ブルアカ転生記譚   作:背教者

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今話はカヨコ→第三者視点です
便利屋関連の独自設定があります
ここから数話ほど便利屋側が続きます
全然鉄蛇退治に話が進まないですがお付き合いください(デカグラ編なのに)

あと今更ですが本作はシャーレの先生赴任日が韓国の年度初めの3月想定で書いています
3月25日誕生日のアリスが「みんなと先生と会った日」と言ってるので……




手を切る者と結ぶ者

 

 

 いつもの事ながら退屈しないな、と思うのも何度目だったか。

 

 

 私―――鬼方カヨコが所属している『便利屋68』は、『生徒は営利目的の起業をしてはならない』というゲヘナの校則に反した企業だ。

 

 社長、陸八魔アル。二年生。

 室長、浅黄(あさぎ)ムツキ。二年生。

 課長、私。一留目の三年生。

 ヒラ、伊草(いぐさ)ハルカ。一年生。

 

 このたった四人が便利屋を構成する全人員。

 正直肩書きなんて付ける程かと思うくらいの少人数だけど、そこは社長のこだわりだった。

 少数精鋭でカッコいい。

 肩書きがあると箔が付く。

 ちょっと首を傾げるところだけど、そういう事に拘って一喜一憂するアルを見て、まあいいかと思う私も大概なのだろう。

 

 そんな彼女――アルと出会ったのは、数か月前の事。

 

 

『あ、ねえあなた! この辺でこんな感じの子を見てないかしら!』

 

 

 年を越して間もない頃、首輪をつけた人好きのする猫を路地裏で可愛がっている時に彼女は現れた。

 『迷い猫、探してます』

 猫の写真と共にそう書かれたチラシを片手に、律儀に制服を着た彼女が問いかけてくる。

 普段顔を見た相手は怖がって怯むのだけど、そんな様子が微塵もない少女の様子に少し呆気に取られ。

 続けてチラシに載ってる写真の子が、ちょうど可愛がっていた首輪付きの猫である事に気付いた私は、その猫を抱き上げて彼女へ向き直った。

 

『……多分、この子じゃない?』

『え? あっ! ホントだわ! よかったわー見つかって!』

 

 私が抱き上げた猫を見て、探していた子だと気付いたらしい彼女が、ほわっと表情を綻ばせた。

 ゲヘナには珍しいくらい随分と温和な気質の子だとその時は思ったものだ。

 勿論、彼女もゲヘナらしい部分はあったのだけど。

 

『あなた、飼い主が探してるみたいだよ』

『ニャァー? グルグル……』

『あはっ! 凄く懐かれちゃってるわね! ねぇ、あなたさえ良ければ飼い主さんの元まで一緒に来てもらえる? その方がその子も安心でしょうし』

 

 ぎゅっと肉球を押し付けると共にパーカーに爪を立てて、離れないぞという意思をこれでもかと示しつつも喉を鳴らして寛ぐという、猫にしては矢鱈器用な意思表示を見せる猫を見て苦笑が漏れた。

 多分この子に渡したらすぐ逃げられちゃうだろうな、という未来も想像に難くなくて。

 

『そうだね。離れてくれなさそうだし……案内してくれる?』

『勿論! 付いてきてちょうだい!』

 

 折角飼い主が居るならわざわざ危険の多い外に飛び出す必要は無いから、確実に帰せるようにと思い、私は猫を探していた赤毛の少女の提案に頷いていた。

 それににっこりと輝くような笑顔で頷いた少女が先導するように歩き始める。

 そうして並んで路地を歩き始めてすぐ、あ!と少女が声を上げた。

 

『私、便利屋68の陸八魔アルよ! あなたは?』

 

 それが、少女―――アルの名前を聞いた時。

 私とアルのファーストコンタクト。

 

『鬼方カヨコ……便利屋?』

『そう! お金を払ってもらえれば何でもするアウトローな企業よ!』

『……部活じゃなくて?』

『企業よ! まあまだ実際に起業した訳じゃないけど、遠からずするわ! 今はその軍資金集めの途中なの!』

『校則だと起業行為は処罰対象だけど……』

『アウトローがlaw(そんなもの)を恐れると思って?』

『……なるほど。Outlaw……法の外を生きるから』

『そうよ!』

 

 そんな感じに、飼い主の下まで行く道すがら色んなことを聞いて。

 あーこの子割と形から入る子なんだなとか。

 思ってたより面白そうな子だなとか。

 そんな感想を持ちながら、とりあえず飼い主さんに猫を渡して。

 

 その時はそれでアルと別れたのだけど……

 

 

『あら? また会ったわねカヨコ! ところでこの辺でこの顔の猫を見てない?』

 

『奇遇ねカヨコ! 私はこういう猫を探してるんだけど見かけてないかしら?』

 

『こんにちはカヨコ! 何だか猫と一緒にいる所ばかり見てるわね! それにやっぱりここにいた!』

 

 

 それからも何度も会うし、その度に迷い猫を探す依頼ばかり受けては私が可愛がってる子ばかりで、なんだかお互いもう完全な顔馴染みになってしまっていた。

 彼女の幼馴染だというムツキともその過程で知り合った。

 

『カヨコちゃんって言うんだ。アルちゃんからも色々聞いてるよ~』

『ふぅん……ちなみに、どんな風に?』

『いつも猫に囲まれてる猫好きの優しい人だって!』

『……ふふ、そう。まあ猫好きなのは間違ってないかな』

 

 その彼女から聞いた、アルから見た私の評価に失笑が漏れた。

 優しい……優しい、か、と。内心で独り言ちた。

 

 ずっと昔から、怖い顔だと言われてきた私をそう評した人は初めてだった。

 

 思い返せば、アルが私を見て怯んだ事は一度も無かった事に気付いたのはその時だ。

 その頃から少しだけアルの事を気にするようになった。

 アルとムツキだけの便利屋稼業――といっても殆ど猫探しばかりだったけど――にはそれからも度々出くわして、談笑する頻度も増えて。

 年度が変わって私は留年しつつ、新入生が入って、彼女達は進級して。

 

 そして、ゲヘナにありがちなイジメにアルが割って入って、大立ち回りが起きて。

 

『カヨコ、あなたも来ない?』

 

 両成敗だと猛る風紀委員を伸して、これを機にゲヘナを出ると決めたアルから誘われて。

 

 

 ―――ああ、それもいいかもな。

 

 

 なんて……そう思った私は、彼女の誘いに乗った。

 それまでは部活でも企業でもなかった集まりが、『便利屋68』という組織として結成され、木っ端だとしても企業としてキヴォトスに名を連ねたのがその時。

 世間では丁度、シャーレの先生が着任した時の事である。

 

 ゲヘナの校則に明確に反し風紀委員会にも喧嘩を売ってそのままゲヘナ自治区に居られる筈もなく、私達は拠点をブラックマーケットに置き、活動範囲はゲヘナ以外にして仕事をこなした。

 

 企業としての実績の数は多くはない。

 でもブラックマーケットにいれば自然と荒事の依頼は入ってくる。

 企業としての信頼性が低く、報酬を渋ろうとしたり、騙そうとしてくる輩もいたけど……

 キヴォトス一のアウトローを目指していただけはあるのか、アルの戦闘力は飛び抜けて高かった。彼女に長年付き添っていたムツキも同様。

 私も諸事情はあったけど、一匹狼をゲヘナでやれる程度には自衛能力はあった。

 意外な事に、イジメられていたところを助けられ、アルに心酔した一年のハルカも戦闘力は高かった。打たれ強いし、爆弾の扱いや設置の的確さはかなりのもの。

 

 そんなこんなで不義理を働いた依頼主には報復をしつつ、無理なくコンスタントに稼ぎ、しっかりとした依頼には成果で答える。

 それが『便利屋68』の現在。

 

 

 そんな便利屋にある時、とある依頼が入った。

 

 

『便利屋68。本命の依頼を頼む前に、君たちの実力を知りたい。そのための試金石としての依頼を用意した。もちろん報酬は用意しよう』

 

 

 そんな言葉と共に依頼を出したのは、カイザーPMC理事。

 依頼内容は『アビドスを襲撃している不良達の始末』。

 

 この時点で私は噂に聞いていたアビドス高等学校を襲撃している不良達のバックにカイザーが付いている事を悟った。

 不良達には学籍が無く、安定した暮らしなんてまず望めない。

 その日暮らしが常の傭兵稼業なのに、ロクな環境じゃないアビドスを襲い続けるなんて事がまず成立しない立場なのだ。

 

『社長。それは―――』

『ええ、お受け致します!』

 

 ……止めようとはしたけれど。

 一手遅く、アルはその依頼を引き受けてしまった。

 思わず瞑目して眉根を寄せてしまったのは許して欲しいと思った。

 

 不幸中の幸いなのはあくまで依頼内容は不良達の始末である事。

 カイザーPMCの本社はアビドスじゃないけど、あそこの土地にずっと昔からカイザーが関わっている事は知っている。

 襲われているのはアビドス高校だけど、治安が悪くなるから追い払え……という言い訳がまだ成立する段階だった。

 

 ともあれ、アビドス市街地に仮拠点となる住居を押さえ、砂漠越えの準備を手早く済ませてから依頼を遂行。夜明け頃の奇襲でアビドスを襲っていた不良達は始末した。

 

 そして、今―――

 

 


 

 

『思ったより早かったな。なるほど、噂に違わぬ実力のようだ』

「ふふ。ご期待に添えて何よりです」

 

 その報告を聞いたカイザーPMC理事の称賛に、アルは気分良さげに応じる。

 会話だけ聞いていれば悪の枢軸の会話だ。なんならいまそれに浸ってるらしいアルは、気取った風の笑みを浮かべている。

 机上に置かれたスマホはスピーカー状態でテレビ電話ではないから意味は無いのだけど気分の問題だろう。

 私としては、次に出されるだろう本命の依頼が気になって気が気ではなかったのだが。

 一応アビドス襲撃の不良達の裏にカイザーが付いていて、ずっと達成できてない彼女らの始末を依頼してきたのだろうとは話していたが、アウトローと思ったものには猪突猛進なきらいがある彼女がどう動くかは分からずハラハラしながら電話を聞いていた。

 

『達成報酬は口座に振り込んでおいた。確認してくれ』*1

「……社長、ちゃんと振り込まれてる。依頼は完了だ」

「確認が取れました。この度は便利屋68のご利用、誠にありがとうございました」

『うむ』

 

 PMC理事の言葉に、私は自分の端末から事前に取り決めた依頼の報酬額がしっかり振り込まれている事を確認した。

 それにアルが頷き、謝辞を述べる。

 PMC理事は鷹揚に応じ―――

 

『では本命の依頼を出そう。便利屋68―――』

 

 

『アビドスを落として欲しい』

 

 

 何てことないかのように、そんな依頼を出してきた。

 それに、事前に予測を共有していた私は顔を顰めた。

 ムツキは笑みを崩さないままチラリとスピーカーモードのスマホを見た後、アルに目を向ける。ハルカは不安そうにアルを見つめていた。

 

 ―――私がなぜここまで警戒するのか。

 

 端的に言えば、カイザーと関わるのはマズいから。

 カイザーコーポレーションはキヴォトスでも有数の数多の子会社を持つ系列企業にして有名な多角的企業だ。

 そんなところからの依頼となれば大口案件として嬉しい筈だが、少なくとも今は時期が悪い。ほんの一週間ほど前に連邦生徒会の防衛室長との癒着問題、またシャーレの顧問の先生と部長の生徒の暗殺計画などで大問題になって、ヴァルキューレ等の目がそちらに向いているからだ。

 私達はその問題に一切関わっていないとはいえ、後ろ暗い仕事をしている立場。

 目を付けられては堪ったものではない。

 他にも色々あるが、やはり暗殺計画に関してはマズい。

 

 だからこそ、アルには冷静な判断を以て断ってもらいたいのだが―――

 

 

「アビドスを落とす、ですか?」

 

 

 当のアルは、思案顔で目を眇めながらオウム返しに問いを投げていた。

 彼女の内心は分からない。

 

『そうだ。より正確に言えば、校舎の破壊。それとアビドス生徒会唯一の所属生徒……生徒会長の男子生徒、彼岸レイトを再起不能にすること。他の生徒はどうでも構わんがこの男だけは絶対だ。この二つを依頼したい』

「なるほど」

『また既に別の傭兵達にも依頼を出しているため、これは合同作戦という事になる』

 

 別の傭兵達にも。

 つまりこれは、それなりの実力を持っている者にだけ出しつつも数を揃えたい内容の依頼だ。

 長らくヘルメット団を使っても落とせなかったから、いよいよ無名の傭兵は切り捨て、名うての傭兵にだけ金を絞ることで追い詰めようという魂胆なのだろう。

 たしかに、それは理に適っている。

 一定以上の力を持つ生徒には半端な力の生徒がいくら束になっても意味は無い。

 ちょうど依頼で始末した不良達が束になろうとアルや私達に敵わないように。

 だからこそ、実力者に依頼を絞り、かつ数を揃えようとしている。アビドスの在校生は既に数人程度だから。

 多分ウチと数人の実力者の傭兵が組めば、それだけで潰せる。

 

 ……その結果、出てくるのは修羅だろうけど。

 

 加えて言えば、その依頼を達成した後に待つのも茨どころではない道の筈だ。

 ハッキリ言ってどれだけ積まれても割に合わない。

 

 まあ割に合うこと優先だったらそもそも便利屋に居続けてないけれど……

 

『詳細なブリーフィングは後程送ろう』

 

 

「結構です」

 

 

『……なに?』

 

 そこで、空気が変わった。

 ピリ、と肌がひりつく感覚。

 この場にはいないのに電話越しでさえ圧のようなものを感じる怪訝な声に、アルは泰然としたまま応じた。

 

『結構とは、どういう意味だ?』

「その依頼は受けないという意味です」

『……なぜだ? 報酬の話はまだしていないが、額に関しては先のものの十倍は出すぞ?』

「ふふ……金のために動いている訳ではありませんので。我が社には、我が社のポリシーがある。そうご理解下さい」

『答えになっていないが』

 

 不機嫌そうな男の声に、更に緊迫感が増す。じり、と焦げるような錯覚が肌を襲う。

 それでもアルは不敵に微笑んでいた。

 

「敢えて言うなら、投資です」

『投資だと……? つまりカイザーではなく、アビドスにこそ投資する価値があると……そう言いたいのか?』

「アビドスに投資するだけの価値があるかはともかく、今のカイザーには投資しようと思えるほどの安全性を見出せませんので。つまり私は、"カイザーには投資しない"という選択をしたのです」

『ならばなぜ試金石の依頼は受けた?』

「どことも知れない不良が潰されただけの出来事には誰も取り合わないでしょう?」

『……臆病風に吹かれたか』

 

 先の暗殺計画や癒着騒動の事からカイザーに明らかに与するのは相対的に損になる。それを読み取ったらしい苛立ち混じりの言葉には、こちらへの嘲りも混じっていた。

 先までにこやかに話していたのが嘘のような剣呑さに、アルはやはり、不敵に笑む。

 

「勝てない賭け事に乗るようでは社長は務まりませんから。あなた程の方であれば、連邦生徒会やヴァルキューレの厄介さはよく存じているかと思いますが」

『それを、臆病風に吹かれたというのだ』

「慎重と臆病を履き違えるようでは最後に笑っていられるのがどちらか分かりませんね」

『ふん……カイザーに楯突けばどうなるか、思い知る日が来るだろう』

 

 その言葉を最後に、通話は切れた。

 明らかな決裂に、一先ず最悪は逃れられたかと思いつつも、しかし今後カイザーからの妨害にも注意を割かなければならないのかと頭が重くなった。

 そんな私を他所に、通話が終わったと見たムツキがアルへと駆け寄った。

 

「アルちゃん、やるじゃーん! さっきの会話、すっごいアウトローっぽい煽り合いだったよ!」

「そ、そうかしら?」

「は、はい……大企業の理事相手に、流石ですアル様……!」

「うんうん、本当に凄かったよ! カイザーの重役相手にあそこまで喧嘩売るとかそこらのマフィアでも出来ないって! さすがキヴォトス一のアウトローを目指すって言ってるだけあるねぇ!」

「ふふふ……まあね!」

 

 はしゃぎながらのムツキのおだてとハルカの称賛に、不敵な顔からいつもの親しみやすい顔に戻ったアルが誇らしげに笑う。

 それを見て、色々と考えを巡らせていた私もまあいいか、と嘆息した。

 

 『舐められたら終わり』を無自覚ながら理解してあそこまで啖呵を切れるのは本当に凄いと思うし、アレはあれで底知れなさを相手に感じさせた筈だから無暗に手を出されにくい布石にもなる。

 カイザーPMC―――民間軍事会社の理事は、私達の仕事の速さに感心している様子だった。それが演技でないならこちらを正確に測り切れていなかった事になる。

 その上で社長を底知れない存在だと警戒したとなれば、少なくとも即座に襲撃を仕掛けてくる事は無い筈。情報を集めようと多少なりとも時間を掛ける筈だから。

 その間に雲隠れしてほとぼりを冷ませばまあ何とかなるだろう。

 色々と考えないといけない事はあるけど、一先ず今はアルの事を褒めてあげよう。

 

「ほんと、流石だよ社長。煽り合いの時ばかりは悪役そのものだった」

「カヨコっちも認めてるよアルちゃん! これはもう快挙だね!」

「ムツキの中で私の評価っていったいどうなってるの……」

「くふふ、まあそれはいいじゃん!」

 

 私が認めたからなんだと言うのか、と半目で見つめるが、小柄な少女は上機嫌に笑って誤魔化すばかり。

 それを見て答えは期待できないと判断した私はまた嘆息した。

 

「とりあえずアルちゃん、これからどうする?」

「そうねぇ……」

 

 んーと天井を仰ぎながら思案するアル。

 そこで、くぅ、とお腹が鳴る音がした。

 音の主はアルだった。にま~と微笑ましそうにムツキが笑う気配を感じたか、頬を赤くしながらも素知らぬ顔でアルは口を開いた。

 

「……一先ず仮拠点(ここ)は引き払ってアビドスから去るとして、その前に腹ごしらえをしましょう」

「あ、じゃあムツキちゃん、あそこ行きたい! アビドスで有名なラーメン店!」

「あー柴関だっけ? D.U.地区にも広告出てるわよね」

「有名だよね、柴関。今も残ってるアビドスの老舗の飲食店がそこくらいなのもあるだろうけど」

「た、たしかにアビドスって、閑散としてますよね……名前自体はよく聞きますけど……」

 

 おずおずとしたハルカの言葉に、たしかに、と頷く。

 まあその理由はカイザーPMC理事が排除したがっていた男子生徒の存在もあるが、彼以外にも理由が幾つかある。

 

「砂漠化と過疎化が進んでるからね。大半の中学生は別の自治区に進学したって話だよ。先月で公立中学校も閉校してるし……そもそも2年前の自治区運営校舎*2の移転の際にアビドス生の大半が転校したって話だし」

 

 その理由の一つが『転校』だった。

 学校の閉鎖や他自治区への進学自体は無い訳じゃない。ゲヘナ生まれがトリニティに、あるいはその逆みたいなのは無いが、ゲヘナ生まれがミレニアムに、という例自体はある。

 

 だが高校生になってから学校の所属が変わる転校や途中編入はかなり珍しい。

 基本的に何か事情があってとか、強い理由が付随する程の事だからだ。例えばSRTは廃校になっていた場合ヴァルキューレへの編入がこのパターンである。

 さらに言えば、一人二人ではなく何十人も。

 しかもアビドス生徒会に在籍していた生徒達すらも転校した。

 更には同年に残った生徒の失踪の報道が流れ、その後に白銀条約がスピード締結され……と、まあ何かと波乱の土地なのがアビドスだった。

 あの青年に関連して昔から聞いてはいたけど特にここ数年はそれが顕著だったのだ。

 

 まあその辺を気にしていたり、ニュースをよく見たりする人でなければあまりアビドスの事は聞かないだろうけど。

 

「確か在校生ってもう5人とかそこらだったような気がするよ」

「そんなに少ないのね……いや、そんな所に傭兵ぶつけるとかカイザーってホントにヤバいわね。私達が潰した不良達って合計で軽く100人は超えてた筈だけど」

「しかも今度は実力者の傭兵投入ぽかったし、いよいよアビドスもヤバいかもね? 今日がアビドス最後の日だったり?」

「ま、私達にはもう関係ない事だよ。さっさと食事して引き揚げよう。ひょっとしたら今日がそのラーメン店に行ける最後の機会かもだし」

「……カヨコの言う通りね。食事から帰ってきたらすぐに出られるように荷物を纏めておきましょう。巻き込まれる前にさっさと行ってさっさと帰るわよ」

「りょうか~い」

「分かりました」

「わかった」

 

 私の促しにほんのちょっと思う所があった様子だったけど、アルはそれを飲み込んだようで指示を出し、私達が思い思いの返事を返して帰り支度を始める。

 といっても元々が根無し草に近い状態だから、支度と言っても道具や着替え類を纏め、ゴミの分別をするくらいだから二十分程度で済んだ。

 それからムツキが行きたがっていた柴関ラーメンへと向かった。

 

 歩く事およそ十五分。

 朝の七時くらいに到着した時、店前の扉には『準備中』の札が垂れ下がっていた。

 

「あ~……流石にまだ早すぎたかぁ」

「営業時間は……九時からか。流石に待つには長いね」

「ネットで営業時間を見ておけばよかったわ……しょうがないから、コンビニでも探しましょうか」

「えっと……最寄りのコンビニは、徒歩で片道一時間半くらいのところみたいですね……」

「「遠っ!?」」

 

 ささっと調べたハルカの報告に、アルとムツキが声を揃えた。

 こういうところは幼馴染っぽいな。

 

「―――お、賑やかだと思ったらお客さんか?」

 

 さてどうしようと考えていると、ガララと引き戸を開けて中から人――いや二足歩行の犬だけど――が出てきた。

 左目の目元に十字の傷を、閉じた右眼の瞼を裂くように縦に走る傷を持ち、耳を出した頭巾を被り、煙の出ていないキセルを咥えた法被姿の人物が、店前で屯していた私達を順に見る。

 

「ふむ……その容姿から察するに、ゲヘナの子か。遠路はるばる来てくれたってところかい?」

「え、えぇっと……ええ、まあ。でも準備中みたいだし……」

「いやいいよ、入ってくれ。せっかく食いに来てくれた訳だし、腹空かしてる子供に食わせないのはな」

 

 そう言って引き戸を全開にして中に戻っていく店主。

 私達は顔を見合わせた後、まあ食べさせてくれるならと中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Now Connecting

カイザーPMC外部傭兵起用担当


 

 

『優秀なる傭兵諸君。私はカイザーPMCの外部傭兵起用担当の者だ』

『早速だが本題に移ろう』

 

 

『アビドスという土地を知っているか?』

『かつてこのキヴォトスに於いて最も隆盛を誇った最大規模の自治区の名だ』

『同時に何十年も昔に始まった原因不明の砂漠化によりかつての栄光は砂の下に沈み、今や多くの人や企業が脱出を図った僻地でもある』

 

 

『そこが諸君に依頼する場所になる』

『依頼は複数ある。自身に適していると思う依頼にアサインしてくれたまえ』

 

 

『第一の依頼はアビドス高等学校の校舎襲撃』

『寂れ切った自治区を尚も復活させようと涙ぐましくも無駄な努力をしている連中の拠点だ』

『個々に大した力は無いが、そこの生徒会長の影響力は無視できない』

『拠点にして権威の象徴でもある校舎の徹底的な破壊を依頼する』

『それと在校生の無力化あるいは再起不能を達成した場合は在校生一人毎に追加報酬も出す』

『個々で報酬額と条件が異なるので各自確認するように』

『なお生徒会長の男子を再起不能に出来た場合、今回の参加傭兵全員の基礎報酬額を十倍にする事になっている。在校生の精神的支柱にして戦力の要でもあるため積極的に狙う事を推奨する』

『無論激しい抵抗が予想される』

『最も単純だが、粘り強さが求められる仕事だ』

『夢を見続けている連中に現実というものを思い知らせてやれ』

 

 

『第二の依頼はとある人物の確保』

『その者はアビドス高等学校における重要人物だ』

『元傭兵との話だが、鳴かず飛ばずで十数年前に辞めたっきりの老いぼれ一人だ。現役の諸君らであれば問題は無いだろう』

『これを確保できた場合、アビドス在校生のほぼ確実な無力化を見込める』

『非情さと迅速さが求められる仕事だ』

『対象の詳細なプロフィールは本依頼受注者にのみ送信する』

『かつての栄光に縋りつく老いぼれに利用価値を与えてやれ』

 

 

『第三の依頼は、"砂漠の鉄蛇"と呼ばれる存在の誘導』

『こちらは我が社が誇る部隊との共同作戦となる』

『下手を打てば死の怖れもある』

『だがそのぶん、見返りは多大だ。他の任務を合わせた基礎報酬額の倍の額だけでなく、我が社との専属契約の席が用意される』

『なおこの誘導任務の成功を以て前述した二つの依頼の開始とする』

『成功の条件および前述の依頼開始の合図は『鉄蛇警報』というものの発令だ』

『詳細は我が社の部隊との合同ブリーフィングの際に担当の者が伝達する』

『任務成功後は我が社の部隊と共に速やかに作戦領域から離脱するように』

『日々磨き続けた力を存分に発揮してくれたまえ』

 

 

『以上が今回諸君に提示する依頼だ』

『いずれも重要性が高い。成功率を上げるため、各依頼に即した戦時物資が我が社より人数分支給される』

『最先端に比べれば幾らか型落ちではあるが、数はある』

『少人数の寂れた学校を潰す程度なら事足りる筈だ』

 

 

『注意点だが、この任務には実質的な時間制限がある』

『なぜなら『鉄蛇警報』が発令されるとゲヘナおよびミレニアムより援軍が出されるからだ』

『特にゲヘナからは高確率で風紀委員長、空崎ヒナの出動が予想される』

『これに鉢合わせしてはまず逃げられないだろう』

『諸君が捕縛されたとしても我が社は関知しない』

『報酬は作戦終了時、無事な者にのみ支払われる』

『誘導任務を成功してからの3時間、余裕を見て2時間が限度と考えておくように』

『この時間内に指定した人物の確保、また校舎の破壊を達成してもらいたい』

 

 

『最後に、この三つの依頼は同日に行われる大規模な合同作戦だ』

『これが成功すれば我が社は大きな躍進を遂げる事になるだろう』

『無論参加した傭兵諸君は今後も重用させてもらう方針だ』

 

 

 

『諸君の勇気ある決断を期待する!!!』

 

 

 


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作戦依頼書

 

①アビドス校舎の破壊

基礎報酬:50万

追加報酬あり

時間内に破壊できなかった場合失敗

失敗時も追加報酬あり

 

②アビドス要人の確保

基礎報酬:25万

追加報酬あり

時間内に確保できなかった場合失敗

失敗時も追加報酬あり

 

③"砂漠の鉄蛇"の誘導

基礎報酬:150万、専属契約枠

追加報酬あり

※死亡の危険あり

失敗時、追加報酬無し

 

 

◆追加報酬レート◆

原則として該当の者を倒した事を証明出来るものも提示すること

 

彼岸 レイト Dead Only

5000万(再起不能で全参加者基礎報酬10倍)

アビドスの戦術的、精神的支柱のため最優先排除対象

仲間を守ろうとする傾向にあるため利用されたし

戦闘データは別途添付した資料を読む事

複合銃、散弾銃の他にも複数の武装の情報あり

 

十六夜ノノミ Alive Only

4000万(可能な限り五体満足で捕らえること)

弾幕が脅威となるマシンガンの使い手

弾薬が枯渇してからは攻略は容易

重厚な盾、戦車などを支給予定のため活用されたし

 

黒見 セリア Dead Only

1000万

あらゆる武器を使い回す要注意人物

支給物資を転用する戦法を取ると思われるため近付かれないよう注意されたし

戦闘データは別途添付した資料を読む事

 

砂狼 シロコ Dead Only

1000万

ミサイル射出ドローンを使うAR使い

俊敏な上に見かけによらずタフなため連携して高射砲の爆風などで仕留める事を推奨

なおこちらも転用戦法を取るため接近には注意

戦闘データは別途添付した資料を読む事

 

黒見 セリカ Dead Only

200万

基本的なAR使い

粗削りだが黒見セリアと異なり堅実な戦い方を好む模様

激しやすい性格のようなので散発的な挑発で冷静さを奪う事を推奨

 

奥空 アヤネ Dead Only

200万

後方支援担当

アビドス生徒間の情報共有、バックアップ担当

早めに潰したいが校舎に引き篭もっているため困難と予想される

作戦時はハッキングとジャミングによる無力化を予定している

 

 

・注意事項

①制限時間:3時間(変動あり)

②ゲヘナ、ミレニアムより敵援軍あり

 ゲヘナは風紀委員長、空崎ヒナの可能性が高いため特に注意

 捕縛された際、当社は関知しない

③地元住民、土着企業『EXP』の妨害の可能性あり

 現場判断で対処するように

④"砂漠の鉄蛇"は意思疎通不可。巻き込まれた場合の支援は無し

⑤報酬は本合同作戦終了時に無事だった者にのみ支払われる

 

 

*1
アルは違法操業の企業かつゲヘナ逃亡のため口座凍結処分を受けているが、新たな口座を作ってやりくりしている。今回も新規口座での報酬受け取り

*2
県庁所在地的なもの






 以下の情報が更新されました
 ・カイザーPMC理事
 ・カイザーPMC外部傭兵起用担当
 ・便利屋68
 ・陸八魔アル
 ・浅黄ムツキ
 ・鬼方カヨコ
 ・伊草ハルカ


・カイザーPMC理事
カイザー系列の会社でいくつかの理事を務めている重役
評価や感嘆自体は本心でしている
原作同様、便利屋68を雇ってアビドスを襲撃させようとしたが、SRT関連の流れで発覚したカイザーコーポレーションの問題を理由にお断りされた
ちなみに原作アビドス編2章の時点でヒナ達に妨害された『対デカグラマトン部隊』という呼称の部隊が存在しており、ビナーに関してレイト達より色々知っている事が明らかになっている

・カイザーPMC外部傭兵起用担当
カイザー専属でない傭兵の窓口担当
不祥事が起きた時に切り捨てられる枠であり今回の大規模合同作戦の後は……な人
今後出ないし仮に出ても中の人は挿げ替えられている

・便利屋68
ゲヘナ校則違反の企業であり何でも屋
起業されて一ヵ月未満だがカイザーPMCの理事から認知される程度には戦闘力でブイブイいわせていた
実はまだテント暮らしに至るほどの金欠には陥っていない
試金石の依頼で多額の報酬も入って財政面はしばらく安泰

・陸八魔アル
ゲヘナ二年生兼便利屋社長
ハルカのいじめ問題で大立ち回りしたのを契機に三人の仲間と共にゲヘナを出奔。数か月間の依頼で貯めた軍資金を元手に起業し、社長を名乗っている
原作アビドス編と違って資金繰りにまだ余裕がありアウトロー像もまだブレてないのでカイザー理事にもキッチリと煽り返すだけの余裕があった
なおカヨコが事前に色々言っていなかったら本命の依頼は受けていた

・浅黄ムツキ
ゲヘナ二年生兼便利屋室長
断るとは思ってたけどカイザー相手にキッチリ煽り返しまでしたアルちゃんかっこよ! と良い空気を吸ってテンション高め
現状アウトローへの邁進フルスロットルアルなので本当に良い空気を吸っている

・鬼方カヨコ
ゲヘナ三年生一留目兼便利屋課長
ひょんな事から付き合いが出来たアルに惹かれてノリで便利屋に参加。ブレーンとして色々気に掛けている
先生とレイトの暗殺計画の問題が発覚していなかったらカイザーPMC理事からの依頼にもそこまで口は挟んでいなかった

・伊草ハルカ
ゲヘナ一年生兼便利屋平社員
イジメられていた所を助けられてそのまま逃避行して便利屋に所属した過去を持ち、その経緯からアルに心酔している
会話での主張は控えめだが舐めた事をした依頼主への報復で激しく主張をしている

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