【完結】夢見る癒して   作:万歳!

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第10話 宿命の時

 パパスさんが、ヘンリー王子とリュカに勉強を教え始めてから、十日ほどが過ぎた。

 

 城の一室は、すっかり「学びの場」になっていた。重厚な書棚、古い歴史書、王家の系譜を記した巻物。そこに並ぶ二人の少年は、立場も育ちも違うのに、不思議と同じ机を挟んで座っていた。

 

 最初の頃、ヘンリー王子は露骨に不機嫌だった。腕を組み、椅子に乱暴に腰掛け、話を聞いているふりをしては、わざとため息をつく。

 

 だが――あの襲撃事件のあと、ベルギス王が涙を流しながら無事でよかったと言った時から、ヘンリー王子は変わった。

 

 自分が狙われ、父である国王が本気で取り乱し、兵士たちが守ってくれた。その現実が、王子の胸に重く落ちたのだろう。

 

「……分からないところがある」

 

 そう言って、素直に質問した日のことを、ボクはよく覚えている。パパスさんは一瞬驚いた顔をして、それから静かにうなずいた。

 

「聞くことは恥ではない。知らぬままの方が、よほど危うい」

 

 リュカは、最初から真剣だった。文字を追い、話を聞き、時折首をかしげる。その横顔は、マーサさんの面影を宿していたのだろう。

 

 そして――。ボクたち、リュカの仲間は、決して彼のそばを離れなかった。廊下でも、食事の場でも、庭に出るときでも。理由は一つだ。

 

 何かあったとき、リュカをかばうため。

 

 ボクは、守ると決めていた。パパスさんも、リュカも、ヘンリー王子も。大抵の敵なら、ボク一人でどうにかできる。それだけの戦場を、これまでくぐり抜けてきた自負があった。

 

 ――けれど。

 

 誘拐犯は、あり得ない手を使ってきた。

 

 それは昼過ぎ。日差しが高く、城の中にも穏やかな光が差し込む時間帯だった。リュカとヘンリー王子が食事を取っているとき――突如、廊下の向こうから叫び声が響いた。

 

「モンスターの襲撃だ!!」

 

 その声には、はっきりとした恐怖が混じっていた。

 

 ボクは即座に反応し、窓際へ移動する。外を見た瞬間、息をのんだ。

 

 空――

 

 そこには、魔物がいた。

 

 いや、「一体や二体」じゃない。

 

 空一面を覆うほどの数。羽ばたく影、うごめく群れ。地上を見下ろせば、きっと城下町も同じだろう。

 

「……これは」

 

 背筋が冷えた。

 

 これは単なる暴走じゃない。組織的だ。意図がある。狙いは――。

 

「ヘンリー王子だ」

 

 ボクの声は、思ったより低く響いた。

 

「パパスさん!! 指示を!!」

 

 この中で最も戦い慣れ、状況判断に長けているのは、間違いなくパパスさんだ。

 

「……とにかく、国王陛下と兵士たちと合流するぞ!」

 

「分かった!」

 

 ボクはすぐに声を張り上げる。

 

「ボクが最後尾を守る! パパスさんは先行して! リュカ! ヘンリー! みんな、パパスさんの後ろを離れないで!!」

 

「「分かった!!」」

 

 二人の声が重なった。

 

 廊下へ出た瞬間、魔物たちがなだれ込んできていた。牙、爪、咆哮。

 

 パパスさんは剣を振るい、道を切り開く。ボクは後方から回復呪文を飛ばし、攻撃呪文で隙を作り、兵士たちを援護した。

 

 だが――。

 

 焼け石に水、という言葉が脳裏をよぎる。この数は異常だ。本気でやらなければ、押し切られる。そう思った、そのとき。国王と合流できた。

 

「ベルギス! 一体何が起こっている!?」

 

「パパスか! 分からぬ! だがモンスターたちが組織立って城と城下町を攻めている! ヘンリーを誘拐するための可能性はあると思うか!?」

 

「お、俺を……?」

 

 国王の言葉により、ヘンリー王子の声が震える。考えてもいなかったのだろう。

 

「可能性はある!」

 

 パパスさんは即答した。

 

「城や城下町への攻撃は囮かもしれん! 今、お前を守れる兵はどれほどいる!!」

 

「民を守るため、多くは城下町だ! 私の護衛は一個小隊ほどしかいない!」

 

「……なら本命が来るな」

 

 空気が、張り詰める。兵士たちの顔も怯えから決死の表情に変わる。

 

「リュカ! ヘンリー王子! ベルギスから離れるな! ホイミン!! 私が前衛、お前が後衛で構わないか!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸騒ぎが一気に膨らんだ。確かに、それが最善の布陣だ。でも――。

 

「ううん!」

 

 ボクは、はっきりと言った。

 

「パパスさんは国王様を守って! 敵は数と質、両方で来るはずだ。 数の方は、ボクに任せて!! ボクを突破した相手をパパスさんが相手して!」

 

 一瞬の沈黙。そして返答が来る前に――。

 

「ホッホッホ……」

 

 不気味な笑い声が、どこからともなく響いた。

 

「何とも勇ましい声ですねぇ。ホイミスライムともあろう者が、人間を守ろうとするとは」

 

 影の中から、黒衣の人物が姿を現す。その背後には、異様な魔物たちが多数。リュカもスラリンたちも怯えている。それでもリュカを守るようにみんなリュカの前に立っている。

 

 ――間違いない、本命だ。気づけば周囲にも魔物がいた。数は百を超える……。

 

 ボクは、前に出た。

 

「……通さないよ」

 

 触手を構え、呪文の詠唱を始める。たとえ相手が誰でも。どれほど数がいようとも。ボクは、ここで食い止める。

 

 リュカの未来を、ヘンリー王子の運命を、そして――パパスさんの覚悟を。

 

 守るために。ボクはホイミン。癒し手であり、盾であり、最後の壁だ。玉座の間に魔物たちが足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。石造りの床に反響する足音、壁に揺れる松明の火。そのどれもが、まるでこれから流れる血を予感しているかのように、落ち着きなく揺れている。

 

 ボクを半包囲する形でモンスター達は存在している……。

 

「むっ、お前は確か!?」

 

 パパスさんの低く鋭い声が響いた。その視線の先に立つ黒衣の男――細い体に不釣り合いなほど歪んだ笑みを浮かべている。

 

(……知ってるんだ)

 

 胸の奥がざわついた。ボクは人間じゃない。けれど、勇者さまと旅をした記憶は、今もこの身体の奥深くに刻まれている。この男の放つ気配は、その記憶と重なっていた。そう悪の気配が漂っていた。

 

 そしてパパスさんが知っている。

 

(マーサさんに繋がる手がかりかもしれない……)

 

 そう思った瞬間、男――芝居がかったように肩をすくめた。

 

「ホッホッホ。私を知っているとは、少しは物の道理が分かる人間がいたようですね」

 

 笑顔のまま、目だけが冷たい。その視線が、ゆっくりとボクに向けられる。

 

「ですが……生かしておくわけにはいきませんね」

 

 言葉と同時に、空気が凍りついた。

 

「では、ジャミさん、ゴンズさん。そこにいる裏切り者のホイミスライムを始末してください……いえ、そのホイミスライムは……異常ですね。全員で掛かりなさい!」

 

 重たい足音が二つ迫る。

 

「その後は――そこにいる国王も処分しましょう。この国の王には、王妃の依頼でデール王子が就く予定なのですから」

 

「な、なんだと!!?」

 

 ベルギス王の声は、驚愕と怒りに震えていた。ヘンリー王子も絶句しているようだ。だが、影の男はそれすら楽しむように、口元を歪める。

 

「お悔やみを申し上げます。奥様に裏切られたことに対して」

 

「そんな、馬鹿な!!」

 

「ほっほっほ、最初にヘンリー王子を誘拐させていれば、ここまで大規模な行動を起こすつもりはなかったのですがね……まぁ運が悪かったと諦めてください」

 

 魔物たちが、笑っていた。その顔は勝利を確信しているかのようだった。そして背後では兵士たちやパパスさんの顔が険しくなった。リュカとヘンリーは怯えている。ここまでの悪党に出会ったことがないのだから当然だ。

 

「お任せください」

 

「一瞬で片づけますよ、ゲマ様」

 

 ジャミとゴンズ。油断しきった笑みを浮かべた二体の魔物が、ボクに向かって突進してきた。

 

(……遅い)

 

 正直な感想だった。剣を持つ相手なら、テリーさんの鋭さには遠く及ばない。素手の力なら、アリーナさんの拳を思い出すまでもない。

 

 勿論油断していなければ、少しは時間がかかっただろうだが、ボクをただのホイミスライムと勘違いしているのであれば……。

 

(呪文を使う必要はなさそうだね)

 

 一瞬で終わらせる。

 

 そう決めた瞬間、身体が自然と動いていた。

 

 床に落ちていた剣を掴み、踏み込む。金属音が響き、ゴンズの剣が宙を舞った。

 

「な――」

 

 驚きに目を見開いたその顔面に、正拳突き。鈍い音とともに、巨体が吹き飛ぶ。ジャミも、ほぼ同時だった。力任せに振り下ろされた腕をかわし、急所に一撃。二体の魔物は、床に崩れ落ち、動けなくなった。

 

 影の男、ゲマが驚きの表情でこちらを見ている。この二人は恐らく部下の中でも強い方だったのだろう。この程度なら、倒しきれる。

 

「――ば、馬鹿な……」

 

「――ホ、ホイミスライムが……」

 

 周囲のモンスターたちがざわめく。ボクは剣を握りしめたまま、はっきりと言い放った。

 

「ボクを倒したいなら、大魔王デスタムーアか、大魔王デスピサロを連れてこい!!」

 

 勇者さまたちの背中が、脳裏に浮かぶ。あの、人の未来を守るために戦った英雄の姿が。ここに彼らはいない。だけどボクは彼らの最後の生きた仲間だ。ならここで勇者の仲間の力を思い出させなければならない。そうしなければならない。彼らとの思い出を汚させないために。

 

「ボクは、勇者さまと一緒に大魔王と戦った。お前たち程度――ボク一人で十分だ!」

 

 叫びと同時に、ゲマへと駆ける。はやぶさ斬り。かまいたち。連続する斬撃が、ゲマを襲った。だがさすがに敵の首領だけはある。対応して見せた。だが隙はできた。

 

「ば、馬鹿な……ホイミスライムが、これほどの力を……ありえない!! お前たちかかりなさい!!」

 

「終わりだ!!」

 

 首を狙って剣を振るう。だが、鋭い金属音とともに、いつの間にか手にしていた、鎌が剣を受け止めた。ならメタル切りで鎌ごと両断する、そう思い行動に出ようとしたが、周囲の魔物から呪文が飛んでくる。メラミを剣で切り伏せ、イオラやベギラマには同じ呪文で相殺する。

 

 パパスさんたちへ押しかけるモンスターはいない。敵のモンスターは全て僕を見ている。

 

 周りにいるモンスターはボクだけを警戒しているのが分かる。ならパパスさんたちは安全だと安堵した。

 

「……その、ホイミスライムは危険ですね。ジャミさんゴンズさん! そのホイミスライムは人間を守っています! 人間を狙いなさい! 油断はいけません!! 他の者たちも人間を狙いなさい!!」

 

 ゲマはボクの狙いに気づいたのかもしれない。弱点である人間たちを狙う。パパスさんたちを殺そうとする呪文が、放たれた。

 

 させない!! それに呼応してボクも呪文を練り上げる。

 

「イオナズン!!」

 

 イオ系の最上位魔法が周囲のモンスターの放って呪文ごと敵を一掃する。残っているのはジャミとゴンズ、そしてゲマだけだ。城壁を破壊したことは許してもらうしかない。

 

 生き延びたモンスター達は別格だったのだろう。あとはこの3人を討てば終わりだ。

 

 これ以上何もさせないつもりでゲマにメタル切りを放とうとした。

 

 だがゲマは不利と悟ったのだろう。メラゾーマをベルギス王に向かって放った。ゲマへの攻撃を中断し、間に立ち、マヒャド斬りで相殺する。

 

 メラ系とヒャド系のぶつかり合いに、水蒸気が発生する。視界がふさがれる。だが気配で敵の存在は分かる。だが、ゲマたちは撤退したようだ……

 

 周囲のモンスター達も一掃した。ここはもう安全だろう。残心を終え、パパスさんたちに話しかける。この場は、兵士たちと、パパスさんに任せればいい。ボクには――ボクにしかできない、やるべき別の役目がある。

 

「パパスさん! 外では傷ついたり亡くなっている人がいるかもしれない!! ボクはそっちの救援に回っていいかな!? 今なら亡くなった人も蘇生できる! ボクは蘇生呪文が使えるんだ!!」

 

 その言葉に反応したのはパパスさんではなかった。この国の国王ベルギスだった。

 

「なっなんじゃと! いや、これだけの力を見せられたのだ。嘘なはずがない……ヘンリー!! お前が陣頭指揮をとれ!!」

 

「お、俺が!?」

 

 ヘンリー王子は怯えていた。そして今も父親に無謀な命令をされたと感じているようだ。しかし違うのだ。

 

「そうだ! お前は国民のことを子分と言っていたな!! 子分を守るのは親分の仕事だ!! ホイミンは魔物だから従わないものもいるかもしれない、お前が従わせるんだ!」

 

 その言葉にヘンリーは国王の言葉に理があるのを認めたのだろう。そして子分を守るために決断をしたようだ。

 

「――分かった!! 行くぞホイミン!!」

 

 ヘンリー王子が駆けだしたのに合わせてボクも駆け出す。後ろではパパスさんが叫んでいた。

 

「リュカ、お前たちもホイミンについて行くんだ!! そっちの方が安全だ!! 私たちも、周囲の安全が確認できればすぐに向かう!」

 

「分かった、父さん!!」

 

 そして道中にいる魔物を剣や触手で蹴散らしながら教会にたどり着く。呪文は温存だ。MPは蘇生呪文に使わなければならない。

 

 そして城内にある教会にたどり着いた。兵士の中でも恐らく階級の上の者がヘンリーに話しかけてくる。

 

「――ヘンリー王子! よくぞご無事で! 陛下は!!」

 

「父上は無事だ! お前たちに命令する! 亡くなった者たちをここに連れてこい! ここにいるホイミンは蘇生呪文を使える!! 今なら犠牲を少なくできる!!」

 

「そ、蘇生呪文ですと!? しかし、魔物に任せるのは……」

 

「黙れ、俺の命令に従え!!」

 

「しょ、承知しました」

 

 そして兵士たちが近場で亡くなっていた兵士を連れて来た。ボクは迷わず呪文を使う。

 

「ザオリク!!」

 

 亡くなった兵士に神聖に見える呪文が放たれた。それを見た人たちは驚きの表情見せる。そして亡くなった兵士が目を覚ました。

 

「……っ? 私は致命傷をおって」

 

 歓声が響いた。ヘンリーは目を見開いた! そしてリュカが言った。

 

「ホイミン! まさかとは思うけど、ホイミンに悪い影響はないんだよね?」

 

「もちろん、亡くなってから30分以内なら、ボクは死者を蘇生できる!!」

 

「……聞いたな!! 亡くなった者たちを急いでホイミンの近くに集めろ!」

 

 そしてその命令に従い、魔物を討伐する班と亡くなった人たちを回収するチームができた。魔物を討伐する班は、ボクが死者蘇生できるということで、全員が命を懸けて敵の撃退を行った。

 

 そして死者蘇生はかなりの数を行った。そのたびに歓声が巻き起こる。気が付けば国王やパパスさんたちも近くに来ていた。

 

「……くっ。そろそろMPが限界だ…そうだ!! MPに余裕のある人!?ボクの周囲に集まってください! マホトラでMPを貰って、蘇生呪文を続けます!」

 

 その言葉に神官やシスターたちが動こうとしたが、彼らは重傷者を含めたケガ人の治療に当たっている。MPに余裕はないだろう。その時、リュカたちとヘンリー王子が自分の傍に来た。

 

「ホイミン! 僕のMPを使って!!」

 

「子分を守るためだ!! 俺のMPも使え!!」

 

「分かった、ありがとう!!」

 

 マホトラを行いながら、ザオリクをかけ続ける。そして……30分が経過した。そうボクが死者蘇生を行える30分が経過したのだ。

 

 どれだけ救えたかは分からない。だけど、限界まで力を尽くした。後は救われた人が少しでも多ければいいとボクは思った。

 

☆ ☆ ☆

 

 あの争いの日から、十日ほどが過ぎた。

 

 瓦礫で埋まっていた通りは片づけられ、焼け落ちた家屋の跡地には仮設の住居が並び始めている。城下町には、まだ完全とは言えないけれど、確かに日常が戻りつつあった。子どもたちの笑い声が聞こえ、商人たちが声を張り上げ、教会の鐘が穏やかな時間を告げる。

 

 そして今日。ラインハット城の大広間では、勲章の授与式が行われることになっていた。

 

 赤い絨毯が敷かれ、天井からは王家の紋章旗が垂れ下がる。兵士、神官、文官、そして城下町の代表者たちが整然と並び、静かな緊張感が空間を満たしていた。

 

 最初に名を呼ばれたのは、パパスさんだった。

 

「パパス殿。王と王子を守り抜き、王国の柱として戦った功績を称え、ここに勲章を授与する」

 

 堂々と前に進み出る背中は、戦場で見たときと同じく揺るがない。剣を帯びずとも、その存在だけで場の空気が引き締まる。

 

 続いて、多くの兵士たちの名が呼ばれた。命を懸けて戦った者、生き残り、仲間を救った者。勲章を受け取るたび、会場から静かな拍手が起こる。

 

 そして――。

 

「リュカ。ならびに、その仲間たち」

 

 一瞬、ざわめきが走った。スラリンや他の仲間たちが、少し戸惑いながらも前に出る。子どもであり、しかも魔物を含む一行が、正式に功績を認められる。その光景は、ラインハットにとって、いや人間の世界で初めてのことだった。

 

 勲章を胸に付けられたリュカは、少し照れくさそうに笑っていた。その姿を見て、ボクは胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

 そして、ついに――。

 

「――では、ホイミスライムのホイミン! 前に出よ!」

 

 その声に、会場の視線が一斉に集まった。ざわつきはある。でも、そこに恐怖はなかった。

 

(……大丈夫)

 

 ボクはそう自分に言い聞かせ、一歩、また一歩と前に進む。王の前で止まり、深く頭を下げた。

 

「よくぞ皆を守ってくれた」

 

 ベルギス王の声は、穏やかで力強い。

 

「特に、敵の首魁の撃退に、死者の蘇生という奇跡を成し遂げたこと。時間制限があるとはいえ、それを迷いなく行った勇気と覚悟、まことにあっぱれである」

 

 王は勲章を掲げ、ボクの前に差し出した。小さな体に、少し重たい金属の感触。

 

「ホイミン。お主にこの勲章を授与する。……そして、もう一つ。何か願いはないか? 私に叶えられることであれば、すべて叶えよう」

 

 会場が静まり返る。みんなが、ボクの言葉を待っている。なら言う言葉は一つだ

 

「――王様」

 

 ボクは、はっきりと言った。

 

「ボクは、過去に勇者さまと一緒に旅をしてきました。誰かを助けるのに、理由はいりません!! それにボクに何かをするぐらいなら、襲撃の余波で苦しんでいる人を助けてあげてください!」

 

 一瞬、王は目を丸くし――やがて、豪快に笑った。

 

「うむうむ! 真にあっぱれよ! だが、それでは我々の気が済まぬ。何か、本当に願いはないか?」

 

 少しだけ、迷った。

 でも、ずっと胸の奥にあった言葉を、今こそ口に出す。

 

「……一つだけ、あります」

 

 ボクは顔を上げ、まっすぐ王を見た。

 

「ボクは――人間になりたいんです」

 

 どよめきが広間を包む。

 

「ほう! 人間になりたい、か……」

 

 王は顎に手を当て、考え込む。

 

「宮廷魔術師よ。魔物が人間になる方法を知っているか?」

 

「……申し訳ありません。私は存じません」

 

「ならば、探させよう!」

 

 王は、即断した。

 

「ホイミンの夢が叶うよう、国を挙げて方法を探す! そしてだ――ホイミン、ならびにリュカとその仲間たちよ。お主たちは、いつでもラインハットを訪ねてよい! お主たちには、国境はない!」

 

 胸が、いっぱいになった。人間に感謝される……うん、いつかリュカたちが亡くなった未来で病院でも開こうかな? 

 

 続いて、ヘンリー王子が前に出る。

 

「ヘンリー。お前は王子として、なすべきことを果たした。私は誇りに思う。……何か願いはあるか?」

 

 しばらく沈黙が続き、ヘンリーは静かに口を開いた。

 

「……王妃様の、助命を願います」

 

 息を呑む音が、広間に広がる。ベルギス王は険しい目でヘンリーを見た。

 

「……今回のモンスターの襲撃の原因であり、その罪を知った上で、か? 確かにホイミンのおかげで亡くなった者は少ない。だがそれでも確かに犠牲は出ている。それでもなお、助命を乞うのか?」

 

 ベルギス王はヘンリー王子を試しているのかもしれない。視線が鋭くなった気がする。

 

「はい。デールに……母親のいない辛さを、味わせたくありません」

 

 周囲の人間もヘンリー王子の願いに同調はしていないが、ヘンリー王子の成長に目を見張っているようだ。長い沈黙の後、王は深く息をついた。

 

「……分かった。死罪は免じ、幽閉としよう。他には?」

 

 ヘンリーは一歩前に出た。

 

「今回のことで、自分の無力さを知りました。叶うなら……パパス殿やホイミンに弟子入りし、冒険に同行したいです。そして成長したうえで、父上の後を継ぎたいです」

 

 王は、ゆっくりとボクたちを見る。

 

「――パパス、ホイミン。ヘンリーを任せてもよいか?」

 

 パパスさんが微笑み、ボクも小さくうなずいた。

 

(また、旅が始まるんだ)

 

 戦いは終わった。でも、未来への冒険は――ここからだ。




パパス生存! パパス生存! パパス生存!

さすがは(DQ6経由の)ホイミンだ! なんともないぜ!

ルドマンさんはトルネコの

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