「
「おっ、話は聞いてるよ 君が仁羽くんだね」
年齢のわりに華奢な仁羽少年よりさらに小柄な30代男性――
「初めまして、猪之塚のプロデュースやってます、灰谷です
いやー今日はごめんね、社会見学のつもりでゆっくりしてていいから!」
「いえ、その、初めまし、て? ハハ、アハハハハ……」
――仁羽少年からはいつもの人を食ったような態度が消し飛んでいる。
「大丈夫だよー 緊張しなくても! もしかして寝不足?」
「す、すいません 今日が本当に楽しみで
ボクもライブは何度かやらせてもらったけど、やっぱり大きい箱は設備が違うし……
あ、あのスポットライト、西芝の最新型ですよね?」
「さすがよく勉強してるねぇ、猪之……もういいや、
「――灰谷さん、うるさい 今ちょっと集中してるから――
え、今日って対バンだった? 俺まだ挨拶してない……」
ぬぅ、と長身の影がけだるそうに現れた。
彫刻的な鋭い容貌も相まって威圧感がすさまじい。
「あぁ……ごめんね蒼くん こちら今日のヘルプの仁羽くん
「……ごめん、最近余裕なくて でも来てくれてありがと
衣装かと思ったよ すごく派手な恰好だから」
「いえそんな、こちらこそよろしくお願いします!
……プロデューサーさん、ボクそんなにハデですかね
制服そのままで直行してきたんですけど」
鮮やかな空色のキャンディーストライプが目に痛いクレリックシャツにレモンイエローのネクタイ、
スラックスは生地こそ指定の黒いサージだが、本来は女子同様に細身に仕立てるべきところ敢えてクラシカルなゆったりしたシルエット。
言い逃れようのない改造制服である。よく平気な顔で登校できるものだ。
☽☽☽
なんだかんだと時間は過ぎて、もう本番直前。
仁羽少年もスタッフに交じってクルクルと働いている。
「――ハイ、衣装チェックOKです」
「……ずいぶん手際が良いんだね」
「実家がテーラーなんです それでなんとなく見よう見まねというか……
そういえば猪之塚先輩、この衣装デビューライブのときのですよね」
「そうだね さすがにサイズアウトで仕立て直しになったけど
……よく見てるんだね」
「いえ 子役のときとはイメージ真逆で強烈でしたから
あのときはビックリしましたけど、先輩のこと、ずっと尊敬してるんです」
「そっ、か……」
「あっスイマセン、本番前にしゃべりすぎで――先輩?」
マイクの落ちる硬質な音が舞台袖に響く。
――――やはりこうなったか。