願いの物語シリーズ【或る記者の戯言】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第1話『こんばんは。突撃取材二十四の杉原です』

怪物大野晄弘がある試合で百七十キロを記録したとして大騒ぎになった。

 

我が国が誇る最強の怪物は野球の本場であっても変わらず暴れ続けているらしい。

 

という事で、俺は単身海を渡り、かの怪物大野晄弘に会いに行くことにした。

 

まぁ、正直野球には詳しくないが、記録だ記録だと大騒ぎしている事から大層な事なのだろう。

 

ならば、それを取材しに来たとしても、何ら違和感はないはずだ。

 

そう考え、俺は本来の目的を隠しつつ、大野晄弘への接触を図る。

 

それなりにネット上では有名なニュースサイトを運営しているだけの事はあり、大野晄弘への取材は簡単に取り付ける事ができた。

 

そして取材方式として、配信という形でも良いかという質問にも快く頷いて貰えた。

 

上々である。

 

ならば。ともう一歩踏み込んでみた。

 

「奥様にも取材に参加していただくことは可能でしょうか?」

 

「何故でしょうか」

 

瞬間。大野晄弘からの圧が俺の全身に襲い掛かった。

 

さながら肉食獣を前にした様な威圧感である。

 

サファリパークや動物園で飼いならされた見世物の動物とは違う。

 

野生で未だ狩りを続ける獣のソレだ。

 

思わずやっぱり止めたと言いたくなるが、ここで退いてはその辺のボンクラ記者と同じだ。

 

俺は構わず一歩前に踏み出した。

 

「それはもちろん。大野選手の学生時代の話も取材させていただきたいからですね。外から見た大野選手はどの様な選手だったのか。それを見たい。知りたいという声は大きい物ですから」

 

「そうですか。ですが、妻は謂れのない誹謗中傷に晒された事があります。貴方の番組に出演した事でそれが起きないという保証はありますか? 視聴者の意見に答えるという事は、そういう意見を目にする可能性があるという事ですよね?」

 

「コメント機能につきましては、任意でカットする事が出来ますので、お二人への誹謗中傷コメントは表示される前にこちらでカットしましょう」

 

「そんな事が出来るんですか。凄い人ですね。貴方は」

 

「あー。いや。私ではなく、配信サイトの機能ですが……まぁ、それは良いですか。ではコメント問題が解決されれば、問題ないという事で良いでしょうか」

 

「いえ。回答は妻に聞いてからでお願いします」

 

「分かりました。良い返事をお待ちしております」

 

そして、そんなやり取りをした数日後、大野晄弘から奥さんも含めた取材の了承を貰った。

 

それを確認し、俺は急いで配信の準備をするのだった。

 

 

 

配信当日となった日。

 

俺はスタッフと調整しながら、配信開始の時を待っていた。

 

流石は大野晄弘と言うべきか。

 

配信はまだ始まっていないというのに、既に視聴者数が一万を超えている。

 

そして、そのまま人数は増え続け、いよいよ配信開始となった。

 

「こんばんは。突撃取材二十四の杉原です。そして本日のゲストはこのお二方! ご挨拶をお願いします!」

 

「どうも。大野晄弘です。えっと、まぁ、野球やってます」

 

【知ってるわ】

 

【国内で知らん奴居ない】

 

【もっと言う事あるだろ】

 

【本場ですら有名人の中の有名人だが】

 

「えー。で、妻の加奈子です」

 

「は、はい。初めまして。晄弘の妻、大野加奈子です」

 

【はぇー。初めて見た】

 

【あんまり露出せんもんな】

 

【何がとは言わんがデッカ!】

 

【アホな事言ってると消されんぞ】

 

【悪夢見たい奴が居るらしい】

 

【奥さん小柄過ぎて大野が巨人に見える不具合】

 

【いや、杉原と比べてもデカいから、大野がデカいだけだわ】

 

【たしかに】

 

「さて早速盛り上がっている様ですが。いくつか先に番組で用意した質問をさせていただきますね」

 

「はい」

 

「まず大野晄弘さん。えー、今回投手としての最速記録を更新されたという事ですが、日々どの様な事をされているのでしょうか? 練習の方法などお聞かせいただきたいです」

 

「鍛えて、投げて、食って、寝てます」

 

【???】

 

【そりゃ、そうだろ……】

 

「いや、こう具体的にですね」

 

「二百キロ投げるつもりで投げてます。そしたら百七十出ました。後三十もその内足します」

 

「そ、そうですか……」

 

【杉原完全に困惑してるやん】

 

【流石怪物大野】

 

【怪物の意味違い過ぎて笑う】

 

「えー、っと。あ。そうですね。今ちょうどコメントにもありましたが。怪物という異名について大野晄弘さんはどの様にお考えでしょうか。もっとこういう呼び方が良い等もお聞かせいただけますと幸いです」

 

「そうですね。怪物……」

 

大野晄弘は目を閉じて少し考えている様だった。

 

そして再び目を開いてから、言葉を紡ぐ。

 

「最近、ドラゴンを倒すゲームをやったんです」

 

「そのゲームの中では、ドラゴンの他にも魔王っていうのが居て、それも倒すんですが、怪物は倒しても、倒しても復活するんですよね」

 

「きっと勇者が戦いを止めた世界でも、怪物は立ち上がって勇者の前に立ちはだかるんでしょう」

 

「勇者が来ないと知っていても、怪物は待ち続けるしか無いんでしょうね」

 

「いつか勇者が帰ってくると信じて」

 

「自分を倒してくれると信じて」

 

「待つしか無いんでしょうね」

 

大野晄弘はそう言い終わると、大きく頷いて以上ですと言った。

 

何が以上だ。異常だよ。

 

質問に答えてくれー!?

 

「大変個性的なコメント……ありがとう、ございました」

 

【わけわかめ】

 

【今の理解出来た人居るの?】

 

【奥さんはなんか大野励ましてるし、理解出来たんだろ】

 

【ヤバすぎ―! 奥さん大野語が翻訳できるのか】

 

【まぁ奥さんも大野だからな】

 

【いや、俺大野って苗字だけど、まるで理解できてねぇからな?】

 

俺を含めてほぼ全員が混乱している中、俺は流れを変えるべくまともそうな人に質問を向ける事にした。

 

そろそろ人間の相手をしたい。

 

怪物は普通の人間にはつらい。

 

「えーっとですね。ではそろそろ奥様。大野加奈子さんにも質問をさせて下さい」

 

「はい。私で良ければ」

 

「では、お二人の馴れ初めを教えていただけますと幸いです」

 

「馴れ初め。ですか。とは言っても、特別な事はそう無いですよ。小学校の時に晄弘くんが先生からのプリントを受け取らずに帰っちゃって。それを渡しに行ったのが最初ですね」

 

「そんな事あったか……?」

 

「ありました。私はよく覚えてるよ?」

 

「そ、そうか」

 

「それでプリントを渡して帰ろうとしたら、晄弘くんがキャッチボールをしよう。って言ってきたのが交流の切っ掛けでしたね」

 

【頭から終わりまで全てが酷い】

 

【大野の球を女の子に投げてたんか? 正気か?】

 

【まぁキャッチボールだし。手加減するだろ】

 

【やはり大野は幼少期から意味不明で笑う】

 

【そもそもなんでキャッチボール。二人なら色々やる事あるだろ。お人形遊びとかしろォ!】

 

「二人じゃない。その時は光佑も居たんだ」

 

【怪物二匹が女の子にキャッチボールを迫る図】

 

【より最悪だった】

 

【化け物に挟まれた加奈子ちゃん可哀想】

 

【左手一日で終わりそう】

 

いいタイミングだと思い、俺はその話題に乗る事にした。

 

「ちょうど今お話に出ました立花光佑さんについてもお二人に質問がございます。ずばり、お二人との関係についてですが」

 

「関係? と言いましても。良い友人ですよ。私とも。晄弘くんとも」

 

「それがですね? 中学まで共にあったお二人が高校時代は別の学校に進学したという事で一部界隈では不仲説が囁かれたんです」

 

「それは」

 

「光佑にはやるべき事があって、俺も選んだ先があって、そうなった。ただそれだけだ。別に喧嘩したとかそういうんじゃない」

 

「そうですね。私もお二人の話を聞いていると噂はただの噂に過ぎないんだなと思います。ですがその様な噂が囁かれる理由の一つに、大野加奈子さんの存在があると思いまして」

 

「私ですか?」

 

「はい。お三方は幼馴染として昔から共にあった。そこで大野加奈子さんをめぐって色恋沙汰のトラブルが起こったんじゃないかという話ですね」

 

「私を光佑君が選ぶ訳無いですよ。絶対にありえません」

 

「何故そう言い切れるんでしょうか。立花光佑さんは学生時代特定の誰かと交際関係にあったという話は聞きません。ならば」

 

俺の言葉に大野加奈子はやや小さな溜息を吐くと、俺や真相はどうなんだというコメントで溢れる画面を見てハッキリとその事実を口にした。

 

「私が光佑くんと家族だからです。小学校時代。立花の家に引き取られ、それ以降光佑くんを兄として見て、今日まで生きてきました。これは全て立花家の人たちの好意からです。この件について詳しく語るつもりはありません。立花家の人たちに迷惑を掛けるつもりなら、容赦はしません。この件については以上です」

 

【ひぇ】

 

【ガチやん】

 

【完全に虎の尾踏んでんな】

 

【言うて、突撃する奴は居そう】

 

【そいつら全員終わるぞ】

 

【何? 立花家ってそんなヤバイの?】

 

【いや、ヤバいのは大野加奈子】

 

【何がどうヤバいんだ】

 

【国際弁護士様です。しかも大野や妹関係の裁判で大活躍中(白目)】

 

【大野や妹の誹謗中傷をすると徹底的に追い詰められて全てを奪われるって恐れられてるぞ】

 

【通称ナイトメア】

 

【お。怪物と悪夢でお似合いだな!】

 

【笑った】

 

【笑ってる場合か】

 

【今回の番組でアホなコメントした奴は全員終わりだな】

 

【壮大な釣りでしたか】

 

【ネタ晴らしした瞬間人生終わった奴が沢山いるってマジ?】

 

【いや、大野ファンなら有名だから、そういうコメントするアホは大抵大野ファンじゃないのだ】

 

【なら、えぇか】

 

ふむ。とコメントと鋭い雰囲気で画面やこちらを見据える大野加奈子を見て引き時だなと考える。

 

まぁ、もともと話を聞ける可能性はかなり薄かったし。

 

やはりというべきか。大野加奈子から立花光佑の裏側について知る事は出来なそうだ。

 

しかし、一つ情報を知る事は出来た。

 

大野加奈子は幼い頃、立花家に引き取られている。

 

眉唾な情報だと思っていたが、まさか真実だったとは。

 

とりあえず後は当たり障りのない質問をして、終わらせよう。

 

そう進行を決めて、俺は申し訳なさそうな顔を作りながら大野夫妻に頭を下げた。

 

そして、笑顔で楽し気な質問を繰り返していった。

 

 

 

番組が終わり、俺はコーヒーを飲みながらまるで星の様に輝く夜景を見下ろし考えていた。

 

今日の番組で仕入れた情報。そしてコメントにいくつか流れていた怪しげな情報。

 

それらを頭の中で整理しながら、俺はまた一歩本命に近づけたと笑う。

 

『藤堂朝陽』

 

写真に写る笑顔は、画面でよく見る立花光佑によく似ていて、二人は確かに親子なんだと分かる。

 

きっと今でも昔と同じ笑顔を浮かべている事だろう。

 

もう少しだ。

 

もう少しで。

 

君に手が届く。

 

俺は順調に進んでいく計画にただ、笑うのだった。

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