探偵の俺に、異世界の依頼は重すぎる   作:リポストマン

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 ここ四日ぐらいは毎日投稿します。

 1/12 プロローグ2と合体させました


序章
プロローグ


 

 

 筆記用具、開かれ放置されたノートと教科書。

 それが置かれた席に人間はいなかった。

 

 落ちたチョークは地面で砕け、折れてしまっていた。それを咎める者も、それに溜息を吐く者もいない。

 

 ほんの数秒前まで授業をしていた筈の学校は静寂に包まれていた。

 

 人の声は勿論、足音すらも聞こえない。

 そんな静寂を破る様に水の流れる音が廊下から響く。

 

「先生、すんません。虎入【コイリ】戻りましたぁ」

 

 頸をポリポリ掻き、俯きながら無人の教室へと入っていく男子生徒。

 

 気怠そうに誰もいない教室をカツカツと歩き、自分の席に座る。

 数秒後に不思議に思い、頭を上げる。

 

 そこでようやく教室に誰もいない事に気づいた。

 

「……あ〜、あれね。先生が怒って、みんなが追いかけていったって感じの。小学校にしかないイベントかと思ったけど、高校でもあるのか」

 

 しょうがないと立ち上がり、教室から出ていく。

 

 誰もいない。

 他の教室からもチョークの擦る音も、足音一つもしない。

 

 無音室に入ったかの様な奇妙な感覚を────なんてものを感じる事なく、上の空で職員室へと着いた。

 

「失礼します。一年三組、虎入 厭離【コイリ エンリ】。富士川先生は居ますでしょうか」

 

 ドアを開けたが、他の教室のようにもぬけの殻。見渡す限り、職員一人すら見かけることがなかった。

 

 普段は聞こえることのない時計音が聞こえるだけであった。

 

「……どうすっかな。まさか、ストライキだと思わなかったな」

 

 虎入 厭離────エンリは再び自身の教室へと戻っていった。

 

 それから何も起こらない、何も始まることない教室で座り続ける。

 

 座っていれば、暇になるのは当然のことで、暇を潰そうにも携帯ゲーム機以外なく、怒られる覚悟で鞄から取り出した。

 

 ひたすらに脱出するゲームを音を鳴らしながらプレイした後、午前中の授業が終わるチャイムが聞こえた。

 

「あのぉ、宇治野ですが‼︎ 」

 

 ふと、声が聞こえてきた。

 そういえば、昼食を売ってくれる外部の人がいたなと考えたエンリ。ゲームを乱雑に鞄に突っ込み、校門の方へと歩いていった。

 

 いつもの通り、門の前にトラックが止まっている。そこにはいつも、自動販売機横で売店販売を行っている高齢の男性が立っていた。

 

 インターホンを押しているが、顎下をポリポリと掻いて、頭を捻っていた。

 

「こんにちは、売店のおじさん。なんか分かんねっすけど、誰もいないんすよ」

 

「あ、生徒さん。こんにちは。誰も居ないって、どういう……」

 

「いや、それが教師がストライキかなんかで全員いないし、俺以外の生徒もいないんすよ」

 

「ストライキ?」

 

「実際のとこ、ストライキかどうなのか俺も全く分かんなくて。ただ、誰も居なくて俺も困ってたとこなんっす」

 

「と、とりあえず、中に入ってもいいかな?」

 

「そっすね。んじゃ、開けますよ」

 

 誰も居ない上、売店の人であることを知っていたので咎められることもないだろうと門を開けた。

 

 そこから二人で職員室などを見て回り、誰も居ないことを確認した。

 

 ストライキにしては不自然じゃないかと二人で話し合った結果、警察への通報ということになった。

 

 警察同行の下、軽い取り調べと共にエンリは自宅へと帰宅。

 

 次の日の朝。

 何事もなかったかのように起きて、いつものように顔を洗った。

 

 窓から入ってくる朝焼けに目を細めながら、リビングへと歩いていく。

 

 テレビを点け、ニュースを開く。

 

 それから、彼は手からリモコンを落とした。

 

 彼の通っていた高校。

 空から撮影映像と共に、大きなテロップが画面中に映し出されて、こう銘を打たれていた。

 

 

 ────三百人以上の集団失踪事件の舞台、と。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 ────失踪事件から、十六年後。

 

 

「ここまでが私の見た失踪事件の全貌です。暗中さん」

 

 日の光だけに照らされた室内。

 一人用ソファに腰掛けたスカジャンを羽織った男性。

 似合わない丸メガネ、サイドに編み込みが入った黒髪は彼のトレンド。

 

 派手な人間は何処にでもいるだろうと言い訳である。

 

 そうして、目の前の長机には調査資料と書かれた紙束がキッチリと置かれていた。

 

「この程度の証言、貴方も知っているでしょう」

 

「ええ、知っています。どこの週刊誌もどのテレビ局も取り上げ、責任感のない供述だと広まったものですよね。当時九歳だった私でもよく覚えています」

 

「責任感、ね。学びを数ヶ月ほど共にしただけの人間達に対して、責任を感じられる人間なんてものはいないと思いますが」

 

 スカジャン男性の斜め横。ボイスレコーダーを持ったスーツ姿の女性────『暗中 蛍』がソファに座っていた。

 

 シワなくキッチリと着たスーツから彼女が真面目な人物であることが伺える。

 

 真剣な眼差しは、常に男性の方へ向けられていた。

 

「その発言は……」

 

「今更ですよ。犯人だと疑われ、週刊誌には自宅も電話番号も、パンツの柄まで晒された。捏造された発言なんで五万とある。この程度の悪態の一つや二つ、埋もれますよ」

 

「そ、そうですか……一応、書くつもりはないですとだけ言っておきます」

 

「いえ、構いません。十六年前の事件をその節目に取材に来る方なんて貴方ぐらいなんですから。むしろ真実を追求したい貴方なら、書かない方が『後悔』するんじゃないですか?」

 

 その言葉に暗中は視線を落とした。

 

「……その通りだと思います」

 

「ああ、脅したいわけじゃないんです。ただ、貴方を見る限りは虚偽することが嫌いなんじゃないかと思いまして」

 

「私を見るかぎり、ですか?」

 

「著名人ではない私みたいな凡夫の前でも失礼もない上、スーツも綺麗に着ている。それにボイスレコーダーも隠すことなく、手元に持っている。嘘偽りない言葉を得ようとする姿勢は、貴方の真面目さを表しているのではないかと」

 

 男はアセアセと暗中のご機嫌を取ろうとしていた。

 そんな男を見て、彼女は小さく吹き出した。

 

「ぷっ、あははっ‼︎ 口説き文句ですかそれ」

 

「はっ……い、いえ。違います。職業柄、人の服装や仕草から性格とか考えてしまうんです」

 

「なるほど。合点いきました。流石は個人で探偵事務所を設立した方ですね」

 

 暗中は男性の方へ顔を向け、テーブルに載せられていた資料を手にとった。

 

「話す前にもお伝えしましたが、それは私が五年をかけて、独自に集めた事件の調査書です」

 

 部屋の中でパラパラと捲られる音だけが響く。

 

 資料の内容は人物の来歴、事件現場の調査報告が載せられていた。それも異常な程に細かく、周囲1km圏内の防犯カメラ映像や聴き込みまでもがまとめられていた。

 

 止まっていた時計から正午を示す鼓音が鳴る。

 

 見終わったのか、暗中は長机に資料を置き、ゆっくりと視線を落とした。

 

「消えた343人の来歴含め、私が知る以上の情報がまとめられているのは分かります。けれど……事件との関連性は一切ありませんね」

 

「そうです。“ 不審な点 ”は無かった。一切の証拠も何もかも」

 

 男性は頸を掻きながら、深く息を吐いた。

 

「罪の証明のために調べてはいましたが、深く潜る程に事件が歪であることを実感させられる。犯人像を追うほど、私自身────虎入 厭離が最も犯人の可能性があることを納得させられる」

 

 スカジャンの男こと、『エンリ』は立ち上がり、外へ続くドアを開けた。

 

「その資料、差し上げます。今の私────いや、俺には必要のないものです」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 虎入 厭離。

 集団失踪事件の校内唯一の生存者。

 

 事件後当時、高校生だった彼はメディア取材や近隣から嫌がらせで一年間の引き篭もりを経験。その後、三年かけて高校卒業資格を獲得。

 

 興信所に就職し、五年で退職。翌々年に探偵事務所『動虎』を設立し、現在に至る。

 

「週刊レディースの暗中 蛍……ねぇ。情報源としては悪くないかな」

 

 そんな彼は過去のことなど、既に眼中になかった。むしろ、今日限りで完全に忘れることと決めていた。

 

 だからか、集めてきた失踪事件の資料を見知らぬ週刊誌の人間へと譲渡したのだ。

 これで余計なゴミが嵩張る心配がないと強がった。

 

 エンリは受け取った名刺を名刺入れに突っ込み、階段を上がっていく。

 

 薄ら笑いを浮かべながら、曇天の街へと足を踏み入れた。

 

「仕事だぜ、トラ」

 

 人通りの少ない路地の表、一人の女性が立っていた。

 

 茶髪のポニーテール。黄色がかった瞳。

 北半球丸出しの豊満な胸を強調する、赤い満洲服。下半身も太腿の外側が露出されていた。

 

 側から見れば、明らかにヤバめな女性であることは確かであり、エンリの目から見ても、いつも通り大胆なファッションだなと感想を述べていたに違いない。

 

 ファッションだけならば。

 

 明らかに黒色のコートの懐から銀色の反射光が見え隠れしていることにエンリは肩を落とした。

 

「ラオお嬢。俺は殺しには関与しないからね」

 

「はっはっはっ、殺しはアタシも嫌だな‼︎ 」

 

「拉致監禁の助長、も」

 

「おいおい、アタシがそんな非道な人間に見えるのかい?」

 

「お嬢がマフィアである限り、否定は出来ないでしょ」

 

 ラオお嬢と呼ばれた女性と共に歩くエンリ。

 

 彼らの進む道には老若男女────様々な個性を持った人間たちが闊歩する。

 

 一様に人間達が目指すのは、この街のシンボルでもある巨大なスクランブル交差点。

 喧騒渦巻くは場所は何か人々を引き寄せる魅力に渦巻いているのだろうか。

 

 少なくとも、このシブヤという街は日本の中でも最もファンタジーな世界であることは間違いない。

 

 そんな街を見下ろしている、遥か上空────制服の少女が一人。

 

 105の大きな看板の上で黒髪をなびかせながら、ファンタジーな世界に台詞を吐いた。

 

「まあ、でも。魔王くんのいた、“ あの世界 ”ほどじゃないわね」

 

 

 

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