これから、どうしようかな…。」
アテもなく歩き続けた私は知らない街に着いていた、私の脳が勝手にこの場所へ足を
進めたからだ。
外はすっかり暗く、季節外れの寒い風が吹いている。
不良なんて人たちもこの寒さには勝てなかったのか全く見かけない、通る車も少ない。
信号機の看板を見て、ここが「風見市」という街だと知った。
「ああ、ここなんだ…。」
今の今まで忘れていた、彼がいる街だ。
ということは私はかなりの距離を歩いたことになる、しかし私の脳はまだここが到着
地点とは言っていない。
「そもそも私が望んでもいないのに、なぜ勝手に動き出したの?」
理由は私にもわからない、心が勝手に考え、脳が指令を勝手に下し、身体が勝手に
動く、これの繰り返しだ。
「はぁ、いい加減に休憩させて…。」
少し休もうとちょっと広いコンビニに入った、中には人があまりおらず静かだった。
「トライスターのロングを2つ…。」
お気に入りの煙草を切らしていたのを思い出し、購入しようとしたとき。
「あ…。」
横の温かい飲み物置き場で不意に懐かしい飲み物が目に入った。
「グランドミルクティー」、彼が好きだったの飲み物。
「グランドミルクティーが好きだったね、そういえば…。」
彼がいつも飲んでいた飲み物をタバコと一緒に買って店を出た。
さっそく外で買ったばかりの煙草を開けた。
「いつからこんな不味いものを吸い始めたっけ…。」
箱から一本取りだして火をつけて吸う、相変わらず不味い。
「思い出せないなぁ。」
肌に悪いし、肺を痛めるとわかっているのになぜか吸ってしまう。
一種の精神安定なのだろう、もはやニコチン中毒になっている。
「ホント、厄介ね…。」
愚痴を一人で言いながら飲み物のほうの封を開けた、ふんわりと紅茶の香りがする。
「あったかい…。」
グランドミルクティーを一口飲んだらそんな言葉が出てきた。
「甘いなぁ、ホントに甘いよ…。」
激甘もここまで来ると、落ち着くものだ。
さて、彼が居るであろうこの町で彼が好きな飲み物を直感的に手に取って飲んでいる。
はたしてこれは偶然なのだろうか?恐らくそうではない。
「私は彼に会いに来たんだ…。」
私の記憶の中で唯一私のことを好きだと言った男に私は確認したい、今の私を見ても
同じように好きだと言えるのかどうかを…。
「行こうか…。」
置いてあった灰皿にタバコを押し付けて、私はコンビニから出発した。
・2018年8月12日 夜
雲行きが怪しくなってきたのが18時頃、そして現在20時は雨だ。
仕事が終わって家に帰るとき、僕は昼間のことを思い出した。
「都築さん…。」
思い出したくなくてもあの日のことは鮮明に覚えている、僕は都築さんに告白したが
彼女には他に付き合っている男子がいた。
薄々分かってはいたが、僕は現実よりも感情を優先した。
結果として告白は失敗に終わったが、僕は他の人から都築さんを奪うという男として
最低なことをするところだった。
あっさりフラれたが彼女は卒業する最後の日まで笑顔だった、僕にはそれで十分だった
のになんて馬鹿げたことをしたんだろう。
でもその告白以降、彼女の悪い噂を次々に聞いてしまった。
お金での関係だとか、彼女が他の男子とも付き合っているとか。
終いには別れたとも聞いたが、真相はわからない。
僕にもそれ以降は好きな異性はできず現在に至るのだが、あんな過ちは二度と繰り返したくないと思っている。
行きは自転車だったが、雨が降っているので徒歩で帰宅することに。
「寒いなぁ、はぁ。」
息が白い、8月なのにこんなに寒いのは何かがおかしい。
もしかしたら、日本の四季というのはもう壊れているのかもしれない。
「なんで傘を二本も持ってるんだよ、変な人みたいじゃないか。」
先日忘れた分の傘と念のため持ってきた傘が一本ずつある、一本は完全な荷物だが。
「うん?」
ふと目の前に女性に目が行く、こんな雨なのに傘も差さずに歩いている。
冷たくないのだろうか?などと余計なお世話を考えながら帰ろうとすると目の前の女性は突然倒れそうになる、とっさに駆け寄って女性を受け止めた。
「あっ…。」
「大丈夫ですか?立てますか?」
昔の癖で意識確認をする、女性は意識はしっかりしているがどこか生気がない。
「大丈夫です…。」
女性は小さな声でそう言うがとてもそうとは思えず、とりあえず座れそうな場所を
探す。
幸い雨避けが付いた公園のベンチに座らせた、顔を見たのはこの時が初めてだ。
「ありがとう…。」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから!」
そんな会話をしながら僕はこの女性をどこかで見たことがあると思った。
でもなぜだろうか、思い出してはいけない気がする…。
「あの…。」
思い出そうといろいろ考えていると彼女から話しかけられた。
「なんでしょう?」
「どこかで会ったことはありませんか?」
「え?」
不意にそんなことを言われた、やはりどこかで会っているのだろうか?
「私、都築綾子です。」
…!?
今なんて言った?都築?いや同姓同名なだけで同一人物だとは限らない、けど恐らく
僕の名前を言ったら彼女が都築さんだとわかってしまう。
「蒼坂君…だよね?」
「はい…。」
つい、敬語になってしまった。
彼女が都築さんだと確定した瞬間に、僕の思考は停止してしまった。
「会いたかった…。」
会いたかった?僕に?なんで今さら?
「確認したいことがあるの、貴方に。」
「え?」
なんなのだろう、聞きたくない気もする。
「まだ私のこと、好き?」
あまりの唐突さに、僕は言葉を失ってしまった…。
To be continued