極月の少年たち   作:板屋 響

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第5話

 「――――それで、どうしてもスカウトは受けていただけませんか?」

 

 「あなたはウソをつくひと それで理由は十分ですよ

  …………言ってくれればよかったのに」

 

 「……何をです?」

 

 「全部ですよ! ボクが代役ってこと、猪之塚先輩の体調のこと……全部

  言ってくれたら練習だってしました

  それに……あんなプレッシャーかけるようなこと、知ってたら絶対言わなかったのに」

 

 夕方のカフェテリアは予想以上に込み合っている。

 仁羽少年が待ち合わせ場所に指定してきたのは、二人きりで会うのはごめんだ、という意思表示だろう。

 それというのも、極月の男子は無用な()()()()を避けるため女子生徒と接触し得る機会を厳しく制限されているのだ。

 男子がカフェテリアを利用できるのも夕方だけなので、この時間帯はレッスンで腹をすかせた野郎どもが殺到するのである。

 (プロデューサー)としては、こういうところが極月男子の不振の原因なのではと思ってしまうのだが……今はそんな場合ではない。

 

 「――――どうしてあんなウソを? 今日はそれだけ聞きに来たんです」

 

 「…………あなたには才能がある

  だが仁羽さん、あなたは

  『自分はアイドルにはならない、N.I.Aで他人に票を吸われても悔しくない』とまで言った」

 

 「まさかボクのせいだと――――」

 

 「いえ、そんなつもりでは 

  ……ですが比較的大きな舞台で世間の評価を受ければ、あなたの気持ちも変わるかと思いました」

 

 ――――実際「猪之塚蒼 復活ライブ」で急遽代打を務めた仁羽少年の映像は、それなりに分厚い猪之塚ファン層を通じてネットに拡散された。

 それがN.I.A開幕とほぼ同時期だったこともあり、彼のランキングは数か月前まで一般人だったと思えないほど高水準で推移している。

 

 「――本当のファンは怒ってますよ

 

  『あおサマ観にいって知らんブスのドヤ顔踊り見せられた 金返せ』

  『無駄にキレッキレで腹立つ カメラ目線やめろ』

  『変に大人ぶってヤな歌い方』

  『その服ふざけてんの?』

  

  SNSだって酷いDMがたくさん……

  ……あなたはボクに、ボクが一番尊敬してるアイドルの顔に泥塗らせたんです」

 

 「結局、猪之塚さんが歌えたのはアンコール一曲だけでしたからね

  正直、私にも賭けでしたよ

  だが『先輩に代わってぶっつけ本番で歌い切った新人アイドル』という物語(ストーリー)は市場アピールに必要だった」

 

 仁羽少年も、あそこまで追い詰められてこそできた演技ではなかったか。

 

 「……賭けって、猪之塚先輩(ひと)をなんだと――――」

 

 「喉の不調は完治しているのに、また声が出なくなるのを恐れて歌えない臆病な()アイドルです

  率直に言います、彼には踏み台になってもらいました」

 

 「…………最低だよ、アンタ」

 

 少年は()()()()()()を置いて立ち上がった。

 

 「――――待ってください、これ(私の名刺)はあなたが持っているべきだ」

 

 べきってなんだよ、と冷え切った瞳が問う。

 

 「確かに私は勝手な手出しをしました だがもうN.I.Aは動きだしている

  必要なときは絶対に力になります ……これは嘘ではありません」

 

 我ながら身勝手な言いぐさである。

 ……結局少年は、わずかにためらってから思いきり拳で名刺を握って去っていった。

 

 きっともう、私と一秒でも余計に同じ空間にいるのが嫌だったのだろう。

 

 

 ☽☽☽

 

 

 本校舎とデザイン棟を結ぶ渡り廊下はすっかり暗い。

 ――――あんなヤツ(プロデューサー)に時間使うんじゃなかった。

 今日何度目かわからない後悔を押し流すように、仁羽少年は歩調を速めた。

 アイツの言いぐさを認めるようで腹が立つが、確かにN.I.Aが始まってから忙しすぎる。

 広報、ミニライブ、地域ボランティア……それでいてレッスンまでより一層激しいのだから、縫製コースの課題がすっかり後手にまわっていた。

 作業スペースを予約できてよかった、今日のうちに裁断と端処理をすませてそれから……

 

 頭で段どりを組み立てながらデザイン棟に入ろうとしたその時、いきなり背後から肩をつかまれた。

 

 

 「――――仁羽風雅クン……だよね」

 

 

 ふりむくと知らない上級生が3人、ニタニタ笑いながら立っていた。

 

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