探偵の俺に、異世界の依頼は重すぎる 作:リポストマン
そしてそれに答えてすぐに投稿出来ず、申し訳ございません……。
六連勤かつ新しい職場に入職したばっかりなんです……許してください……。
というわけで八話です。
今週は。もう一話ほど投稿したいと思います。
「ったく、最悪だ……」
トタンの中から出てきた男。
先程まで、とんでも暴力現場を目の当たりにして、「くわばらくわばら」と身を隠していた卑怯者こと、エンリであった。
音だけでも凄まじく、化け物同士が殺し合ってるのかと思い、震えていたものだ。
案の定、魔王の四天王の一人とゴリラがステゴロで戦っていたことは勿論、彼は知る由もない。
大きな轟音と、何やら大人数の叫び声。
それが過ぎ去り、静寂の中で彼はようやく出てきたという何とも情けないところであった。
とりあえずは帰りますかねと破壊された鉄の扉の方へ歩いていくと、赤いジャージの見知った顔がいた。
「やっぱり、アンタがここに来たのか」
今日のストレスMVP、凪藤 千景。
彼女が追ってきましたと言われても、驚くことはない。
それも今日の夕方にエンリ自身が身を持って体験しているからに他ならない。
「あ、愛しのエンリくん。サガシタンダカラー」
「心にもないこと言わないでよ。感情込められてないの若干響くし」
「では、エンリくん。貴方を追ってきたわ」
「あ、うん。アリガトー」
ふと、彼女の横を見ると骨の怪物────“ 裁断公 ヴェルセスタ ”。
何故だがガラガラと骨が擦れ合う音が聞こえ、微妙に生暖かい風が吹いていた。
それも驚くことはない。
エンリは幽霊実在派であり、そういった類いのお祓いだってしたことがある。
決して幽霊が怖いとは思ったことはない。
決して、思ったことはない。
エンリの推察によると答えは明快。
常識はずれなコイツなら目の前の化け物程度、操ってても不思議ではないだろうと考えに至った。
「あ〜えっと、アンタは大丈夫……じゃないな。ここにいた大男に殴られたのか?」
「大男……ゴリラくんのことかしら」
「ゴリラくんって。そこまでゴリラぽくはな……い?」
その剣先を追っていくと、貫かれたモフセン。
既に抵抗出来ない程に衰弱しているのか、手足はダラんと垂れ下がっていた。
それに気づいたエンリは、自らの頸を掻いた。それから、千景に近づいて彼女の左肩に手を乗せた。
瞳をカッと開き、一言。
「降ろしてあげなさい。痛そうでしょ」
なんとも軽い台詞。
一瞬、ふざけているかと千景は怪訝な目で見たが、どうにもそういう腹ではないとすぐに理解した。
「降ろすわ。死んでからだけど」
相対する意見。
二人共、視線を逸らすことなく、お互いの瞳を見続けていた。
「目の前で死にかけてる相手に温情ぐらいないのかな」
「右肩を脱臼させ、骨折までしてきた相手を助ける理由なんてないと思うのだけれど」
千景はダラリと力ない右腕を見せるも、エンリは首を横に倒し、目を細めた。
「骨折ぐらいだろ? たかだか、喧嘩ぐらいでそんなこと言うなよ」
「下手したら頭を粉砕されて、死ぬところだったのだけれど」
「でも、生きてるじゃん」
「それは結果論でしょう」
「それはお前が────」
「それは貴方が────」
二人の言い合いが加速していく。
千景自身、異世界の恩恵を多少受けた身体に傷をつけた相手を生かしておく理由はない。
エンリ側から見れば、ただ喧嘩が強い不良程度にしか思っていなかった。
もう一つ言えば、殺人など犯罪行為に巻き込まれたくないという凡夫的な考えからだった。
明らかに殺されかけた側の意見ではない。
彼らの言い合いは倉庫内に響き回る。
血の滴る音は遮られ、潮風で揺れるトタンの屋根。
暖かい風が、どこから吹き、たった一つの大きな電灯を揺らす。
────刹那、殺気。
エンリと千景の二人の視線を奪う。
ヴェルセスタもすぐさまモフセンから剣を引き抜いた。そのまま間髪入れず、血に塗れた剣を彼らの視線の方向へ構え直す。
床に落とされたモフセンは少しだけ声を上げ、伏せた。
「こんばんは。探偵様と“ 同業者 ”様」
視線の先、トタンの穴の空いた天井。
空から降りてきた巨大な黒い物体。
塊の様に見えたソレは、ゆらりと立ち上がったことで、人型であることを観客へと示した。
一つの光も、肌も、その何かもに色の存在しない黒い甲冑。
この世界に、この場に明らかに不似合いなファンタジーな存在。
「自己紹介しましょう。私の名はセバスチャン。ホワイトレッグの作戦立案にして、動機づけ係……つまりは、ボスの意向をカタチにする指揮官のようなものです」
男性の声でセバスチャンと名乗る存在。
彼は執事のような挨拶『ボウ・アンド・スクレイプ』を披露して見せる。
「アンタが俺を拉致るように指示した奴か」
「ええ。私達のビジネスの邪魔をしたのですから、当然の報いですよ。ボスもまた、それを望んでいる」
わざとらしい挨拶にエンリは悪態を吐きたくなるも、現状への理解に努力していた。
ホワイトレッグというただの不良集団を相手獲っていたと考えていた。
だが、どうだろう。明らかに人外らしき存在が目の前にいる。そして、自分をホワイトレッグのボスだと言っている。
常軌を逸した後退るエンリ。彼の前に千景が出た。
「……貴方、扉の先から来たの?」
「……? 質問の意味が分かりませんが……恐らく、その答えはノーです」
千景の言葉に対して、セバスチャンは首を捻った。
異世界からの扉。メディアの情報が大きく拡散されていない現状において、扉の存在は公にされていない。
その言葉が通じないということは、彼は異世界の人間ではない。
────だったら、あの姿はなんだろうか。異世界ではない? 魔力は感じない。それなら、似たようなものが世界に存在いる……?
異世界の知識や感覚を頼りに考えるも、彼女自身も理解が出来ていなかった。
正反対に、セバスチャンは彼女の能力を理解していた。
「先程、申しましたよ。私は貴方と“ 同業者 ”だと」
「拉致監禁するような人間と同じ括りにしないでくれないかしら」
「……なるほど。どうやら、お嬢さんは“ キルロイ ”について、深くは知らないようだ」
「キルロイ……?」
セバスチャンは自身の胴体に手を突っ込み、何かを取り出した。
それはくの字に曲がった金属器。
自動拳銃であった。
「お嬢さん。貴方のソレ、こちらまで射程を伸ばせてないのではありませんか?」
千景に向けて、撃鉄を倒した。
千景へと向かってくる弾丸。それは容易く、ヴェルセスタの刃によって切り裂かれた。
それに驚くこともなく、セバスチャンは何度も引き鉄を引いた。その度、千景の目の前で火花が散っていく。
「貴方、ヴェルセスタのことを知っているの?」
「ヴェルセスタ────それが貴方のキルロイの名前ですか。とても野蛮なセンスだ」
「答えて」
「答えはノーですよ」
拳銃がホールドオープンし、弾が切れたことを知らせる。
当然のように拳銃をその場に捨て、千景達の方へと歩き出すセバスチャン。
その身体に纏った影は残穢を残しながら、奇妙にも蠢いていた。
千景はポケットから蓋のされたガラスの小瓶を出し、エンリへと投げ渡す。
中身は青空色の液体。
無駄に凝った装飾品は明らかに、この世界にあって良いものとは思えなかった。
受け取ったエンリは苦い顔をしながら、視線を千景へと送った。
「これ、なに?」
「mpaj────この世界風に言うなら、エリクサーみたいな感じ」
「飲めば、怪我が治りますってか……信じないわけじゃないけど、必要なのはアンタじゃないのか?」
すると、懐から同じ容器を取り出し、迷いなく飲み干す千景。
彼女の身体が光りだし、複雑骨折及び脱臼した肩が時間が巻き戻されるように治っていく。
「嘘だろ……」
「本当は勇者一行対策だったけど、どうにも私の思っていたよりも世界は面倒だったみたい」
エンリくんもソレを飲めば、頭の傷は回復するからとセバスチャンの方へ歩みを始めた。
彼女を追いかけるようにヴェルセスタも動き始める。
そんな彼女達を横目に、エンリは手に持ったエリクサーと、床に倒れたモフセンの方を交互に見た。
「面白いですね、その液体。私共に分けてくれませんか?」
「面白いわね、その冗談。ユーモアぐらいなら分けてあげるわよ」
両者の間合い、約数メートル。
月明かりが薄く差し込む倉庫内。
千景は立ち止まり、身体を屈む。
両者、瞬きを一つ。
月明かりが雲に覆われる。
「ヴェルセスタ、“ 木枯し ”解除っ‼︎」
「ケートゥ、射撃再生しなさいっ‼︎」
千景は前方に駆け、セバスチャンはその場で腕を組んだ。
千景の声と共に、身体がバラバラに崩れるヴェルセスタ。骨は地面に転がり、千景の手に彼の大剣が収まった。
セバスチャンの声と共に、先程の射撃姿勢を取った影の残穢が彼の後方に出現。同じ手順、同じ反動で、セバスチャンの背中ごと千景へと射撃を行う。
セバスチャンの身体から透けて現れた黒い弾丸。
先程同じ。それが分からねば、読めない着弾地点。
千景は初弾を剣で弾き返すも、二弾目は避けることはできなかった。
そのまま、三弾目、四弾目と弾丸は彼女の身体へと着弾する。
「やはり、力の理解が────」
勝ち誇ったセバスチャンが言い切る前、彼の身体が切り裂かれた。
切断面の隙間。
そこから切り裂いた人物が見えた。
切り裂いたのは当然ながら、千景。
セバスチャンの眼が追うは、撃たれはずの弾丸の行方。
「ヴェルセスタの魔法は、刃の約半径3mに嵐を発生させる」
黒い銃弾が彼女に到達する寸前。
火花を散らしながら、空中で回転していた。
「……少しばかり見くびっていましたよ」
切り裂かれたはずのセバスチャン。
その胴体は先程同様に黒い影に覆われ、カタチを保っていた。
実体のない影。
千景自身も手応えのないことを理解し、一歩だけ後ろへ引いた。
「キルロイの魔法開示。世界へその存在を理解させ、新たな能力の付与を行う。そこまでの理解がある貴方は────何者ですか?」
「貴方こそ、その怪物をどこで手に入れたの?」
一息の沈黙が世界を支配する。
どちらも答えることはない。
答えてしまえば、不利が生じてしまうという肯定。
ならば、それには新たな答えが発生する。
「私のケートゥの魔法。影の実体化有無。そして────相手の影を捕まえることができます」
その瞬間、セバスチャンを覆っていた影が解除された。
執事服のような姿をした眼鏡の青年────セバスチャン。その彼の背後から実体化巨大な腕が、千景の影へと伸びる。
千景は瞬時に後ろへ飛ぶものの、千景の影は背後から前方へ大きく向いてしまう。
それもそのはず。
セバスチャンの背中から伸びたもう一つの黒い腕が電灯を斜めに動かし、千景の影を伸ばしていた。
千景は剣を投げ飛ばし、電灯の腕を斬り落とすと、電灯は小さく揺れた。
千景の影は小さくなり、千景の背後へと伸び始める。
しかし、既にケートゥと思われる影は、千景ごと彼女の影を覆い隠そうとしていた。
「無駄です! この倉庫内、ここの全てが射程範囲。ケートゥからは逃げられないっ‼︎」
戦闘前、セバスチャンが最も信頼し、信仰し、崇めている人物から言われた言葉を思い出す。
────セバス。貴方は彼女とは相性が悪そうです。決して、勝とうとは思わず、鎧は解かぬように。
それは杞憂だったと、セバスチャンは現状に勝利の確信を持っていた。
能力の開示と、その裏に隠された二本目の腕。
実体ONとOFFの切り替えは、現実の物体に触れられるか、影を倒して触れるかの二択。
それを意識的に、マニュアルで行わなければならない。
開示によってそのスイッチを曖昧化。
つまりはONとOFF両方の性質を持つ。曖昧な存在となった影の腕は、実体による攻撃と影による攻撃の両方を同時に受けなければ、破壊されることはなくなる。
攻撃を透過する鎧としての機能をオフにするものの、マニュアルで行う必要はない。
セバスチャンの言葉の綾は、千景の上を飛んでいた。
否、飛び越していた。
「っ⁉︎」
驚く彼の視線の先、彼女の真下。
数多の骨が回転していた。
それも、赤に染まった円錐の中で巻き上がっている。
「ヴェルセスタ────グランジュテ」
伸びた黒い手が、千景の間の赤い円錐体の“ 実体と影 ”に触れてしまった。
触れたその箇所から細切れになっていき、手から前腕、上腕……まるで生きた生物のようにセバスチャンへと迫っていく。
それはバレエで使われる優雅な動き。
だがしかし、かの裁断公が扱うグランジュテは────主人の血を混ぜた刃の嵐であった。
その狂刃は、セバスチャンの寸前に迫っていた。