極月の少年たち   作:板屋 響

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第1話

 自分はちゃんと笑えているだろうか。

 少年はそっと左頬に手を当てた。……大丈夫、いつも通りつり上がった口角は快活かつ軽薄なスマイルを描いているはず。

 

 「――ね~、あおサマまだなの? もう30分待ってるんですけど」

 

 「さすがにサギだよねー 金返してほしい」

 

 舞台袖から聞こえるざわめきはどう考えても好意的ではない。でも行くしかないのだ。

 

 「――ハイどうも~! 極月学園一年、仁羽(にわ)風雅(ふうが)です!」

 

 ……誰だお前は、と客席が静まりかえる。

 

 「実はその、猪之塚(いのつか)先パイ、ちょっとトラブルがありまして……

  あと少~しだけ時間がかかりそうなんです」

 

 ざわつきが倍になって帰ってきた。ふざけんな、と怒号も交じっている。

 そりゃそうだよ。でもこっちも仕方ないんです。

 少年はこの状況を仕組んだ人物(プロデューサー)を改めて恨んだ。

 

 「ええ、ハイ、そうですよね、このまま待ってもらうつもりはありません、もちろん

  ……だから少しだけ、ボクで暇つぶし、してくれませんか?

 

 

  ――――黒に染まれ……!」

 

 

 嗚呼、どうしてこんなことに。

 

 

 ☽☽☽

 

 

 「――本当にプロデューサー(961プロのヒト)だったんですね メール無視してすみませんでした」

 

 目の前の少年、仁羽(にわ)風雅(ふうが)は手のひらの名刺を矯めつ眇めつ、へぇ、はぁ、ほ~んと曲げたり裏返したり光に透かしたりしている。

 

 「まさか詐欺メールと思われて放置されていたとは…… 

  それでやはり、どうしてもスカウトは受けていただけませんか?」

 

 「あ~、教室まで来てもらって申し訳ないんですけど……

  スカウトは全部お断りしてるんです

  定期公演に出てから何度かお話はいただいたんですけどね

  理事長(黒井さん)から何も聞いてませんか?」

 

 「ええ、入試面接のことは多少聞き及んでおります ですが……」

 

 「なら分かりますよね、ボクは単なるN.I.A要員で―― やっっべ、次のコマ行かないと」

 

 「?! まだ15分はありますよ」

 

 「場所がデザイン棟なんですよ 縫製コースの講座ですから

  もーなんでこう遠いかな~

  ま、色々勉強できるのは極月(うち)のいいところですよね」

 

 それじゃ、と巻き毛をおどらせ去っていく小柄な背中をなすすべもなく見送りながら(プロデューサー)は数日前の理事長との会話を思い出していた。

 

 ☽☽☽

 

 「――わが極月の男子アイドルがなんと呼ばれているか、お前は知っているかプロデューサー?」

 

 「……女子の成績を底上げ、いえ、サポートしてくれる頼もしい『傭兵部隊』と」

 

 「まったく嘆かわしい、せめて燐羽の半分でも成果を挙げてから名乗るべきだ

  今のままではN.I.Aの票の嵩増しにもならん」

 

 国内では初星学園に次ぐ歴史と規模を誇るアイドル養成校、極月学園。

 だが女子は白草姉妹を筆頭にビッグネームを多数輩出する一方、男子は一向に振るわないままだった。

 最高水準の教育を叩き込まれた選りすぐりの美少年が全国のオーディションに送り込まれ一定の成績を挙げてはいるが、そこまでなのだ。

 個性と精彩に欠ける量産型の競技アイドル云々と揶揄されたあげく、ついたあだ名が『傭兵部隊』である。

 961プロの過去のスキャンダルで有望な人材に避けられているのかもしれない……が、そこは一プロデューサーがとやかく言えることではないだろう。

 

 「――それで私が呼ばれたのは男子アイドルのテコ入れ、失礼、プロップアップというわけですね」

 

 「無理に言い換えんでいい!

  とにかく、お前には原因分析もかねて男子アイドル一名をプロデュースしてもらう

  得られたデータをもとに来年度から抜本的な改善プログラムを実施予定だ

  候補生の一覧だが――」

 

 「候補はもう見つけています 資料はこちらに」

 

 「話が早いな ……いかんな、こいつは駄目だ」

 

 「なぜです? 仁羽くんは優良なサンプルになるはずでは」

 

 仁羽 風雅。Vo、Da、Viすべてのバランスが取れた優秀な成績で高等部から編入した一年生。

 年功序列の気風が強い極月では良くも悪くも目立つ存在と聞く。

 

 「趣旨がずれている、私は原因分析と言ったはずだ

  お前にはむしろ振るわない生徒をプロデュースしてもらいたい」

 

 「ですが彼は入学後すぐに定期公演入りしました これは男子初の快挙ですよ

  仁羽くんを分析すればきっと後続にも――」

 

 「ヤツこそ傭兵なのだよ 優秀ゆえに入学こそ許可したが、アイドルとして根本が……

  まあ一度会って話してみるといい、そこまで入れ込んでいるのならな

  さて、改めてプロデュース候補だが――」

 

 ☽☽☽

 

 ――――たった一度で諦めるわけにはいかない、仁羽 風雅、彼をトップアイドルにするのは私の使命なのだから。

 

 

 

 

 

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