探偵の俺に、異世界の依頼は重すぎる   作:リポストマン

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 そろそろ序章の終わりに近づいてきました。

 うん? 主人公一切戦闘しなくない?




九話 呉下阿蒙

 

 

 暴れ狂う骨。

 

 能力開示により、各骨は小さい刃の集合体となる。それは人間であれば触れれば簡単に切断してしまう。

 

 裁断公とは、切断するのではなく、己の意思関係なく切断してしまうヴェルセスタの身体を指していた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 セバスチャンへ狂刃が届く寸前、勢いよくトタンの壁を破られた。

 

 煙に巻かれ、何がトタンを破ったのかは千景とエンリの両者からは見ることはできなかった。

 

 ただ、グランジュテが起こしているであろう複数の斬撃音が倉庫に響き渡り、なにかが爆散したと思われる音が続いて聞こえた。

 

『セバスチャン、ここは退きなさい』

 

 煙の中から聴こえる電子音。

 所々ノイズが混じるところ、トランシーバーもしくは携帯電話の発声を大きくしているのだと分かる。

 

 女性であることは間違いない。声音は高く、若い印象を受ける。

 

「ですが、モフセンは‼︎」

 

『彼は大丈夫です。ですが、次にあの技を撃たれれば貴方が死にます。命の賭けどころを間違いないでください』

 

 喋っている人物。恐らくはこの男の上にいる人物。

 

 エンリの考えからすれば、マイアミホットをばら撒いている主犯格の一人、もしくは大元である可能性は十分にある。

 

 だが、それ以上を知ろうとは思わない。

 

 知ろうと思えば、必ず実力行使が必要となる。

 

 二対二。数だけ見れば、戦えなくともないが、勝てる確証などない。

 

 エンリが先程の戦いを見ていて感じたのは、性質が一切分からないという点であった。

 

 固有名詞を除き、「キルロイ」「射程距離」「能力の開示」の三つ。これらの単語から連想できることなど、あまりにも少ない。

 

 また、それらを手探りで答え合わせをしながら、新たな問いへの対処をしなければならない。

 

 それはあまりにも合理性に欠ける。

 

「あ〜、そこのひと。ちょっといいかな?」

 

 だからこそ、対話で現状を収める他ない。

 

『……探偵の。私達はあなた方と対峙する気はありません』

 

「話が分かるねぇ。俺も仕事でアンタ達と相対しただけだ。これ以上の詮索も、戦闘行為も行うつもりはない」

 

 幸いにも、女性にも戦う意思はない。

 なら、話は早い。このまま相手には逃げてもらうのが得策だとエンリは考えていた。

 

 双方、戦闘の意思はない。

 

 ただ一人────千景を除いては。

 

「勝手に決めないでくれるかしら」

 

「勝手に決めさせてもらう。これ以上の戦いは無意味だ」

 

「エンリくんは下がってて」

 

「……俺を助けにきただけって、さっきまで言ってただろ」

 

 悪態を吐きながらも、千景が前に行こうとするのを制止する。

 

 千景は抵抗し、止めようとするエンリの腕を思いっきり掴み、押していた。エンリも負けじと腕を千景の方へと寄せ、足を踏ん張る。

 

「離せっ‼︎ 逃したらダメよ、あいつら‼︎」

 

「止まれよ、凪藤。アイツらを────ホワイトレッグを倒す理由はないだろ‼︎」

 

「っ……ヴェルセスタ、剣を寄越せ‼︎」

 

 千景は投げ飛ばしたヴェルセスタの大剣への命令をする。

 

 無音。

 ヴェルセスタの大剣は一向に千景の元へと来ることはなかった。

 

『では、探偵。貴方とは二度と会うこと、喋ることはないでしょう』

 

 声と共に一瞬の跳躍。

 煙が晴れた時、そこには誰もいなかった。

 

 床にはコールタール状のドロドロした液体だけが広がり、グランジュテによる衝撃らしき斬撃痕、焼き焦げた痕があっちこっちに残っていた。

 

「……ヴェルセスタが破壊された?」

 

 そうボソリと呟いた千景の視線の先。

 床に転がっているヴェルセスタの大剣が黒い泥状になって溶け始めていた。

 

 グランジュテを妨害しただけではなく、ヴェルセスタ自体を破壊した。

 

 グランジュテのみでは太刀打ち出来ない相手。千景の経験上、他の四天王と勇者一行以外にはいなかった。

 

 呆然と立ち尽くす千景。

 エンリは彼女の方へ振り向き、ジャージの胸ぐらを掴んだ。

 

「助けてくれたことには感謝してる……けど、死ぬことが分かってて戦おうとする奴がいるか‼︎」

 

 エンリの見下すように千景の瞳がギョロリと動いた。

 

「貴方が邪魔しなければ……魔王くんの遺産の行方を追えたかもしれなかったのよ」

 

「は?」

 

 千景はエンリの腹に蹴りを入れ、突き放した。

 

 防御も出来ず、みずおちに入ってしまったエンリはお腹を抑えて屈む。

 それを見下ろす千景。その表情は冷たかった。

 

「やっぱり、平和ボケした奴はダメね。危険に飛び込むことも知らない。命の賭けどころは冒険者以下。弱いクセに他人の死生観には口を出す軟弱者」

 

 千景はエンリの横を通り過ぎ、小さいドアの方向へ歩いていく。

 

「依頼は解約。金貨はテーブルに置いておいたから、キャンセル料とでも思いなさい」

 

 その言葉を聞いて、唖然とするエンリ。

 

 彼女から失踪事件のことを聞いていない。

 それを知りたくて、契約したというのにそれが果たされていない。

 

 手を伸ばそうとしたが、伸ばしてしまえば死地に向かうことになる。

 

 手を伸ばす途中で、ゆっくりと下ろした。

 

「あの子からの推薦だったけど、ハズレだったわ。十六年前から、貴方は変わらないのね」

 

 そんな落胆の台詞を最後に倉庫内は静まり返った。

 

 誰もいなくなった倉庫内。

 

 涼しくもない生ぬるい風がエンリの横を通り過ぎていった。

 

 エンリは胡座を掻き、懐から少しばかり湿気ったタバコを取り出し、咥える。

 

 震えた手でライターを取り、ボタンを押した。若干濡れていたせいか、上手くつかず、何度も何度も押した。

 

 押した。押した。押した。

 

 落とした。

 

「ざけんな……」

 

 咥えたタバコを落とし、頭を掻きむしるエンリ。

 

 ガリガリと強く音を鳴らしながら、彼は吠えた。

 

「ふざけんな!俺がどんな思いをして、生きてきたと思ってんだよ。俺の十六年間を知らない奴に、俺の何が分かる‼︎ それにだ、余計なことに首を突っ込んで、死にたがるアホを正してやろうとしたことの何が悪い! 人を殺したら、最悪死刑だ。死んだら全部終わりなんだ……そんなことも分からないのか‼︎」

 

 エンリの頭に過ぎるのは、自殺した両親だった。

 

 危険なことに自分から飛び込むこと。それによって、自分の周りや自分自身に不幸が起こる。

 

 出来る限り穏便に。安全だと思える行動だけをとって、選択肢をひたすら絞って、ここまでの人生を走ってきた。

 

 十六年前から変わっていないわけではない。十六年前よりも慎重になっていた。

 

 だが、それ以上の変化はない。

 

 エンリの嘆きは夜明けまで付近まで続いた。

 それでも、あまりにも広大な港でその声は、あまりにもか弱かった。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「二年前……この世界における十六年前、僕らは召喚魔法によって異世界に転移しました」

 

 ガラス張りのマンションの一室。

 昼下がりなのか、日の光は斜めに差しており、部屋の中を明るく照らしていた。

 

 その一室。革ジャンを羽織ったカジュアルな服装の男がソファに座っていた。

 

 彼は雨降 玲。

 

 異世界から帰ってきた一人であり、勇者として魔王を討伐した男。異世界では英雄として持ち上げられている。

 

 そんな彼は、ある記者から取材を受けていた。

 

「他の人からも聞いたと思いますが、僕らは魔王の倒すために“ 異世界の神 ”によって召喚されたと告げられました。えっ、反抗する者は居なかったのかですか? 当然、反対意見は多かったですよ。僕もその一人でしたし」

 

 まさか、そんな自分が魔王を倒す羽目になるなんて思いませんでしたがと笑って呟いた。

 

「でも、正義感の強い一人が声を上げたことで、その流れが変わりました。その後はトントンで魔王を倒すことが、僕らの目的になったんです。結果的に魔王を倒したことで、元の世界へ戻るための手立てが見つかったのは不幸中の幸いですね」

 

 記者は続けて、魔王倒すにしても、その力というのはどうやって手に入れたのかと質問をする。

 

「どうやって、ですが……初めに転移した後、神からの祝福を受けて力────ゲームで例えるなら、ステータスの上昇とスキルを貰いました。ただ、みな全てが平等に同じ物を貰ったわけではなく、多種多様の……それこそ農業やら鑑定やらの非戦闘系のものまで貰っている方もいました。その時、そのギフトによって姿が変化や記憶障害を起こしてしまった人もいます。分かりやすく例えるなら……力行教頭先生ですね。はい。あのオレンジ色の耳と尻尾の生えた少女です。元は61歳と聞いていますが、性別も年齢も種族も変化しています。記憶は大丈夫と本人は言ってるみたいですが、たまに女性ぽくなるので何とも言えませんけど」

 

 記者が思い出すは、生徒たちを引率していた少女。なんとも愛くるしい見た目であったが、壮齢男性だとは思えなかった。

 

 確かに首元に力行と書いてある名札をぶら下げていたことから、本人で間違いないだろう。恐ろしいことである。

 

 そういえば、とレイは思い出したかのように話した。

 

「その時、二人だけ追放されたんです。一人は赤目の……たしか学校の有名人だった二年生だったかな。もう一人は紫の炎を纏った竜人族の少女。彼女達は、魔王に近しい能力を持っていたため、その場で危険だと判断されたみたいです。本当なら即刻死刑だったみたいですが、流石にそれは今後に関わると思ったのか、国外への追放処分になりました。その二人のその後ですか……? 僕は彼女達とは会っていませんし、どうなったのかまでは……あまり想像はしたくありません」

 

 恐らく死んだ可能性が高い……そんなことを口に出す事はできず、俯くレイに対して記者を言葉を濁した。

 

 それからもレイへの取材は続く。

 

 窓の先、異世界への門は静かに鎮座していた。

 

 

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