願いの物語シリーズ【或る記者の戯言】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第6話『奇跡を起こす男、天野』

エレメンタルの謝罪配信を終え、レンタルスタジオの中を歩いていた俺は珍しい人間に話しかけられた。

 

「お久しぶりです。杉原さん」

 

「おう。木下か。久しぶりだな。なんか用か?」

 

「えぇ。少し話がありまして」

 

「んー? なんだ。エレメンタルの件か? アレの謝罪配信をこっちでやったのは向こうからの要望だぞ。俺が無理矢理呼んだ訳じゃない」

 

「あー。いや。それは別に。大した炎上じゃなかったですし」

 

「まぁいつものネタだったな。で? エレメンタルじゃないとしたら、なんだ」

 

「立花さんの事です」

 

その言葉が出てきた瞬間、俺は目を細めて目の前に立っている女への警戒を強める。

 

さて、どこで何を知ったのだろうか。

 

局に居た時から無駄に優秀だったせいで目を付けられてた奴だ。

 

警戒をしておいて損などないだろう。

 

「立花? はて、どこの立花の話だ」

 

「立花光佑さんの事です!」

 

その言葉に少しだけ安堵した。

 

もし、朝陽の名前が出てきたら、少々可哀想な目に遭って貰わなきゃいけなかったからな。

 

「立花光佑? っていうと、少し前に夢咲陽菜と一緒に出演依頼をしたな。なんかあったか?」

 

「とぼけないでください。最近杉原さんが立花さんの周りを嗅ぎまわっているのを、私知ってるんですよ」

 

「ほー。どこ情報かは知らんが。そりゃ取材する前にはある程度調べるモンだろ」

 

「その、ある程度には実家の場所も含まれるんですか?」

 

本当に厄介な女だなぁ。木下。

 

しかし、頭は良いのに、学習能力が無いのはどうかと思うけどな。

 

「当然だろ。立花光佑と大野晄弘、佐々木和樹の様な人間を生み出した土地がどんな場所か気になるだろ。何か共通点があるかもしれないしな。しかも、その場所はあの夢咲陽菜の出身地でもあるんだ。誰でも気になるさ」

 

夢咲陽菜の名前を出した時、木下の目が揺れたのが分かった。

 

動揺している。というよりは感情的になりそうになったが、抑えたってところか。

 

「で、ですが。知りたいという欲求だけで他人のプライバシーに足を踏み込むのは」

 

「何言ってんだお前は。それが俺たちの仕事だろうが。民衆は知りたがってるんだよ。善も悪も。何かを成した人間が、どういう風に育ってきたのか。何を考えて生きてきたのか。それを知りたがっているんだ。ならばあの偉大な伝説を残したアイドル夢咲陽菜と野球界でその名を知らない者は居ないとまで言われる立花光佑が生まれた家。共に生きてきた生活をしりたいと思うのは当然の事だ」

 

「夢咲は、別に偉大なんかじゃ」

 

「それを決めるのはな。お前じゃないんだよ木下。決めるのは常に大衆だ」

 

「……」

 

「大衆はな。より優れた物を求める。より醜悪な物を探す。自分を保つ為にだ。お前が何を言おうと、感じようと、考えようと、大衆の指先一つだって変える事は出来ねぇんだよ。個人がどうにか出来るのは個人だけだ」

 

「なら、杉原さんは大衆の為に、今回の取材をやっていたという話ですか?」

 

「そりゃそうだろ。それが俺の飯のタネだ。偉業であれ悪行であれ、飯になるなら俺は何でもいい。後はそいつらの背後を漁って、それらしい大衆が喜ぶような物に料理するだけだ」

 

「それなら、もう立花さんに近づく理由はありませんよね」

 

「まぁ、今の所はな」

 

「……良かった」

 

あからさまに安堵した様子を見せる木下に俺はやや蔑むような感情を向ける。

 

そうやって感情を表に出して行動するからお前はいつまで経っても、変わらず利用されるだけなんだと。

 

教えてやる義理も無いが、まぁその辺りは松尾がそれとなく教えてやるだろ。

 

まぁ俺には関係のない事だ。

 

俺はそれ以上木下の相手はせず、そのままスタジオを後にした。

 

 

 

俺は自宅に帰ってからいつもの様にPCの前に座りメールやメッセージの確認をし始めた。

 

殆どの情報は信用に値しない物であったが、その中でもいくつか気になる事を見つけ、さらに詳細を調べる。

 

そして見つけたのは、数年前に起こった一つの事件だった。

 

『高路山行方不明事件』

 

俺も現地で調べたり、関係者に話を聞いたから覚えているが、確か『あの陽だまりに咲く花』というドラマに出演していたメインの三人が悪天候で遭難したという事件だったはずだ。

 

事件からそれほどしないで夢咲陽菜の移籍騒動とかもあって、結局殆ど調査は公開されないまま消えた事件だったが、まさかここに関わっていたとは……。

 

「奇跡を起こす男、天野」

 

それは都市伝説の一つとして語られる話だ。

 

そう。どんな願いも代償を渡す代わりに叶えてくれるという男の話。

 

この天野の力を借りる事によって、会社を大きくした男が居た。

 

亡くなった息子に再会したという女が居た。

 

不治の病と言われた病気を治した子供が居た。

 

戦争で動かなくなった足を動かせるようにして、山に登った老人が居た。

 

探せば数えきれないほどに見つかる奇跡の話。

 

その中に見えてきた男が天野だ。

 

中には天使が叶えてくれたとか。不意に願いの力は己の中に宿る。なんていう話もあったが、まぁ天野の話を改変して伝えているだけだろうと思う。

 

奇跡みたいな力を持った奴が何人もいるとは思えないからな。

 

そう考えると、この天野という奴を追うのが一番現実的だろう。

 

しかし、奇跡を操る者として当然とでも言うべきか。目撃情報があまりにも雑多だ。

 

その中には嘘も多く紛れていて、どれが本当に正しい情報なのかを判断することすら難しい。

 

中には部屋に突然現れた。なんて物すらあるのだが、これが嘘か真実かを見極めるのは困難なのだ。

 

しかし、俺は幸運だ。

 

何故なら天野がほぼ確実に関わっているであろう事件を見つけたのだから。

 

それが『高路山行方不明事件』

 

あまりにも不可解なこの事件は、崖下に滑り落ちたハズの夢咲陽菜、天王寺颯真、立花光佑が殆ど無傷であったという事。

 

そして多くの救助隊を用意し、山を徹底的に調べたというのに見つけられなかった山瀬佳織が明らかにおかしな場所で発見された事など、奇妙な事しかない。

 

前者についてはイチイチ考えるまでもなく異常だ。

 

いくら立花光佑が人間離れした身体能力を持っていたとしても子供二人を抱えたまま無事に崖下に降りる事など出来る訳が無い。

 

それが出来るのなら、山瀬佳織飛び降り事件の時にもっとスマートな降り方をするだろう。

 

そう考えるなら、ここで一度奇跡が起こっている。

 

そして山瀬佳織だ。

 

こっちは前者よりももっと異常な事が起こっている。

 

何せ山岳救助隊も、警察も、消防も出動したのだ。

 

その上で山のプロたちが徹底的に探した。

 

まだ学校に通っている様な素人の子供が彼らプロから三日も隠れ続け、その上包囲網を抜けて近くの民家に姿を現した。

 

そんな事があり得るのか?

 

いや、あり得ない。

 

あり得る訳が無い。

 

救助隊の人間たちは無能の集まりでは無いのだ。子供程度の足や頭では隠れきる事など不可能だ。

 

ならば、こう考えれば自然では無いだろうか。

 

何者かが願いを使い、山瀬佳織を遭難に見せかけて殺そうとしたか、連れ去ろうとした。

 

しかし、山瀬耕作がその情報を知り、代償を支払って娘を発見した。

 

それならばこの超常現象とも言うべき状況に説明が付く。

 

山瀬佳織は、以前ストーカーの被害にあっていたという話もあるし、もしかすると山でその犯人が天野の願いを持って現れたのかもしれない。

 

そして天王寺颯真や夢咲陽菜は山瀬佳織を助けようとして、返り討ちにあった。

 

それを助ける為に立花光佑は二人と共に崖下へ。

 

大事件になる事を恐れた犯人が、三人は無事に降りる様に願い、山瀬佳織を連れ去ろうとした。

 

しかし、無事に帰ってきた天王寺颯真や夢咲陽菜がそれを山瀬耕作に言わない訳が無い。

 

あの事件の後、少しの間だが、不自然に山瀬耕作が天王寺颯真や夢咲陽菜に接触しようとして、諦めるという様な行動を繰り返していたのも、協力関係だと周囲にバレない為に不仲を演じていたのだろう。

 

流石は役者という所か。

 

だからこそ、おそらくストーカー騒ぎが内部で処理出来たと確認してから夢咲陽菜と立花光佑を抱え込み、山瀬佳織の傍に置き始めた。

 

そしてタイミングを見てから天王寺颯真とも関係を戻している。

 

上手く隠したものだ。

 

だが、これらの話はまだ俺の頭の中にだけある情報と言っても過言ではない。

 

ならば、直接確認してみるのも良いだろう。

 

どうせ向こうは人気役者だ。理由などいくらでも作る事が出来る。

 

山瀬佳織、天王寺颯真。

 

奇跡の欠片でも見つかるのならば、天野の奇跡へと繋がる手段が少しでも見つかるのならば。

 

すぐにでも行動するとしよう。

 

俺は二人に取材の依頼をそれぞれ投げる事にした。

 

そしてメッセージを送ってから、机の上に飾られた写真へと手を伸ばし近くに持ってくる。

 

「朝陽」

 

写真の中の笑顔はいつも変わらない。

 

それが嬉しくもあり、虚しくもあった。

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