探偵の俺に、異世界の依頼は重すぎる   作:リポストマン

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二話 荒地帰還

 

 

 集団失踪事件。

 都内高校にて生徒や教員等を含め校内にいた343人全員が忽然として姿を消した。

 

 事件当初はあまりにも不自然過ぎる内容から、政府の陰謀など噂された。

 

 挙げ句の果てにはマスコミが被害を免れた生徒達の個人情報をばら撒いたことにより、その生徒達へのバッシング被害も発生。

 

 その鎮火に一年もの年月を必要とした。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 事件から十六年後。

 

 事件現場は大きな更地になっていた。

 

 多くの人間が死亡同然の事件が起きた忌み地……というのもあるが、それ以上に建物を立て替えない理由は財政的だった。

 

 その日の正午。

 日差しが雲に遮られ、白く濁った空模様。

 

 大きな更地に巨大な魔法陣が描かれる。

 達筆で描かれていく魔法陣は漢字に似た文字であるものの、不可解なもの。

 

 完成した魔法陣から光が溢れ、地面から巨大な黒い門が迫り出していく。

 

 光が収まるとマンション六階分の大きさの黒い門。

 

 人の手や植物が絡まったような彫刻が施された、さながらオーギュスト・ロダンの地獄の門のようにも思えた。

 

 ゆっくりと周りに地響きを鳴らしながら門が開く。

 

 曰く、門の先から木漏れ日が差した。

 曰く、門の先には緑色の巨大樹と西洋風の城があった。

 

 少なくとも、これを目撃した近隣住民はそう発言した。

 

 出現二時間後には政府によって巨大な堀によって囲まれ、見ることも叶わない。

 

 その証言が外部の得られる一番の情報だ。

 

 けれど、その場その時に居合わせた彼女「暗中 蛍」の言葉を借りるならば、少なくともこの地で起きた事件の真相は変わるだろう。

 

 

 ────彼は漸く苦しみから解放された、と。

 

 

 暗中は扉の先をはっきりと目撃し、そこから歩いてくる無数の人影の方へ走っていた。

 

 残された塀を乗り越え、現代特有の体力のなさを実感させる走りで先頭に立つ男性へ話しかけた。

 

「はぁ…はぁ……あ、あなた達は誰ですか?」

 

 日本語が通じるかどうか。そんなことは考えるほどの猶予は無かった。

 

 ただ、この場で起きた十六年前ような不可解な現象であるならば、繋がりがないはずがない。

 

 彼女は知らねばならないと、躍起になっていた。

 

 先頭を歩いていたら男。

 純日本人の髪色と虹彩。しかし背は高く、顔も整っているところ見るに日本人らしさはない。

 

 白いラインが入った黒いロングコートを羽織り、何か大きな武器のようなものを背負っていた。

 

 その彼の背後には、無駄に肌の露出が多い女性や平凡な人生で見ることがないであろう程の美男美女達。

 

 暗中は飛んでくる視線に体を縮こませながら、強く精神を保った。

 

「えっと……まずは確認したい。キミは日本人で間違いない?」

 

「は、はい。暗中 蛍と申します」

 

「……周りの風景が全く違うから、帰ってきてないと思ったよ。ここは東京都で間違いないね?」

 

「ええ、東京都の水瀬高等学校です」

 

「そうか……‼︎ みんな、ここは日本だそうだ‼︎」

 

 彼の大声を筆頭に、扉の方からうるさいほどの歓喜が聞こえる。

 

「すまない。みんな帰ってきて嬉しいんだ」

 

「帰ってきた……つまり、皆さんはここで失踪した人達……」

 

「失踪……世間ではそうなっていたのか。外から見たら、誰でもそう思うのも無理ないか」

 

 集団失踪事件の被害者達が帰ってきた。

 その真実は大きい。そして、彼らは失踪後のことを覚えていて、その真相すら知っているような口振りをしている。

 

 だが、一つだけ今の場で聞かざるを得ないことがあった。

 

「それで、貴方は一体……」

 

「おっと、自己紹介が遅れたね。僕は雨降 玲【アメフリ レイ】。水瀬高等学校の元生徒だよ」

 

 “ 雨降 玲 ”。

 

 暗中がエンリから渡された資料に載っている人物であった。

 

 彼女の記憶によれば、普通な家庭で生まれ育ったごく普通の高校生だった印象がある。

 

 あの頃では排他的な印象が持たれやすいオタクであり、クラスメイトから虐めを受けていたという経歴付きで。

 

 写真も冴えない感じの高校生だったが、別人のような印象を受けた。

 

 その時、雨降の裾を引っ張る少女。

 

 金髪翠眼といった日本人離れの容姿。所々鎧のようなものが見えるドレス。

 それに次いで、尖った耳は明らかにこの世界にはいない人種であることは明確だった。

 

「レイ。こっちの世界だと魔力が一切感じられないのだけれど……」

 

「あ〜……最初に会った時に言ったけど、僕の世界に魔法は存在しないって」

 

「最初に会った頃って……あ、貴方が私の服を脱がした時の⁉︎」

 

「ちがっ……アレは不可抗力だって‼︎」

 

 何を見せられているのか暗中は困惑していた。

 

 目の前で繰り広げられる痴話喧嘩もだが、彼らは状況が分かっているのだろうかという点であった。

 

 失踪してから十六年という長い歳月が経っている。

 

 彼らがどこ行っていたのか分からない。

 けれど、彼らの止まっていた常識はあまりにも急速に変わっている。

 

 不安もなく、安堵出来ていることに暗中は違和感を感じざるを得なかった。

 

 

 

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