勇者エクスカイザー The after story ~20years later~   作:天神梅

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勇者シリーズファンの方は、以下の点に注意してお読みください。

・作者が独自解釈した要素が多々あります。

・本編に登場しないオリジナルキャラクターが出てきます。

以上の2点を気にしないという方だけお願いします。また、以上の2点に関する事柄の批判等は一切受け付けません。




勇者エクスカイザー The after story ~20years later~

 

「編集長!原稿、書き上がりました」

 星川コウタは叫ぶように大声を上げ、自分の机から足早に離れた。書き上がったばかりの原稿を片手に、編集長である徳田オサムの机に向かう。

「どれどれ」

 徳田はコウタから原稿を受け取ると、すぐに目を通す。しばらくして、大きく頷いた。

「うん。誤字脱字なし。原稿の内容も写真の写りも完璧。コウタくん、流石だよ」

「ヤだなぁ、徳田さん。いいかげん、下の名前で呼ぶのやめてくださいよ。もう入社して七年たつし、今は徳田さんの部下なんだから」

 コウタは照れ臭そうに頬をかく。

「いやぁ、クセになってて、中々直せないんだよ。それにホラ、編集長の息子さんだから余計にさ」

「今の編集長は徳田さんでしょ。しかも父は編集局長に昇進して、去年退職したじゃないですか。それも何度も言ってるのに」

「そうだったねぇ。いやぁ、何年経っても、今までのクセが直らなくってさ」

 頭をかきながら照れ笑いをする徳田に対して、少し呆れ気味にコウタも笑う。

 大学卒業後、コウタは父ジンイチの勤め先である東都新聞社に入社し、父と同じ社会部に配属された。子供のころは宇宙飛行士や野球選手やF1レーサーに憧れていたが、祖父の形見であるカメラを活用できる仕事に就きたいと思い、新聞記者になった。

 コウタが入社した時には、ジンイチは編集局長、徳田は社会部編集長にそれぞれ昇進していた。未だにドジが抜けきれなくて多少頼りない部分もあるが、徳田の人柄もあって、のびのびと仕事ができる。同期入社の社員から羨ましがられるほどだ。

「それより、編集長。この事件、気になりませんか?」

 コウタは話題を変え、自分がさっき書き上げたばかりの原稿を一瞥(いちべつ)する。

「うん。僕も気になっているんだ。まるで二十年前のあの時とそっくりだからね」

 徳田は真剣な表情で頷く。

 二十年前のあの時とは、博物館などから恐竜の模型が盗まれた事件のことだ。宇宙海賊ガイスターが自分たちの依り代となる体を求めて盗まれたことが後々になって判明したのだが、昨晩、博物館に展示されている実物大のアロサウルスの模型が一体盗まれたのだ。コウタは二十年前の出来事と酷似しているこの事件をいち早く聞きつけ、記事にしたのだった。

「あんなデカい模型を盗みだすなんて人間業じゃないし、床に大穴が空いていたんだろ?」

「ええ。壊される直前まで、防犯カメラには何も映ってなかったし、他の所を巡回していた警備員によると、大きな音が聞こえたそうです」

「また宇宙人の仕業かな……?」

 徳田が首を傾げながら呟く。

 もしそうだとしても、ガイスターのような悪者でなければいいのだけれど。

 コウタはそう願わずにはいられなかった。

「あ、そうだ。コウタくん、今度のゴールデンウィーク、君は休んでもいいよ」

 思い出したように、徳田が話題を変える。

「え?いいんですか?」

「うん。中々、ゴールデンウィークに休みをもらったことなかっただろ?ちょうど、あの博覧会も行われるし。いい機会だから、可愛い奥さんと一緒にリフレッシュしていきなよ」

「か、可愛いだなんて……。ったく、徳田さんてば……」

 コウタは顔を赤くしながら、照れ臭そうに頭を掻く。

「ハハハ。ま、とにかく久々のゴールデンウィークを楽しんできなよ。そっちはラブラブで羨ましいくらいさ。僕なんか未だに尻に敷かれっぱなしだから……」

 大笑いしていた徳田だが、段々と表情が暗くなり、最後にはため息が出る。

 エクスカイザーの最後の戦いを特ダネとして掲載した後、徳田は関東テレビのレポーターである勝木アナと結婚した。が、目には見えていたのだが、家庭内では勝木アナが主導権をすべて握り、かなりの鬼嫁っぷりを発揮している。何度か徳田家の家庭内のことを聞かされていたが、そのたびにコウタは苦笑いをするしかなかった。

 

 

 

 

「ただいまー」

 コウタは自宅マンションの玄関扉を開け、一声かけた。しばらくして、パタパタと足音を立てて、コトミが顔を見せる。

「おかえりなさい。今日は早かったのね」

「うん。昨日の出来事をすぐに記事にしたから、編集長が気を使ってくれてさ。早めにあがらせてもらったんだ」

 コウタは靴を脱いで、リビングへと向かう。

 結婚して三年経つが、未だに出社するときは、笑顔で「いってらっしゃい」と送ってくれて、帰宅したときには、いつも待ちわびたように出迎えてくれる。そんな愛妻が、コウタは愛おしくてたまらなかった。

 コトミとは小学生の時からの同級生である。高校まで一緒だったが、大学で離ればなれになる前にコウタの方から交際を申し込んだ。お互いに仕事が慣れるまで待って、二十六歳の時にコウタがプロポーズし、結婚した。そして、互いに二十八歳になる去年の冬に、待望の第一子が生まれた。

「コズエ、ただいま~。パパが帰りまちたよ~」

 コウタはカバンを置くと、すぐさま愛娘のコズエのもとに向かった。

 もうすぐ生後半年になる娘も、コウタが帰宅して顔をのぞかせるといつも笑顔を見せる。

「あ、そうそう。今度のゴールデンウィーク、休みをもらうことになったんだけど、どこか行こうか?」

 コウタが背広の上着を脱いだり、ネクタイを緩めたりしながら、コトミに話しかける。

「え?本当?」

 コトミの顔がパッと輝く。

「うん。毎年、ゴールデンウィークに休みが取れなかったから、今年は休んでもいいって徳田さんが気を遣ってくれてさ。せっかくだから、厚意に甘えようと思って。それにほら、あの博覧会もやるし」

「『勇者たちを称える会』でしょ?私もあの時よく助けてもらったから、行きたいと思っていたの」

「じゃあ、その後はどこかシャレたお店でディナーでもしようか。コズエは僕の実家に預けてさ」

「本当?嬉しい!」

 まるで、少女のようにはしゃぐコトミ。こういうところは昔から変わってないなぁとコウタは思っている。

 それと同時に、急にぐずりだすコズエ。

「あら?どうしたのかしら?」

「きっと、仲間はずれにされて寂しいんだよ。でも、じーじとばーばがコズエを可愛がってくれるからね~」

「こういうところはコウタさんに似たのかしら?」

 コトミの何気ない一言に、コウタはきょとんとした顔になる。

「誰から聞いたの?そんなこと。僕、話したことあったっけ?」

「お義姉さんから聞いたの。昔、リニアモーターカーに乗せてもらえなくって、ゴネたことがあったって」

「まったく、姉ちゃんたら。自分のことを棚に上げて良く言うよ。父さんが内緒で母さんと一緒にディナーに行こうとしたら、姉ちゃんもゴネた癖にさ」

「じゃあ、星川家の遺伝なのかしら?」

 冗談めかして言うコトミに「おいおい」と苦笑いをするコウタ。その後、どちらからともなく、二人とも笑い声をあげるのだった。

 

 

 

 

 それから、数日後の五月一日。

 コウタとコトミは支度を整えて、マンションの地下駐車場に降り、愛車のスポーツカーに乗り込んだ。後部座席にコズエをチャイルドシートに乗せて、その隣にコトミが座り、コウタが運転する。

「じゃあ、運転するよ」

「ええ」と、コトミの返事を確認したうえで、コウタはキーを回す。だが、中々エンジンがかからない。

「ねぇ、コウタさん。やっぱりもう一台、車を買った方がいいんじゃない?」

 後部座席からコトミが顔を出して尋ねてくる。

 この車はコウタやコトミが小学生の時に、様々な場所へ遠出した時に乗せてもらった車であり、エクスカイザーが乗り移り、ガイスターと戦った車だ。

 ジンイチが車を買い替える時に、大学時代にコウタがおさがりでもらって以降、コトミとのデートや遠出をするときにこの車を活用している。

 しかし、元々エンジンのかかりが悪かったが、ここ最近は色々とガタが出てきていた。何としても、この車を残したいコウタは自動車整備士の資格を取り、車検以外でも自分でメンテナンスするようにしているが、それでも調子が悪いことが多い。

 コトミもこの車に思い入れがあるため、何とかして残したいというコウタの気持ちは尊重しており、買い替えるという提案はしないが、コズエが生まれた以上、調子の悪い古い車で運転するのは心もとない。

「う~ん、この前メンテしたのになぁ。やっぱり寿命なのかなぁ?」

 と、何度もキーを回しながら、コウタはぼやく。

 いい加減、車で行くのを諦めようかと思ったその時、やっとエンジンがかかった。

「今度、車を買い替えに行こうか。この車も、もう潮時かな」

 シフトレバーを動かして、車を発進させながら、コウタは寂しそうにつぶやく。

「あら、私は買い替えようなんて言ってないわ。もう一台買いましょうよって言ったのよ?」

「でも、もう一台駐車場がいるし、置いとくだけでお金がかかるよ。コズエのための教育ローンも組んじゃったしさ」

「タクミさんのところに置かせてもらったらいいじゃない」

 さも当然のように提案するコトミだったが、コウタは表情を曇らせる。

「タクミかぁ……。確かにあいつの所に置かせてもらえれば、手っ取り早いけど……」

 タクミとは、コトミと同じく、小学校から高校まで同じだった腐れ縁の悪友であり、コトミを巡って、火花を散らした金有タクミのことだ。日本有数の大企業、金有グループ社長の息子であり、彼自身も今は金有工業の社長に就いている。

 高校までは、コトミを追って同じ学校に通っていたが、さすがにコトミと同じ女子大に行けるわけもなく、良家の子女が通う由緒ある大学に入学した。その時にコトミと付き合うようになったコウタに対して根に持っており、就職してからはお互い忙しいこともあるが、疎遠になってきている。

 その上、自分も他の女性と結婚しておきながら、コトミに対して未だに未練があるらしく、昼食の誘いや遠出の誘いなどアプローチを仕掛けてくる。コトミを信用しているので、昼ドラみたいな展開にはならないと信じているが、コウタから頼むのもコトミから頼みに行かせるのも億劫(おっくう)になるのである。

 

(もういい加減、あいつも諦めてくれたらいいのに)

 

 ここ数年、コウタはタクミに対してそう思うのだった。

 

 

 

 

 現在、コウタ一家が住んでいるマンションから、コウタの実家からもコトミの実家からもそう遠くない。なので、コズエを預けたり、困ったことがあったりすれば、すぐに相談に行ける。車で十分ほど離れている程度の距離だ。

 コウタは車を星川家のガレージの横に停め、車から降りた。

 すると、すぐに駆け寄ってくる影が現れ、コウタに向かって突進してくる。

「マリオ!」

 星川家の愛犬、マリオである。もっとも、同じチャウチャウの雑種だが、コウタが小学生の時に飼っていたマリオではない。二代目のマリオだ。

 初代のマリオは、十五歳という、チャウチャウとしては長生きをして、天寿を全うした。しばらくの間は、他の犬を飼うこともなかったのだが、フーコもコウタも独立して、寂しくなったジンイチとヨーコがマリオの親類にあたる今のマリオを飼うことにしたのだった。性格や体格も初代のマリオに似ており、太り気味だが、人懐っこく愛嬌のある風貌をしている。

「こら、くすぐったいったら」

 前足をコウタに預けて、ひっきりなしに顔をなめてくる。

 コウタが実家に帰ってくるたびに、いつもマリオの熱烈な歓迎を受けることになるのだった。

「マリオ、元気そうね」

 コトミがそう話しかけると、「ワン!」と返事をした。人間の言葉が分かるのではないかと錯覚してしまうようなタイミングの良さも、初代のマリオとよく似ている。

「じゃあな、マリオ。また遊んであげるからな」

 これまた「ワン!」と返事をして、マリオは犬小屋のある庭のほうへ戻っていった。

 コウタとコトミは、玄関から「ただいまー」と一声かけてから、リビングに向かう。

「あら、おかえりなさい」

「おお、待っていたぞ」

 ジンイチとヨーコが笑顔で出迎えてくれた。そして、リビングのソファにもう一人座っている。

「あら、あんたたちも来たの?」

「あれぇ?姉ちゃんも帰ってきてたの?」

 コウタの姉のフーコである。彼女も現在、結婚して一子をもうけ、今はブティックを経営しているバリバリ働くキャリアウーマンだ。

「当ったり前でしょ。こういう時に帰ってこないで、いつ帰ってくるのよ。ゆっくりする時間もないのに」

「トーコはどうしたの?また、カツヨシさんとこに預けたの?」

 カツヨシというのはフーコの夫の名前で、トーコは娘の名前である。

 フーコが仕事に集中するため、カツヨシに家事育児は任せっきりだ。温厚で優しく、何でこんな良い人がフーコと結婚しようという気になったのか、コウタは未だに不思議に思うのであった。

「そ。旦那の実家のトコ。普段の激務を癒すために、ここでダラけるの」

「ったく。そんな甘えっぱなしだと、そのうちカツヨシさんに愛想尽かされちゃうよ」

 コウタは呆れながらため息をつく。

 努力するところはキチンと努力するが、フーコのこういった他力本願なところは三十路を過ぎても全く変わらない。

「あんただって、コズエを預けるために戻ってきたくせに」

「久々のゴールデンウィークだから、いいじゃんか。孫の顔を見られて、父さんも母さんも喜ぶだろうと思ったし」

「そうね。コズエちゃんの面倒をみるだなんて、まるで、フーコが生まれたときに戻った気分よ」

 ヨーコがウキウキした笑顔で声を弾ませるが、それを聞いて逆にフーコはげんなりした顔になる。

「ママ、そういうの、本人がいる前で言うのやめてくれない……?」

「あら、どうして?」

 きょとんとした顔で尋ねるヨーコ。今年で五十五歳になるが、ヨーコのどこかズレた言動は全く変わらない。

「ところで、コウタ、この事件なんだが」

 ジンイチが東都新聞の記事を指さして、真剣な顔でコウタに話しかける。

 去年、早期退職して、今はヨーコと二人で近所に喫茶店を営んでいるジンイチだが、やはり記者だっただけあって、世情に敏感だ。

「あ、うん。徳田さんとも話してたんだけど……」

「やっぱり、あの時と同じく宇宙人の仕業なのか?」

「それはまだ、分からないんだ。徳田さんも僕もそうじゃないかと思っているんだけど……」

「とにかく、気味の悪い事件だからな。取材の時はくれぐれも気をつけろよ」

「うん、分かっているよ、父さん」

 自分に言い聞かせるように、コウタは頷いた。

 

 

 

 

「それじゃあ、九時には戻るようにするから。それまでコズエを頼んだよ」

「すいません。お義父さん、お義母さん。よろしくお願いします」

「はいはい。楽しんでらっしゃいね」

 車に乗り込む前にコウタとコトミが一言ずつそう言うと、ヨーコが笑顔で応えてくれた。

 ジンイチはというと、コトミの手から離れ、ぐずるコズエをあの手この手であやしていた。新聞記者の時の威厳は全くなく、その姿は「目に入れても痛くない」を完全に体現したお祖父ちゃんそのものだった。

 コウタとコトミは車に乗り込み、コウタが再びキーを回す。今度は一発でエンジンがかかり、快調に走っていくのだった。

 二人を見送って、ジンイチとヨーコは再びリビングに戻る。

「しかし、赤ちゃんの面倒を見るだなんて、まるで新婚の頃に戻ったみたいだな」

 ジンイチが笑顔でコズエをあやしながら、ヨーコにそう話しかける。

「それじゃあ、今日はずっと新婚に戻った気分で過ごしましょうよ。ねえパパ」

「そうだね。ママ」

 年老いても仲睦まじい二人なのだが、一人ふてくされてソファに座る人物がいる。

「あーあ。こんなことだったら、戻ってこなきゃよかった」

 フーコである。コウタとコトミは二人でデート。ジンイチとヨーコは新婚気分でコズエをあやしている。一人完全に除け者だ。

 フーコは大きくため息をついた。それと同時に「ワオーン」と一鳴きして、マリオが庭からリビングに上がってきて、フーコの前にちょこんと座る。

「ちょっと太り気味で毛深いけど、今日はお前の相手をして我慢するか」

 マリオの頭を撫でながら、フーコは呟く。

「あれ?前にも似たようなことを言ったような……」

 首を傾げるフーコの顔を、マリオは大きくひとなめするのだった。

 

 

 

 

「今度はちゃんと一回でかかって、良かったわね」

 助手席に座ったコトミが笑顔で話しかける。

「うん。最初かからなかった時はどうしようかと思っていたけど、次は一回でかかるなんて、今日はいいことがあるかもしれないよ」

 コウタも笑顔で応える。

 一度エンジンをかけて、短時間で戻ってくると、一回目よりもスムーズにかかることがあるのだが、一度でかかることはここ最近なかった。

 休暇をもらうことになってから、何か幸運が舞い込んでくるのではないかと、コウタはここ数日、胸を躍らせていた。これはその幸運の予兆かもしれない。

 その後も他愛のない話をしながら、博覧会の会場である幕間メッセに向かって、車を運転していると、青い球体のような何かが、不規則に右往左往しながら飛んでいるのが視界に映った。

「コウタさん。あれ、何かしら?」

 コトミも同じものが見えたらしく、怪訝そうな顔でコウタに尋ねてくる。

「分からないけど……。もしかしたら、あれは……」

 ちょうど赤信号で停車中だったので、コウタもその物体を確認することができた。

 あの青い球体は見覚えがある。エクスカイザーをはじめとする宇宙警察カイザーズの面々がそれぞれの乗り物に乗り移る前のエネルギー生命体としての姿とそっくりだった。

 だが、同じものかどうか分からないし、宇宙警察カイザーズの誰かである確証はない。さすがにコトミも同じものが見えているので、何かの見間違いということはありえないだろうが……。

 コウタがそこまで考えを巡らしたところで、青い球体は何かを発見したかのように、急に進路をコウタたちが乗っている車に変えてきた。

「こっちに向かってきたわ!」

 コトミが叫ぶと同時に、青い球体はコウタたちの車にぶつかり、目も開けてられないほどの光を放った。

 二人は悲鳴を上げながら、お互いをかばうように抱き合う。

 幾分か時間が過ぎたところで、二人は恐る恐る目を開けた。

「コトミ、大丈夫……?」

「ええ」

 お互いの無事を確認できたことで、ひとまず安堵したが、周りを見渡すと、景色がおかしかった。

 周りがコバルトブルー一色で、建物や自動車はなく、人も歩いていない。コバルトブルーの色はオーロラのように波打ちながら濃淡を出して揺らめいている。およそ、地球上ではありえない現象だった。

「これは一体……?」

 コウタがそう呟くと同時に、声が響いてきた。

「コウタ。コウタなのか?」

 一度聞くだけでも誠実さと威厳、それらと同居するように優しさを感じさせる声色。聞き覚えがある。二十年前にいつも会話を交わした友の声だ。

 コウタは自然とその名を呼ぶ。

 

「エクスカイザー!」

 

 

 

 

 青い人のような形をした、揺らめく物体が二人の前に現れ、話しかける。

「やはりコウタだったのか。立派な大人になったな」

「エクスカイザー。会いたかったよ……。久しぶりだね」

 コウタは感激のあまり、泣きそうになるのをこらえながら、言葉を紡ぐ。

 何せ二十年ぶりの再会だ。それまで声を聞くことさえできなかった。ガレージの中や車の中で会話をした、あの時の思い出がよみがえるようだった。

「コウタさん、エクスカイザーって、本当に……?」

 まだ状況がつかめていないコトミが、コウタに不安そうに尋ねる。

「うん、エクスカイザーだよ。これはエネルギー生命体としての姿。今まで話してこなかったけど、コトミが見てきたエクスカイザーは、この車に乗り移って、変形した姿だったんだ」

「ええ?そうだったの?」

 コウタとエクスカイザーを見比べながら、コトミは驚く。

 信じてもらえるか分からなかったこともあり、エクスカイザーが地球を去ったあとも、結婚してからも、エクスカイザーと交わした二人だけの秘密を一度も話したことはなかった。

「そちらの女性は、コトミちゃんかい?」

「は、はい。初めまして」

 何度か危ないところを助けてもらったことはあるが、面と向かって会話を交わすのはこれが初めてだ。まさか、声をかけられるとは思わず、コトミは緊張した面持ちで辛うじて会釈をする。

「ところで、エクスカイザー。一体、ここはどこなの?僕たちと、この車以外、何も見当たらないんだけど……」

 辺りを見回しながら、コウタはエクスカイザーに尋ねる。

「これは特別な装置を使って、作り出した亜空間だ。できうる限り、私がその車に乗り移る姿を見られたくないからね」

「ということは、また悪い宇宙人が地球に来たっていうこと?」

「そうだ。ガイスターの残党がまだいたんだ」

「ガイスターの残党?そんなのがいたの?」

「詳しい話は後だ。二人とも、一度その車から降りて、少し離れてくれ。今からその車に乗り移る」

「う、うん。コトミ、降りよう」

「ええ」とコトミが返事をして、二人とも車から降りて、少し距離を置く。

 エクスカイザーはそれを確認すると、ゆっくりと車に近づき、溶け込むように車と融合していった。そして、また激しい光が発せられる。

 コウタとコトミは、眩しさのあまり、目をつむる。

 光が徐々に薄れていき、やがて完全に消えると、車と融合したエクスカイザーが呼びかける。

「二人とも、もう乗り込んでもいいよ」

「うん」と返事をして、コウタは歩き出そうとするが、戸惑いを隠せないコトミは、近づくのにためらいがあるようだった。

「大丈夫だよ、コトミ。エクスカイザーが話しかけてくる以外は、いつもと変わらないよ」

 コウタがコトミの肩に手を置きながら、安心させるように声を掛ける。

 まだ、表情に不安の色は隠せないが、コウタの言葉を信じて、コトミも歩き出し、二人とも車に乗り込む。

 それと同時に、コバルトブルー一色の波打った景色が徐々に薄れていく。やがて、信号待ちで停車していた時の景色に戻っていった。

「二人とも、これからどこか行く予定だったのかな?」

 不思議な現象を目の当たりにして、周りを見回している二人に向かって、エクスカイザーが尋ねてくる。

「あ、うん。幕間メッセまで行こうと思っていたんだ」

「それでは、驚かせたお詫びに、私がそこまで送ってあげよう」

「エクスカイザー。僕も大人になったから、車を運転できるようになったんだけど、気を遣わせたみたいで、いいのかな?」

「ああ。これくらい構わないさ」

 エクスカイザーが快く返事をして、すぐに信号が青になった。熟練ドライバーが運転するように、車は穏やかに発進した。

「ところで、エクスカイザー。ガイスターの残党のことだけど……」

 車が発進してすぐに、コウタはエクスカイザーに話しかけた。

「ああ、ダイノガイストとともに宇宙を荒らしまわっていた奴が一人だけ残っていたんだ。捕まえようと我々は追跡していたんだが、どうやらこの地球に降り立ったようだ」

「地球に?」

「そうだ。名前をアーロンガイストという」

「じゃあ、やっぱりあの恐竜の模型が盗まれたのは、そいつの仕業だったんだ」

 人間業では、到底なしえない窃盗事件。これがそのアーロンガイストの仕業だとすると、納得がいく。コウタは得心が行ったように呟いた。

「恐竜の模型が盗まれた?どういうことだ?コウタ」

「数日前に、博物館で恐竜の模型が盗まれたんだ。大きな穴を残していったから、またガイスターみたいな悪い宇宙人の仕業じゃないかって、僕は疑っていたんだけど……」

「それはアーロンガイストの仕業に違いない。奴も私たちカイザーズやガイスターと同じくエネルギー生命体だからね。自分に合う体を見つけて、依り代にしたに違いない」

「あの、エクスカイザーさん」

 それまでコウタとエクスカイザーの会話を黙って聞いていたコトミが、遠慮がちに口を開く。

「何だい?コトミちゃん」

「そのアーロンガイストという宇宙人は、何の目的で地球に来たんでしょうか?」

「また地球の宝を狙いにきたの?」

 コトミの質問に便乗して、コウタも身を乗り出して尋ねたが、「いや」とエクスカイザーは即座に否定した。

「おそらく、奴の目的は宝を盗むことではなく、地球人に対する復讐だ」

「復讐?」

 コウタとコトミは顔を見合わせながら聞き返す。

「元々アーロンガイストは、ダイノガイストの弟分だった。ダイノガイストに対する忠誠は誰よりも篤く、ホーンガイストたちガイスター四将よりもずっと前から、ダイノガイストと共に宇宙を荒し回っていた。しかし、いつしかアーロンガイストはダイノガイストの元を離れて、一人で悪事を働くようになったんだ」

「つまり、ダイノガイストの敵討ちのために地球に来たってこと……?」

 コウタが緊張の面持ちで尋ねる。

「その可能性が高い。だから、二十年前とは比べ物にならない破壊行動に出るかもしれない」

 コウタもコトミも顔を青くして、言葉を失ってしまう。

「だが、私が来たからには、奴の思い通りにはさせない。絶対に地球の平和は守ってみせる」

 二人の不安を察したのか、エクスカイザーは力強く言い切った。

 その言葉を聞いて、コウタとコトミは顔を見合わせ、表情が和らいでいく。

「ところで、二人で幕間メッセへ何の用事だい?デートというやつかな?」

 そう聞かれて、コウタとコトミは少し赤面する。

「あ、うん。デートといえばデートなんだけど……。幕間メッセに着いたら、エクスカイザーもきっと驚くよ」

「私が驚く?何故だ?」

「それは着いてからのお楽しみ」

 いたずらっぽく笑うコウタとコトミに対し、エクスカイザーは、よく分からないという風に押し黙ってしまうのだった。

 

 

 

 

「これは……」

 幕間メッセの正面駐車場に着いて早々、エクスカイザーは驚きのあまり言葉を失った。

 コウタは誇らしげにエクスカイザーを見やる。

「すごいでしょ?」

 正面入り口には、『勇者たちを称える会』と大々的に装飾された看板が掲げられ、入り口横にはカイザーズ六人の等身大エアーバルーンが設置されている。

 会場からはマーチング系の明るい音楽や鳴り物が聞こえきて、とても華やかで賑やかだ。開場時間の5分前に到着したが、既に駐車場もいっぱいで、大勢の人で賑わっていた。

「エクスカイザーたちが地球を去った後、毎年感謝の意味を込めて、称える会が行われているんだ。今年は二十年目だから大々的にやろうって企画されてさ、驚いたでしょ?」

「ああ。本当に驚いたよ。しかし、我々を称える会なんて、なんだか照れくさいな……」

「照れない、照れない。相変わらず照れ屋だなぁ、エクスカイザーは」

 からかうようにコウタが言う。

「本当は一緒に見て回れたらいいんだけど……。ねえ、エクスカイザーさん。乗り移る前の姿に戻ることはできないの?」

「そうだよ。一緒に見て回ろうよ」

「いや、それはできない」

 コトミの提案に対し、コウタも顔を輝かせて賛成したが、エクスカイザ―はすぐに断った。

「どうして?」

「乗り移るのにも、離れるのにも、相当なエネルギーが必要だからね。一度乗り移ってしまうと、なかなか離れられないんだ。それに、私にはアーロンガイストを逮捕するという使命がある。いざという時のために、この車から離れることはできない」

「そっか……」

「残念だわ……」

 エクスカイザーは、穏やかな声で理由を説明してくれたが、コウタとコトミはとても残念そうにしていた。

「でも、会場から聞こえる音楽や人々の笑い声を聞けるだけでも十分だよ。二人とも、せっかくのデートなんだ。楽しんでおいで」

「ありがとうございます、エクスカイザーさん」

「カメラは持ってきているから、写真撮影できるところは写して、あとで見せてあげるね」

 コウタは、祖父の形見のカメラとは別の、予備で持っているデジカメをエクスカイザーに見せながら言った。

「それは楽しみだ」

「じゃあ、行ってくるね」

 コウタとコトミはエクスカイザーに小さく手を振りながら、会場の入り口へと向かっていく。

 二人の姿が見えなくなると、エクスカイザーはヘッドライトを細めた。

「二十年経った今でも、地球の人々は私たちに感謝してくれているのか」

 

 感慨に浸るように、静かに呟いた。

 

 

 

 

 『勇者たちを称える会』は、様々なコーナーが設置されていて、一日で回り切るのは難しいくらい、コンテンツが豊富だった。

 

 エクスカイザーたちをモチーフにしたアトラクションやゲームなどを体験できるエンターテイメントに特化したコーナー。

 

 イベントグッズや飲食物を販売する物販コーナー。

 

 エクスカイザーたちを参考にした最新のロボット工学を披露するコーナー。

 

 楠木遺跡、ナスカ、エジプトなど、エクスカイザーたちにゆかりのある考古学研究のシンポジウム。

 

 そして、エクスカイザーたちの活躍を映像や報道写真で振り返るコーナーなど、多岐にわたる。

 

 実を言うと、コウタが勤めている東都新聞も、社内の資料として保存していた報道写真や当時の記事を提供している。

 コウタも取材活動の傍ら、提供する資料の選別で尽力していた。そのことを知っていたコトミは、真っ先に報道のコーナーを観覧したいとリクエストした。エクスカイザーと密接に関わっていた二人だけに、アルバムを見ている気分になるため、自然と思い出話に花を咲かせていた。

「これ、映画村の時の映像でしょ?懐かしい~」

 展示スペースの一角にある薄型モニターに、爆炎から生還するキングエクスカイザーとゴッドマックスの姿が映し出されていた。

 「城物語」という映画のエキストラとして、コウタ、コトミ、タクミの三人は参加し、その撮影中にガイスターが襲撃してきた。その際、映画監督の大前田がカメラを回し続けたために、エクスカイザーたちの雄姿を映像として残すことのできた貴重なものである。

「徳田さんが門番の役をやっていて、面白かったよね」

 コウタも懐かしそうに話を広げる。

「徳田さん、結構似合っていたわ」

 冗談めかすコトミに、「確かに」とコウタが相槌を打ち、二人はクスクス笑いながら、次の展示スペースに進む。

「これは、音楽会の時の写真ね」

 コトミは大きく引き伸ばされた写真に目を向ける。

 所田博士が指揮し、朝日台フィルハーモニー管弦楽団の演奏による交響詩「勇者」を披露した際、グレートエクスカイザーが感謝を示したシーンを写真に収めたものだった。

 この時、コトミはピアノ独奏を担当しており、ガイスターロボとなってしまった朝日台市民会館に一人閉じ込められてしまった。コトミを助けるために、コウタとドリルマックスが救出に向かい、コウタが機転を利かせて脱出することができた。

「あの時貰ったお花とコウタさんの言葉、今でも覚えているわ。それに、コウタさんが助けに来てくれなかったら、どうなってたか分からないもの。ありがとう、コウタさん」

「照れ臭くなるから、よしてよ。当たり前のことじゃないか」

 改めてお礼を言ってくるコトミに対し、コウタは頬を赤らめて顔をつい背けてしまった。

「当たり前って?」

「好きな女の子が悪者に捕まったら、助けに行くのは当たり前じゃないか……」

 耳まで真っ赤なコウタが、口ごもりながら呟き、それを聞いたコトミも顔を真っ赤にして俯く。

「あ、次はハロウィンの時の記事ね」

 照れ隠しに、次の展示スペースに出された新聞記事を指さしながら、コトミは話しかける。

「二人でこっそり忍び込んで、秋の味覚展を見て回っていた時に襲われたのよね。音楽会の時も会場に閉じ込められて怖かったけど、あの時もエクスカイザーさんが危機一髪のところを助けてくれたわ。そうでしょ?コウタさん。」

 思い出に浸りながら、コウタの方に笑顔を向けると、逆にコウタはバツの悪そうな顔で

「うん。そうだったね」と気のない返事をした。

 そんなコウタにコトミは不思議そうな顔で尋ねる。

「どうしたの?気まずそうな顔して」

「いや、あの時コトミの大事な人形を壊しちゃったなーって思い出しちゃって……」

 頭をかきながらコトミの顔をうかがうようなコウタに、コトミは一瞬キョトンとした顔をして、

「やだ、コウタさん。まだ気にしてたの?」

 呆れ気味に声を出す。

「いやぁ、やっぱり一番の失態だから忘れられないよ……」

 タクミの家でハロウィンパーティーが催された時にガイスターロボの襲撃に遭い、その時にコトミの宝物である人形をコウタが誤って壊してしまった。コウタにとっては二十年経った今でも苦い思い出として記憶されている出来事であり、しかも壊した人形をエクスカイザーに直してもらおうと思い立ったことが、より慚愧(ざんぎ)の念に駆られてしまうのだった。

 しかし、コトミの方は当時からそれほど気にしておらず、音楽会の時と同様、自分を一生懸命勇気づけてくれたコウタのことを意識するようになった出来事だった。

「もう!あの時から気にしないでって言ってるんだから、そんな顔しないでよ」

 バツの悪い顔のままのコウタに対し、コトミは眉根を寄せて怒気を含んだ口調で言う。

 コトミにしては珍しい迫力に、コウタは思わずのけ反って「う、うん」と辛うじて返事をする。

「それに、新婚旅行の時にそっくりな人形をプレゼントしてくれたじゃない。あのプレゼント、本当に嬉しかったわ」

 先ほどの険しい顔から一転してコトミは柔らかい笑みを浮かべていた。

 新婚旅行でヨーロッパを訪れた際、立ち寄った雑貨店でそっくりな人形を見つけ、コトミにプレゼントをした。コウタにとっては、罪滅ぼしの意味合いが強かったが、コトミは思わぬプレゼントにコウタの予想以上に感激してくれた。コトミは余程嬉しかったのか、帰国した後、暇があれば嬉しそうに人形を眺めていた。

「だから、もう気にすることないわ。さ、次の展示に進みましょ」

 笑顔のコトミに手を引かれ、コウタは前のめりになりながら、歩き出す。

 少女のように無邪気に笑うコトミの姿を見て、コウタもほんの一瞬、少年の頃に戻ったような気がした。エクスカイザーたちとの思い出がそうさせるのか、コウタは得も言われぬ感慨を味わっていた。

 

 

 

 

 その後も思い出話をしながら、展示スペースを回り終え、建物の外に出ると昼前だった。

「そろそろ休憩がてら、フードコーナーのカフェテリアで昼ごはんでも食べようか」

「そうしましょう。ちょっとくたびれちゃった」

 コトミが頷き、カフェテリアに向かって歩き出そうとすると、二人の進路を遮るように黒塗りのリムジンが突然停まった。ドアが開くと、ショッキングピンクのケバケバしいスーツに身を包んだ、細身の男が現れた。

「やあ。奇遇だね」

 広い額にキザったらしい前髪。大きめの丸メガネのレンズは光を反射し、キラリと光る。

 コウタとコトミの同級生、金有タクミだった。

「タクミ。どうしてお前が……?」

 嫌な奴に会ってしまったとコウタは思った。自然と苦い顔になる。

「この『勇者たちを称える会』のメインスポンサーは金有グループが担っているからね。金有工業の社長である僕がいてもおかしくないだろう?」

 さも当然という風に、憎らしいくらい余裕たっぷりな口調でタクミは応えた。

「それより、コトミさん。金有グループが出資した高級フレンチレストランがあるんです。そちらでご一緒にランチでもいかがですか?」

 小学生の頃と変わらず、コウタを無視してコトミの前に立って、コトミだけをランチに誘う。

 コウタはコトミが返事をする前に、タクミとコトミの間に入る。

「これから、向こうのカフェテリアで休もうとしてたんだ」

 若干、ムキになりながら、タクミに口角泡を飛ばす。だが、タクミは全くこたえていない。

「では、君はそっちのカフェテリアに行きたまえ。僕とコトミさんは高級フレンチに舌鼓を打ちながら旧交を温めるとしよう」

 タクミがもう一度、コトミにアプローチをかけようとしたその時、

「ちょっと、アナタ!どこほっつき歩いてたの!」

 女性ながら野太い声が聞こえてきた。

 全員、声の主の方を向くと、恰幅(かっぷく)のいい着物姿の女性が足音を立てながらこちらに向かってくる。

「ゲッ!ち、チアキ!」

 タクミはみるみるうちに青ざめ、冷や汗を流し始める。

「あらぁ、コウタさん、コトミさん、お久しぶりですわねぇ。結婚式以来かしらぁ?」

 チアキと呼ばれた女性は、コウタとコトミに視線を向けると、元から細い目をさらに細め、顔をほころばせながら、会釈をする。

 このチアキという女性が、金有タクミとお見合い結婚をした相手だ。彼女も日本有数の財閥一族の娘で、彼女の工業系の会社と吸収合併した金有工業の副社長として、公私ともにタクミを支えている。

 実際、会社の業績は好調で、その一因は彼女の辣腕(らつわん)にあるのは間違いないのだが、結婚してからもタクミはチアキの押しの強さが苦手なままだった。

「ひ、久しぶりだね」

「ご無沙汰してます」

 チアキの圧力に押され気味になりながらも、コウタは引きつった笑みを浮かべ、コトミも辛うじて会釈を返す。

「お元気そうで何よりだわぁ。一度お尋ねしようと思っていたんですけどねぇ、会社の仕事が忙しくて、忙しくて。でも、こんなところでお会いできるとは思わなかったわぁ」

 さながら、井戸端会議の主婦のような口調で、チアキはコウタとコトミに話しかける。

 その隙に、タクミは忍び足でその場を離れようとするが、チアキは見逃さなかった。

「ちょっとアナタ、どこ行くの?」

 先ほどの柔和な表情から一変して、仁王像のような厳しい顔とドスのきいた声でタクミを呼び止める。

「いや、ちょっとこれからコトミさんたちとランチに行くために、レストランの席を取っておこうと思ってね……」

 慌ててチアキの方を向き、必死に言い訳をするタクミだが、チアキの顔はなおも厳しいままだった。

「これから、金有工業の最新技術の(すい)を集めた新型ロボットの発表会があるじゃないの!社長のアナタが行かなくてどうするの!」

「いや、だからそれは……」

 なおも言い訳をしようとするタクミだが、チアキに首根っこを掴まれて、無理やり引きずられてしまう。

「ああ、ちょっと、何するんだ!離せ!僕は社長だぞ!」

「いいから行くわよ!それじゃあ、お二人ともご機嫌あそばせ。オホホホ」

 チアキは、タクミを一喝した後、コウタとコトミに再び向き直り、柔和な表情を浮かべて会釈し、首根っこを掴んだタクミとともにリムジンに乗り込んだ。

「ああ、ちょっ、ちょっと離して!コトミさぁぁぁぁぁん!」

 コウタとコトミは茫然としたまま、断末魔のような叫び声を挙げるタクミを見送るのだった。

 

 

 

 

 日本の本州から南へ千キロほど離れた小さな無人島。

 小さな山と生い茂る森、そして砂浜だけが存在する小さな島。

 かつては、人が居住し、生活を営んでいた時期もあったみたいだが、野生動物が生息しているわけでもなく、現在は研究目的でも人が立ち入ることはない。

 そんな絶海の孤島に、ダイノガイストを始めとするガイスターは、ガイスター基地を破壊された後の一時的な拠点として住み着いていた頃があり、今はアーロンガイストが身を潜めるアジトとして利用している。

 小山の頂上にガイスターの旗を立てて、自分の所有物だという意思を表し、屋根のようにアーチ状に切り立った岩壁がある場所にモニターを置き、人間の生活を監視している。

 ダイノガイストがコウモリを飼っていたように、アーロンガイストも機械仕掛けのカラスを飼っており、あらゆる場所で監視活動を行っている。見た目は本物のカラスとほぼ変わらず、秘密裏に情報収集を行うのに重宝する。ただし、コウモリのように喋る機能はない。

 地球に降り立ってから、真っ先にこの島に住み着いて情報収集を行い、強力な依り代となる体を手に入れた。それからは、また情報収集のため、恐竜の形態で玉座に座り、モニターから映るテレビ番組に目を凝らしていた。

「さて、現在開催されております、『勇者たちを称える会』。初日の今日は、既に来場者数が100万人を記録したとのことで、大変大勢の人で賑わっております。あれから二十年。人々はエクスカイザーをはじめとした勇者たちへの感謝を忘れていないようです」

 報道番組にチャンネルを回し、関東テレビの勝木アナが現地リポートしている姿を視聴したアーロンガイストは、忌々し気にけたたましい咆哮(ほうこう)を挙げる。

「何が『勇者たちを称える会』だ!今に見ていろ、人間ども。俺様が貴様らにたっぷりと恐怖を味わわせてやる!」

 そういうや否や、アーロンガイストは恐竜の姿からジェット機の姿に変形し、アジトから猛スピードで飛び立った。

 向かうは、『勇者たちを称える会』が行われている幕間メッセだった。

 

 

 

 

「結局、全部回るのは無理だったね」

 残念そうにため息を漏らしつつ、正面ゲートを目指して歩きながら、コウタはコトミに話しかける。

 カフェテリアで昼食を摂った後、物販コーナーやロボット工学のコーナーは休憩を挟みながら見て回れたが、物販コーナーでコズエやジンイチたちのお土産の選別に時間を食われたせいか、ロボット工学を見終わった時には、十七時を回っていた。レストランは十八時に予約しているため、そろそろ会場を出ないといけない。

「仕方ないわよ。これだけ大きい会場だもの。全部回るのは無理よ」

 慰めるようにコトミは言う。

「それより、コズエのお土産、カイザーズのぬいぐるみで良かったのかしら?男の子が喜びそうなものだけど……」

 心配そうにコトミが呟くが、コウタは逆に笑顔で応える。

「心配ないよ。まだ赤ん坊だし、興味がなければ、次は男の子が生まれたら、その子にあげたらいいだけさ」

「もう次の子供のことを考えてるの?」

「いや、当分先の話だよ。すぐにじゃないから」

 慌ててコウタは否定するが、それからしばらくの間、沈黙が流れる。何となく気まずくなって、コウタが何か話題がないか思案していると、コトミの方から話しかけてきた。

「コウタさん、ありがとう」

「嫌だな。たまにデートしたぐらいでお礼を言わないでよ。これからはこういう時間ができるように工面するからさ」

「そうじゃなくて、いや、それもあるけど……」

「え?」

 二人は同時に歩みを止め、向かい合う。

「コウタさんは、エクスカイザーさんと協力して、いつも私たちを、ううん。悪いロボットから地球を守ってくれていたんでしょう?」

 予期せぬコトミの問いかけに、コウタは言葉を失う。

「なぜ、今まで誰にも話さずに黙っていたのか、それはよく分からないけど、でも、誰にも言いふらさず、偉ぶらずにみんなを守ってきたコウタさんは、エクスカイザーさんたちと同じ『勇者』だと思うわ。だから、お礼を言ったの。それだけじゃ足りないかもしれないけど、コウタさんを称えてあげたかったから……。ありがとう、コウタさん」

 まっすぐ目を合わせて感謝の言葉を述べるコトミに対し、コウタは胸に温かいものが込み上げてきた。

「コトミ」

 人目も気にせずに、思わずコトミを抱きしめようとしたその時だった。

「おい、なんだあれ?」

 周りの人々が正面ゲートとは反対側の空を見上げている。

 コウタとコトミもつられて空を見上げると、何か赤黒いものが猛スピードでこちらに向かってくるのが見えた。飛行機のように見えるが、旅客機であんな色合いと形状のものはない。

「こっちに向かってくるぞ!」

 誰かがそう叫ぶと、赤黒い飛行物体は地上すれすれで通り過ぎていった。凄まじい突風を巻き起こし、コウタはコトミを守るように抱きすくめる。

 通りすぎた赤黒い物体は、そのまま急旋回して正面ゲートまで戻り、ジェット機の形態から人型の形態に変形した。そして、ゆっくりと正面ゲートに降り立っていく。

「もしかしてあれが……」

 コウタは思わず呟く。

(ダイノガイストにそっくりだ……)

 変形の仕方も体の大きさも全て似通っていた。目に見えて違うのは、体色のメインカラーが黒ではなく、復讐の劫火(ごうか)を表すような暗い赤色だった。

 地上に降り立つと、目にあたるバイザーが妖しく光り、地球上のあらゆる場所に響くような、野太い声を発した。

「地球人に告ぐ。俺様は宇宙海賊アーロンガイスト!今からこの地球のありとあらゆるものを破壊しつくしていく!」

 コウタとコトミ以外の人々はイベントの出し物か、巧妙な映像技術の類だと思っているらしく、逃げる素振(そぶ)りを見せない。皮肉なことに、技術の進歩と侵略者のいない平和が、人々に警戒心を与えなくなってしまった。

「その手始めに、この『勇者たちを称える会』を跡形もなく消し去ってくれるわ!」

 そう宣言すると同時に、アーロンガイストは頸部(けいぶ)の砲身を起こし、エネルギーを収束させるように胸のプレートが光っていく。

 悲鳴を上げるのも忘れ、コウタとコトミはお互いをかばうように抱き合ったその時だった。

 アーロンガイストに向かって、猛スピードで突っ込んでくるスポーツカーが現れた。

 スポーツカーはアーロンガイストに体当たりをし、アーロンガイストをよろけさせることに成功したとともに、発射寸前だったビームを虚空に向けさせ、被害を出さなかった。

「おのれ、何者だ⁉」

 思わぬ乱入者に対し、アーロンガイストは激昂(げっこう)する。

 スポーツカーはゆっくりと変形し始め、やがて、人型のロボットへと変化した。最後に、胸のパネルが反転し、獅子の顔が現れる。

「チェンジ!エクスカイザー!」

 力強い声が辺り一面に響き渡る。

「エクスカイザー!」

 コウタとコトミは、間一髪で助けに来てくれたエクスカイザ―に顔を輝かせる。

「フフフ、やはり地球に来ていたか、エクスカイザー」

 忌々し気な声を上げるわけでも、激昂するわけでもなく、アーロンガイストは待ちわびていたかのように不敵な笑い声をあげる。

「アーロンガイスト!平穏と安らぎが訪れた地球を破壊することは、この宇宙警察エクスカイザーが許さん!」

「フフフ。ほざけ。貴様も血祭にあげて、返り討ちにしてくれるわ!」

 啖呵(たんか)を切ったエクスカイザーに対し、不敵な笑い声で余裕を見せるアーロンガイスト。

「皆さん!危険だから、今のうちに安全な場所へ避難してください!」

 アーロンガイストから目を逸らすことなく、エクスカイザーは周りの人々に呼びかける。

「皆さん!これはショーではありません!本物の宇宙海賊です!」

「危険だから、早く安全な場所に逃げてください!早く!」

 コウタやコトミも大声で避難を促す。

 見世物としては、異様なまでに物々しいためか、周りの人々もようやく危険を認識し、急いでその場を離れていく。

「コトミ!君はスタッフの人に事情を話して、会場の人たちを避難させるよう、急いでアナウンスさせるんだ!僕はその間、できる限り避難を呼びかけてくる!」

 コトミの肩を掴みながら、まくし立てるようにコウタは指示を飛ばす。

「分かったわ!コウタさん、気を付けて!」

 コトミは大きく頷いて、近くの建物に向かって走り出し、コウタは大声で避難を呼びかける。

「フン!どこに逃げようが一緒だ!今、この場で消し去ってくれる!」

 そう言い放つや、アーロンガイストはコウタたち目掛けて、胸部からビームを放とうと構える。

「そうはさせるか!」

 それを阻止するために、エクスカイザーはパンチを繰り出すように振りかぶり、

「ジェットブーメラン!」

 腕のシューターから羽根のついたミサイルを発射する。

 ミサイルは見事、アーロンガイストの胸部に命中したが、小規模な爆発を起こしただけで、アーロンガイストは全くこたえていない様子だった。

「ハハハ!何だその攻撃は!痛くもかゆくもないわ!」

「何⁉」

 高笑いをして余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)のアーロンガイストに対し、攻撃が通用しなかったエクスカイザーは歯嚙みする。

「今度はこちらから行くぞ!アーロンキャノン!」

 アーロンガイストは両頸部の砲身を素早く起こし、そこからエネルギー弾を発射した。

「うおぉぉぉ!」

 エネルギー弾はエクスカイザーに命中し、エクスカイザーは後方に吹っ飛ばされた。幸い、人も建物もなかったため、地面のコンクリートが(えぐ)れただけで済んだ。

「どうした?本気で来い。そうでなくては、倒し甲斐がないわ!」

 なおも余裕を見せて(うそぶ)くアーロンガイストに、エクスカイザーは表情を(ゆが)ませる。

(アーロンガイスト……!この力はダイノガイストに匹敵する……!)

 一撃食らって、エクスカイザーは実感した。二十年前に死闘を繰り広げたダイノガイストと、目の前にそびえるアーロンガイストに力の差はほとんどない。本気で戦わなければ、地球を守り切れない。

 エクスカイザーは立ち上がり、額から光を放つ。

「キングローダアアァァァ!」

 異次元から稲光とともに巨大なトレーラーが出現し、変形していく。

「巨大合体!キングエクスカイザー!」

 エクスカイザーはキングローダーと合体し、キングエクスカイザーとなってすぐさま、脚部からロングソード、カイザーソードを取り出して切りかかる。

「行くぞ!アーロンガイスト!」

 迎え撃つアーロンガイストも、背中の双刀を抜き放つ。

「来い!エクスカイザー!」

 凄まじい金属音と共に、お互いの剣と剣が激しくぶつかりあった。

 

 

 

 

 幕間メッセのように、大規模な博覧会などを催す会場には、地下シェルターが存在する。

 ガイスターのような侵略者を想定して二十年前から計画が策定され、他国からの侵略戦争も含めた「もしも」の時の備えとして作られた。十万人ほどの人数を収容することができ、地下通路で郊外に脱出することも可能となっている。

 屋外に出ている人に、地下シェルターへの避難を呼びかけていたコウタだが、しばらくして場内アナウンスによる避難指示が聞こえてきたため、呼びかけを切り上げて、コトミと合流するため、正面ゲート近くの建物に向かっていた。

 その道中、恰幅のいい着物姿の女性が、血相を変えて必死に誰かを呼びかけている姿が目に映った。

 タクミの妻のチアキだった。放っておくわけにもいかず、コウタはチアキに話しかける。

「チアキさん、どうしたんですか?」

「ああ、コウタさん。すいません、うちの人見かけませんでした?」

「タクミと一緒じゃないんですか?」

「アナウンスが聞こえた時、すぐにあの人の手を引いて、急いで会場を出ようとしたんですけど、はぐれちゃいまして……。一体どこにいるのかしら……」

 おろおろと今にも泣き出しそうな顔で事の顛末(てんまつ)を話すチアキ。

(あいつ、昔から運動音痴だから、逃げ遅れたんだ)

 ガイスターが襲撃してくるたびに、タクミはいつも逃げ遅れていたことを、コウタは思い出した。

「とにかく、逃げる前にいた会場内を探しましょう。まだタクミがいるかもしれない。案内してください」

「え、ええ。こちらですわ」

 コウタとチアキは急いで、近場の建物の中に入る。

「おーい!タクミー!」

「あなたー!どこなのー!」

 二人はすぐに大声でタクミを呼ぶ。

 発表会で使用されたホール周辺には、地下シェルターに(つな)がる通路はないため、辺りは閑散としていた。

 しばらくの間、コウタとチアキは大声で呼びかけていたが、どこからか、「おーい……」というか細い声が聞こえてきた。二人は呼びかけるのをやめ、声のする方へ歩みを進めた。すると、ホールの階段でうつ伏せになって倒れている男がいた。その男はずっと「おーい……。僕を見捨てないでくれ~」と、弱々しい声を出していた。

「タクミ!」

「ああ、アナタ!無事だったのね」

 チアキは安堵の声を漏らす。

 タクミの姿は散々なものだった。ド派手なピンク色のスーツには、そこら中に足跡がついていて、肩口は破けている。ぴったりセットしていた髪の毛はボサボサで、ピカピカに光っていた眼鏡のレンズは土埃で汚れていた。どうやら、逃げ出す人たちに踏まれていったらしい。

「うう……。社長の僕を置いていくなんて、みんな、ひどい奴らだ……」

 コウタとチアキに肩を貸してもらいながら、タクミはべそをかいて恨み節を連ねる。

「泣きべそをかく元気があるなら、さっさと逃げるぞ、ほら」

 幼児をあやすような口調で、コウタは避難を促した。

 近場のシェルターまでコウタは肩を貸し、二人とはそこで別れた。チアキはずっとコウタに対し、頭を下げていた。

 コウタはコトミと合流するため、急いで建物を出ると、キングエクスカイザーとアーロンガイストの戦いが目に入ってきた。今は正面ゲートとは反対側の、南側に位置する広場がある場所で戦っている。なるべく被害が出ないよう、キングエクスカイザーが上手く誘導したらしい。

 キングエクスカイザーはカイザーソードで切りかかって、次々と斬撃を繰り出したり、距離が空いた際は、カイザーブラスターなど遠距離攻撃を仕掛けたり、矢継ぎ早に攻撃を繰り出すが、いずれも剣やシールドでアーロンガイストに防がれてしまう。

 逆に、アーロンガイストが繰り出す斬撃は、素早く力強いようで、紙一重で防いでいるものの、エクスカイザーはそのたびに後方に吹っ飛ばされ、エネルギー弾やビーム攻撃は直撃を受けている。

 苦戦を強いられているのは明らかだった。地下シェルターへ避難するのも忘れ、コウタは戦いに見入ってしまっていた。

(このままじゃ負ける……)

 いくら地下シェルターがあるといっても、百パーセント安全だというわけでもない。エクスカイザーが負ければ、アーロンガイストは地球を破壊して回るだろう。そうなれば、避難しても無意味だ。エクスカイザーに勝ってもらわなければ、生き延びることはできない。

(なんとかしなくちゃ……!でも、どうすれば……?)

 援護をするために、コウタは使えそうな道具がないか辺りを見まわす。すると、エクスカイザーとアーロンガイストが戦っている姿を、夢中になって写真を撮っている男を見つけた。

「危ないですよ!早く避難してください!」

 と、呼びかけながら近寄ると、よく知っている人物だった。

「あれぇ?コウタ君。まだ避難していなかったのかい?」

「徳田さん!どうしてここに?」

 コウタの上司である徳田オサムだった。

「『勇者たちを称える会』の取材は他の人間に任せていたんだけど、僕の特ダネを探す嗅覚が働いてね。他の仕事を放ったらかして、原付バイクでここまで来てみたら、この大騒ぎというわけさ。これはとんでもない特ダネだぞぉ!」

 現場の写真を撮りながら、コウタに事のあらましを説明する徳田。こうなると、フィルムがなくなるまで写真を撮り続けるため、避難を促すのは難しい。

 そんな中、コウタはふと、徳田が乗ってきた原付バイクとカメラのフラッシュが目に焼き付いた。

 そして、手に持っているデジタルカメラに目を向ける。

(もしかしたら、このカメラを使えば、一瞬の隙を作れるかもしれない)

 コウタは、徳田の原付バイクに向かって走り出した。

「徳田さん!ちょっと、この原付バイク借りますよ!」

 叫ぶようにそう言い残し、コウタは原付バイクにまたがり、すぐに発進させた。

 突拍子もないコウタの行動に、徳田は目を丸くして、シャッターを切るのをやめる。

「あ、おい、コウタ君⁉」

 徳田が呼びかける頃には、コウタは原付バイクを猛スピードで走らせ、姿が見えなくなっていた。

 と同時に、

「ちょっとオサム!撮影の邪魔だからどいてちょうだい!」

 徳田を押しのけて勝木アナがテレビクルーと共に勢いよく乱入してきた。

 徳田は「おわーっ!」と悲鳴を上げながら、押し倒され、ついでに勝木アナに踏みつけられてしまう。

「皆様、大変なことになりました!ガイスターです。幕間メッセにガイスターと思われるロボットが現れました。それだけではありません。エクスカイザーです!エクスカイザーと思われるロボットもこの幕間メッセに出現し、激しい戦闘を繰り広げております!果たして、彼らは何者なのでしょうか?二十年前と同じエクスカイザーとガイスターなのでしょうか?このまま実況生中継でお送りいたします!」

 興奮を隠せない様子でリポートする勝木アナに踏みつけられながら、徳田は「特ダネ……。特ダネがぁ……」と、(うめ)いていたのであった。

 

 

 

 

「ぐっ」

 何度目になるか分からないビーム攻撃を受けて、キングエクスカイザーは、起き上がりはするが、片膝をついたまま動けなかった。アーロンガイストはそんなキングエクスカイザーの顎に蹴りを入れ、再び仰向けにさせる。

 そして、キングエクスカイザーの腹部をぐりぐりと踏みつけ始めた。

「フフフ。他愛も無いな、エクスカイザー。兄貴を倒したというから、どれ程の力かと思えば、こんなものか」

 愉快そうに笑うアーロンガイストに対し、キングエクスカイザーは苦しそうに呻く。

(なぜだ……?あの頃より動きが鈍くなっている……。なぜなんだ……)

 アーロンガイストにビークルモードで体当たりを食らわせた時から違和感はあった。

 フォルムチェンジして飛び蹴りを食らわせるつもりだったのに、変形することができなかったため、そのまま体当たりをした。それだけでなく、フォルムチェンジした後も、思うように体を動かせない。そのため、攻撃も防御も思うようにできず、自分の攻撃力は半減し、相手の攻撃を防げない。

(このままでは、地球を、コウタたちを守ることができない……)

 何とか、現状を打破しようと、体を動かすが、アーロンガイストはさらに踏みつけを強くする。

「ぐあっ」

 キングエクスカイザーから苦痛の声が漏れる。

「大人しくしておけ。さすれば、楽にとどめを刺してやる」

 アーロンガイストは双刀の切っ先をキングエクスカイザーに向け、振りかぶる。

「最後だ!エクスカイザー!」

 キングエクスカイザーの首めがけて、アーロンガイストは双刀を振り下ろそうとしたその時だった。

「おい、アーロンガイスト!」

 誰かが自分の名を呼ぶ声が聞こえたため、双刀を振り下ろすのをやめ、あたりを見回す。

「誰だ!俺様の名を呼ぶのは?」

 怒鳴り声で尋ねるが、返事はなく、代わりに、

「これでもくらえ!」

 小さな光が何度も目に入ってくる。

「なんのつもりだ?」

 アーロンガイストにとっては、正直、痛くもかゆくもなく、体にも目にも異常をきたさないため、相手の意図が分からなかった。

「このカメラという道具で、お前自身も気づいていない弱点をサーチしたぞ!これで、お前なんか怖くない!」

 豆粒くらいに小さい地球人がそう叫んでいた。

 それは、コウタだった。

 徳田の原付バイクでアーロンガイストの背後に近づき、カメラのフラッシュを最大にし、アーロンガイストの気を引いたのだった。

 もちろん、コウタのデジタルカメラには、アーロンガイストの弱点を見つけ出す機能はなく、完全にはったりだった。

 しかし、地球に降りてきて間もないアーロンガイストは、地球の文明レベルをつぶさまで分かっていない。自分の知らない弱点を本当に解析されたと思って、アーロンガイストは動揺していた。

「何だと?その弱点というのは何だ?その機械をよこせ!」

 アーロンガイストの注意がコウタに向かい、手を伸ばそうとする。

「エクスカイザー!今だ!」

 コウタが叫んだのと、キングエクスカイザーがアーロンガイストの足を払ったのはほぼ同時だった。

 足をすくわれたアーロンガイストは、バランスを崩して倒れる。

 その隙に、キングエクスカイザーは獅子の口から炎を吐き出し、カイザーソードにエネルギーを集中させる。エネルギーが最大になり、光り出したカイザーソードを高々と掲げ、周囲に稲光を起こしながらエネルギーを収束させた。必殺技の「サンダーフラッシュ」の態勢に入る。

「コウタ!逃げろ!」

(分かってるよ!エクスカイザー)

 キングエクスカイザーは、コウタに向けて忠告するが、元より、アーロンガイストの一瞬の隙が出来れば、原付バイクをフルスロットルで飛ばし、逃げるつもりだった。コウタはすでに、安全圏まで逃げていた。

 コウタが離れたのを確認したキングエクスカイザーは、収束させたエネルギーを天高く伸ばしたカイザーソードに渾身の力を込めて、アーロンガイストに向けて振り下ろす。

「サンダァーフラァッシュ‼」

 瞬間、キングエクスカイザーの斬撃はアーロンガイストに命中し、凄まじい爆炎を巻き起こす。

「やった!」

 コウタはガッツポーズをしながら、歓喜の声を上げる。

 キングエクスカイザーの必殺技である「サンダーフラッシュ」をまともに受けて、無事だった敵はほとんどいない。アーロンガイストを退治できたと確信していた。

 一方のキングエクスカイザーは、「サンダーフラッシュ」を打ち終えた後、片膝をついて苦しそうに声を漏らしていた。どうやら、最後の力を振り絞って一撃を放ったらしい。もう立ち上がることはできそうになかった。

 徐々に煙と炎が収まっていく。キングエクスカイザーもコウタも、アーロンガイストの姿を確認するため、目を凝らした。

 すると、炎の中から、炎や煙とは違う赤黒いシルエットが動き出すのが見えた。

 時折、火花を散らしながら、ゆっくりとキングエクスカイザーの方へ向かっていく。やがて、煙と炎から抜け出した巨体は咆哮(ほうこう)を上げた。

「そ、そんな……」

 愕然とした表情でコウタが思わず声を漏らす。キングエクスカイザーはもう戦えそうにない。このままではコウタ達が住む街、いや地球上のあらゆるものが破壊されてしまう。

 コウタもキングエクスカイザーも最悪の未来を想像し、焦りと恐怖を感じていた。

 一方、爆炎から抜け出したアーロンガイストは、不敵な笑い声を漏らす。

「フフフ……。よくもやってくれたな。ここまで傷を負わされたのは貴様が初めてだ」

 胸部の中央についた傷に視線を這わせながら呟く。忌々し気ながらもキングエクスカイザーの力量に感服するかのような口調だった。

「貴様をここで殺すのは容易い。だが、地球人どもに猶予を与え、恐怖と絶望の時間を与えてから、破壊し尽くすのも一興というもの……」

 アーロンガイストはそう言い放つと、戦闘機モードに姿を変え、爆音を響かせて空高く上昇した。

「勝負は預けておく!俺様が傷を癒すまで、せいぜい足掻くがいい!」

 捨て台詞と高笑いを残し、アーロンガイストは夜空の闇に消えていった。

 当座の危機を乗り越え、コウタは安堵のため息をついた。そして、すぐさまキングエクスカイザーの元へ駆け寄る。

「エクスカイザー!大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だ、コウタ。しばらく休めば動けるようになる」

 その一言を聞いて、とりあえずコウタはホッとした。そして、戦いを見て気づいた疑問を、全てエクスカイザーにぶつける。

「本当にダイノガイストにそっくりな奴だったけど、ダイノガイストよりも強いの?いや、それよりも、他のカイザーズのみんなはどうしたの?それに、どうしてグレートエクスカイザーになって戦わないのさ?」

 一瞬、答えづらそうな間があってから、エクスカイザーの声が聞こえた。

「コウタ、詳しい話は明日にしよう。ここでは人に見られるかもしれないし、私はこのエリアから動けそうにない。待ち合わせの場所を指定してくれないか」

 エクスカイザーの提案に、コウタはすぐに頷いた。

「分かった。じゃあ、東都新聞の地下駐車場に来てよ。僕も今は東都新聞で働いているから、怪しまれないし、エクスカイザーも知っている場所だから」

「分かった」

 エクスカイザーの返事を聞き、コウタは「じゃあ、また明日」と大声で言ってから、徳田から借りた原付バイクで幕間メッセへと引き返した。途中、勝木アナに踏みつけられている徳田を助け出し、正面ゲートへと向かった。

 コトミが入っていった正面ゲートから近い建物は、地下シェルターへ避難する人でごった返しており、見つけるのは骨が折れそうだったが、意外にあっさりと見つけることができた。

 受付近くで不安そうにキョロキョロと見回しているコトミの姿を視認したコウタは、人混みを縫うように入っていき、コトミの前までたどり着いた。コウタの姿を確認すると、コトミは安堵したようにほっと溜息をついた。いつまで経っても合流してこないコウタのことを心配して、受付の近くでずっと待っていたらしい。

 幕間メッセ会場周辺は消火作業や救護作業、警察の現場検証、自衛隊による監視警戒作業などによって、緊急車両が行きかっているため交通整理が行われており、自家用車で帰宅することは困難だった。もっとも、コウタとコトミに関しては、アーロンガイストとの戦闘によってエクスカイザーが疲弊しており、車道を使用して帰宅するのは不可能だった。

 そのため、二人は、地下通路から近場の地下鉄の駅に向かい、自宅近くの駅で降車して帰宅した。ただ、会場にいた人たちはほとんど似たような経路で帰宅するため、地下通路の時点で混雑しており、自宅マンションに着いたのは深夜だった。事前に連絡を入れ、コズエはジンイチとヨウコに面倒を見てもらい、翌日コトミが引き取ることにした。

 

 そして翌朝。

 コウタは軽い仮眠を取り、コトミを起こさないように支度を整え、いつも持ち歩いているビジネスカバンを携えて玄関ドアを開けようとした。

「コウタさん」

 声を掛けられ、振り向くと、上がり(がまち)にコトミが不安そうな顔で立っていた。物音をなるべく立てないようにしていたが、コトミを起こしてしまったらしい。

「ごめん。起こしてしまったかな」

「ううん。気にしないで。それより、これからお仕事?それとも……」

 その先を言えないコトミに、コウタは真剣なまなざしでコトミを見つめる。

「コトミ。分かってくれ。エクスカイザーのために僕は協力しなくちゃいけないんだ。コトミやコズエやみんなを……。地球を、宇宙を、この世界を守るために、僕もできることをしなくちゃいけないんだ」

 コウタの決意のこもった言葉に、コトミはしばらく黙っていた。やがて、口を開く。

「……分かったわ。でも、気を付けてね。危ないことはしないでね」

 涙ぐんで、絞り出すようにコトミは言った。本当は自分も何か手伝いたいのだが、コウタが許してくれないと思って、あえて言わなかった。

「分かってる。じゃ、行ってくるよ」

「いってらっしゃい」

 お互いに笑顔を浮かべて、いつもの挨拶を交わし、コウタは自宅の玄関を出た。

「そうさ。僕もできることをしなくちゃいけないんだ」

 自分に言い聞かせるようにコウタは静かに呟きながら、マンションの階段を下りていった。

 

 

 

 

 コウタは出勤している風を装って、勤め先である東都新聞の地下駐車場に赴いた。

 辺りを見回すと、他に駐車している車とは一線を画す派手なスポーツカーが、端のスペースで停まっているのを見つけた。ドアを開け、車内に乗り込む。

「エクスカイザー」

 一声かけると、電源スイッチが入ったかのようにモニターが反応する。

「コウタ、すまない。こんなところまで足を運ばせて……」

「気にしないでよ。僕がエクスカイザーに協力したいんだから」

 意に介してないとばかりに、コウタは柔らかく言う。そして、すぐに身を乗り出して、真剣な表情で話を切り出す。

「それより、エクスカイザー。昨日のことだけど」

「ああ。まず、他のカイザーズのことだが、レイカーブラザーズは他の任務があってまだ地球に到着していないが、マックスチームは私と一緒に地球に来ている」

「本当?」

 コウタは思わず声を弾ませる。エクスカイザーだけでなく、他のカイザーズとも再会できるとは思ってもみなかったからだ。

「ああ。だが私と違って、以前依り代にしていたものが、まだ見つかっていないんだ。そのせいで、昨日の襲撃も駆けつけることができなかった」

「そうだったんだ……。でもさ、エクスカイザー、代わりの物を依り代にすることはできないの?例えば、スカイマックスだったら、戦闘機じゃなくて旅客機とかさ」

「言葉では表現しづらいのだが、私たちにはそれぞれ『適性』がある。そして、以前依り代にしていたものが、私たちが地球で力を発揮するのにそれぞれぴったりのものだったんだ。地球人は服を着るだろう?サイズや見た目がぴったり似合う服は人ぞれぞれだ。それと似たようなものだと思っていい」

「なるほど。でも、あれから二十年も経っているから、いくら探しても見つからないかもしれないよ?」

「もちろん、その可能性もある。そこで、コウタ。君がレイカーブラザーズやマックスチームの依り代を見つけてもらいたいんだ。地球人である君なら、私たちよりも早く依り代を見つけてくれるかもしれない」

「わかった。探してみるよ」

 コウタは力強く頷きながら返事をした。新聞記者であるため、情報網は広い。見つけ出せる自信はある。

「そして、アーロンガイストの強さだが、昨日戦ってみて、ダイノガイストより強いというほどではない。しかし、力の差はほとんどない」

「じゃあ、グレートエクスカイザーにならないと、勝てないってこと?」

「ああ。だが、二十年前に比べて、変形や体の動きにぎこちなさがあった。それで、グレート合体ができなかった。コウタ。私が依り代にしているこのスポーツカーに、何か二十年前と変わったことはないか?」

「変わったこと……?」

 そう聞かれて、コウタは真っ先にエンジンがかかりにくいことを思い出した。

「そういえば、古くなったせいか、二十年前よりもっとエンジンがかかりにくくなったんだ。できる限りメンテナンスはしていたんだけど……」

「依り代の古さがどう影響するのか私にも分からないが、もしかしたらそれが原因かもしれない」

「それじゃあ……」

「いや、まだ手はある」

「その手って、エネルギー生命体捕獲装置のこと?」

 コウタは思い出したようにエクスカイザーに尋ねた。

 エネルギー生命体捕獲装置とは、名前の通りエネルギー生命体を捕獲する装置である。カイザーズの祖先が太古の昔に残したもので、一時的にダイノガイストの手に渡り悪用されたが、最終的にガイスター四将たちをこの装置で捕らえることができた。

「いや、あれは別任務で使われている。何しろ、エネルギー生命体であれば簡単に捕獲できるからね。宇宙警察内でも取り合いになっているんだ。」

 嘆息しながら説明するエクスカイザー。

 確かに便利ではあるのだが、それに頼り切ってしまうと、ここぞという場面で使うことができなくなってしまう。宇宙警察の意識の低下をエクスカイザーは前々から嘆いていた。

「それよりもコウタ。今からマックスチームを呼ぶから、彼らの依り代探しを手伝って欲しい。早く行動した方がアーロンガイストから地球を守りやすくなる」

 そう言うや否や、エクスカイザーは左側のリアフェンダー付近からアンテナを出す。

「こちら、エクスカイザー。マックスチーム、応答せよ。至急、東都新聞地下駐車場に急行して欲しい」

 そう呼びかけて五分も経たないうちに、三つの青い球体がエクスカイザーの周りを取り囲むように集まってきた。

「何かあったのか?エクスカイザー」

 そのうちの一つが冷静な口調で尋ねてくる。恐らく、スカイマックスだろう。

「こっちは体探しで忙しいんだぜ?」

 やや皮肉っぽい言い回し。ダッシュマックスだ。

「急がねば、いつ襲撃があるか分かりません」

 ドリルマックスが焦りを帯びた声を出す。

「急に呼び出してすまない。ひとまず、人目につくとマズいから、全員私の中に入ってくれ」

 エクスカイザーが(なだ)めると、マックスチームは全員、言われた通りにすり抜けるようにしてエクスカイザーの車内に入りこんだ。その時を待っていたかのように、コウタは満面の笑みでマックスチームを出迎えた。

「スカイマックス、ダッシュマックス、ドリルマックス、みんな、久しぶり!」

「コウタ?コウタなのか?」

「見違えたぜ。あの頃はまだボウズだったのによ」

「立派になったな!」

 再会できた嬉しさを表すように、マックスチームは不規則にコウタの周囲を回りながら、口々に言葉をかけてくる。

「みんなも元気そうで安心したよ」

「君たちの依り代は、コウタと協力して探してもらう。その間、私はレイカーブラザーズとも連絡を取りながら、アーロンガイストへの警戒をしておく。事態は一刻の猶予もない。なるべく、早く依り代を見つけてくれ」

 エクスカイザーが冷静に指示を出す。

 再会できた嬉しさに浸りながらも、コウタはすぐさまカバンからメモ帳とペンを取り出した。

「とにかく、情報がないと探しようがない。二十年前、どこで依り代を見つけたか、詳しく教えてくれないかな?」

 コウタは記者として仕事している時のような、真剣な顔つきで尋ねる。

「私とドリルマックスは、どこかの研究所にあった戦闘機とドリル戦車を拝借して依り代にした。本当はダッシュマックスもその研究所の車を依り代にしようとしたんだが……」

 スカイマックスが言いよどむと、代わりにダッシュマックスが続ける。

「なんかしっくりこなくてよ。それで、俺だけ探し回って、レーシング場に停まっていたあの車を拝借したわけよ」

「その研究所の名前は分かる?」

 マックスチームの話をメモにまとめながら、コウタは質問をする。

「切り立った崖の上にある研究所だったが、名前までは分からない」

何分(なにぶん)、地球に来たばかりで文字を読むこともできなかったからな。ただ、研究所なのは間違いない。白衣を着た男が何か色々作っていたからな」

 スカイマックスとドリルマックスがそれぞれ答える。

「そっか……。所田博士に心当たりを聞いてみるけど、スカイマックスとドリルマックスの方は時間がかかるかもしれないな。ダッシュマックス、レーシングカーを所有していたチーム名は分かる?」

「おう、忘れてないぜ。なんせ、一緒にサーキットを駆け抜けた仲間だもんよ」

 ダッシュマックスらしい気風のいい答えが返ってくる。

「あれは〝スゴウ〟ってチームのレーシングカーだったぜ」

「それだけ分かれば、義従兄の俊太郎さんに聞けば分かるかもしれない。早速、電話してみるよ」

 すぐに携帯電話を取り出し、コウタは俊太郎に電話をかける。

 俊太郎は、コトミの従兄であり、スポーツカーのレーサーとして長らく活躍していた。一昨年引退し、現在はレーサーを育成する専門学校の教官として、後進の育成に励んでいる。

 メモを取りながら、コウタはしばらく電話口で話し込んでいたが、やがて電話を終えると、ビジネスカバンからノートパソコンを取り出す。

「何か分かったか?」

 (はや)るような、期待するような口調で、ダッシュマックスが尋ねてくる。

「うん。レーシングカーとしては引退していて、今はそのチームのスポンサーだった人が所有しているみたいなんだ。その人の住所を俊太郎さんに教えてもらったから、今パソコンで地図を出しているところだよ」

 そう言い終えると同時に、パソコンの画面をマックスチームの方へ向ける。

「ここが今僕らのいる東都新聞。ここから大体北東に十キロぐらいのところに、その人の家があるはずだよ」

 パソコンの画面を指さしながら、コウタが説明すると、

「よっしゃー!待ってろよ、俺の体!」

 青い球体のダッシュマックスが、エクスカイザーの車内をすり抜け、一目散に飛んでいく。

「ダッシュマックス!体を手に入れたら、必ず連絡をくれ」

「分かってるって!」

 エクスカイザーの念を押した一言に、ダッシュマックスは威勢よく返事をして駐車場を出て行った。

「さて、次は所田博士に電話してみるよ」

 ノートパソコンをカバンの中にしまい、代わりに携帯電話を取り出して、所田博士が所属する研究室への直通電話の番号をプッシュする。

 所田博士とは、火山学、天文学、ロボット工学、建築、芸術と、様々な分野に精通している多才な研究者であり、たびたび東都新聞のコラムや評論にて執筆を依頼している。マルチに活躍している所田博士なら人脈も広く、スカイマックスとドリルマックスの依り代を見つけ出すことができるのではないかと、コウタは考えていた。

 しかし、電話を終えたコウタは、難しい顔をしていた。

「どうだった?コウタ」

「その研究所は残っているのか?」

 急かすようにドリルマックスとスカイマックスが尋ねてくる。

「うん。研究所自体はまだ残っているけど、戦闘機やドリル戦車はそこにはないらしいんだ。というのも、その研究所はレスキューメカを開発していて、スカイマックスとドリルマックスが依り代にしたのはそのプロトタイプみたいなんだ。そのプロトタイプを元に、大手工業メーカーが量産しているみたいなんだけど……」

「それじゃあ、そこに私たちの依り代があるのか」

 スカイマックスが声を弾ませる。しかし、コウタは難しい顔をしたままだった。

「ただ、その大手工業メーカーというのが、金有工業なんだ」

「金有というと、タクミくんの会社か」

 エクスカイザーが付け加えるように口を挟む。

「そう。今はタクミが社長をやっているから、全く縁もゆかりもない会社じゃないだけ頼みやすいけど、問題はタクミが僕に会ってくれるかどうか……」

「喧嘩でもしたのか?」

 ドリルマックスがそう尋ねてくるが、コウタはかぶりを振る。

「そういうわけじゃないんだけどさ……」

「とにかく、ここにいても始まらない。コウタ、金有工業まで道案内してくれ」

「うん。分かった。ちょっと待って」

 エクスカイザーに急かされ、コウタは慌ててパソコンを再び開き、金有工業までの道のりをナビゲートした。

 

 

 

 

 エクスカイザーたちを駐車場に残し、コウタは金有工業の社屋に向かった。受付でタクミへの面会を申し込むと、意外とすんなり社長室に通された。

「コウタさん。ようこそおいでくださいました」

 社長室の扉の前でにこやかに出迎えてくれたのはチアキだった。

 タクミの方はというと、余裕たっぷりという顔をしながら、黒革の椅子に腰かけ、金の調度品をあしらったマホガニーの社長机の前で書類に目を通していた。しかし、顔にはあちこちに絆創膏やガーゼが貼ってあり、表情とのギャップが凄まじい。

「何の用だい?新聞社の平社員の君と違って、僕は忙しいんだ」

 小学生の頃から変わらない嫌味な言い回しに、少しムッとしながらも、コウタは話を切り出す。

「実は、金有工業が量産しているレスキューメカについて取材させて欲しいんだ。昨日のガイスター襲来の後も消火活動や警戒監視をやってくれたそうじゃないか。危険な場所で働くレスキューメカの裏側を市井(しせい)の人々にも知ってもらいたいと思ったんだ。ぜひ取材させてくれ」

 真剣なまなざしでタクミを見据え、コウタは頼み込む。

 もちろん、取材というのは建前であり、本当の目的はスカイマックスとドリルマックスの依り代が残っているかどうかの確認だ。一応、写真や記事は作成するが、徳田の許可が下りて紙面に載るかはコウタにも分からない。しかし、そうでもしないと、依り代の在処(ありか)を探すことができないからだ。

 タクミは笑みを浮かべ、メガネのズレを直しながら、一つため息をついた。

「面会に来るというから、何の用かと思えば、そんなことか」

 タクミの(とげ)のない口調に、コウタは一瞬淡い期待を抱いた。が、

「断るよ。帰ってくれ」

 タクミは冷たく言い放った。

「あなた!」

 (いさ)めるようにチアキが声を上げるが、タクミは即座に「うるさい!」と、怒鳴り声を上げる。

「誰も僕の気持ちが分からないくせに……」

 タクミは思わず、椅子を蹴って立ち上がり、肩をわなわなと震わせる。

「みんなそうだ。僕を金有グループの御曹司としか見ない、すり寄ってくる奴らばかりだ。コウタ。君だけは僕を御曹司としてではなく、友達としてずっと接してくれると思っていた。しかし、何だい!僕に抜け駆けでコトミさんと付き合って、結婚して、その後全く連絡もよこさず、都合のいい時だけ僕を頼って!コウタ、君はもう僕の友達じゃない。取材なんかお断りだよ。帰ってくれ!」

(面倒くさいことになった……)

 コウタは苦り切った顔をしながら、内心頭を抱えた。

 プライドが高く寂しがり屋のタクミは、一度機嫌を損ねたり()ねたりすると機嫌が直るまで時間がかかる。しかも、金有グループの跡取り息子として育ってきたせいか、物品での機嫌取りや、見え透いたおべっかも拒んでくる。学生時代は遊びに誘うなどして機嫌を取ってきたが、大人になった今ではそれも通用しない。こうなると、頼み込むしか方法はない。

「コトミのことも、今まで連絡しなかったことも謝るよ。でも、今回のことはタクミを利用するためとかじゃない。どうしてもレスキューマシンの取材をさせて欲しいんだ。頼む!」

 コウタは腰を折り曲げて頭を下げ、頼み込むが、

「嫌だね。さっきも言ったろう。取材なんかさせない。帰りたまえ」

 タクミはすげなくあしらう。それでも、コウタはこれ以上下がらないほどに頭を下げて頼み続けるが、タクミは断り続ける。

 コウタが土下座して頼みこみそうな勢いの押し問答にしびれを切らしたのは、意外にもチアキだった。

「アンタ!いいかげんになさい!」

 顔を真っ赤にして、社長机をバンと大きく叩き、怒鳴り声を上げる。

 一瞬、タクミはすくみ上がるように背筋を伸ばしたが、すぐに眉根を寄せる。

「な、なんだよ。お前には関係ないじゃないか」

 タクミが反論するも、チアキは全くひるまない。

「何ですか。コウタさんがここまで頼み込んでいるのに、取材の一つや二ついいじゃありませんか。そもそも、友達でもない人が危険を冒してまで助けてくれるわけないでしょう!その恩に報いないでどうするんですか!」

「だけど、コウタは、」

「あなたとの結婚はお互いの会社を大きくするためという政略的なもので、あなたが私を好いていないことは分かっています。ですが、恩人に対して不義理を働くなら、この場で副社長を辞めて、離婚させていただきます」

「えっ?ちょ、ちょっと待ってよ」

 予想外の申し出に、タクミは慌て始める。夫婦としてはともかく、ビジネスパートナーとしては最良の伴侶であるチアキを失うのは痛い上に、離婚となると世間体も悪くなる。将来的に金有グループを率いる身としては、様々な面で傷がつく。

 コウタも驚いた顔でチアキを見るが、チアキは凛とした(たたず)まいでタクミを見据えていた。

「それが嫌なら、関係部署に社長権限で取材許可を出しなさい。今すぐに」

「うぐぐ……」

 タクミはしばらくの間、悔しそうに歯噛みをしていたが、やがて観念して内線電話の受話器を取った。

 

 

 

 

「さ、コウタさん。私についてきてくださいまし」

 タクミが関係部署に内線で通知したのを確認してすぐに社長室を退出し、チアキの案内で製造現場に向かうことにした。だが、コウタにとって本来の目的はそこではない。

「あの、チアキさん」

「何ですか?」

「色々、ご尽力いただいてありがとうございます。ですが、僕が取材しようと思っているのは、今現役で働いているレスキューメカだけではなくて、そのプロトタイプについても取材をしたいんです。もし今も現存しているのであれば、まずはそちらから取材したいのですが……」

 申し訳なさそうにしながら、コウタはおずおずと頼み込んだ。と同時に、プロトタイプが既になくなっていたらどうしようと、内心ハラハラしていた。

「ええ、構いませんよ。レスキューメカのプロトタイプでしたら、別館の展示スペースにありますわ。たまに一般公開もしておりますのよ」

 にっこりと笑顔を浮かべながら、チアキは快諾した。その言葉に、コウタは心の中で安堵のため息を漏らす。自然と足取りも軽くなり、逸る気持ちを抑えるのに必死だった。エレベーターの待ち時間や下に降りる時間さえも惜しい。

「コウタさん」

 エレベーターに乗り込むと、チアキがいつもの豪放磊落な態度ではなく、おずおずとコウタに話しかけてきた。

「なんでしょう?」と、コウタは顔を向ける。

「あんな人ですけど、見捨てないでくださいまし。ビジネス上の付き合いをする人はいますけど、友人と呼べる人がいなくて、きっと寂しかったんですわ。本当はコウタさんやコトミさんとお喋りしたり、遠出をしたり、いろいろしたかったんだと思います。ですから……」

 そこで、(うつむ)きながら言葉を切るチアキ。

 そんなチアキにつられて、タクミを遠ざけてきたことを反省するように、コウタも自然と俯いてしまう。

「……ええ、分かってます。いつも威張り散らしたり嫌味を言ったりするけど、本当はただ構って欲しいだけの寂しがり屋なんだって、僕もコトミも分かってますから」

 それを聞いて、チアキは穏やかな笑みを浮かべながら、「よろしくお願いします」と、深々とお辞儀した。

 しんみりとした空気のまま、エレベーターは地上へと下降していった。

 

 

 

 

 別館に着くと、コウタはすぐに「忘れものをした」と、適当なことを言ってエクスカイザーを停めている駐車場に向かった。

 すぐにエクスカイザーの車内に乗り込む。

「スカイマックス、ドリルマックス、あったよ。ここから左に曲がった先にある別館の展示室にあるから」

「ありがとう!コウタ」

 スカイマックスがコウタに礼を言い、二人は急いで別館に飛んでいった。

 ほどなくして、別館の方から騒ぎ声が聞こえてくる。驚いたふりをしてコウタが別館に戻ると、チアキをはじめ、関係する社員たちが「プロトタイプが突然消えてしまった」と、パニックになっていた。

 地球平和のためとはいえ、若干申し訳ない気持ちになりつつ、コウタはレスキューメカのプロトタイプが紛失した現場の写真を撮り、至急会社に戻って記事にすると告げて、チアキと別れた。もちろん、普段なら特ダネだが、記事にはしない。

 そのまま駐車場に戻ると、そこにエクスカイザーの姿はなく、代わりに目を引く黄色いレーシングカーが停まっていた。

「よっ!コウタ」

「ダッシュマックス!ちゃんと体が見つかったんだね」

「ああ。前よりも動きはぎこちねぇが、やっぱこの体で風を切って走るのは最高だな」

 (たかぶ)りを表すように、ダッシュマックスはエンジンを豪快にふかすが、

「おっとと」

 慌ててエンジンを静める。

「それより、エクスカイザーから伝言だ。レイカーブラザースが別任務を終えて、そろそろ地球に到着するから、今度はあの二人の体を探して欲しいんだとよ」

「それなら簡単だよ。鉄道博物館に当時の新幹線が残っているから、そこに行けばいいんだよ」

「よっしゃ。そうと決まれば、コウタ、俺に乗りな。道案内頼むぜ」

「分かった」

 コウタがすぐに乗り込むと、ダッシュマックスはエンジン音を響かせて間髪入れずに急発進した。

 あらかたの方向を伝え、時間ができると、コウタはダッシュマックスに尋ねる。

「ところで、ダッシュマックス。エクスカイザーはどうしたの?」

「エクスカイザーなら、ナスカに行ってるぜ」

「ナスカ?地上絵のある?」

「ああ。地上絵の力からグレートエクスカイザーになるヒントを得たみてぇだからな。今回もその力を借りようとしているみたいだぜ」

「なるほど。それならグレート合体もできそうだね」

「だがよ、エクスカイザーにばかり頼ってもいられねぇ。ダイノガイストと同じ力を持っているなら、カイザーズ全員で戦わなきゃならねぇからな」

「期待してるよ。ダッシュマックス」

「おうよ!任しとけ」

 コウタのハッパに、ダッシュマックスは力強く返事をし、それに呼応するように道路を力強く突っ走っていった。

 

 

 

 

 ガイスターのアジトである孤島。

 幕間メッセ襲撃から帰還したアーロンガイストは、すぐに自身の体の修理に取り掛かった。

 といっても、アーロンガイストは玉座に座ったままで何もしない。飼っているカラス型ロボットに、特殊なエネルギー波を照射させて傷を癒していた。

 その間、昔のことを思い出していた。

 兄貴分と慕うダイノガイストと共に様々な星を襲って、荒らし回っていた時のことだ。

 思えば、あの時がアーロンガイストにとって楽しい日々だった。力で物を言わせて宝を奪い、奪った宝を宇宙商人に高値で売りさばき、自分たちを捕まえにきた宇宙警察を返り討ちにする。ダイノガイストと組めば正に無敵。やりたい放題だった。

 だが、ある時。ダイノガイストからこう告げられた。

「アーロン。俺の陰に隠れていないで、お前はお前の宇宙海賊団を作れ。お前はもう一人でもやっていけるはずだ」

 兄貴分からの指示は絶対だ。しかし、この時だけは反抗した。ずっとダイノガイストを支えて、ありとあらゆる星々を荒らし回りたかったからだ。だが、ダイノガイストはアーロンガイストの言い分を聞くこともなく、半ば無理やり(たもと)を別った。

 その時は自分の陰に隠れていないで、自立をしろというダイノガイストの親心だと思っていた。しかし、それとは別に、あまりにも易々と宝を強奪できる日々に、ダイノガイストは()んでいたのかもしれない。

 その後、ダイノガイストと再会することはなく、代わりに様々な宇宙海賊と出会ったものの、いずれも自分よりも弱い奴らばかりで、誰ともつるむことはなかった。

 やがて、一匹狼として星々を荒らし始めた。その時は、事あるごとに宇宙商人からダイノガイストの近況を聞いてきたが、しばらくしてやめた。四人の部下を率いて、宇宙海賊ガイスターの首領となったことを知り、自分との落差に嫌気がさしたからだ。

 そんな風に、ダイノガイストの近況を聞かなくなって、またしばらくたった頃。太陽系の惑星である地球で、宝の略奪を行っていたダイノガイストが命を落としたことを知った。この情報はすぐさま宇宙海賊や宇宙商人の間に広まったため、一匹狼のアーロンガイストでも否応なしに耳に入ってきた。

 その時は、怒り悲しみ、すぐさま敵討ちのため地球へ向かおうとした。

 しかし、太陽系からかなり離れた星々を荒らしていたため、すぐに地球へと向かうことはできない。

 しかも、ガイスターを壊滅させた宇宙警察カイザーズが、次に逮捕する標的として自分を狙っているという情報も出回っていた。カイザーズを返り討ちにする自信はあるが、それだけでは燃え(たぎ)った復讐心は治まらない。ダイノガイストが狙っていた地球も破壊しなければ、弔いにはならないと考えたからだ。

 そのため、目立つ行動を避けながら、地球へと接近しつつ、復讐のために力を徐々に蓄えていった。そして、ようやく地球へ降り立つことができた。

 

 

 

 

「……忌まわしい光だ」

 治療を終えたアーロンガイストは、一言そう呟いた。

 時刻は昼を過ぎており、昨日の快晴から一転して曇り空に覆われている東京とは違い、アーロンガイストが根城にしている無人島周辺は抜ける青空が広がる快晴だった。

 しかし、アーロンガイストにとっては、怒りを助長するものでしかない。地球上の生命に惜しみなく光を与える、あの太陽という恒星にダイノガイストは身を投げたのだ。

「フフフ……。だが、忌まわしければ忌まわしいほど、潰しがいがある」

 不敵な笑いと共に呟くと、すぐさまジェット機へと変形し、轟音を響かせて無人島から飛び立って行った。

 

 

 

 

 東京都心から約一時間。コウタはダッシュマックスと共に歴代の新幹線車両が展示されている鉄道博物館に到着した。既に入場券は購入したため、あとはレイカーブラザースの到着を待つだけだ。

「よし、コウタ。俺はスカイマックスたちと一緒に警戒監視に戻るから、あとはよろしくな」

 まくし立てるように言うダッシュマックスに、コウタは慌てる。

「え?でも、レイカーブラザーズが地球に降りてきた時の連絡はどうするの?」

「おっと。忘れるところだったぜ。コウタ、カイザーブレスは持ってきてるか?」

「もちろん。腕には巻けないけどね」

 コウタはカバンの中からカイザーブレスを取り出す。何か役立つと思い、自宅を出る前に持ってきていた。

「そのボタンをずっと押し続けていてくれ。それだけでレイカーブラザーズに場所を教えることになるからよ」

「分かった」

「よし。それじゃ、あとは任せたぜ!」

 勢いよく走り去るダッシュマックスを見送り、コウタはなるべく人気のない場所に移動し、カイザーブレスの赤いボタンを押してみる。すると、押し続けて五分ほどで、青い球体が二つ、不規則な動きでコウタに向かってくる。コウタは思わず呼びかけた。

「ブルーレイカー!グリーンレイカー!」

「コウタか?」

「久しぶりだな!元気にしていたか?」

 ブルーレイカー、グリーンレイカーがそれぞれ、再会を喜ぶようにコウタに話しかける。

「見ての通りだよ。二十年経って、大人になっちゃった」

「ああ。見違えたよ」

 ブルーレイカーが落ち着きのある声音で相槌を打つ。

「少しの年月でこんなにも変化するなんて、地球人というのは不思議だ」

 二十年前も地球の文明や風習を不思議がっていたグリーンレイカーだが、久々に降り立っても不思議に思うものがあるらしい。

 いつまでも話し込んでいたかったが、コウタはそれをグッとこらえ、本題に入った。

「それで、二人が依り代にしていた新幹線がこの建物に残ってるんだ。僕が先に入って、カイザーブレスで場所を教えるから、少し待っていて欲しいんだ」

「分かった」

 二人が声を合わせて返事をしたところで、コウタはすぐに鉄道博物館に入場し、エントランスから一階の車両展示スペースに向かう。

 最奥の吹き抜けのスペースにレイカーブラザーズが依り代にした100系と200系の新幹線車両が隣り合って展示されている。

 コウタは展示車両の近くまで寄ると、手に持っているカイザーブレスのボタンを押す。すぐさま、二つの青い球体が現れ、それぞれの新幹線と融合し、凄まじい光を放つ。ゴールデンウィークということもあって、家族連れなどで賑わっており、青い球体であるレイカーブラザーズや、その二人が新幹線車両と融合する姿を目撃されてしまったが、事態は急を要するため仕方がない。

 しばらくして光が収まると、新幹線の車両は忽然と姿を消し、周辺にいた人たちがざわめき始めた。

 その一部始終を確認したコウタは、すぐに鉄道博物館の外に出て、カイザーブレスでレイカーブラザーズに呼びかける。

「ブルーレイカー、グリーンレイカー」

「コウタ。協力ありがとう」

 グリーンレイカーの感謝を伝える声が聞こえた。

「我々が動き出して大騒ぎにならないよう、融合したら別の場所へワープできるようにしたんだ」

 ブルーレイカーからの説明を聞いて、コウタは胸を撫で下ろした。

「そういうことだったのか。いきなり消えたからびっくりしたよ」

「驚かせてすまない」

 ブルーレイカーが穏やかな口調で謝ったその時だった。

「こちら、スカイマックス!アーロンガイストと思われるジェット機が幕間メッセに向かって急速接近中!至急応援に駆けつけてくれ」

 スカイマックスの緊迫した声がカイザーブレスから発せられた。

「了解!」

 エクスカイザーを除く、四人の声が同時に響いた。

 一連のやり取りを聞いて、コウタも緊張した面持ちになる。

「マックスチームもレイカーブラザーズも依り代となる体を見つけて、僕の役目はひとまず終わった」

 コウタは現状を確認するように呟いた。あとはできる限り避難を呼びかけて、一人でも危害が及ばないようにするだけだろう。

 しかし、それだけでいいのだろうか?

 もちろん、一緒に戦うことはできない。協力できることもごくわずかだ。

 だが、新聞記者として、地球人の一人として、何より宇宙警察カイザーズの友人として、彼らの戦う姿をより多くの人に知ってもらうべきなのではないか?

 ならば、今自分のやるべきことは一つだ。

 コウタは決意を固めるように一つ頷くと、すぐに携帯電話を取り出し、徳田と関東テレビにそれぞれ電話をかけた。そして、最後に自宅の電話番号につなげる。

「はい。星川です」

 コトミがやや不安げな声で電話に出た。

「コトミ。僕だよ」

「コウタさん。どうしたの?」

「もう間もなく、決戦が始まるんだ」

「そう……。気を付けてね」

「うん。それで、頼みたいことが二つあるんだ」

「なあに?なんでも言って」

「一つは、テレビで関東テレビの中継を見て欲しいって、できる限り知り合いの人に伝えて欲しいんだ。もちろん、コトミにも見て欲しい。そしてもう一つは、もし、エクスカイザーが……」

 そこまで言って、皮肉な笑みを浮かべながらコウタは言い直す。

「いや、もしもなんてないな。エクスカイザーたちがアーロンガイストに勝った時、コズエと一緒に幕間メッセまで来てくれないか」

「分かったわ」

「じゃあ、切るね」

「コウタさん」

 コウタが携帯電話を離し、電話を切ろうとしたところでコトミが呼びかける。

「エクスカイザーさん、絶対勝つわよね?」

「ああ。勝つさ。絶対。だから心配しないで」

 コウタは力強く言い切った。

 

 

 

 

「急がねば……。このままではコウタたちが危ない」

 エクスカイザーは焦りを抑えるように呟いた。

 ダッシュマックスにコウタと協力するように頼んだ後、エクスカイザーはドラゴンジェットに乗り、一度大気圏から出て、チリにあるナスカの上空に赴いていた。

 幾何学文様から動植物まで様々な地上絵が存在するが、その中のアンテナの形をした地上絵からエネルギーが発せられ、エクスカイザーはグレート合体への方法を理解することができた。

 依り代の経年劣化による悪影響はエクスカイザーだけでなく、他のカイザーズにも起こっているかもしれない。そうなると、アーロンガイストにとても太刀打ちできない。

 それだけに、頼みの綱は古代のカイザーズがナスカの地上絵に残した大いなる力だけだ。

「大いなる力よ。もう一度私に巨悪に立ち向かう力を。地球を守るための力を私に授けてくれ」

 ロボットの形をした地上絵を凝視しながら、エクスカイザーは上空から厳かに懇願する。

 しかし、地上絵は何の反応も示さない。

「ダメか……」

 エクスカイザーは落胆するように呟く。そして、すぐさまドラゴンジェットを発進させ、急いでダイノガイストが襲うであろう東京へと引き返した。

 

 

 

 

 幕間メッセ近くにある海沿いの広場。昨日、アーロンガイストからの襲撃を受けたため、人は見当たらない。代わりに、レイカーブラザーズが左右合体したウルトラレイカーとマックスチームが三体合体したゴッドマックスがアーロンガイストの襲撃に備えて待ち構えていた。

 既に合体を済ませているのは、キングエクスカイザーですら苦戦する相手だということと、依り代の経年劣化による悪影響をエクスカイザーから知らされているためだった。実際、程度の差はあるが、五人とも二十年前と比べて動きが悪くなっていた。幸い、合体に支障はなかったが、最強の姿で迎え撃たなければ、アーロンガイストの暴挙を食い止めることはできない。

 どんよりと曇り空が覆う空をじっと見据えていたウルトラレイカーとゴッドマックスだったが、曇り空の中から赤黒い物体を見つけると、思わず身構えた。

 それは紛れもなくジェット機形態のアーロンガイストであり、向こうもウルトラレイカーとゴッドマックスに気が付いたのか、高度を下げ、ジェット機からロボットモードへと変形を行い、ゆっくりと降り立った。

「アーロンガイストだな」

 分かり切ってはいるが、ゴッドマックスが厳かな口調で尋ねる。

「フフフ。いかにも。そういう貴様らはカイザーズのウルトラレイカーとゴッドマックスだな」

 余裕綽々という態度でアーロンガイストは尋ね返す。

「アーロンガイスト!宇宙刑法に則り、貴様を逮捕する!」

 ウルトラレイカーが啖呵を切るが、それでもアーロンガイストは全く動じない。

「フン。できるものならやってみろ!」

 アーロンガイストは背中の双刀を抜き放った。

 それに対して、ウルトラレイカーは額からウルトラキャノンビームを、ゴッドマックスは胸にある鷲のレリーフの前で両手からエネルギー弾を作り、ゴッドコズミックボンバーをそれぞれ放った。

 

 

 

 

「本当にエクスカイザーたちが、また幕間メッセでガイスターと戦うのかい⁉」

 徳田オサムは、思わず大声で横に座るコウタに尋ねた。大声になってしまうのは、東都新聞が所有するヘリコプターに二人が乗っているからだ。

 あの後コウタは、報道機関が共有で使用するヘリポートへと向かい、徳田にヘリで迎えに来てもらった。ヘリの使用を頼んだのは、カイザーズとガイスターの戦闘が行われるため、急がないと特ダネが逃げるというのを口実にした。

「ええ。間違いありません。これを逃したら、最高の特ダネも逃げてしまいます。だから、急いで!」

 コウタも大声で、徳田とパイロットにまくし立てる。

 もしかしたら、既に戦闘は始まっているのかもしれないと思うと、逸る気持ちが抑えきれなかった。

 やがて、幕間メッセの会場が確認できる距離まで近づいたその時だった。

 ドーンと大規模な爆発音が響き、幕間メッセの海沿いの辺りで爆炎が上がり始めた。

「……始まった!」

 コウタは苦い顔で爆炎を見つめる。恐らく戦っているのはウルトラレイカーとゴッドマックスだろう。街の方への被害は食い止めてくれるだろうが、ダイノガイストとそん色ない実力を持つアーロンガイスト相手に長くは持たない。

 グレートエクスカイザーがいなければ勝てない。

 コウタが一人焦りを感じていると、いきなりヘリコプター内から強風が舞い込んできた。驚いて隣を見ると、徳田がヘリコプターの扉を開け、半身を投げだして写真を撮っていた。

「これは凄い特ダネだ!撮って撮って撮りまくるぞォ!」

「徳田さん!危ないですよ!」

「早く扉を閉めてください!徳田編集長!」

 意気揚々という風にカメラを構えて写真を撮る徳田に対し、コウタとヘリコプターのパイロットは慌てて忠告する。が、徳田は全く聞き入れる様子がない。

「心配御無用!徳田オサム、四十八歳。数々の死線を乗り越え、特ダネを追ってきた百戦錬磨の新聞記者!こんなもの、特ダネ写真を撮るためならへっちゃらへっちゃ……ラララアアアアァァ!」

 徳田は二人の忠告を聞かず、胸を張って笑い飛ばすが、その拍子にバランスを崩し、危うく空に投げ飛ばされそうになる。

 コウタは慌てて徳田の手を取り、引っ張り上げた。

「まったくもう、徳田さん。無茶はしないでくださいよ」

 コウタは息を切らせながら、徳田に言う。徳田も流石に肝が冷えたのか、胸のあたりを抑えながらゼイゼイと音を立てて呼吸している。幸いなことに、カメラを地上に落とすといったドジはなく、無事である。

「もう少しで着きますから、大人しくしていてください」

 ヘリコプターのパイロットは、半ば呆れ声でそう言うと、幕間メッセ周辺の開けた場所にヘリコプターを降下させた。戦闘に巻き込まれず、カメラで写真を撮るのに、ギリギリの距離にある場所だ。

 ヘリコプターから降りると、コウタと徳田はすぐにカメラを構える。しかし、二人とも数枚写真を撮っただけで、それ以降シャッターを切れなかった。

ウルトラレイカー、ゴッドマックスの二人がかりでも、アーロンガイストを止めることができなかったからだ。

 コウタと徳田が到着した時、アーロンガイストは、ウルトラレイカーが繰り出す光の網、ウルトラスパイダーネットと、光波状のリングで相手を縛るゴッドマックスのゴッドソニックバスターによって捕縛された状態だった。

 しかし、アーロンガイストはゴッドソニックバスターを力ずくでほどき、ウルトラスパイダーネットも無造作に掴んで破き、拘束から脱出した。

 お返しとばかりに、アーロンガイストは頸部のキャノン砲で二人を攻撃すると、怯んだウルトラレイカーの頭を掴み、力の限り投げ飛ばす。

 その隙を狙ってゴッドマックスは宙を飛び、翼部を切り離すと、ブーメランにしてアーロンガイスト目掛けて投げつける。が、攻撃が来るのを読んでいたのか、アーロンガイストはブーメランを腕で弾くと、ゴッドマックスめがけて高く飛び、虚を突かれたゴッドマックスの頭を掴んで、そのまま地面に叩きつけた。

「こ、これはちょっとまずいんじゃないの……?」

 物おじしない性格の徳田も、流石に怖気づいていた。

 厳しいことは覚悟していたが、あまりにも一方的すぎるアーロンガイストの猛攻に、コウタが悔しそうに歯噛みしていると、誰かを叱りつける女性の声が聞こえてきた。

「こら!アンタたち、それでもテレビ局の人間なの?たとえ、火山が爆発しようが、隕石が降ってこようが、生中継でリポートするのが私たちの使命でしょ!」

 関東テレビの勝木アナである。言うことを聞かない大型犬の様に嫌がるテレビクルーたちを引っ張り込むように連れてきて、リポートを開始しようとしている。

「ルミさん!」

 コウタは、待っていたとばかりに呼びかける。

「あれぇ?ルミたん。なんでここに?」

 徳田も勝木アナに気付き、不思議そうに尋ねる。

「コウタ君に、ここでカイザーズとガイスターの戦闘が起こるって教えてもらったのよ」

「ええ?コウタ君、なんでルミたんにも教えちゃったのさ。せっかく僕らだけの特ダネだと思ったのに」

 高飛車に答える勝木アナに対し、徳田は心底がっかりした顔でコウタを見つめる。

「東都新聞の社員としてはダメな行動だと分かってます。でも、できるだけ多くの人にカイザーズの戦いを見てもらいたかったんです。分かってください。ところで、ルミさん。僕がリポートに出演する話、OKですか?」

 コウタは神妙な面持ちで徳田を(さと)し、そのまま勝木アナに尋ねる。

「関東テレビと東都新聞は提携していないから、本当はダメだと思うけど、私が後で何とかするわ。情報を提供してもらって何もしないわけにもいかないし、それに私だけがリポートするよりも同じ現場で取材している新聞記者に話を聞く方が、臨場感があるしね」

 勝木アナがウインクしながら、笑顔で応える。それを聞いてコウタも笑顔で「ありがとうございます」と、礼を言った。

「そうと決まれば、リポートの準備をさっさと進めるわよ。オサム!取材している姿を映したいから、アンタも協力して!」

「ああ、はいはい」

 勝木アナに指示されて、徳田は再びカメラを構える。

「コウタ君。リポートを開始したら、すぐに出番だからそのつもりで」

「はい!」

 勝木アナの指示に、コウタは声を弾ませて返事をした。

 

 

 

 

「フン。手ごたえのない……。この程度の力で俺様を捕まえようなど、片腹痛いわ」

 打ち倒したウルトラレイカーを踏みつけながら、アーロンガイストは侮蔑するように嘯く。

「ゴッドバードアタアアァァック!」

 その隙を狙ってゴッドマックスが、光の鳥となってアーロンガイストめがけて突撃する。

 攻撃は見事にアーロンガイストに命中したが、ウルトラレイカーへの踏みつけをやめさせ、アーロンガイストを攻撃圏内から移動させただけだった。アーロンガイスト自身は無傷である。

「大丈夫か?ウルトラレイカー」

 疲労の色を隠せない様子で、片膝をつきながらゴッドマックスが尋ねる。

「あ、ああ。だが、体が思うように動かん……」

 なんとか体を起こし、ウルトラレイカーが応える。

 エクスカイザーから依り代の経年劣化については聞かされていたが、思っていた以上に体が動かず、技も弱くなっていた。そのため、ウルトラレイカーもゴッドマックスも思うように戦えない歯がゆさと焦りを感じていた。

 ウルトラレイカーとゴッドマックスは立ち上がり、体制を立て直すが、その隙を逃すほどアーロンガイストは甘くない。

 赤黒い炎をまといながら双刀を振りかぶり、溜めた力を開放するように力強く振り下ろす。

「ダークファイヤーストーム!」

 赤黒い炎が、周囲を焦がしながら猛烈な勢いでウルトラレイカーとゴッドマックスに襲い掛かる。

 技の勢いから避けることもできず、二人は直撃を受けてしまい、吹っ飛ばされてしまった。ブスブスと嫌な音を立て、二人の体のあちこちに焦げた匂いと煙がくすぶっていた。

 そんな二人を見ながら、アーロンガイストはゆっくりと歩を進める。

「覚悟はよいな?貴様らの首を太陽に放り込んで、兄貴の無念と恨み、晴らさせてもらう」

 怨恨のこもった声でそう言いながら、一番手近にいたゴッドマックスを踏みつける。

「死ね!」

 そう言い放って、アーロンガイストはゴッドマックスの首めがけて、双刀の切っ先を向けた。

 その時だった。

「サンダァーアロォー!」

 曇り空を切り裂くように、上空から電撃を帯びた光の矢が放たれ、アーロンガイストの双刀に見事命中し、剣を弾いた。

「何だと?」

 矢が放たれた方向へ、アーロンガイストが顔を向けると、青を基調とした物体が猛スピードで降下している。

 エクスカイザーが巨大合体したドラゴンカイザーだ。

 両腕にあるキャノン砲を地上に向けた体勢で降下しており、続けざまに攻撃を放つ。

「ドラゴンキャノン!」

 ゴッドマックスに当たらないよう角度を調整し、主にアーロンガイストの顔面めがけてキャノン砲を何発も打ち放つ。攻撃を避けるのと弾かれた双刀を回収するため、アーロンガイストは退避する。

 ドラゴンカイザーは地上近くに達すると、体勢を整え、そのまま地面に着地した。

 そして、傷だらけで倒れたまま動かないウルトラレイカーとゴッドマックスに目を向ける。

「ウルトラレイカー、ゴッドマックス。すまない。私が遅れたばかりに……」

 申し訳なさそうにドラゴンカイザーは詫びたが、二人に反応はない。その様子を見て、アーロンガイストは嘲るように鼻で笑う。

「謝ることはない。貴様ら三人とも、いずれ俺様が地獄に送ってやる」

「黙れ、アーロンガイスト!貴様を倒し、自分の罪の深さを思い知らせてやる!」

 激昂するドラゴンカイザーに対し、アーロンガイストは不敵さを失っていない。

「フフフ。姿形を変えたところで、俺様に敵わないということが分からんらしいな。よかろう!まずは貴様から地獄に送ってやる。ゆくぞ、エクスカイザー!」

「うおおおおぉぉぉぉ!」

 アーロンガイストは双刀を構えて突進し、負けじとドラゴンカイザーもドラゴンアーチェリーを剣の代わりにして、受けて立つ。

 昨日と同じく、激しい金属音と火花が周辺にまき散らされた。

 

 

 

 

 同じ頃。中継の準備が整った勝木アナがリポートを開始した。

「こちら、幕間メッセ近くの広場から生中継でお送りします。先ほど、激しい金属音と火花が確認されました。現在はドラゴンカイザーと思われるロボットがガイスターと戦っている模様です。こちらからもその姿が確認できます。しかし、戦況は芳しくありません。私たちが到着した時には、ウルトラレイカーとゴッドマックスが戦っておりましたが、赤黒い爆炎のようなものを受けてからは、二体とも姿を確認できておりません」

 事態の深刻さからか、勝木アナの声はいつもより緊迫の度合いが増していた。

「それではここで、私たちと同じ場所で取材を行っている、東都新聞の星川記者が、今この中継をご覧になっているみなさんにお伝えしたいことがあるそうです。星川記者、どうぞこちらに」

 勝木アナに促されて、コウタは歩み寄り、勝木アナからマイクを受け取る。

「みなさん、こんにちは。東都新聞社会部に所属している星川コウタです。僕は、二十年前、エクスカイザーに危ないところを何度も助けてもらいました。昨日も、アーロンガイストに襲われそうになった間一髪のところを助けられました。でも、僕だけではありません。もし二十年前、彼ら宇宙警察カイザーズが地球に来なければ、ガイスターに破壊と略奪をされ、地球は荒廃した星になっていたでしょう。彼らは、今回も僕たちを守ってくれます。そして、戦ってくれています。僕ら人間はガイスターから見れば、ひ弱な存在でしょう。でも、心を一つにして、カイザーズのみんなに声援を送って欲しいんです。それが彼らの大きな、とても大きな力になるからです。どうか、みなさん、お願いします。地球を守る勇者たちに、大きな声でエールを送ってあげてください!お願いします!」

 コウタが熱を入れてテレビカメラの前で懇願したその時だった。

 またもや赤黒い爆炎が上がり、遅れて巨大なものが崩れ落ちるように倒れる音が聞こえた。

 コウタも含め、その場にいる全員が音のする方へ目を向ける。

 ドラゴンカイザーがアーロンガイストのダークファイヤーストームを食らい、仰向けに倒れていた。

 いつも宿している眼の光は輝きを失っている。

「これで、宇宙警察カイザーズも地球も終わりだ」

 アーロンガイストの重々しい宣告に、コウタも、徳田も、勝木アナも、テレビクルーも、中継をテレビから見ている人たちも、全員が凍り付いた。

 皆、心中は一緒だった。どこに逃げても無駄なのに、皆どこかに逃げ出したい気持ちで一杯になった。

 だが、そんな弱い心を振り払うように、コウタは拳を握りしめ、大きく息を吸い込む。

「頑張れぇー!エクスカイザー!アーロンガイストなんかに負けるな!頑張れぇー!」

 突然、大声を発したコウタに、その場にいた全員が呆気に取られていた。

 だが、構わずエクスカイザーに声援を送るコウタに触発され、徳田も勝木アナも大声で声援を送り、やがて、街の方からも唸りのような喚声が届いてきた。

「フン。無駄なことを」

 地球人の悪あがきだと思ったのか、嘲るようにアーロンガイストは鼻を鳴らす。

 が、その直後、ドラゴンカイザーの眼に再び光が灯り、グググと力を込めてゆっくりと起き上がる。

「何……⁉」

 アーロンガイストは驚愕し、思わず身構える。

 復活したのはドラゴンカイザーだけではない。

 ウルトラレイカーとゴッドマックスも眼に光を灯し、起き上がろうとする。

「何故だ……!俺の必殺技をまともに受けて、立ち上がれた者など一人もいないのに、一体何故……⁉」

「破壊と略奪をすることしかできない、貴様のような者には分からんさ……。守る者と守られる者の見えない絆というものは……!」

 当惑するアーロンガイストに、ドラゴンカイザーは静かに、だが、厳かに力強く言い放つ。

 三人が復活する姿を見て、コウタは「やった!」と歓声を上げ、徳田と勝木アナは抱き合って喜んだ。

「おのれ……!死にぞこないどもめ。もう一度食らうがいい!」

 アーロンガイストは双刀を振りかぶり、ダークファイヤーストームを打つ体制に入る。

 しかし、それを遮るように、曇り空を切り裂いて、突然眩しいほどの光がドラゴンカイザーたちカイザーズを包み込む。

「何だ?この光は……!」

 前触れもなく現れた光に警戒するアーロンガイスト。

 一方、ドラゴンカイザーは、この光に覚えがあった。

(これは……。間違いない。あの時の、大いなる力を受けた時の光だ!)

 やがて、光が収束し、徐々に消えていく。すると、カイザーズ三人は傷も焦げもない万全の姿に戻っていた。

「力が(みなぎ)ってくる……!」

 ウルトラレイカーが力強く拳を握りしめる。

「これでまた戦える!」

 ゴッドマックスは傷の消えた自分の体を見回す。

「ウルトラレイカー、ゴッドマックス、一斉攻撃だ!」

 ドラゴンカイザーの掛け声に、二人は力強く「おお!」と応じる。

「ギャザウェイビーム‼」

 ドラゴンカイザーは胸のパネルから、ウルトラレイカーは額から、ゴッドマックスは鷲のレリーフから、それぞれ光線を放ち、三つの光の束が合わさって一つとなり、アーロンガイストに向かう。

「くっ!」

 アーロンガイストはビームを防ぐが、思った以上の威力に少し怯む。

 その隙に、ウルトラレイカーとゴッドマックスがすかさず技を繰り出す。

「ウルトラスパイダーネット!」

「ゴッドコズミックボンバァー!」

 光の網と光波状のリングが、アーロンガイストを拘束する。

「フン!二度も同じ技が通用するか!」

 アーロンガイストは嘲るように吐き捨てながら、前と同じように力ずくで拘束を解こうとする。

 だが、いくら力を込めても、拘束が外れない。

「クソッ!何故だ!外れん……!」

 前と同じ威力だと侮り、拘束を外すのに手間取るアーロンガイスト。

 その姿を見て、ウルトラレイカーとゴッドマックスは同時にドラゴンカイザーの方へ振り向き、

「今だ!ドラゴンカイザー!」

 二人は声を合わせて叫んだ。

「キングローダアアァァァ!」

 ドラゴンカイザーが叫ぶと同時に、異次元から巨大なトレーラーが現れ、人型に変形していく。そして、エクスカイザーを迎え入れるように光の筋が放たれると、

「とうっ!」

 エクスカイザーはドラゴンジェットと分離し、キングローダーとフォームアップする。その直後、ドラゴンジェットはバラバラに分離し、各パーツがキングエクスカイザーと合体していく。肩、足、背中、胸と次々取り付けられ、最後に顔が光に包まれ、キングエクスカイザーとは別の顔が現れる。

「超巨大合体!グレートエクスカイザー!」

 合体を完了すると、グレートエクスカイザ―は地面にゆっくりと降り立った。

 と同時に、アーロンガイストがようやく拘束を解いた。

「よし!グレートエクスカイザーになったぞ!」

「これは世紀の瞬間だぁ!特ダネだぞォ」

「皆様、ご覧ください!グレートエクスカイザーが現れました!これで、アーロンガイストとも互角に渡り合えます!」

 コウタはガッツポーズをしながら歓声を上げ、徳田はカメラで写真を撮りまくり、勝木アナはコウタからマイクをひったくり、興奮気味に実況している。

 その勝木アナの実況が届いたのか、街の方からは大きな歓声が上がった。

「ウルトラレイカー、ゴッドマックス、周囲に危害が及ばないように守ってくれ。私が奴を倒す!」

 グレートエクスカイザーは、ウルトラレイカーとゴッドマックスに向き直り、力強く宣言した。

「ああ、分かってる」

「頼んだぞ、エクスカイザー」

 指示を出されたウルトラレイカーとゴッドマックスはそれぞれ対角線上に移動し、バリアを張った。

「合体ができたからどうした!俺様が粉砕してくれる!」

 周囲の異様なまでの盛り上がりに気圧されながらも、アーロンガイストはそれをかき消そうと、ダークファイヤーストームをグレートエクスカイザーに放つ。

 しかし、グレートエクスカイザ―は獅子のレリーフから炎を吐き、アーロンガイストの攻撃を押し戻して、逆にアーロンガイストを後方へと吹っ飛ばした。

「何だと⁉」

 アーロンガイストは、初めて自分の攻撃が通用しなかったことに驚愕する。

 その間に、グレートエクスカイザーはカイザーソードとドラゴンアーチェリーを召喚し、二つの武器を重ね合わせ、巨大なカイザーソードを出現させた。

「ゆくぞ!アーロンガイスト!」

「ええい、小癪(こしゃく)な!」

 巨大カイザーソードを両手に持ち、突進してくるグレートエクスカイザーに対し、アーロンガイストは双刀の柄を連結させ双身刀にして迎え撃つ。

 激しい金属音を放ち、剣と剣をぶつけ合うと、お互いの力が拮抗しているのか、激しい鍔迫り合いを繰り広げる。

 やがて、均衡が破れ、互いに距離を開けると、グレートエクスカイザーは獅子のレリーフからビームを、アーロンガイストは胸のパネルから熱光線を放つ。互いのエネルギーがぶつかり合い、激しい爆炎が起こる。

 その爆炎に突っ込むように、お互い斬りかかり、すれ違う。

 共に地面に着地すると、その衝撃からか、アーロンガイストの頭にある右の角が切り落とされ、半歩遅れてずり落ちる。

「おのれ!グレートエクスカイザー!俺様の全力の必殺技で貴様を粉々にしてくれる!」

 角を切り落とされた怒りからか、アーロンガイストは激昂する。

「ダークファイヤーインフェルノ!」

 アーロンガイストは双刀を振りかぶり、赤黒い炎を全身に(まと)ってキングエクスカイザ―に突撃する。

「アーロンガイスト!私は貴様に負けない!」

 グレートエクスカイザーも迎え撃つべく、獅子の口から炎を吐き、巨大カイザーソードにエネルギーを集中させる。やがて、エネルギーがピークに達し、巨大カイザーソードから光が放たれ、グレートエクスカイザー自身も黄金色に変化した。そして、アーロンガイストめがけて突撃する。

「サンダァーフラァッシュッ‼」

 大剣が背中につこうかという勢いで振りかぶり、溜めたエネルギーを一気に放出するように、渾身の力を込めて一気に袈裟斬りで振り下ろす。

 互いの剣と剣、エネルギーとエネルギーがぶつかり合い、凄まじい光と衝撃波が周囲を襲う。

 バリアを突き抜け、コウタたちの方にも目を開けられない眩しさと、気を抜けば吹っ飛ばされそうな衝撃波が襲ってくる。

 グレートエクスカイザー、アーロンガイスト、放った技の力は拮抗していた。しかし、

「おおおおぉぉ‼」

 最後の力を振り絞って、グレートエクスカイザーがアーロンガイストの双刀を押し返し、アーロンガイストの巨体を後方へと吹っ飛ばした。

 光と衝撃波が徐々に和らぎ、コウタたちが恐る恐る目を開けると、そこには巨大カイザーソードを正眼に構えて肩で息をするグレートエクスカイザーと、全身がひび割れ、胸のパネルや脛のキャノン砲を失い、刀身が折れた双刀を握りしめたアーロンガイストが仰向けに横たわっていた。

「勝った……!エクスカイザーがアーロンガイストに勝ったんだ!」

 コウタは握りこぶしを天高く突き上げ、歓喜の声を上げる。徳田、勝木アナ、テレビクルーたちも、そして、街の方からも皆それぞれ喜びの声を上げていた。

「アーロンガイスト!観念しろ」

 グレートエクスカイザーは改めて、アーロンガイストに啖呵を切った。

「……殺せ。いっそ、ひと思いに殺せ……」

 アーロンガイストはうわ言の様に、だが、どこか芯の強さを感じさせるように呟く。

「そうはいかん!貴様のような悪党でも、大切な生命であることに変わりはない。どんな生命であろうと、無碍(むげ)に殺すことなど私にはできん」

 諭すように言葉を連ねるグレートエクスカイザーに対し、アーロンガイストは起き上がりながら、静かに笑い始めた。

「フフフ……。貴様に敗れて、兄貴にも似たような説法をしただろうが、それで兄貴が大人しく従ったか?そんなことはなかっただろう。貴様の言う大切な生命とやら、俺が奪ってやる!」

 そう言うや否や、アーロンガイストは傷だらけとは思えないほどの俊敏さで上空へ飛び、勢いよく雲を突き破って、地球の大気圏外へと飛び立っていった。

「ウルトラレイカー、ゴッドマックス、あとは頼む!」

 グレートエクスカイザーはすぐに合体を解除してドラゴンジェットに飛び乗り、二人の返事は聞かずにアーロンガイストの後を追った。

 やがて大気圏を抜け、宇宙に出ると、アーロンガイストがキングエクスカイザーを待ち構えていた。元々ボロボロだった体は、あらゆる所から火花が出て、ひび割れが一層酷くなっていた。

「見事だ。エクスカイザー……。俺と兄貴を倒し、地球の生命を守ったことは誉めてやろう……」

 苦しそうに途切れ途切れでアーロンガイストは言葉を連ねた。

 そして、右手に持っている刀身の折れた刀をゆっくりと自分の胸に突き立てる。

「しかし、俺様という大悪党の生命は俺様のものだ。始末の仕方は自分で決める……!」

「やめろ!アーロンガイスト!」

 エクスカイザーの制止も聞かず、アーロンガイストは折れた刀身を自分の体にめり込ませた。ひび割れ、脆くなっていた体は、刀の根本まで深く突き刺さっていく。

「アーロンガイスト!」

 キングエクスカイザーが非難するように叫ぶ。

 しかし、アーロンガイストは意に介さず不敵に笑うばかりだった。

「フ、忘れないことだな……。兄貴や俺様がいなくなったとしても、地球を狙う宇宙海賊は必ず出てくる……。貴様たち、宇宙警察が敗れ、地球が滅亡する日を地獄の底から兄貴と共に見届けてやる……!」

 呪詛を吐き終えると、アーロンガイストの体が光り出す。

「さらばだ!エクスカイザー、カイザーズ、そして、地球人ども!」

 高笑いと共にそう叫ぶと同時に、アーロンガイストの体は爆発し、激しい閃光が宇宙の闇を照らし出す。やがて、閃光が収まると、アーロンガイストを思わせるものは塵一つ残ってはいなかった。

「アーロンガイスト……」

 悲しさと悔しさを押し殺すように、グレートエクスカイザーはさっきまでアーロンガイストがいた空間を見つめていた。

 

 

 

 

 その頃、コウタは幕間メッセから5キロほど離れたショッピングモールの駐車場からカイザーブレスを押し続け、エクスカイザーの帰還を待っていた。

 臨時休業で人気(ひとけ)はなく、高い建物に囲まれているため、エクスカイザーたちがいても極力目立たないと思ったからだ。

 カイザーブレスを押し続けても全く応答がないエクスカイザーの身を案じながら、コウタは不安そうに空を見上げる。すると、ドラゴンジェットに乗ったキングエクスカイザーが緩やかな角度でこちらに向かってくるのが見えた。

「エクスカイザー!」

 安堵の表情を浮かべながら、コウタは大きく手を振る。そして、ゆっくりと降り立ったキングエクスカイザーに向かって駆けていった。

「エクスカイザー、アーロンガイストは……」

 コウタの問いに、エクスカイザーは悲しそうに首を振った。その姿を見て、コウタはそれ以上何も聞けなかった。

 ダイノガイストだけでなく、アーロンガイストまでも命を絶たせてしまった。そのことに、責任感と正義感の人一倍強いエクスカイザーは自分の至らなさに悔しさを感じているのだろうとコウタは心の内を推し量った。

 友として、エクスカイザーを慰める言葉は出て来ない。しかし、どうしても言っておかなくてはならないことがある。

 感謝だけは伝えなくてはならない。友として。地球人の一人として。

「エクスカイザー、ありがとう。守ってくれて。おかげで、僕が今一番大事にしている『宝』も無事で一安心だよ」

 ホッとした顔で話すコウタに、エクスカイザーはキョトンとする。

「今一番大事にしている『宝』……?それは何だい?」

 そう尋ねられ、コウタはいいことを思いついたとばかりに、いたずらっぽい笑みを浮かべる。

「気になる?それじゃあ、もう少しだけ地球にいてよ、エクスカイザー。そんなに時間は取らせないからさ」

「しかし、私には次の任務が……」

 コウタの提案に、二十年前と同じ理由でキングエクスカイザーは断ろうとするが、

「いいじゃないか。エクスカイザー」

 カイザーブレスからの通信を頼りに、ショッピングモールの駐車場に到着したブルーレイカーが、それを遮る。

「エクスカイザーは気にならないのか?コウタが今大事にしているという『宝』」

 グリーンレイカーが続く。

「俺は気になって、気になって、このままじゃ次の任務に支障が出ちまうぜ」

 ダッシュマックスが、どこかわざとらしく言う。

「もったいぶらずに教えてくれ、コウタ」

 ドリルマックスも気になってしょうがないらしく、コウタを急かす。

「みんなもそう言ってるんだ。エクスカイザー。少しだけならいいだろう」

 全員を代表してスカイマックスが、エクスカイザーに進言する。

 しばらくの間、キングエクスカイザーは黙っていたが、合体を解除してエクスカイザ―の姿に戻る。

「コウタ、君の今大事にしている『宝』、教えてくれ」

「うん!」

 その一言を聞いたコウタはみるみる少年のように顔を輝かせ、大きく頷いた。

 すぐにコウタは携帯電話でコトミを呼び出した。タクシーを使って二十分ほどで来るということだったので、その間コウタは、『勇者たちを称える会』で撮ってきた写真をカイザーズ全員に見せて、会場の雰囲気や当時の思い出話に花を咲かせた。

(このまま、ずっと話し込みたいなぁ……)

 まだまだ話したりない。話したいことはいっぱいある。

 ないものねだりだとは分かっているが、コウタは心の中で、カイザーズのみんなともっと長い時間、一緒にいたい。そう願わずにはいられなかった。

 しばらくして、コウタを呼ぶ女性の声が聞こえた。一同が声のする方へ目を向けると、コズエを抱っこしながら、こちらに向かってくるコトミの姿が見えた。

「コトミ!」

 コウタはすぐに駆け寄ると、コトミはコウタの胸に飛びこんだ。

「心配してたのよ。ずっと胸が張り裂けそうで、でも、無事で良かった……」

 コトミは泣きじゃくりながらも、安堵した顔でそう呟いた。

「本当にごめんよ。心配かけて。でも、もう大丈夫だから」

 コウタはコトミが落ち着くまで肩を抱いてあげた。

 だが、途中でカイザーズ全員から見られていることに気付き、コウタは思わず赤面する。

「あの女性はコトミちゃんかい?」

 グリーンレイカーがエクスカイザーに尋ねる。

「ああ。昨日も二人はデートに行く途中だったみたいだ」

 恥ずかしげもなく答えるエクスカイザーの声音に、逆にコウタは気恥ずかしくなってきた。

「あ、あのさ、コトミ。実はね……」

 やがて、落ち着き出したコトミに耳打ちして、任務を終えたエクスカイザーたちが地球を離れることとコトミたちを呼び出した理由を小声で話した。

 コウタの話を聞くうちに、コトミはみるみる顔を輝かせ、

「それはいいことだと思うわ」

 満面の笑みでコウタに賛同した。

「エクスカイザー、みんな」

 二人はエクスカイザーたちに向き直り、改めてコウタが呼びかける。コウタの呼びかけに、カイザーズ全員がコウタとコトミに注目する。

「実はまだ話してなかったんだけど、僕とコトミは結婚したんだ」

「コウタ、コトミちゃん、おめでとう!」

「やるじゃねぇか、コウタ!」

 ドリルマックスとダッシュマックスがそれぞれ、一言祝福の声を上げる。

 コウタは照れ臭そうに頭を一掻きしてから、エクスカイザーたちをまじまじと見つめているコズエの顔を見やる。

「そして、この赤ちゃんが僕とコトミの子ども、そして、一番大事な僕の『宝』のコズエだよ」

「なるほど。そういうことだったのか」

 誇らしげに紹介するコウタに対し、エクスカイザーが納得したように頷いた。コウタが今一番大事にしている宝とは何なのか、色々と想像を巡らしていたが、コウタの子どもとは思わなかったからだ。

「エクスカイザー、みんな。最後にこの子と握手をして欲しいんだ」

 コウタのいきなりの提案に、カイザーズ全員、少し驚いた顔をする。

「また悪い宇宙人が地球に来たら、みんなと再会できるかもしれない。でも、そんなことが起こるかは分からないし、みんなと違って地球人は長生きじゃない。僕が生きているかどうかも分からない。だから、未来の世代に残しておきたいんだ。地球を守ってくれた勇者と僕たち地球人の友情の証を、コズエの次の世代にも伝えていきたいんだ」

 熱のこもったコウタの言葉に、カイザーズ全員が聞き入っていた。

 そして、全員が顔を見合わせる。

「私もコズエちゃんと握手をしたいのはやまやまだが、もうそろそろ地球を離れないといけない」

 ブルーレイカーが少し残念そうに呟く。

「我々を代表して、エクスカイザー。コズエちゃんと握手してくれ」

 スカイマックスがそう提案すると、

「ああ」

 エクスカイザーはうなずきながら快諾した。

 エクスカイザーは膝を折り、コズエに向かって右手を差し出す。

 コウタは握手の瞬間をシャッターに収めるため、カメラを構えた。

「ほら、コズエ。エクスカイザーさんのお手々をぎゅってして。ぎゅって」

 握手をするよう、コトミがコズエに声を掛けると、しばらくコトミの顔を(うかが)ってから、コズエは手を差し出した。そして、エクスカイザーの人差し指に手を乗せるように握手した。

 その瞬間、まるで握手したことを喜ぶようにコズエは満面の笑みを浮かべた。コズエの無邪気な笑顔に、エクスカイザーも思わず顔がほころぶ。その姿にシャッター越しで感動を覚えながら、コウタは何枚も写真を撮った。やがて、エクスカイザーはコズエから手を離し、立ち上がった。

「ありがとう。コウタ、コトミちゃん、そして、コズエちゃん。私たちも、君たち地球人との友情を生涯忘れない」

「会えて嬉しかったよ。エクスカイザー」

 穏やかな笑みを浮かべるコウタに、

「私もだ」

 エクスカイザーも穏やかな笑みを返す。

「お体に気を付けて、これからも頑張ってください」

 コトミも気遣いの言葉をかけ、「ありがとう」とエクスカイザーは礼を言う。

「そろそろ行くか」

 スカイマックスの一言で、カイザーズ全員が青い球体へと変わり、それぞれの依り代から離れた。エクスカイザーのスポーツカーだけはその場に残り、それ以外の依り代は元あった場所にワープした。

 そして、青い球体のエクスカイザーたちは、どんどん空へと昇っていく。

「さようならー!」

 コウタとコトミは大きく手を振り、カイザーズたちを見送った。

 二人の真似をしてコズエも小さな手を可愛らしく振り、勇者たちとの別れを惜しんだ。

 やがて、エクスカイザーたちが見えなくなると、三人は手を振るのをやめる。

「コウタさん」

「ん?」

 コトミの呼びかけに、コウタは顔を向ける。

「エクスカイザーさんと別れて、やっぱり寂しい?」

 小学生の時にエクスカイザーと別れた時は、コウタは目に見えて元気を失くしていた。コトミはその時のことを思い出して尋ねてみた。

「寂しくない、って言ったら嘘になるよ。あの時も今生の別れだと思ってたけど、今度こそ二度と会えないかもしれない……」

 伏し目がちに、とつとつと話すコウタ。

「でも、コズエたちの時代になったら、宇宙旅行だってできるかもしれない。いや、もっと早くにできるかもしれない。未来に希望を持てば、たとえ年寄りになってもエクスカイザーたちに会いに行くことだってできるんだ。そう考えたら、寂しさよりもワクワクの方が強いんだ」

 さっきとは打って変わり、目を輝かせて語るコウタにコトミは微笑みを浮かべた。

「それは楽しみね」

「ああ」

 コウタとコトミはお互いに笑みを浮かべる。そんな二人を見て、コズエも楽しそうにはしゃいでいた。

 朝からどんよりと覆っていた曇り空は、オレンジ色の夕日が覗く。

 コウタたち一家は、勇者たちが旅立った空を、日が暮れるまで見上げるのだった。

 

 

 

 

 

      了

 

 

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