探偵の俺に、異世界の依頼は重すぎる   作:リポストマン

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一話 渋谷喧騒

 

 

 ウダガワの四方グラフィティ前。

 

 落書きだらけの汚れた場所。

 

 その道路に留まる人間というのはロクでもない事情を抱えた者。

 落書きを描く者は勿論、自身をよりアングラだと思わせたいファッションな輩も多い。

 

 だからこそ、殴り合いの乱闘なんてものはしょっちゅうであった。

 

「一二三四五、上山打老虎っ‼︎ 老虎打不到、打到小松鼠♪」

 

 童謡を歌いながら男の顔面を蹴り飛ばすラオお嬢こと、ラオパン。

 

 ほぼ飛び回し蹴りであるからに豊満な胸が左右に踊るが、それ以上に笑顔で蹴り飛ばしていた。

 

 そのあまりにもショッキングな光景に恐怖を感じざるを得ないだろう。

 

 蹴り飛ばされた男は受け身を取る事なく、頭から壁に勢いよく激突し、伸び切っていた。

 

「松鼠有几只、譲我数一数、数来又数去、一二三四五?」

 

 着地し、くるりと回転しながら勢いを殺す。ぴたりと止まったところで周囲を見渡した。

 

 彼女の周りには五人もの不良が転がっていた。その腕や首には共通するように白色のタスキを巻かれていた。

 

 色合わせの不良集団。巷ではカラーギャングと呼ばれている若者達のグループのようなもの。

 

 その中でもラビットレッグと呼ばれる白を基調とした彼らの一部がシブヤで犯罪を犯してしまった。

 

 これが彼らにとっての制裁────その始まりである狼煙になる喧嘩に繋がるとは考えていなかったのだろう。

 

「ラオお嬢。俺、いらなかったんじゃない?」

 

 壁に背を預けて、タバコを吸うエンリ。右手には吸い殻入れを持っていて、火が消えた一本だけ入っていた。

 

 制裁が終わったところでタバコを吸い殻入れに突っ込む。

 

「ストレス解消はしたいって言ったら、「トラのお目付け周りなら許す」って永利から言われたんだよ」

 

「永利さんかぁ。直接的な争い以外なら受けるつったけど、ボスを外部の人間に任せるって……」

 

「ま、最強のマフィアボスである最強のアタシなら、部下など連れずにハンバーガーショップに行けるがな」

 

「そりゃあ、お嬢が勝手に一人でハンバーガーショップに行って、三彩会の鉄砲玉六人を椅子にしながら食事してた時の話でしょ」

 

「その事実がある以上、アタシの武力を否定できる者はいない。そして、縛ることができないということもなっ‼︎」

 

 なんで、こんな奴がマフィアのボスなのか。

 エンリも最初の頃は疑問に思っていたが、「最強」という彼女の言葉を嘘偽りなく受け取るならば、そうなるのも間違いはない。

 

 エンリは頸を掻きながら、伸びているラビットレッグの一人を覗き込みにいく。

 

「これが“ ホワイトレッグ ”。モグイのシマでヤクの売買なんてする連中だから、ヤクザ崩れの半グレかと思ってんだけど、どうやら違うみたいだねぇ」

 

 ここにいるラビットレッグの構成員は若い。それこそ十代前半の子供ばかりだ。

 平日の日中にも関わらず、学校にも行ってないところを見るにサボりで遊び回しているに違いない。

 

 伸びている一人の懐に手を入れて、ポケットらしきものを探っていく。

 

 するとラムネのような様々なカラーの錠剤が入った袋が出てくる。ラオパンの前にヒラヒラと袋を見せた。

 

「あれ? これが例のヤク?」

 

「分からん。永利の領分だからな」

 

「……ボスならせめて、そこら辺は知っておこうよ」

 

 ヤクに興味なしと腕を組んで、胸を張るラオパン。

 マフィアボスらしくない彼女に苦言を入れながら、他のホワイトレッグ構成員からも錠剤を抜いていく。

 

 その時、全員からスマホも抜いていった。全員とも無駄に高性能なものだ。最近の大人でも渋るような金額の最新モデル。

 

 カバーに傷がついていないことから、最近買ったものだと分かる。

 

 薬物の売り上げがいいのかと勘繰ってしまう。

 探偵である自分がそれ以上を考えてしまうのはあまり“ 余計 ”だろうと、エンリは急いでポケットにしまった。

 

「とりあえず、ヤクやらスマホやらは永利さんに渡すけどいいかな?」

 

「そこは任せる。トラの方が永利に上手く伝えられそうだしな」

 

 伸び切っている全員を壁側に寄せ、道路を空けた後に『モグイ』────シブヤを治める中華系マフィアの本部へと足を進めた。

 

 十数年前までモグイは小さなマフィア組織であった。

 

 それこそ関東の大きな組組織との喧嘩を避け、細々とやっていくのが精一杯。

 

 しかし、六年前にラオパンが組織に入ってから、モグイはシブヤを治めるほどの大きな組織への変わっていた。

 

「報酬、上乗せしてくれるかなぁ? チラッ」

 

「アタシに金勘定を望んでも、何もできねぇからな」

 

「今度、ハンバーガー奢ってあげようかと思ったんだけどなぁ」

 

「バーガークイーン十個なら考えてやらんでもない」

 

「報酬金半分ぐらいじゃん。やだよ」

 

 たわいも無い話をしていた彼らがついたのは、巨大な中華料理店。赤と金といったまんま中華ですと言わんばかりの外観。

 

 この中華料理店こそ、魔人の本部「竈君」である。

 

 扉を開けて中に入っていき、営業準備をしている厨房へ。下準備に忙しい料理人達の後ろを抜け、非常出口の扉を開ける。

 

 すると出口ではなく、エレベーターがある一本道が見えた。

 

 エレベーターに乗り、四階に上がると少々広めの執務室。そこの客用のソファでパソコンを打っている初老の白いスーツ姿の男性がいた。

 

 男性はエンリ達に気付き、彼らに声をかけた。

 

「よう、トラ坊。お嬢の護衛ご苦労さん」

 

「永利さんもお疲れ様です」

 

「喧嘩はアタシ一人で十分だったけどな‼︎」

 

「はっはっはっ! そりゃウチのラオパンだからな。半グレ似のクソガキ相手に手を借りたと聞いたら、俺が組長(ラオパン)に戻っちまうぜ」

 

 朗らかに笑う、右頬の銃痕が目立つ男性。

 彼こそがモグイの頭脳であり、元ボスでもあった男『永利 五夜』。

 

 ラオパンが来るまでは武闘派だった彼だが、ラオパン────ボスの座を譲ると現役を引退。

 

 今は五十肩に悩みながら組織を支えるおじさんになっていた。

 

「で、ホワイトレッグの連中はどうだった?」

 

「半グレ紛い……とも言い切れないって感じですね。構成員全員が十代前半。喧嘩は慣れはしてないし、下っ端だと思ったんですけど……ポケットにヤクらしきものが十二袋」

 

「なるほどな。バックにヤクザが絡んだとしても、ガキにヤクの売買は足が付きやすい。うちのシマでヤクやろうなんて軽率が過ぎるな」

 

 錠剤の入った袋を永利に渡すと、袋を開けて匂いを吸う。

 若干咽込みながら、確信した表情で机に置いた。

 

「こりゃあ、アヘンだな。特有の臭み……間違えねぇな。だが、甘い香りもある。若者向けに加工されたモンか」

 

「そこら辺の考察はそちらに任せます。それとこれも」

 

「スマホ……ガキどものやつか」

 

「これで後ろ盾の情報も叩き出せると思います」

 

 五つのスマホも永利へ渡し、軽くなったポケットに幸福を感じるエンリ。

 

 ラオパンも日々のストレスを解消できたのか、部屋奥のレザーチェアに腰掛け、寝ていた。

 

「俺の仕事はこれで。報酬金はどうします?」

 

「当然、現金。カタギの口座に入れるわけにゃいかんからな」

 

 財布から紙幣を六枚取り出し、エンリへと渡す。紙幣を受け取り、自身の財布に入れた。

 

「その二万はヤクと携帯の分……後はラビットレッグが今後襲ってくるかもしれねぇ保険だな」

 

「口止め料としては軽いですねぇ」

 

「冗談も上手くなったもんだな、トラ坊。仕事斡旋してやんねえぞ」

 

「それは困りますね」

 

 振り返って、エレベーターの方へ向かっていくと「あっ、そういや」と再び永利へと声をかけられる。

 

 昼ごはんを食べていないエンリはそろそろ帰りたいんだけどと思いつつ、永利の方へ顔だけ向けた。

 

「お前のいた高校あったろ。なんかあったらしいぞ」

 

「高校ですか? 責任者もいなくて、廃校も同然ですけど……」

 

「俺も深くはしらねぇが、テレビで取り上げられてるとかウチのもんが言ってたぜ」

 

「まあ、後で見ておきます」

 

 どうせ十六年の今日とかなんとか託けて、追悼番組的なものをニュースとして取り上げているだけだろう。

 

 エンリは高校の名前など思い出さないようにし、エレベーターに乗った。

 

 

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