【完結】夢見る癒して   作:万歳!

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最強のホイミンが見たい。そんな話です。


第1章 運命の出会い
第1話 出会い


 僕、ホイミン。

 

 ずっと、ずっと人間になりたくて旅をしてるんだ。

 

 空は、夕暮れの色をしていた。茜に染まる雲が山並みに沈みこみ、川面が金色に輝いている。村の外れ、小高い丘の上。ひとりのホイミスライムが風に揺られながら空を見上げていた。風は少し冷たく、季節の変わり目を知らせていた。

 

 大昔、ただのスライムだったころ。地を這うことしかできなかった僕は、いつか大空を飛んでみたいと願っていた。その願いが通じたのか、いつの間にか僕は翼のような触手を得てホイミスライムになった。そして、勇者様のお供として空飛ぶベッドに乗って旅をした。

 

 さらに空飛ぶ馬車に乗り、雲を抜け、次元の狭間を越えたとき、ようやく夢が叶ったと思った。

 

 けれど、人間になりたいという夢だけは、なかなか叶わなかった。

 

 勇者様が天へ帰り、ライアン様たちと共に旅した日々も過ぎ去り、いつのまにか幾百年もの時が流れていた。仲間は皆、寿命という名の川を渡っていったのに、僕だけが取り残されていた。風が吹くたび、思い出が散るように過去の声が耳の奥で囁く。

 

 「ホイミン、行くぞ!」

 

 「君の呪文、いつも助かるよ!」

 

 あの頃の笑顔が、いまも胸の奥で温かく光る。しかし人間になることはできなかった。

 

 それでも、僕は諦めなかった。きっと、また人間に近づける出会いがあるはずだと信じて。

 

 今はとある小さな村に住んでいる。最初、人間の村人たちは自分を警戒していた。青いゼリーのような体を見れば、魔物だと誰もが思う。けれど、けがをした人を見つけては、ホイミを唱えて癒していくうちに、少しずつ笑顔が増えた。ある日、村の子どもたちが花を持ってきて言った。

 

 「ホイミン、おはよう!」

 

 その言葉を聞いたとき、胸の中がふわっと温かくなった。敵じゃない。僕はもう、ひとりの仲間なんだ――そう思えた。

 

 そんなある日のことだった。村の広場を風が抜けた午後、遠くの道を歩いてくる二つの影が見えた。見知らぬ親子。その姿に、僕の心がざわめいた。

 

 父親は大きく、逞しく、どこかライアン様に似た誇り高さを漂わせていた。その隣には、まだ幼い少年。だが、その瞳に宿る光は、僕の記憶を震わせた。

 

 ――この瞳、知ってる。

 

 あの勇者様たちが、世界を救うときに見せた、まっすぐな光。

 

 気づけば僕は、風に押されるように二人へ駆け寄っていた。

 

「ボク、ホイミン! 人間になりたくて、ずっと旅をしてるんだ! 君の仲間になったら、人間になれるような気がするんだ! 僕を仲間にしてよ!」

 

 父親は、最初は自分を警戒してか剣に手をかけた。だが、ボクの言葉を聞いた途端、その目の奥に柔らかな光が宿り、ゆっくりと剣を納めた。少年は少し戸惑いながらも、父親と視線を交わして頷いた。

 

「――僕、リュカ! いいよ、友達になろう!」

 

「わーい! ありがとう!」

 

 僕の触手が喜びでぱたぱたと揺れた。こうして僕は、親子二人の旅に加わることになった。

 

 旅は穏やかで、どこか懐かしかった。

 

 森の匂い、流れる川の音、草の感触――どれもが遠い昔の記憶を呼び起こした。

 

 父親、パパスさんは寡黙だったが、焚き火の前ではよく語る人だった。リュカは好奇心の塊で、魔物を見るたびに「仲間にできないかな?」と目を輝かせていた。それをパパスさんは優しそうな目で見守っていた。

 

 ある夜。焚き火を囲んでいた僕らの頭上には、星が無数に散らばっていた。リュカはもう眠り、静かな寝息を立てていた。

 

「……ホイミン、お前はいったい、何者なんだ? ホイミスライムがベホマを使えるのはまだわかる。回復呪文だからな。だが攻撃呪文を覚えているホイミスライムはいないはずだ」

 

 焚き火の明かりが、パパスの顔に影を落とす。彼の瞳は真剣で、けれど敵意はなかった。僕は少しだけためらってから、静かに答えた。

 

「うーん、ずっと昔のことだけど……ダーマ神殿ってところでね、どんな者でも自分の力を磨ける時代があったんだ。勇者も、賢者も人の心の強さでなれた時代があったんだ。僕はそこで修業を積んで、バトルマスター、パラディン、魔法戦士の経験を得た後に賢者に転職したんだ。あの頃の人間は、今よりずっと輝いてた気がする……でも大魔王の策略で、人間が強くなるのを阻止するために滅ぼされちゃったんだ……」

 

 パパスは興味深そうに眉を上げ、焚き火の薪がぱちぱちと弾けた。

 

「ほう……それは古代の伝承にしか残っていない場所だな。お前は、まさかその時代の生き証人だというのか?」

 

 僕は小さく頷いた。

 

「勇者様たちと旅をして、天空の剣を見たこともあるんだ。パパスさんが持ってるのって、天空の剣でしょ? 勇者様しか装備できない。僕は天空の剣と呼ばれる前も知ってるんだ。……昔はラミアスの剣って呼ばれてたんだよ? これでも大魔王デスタムーアと勇者様と一緒に戦ったんだよ。もちろんデスピサロとも」

 

 胸を張った。勇者様たちと一緒に戦ったのは、僕の自慢の一つだ。そして、天空の剣の名前をを聞いた瞬間、パパスの瞳が鋭く光った。

 

「ホイミン……私の妻マーサは魔界との扉を開けるということで、魔物に連れ去られた。魔界の扉を開くことができるのは勇者だけと聞く。ホイミンは勇者の血統を知らないか?」

 

 僕は少し考え込み、やがて静かに語り出した。

 

「……僕が知ってることだけ話すね。大魔王デスタムーアを倒した勇者レック様は、レイドックという国の王様になってしばらく僕もそこで暮らしていたけど、いつの間にか無くなっちゃった。そして魔王デスピサロを倒した勇者様は、魔物に滅ぼされた故郷に帰って、奥さんを娶らずに亡くなったよ」

 

 その言葉にパパスさんの顔は青ざめて行った。

 

「なん、だと。なら勇者の血統は絶えてしまったのか?」

 

「うん、ソロ様の血統は絶えちゃった。レック様の血統はもしかしたら続いているかもしれないけど……でもね、勇者の血統は天空人と人間のハーフに生まれるらしいんだ。だから勇者様を探すなら天空人を探すのがいいと思う。マーサさんだっけ? リュカのお母さんを取り戻すの、僕も協力するよ!」

 

「……ありがとうホイミン。お前のおかげで、次に私が何を探すべきかが分かった。感謝している」

 

 パパスは微かに笑い、空を見上げた。その表情は、寂しさと決意を湛えていた。満天の星が夜の帳に散りばめられ、火の粉がその中へ消えていく。

 

「ホイミン、人間になりたいというお前の願いは、もしかすると――この世界のどこかに答えがあるのかもしれんな」

 

 焚き火の灯りがゆらめく中、僕は星空を見上げた。遠い昔、勇者様たちと見た夜空と同じ光が、静かに瞬いていた。

 

 ――僕はまだ、人間になれていない。けれどこの旅が、きっとその答えに繋がっている。

 

 そんな気がした。

 

☆ ☆ ☆

 

 あれから旅を続けて、今は大きな帆船に揺られてリュカの故郷に向かっている。

 朝日が海面を照らすたびに、金色の光が波のしぶきに砕け、甲板の上まで柔らかな輝きを運んでくる。潮風は鼻をくすぐるような塩の匂いを含んでいて、遠くで海鳥の鳴き声が細く響いた。

 

 ――だけど、僕がこの船に乗れたのは、決して当たり前じゃなかった。

 

 船員さんたちは最初、僕を見るなりぎょっとして腰を抜かしそうな顔をした。青いスライムが船の中央で跳ねていたら、それは驚くよね。縄を投げかけようとした人もいたし、剣の柄に手をかけた人もいた。

 

 でも僕は、慌てる彼らに向かってじっとまっすぐ言った。

 

「僕は人間になりたいんだ。傷ついた人を癒しながら旅をしてるだけだよ」

 

 僕の言葉は潮風に乗って少し震えていたと思う。でもパパスさんが静かに横に立ち、リュカが大きな瞳で「ホイミンはぼくの友だちだよ!」って言ったら、船員さんたちの顔つきが柔らかくなっていった。

 

 ――リュカは、人の心を動かすのがとても上手だ。

 

 そんなことを思い返していると、太陽が少し高くなり、木製の甲板に温かい光が広がっていく。その光の中で、リュカがすやすやと寝ていた。寝台に掛けられた薄い毛布がわずかに上下し、寝息と一緒に胸のリズムが伝わってくる。僕はその姿をそっと見守っていた。

 

 リュカは小さいけれど、勇者さまたちと同じような強い光を目に宿している。彼の未来はきっと、誰よりも明るいんだろうと思うと、胸のあたりがじんわりと熱くなった。

 

「おはよう父さん! おはようホイミン!」

 

 ぱちっと目を開けたリュカは飛び起きる勢いで毛布を跳ねのけ、太陽の方へ手を伸ばすように背伸びをした。朝の光が彼の髪に反射してきらめく。

 

「おはよう、リュカ」

 

「リュカ、おはよう!」

 

 僕も精いっぱい元気に挨拶した。リュカは僕に笑いかけ、その笑顔があまりにまぶしくて、スライムの体が少し跳ねてしまう。

 

「父さん、父さん! 夢を見たんだ!」

 

「ほう、どんな夢を見たんだ?」

 

「僕がお城の中で生まれる夢!」

 

 リュカは胸を張って言った。僕は思わず目を丸くする。彼がどんな夢を見たのか、パパスさんが知りたがるのも分かる。

 

「――ワッハッハ! リュカは王子様として生まれたかったか?」

 

「うーん。別にいいかな。父さんとホイミン、あとサンチョがいれば僕は幸せだと思う!」

 

 その言葉に、パパスさんの顔がふっと緩んだ。

 だけど――その笑みが一瞬だけ、苦しそうに揺れた気がした。

 

「そうか、そうだな。よし、船のみんなに挨拶しておいで。そろそろ陸に着く時間だからな!」

 

「分かった! 行ってきます!」

 

 リュカは走って甲板を駆けていった。潮風が彼の服をふわりと揺らす。見送る僕の体に、海の匂いがしみこんでいく。

 

 そして、リュカの背中が見えなくなった瞬間――。

 

 パパスさんの瞳に、ふっと影が落ちた。

 

 それは、誰かを深く想い続ける人だけが持つ、静かな痛みの色だった。

 

「パパスさん……」

 

 言葉を選びながら、僕はそっと声をかけた。

 

「リュカは絶対、お母さんに会いたいはずだよ。ただ、それがパパスさんの負担になったらいけないと思って、誤魔化してるだけで……」

 

 パパスさんは海を見つめたまま、少しだけ眉を寄せた。

 朝日がその横顔に影を作り、彼の心の重さを際立たせる。

 

「……ああ。リュカはいい子だ。なのに私は、まともにリュカに構ってやることもできていない。妻を探すために。ホイミン。私は……間違っていると思うか?」

 

 潮風が一瞬止まり、海の音だけが響いた。

 

 僕は静かに、だけど強く言った。

 

「そんなことない! リュカだって、お母さんに会いたいと思ってる。だから……パパスさんは諦めちゃダメだ!」

 

 パパスさんの目が少し揺れて、やがてゆっくりと頷いた。

 

「……そうだな。ホイミンも力を貸してくれる。私が諦めるわけにはいかないな」

 

「そうだよ! じゃあ僕も、みんなに挨拶してくるね!」

 

「ああ、リュカを頼む」

 

 僕は跳ねながら走り出した。だけど、そのときパパスさんの低い声が、潮風にかき消されるように聞こえた。

 

「マーサ……お前にリュカの姿を見せてやりたい。必ず――」

 

 その声は、深い悲しみと決意で震えていた。

 

 

 甲板の上はすっかり賑やかだった。船員さんたちは網を干したり、樽を固定したり、着岸の準備をしながらリュカに「ああ、おはよう坊主!」と手を振っていた。

 

 僕も挨拶しながら歩き回っていると、ふと海が不自然に波立つのに気づいた。

 遠くで白い泡がぶくぶくと上がっている。

 これはモンスターだ!!

 

 

「リュカ、ちょっと下がって! パパスさん! モンスターだ!!」

 

 僕が叫んだ瞬間、海面を突き破って飛び出したものがあった。

 

 ――しんかいりゅうだ!

 

 鱗は濡れて光り、鋭い牙が見える。リュカの前に立ちはだかろうとしていた。

 

「危ない!」

 

 僕はすぐに跳ねて前に飛び出し、魔法を発動させた。

 

「ベホイミ!」

 

 光の幕が僕とリュカを包み、竜の爪が甲板に叩きつけられた衝撃から体を守る。

 

 僕の叫びに応じて、パパスさんが部屋から出てきた。パパスさんも剣を抜き、一気にしんかいりゅうに飛び込んできた。

 

「リュカ、下がっていろ!」

 

「うん!」

 

 パパスさんは豪快に剣を振り、海竜がひるむ。その隙に僕は体内の魔力をひねり出し、ダーマ神殿で学んだ僧侶と魔法使いの上級職――賢者としての力を解き放つ。

 

「パパスさん! バイキルト! それと、メラミ!!」

 

 パパスさんに対して、攻撃力を増強する呪文をかけながら、メラミの呪文を放ち、しんかいりゅうを牽制する。

 

 メラミはしんかいりゅうに直撃せずに波に当たった。そして海竜の姿が白い霞に包まれ、思いがけない反撃を受けたせいか、しんかいりゅうの攻撃が鈍くなる。

 

 その隙に船員さんたちも槍や網を手に参戦し、船上は一気に戦いの場になった。波しぶきが甲板に降り注ぎ、風が唸る。

 

 僕はみんなを守るために守備力を増強する呪文スクルトをかけて、しんかいりゅうにボミオスやルカ二、ラリホーなどの補助呪文をかける。

 

 そして決定的な隙が生まれた。

 

「今だ、パパスさん!」

 

「任せろ!」

 

 パパスさんの剣が光を描き、海竜は海へと再び沈んでいった。水柱があがり、しばらくして海は静けさを取り戻す。

 

 そして――。

 

「ホイミン、ありがとう!」

 

 リュカが僕に飛びついてきた。スライムの体が彼にめり込むように震え、僕は「えへへ」と笑った。

 

「リュカが無事でよかったよ!」

 

 パパスさんが剣を収めながら、僕たち二人を見て微かに笑った。その笑顔には、さっきの影が少し薄れているように見えた。

 

「ホイミン。お前がいてくれなければ、危なかった。……感謝する」

 

「僕は仲間だもん! パパスさんもリュカも、船員の人たちだって、絶対守るよ!」

 

 胸を張って言うと、パパスさんは短く息を吐き、遠くの水平線を見つめた。

 

 海の向こうにあるのは――パパスさんが探し続けている、たったひとつの願い。

 

 そして僕は思った。

 

(人間になりたいな。でもそれ以上に、この旅の中で、もっと強く、もっと優しくなりたい。リュカとパパスさんを……ううん。マーサさんも守れる存在になりたい――)

 

 そんな決意が、波の音に溶けていった。

 

 

 船はゆっくりと進み、リュカの故郷、サンタローズに近い港町の影が遠くに見えてきた。青々と茂る丘、そして赤い屋根の家々。

 

「わあ……!」

 

 リュカが身を乗り出して海風に髪を揺らす。その姿を見て、僕の心はまた温かくなった。

 

「ただいまって言える場所があるって……いいね」

 

 僕がつぶやくと、リュカは笑顔でうなずいた。

 

「うん! ホイミンも、一緒に帰ろう! サンタローズの家に!」

 

 ――その言葉が、潮風よりも温かかった。リュカは魔物のボクを家族として扱ってくれている。それがどれだけ心に響くか……分かっていないんだろうな。

 

 船は故郷へ向かってゆっくりと進んでいく。パパスさんは遠くの空を見つめ、胸の奥に秘めた誓いを再び強くしたようだった。

 

「マーサ……必ず、必ず見つける。息子と……この仲間と共に」

 

 彼の祈りは、海の向こうへ静かに流れていく。

 

 僕はその横顔を見ながら、静かに心の中で誓い返した。

 

(絶対に……絶対にみんなを守るよ)

 

 レック様にソロ様に、一緒に魔王やモンスターたちと一緒に戦ってきた仲間たちに誓う。

 

 帆船は白い波を切り裂き、三人の運命を未来へ運んでいった――。

 

 




需要があれば続きます

ルドマンさんはトルネコの

  • 子孫
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