【完結】夢見る癒して   作:万歳!

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第12話 VSパパス

 一か月の間、ボクたちはダンカンさんの家で過ごすことになった。山に囲まれたこの家は風通しがよく、朝になると草の匂いと土の湿った香りが混ざって流れ込んでくる。修行には悪くない場所だ。ボクにとっても、久しぶりに落ち着いて仲間たちと向き合える時間だった。

 

 パパスさんはサンタローズの自宅に戻っている。といっても完全に別行動というわけではない。ボクは毎朝、まだ太陽が顔を出す前にルーラでサンタローズへ飛び、パパスさんと剣を交える。それが日課になっていた。

 

「……はぁっ!」

 

 鋭い踏み込みと同時に、重い剣が振り下ろされる。独学とは思えないほど洗練された動きだ。無駄がなく、それでいて力任せでもない。

 

「いい踏み込みだよ、パパスさん。でも、もう半拍早く腰を落とすと、次の動きが楽になる」

 

「なるほど……確かに、剣が遅れなくなるな」

 

 飲み込みが早い。さすがに基礎は粗い部分もあるけれど、それを補って余りある実戦勘と胆力がある。剣技だけでなく、体術――武闘家としての動きも順調に身につけていた。

 

 あと三か月もあれば、さみだれ剣も十分に習得できるだろう。人間の身で、ダーマ神殿がない中、ここまで来るとは正直驚きだ。

 

 対して、ダンカンさんの家に残ったリュカたちは、一からの修行だ。焦りは見えるけれど、誰も弱音は吐かない。それがこの子たちの強さだと思う。

 

 昼前、広場での模擬戦。相手はもちろん、ボクだ。

 

「行くぞ、ホイミン!」

 

 合流したヘンリーが、まずイオを放つ。直撃狙いじゃない。視界を白く染める閃光。

 

「いい判断だね」

 

 ボクは剣を一振りし、爆発の中心を切り裂く。その一瞬の隙を逃さず――

 

「今だ!」

 

 リュカが正面から、ドラきちが空中から。側面にはスラリン、背後にはプックル。四方向同時の連携攻撃。悪くない。むしろ、かなりいい。修行前のパパスさんになら一矢報いることができたかもしれない。

 

 だけど――

 

 ボクは一歩、ほんのわずかに体をずらす。武闘家の身のこなしで、全員の攻撃が重ならない角度へ誘導する。

 

「えっ――」

 

 次の瞬間、触手をしならせて回し蹴りの要領で四人をまとめて叩いた。

 

「ぐわっ!」

 

「うわぁ!」

 

「にゃっ!?」

 

「ガウっ!」

 

 ヘンリーを除いた全員が地面に転がる。

 

「参ったよ、ホイミン……」

 

「うん、回復するね。ベホマラー!」

 

 柔らかな光が広がり、傷と疲労が溶けていく。自分の呪文が正しく発動する感覚は、何度味わっても悪くない。

 

「イオを直撃じゃなく、視界を塞ぐために使ったのは良かったよ。その後の4人の連携も、ちゃんと考えてた」

 

「本当!? みんなでどうすればいいか、ちゃんと話し合ったんだ!」

 

 リュカの顔がぱっと明るくなる。

 

「ちぇ……それでもダメージがないなんて、悔しすぎるぜ」

 

 ヘンリーが地面に座り込み、頭をかく。

 

「壁は分厚いほうが、乗り越えた時に嬉しいものだよ、ヘンリー」

 

「ねえホイミン」

 

 スラリンが真剣な目でボクを見る。

 

「何か特別なことしてるの? 僕には、一呼吸の間に二つ同時に動いてるように見えるんだけど」

 

 そこに気づいちゃったか。スラリンはいい目をしている。若しくは同じスライム系統だからわかったのかもしれないけど。

 

「年の功、かな。でもね」

 

 ボクは少しだけ声を落とす。

 

「魔王や大魔王、強い敵は、ボクと同じように一呼吸の間に二つや三つ同時に攻撃したりすることができるモンスターいるんだ。今のうちに慣れておいたほうがいいよ」

 

 その言葉にリュカが驚きをあらわにしながら疑問をついた。

 

「……そうなんだ。でも父さんも、似たようなことしてる気がする」

 

「パパスさんのは才能もあるけど、努力だね……正直、人間でよくそこまでって思うよ」

 

「……やっぱり父さん、すごいんだな」

 

 感心しているリュカの横で、プックルが前足を振り上げる。そしてヘンリーが言うべきことを言った。

 

「リュカ!? 感心してる場合じゃない! 俺たちは、パパスさんに勝つ必要があるんだから!」

 

「その通りだね、ヘンリー!!」

 

 ヘンリーが立ち上がり、場を仕切る。

 

「もう一度作戦を練るぞ! 次は必ず一本取る!」

 

 王子として育っただけあって、まとめ役はお手のものだ。五人が輪になって、真剣な顔で話し合いを始める。その時――

 

「みんな、お疲れ様!」

 

 明るい声と一緒に、ビアンカが弁当を抱えて現れた。

 

「戦い方を考えるのもいいけど、腹ごしらえもしなくちゃ!」

 

「ありがとうビアンカ!」

 

 リュカが笑顔になりながらお礼を言う。

 

「よし、じゃあ一旦食事だ! そのあとで、ホイミンの意見も聞こう!」

 

 賑やかな声が広場に広がる。ボクはその光景を眺めながら、静かに思った。

 

 ――この時間は、きっと無駄じゃない。この子たちは、ちゃんと強くなる。その日が来るまで、ボクは何度でも壁になろう。

 

 いつかボクを必要としないときが来るのだろうか……それを考えると少し悲しい。

 

 でも今はボクは必要とされている、ならボクは全力で答えるだけだ。リュカがパパスさんが、スラリンがドラきちが、プックルが、ビアンカやヘンリーが幸せになれるように頑張る。それでいい。

 

 それが伝説の勇者レック様と仲間たちの絆を、天空の勇者ソロ様とその仲間たちへの手向けになると信じて。

 

 マーサさんのことが終わったら、本を書こう。後世に勇者様たちの……仲間たちの物語を残したい。それがきっとここまで生き永らえたボクの役目だと思う。

 

☆ ☆ ☆

 

 そして、一か月の月日が流れた。

 

 長いようで、短い時間だった。毎日が修行で、毎日が真剣勝負で、そして毎日が少しずつの積み重ねだった。今、ボクの目の前に立っているリュカたちは――修行前とは、はっきり別物だ。剣の握り、立ち方、視線の動き。無駄が減り、迷いが減った。修行前のパパスさんになら、もしかしたら勝てたかもしれない。いや……勝てないまでも、一太刀くらいは確実に入れられただろう。

 

 そして今日は、その成果を示す日だ。

 

「リュカ、準備はいいかい?」

 

 ボクが声をかけると、リュカは深く息を吸い、真っ直ぐに前を見据えた。

 

「もちろん! みんなも……いいよね!」

 

「ぷるぷる!」

 

「任せるにゃっ!」

 

「うにゃっー!」

 

「当然だ!」

 

 スラリン、ドラきち、プックル、ヘンリーが次々と声を上げる。その少し後ろで、ビアンカが両手を胸の前で重ねていた。緊張と期待が入り混じった表情だ。

 

 ビアンカも両親ときちんと話し合い、約束を取りつけたらしい。――もし、リュカたちが勝てたら、一緒に旅に出る。それは、子ども同士の軽い約束じゃない。覚悟のいる約束だ。

 

 場所はアルパカの街。この街に集まった人たちは、ただの模擬戦だとは思っていない。誰もが「パパスの強さ」を見に来ていた。ビアンカの両親も、その中にいる。

 

 ざわめきの中、パパスさんが一歩前に出る。

 

「……さあ、来い。全力でな」

 

 その一言で、空気が引き締まった。

 

 ――戦いが、始まる。

 

「イオ!」

 

 最初に動いたのはヘンリーだった。狙いは直撃じゃない。視界を奪うためのイオ。パパスさんは爆風を剣で切り裂く。だが、ほんの一瞬――対応が遅れた。

 

「今だよ! バギマ!!」

 

 リュカの叫びと同時に、鋭い風が放たれる。爆風への対処を優先していたパパスさんへ、一直線に向かう。

 

「――甘い!」

 

 パパスさんは、かまいたちの技でそれを相殺した。さすがだ。剣だけでなく、体術も完全に自分のものにしている。もう少し訓練を積めば、バトルマスターになるのも、夢じゃない。

 

 でも――ここからが本番だ。

 

「マヌーサ!!」

 

 ヘンリーの声と同時に、幻惑の霧が広がる。

 

「――ぬ」

 

 確かに、効いている。

 

「未だ! 皆!」

 

 その合図で、スラリンとドラきちがブーメランを投げた。狙いは腕と足。同時に、スラリンは正面から、ドラきちは空中から突っ込む。

 

 さらに一呼吸遅れて、後方からプックル。

 そして正面から、銅の剣を構えたリュカとヘンリー。

 

 ――同時すぎない同時攻撃。ボクが教えた通りだ。

 

 マヌーサで視界を奪い、間をずらして波状攻撃。成長している。はっきり分かる。だが、パパスさんは目を閉じた。

 

 視覚を捨て、気配と音だけで敵を捉える――それは、熟練者の戦い方だった。

 

 ブーメランを体捌きだけで回避した。視覚がない中で、見事としか言いようがない。そして突撃していた、スラリンは足で迎撃され、ドラきちは剣を持たない片手で叩き落とされた。

 

 二人はそのまま気絶する。

 

 プックルの後方攻撃には、ともえなげで対処した。そのまま、リュカとヘンリーの方へ投げ飛ばされた。

 

「うわっ!」

 

 リュカがプックルを受け止める。だが、そのせいで攻撃のリズムが狂った。

 

「くっ……!」

 

 ヘンリーは一人でも突っ込んだが、剣の腹で頭を打たれ、崩れ落ちた。

 

 残ったのは――リュカとプックル。二人は一瞬、視線を交わし、同時に駆ける。

 

 マヌーサは、もう解けている。パパスさんは二人を正確に捉え、プックルを足払いで転ばせ、リュカの斬撃は剣で受け止めた。

 

 体格差は歴然だった。

 リュカは弾き飛ばされ、地面を転がる。

 

 観客席から、小さなどよめきが上がる。

 ビアンカは思わず一歩前に出ていた。

 

 それでも――リュカの目は、まだ死んでいない。

 

「まだまだ!!」

 

 その声に、パパスさんが一瞬だけ笑った。きっと、嬉しいのだ。息子の成長が。だが、勝負は勝負だ。

 

 何度挑んでも、リュカは弾き返される。

 

「リュカ。ビアンカとの約束を守るんだろう?」

 

 パパスさんの声は、厳しくも、どこか優しい。

 

「それとも……もう、あきらめるのか?」

 

「リュカ! もうやめて!」

 

 ビアンカが駆け寄る。

 

「……ううん」

 

 リュカは立ち上がり、首を振った。

 

「僕は約束したんだ。ビアンカと。一緒に、また冒険するって。だから……絶対、負けない」

 

「……リュカ」

 

 ビアンカの頬が、ほんのり赤くなる。ボクは、その光景を見て、静かに微笑んだ。次の瞬間、パパスさんの一撃が決まり、リュカは気絶した。

 

 静寂。

 

「そこまでだよ!」

 

 ボクは前に出て、はっきりと宣言した。

 

「パパスさんの勝ちだ!」

 

 歓声と拍手が広がる中、ボクは確信していた。

 

 ――この一か月は、決して無駄じゃなかった。リュカたちは、確かに強くなった。皆を僕の周りに連れてきてベホマラーの呪文で癒す。

 

 少し経つと、気絶から目覚めた、ヘンリーが「ちぇ負けちまったか」と少し不貞腐れていた。だがそこにはパパスさんへの尊敬も含まれていた。

 

 スラリンたちもリュカに申し訳なさそうにしていたが、パパスさんの強さに驚いていた。そして、人の集まりの中でダンカン夫妻が頷いているのを僕は見た。

 

☆ ☆ ☆

 

 子どもたちは、いまは皆ベッドの上で静かに眠っている。

 

 激しい戦いの後だ。身体だけじゃなく、心も限界だったのだろう。リュカは寝返りを打ちながらも、どこか満足そうな表情を浮かべている。スラリンはぷるんと形を崩し、ドラきちは羽を畳み、プックルはリュカの足元で丸くなっていた。ヘンリーは王子らしからぬ無防備な寝顔だ。

 

 部屋にいるのは、大人だけ。パパスさん、ダンカンさん夫妻、そしてボク。ランプの柔らかな明かりの中、ダンカンさんが大きく息を吐いた。

 

「いやあ……正直に言うと、ここまでとは思ってなかったよ」

 

 そう言って、子どもたちの方を見る。

 

「パパスが強いのは、昔から知ってる。だがね……今日はそれ以上だった。いや、違うな」

 

 ダンカンさんは笑いながら首を振った。

 

「子どもたちが、強かった。そう言うべきだね」

 

 その言葉に、パパスさんはしばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと頷く。

 

「……その通りだ」

 

 低い声だった。

 

「正直に言う。私はホイミンから教わった技を使うつもりはなかった」

 

「え?」

 

 ダンカン夫妻が同時に声を上げ、ボクも思わず触手を止める。

 

「だが……使わなければ、負けていた可能性が高い」

 

「そこまで……?」

 

「ああ」

 

 パパスさんは子どもたちを一人ずつ見つめる。

 

「連携、判断力、覚悟。どれも修行前とは比べ物にならん。誇らしいよ……強くなった、自慢の息子だ」

 

 その言葉は、誰に聞かせるでもなく、寝ているリュカに向けられたものだった。ボクは胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。

 

「そうかい、そうかい……」

 

 ダンカンさんは目を細めた後、ふと表情を引き締めた。

 

「……ところでだ、パパス」

 

「なんだ?」

 

「私たちなりに考えたんだがね」

 

 ダンカンさんは、真っ直ぐパパスさんを見据える。

 

「パパスと……それより強いホイミンがいる」

 

「ちょ、ちょっとダンカンさん!?」

 

 思わず声が出てしまったが、ダンカンさんは気にせず続ける。

 

「ラインハット城での噂は、ここにも届いている。数百のモンスターを一人で相手取ったホイミスライムがいるってね」

 

「……」

 

「そんな二人が揃っていて、それでも危険だと言う旅とは、一体なんだい?」

 

 部屋の空気が、ぴんと張り詰めた。パパスさんは目を閉じ、しばらく沈黙した後、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「……私はな、リュカを妻の生まれ故郷に預けるつもりだ」

 

「生まれ故郷?」

 

「その後……ホイミンと共に、天空の城へ向かう」

 

 その言葉に、ボクの身体が固まった。まさか話すとは思っていなかった。

 

「て、天空の城!?」

 

 ダンカン夫妻も、完全に驚いている。

 

「マスタードラゴンに直訴するためだ」

 

「マスタードラゴンだって!?」

 

「そうだ。この世界の神……天空人すら跪く存在だ」

 

 パパスさんの声は静かだったが、その内容は重すぎた。

 

「……私もな、ホイミンと私がいれば、魔王が魔物を率いて来ようとも、負ける気はしない」

 

「……!」

 

 ボクは息を呑む。パパスさんが、そこまで言い切ってくれるとは。これも信頼の証なのかもしれない。

 

「だが問題は、私たちが不在の時だ」

 

 パパスさんは拳を握りしめる。

 

「その時に狙われれば……どうなるか分からん。だからリュカたちには強くなってもらう必要があった」

 

「時間を……稼がせるためかい」

 

「ああ。私たちが救援に駆けつけるまでの時間をな」

 

 ダンカンさんは深く息を吐いた。

 

「……そうかい」

 

 そして、しばらくの沈黙の後、覚悟を決めたように言った。

 

「じゃあ、私たちも隠し事はなしだ。パパス」

 

「……?」

 

「ビアンカは――天空人だ」

 

「――な、なんだと!?」

 

 パパスさんが立ち上がるほどの勢いで驚いた。ボクも、思考が止まった。

 

「て、天空人……!?」

 

 確かに――言われてみれば、思い当たる節がある。昔、ボクが見た天空人。澄んだ瞳、どこか浮世離れした雰囲気。……ビアンカは、言われてみれば、似ている。

 

「私たちはビアンカを幸せにしたい」

 

 ダンカンさんの声は、震えていた。

 

「だが、万が一魔族に正体がばれれば……ビアンカは命を狙われる。それだけは、絶対に避けたい」

 

「だから……」

 

「パパス、あんたたちの旅にビアンカを同行させてくれ」

 

「もちろんビアンカだけじゃないよ!」

 

 マグダレーナさんが前に出る。

 

「私も一緒だ! 料理なら任せておきな!! それに普通の勉強も必要だからね!!」

 

「……」

 

 パパスさんは驚きと迷いが入り混じった表情で、ボクを見る。

 

「……ホイミン。どう思う?」

 

 ボクは一瞬考え、はっきりと答えた。

 

「賛成だよ」

 

「!」

 

「でも、それなら手は打つべきだ。ラインハット城に頼んで、アルカパを……ビアンカの生まれ故郷にも護衛をつけてもらおう」

 

「そこまで?」

 

「うん」

 

 ダンカンさん返答に、ボクは拳を握った。

 

「ソロ様の二の舞は、絶対に嫌だ」

 

「……ソロ様?」

 

 マグダレーナさんが首を傾げる。

 

「勇者様だった方だよ」

 

 ボクは、静かに語った。

 

「魔王に襲撃を受けて……ソロ様を守るために、村人全員が犠牲になった」

 

 部屋が静まり返る。

 

「……ビアンカに、そんな思いはさせたくない」

 

 その言葉に、誰も反論しなかった。パパスさんは深く頷き、力強く言った。

 

「分かった。ならば、私とホイミンでビアンカを必ず守ろう」

 

 ボクは、強く頷いた。

 

 ――この旅は、想像以上に重い。けれど、だからこそ守る価値がある。そう、心から思った。

 




ちなみにパパスさんは武闘家と戦士をマスターしました( ゚Д゚)

ルドマンさんはトルネコの

  • 子孫
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