願いの物語シリーズ【或る記者の戯言】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

8 / 10
第8話『佳織ちゃんの願いは多分ずっと叶わないけどね』

天王寺颯真への取材を終えた俺は、山瀬佳織との日程調整を行っていた。

 

山瀬佳織は天王寺颯真とは違い、父親である山瀬耕作が出てくる可能性があるのが非常に面倒だ。

 

奴が出てきた場合、娘には殆ど何も喋らせないだろう。

 

そうなると、何ら取材が出来ない事になってしまう。

 

だから、怪しまれないように。

 

かつ山瀬耕作が共演しにくい様に調整する必要がある。

 

そして、それは全てうまくゆき、当日を迎えた。

 

 

 

俺がスタジオ入りすると既に来ていた山瀬佳織が元気よく挨拶をしてきた。

 

丁寧な言葉遣いと態度、そして明るい表情は業界内でも評価が高い。

 

俺も、山瀬佳織を見る度に、その人の気持ちを柔らかくする笑顔を見る度に、かつて学生時代に共にあった最愛の人を思い出して気持ちが温かくなるのだった。

 

これは信頼があるからこそ。という事が分かっている為、無茶な取材はせず上手く立ち回るのだ。

 

「こんばんは。突撃取材二十四の杉原です。そして本日のゲストはこの方! ご挨拶をお願いします!」

 

「こんばんは。山瀬佳織です。本日はよろしくお願いいたします」

 

「いやー。少し見ない間にまた成長したねぇ」

 

「分かりますか! 実は身長が二ミリも大きくなったんですよ!」

 

「二ミリかぁ。自分で言っておいてなんだけど。それは誤差かな」

 

「えぇ!?」

 

天王寺颯真とのやり取りとは違い、山瀬佳織は基本的に自分を偽らない。

 

テレビでカメラを向けられても役割を演じるようなことはしない。

 

彼女はいつでも自然体だ。

 

演技をするのは舞台の上でだけ。

 

そういう所も好かれている原因かもしれない。

 

「そういえばこの前の放送は見た? 宣伝じゃないけど。天王寺君が面白い話してたよ」

 

「見ました! 映画の話ですよね! 私も雨のシーンは好きなんです!」

 

「ほほう。天王寺君とは相思相愛だね」

 

「そうですね!」

 

「うっ」

 

俺はサラリと返された言葉にダメージを受けた様にのけぞった。

 

無論演技であるが、少しダメージを受けたのも確かだ。

 

朝陽も純粋に特に深い意味を考えず返す子だったなぁ。

 

それで無邪気にこんな事を言うんだ。なんて事を思い出して僅かにダメージを受けたのだ。

 

【汚いオジサンがダメージ受けてて笑う】

 

【浄化されてもろて】

 

【純粋天使VS汚いオッサンって日アサでよく見るわ】

 

【なんてことだ。もう助からないゾ】

 

【まぁしょうがない所はある。佳織ちゃんが強すぎた】

 

「えっと?」

 

「あぁ、気にしなくても良いよ。それで映画の魅力を佳織ちゃん視点で教えてもらえると嬉しいな」

 

「はい! えっとですね。雨のシーンも好きなんですが、中盤のお嬢様だっためぐみちゃんがお掃除覚えたり、お料理覚えたりするシーンが好きなんです。色々失敗しちゃうんですけど。どうやったらもっと上手く出来るか考えているシーンとかが好きですね」

 

「あぁ。佳織ちゃんもお嬢様だし。そういう所に共感したのかな」

 

「え? 私は別にお嬢様とかじゃないですよ」

 

「え?」

 

【え?】

 

「おっと思わず固まってしまった。まったく佳織ちゃんは冗談が上手いなぁ」

 

「えっと、冗談ではなくてですね。私は貴族の生まれでも無いですし。そういう教育を受けた訳でもないので」

 

「あー。そういう認識かぁ。実はね。佳織ちゃん。お嬢様っていうのは貴族じゃなくても良いし。そういう教育を受けなくても良いんだ」

 

「えぇ!? そうなんですか!」

 

「そう。条件は家がある程度お金を持っていて、物腰が丁寧な人の事を言うんだよ。いわゆる育ちが良い人みたいな感じだね」

 

「そ、そうだったんですね。でも私は育ちが良くないと思うのですが。お母様にもよく、もっとしっかりする様にと言われておりますし」

 

【???】

 

【佳織ちゃんで育ちが悪いなら、誰なら良いねんって話なんだが】

 

「佳織ちゃん的に育ちが良くないと思うポイントはどういうのがあるのかな」

 

「えっと、ですね。恥ずかしいのですが、この前。映画を見ながらソファーで寝てしまったんです」

 

「うん。それで」

 

「はい。寝てしまったんです」

 

「そうか……」

 

「杉原さん。これは凄くだらしがない事だと私は思うんですよ」

 

「うん。まぁ、そうだね?」

 

【杉原困惑してるやん】

 

【いや、まぁ、誰でも困惑するわ】

 

【育ちが良いの基準が高い】

 

【いや、基準が高いのか?】

 

【しいて言うならよく分からんって状態だが】

 

「他、何かあるかな。ほら食事とかさ」

 

「私、本物のお嬢様を知っているんですが、お嬢様は箸で黒豆を落とさずに食べられるんですよ。私は上手く出来なくて」

 

「いや、まぁ、確かにそれは凄いな」

 

【豆類は異様に難しいからな】

 

【豆の進化系である豆腐も難しいからな。俺なんか力強すぎてすぐ壊れる】

 

【言いたい事は分かるんだけど、言葉だけ見てると心を手に入れた悲しきモンスターみたいで面白いな】

 

「あー。じゃあ立ち振る舞いとかどうよ」

 

【やけくそ杉原】

 

「立ち振る舞いですか?」

 

「そう。こうして座って話してるけど、おじさんなんて猫背だわ、体傾いてるわ。酷いモンよ? その点、佳織ちゃんは背筋も伸びてるし、座るときだってゆっくり服に皺がつかないように座るんだよな。オジサンなんてドカッって感じで座るのにさ」

 

「確かに。そういう所はお母様のお陰で綺麗に出来ている気がします」

 

「でしょ? だからさ」

 

「ですが。一昨年前の事です。私は陽菜さんに誘われてスキーに行ったのですが、リフトに乗れず、そのままそこで落ちてしまい、多くの人に迷惑をかけてしまったのです! お嬢様なら優雅に乗れたのではないでしょうか!」

 

【エピソード強すぎ】

 

【最強かよ】

 

【もうお前の負けだ杉原。諦めろ】

 

【お尻から落ちたであろう佳織ちゃん想像したわ】

 

【かわE】

 

「くっ、俺の、負けっ!? バカな」

 

「杉原さん。事実なのです。私は平凡などこにでもいる普通の女なのです」

 

「認められるか? こんなこと」

 

【杉原の物言いが完全に悪党のソレで笑う】

 

【この後主人公に完全論破されて爆発四散する敵役じゃん】

 

【何故特撮系の敵キャラは敗北すると爆発するのか】

 

【全員腹マイトしてんだろ(適当)】

 

【覚悟決まりすぎだろ】

 

【いや、普通に考えれば特撮って視聴者は子供なんだから、子供が視覚的に分かりやすいように爆発させてんだろ。少し考えれば分かるだろ】

 

【はいはい。すごいすごい】

 

【なんでも知ってるぼくちゃんが凄いのは分かったから少しは空気読め】

 

【コイツ絶対余計な事言って学校とか職場で孤立するタイプだわ】

 

そろそろ良いタイミングだし、俺は山瀬佳織にも天王寺にした質問と同じものをする事にした。

 

「そういえば。天王寺君にも聞いたんだけどさ。この映画にもあった奇跡とかってどう思う? 代償を払って何か叶えたい事とかってあるかい?」

 

「代償払ってでも叶えたい願い。ですか」

 

山瀬佳織はどこか懐かしい様な顔をして笑う。

 

その表情は、まるでそれを叶える事が出来る人間に会った事がある様だった。

 

まさか……本当に。

 

「私の願いはずっと変わりません。どこかで困っている人の悩みが無くなって、みんなが笑って過ごせるようになるのが私にとって一番の願いです」

 

「良い願いだ。その願いがいつか叶う日が来るといいね」

 

「はい!」

 

「うん。善人だけの世界なら、その願いもいつか叶うかもしれない。誰かの幸せを願う人ばかりなら……でも、まぁ世界にはどうしようもない悪党もいるから、佳織ちゃんの願いは多分ずっと叶わないけどね」

 

「あぅ」

 

俺は満面の笑みでそう言った。

 

山瀬佳織はその言葉にダメージを受けながら項垂れてしまう。

 

その姿を見て、俺は少しだけ安心した。やっぱり山瀬佳織は朝陽とは違うんだなと。

 

【オッサン……】

 

【夢見る少女の願いを粉砕する男杉原】

 

【どうしようもない悪党ってお前やん】

 

「ほら。見てごらん。このコメント欄を。みんな俺を罵倒しているだろう? 俺はただ一つ意見を言っただけなのに。これが世界だよ。佳織ちゃん」

 

「た、確かに」

 

【違うねん!】

 

【オッサン。流石汚い】

 

【違うよ佳織ちゃん! 俺は佳織ちゃんの幸せを願ってるよ!】

 

【もう悪意しかないだろ。こんなの】

 

【こんな掃き溜めを世界だと言い切るな】

 

俺はそれからコメント欄と山瀬佳織で適当に遊び、その日の配信を終わらせた。

 

ただ、現実を知らない夢想家でしかない山瀬佳織の発言が今日の話題として上がっていたのは少し意外だなと思う。

 

無論意見をただ肯定する者だけでなく、反対意見だって多く存在する。

 

しかし、それら全てを山瀬佳織はたった一回の呟きで打ち砕いた。

 

『色々意見を頂いておりますが、私は私の意見だけが正しいとは思いません。それでも、世界が少しでも優しくなって欲しいと願う人が居るならば大切な人の幸せを願ってください。それだけで世界はきっと平和になります』

 

俺はその言葉を見て、一つの端末を叩き壊した。

 

現実を知らない小娘の戯言だと分かっているというのに。

 

 

 

しかし、怒りは消えず連鎖的に思い出すのは、あの日の思い出だ。

 

親の転勤で遠くの町に引っ越すことが決まり、朝陽と別れたあの日の事。

 

俺たちの道はあの時まで、間違いなく一つだった。

 

あのままあの場所で共に過ごしていたなら、今も俺の横には朝陽が居た筈なんだ!

 

なのに。

 

「立花……幸太郎……!」

 

憎い。

 

あの男が。

 

後から現れて、俺から朝陽を奪っていったあの男。

 

必ず見つけだして、朝陽を取り返す。

 

その為に!

 

「奇跡の願い。必ず手に入れる。この間違った運命を正しく戻す為に」

 

俺は画面に映った奇跡に関わった人々のリスト、そして山瀬佳織が出会ったであろう男についての報告書を睨みつけた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。