ブルアカ転生記譚   作:背教者

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今話で桜花祭イベントは終了です
先生→掲示板→アヤメ→ニヤの順で視点が変わります
先生視点以外でAI絵があります




百鬼夜行桜花祭 完

 

 

 チチチ、と小鳥の鳴声を契機に意識が浮上する。障子の窓から漏れ入る光が朝になったことを知らせていた。

 耳を澄ませば、遠くから大勢の人の喧噪も聞こえてくる。

 

”ん……寝ちゃってたか……”

 

 ニャテ・マサムニェによる犯行をどうにか防ぎ、戦後処理を進めた後、レイトが仲立ちする形でアヤメとナグサの話し合いが行われた。

 アヤメは『委員長』への執着は無く、百蓮を扱えて怪異を倒せたナグサにその座を譲る事を決断していた。

 

 しかし、そこでナグサが異を唱えた。

 

 転生者の皆からの話から類推するに、元々幼馴染らしいアヤメの後を追うように百花繚乱に入り、委員長に選ばれるくらい人助けを行い、人心を集め、邁進していたアヤメの背を追っていたナグサにとって、彼女は太陽のような存在だったようだ。

 百花繚乱の副委員長として動けていたのも、アヤメに並び立つ者として相応しい者であろうと振る舞っていたから。

 

 ―――ナグサは、行動の多くをアヤメに依存してしまっていた。

 

 これはキキョウ達も知らず、おそらくアヤメしか知り得ないナグサの真実。

 アヤメが居なければ、おそらくナグサは副委員長―――ひいては委員長としての役目を全うできないだろう。

 しかしアヤメも、事実か定かではない伝承に縋り、大雪原へと逃げる程には追い詰められていた。そして今の彼女にはもう百花繚乱委員長として動く気そのものが無くなっている。

 あちらを立てればこちらが立たず。

 どちらを優先しても優先されなかった方から倒れ、結局は共倒れになる。

 

 そこをどうするべきか悩んでいたところで、思いもよらぬことにナグサが何かに勘付き、アヤメがナグサとの対話を望む展開になった。

 

 アヤメが言い過ぎたりしないよう、冷静に話が出来るようにとレイトが仲立ち人として参加。

 その結果が気になっていたから起きていようと思ったのだが……いつの間にか寝てしまっていた。

 しかも布団に入っていなかったのに、なぜか布団の中で目を覚ました。

 寝ている間に誰かが運んでくれていたらしい。

 

”誰が運んでくれたんだろう……?”

「―――起きたか」

”きゃあ!?!?!?”

「んがっ?」

 

 突然声を掛けられて、気を抜いていた私は全身をびっくぅっ!!! と飛び上がらせて悲鳴を上げた。

 眠りこけているセリカも驚いたように目を覚ました。

 

「な、なになになんの悲鳴!?」

”わぁごめんセリカ! いきなり声を掛けられてビックリしちゃって……”

「はぁ? ……って、レイト先輩じゃない」

”え?”

 

 寝ぼけ眼をくしくしと擦ったセリカが私の後ろを見て言う。

 振り返れば、開いた襖で隔てた廊下側からじっとこちらを見下ろす制服姿のレイトの姿があった。

 

「おはよう二人とも」

”あ、おはよう……いや、ごめんね? 起き抜けで気が抜けてたから……”

「気にしなくていい。それと先の疑問だが、先生を布団へ運んだのは俺だ」

”そうだったんだ。ありがとう”

「構わない。いや、体は労ってほしいが……本題だが、そろそろ朝食の時間だ。身支度を整えたら来てくれ」

 

 そう言い残したのを最後に、彼はパタンと襖を閉じた。どうやら寝過ごすかもと見て声を掛けに来てくれていたらしい。

 私とセリカは手早く着替えて、陰陽部の接待用の客間まで移動した。

 

「おはよう先生、セリカさん」

「おはよう二人とも」

”お、おはよう……”

「おはようございます……?」

 

 客間に行くと、アヤメとナグサがレイトを挟むように座布団に座っていた。どうやら一緒に食事を食べる事になったらしい。

 そして二人の間には、昨夜話し合いの前には無かったくらい柔らかい雰囲気が流れていた。

 決定的な溝が出来たという訳ではないあたり、最悪な結果になったという訳ではないのだろうけど……

 どういう経緯を辿ったのかが想像できない。

 

”レイト、説明してもらえる?”

「ああ。二人も構わないな?」

「大丈夫だよ」

「うん」

 

 二人の同意を得られた事で、朝食を食べた後、昨夜の話し合いで何があったのかを話してくれた。

 

 ―――結論から言えば、折衷案を採用することで決着したようだ。

 

 百蓮を受け継いだナグサが委員長に就任。アヤメは副委員長に降格。

 組織の運用は今のナグサ主体、アヤメの単独行動を維持。

 一先ず組織としての体裁や運営、内部と外部の軋轢などはこれで対応する事に決定したとの事だ。桜花祭が終わってから仕事の引継ぎを始めて、完了次第、就任などもするらしい。

 

 勿論そこに至るまでに紆余曲折はあったようだ。

 溜め込んでいた事をナグサにぶちまけたり、『継承戦』という下克上システムの模擬戦を行ったり。

 まさかのまさか、その『継承戦』の証人としてアヤメから聞いていたクズノハが立ち会ったり。

 ナグサにぶちまけた事の内容――恐らくは頼られ過ぎる事への不満、自分と周囲の認識の齟齬によるストレス――までは語られなかったが……

 ひとまず、丸く収まったと言える結果になったようだった。

 

"クズノハって人、今も生きてるんだね……"

 

 クズノハが認めたという継承戦の証人書を見た私は、思わずそう呟いた。

 たしか何百年も遥か昔の初代委員長という話だけど……

 

「存在はしている。だがそれは、彼岸と此岸(しがん)の狭間にある"黄昏の寺院"という空間内のみだ」

「レイト先輩ってクズノハっていう人のことに詳しいの?」

「百鬼夜行に足を運ぶこと自体は少なかったが、それでも7年前から百花繚乱とは付き合いがある。だから伝説を聞き齧る機会はそれなりにあった。七稜を大雪原で一番に見つけられたのも、車という足があったからだけでなく、クズノハ伝説で"黄昏の寺院"の場所を知っていたからだ」

”あーなるほど、それで……”

 

 ナグサ達より後なのに何で先に見つけられたのかは疑問だったけど、そういう事だったのかと納得した。

 それにしても、7年前と聞くとニャテ・マサムニェが言っていた『7年前の惨劇』が思い浮かぶ。多分いま言っているのは当時の連邦生徒会長に目を付けられた事や許可を取れるようになった事の方だろうけど。

 気になる事はあるが、今はアヤメの処遇に関して聞く事が重要だと自分を律した。

 

"脱線してごめん。話を戻すけど……体制としては以前とそんなに変わらない訳だよね。アヤメが抱えてた事を私は聞いてないけど、アヤメにとって辛い状況のままなんじゃ……?"

「確かにそうだ。だがそれは、七稜自身が決めた事。厳しい事を言うようだが七稜が自ら動き、打開しなければならない事だ」

 

 百花繚乱に在籍したままだと実情は変わらないのでは、このままではアヤメの負担もそのままではという疑問に、レイトはそう返してきた。

 その返答に、そして意味する事を鑑みて、私は少し眉を顰めた。

 

”それは……厳しいというか、酷じゃないかな”

 

 アヤメは周りの事を気にする余り自分が感じている事を言えなかった。

 頼みを断れずに我慢してしまう子に、自ら動くよう言って終わりというのはフォローとしては良くないと思った。

 

「そうだな。その自覚はある」

 

 私のその心情を、あるいはレイトも予想していたのか。あっさりと認めて首肯した。

 それから厳めしい顔のまま続ける。

 

「それでも……七稜が、選んだことだ」

「そうだね。私は自分の意思で副委員長として残ることを決めたから」

 

 言葉を引き継ぐように毅然とした顔でアヤメがそう言った。

 昨夜は退部することを固持していただけに、真反対の事を言っている様子には少なくない心配の念が浮かぶ。

 

”……辛かったら、誰かに頼るんだよ。ナグサやキキョウ達もいるし、レイトや私もいるからね”

「そうだよ。私は、必ずアヤメの手を掴むから……言われなくても、気付いてみせるから」

「……頼りにしてるよ」

 

 私の心配に同調したナグサに、アヤメは恥ずかしそうに苦笑してそっぽを向いた。

 昨夜はすごく剣呑だったけど……これなら大丈夫そうだ。

 

”冷静に二人の仲を取り持てたみたいだね、レイト。凄いね”

「……御稜が違和感を無視せず対話を求めた時点で、こうなる事は予測出来ていた。俺は二回、軌道修正のために口を挟んだだけだ」

”その二回は、きっと君が思ってる以上に大きな役割を果たしたと思うよ”

 

 転生者のみんなからは、アヤメとナグサが二人きりで対話した末に大雪原で仲違いをしたと聞いている。

 原作とやらと然程変わらない感情を抱いているとすれば、二人きりで話し合いをしていれば恐らく同じ結末になっていた筈だ。少なくともアヤメは退部して百鬼夜行からも姿を消していた。それを追ってナグサも姿を消すか、心ここに在らずで呆然としていたかもしれない。

 キヴォトスに来たばかりの私では、いまここに二人は居なかった。

 

「先生の言うとおりだよ。レイトさんが話し合いの中で止めてなかったら私ぜったいに関係修復が無理なくらい爆発してたから。そもそもキキョウ達が居たところでも爆発しかけてたし」

「まあ……七稜が表情を無くした時点でマズいとは察したからな……」

「あの時のアヤメさんの顔、すっごい怖かったわ……」

 

 アヤメの言葉に、レイトは少し遠い目をして、セリカは少し怯えたように身を震わせた。

 

”私もまずいとは思ったよ。事情を知らないから私が止めても火に油を注ぐだけって思って、動けなかったんだけど。レイトが動いてくれてよかった”

「……激情に駆られた末に仲違いに至った場面に立ち会った教訓が活きたようで何よりだ」

”そ、そうなんだ……経験豊富だね……”

「各地を転々としているからな」

「つまり先輩が賞金稼ぎや傭兵やってる時の経験って事よね。傭兵稼業中に仲を取り持つことってあるの……?」

「自治区を跨ぎそうになった時の事後処理、ヴァルキューレと各自治区の治安維持部隊やSRT間の作戦会議等でな。それをするようになったのも3年生になってからの事だが……」

「それ先輩だけの例外じゃない?」

「個人で自治区間の折衝をする点はな。だが要はその都度の人間関係に過ぎない。社会性、協調性という点で言えば誰だろうと必須だからだ。特別な話ではない」

 

 そう言ってレイトは食後のお茶を淹れられた湯飲みを傾ける。

 

「じゃあ昨日、アヤメさんが退部するって言ってたのを性急って言ったのも折衝ってやつの判断なの?」

 

 そんな彼に、お茶を啜りながらむーと難しい顔で聞いていたセリカが疑問を投げた。

 それにぴくりとアヤメ達が反応する中、それに気づいていないのか、あるいは流すことにしたのか、レイトは特に言及せずセリカに顔を向けた。

 

「……あれは折衝というには、多少踏み込み過ぎてはいたが。まあ間違いではない」

「あれってどういう考えで言ったの?」

「そうだな……仮に七稜が百花繚乱を辞める事について、あのまま事情を話さず御稜に認めさせた場合、そのあと七稜はどうなっていたと思う?」

「辞めた後は……普通の学生になるだけじゃないの?」

 

 小首を傾げながらセリカはそう答えた。

 

「立場上はその通りだ。だが実情は違う」

 

 彼は表情を変えないままそう応じた。

 言わんとする事を私やアヤメ達は察したが、この場で唯一分からないらしいセリカが疑問で顔を歪めた。

 それを見て、レイトは補足するためか更に続けた。

 

「人間関係はどうなる? 七稜は、誰からも認められていた委員長だった。七稜を評価し、慕ってきた後輩、同僚、街の人々がどう接するか――――『どうして辞めたのですか?』と問う者が多いだろう」

 

 そこまで言われて、セリカもはっとした顔になった。

 

「そう、結局話さなければならない。七稜本人の口から語られなければ誰にもわからない事が理由なのだからな。当然の帰結だ」

 

 そう言った後、彼は右隣に座るアヤメに目を向けた。

 

「話したくないから何も言わず辞める選択を取った七稜からすれば、堪ったものではないだろう。問われ続け、ストレスを抱える未来は想像に難くない」

「ま、そうだろうね。多分百鬼夜行から逃げてたよ。転校してセリカさんの先輩としてアビドスに転がり込んでたかも?」

「えっ!? そ、それは……」

 

 眼帯を着けていない菫色の左目に悪戯めいた色を乗せ、笑いながら言うアヤメに、セリカはたじろいでいた。

 何も知らなかったら喜んでいたかもしれないが、転校してきた人が何も事情を話さず、問題の種であると仮定すれば、それは決して喜ばしい事ではない。

 

「つまり、あの時点の七稜の判断は誰のためにもならない決断だった。納得できない者が行方を追うだけのイタチごっこだ。そう判断したから七稜が泣きついてきていてもああ言った」

「な、なるほど……」

「加えてあの場で内心を曝け出しても百花繚乱が立ちいかなくなる事も目に見えていた。それは花鳥風月部に隙を晒すも同然。だからあの場で俺は七稜を止め、桐生にそれらしい事を言って急場を凌ごうとした……御稜が気付かなければ、俺も気が気でない日々を送っていただろうな」

 

 ふぅ、と。短いが重いため息を吐き、彼は遠い目でまた湯飲みを傾けた。

 その原因になっていたアヤメは居心地悪そうにそっぽを向いているし、遠回しに称賛されたナグサは顔を赤くして俯き気味に床を見つめている。

 三者三様、なんとなく性格が伺える反応の差だ……

 

「ともあれ、御稜が委員長になる理由は主に『百蓮の資格の有無』として伝達される。丁度桜花祭の顛末や『百鬼夜行絵巻』を管理する過程で怪異についても言及されるからな。魔眼のこと、クズノハや継承戦の結果、そして七稜自身の事を話すかどうか、話すとしてどこまでかは七稜が決める事だ」

「……失望、されないかな」

 

 細々と、弱々しい問いかけだった。

 周囲の様子を、自分を見る目を気にして、期待に応えようとし続けた子供が抱く恐れだった。

 

「私は……ビックリしたけど、でも失望なんてしてない。むしろ、アヤメの悩みを知れて……嬉しかった」

 

 白雪の少女はそう言って首を横に振り、微笑んだ。

 

「アヤメはたくさん私達を助けてくれてた。私のことも、ずっと。でも……頼ってくれた事は、殆ど無かったから。個人的な事だとホントに今まで無かったかも……? だから嬉しかったよ」

「ナグサ……」

「きっと皆も同じ。私達はアヤメの事をよく知らなかったから、逆にアヤメを困らせてたんだよ。私は特に……ね」

 

 ナグサはそっと眉を寄せて、そう自嘲を零した。

 そんな彼女にアヤメが悲しみか、悔しさ故か、顔を歪ませた。

 

「ははっ……ナグサが、そう言うなんて。アヤメならって言い続けると思ってたのに……本当に、変わろうとしてるんだね……」

「うん。自分でも意外に感じてる。でも……アヤメが、本気で辛そうだったから。悲しそうに、でもちゃんと教えてくれたから」

 

 それに―――と、ナグサがアヤメに向けていた視線を少しずらし、二人に挟まれて空気に徹そうと瞑目していたレイトに目を向けた。

 

「レイトさんが間に入って、教えてくれたから」

「確かに。私とナグサだけじゃ……ロクな事にならなかったね」

「仲立ちをこなせたようで何よりだ」

 

 言及された彼は真面目くさったようにそう言った。

 

「一先ずは今日の桜花祭の後、百花繚乱は再出発をする事になる。七稜、そして御稜。お前達の人生だ。自分の意思で、自分の足で進め」

 

 彼がそう言うと、二人の表情が少し曇った。

 不安げな顔で、揃って青年を見やる。

 

「……自分の意思で……」

「……私達に、出来るかな?」

 

 それは、不透明な未来を思っての不安からくる問いかけだった。どちらにとっても小さくない変化があったからこその不安。

 そんな二人に見られた青年は、目つきを柔らかくした。

 

「御稜は自ら七稜に、そして自身に向き合った。七稜は自ら行き先を選んだ。どちらも苦痛を伴う選択だったが……それでもお前達は、誰に言われずともその道を選んだ」

 

 その声音は、彼にしては珍しく硬さを感じさせない安心感のあるものだった。

 同時、感慨を抱いているようにも聞こえた。

 

「勿論これからも楽な道のりではないだろうが、桐生達がいる。必要になれば陰陽部、修行部、シャーレの先生や俺なども呼べばいい。やれるだけやってみろ……生きていれば、何とかなるものだ」

 

 二人に言い聞かせるように、静かにレイトが締め括った。

 アヤメとナグサは神妙な面持ちで、はい、と声を揃えて返事をした。

 

 ―――そのあと、諸々を陰陽部や百花繚乱のみんなに伝え終えた私達は、無事に開催された桜花祭へと繰り出した。

 

 昨夜あれだけ大騒ぎがあったから開催出来るかどうか心配だったのだけど、キヴォトスの人達は銃撃戦に慣れているからか、観光客もお店側も普通に出ていた。昨日凄かったねぇと笑いながら祭りを楽しんでいる。

 戦ったのが廃墟の奥だったのも功を奏したのだろうとはナグサの談である。

 

「主殿、主殿! こちらのお店もおいしいものが揃ってるんですよ! あちらの屋台も老舗の方が出してまして!」

「先生、あそこの焼き鳥も美味しいよ。あそこの人のところはタレが独特でね……コクがあるの」

 

 案内役は元気な忍者狐娘ことイズナと焼き鳥大好きっ子のナグサが買って出てくれた。

 ニャテ・マサムニェに騙されていたとはいえ、彼女もこの桜花祭を楽しみにしていた一人。仕事が終わって解放された今、以前言っていたように私を案内すると気合を入れていた。

 ナグサは色々あったから気分転換で、とキキョウ達により見回りのシフトから外されていた。まあ遊びとはいえ彼女がいると分かった上で暴れる人も少ないだろうし、ある意味警邏にはなっている訳だが。

 そして彼女たちは私の護衛も兼ねている。

 セリカは色々学ばせてもらうと言ってシズコに渡りをつけて百夜堂の短期バイトに行ってしまった。彼女のアビドスの借金返済の主な手段はバイトで、看板娘の技術を学ぶ気とのことだ。

 

『アビドスには無い催し事だ。こんな時ぐらい借金返済の事は忘れて、羽を伸ばしても問題無いが』

『うっ……いや、でも花火が上がる頃までのバイトだから! 賄いも出してもらえるし! というか羽を伸ばすって事なら先輩こそだからね!?』

 

 フシャーッ! と猫が怒るかのように髪を逆立てながらセリカが反論。

 そこに割って入ったのはアヤメだった。

 

『じゃあ私が連れ回して羽を伸ばさせるよ』

『……そもそも、俺達は先生の護衛を兼ねているのだが』

『そこはこのイズナにお任せ下さい! 主殿には不逞の輩の指一本たりとも触れさせませんとも!』

『私も見回りのシフトから外されて暇だし……先生の護衛とお祭りの案内をするよ』

『……先生、久田と御稜に案内と護衛を引き継がせても問題ないか?』

”いいよー。みんなも楽しんできてね!”

 

 そんなこんなでアヤメはレイトと祭りを回り、セリカはバイト、イズナとナグサが私の案内と護衛という事でこの桜花祭を楽しむためにそれぞれ繰り出したのだった。

 

 


 

 

100:名無しの転生先生★

子供の体力って凄いねぇ……

先生もう疲れちゃった

【はしゃぎ回るイズナと焼き鳥中心に屋台の食べ物を両手に持っているナグサの図】

 

103:名無しの転生生徒

肉体的にもだけど精神的にも体力厳しくなるよな

 

106:名無しの転生生徒

おれ肉体はJKだけどお祭り楽しむだけの気力そんなに無いや

 

107:名無しの転生生徒

意識が省エネを心掛けようとしちゃうからな

 

109:名無しの転生生徒

リアルナグサも焼き鳥大好きっぽくて草

 

110:名無しの転生生徒

幸せそうにもっちゃもっちゃ食べてて可愛いなぁ

 

111:名無しの転生生徒

お祭りの屋台だからこその味とかあるよなぁ

先生はどんなの好き?

 

114:名無しの転生先生★

>>111

東京カステラとかたこ焼きとか好きー

焼きそばもいいけど、そっちは海の家のメニューの方が好きかな?

まあ海の家の焼きそばは一回しか食べた事ないけどね

 

117:名無しの転生生徒

分かるわー

これはこの時! みたいな自分にとっての定番あるよな

 

118:名無しの転生生徒

お祭りのたこ焼きのざっくばらんなアオサやカツオブシ、ソース、焼き加減がまたたまらんのよな…

 

119:名無しの転生生徒

てかキヴォトスに東京カステラってあるんか?

 

121:名無しの転生先生★

>>119

あったよー

たまに日本の地名の食べ物あるよねキヴォトス

 

124:名無しの転生生徒

まあ名古屋めしがあるらしいからなキヴォトス

 

125:名無しの転生生徒

紅茶の茶葉とかも日本で聞いたことあるものが多いんだよね

 

126:名無しの転生生徒

調理方法や材料名とかもだけどちょくちょく外の世界の繋がり感じられるんだよね

最初の頃はこれでノスタルジックに浸ったもんだ……

 

128:名無しの転生生徒

リアルになったキヴォトスの外ってどうなってんだろうな

貿易してるとは聞いたことあるけど実態分からんのよね

 

129:名無しの転生生徒

先生が来たところってのも多分違うだろうしなぁ

 

131:名無しの転生生徒

諸々が終わったら確かめに行ってみたいね

 

134:名無しの転生先生★

だねぇ

 

さて、そろそろ花火の時間だ

話に聞くミレニアム製ホログラム花火がどんなものか見に行くよ!

イズナとナグサが穴場に連れて行ってくれるって!

 

136:名無しの転生生徒

お、いいねぇ

是非ともここに画像を上げてほしい

 

138:名無しの転生生徒

ホログラム花火ってのも凄いよなぁ……

最序盤イベントでさらっと出ただけだったけど技術力としてかなりのもんじゃね?

映写機みたくなにかの壁に映すんじゃなくて浮かび上がらせるんだろ?

 

139:名無しの転生生徒

ホログラム自体は原作でも度々出てたから疑問に思わなかったけどそういやそうだな……

打ち上げた時の音とかどんなもんなんだろ?

 

142:名無しの転生生徒

百花繚乱の各地に音響機械を設置してるんだろうな

電気代食いそうだ……

 

144:名無しの転生生徒

花火を見る位置によっては音の偏りありそうだよね

 

146:名無しの転生生徒

いや多分花火を打ち上げる発射台に音響機械を設置してるんじゃない?

四方から打ち上げ台に向けた『外から内』じゃなくて、打ち上げ台から外に向けた『内から外』の方向で音を出すはず

 

147:名無しの転生生徒

生の花火で好きなのは音圧というか、ドパンッ! って弾けた音と共に来る圧力なんだよね

アレが何となく好き

 

148:名無しの転生生徒

生の花火の音とどれくらい違いがあるんだろうな

あまりにかけ離れてたら次からは不採用になりそうだが

 

149:名無しの転生生徒

まあ敏腕社長のシズコが採択した案だしそこは大丈夫じゃない?

原作でもその辺で問題になってるって話は無かった筈だし

 

150:名無しの転生先生★

始まったー!

思ってたよりデカい!!!

 

【挿絵表示】

 

 

151:名無しの転生生徒

>>150

デッカ

遠近感おかしなるわ

 

154:名無しの転生生徒

まあまあ離れてても尚デカいな……

こんだけデカい花火って結構稀少よね?

 

157:名無しの転生生徒

元百鬼夜行生だけど

百鬼夜行だとそれくらいのデカさの花火はまああるよ。稀少とまでは言えない。多分キヴォトスだと火薬が大量にあって前世より廉価なのもあってふんだんに使われてるんだと思う

これはホログラムだけど

 

160:名無しの転生生徒

なるほど、そういう事か

 

161:名無しの転生生徒

ともあれ……

無事に桜花祭イベ終了ですな

 

163:名無しの転生生徒

だなぁ

いやぁ無事に終わってよかったよかった

 

164:名無しの転生生徒

途中とんでもないアクシデントあったけど何とかなってよかったよ

 

165:名無しの転生先生★

だねぇ……

 

ああ、帰ったら仕事か……(´・ω・`)

報告書纏めなきゃ

 

167:名無しの転生生徒

今は仕事を忘れて祭りを楽しみなさい……

 

 


 

 

 ドン、ドパン、と花火の音が木霊する。

 それは電子的に再現された音。生の花火の音ではないけれど、それでも電子音はたしかに花火の音を精妙に再現していた。

 青、赤、黄、緑―――種々様々な色の花火が再現され、大輪の花を咲かして消えていく。

 

 その光景を、私はレイトと二人並んで見上げていた。

 

 ここは百鬼夜行の中心街から外れた場所。屋台もなく、人気もない、小川のほとり。

 私達以外には誰もいない穴場だった。

 

「思ってたより綺麗だね。ホログラムって言われてないと分からないくらい精巧だよ」

「綺麗なのはそうだな。光る度合いと煙が上がっていない点は違和感だが」

「風情が無いなぁ……」

 

 苦笑が漏れる。

 そういえばこんな人だった、と頬が緩んだ。何事にも率直で、まっすぐで、おためごかしや意味の無い事を厭う人間なのだ。

 でも非合理的なもの全てを疎んでいる訳ではない。

 情緒を理解しない訳ではなく、風情を理解しない訳でもない。人それぞれの事情を慮る事もある。

 彼にとって、それらは重要でないというだけの事。

 

 ただ―――逆に言えば、彼が踏み込んだ時は、それは彼にとって重要であるという証。

 

 以前も、そして今回も彼には世話になった。私とナグサ、ひいては百花繚乱に関する事の仲裁役を請け負った。

 そこまでしたという事は……

 少しは、大事だと思ってくれていると。

 そう思ってもいいんじゃないだろうか。

 

「ねぇ、レイトさん」

「なんだ」

「またお祭り、来てくれる?」

 

 それは、期待を込めた約束の問いかけ。

 こんな風に誰かを誘ったのは、ともすれば人生初だった。

 

「忙しくなければな」

 

 ―――けれど。

 それは、あっさりと躱された。

 行けたら行くと、そんな社交辞令と同じ躱し方をされた。

 

「そっか」

 

 彼に来る気は無い。

 それがありありと分かる受け答えに、しかし私は特に落胆はしなかった。

 むしろ、それでこそだ、とすら思った。

 仲裁役を買って出る程度には私の事を大事に思ってくれているのだと思う。でもそれ以上に、彼にとって大事なものがある。

 

 ―――アビドス。

 

 何十年も昔から続く負の財産が膨れ上がり、今や数億にまでなった借金と責任を背負ってでも、彼はその地を守ろうと東奔西走している事は周知の事実だ。

 その活動期間は、もう十年にもなろうとしている。

 十年。

 口にすれば一言で、でも実際はとても長い年月だ。

 それだけの時間を賭している存在よりも私が優先される事などあるはずないと、納得すらした。そうでなければ大雪原での深い後悔は嘘になるとすら思うのだ。

 

 ただ、これで引き下がる気は毛頭ない。

 

 お祭りに来ない事なんて予想の範疇である。

 彼が自分の意思で楽しい事に打ち込んでいる姿なんて、そもそも想像できないのだ。

 

 

 ―――生きていれば、何とかなるものだ。

 

 

 私とナグサを諫め、背を押すように言った彼の言葉が脳裏に蘇る。

 あの言葉には重みがあった。

 その重さの理由を、私は知っている。

 昨夜、クズノハとの別れ際の問答でも察するものがあった。

 だからこそ、彼が自分を戒めている事も分かっていた。

 

「じゃあいつか、忙しくない時にでも来てね」

 

 私の言葉に、ああ、と花火を見上げながら彼は受け流した。

 きっとその日が来る事は無いだろう。

 彼は背負った。背負ってしまった。私と違って下ろせるものではないそれを、彼は背負う選択をした。既に選んでいる事だ。

 その選択を私は責めない。私が深く関わる前の出来事だ、外野の私に彼を責める資格は無い。

 

 ただ―――求める事くらいは、良い筈だ。

 

 彼が引きずっている喪った後悔を私は恐れた。

 同じ事になるのは嫌だと、先人の話から学びを得た。

 だから、私はこれから行動しようと思う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 ……もしも私が一年生や二年生だったなら、百花繚乱委員長として誰からも知られる立場でなかったなら、あるいは魔眼を得ることなく怪異に抗う術を持っていなければアビドスに転校出来ていただろうに。

 でも委員長として百蓮の資格にぶつかった事で、私は彼と出会えたわけで。

 

 ままならないなぁと私は苦笑を零したのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

桜花爛漫お祭り騒ぎ!   

~空に徒花 地に忍び 天に百花 虚に化生~ 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更け、煌々と月が闇を照らす丑三つ時。

 桜花祭の目玉たる花火も終わり、誰もかれもが祭りの余韻に後ろ髪を引かれる思いで寝静まる時間に私―――天地ニヤは、陰陽部の天守閣に足を運んでいた。

 先客は一人。

 静かに佇みながら天守閣から百鬼夜行の夜景を眺めていた。

 

「お待たせしました~。いやはや、事後処理が思ったより多くて参りましたよぉ」

 

 おどけながらその人影に近付くにつれ、その容貌をハッキリと見れるようになっていく。

 

「レイトさんはどうでした? 桜花祭、楽しんで頂けましたか?」

「ああ」

 

 私の問いに、人影―――アビドスの長である彼岸レイトは短く、けれどハッキリと肯定しながら頷いた。

 殊更に評価はせず。さりとて、否定も無く。

 これといって不満も無かったようだ。

 

「にゃは。でしたらシズコさんを褒めてあげてくださいね。お祭りに関してはお祭り運営委員会の委員長である彼女が取り仕切っているので」

「委員長になりたての筈だが、随分とやり手だな河和は」

「天職なんでしょうねぇ。1年の頃から頭角を現していたらしいですよ?」

「なるほど。天地が把握する程か」

「それは買い被り過ぎですよ。私は耳聡い方だとは思いますが、シズコさんがやり手なのは誰でも知っている事ですから」

 

 扇子を広げ、口元を隠すようにしながら笑って言う。

 いつものクセだ。

 自分が評価される時。何かを疑われる時。自分が主軸になる話題に際して煙に巻くためにするようになった自分なりの処世術。

 

 のらりくらりと人の意を交わし、こちらの本心を覆い隠すための心の守りだ。

 

 いつから始めたのかは自分にも分からない。それくらい長い間続けていて、それが素で出るようになった。

 『天地ニヤ』の名を聞いて真っ先に思い浮かべるのは、糸目でにゃはにゃは笑いながらのらりくらりと躱し、一向に問題を解決しない昼行燈の陰陽部部長の姿だろう。

 計算高さを感じさせて警戒心を抱かせる軽薄な女だと。

 事実、河和シズコがシャーレに持ち掛けた相談は陰陽部には持ち込まれなかった。どういう目で見られているかはこれだけでも分かるというものだ。

 

「……先日も言ったが、そういうところだぞ」

 

 ―――それを、この人はあっさりと見抜き、突いてくる。

 こちらに向けられた黒い瞳は、私の虚飾すらも貫かんばかりにまっすぐだった。

 

「はて? なんの事でしょう?」

 

 どうにかこうにか取り繕って、問いを投げる。

 見定めるかのように、あるいは責めるかのように、すっと目が眇められた。

 

「一昨日―――いや、もう一昨々日(さきおととい)か。河和からの依頼が先生に寄せられ、その先生から陰陽部との顔合わせの調整を聞かれ、俺がお前に連絡を入れた……結果、その日の午後には顔合わせをしたな」

「そうですね」

 

「三大校程でないにしても大きい自治区、更には桜花祭という大きな祭りを目前に控え忙しいだろうに、七稜ともどもよく当日の連絡で時間を取れたな?」

 

「――――」

 

 その指摘に、私は沈黙を貫いた。

 時に沈黙は肯定ともなる。

 しかしそれはあくまでその人の解釈に留まる。

 言わなければ事実にはならない。そしてその事実は、別に明確にするべきことではない。

 

 ―――彼が言わんとする事は分かっている。

 

 今回私は直接的には関係していない。なんなら間接的にもニャテ・マサムニェの企みを破ることに協力していない。

 しかし一切何もしていないのかと言えばそうではない。

 魑魅一座と一緒にいるという七稜アヤメの噂を聞いた時、真っ先に浮かんだのは彼から報告で聞いていた大雪原に彼女が向かったキッカケの出来事だ。

 

 それに思い至った時から私は裏で動いていた。

 

 『魑魅一座をどうにかしてくれ』、『百花繚乱の委員長が協力しているという噂はどうなのか』と相談事に訪れる者達を往なす中で、『無事に祭りを開催できるのか』と心配する者に、ちょうど署名や信任状集めをしていた彼が協力する組織シャーレの話をした。

 その話が巡り巡ってお祭り運営委員会に行き、河和シズコの耳に入るようにも。

 彼女は委員長としての責任を背負い、ギリギリまで自分達の力でどうにかしようと足掻くだろう。でもそれで解決出来ないとなれば恥も外聞も捨てて協力を求める。そう確信していた。

 同時に七稜アヤメが向き合わなければならない存在―――偽物のアヤメの事を考慮し、先生とレイト達の案内人兼護衛役として傍に付ける事で彼女の心が折れないようにもした。

 まあ流石に赤鬼や怪書といったものまで出てきたのは予想外だったけれど、そこは私の予想を上回った先生達の実力で解決された。

 

 そうして、桜花祭を破壊しようとする企ては全て破壊出来て、無事に開催し、何事も無く幕を下ろした。

 

 なんて事も無いそれだけの事だ。

 わざわざ掘り返す必要なんて無い。

 

「にゃは♪ ()()()()ですよ、たまたま♪ そんなの気にしなくていいですよ♪」

 

 だから私はいつものように煙に巻いた。

 

 だってそれは、陰陽部部長として当然の事なのだから。

 

「……そうか」

 

 そんな私に、小さく嘆息を吐いてからそう(いら)えを返した彼は、視線を私から再び夜の百鬼夜行の街並みへと向けた。

 それ以上掘り返す気は無いという意思表示。

 

 それが、私の選択ならと。

 

「―――ええ、そうなのです」

 

 自身の在り方を再度示しながら、彼の隣に立ち、同じように百鬼夜行の夜景を視界に収める。

 

 ―――私が背負う、自治区の全て。

 

 ―――私が愛する、百鬼夜行の全て。

 

 ―――それを守り通せるのなら。

 

 

 私は、幾らでも陰で動けるのだ。

 

 

「あなたと同じように、ね」

「…………」

 

 さっきの私のように彼は黙秘を貫いた。

 答えなければ事実にはならないから。

 それを良い事に、お返しとばかりに私は自分の推論を口にする。

 

「今年になって急に後輩を社会科見学と言って連れ出して……去年入学した子達には、そんな事はしなかった筈ですが。どういう風の吹き回しです?」

 

 見上げながら問い掛ける。

 月光に照らされる厳めしい横顔が、ほんの少し思案顔になった。

 

「……去年と今年の違いとしてシャーレの存在が大きい」

 

 連邦捜査部シャーレ。

 あらゆる自治区に介入できる事をはじめ、超法規的組織と謳われるのも納得な権限の数々は警戒に値する。

 

 警戒すべきものの中には、中立性がある。

 

 通常なら、トリニティ自治区にゲヘナ生が、あるいはゲヘナ自治区にトリニティ生が立ち入る事は昨今の情勢を鑑みれば難しい。

 しかしシャーレ所属になればそれが――もちろん、先生の立ち合いは必要だが――適ってしまう。

 『キヴォトスの外』から来たどの学園にも帰属し得ない経歴が、中立性を担保しているのだ。それ故にどの学園のどの所属だろうと助けを求める事が出来る。

 また先生自身の行動により、たとえ中退し、学籍を持たない子供であろうとも権限を使って手助けする事が証明された。

 これらの事実が、シャーレの先生の中立性と公平性を証明し、彼女の下で動く生徒にもそれらが付与される見方が生まれていた。

 

「なるほど……現在のセリカさんはシャーレの部員として扱われている。つまり今のあなたと彼女の行動に、アビドスとしての意思は無いと」

「そうだ」

 

 その推察を、言葉短く彼は肯定した。

 であれば、自動的に先の問い―――去年はどうして後輩を連れ回さなかったのか、という疑問にも答えが出る。

 彼は後輩を、政治的なものに関わらせたくないのだろう。

 彼はアビドスの長。その行動には、彼が何と言ったとしてもアビドスに関する何かが関わっていると予想される。一番は借金返済の金策のように。

 

 私が動いた時、陰陽部、ひいては百鬼夜行全体がなにか企んでいるのではと疑われるように―――

 

「なるほどですねぇ」

 

 なんとも白々しい反応だと思いながら扇子で口元を隠して笑う。

 

 今のやり取りで、分かった事が一つある。

 

 彼が黒見セリカという後輩を連れてきたこと。

 それには純粋な社会科見学ではなく、彼なりの何か意図が含まれている。陰と陽において陰に偏る考えの私と同質の何かが。

 同じ自治区の長としての何かと共に。

 それ以上はまだ分からないが……

 

「……煽っておいて何ですが、困った事があったら相談して下さいね? 同じ自治区の長として相談に乗りますよ。アヤメさん達の事のお礼もありますし」

「……その時が来たら、頼らせてもらう」

「にゃは。お待ちしてますよ?」

「ああ」

 

 同じ夜景を見ながらの言葉の応酬。

 同じ自治区の長ではある彼と私は、しかし見ている未来(さき)は同じではないだろう。

 私はまだ、喪わずに済んでいるから。

 

 それでもいつの日か、同じ明るい未来を見る日が来る事を願いながら、私はもう少しの間いっしょに夜景を眺めていった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

桜花爛漫 百鬼夜行桜花祭   

陰に在る者達の後夜祭 完 

 

 





 以下の情報が更新されました
 ・百花繚乱紛争調停委員会
 ・御陵ナグサ
 ・七稜アヤメ
 ・桐生キキョウ
 ・不破レンゲ
 ・久田イズナ
 ・黒見セリカ
 ・天地ニヤ
 ・クズノハ
 ・彼岸レイト


・百花繚乱紛争調停委員会
桜花祭の後、委員長の代替わりが行われた
代替わりの理由として『百蓮の資格』が挙げられた事に困惑、『継承戦』に伝説に語られる初代委員長クズノハが立ち会った事に驚きこそあったものの、ナグサの能力は認められていたため代替わり自体は恙なく終了
作戦参謀をはじめ『百鬼夜行計画』に立ち会った幹部、また百鬼夜行絵巻を用いた怪異の実演により、花鳥風月部への警戒心が高まっている
現在はニャテ・マサムニェへの尋問を介して得た花鳥風月部の情報を用いた警戒網や『百鬼夜行絵巻』の扱いについて陰陽部と協議中

・御陵ナグサ
「黄昏に、名乗りを上げよう――――」
「私は百花繚乱紛争調停委員会、委員長。御陵ナグサ!」
百花繚乱の新委員長として就任した百蓮の使い手
等身大のアヤメの事も、情けない自分の事も受け止め、そのうえで前に進むことを決意した
歴代委員長はクズノハと対面するという噂はあったが、継承戦の立ち合い人になった前例は無く、歴代委員長の中でも特に大物なのではと噂が立っている。表面上は澄まし顔だが内心涙目
そんな自分を受け入れて、アヤメにも不安を零せているのでこの仮面が罅割れる事は無いだろう

・七稜アヤメ
「私の"眼"に視えぬもの無し……」
「なんてね。私は出来る事しか出来ないよ」
百花繚乱の副委員長として就任した魔眼の使い手
大雪原に行って魔眼を得た事、クズノハに百鬼夜行計画の戦いの中で会った事は『百鬼夜行絵巻』の警備の事もあるので百花繚乱内では周知済
一応魔眼に関しては部外秘としている
抱え込んでいた苦悩は話していないが、暫くは百蓮の資格の事で疲れたからと、あまり自分を頼らないように意思表示をするところから始めている
クズノハ関連でナグサが過大評価されて偶像視され困っている姿に「大変でしょう? 『委員長』……」と笑い、泣き虫ナグサを知る人物として等身大で評価し続ける貴重な立ち位置を維持している

・桐生キキョウ
「委員長が変わろうとやる事は変わらないわ」
「百鬼夜行の平和は、私達に懸かっているのだから」
百花繚乱の作戦参謀
継承戦にクズノハが立ち会った事実と直筆の書面の存在を知った時は愕然として数秒フリーズした。アヤメから魔眼に関してクズノハの事も聞いていなかったら書面は捏造と判断していた
委員長と副委員長が入れ替わろうとやる事は変わらない。ナグサはいつも通りで、アヤメはいつもどこかに行っている
代替わり以降、アヤメの雰囲気が柔らかく、ナグサが一層頼もしくなったと感じており、あの日の夜にどんな話をしたのか気になっているが聞けていない
先輩達の間を取り持ったのが部外者の男である事だけが唯一の不満

・不破レンゲ
「アヤメ先輩に何があったかは分からないけど、喧嘩も青春の花だよな!」
「こういう日々をアタシ達は守っていくんだ!」
百花繚乱の切り込み隊長
先輩二人の間に百蓮の資格以外の何かがあった事は察したが、話してくれる様子が無いのでとりあえず話されるまでは気にしない方針
細かい事はよくわからないけどとりあえず守れたならヨシ! の精神で難しい事はキキョウに丸投げしている
手合わせを申し込んできた狐の相手で青春を満喫している

・久田イズナ
「キヴォトス一の忍者を目指し、日々修行です!」
「次に主殿に会う時は一皮剥けたイズナをお見せします!」
桜花祭の後、忍術研究部を探し出して入部した
修行部やお祭り運営委員会などニャテ・マサムニェに騙されている間に戦った面々には謝罪し、和解している
百鬼夜行絵巻や魔眼について言い触らさないよう言い含められ、その際に百花繚乱の部員と時折手合わせする事を申し込み、快諾された

・黒見セリカ
「思ってた以上にとんでもない事態に巻き込まれたけど、良い経験にはなったわ!」
「友達も出来たし!」
アビドスの新入生
入学して間もないのに死地に遭遇したり自分の知らない事での喧嘩に遭遇しかけたりと大変な目に遭ったが、丸く収まったようなので胸を撫でおろした
河和シズコからは看板娘としての極意を学んだ他、一番嬉しかった事は今回の一件で知り合った面々とモモトークを交換し、連絡先が今までの何倍にも増えた事
イズナの夢を笑わず、努力しているなら応援すると言った先生のことを信用してもいいと思い始めている

・天地ニヤ
「なべて世は事も無し―――」
「丸く収まったようで何よりです。にゃはっ♪」
事件当時はどこかに姿を晦ませていた陰陽部部長
色々と発覚してからは裏で密かに忙しくしていた
直近では『百鬼夜行絵巻』の警備、花鳥風月部への警戒に関してナグサ、アヤメ、レイトらと密にやり取りをしている

・クズノハ
「後輩達は闇を恐れず歩み始めた」
「妾は彼岸と此岸の狭間から、皆の歩みを見させてもらうとしよう」
百花繚乱初代委員長にして大預言者
今代の百蓮の使い手ナグサ、黄昏由来の魔眼の使い手アヤメの事を殊更気に入っている
これまで百鬼夜行では殆ど忘れられていたが、今回の継承戦を機にその存在が広く知れ渡ることとなった

・彼岸レイト
後輩偏愛狐(クズノハ)め、とんだ言葉を残してくれたものだ」
「……残す者にとっても地獄、か……」
本来先生が担っていただろう役割を搔っ攫ったシャーレ部長
アヤメとナグサが笑えている事、セリカが嬉しそうにしている事で静かに達成感を噛み締めている
現状唯一百鬼夜行所属でないのにクズノハと会った事がある者として陰陽部、百花繚乱内で有名になった

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