ブルアカ転生記譚 作:背教者
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ありがてぇのだ……
ありがとうございます
今話はワカモ→先生視点です
本作独自解釈の設定があります
AI絵あります
「社長! あっちで爆発が! アビドスの校舎の方じゃないですよ!」
「ええ、分かっています。
「了解です!」
彼方で起きた爆発に浮足立つ部下達に指示を出して装甲車の上から飛び降りる。すっと体重を殺して着地した後、
レイトさんから電話を受け、すぐに避難誘導の指示を出して飛び出したのだが、こうも早く問題が起きるとは思わなかった。
「鉄蛇が来ているというのに……!」
ぎり、と歯軋り。
アレは万人にとって敵にしかなり得ない化け物なのだ。
知能はあるのだろうが、知性は分からない。人の言葉を解するかは分からないが意思疎通を取る素振りは無い。
そして、キヴォトスの常識なぞ通じない。
そんな存在の襲来の最中に問題を起こすなど常軌を逸している。
一線を越えたとすら言えるだろう。
―――しかも、あの爆発の方向と凡その位置は……
嫌な予想が脳裏を
自身にとっての家であり、7年前から始まった人生の原点となる地が、ちょうど爆発した地点周辺である事には即座に気付いた。
外れて欲しいとは思うが、理性は当たっていると確信していた。
心当たりが多過ぎるのだ。
しかしまさか、そこまで外道の類だとは思わなかったが―――
「うぁぁぁぁああああああああ!!! 死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください!!!!!!」
「うひゃ~アルちゃんヤバいよあいつら! 執念深過ぎ!」
「金に目が眩むにしても限度ってモンがあるでしょ!?」
「どれくらい成功報酬積まれてるんだろうねあいつら」
と、考えていたところで、角から飛び出してくる集団があった。
悪魔の特徴を持つ少女達。それぞれが武装していて、砂埃や硝煙で汚れているが目立った外傷がない一団。
とはいえ戦い慣れしているのは一目で分かった。
最近アビドスで特に増えている傭兵の一団だろうと考え、排除するために愛銃を構え―――
「こっちだ皆、この道をまっすぐ行けばアビドス高校の校舎だ!」
「お、
4人に守られる位置でそう声を上げる柴犬の市民の姿に、私は驚きと共に銃口を上に逸らした。
その方はちょうど私が予想していた爆発地点でラーメン店を経営していて、自身の親代わりにもなってくれた柴大将だったからだ。無事を祈ってはいたが早々にシェルターに避難しているだろうと思っていたのでまだ避難していなかったとは思わなかった。
「ん? おお! ワカモちゃんか!」
あちらもこちらに気付いたようで、にぱっと笑いながら駆け寄って来た。
4人も揃って走っていたが止まる様子も無かったので、来た道を戻るようにして私も並走する。
「あっ! お店の写真に写ってた人だ!」
「あらホント! 動きやすそうなスーツの上からコート姿ってスタイリッシュで格好いいわね……!」
「あなた達は……」
「話は後。とにかく大将を逃がさないと」
私の問いを遮るように、後頭部に角を持つ白黒の髪の少女が言葉を発した。
「あら、あなたは―――」
「別にいいでしょ、それは」
その少女に覚えがあったが、それもまた遮られた。それもさっきより語気も強い。
話してくれるな、という強い意志を感じた。
どうやら他3人に過去は話していないし知ってほしくもないらしい。
「―――そうですわね。一先ず、現状をお聞きしても?」
「傭兵達が柴大将を狙ってる、だから逃げてる。とりあえずアビドスの校舎に合流すれば安全だと思ってるけど」
「五分の賭けですわね。いま校舎の方も大量の傭兵に襲われてる真っ最中ですので、その戦列を護衛対象を守りながら切り抜けるのは流石に厳しいかと。あちらは高射砲などもありますので」
大将には申し訳ないが、率直な意見を出した。
彼女達だけや私だけなら問題なく切り抜けられるだろうが大将もいるとなると流石に厳しい。
人だけならともかく傭兵達は高射砲や戦車まで持ち出してきている。
遠くから狙い撃ちにされた時、それらから大将を守る術が私達には無い。
盾持ちのレイトさんがいれば話は違ったかもしれないが……
「いたー!!!」
「お前らこっちだ!」
「一人増えてる!」
「構うなやれ!」
「いい加減逃げんな!」
「五月蠅いですわ」
「「「「「ごぇ……っ!?」」」」」
考え事をしている最中、耳を劈くような大声が幾つも飛び込んできて思わずイラッとした勢いで振り向き、片手持ちした愛銃の引き金を連続で引く。*1*2
弾は全て狙い
「ひぇ」
「こっわ……」
「喉狙うって容赦無いね~……」
「片手撃ちの連続速射……! 私もやってみようかしら……!」
「はは、相変わらず容赦無いなワカモちゃん」
「誉め言葉として受け取っておきますわ」
三人からは畏怖と警戒、赤髪の悪魔の少女からは感嘆、そして小父様からは苦笑を貰った。
それを受け流しながら、懐から端末を取り出す。
「一先ず私のオフィスがあるビルに向かいましょう。私達だけでは合流は困難ですが、白銀条約も動いている筈ですから彼女達と合流すれば目はあります。それまで籠城して時間を稼ぐのが良いかと」
「オフィス? あなたのって、もしかしてあなたも社長なの?」
「ええ、今月頭に創業したばかりの新米ですが……いま社員に私達の回収を頼みましたので少し隠れて待ちましょう」
端末で手早く社員達にこちらへ来て回収するようメッセージを飛ばし、全員を建物の影へと移動させる。
それから端末をしまうのと入れ替わりで名刺を取り出す。
「それと申し遅れておりました。私、主に傭兵へのクリーンな業務や賞金首捕縛業務斡旋を行う『エクスペンダブルプライド』の社長を務めております、ワカモと申します。どうぞお見知りおきを」
「あ、これはご丁寧にどうも。私はお金を払ってもらえれば何でもする何でも屋、『便利屋68』の社長の陸八魔アルよ。それでこっちが社員の―――」
「室長の浅黄ムツキでーす」
「課長の鬼方カヨコ」
「ひ、ヒラの伊草ハルカ、です……」
社長らしいアルさんと名刺を交換し合いながら自己紹介を聞いて顔とな間を一致させる。
「アルさん、ムツキさん、カヨコさん、ハルカさんですね。小父様を助けて頂いて感謝しますわ」
「俺からもありがとうな。あと今更になるが、巻き込んじまってすまねぇ」
「もうっ、それは謝らなくていいわよ! 私達の方から首を突っ込んだんだから!」
小父様からの礼にそうアルさんが返すのを見て、ふむ、と私は考えを巡らせる。
「……記憶違いでなければ、アルさん達はアビドスに来られるのは初めてですわよね? 少なくとも小父様の顔馴染みにあなた達のような特徴の子がいるとは聞いた覚えがありません」
「そうね、今日初めて来たわ」
「俺も初めて会ったよ」
「どういう経緯でこうなったのか今の内に聞いても?」
「良いわよ!」
回収班を待つ間に事情を聞いてみれば、なんともはや……
金を払われれば何でもする何でも屋と言っていたが、依頼すらなく人助けとは。
アビドスを襲っていたカイザーにとって役立たずの不良を代わりに始末する依頼は受けたが、その後の本命は断って、おそらくその本命に関わっているだろう小父様を助けて明確に敵対までしたのは流石に驚きだ。
「随分と酔狂ですわね」
「えぇ!? 酷くない!?」
「いえ妥当でしょう。普通もう少し見通しを立てて動きませんか?」
「くふふ♪ それがアルちゃんの良いところだからね~!」
「いや、だって……! あそこで見捨てるのって、そんなの私が目指してるアウトローじゃないもの!」
「アウトローならまず小父様を売ると思うのですが……」
「ワカモちゃん、それ俺が言ったぜ」
「大将にも言ったけど、ウチの社長が目指してるのは世間一般でいう"それ"とは違うからね」
「はい……! アル様は、偉大なお方なんです……!」
「…………好いチームですわね、あなた達」
「あは! それもさっき大将が言ってた~!」
朗らかに笑うムツキさんにつられてか、アルさん達も、小父様も笑う。
「……そうですか」
アビドスで久しい明るい笑顔だった。
それに私もつられて笑みが零れた。
こんなに気の好い方々なら―――たしかに、小父様が店の爆破を許すのも納得かもしれない。
賭けてみようと思わせてくれる、未来に希望を抱かせる好いチームだ。
「ねぇ、ワカモさん。一つ提案があるのだけど」
「なんでしょう?」
「あなたと私達で協業しない?」
「はい……? 協業、ですか?」
そう思っていると、アルさんからそんな提案を受けた。
いきなりの話に思わず戸惑う。
「えぇと……一応広範囲の自治区で動いてるとはいえ『EXP』はアビドス土着扱いですし、私はアビドスの卒業生ですよ? 今の騒動が起きた後に雲隠れするなら協業するのはマズいのでは?」
「柴大将を助けた時点でもう雲隠れなんて無意味よ! それに今見るべきは未来! ビクビク隠れて過ごすよりも堂々として会社を大きく成長させて見返してやるくらいの気概が無くちゃキヴォトス一のアウトローになれないわ!」
「まあ……言わんとする事は分かりますが……」
その提案は、ある種の開き直りからくるものだったようだ。
あるいはピンチこそチャンスだと思って利益に繋がりそうなものを掴み取ろうとしているのか……
まあアルさんを見る限り、そこまで計算高い感じではなさげですが……
「アルさんはこう言われてますけど、社員の皆さんはよろしいのですか?」
「特に異議なーし! アルちゃんが言うとおりもう暴れてるから雲隠れなんて無理だしねー」
「
「私はアル様の御意思に従うだけですので、反対意見なんてありません……」
どうやら社員の方々も反対はない様子。
というかこの感じだとアルさんの意見には余程の事が無い限り反発しなさそうである。恐怖政治や洗脳とかでなく純粋な仲の良さ、要するに人望で成り立っているのが見て取れた。
上意下達が緊密に行われる少数精鋭だからこそ成り立つ形。
会社が大きくなると崩れそうな危うさはあるが、まあそこは私が心配するところではないでしょう。
実績に関しては知らないが、カイザーPMC理事が直々に依頼を出そうと考える程度には実力はあると見ていい。相当数いただろう過日の傭兵を全て潰し、更には柴大将を狙う傭兵達を撒いている点でもそこは確かだ。
人間性も及第点と見ていいだろう……
「というか、そっちはどうなの?」
そうあれこれ勘定していると、カヨコさんから警戒心を滲ませた声音で問いを投げられた。
沈思から意識を浮上させて視線を投げ返す。
「どう、と言いますと?」
「協業の件。社長がアウトロー目指してるから察してると思うけど、ウチって一応
「……うん? 風紀委員会に? ヴァルキューレにではなく?」
何やら妙な話になってきたな、と眉根が寄る。
私の知る限り指名手配にも種類が幾つかある。
その一つの指標がヴァルキューレが関わっているか否かだ。
各自治区の治安維持を司る組織だけの手に負えるか否かの境目と言ってもいい。
一般に言われる『賞金首』はキヴォトス全域の指名手配であり、公的機関であるヴァルキューレ警察学校の判断が入る。懸賞金は各自治区と連邦生徒会の税金とで折半して捻出され、ヴァルキューレの名の下に各自治区へ告知される。
一方で各自治区に限られるものには原則として懸賞金は掛からず、要注意人物として告知されるに留まる。
これにヴァルキューレは関与しない。
何故ならその自治区が手間暇掛けて自分達で対処すると宣言しているようなものだからだ。
例えばゲヘナの指名手配生徒がミレニアムやアビドスでやらかして捕まった場合、移送先はゲヘナになる。その後にヴァルキューレに連れていかれるにしても、まずはゲヘナへ。
それが各自治区の治安維持組織主体で告知される『指名手配』だった。
だから通常、ブラックマーケットの傭兵の指名手配はヴァルキューレ主体。
勿論捕まるとヴァルキューレへと連れて行かれ、矯正局送りないし留置所での反省房に入れられる。
つまり、だ。
てっきりブラックマーケットで屯していて気が合ったから便利屋を立ち上げた一団だと思っていたのだが、この少女たちは―――
「もしかしてあなた達、ゲヘナの学籍持ちなのですか?」
「そうよ? 私とムツキは2年生ね」
「絶賛逃亡中の現役生でーす! きゃはっ!」
「私はワカモさんと同い年だけど、まだ卒業してないからね」
「えっと……今年、入学しました……」
「…………眩暈がしてきましたわ」
「君ら思ってたよりちゃんとやんちゃしてるなぁ……」
学生の時点で犯罪側の傭兵稼業を生業とする会社を立ち上げる子が実際に居るとは予想外で、思わず額を押さえた。
入学してすぐ出奔して指名手配を受けても平気そうなハルカさんはやんちゃ過ぎます……
小父様は変な方向で感心してらっしゃるし……
「はぁ……去年ずっと悩んでた私が莫迦みたいですわね」
「何のこと?」
「こちらの話です……」
去年―――アビドスの三年生の時は忍耐の時間だった。
今すぐにでも動き出したいが、しっかり勉学に勤しみ、正式に卒業してからでなければ真っ当な事業は出来ないと考えていた。
すぐにでも手段が欲しかった。
それを一年以上耐えて、ようやく起業したというのに……
アビドスでも生徒の起業は校則違反でしたし、それを破って行動したところで咎められて終わっていたでしょうから良いのですが……
「それで、ウチは協業できそう?」
「単一自治区で手配されてる程度であればまだ……まあ三大校の一つですから完全に無問題ではありませんが、レイトさんがマコトさんやヒナさんとも懇意ですし、今回の件の経緯も添えて便宜を図って頂ければ解決するでしょう」
校則に反して起業して指名手配を受け、更にはブラックマーケットを中心に活動して犯罪に手を染める事も厭わない便利屋68。
そことの関係は、小父様との経緯を踏まえれば問題ではないが、便利屋が犯罪組織にカテゴライズされる実態を考えるとあまり協業は良くない。
まあ上手く事後処理をすればいいだけの話ではある。
そこであの方を頼らなければならないから気は進まないのだが。
「そもそもあなた方がゲヘナに戻って罰を受け、部活として申請し立ち上げ直せば済む話ではありますが」
「それじゃ
「だってさ」
「アルさんの拘りはイマイチ分かりかねますわ……」
はぁ、と息を吐く。そんな私の頬をむにむに突いてくるムツキさんにお辞めなさいと言いながら押しのける。
アルさんは人間性としては善良だが、縛られる事や上から指図されて自分の意思に反する事には全力で反発する難しい気質らしい。それに同調している三人も中々にクセが強い。
難しい相手ではある、が……
「分かりました。協業致しましょうか」
「ほんと!?」
「ええ。良い関係のお付き合いになれば幸いです」
「こちらこそよ! ほぼ同期の会社だし、同じ女社長としてもよろしくお願いするわ!」
了承の返事に顔だけでなく全身で喜びを露にしながらぎゅっと手を握ってくるアルさんのを解きながら、私は何度目かも忘れた苦笑を浮かべた。
それから程なく私が呼んだ回収班の車が通りがかり、私達はそれに載って一路『エクスペンダブルプライド』のオフィスビルへと向かった。
オフィスビルに着き、アルさん達と社員達とで手早く防衛部隊を編成してから小父様を護衛がてらオフィスへ案内する。
正直に言えば自分は自由に動き回りたいところだが、拉致の依頼が傭兵に出されている以上、ウチに登録している傭兵に紛れ込んでいる可能性も否定はできない。だから護衛の依頼を出す訳にはいかなかった。
アルさん達なら快く引き受けてもらえるだろうが、彼女達は自分と同じく遊撃で立ち回る方がおそらく強い。
そしてオフィスの持ち主は私だ。地理を把握していて、次善策として避難する手も打てる私と一緒に居てもらう方が都合が良い。
「小父様は座って休んでいてください。私は方針固めのために情報を集めますので」
「ああ……何も手伝えなくて悪いな」
「ふふ、お気になさらず。引退されている方に手伝わせては面目が立ちません。荒事は現役にお任せくださいな」
「はは、頼もしい限りだ」
小父様と軽口を投げ合いながら、ミレニアムのビッグシスターと全知謹製のPCを立ち上げ、社員からの共有データを表示しているのと別のウィンドウで白銀条約のサーバーへとログインする。
鉄蛇警報が出て既に三十分ほど経っている。既にゲヘナとミレニアムは動き出している筈で、それを把握するためだった。
「ふむ……ゲヘナからいつも通りですわね。特に妨害なども無いと……」
ゲヘナから棗イロハさん率いる戦車部隊、空崎ヒナさん率いる風紀委員会が出動。
ミレニアムからは……
「AMASの軍団を率いているのは
羨ましい事です、と思いながら更に動員戦力のデータの
―――続き?
はた、と手を止める。
新顔の名前こそあれ、動員戦力はこれまでと同様だった。
なのにデータに続きがあるのはおかしい。
もしかして自分が知らないだけでゲヘナ、ミレニアム以外に新たにどこかの自治区にヘイローを持つ機械が出て条約に参加した学校があるのか。
そんな疑問を抱きながら画面を下にスクロールした私の視界に、六文字のアルファベットを持つ組織が入ってきた。
「…………S.C.H.A.L.E……?」
連邦捜査部S.C.H.A.L.E。
そこの顧問である先生が今、イロハさんが乗る虎丸に同乗し、アビドスへ向かってきているらしい事が記載されていた。
SRTも動員されていて、対鉄蛇部隊とアビドスの校舎救援でそれぞれ動いているらしい。
「……これは、賭けてみるべきかもしれませんね」
噂に聞く『シャーレの先生』に関してはレイトさんからも幾らか教えてもらっていた。業務内容が被るところがあるので、互いが衝突しないようにするために必要だったのだ。
私もあちらも組織が動き出したばかりで忙しかった事もあり、顔合わせの調整が難航しているとは聞いていたが……
それでも、先生とやらが生徒のために動ける人だとはよく聞いていた。
自分はもう卒業した大人ではあるが……
これもレイトさんやアビドスのためだ。受けてもらう他無い。
―――気になる事があるとすれば……
「どんな方なのでしょうね、先生という方は……」
『当たり前』だと言って一も二もなく生徒の味方になろうとするキヴォトス外から来た大人への漠然とした不安だった。
イロハから白銀条約の共有サーバーに纏められている問題の鋼鉄兵器――転生生徒のみんな曰く、預言者――のデータを確認し始めてから数分した時だった。
ピピピッ、と電子音が戦車内に響いた。
「む、これは……EXPからの通信ですね」
手早く端末を確認したイロハがそう言って、私とアヤメの意識はそちらへ引き寄せられた。
視線を向ければ、ふむ、と黙考を挟んだイロハが手元の端末を操作した。
「繋ぎます。今から虎丸のホログラムを起動しますよ」
そう言って更にイロハが端末を操作すると、操縦席の後ろに座る私達の足元から何かの機器がせり出してきた。
カシャカシャと小さな駆動音と共に上向きにレンズが顔を出し、そこから光が放たれた。
光が結んだ像は、大きな狐の耳と尾を持つ黒髪の女性だった。スタイリッシュに動けそうなシャツとパンツスーツの上から黒いコートを羽織っているその女性が、どうやら電話の掛け主らしい。
『―――繋がりましたね。三週間ぶりですね、イロハさん。提携のための会議以来ですか』
そうして聞こえてきたのはたおやかな女性の声。
少し聞き惚れていると、隣に座っているイロハがモフモフな赤毛を揺らしながら頷いた。
「評判は聞いてますよ、順調らしいじゃないですか。しかし最後に会ったのってそれくらい前でしたっけ……それで、この回線で連絡したという事は何か用事があるんじゃないですか、ワカモさん」
―――ワカモ。
それが、ホログラムに映っている女性の名前らしい。
それは転生生徒のみんなが頻りに存在を気にしていた人の名前でもある。苗字は未だ不明だが、狐の耳と尾を持ちアビドスに関連しているのであれば、7年前に『善良な大人』に引き取られた少女が彼女と見て間違いないだろう。
『原作』であれば矯正局に入れられる程の問題児らしいが、ホログラムに浮かぶ女性はその評判からかけ離れた落ち着きぶりで微笑みを浮かべた。
『お察しの通り、少々所要があって連絡を入れさせていただきました。隣にいらっしゃる方は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生ですか?』
「はい、そうですよ」
"初めまして、シャーレの先生です"
『こちらこそ初めまして。私、『エクスペンダブルプライド』という会社の社長を務めております、ワカモと申します。よろしくお願いしますね』
お互いにぺこりと頭を下げて挨拶を交わす。
『うん、よろしく。ワカモさん……でいいのかな?』
『呼び捨てが呼びやすければそちらでも構いませんよ、敬語も話しにくければ無しでも。私はこれが基本なので続けさせて頂きますが』
"ならワカモさんって呼ばせてもらうね。あ、あと今はアヤメっていう百鬼夜行の子もいるんだ"
「七稜アヤメです。よろしく」
『アヤメさんですね。こちらこそよろしくお願いします……さて、このまま歓談といきたいところですが、現在色々と立て込んでおりまして。不躾ですが本題に入らせて頂きますね。まずは状況の共有からです』
そこで笑みを引っ込めて真剣な面持ちになったワカモが用件を切り出してきた。
それに、イロハが小首を傾げる。
「いきなり腰を折るようで悪いんですけど、なぜ卒業生のワカモさんが……? 本来はアビドスの在校生が連絡を入れる手筈ですよね」
『今あちらにその余裕も無さそうだからですね。アビドスの襲撃はここ一ヵ月続いていましたが、今回は過去に例を見ない数の傭兵が動員されています。更に恐ろしいのは一般人の拉致を働く者がいる事です』
「は……? 拉致? 火事場泥棒的なアレで身代金目的の拉致という事ですか?」
『そちらの方が遥かにマシです。いえ、不特定多数が狙われていない点においては現状の方がマシかもしれませんが』
頭が痛いとばかりに額を押さえて
"つまり今は特定の個人が狙われているという事だね?"
『そうですわね。具体的に言えば、彼岸レイトさんの養父が狙われております』
"えっ!?"
「はぁ!?」
彼女の返答に、私とアヤメの驚愕の声が重なった。
『加えて言えば私と現在アビドスに在校している後輩2名、計4名の養父でもあります』
それに反応せず、ワカモさんは更に続ける。
その内容でなぜ彼の養父が狙われているのかを察した。
そしてキヴォトスより平和な世界を生きた私が察せたなら、荒事が日常のキヴォトス出身の子も当然察せる訳で……
「……なるほど。人質に取れば確実に逆らえない人ですね。随分なやり口じゃないですか」
「レイトさんが親を見捨てられる訳ないしね……セリカさんも自分の先輩の身内を見捨てるとか出来なさそうだし、多分他の子もじゃない?」
『無理でしょうね。地元住民である上にみんな顔見知りですから』
"絶対無理だねぇそれは……"
『原作』のアビドス生徒は色々事情があるらしいけど、セリカとアヤネという子は地元愛一つで進学したらしいし、他の子もアビドスにはそれなりに思い入れがあるらしい。
しかもたった数人で維持されているコミュニティだ。
仲間意識は他のグループよりもずっと強いのは想像に難くない。仲間の大切な存在を見捨てるなんて選択を、私が知るセリカが取れるとは思えなかった。
実際にその子達を知るワカモさんも同意見らしく、ホログラムで浮かぶ彼女もしたり顔で頷いていた。
『ただ不幸中の幸いと言うべきか、その場に居合わせた『便利屋68』という何でも屋の善意で助けられ、逃亡しているところに私が合流して保護しました。ですので現状まだ拉致されてはいません』
そう言った彼女は、そこで困り眉で眉間に皺を寄せた。
『そういうわけで……まあ、こちらも執拗に狙われておりまして。今現在私のオフィスに立て籠もって徹底抗戦しているのですが、あの傭兵達は高射砲や戦車まで相当数持ち込んでいて、私どもの火器ではどうにも出来そうになく困っているのです』
「それ、オフィスがあるビルごとぶっ壊されるんじゃない?」
『懸念はしておりますが、あちらの目的は養父の拉致だからか現状その素振りは見られません。対象者の生き埋めは避けたいのでしょうね。いつそれが破られるかは分かりませんが』
「……不法品が流通してる事は聞いていますが、ただの傭兵が高射砲と戦車を両方? 整備しなければ砂埃が酷い環境ではまともに使えない品だというのに随分と贅沢ですね」
"戦時品ってキヴォトスだと比較的安価なイメージがあるけどそれでも贅沢なんだ?"
「"外"よりは安いでしょうけど、それでも維持費や整備費が嵩むので贅沢品ですよ。携行火器の弾薬費よりずっと高いです」
「
"へぇ……"
また新しい事を知ったと感心していると、そんな私に苦笑していたワカモさんが「そういう訳で」と話を纏め始めた。
『流石に起業したてのウチも戦車などは配備しておらず、私が出張ってもカバーできるのは一方面が限度。学校に合流しようにも数的不利で囲まれて養父を奪われてしまうでしょう。そうして
"つまり私に何かして欲しいって事だね? 所要ってそれの事かな?"
最初に言っていた事を思い出しながら当たりを付けて問うと、彼女はこくりと頷いた。
『お察しの通りです。あの方の話によれば、あなたの指揮を受ければ通常戦車を破壊出来ない戦力であろうともそれが可能になるとか。たしかトリニティの羽川ハスミさんが通常の弾薬で戦車を破壊出来るようになったらしいですわね?』
"あーうん、そうみたい"
転生生徒のみんなはあるのが当たり前のように言っていたし、ユウカ達も特に疑問を呈していなかったから最早常識になっていてあまり実感は無いしのだけど、私が指揮すると生徒達の動きが良くなるどころか、同じ武器を使っているのに破壊力が増すらしい。
そもそも私が"指揮バフ"と密かに呼んでいるそれ前提の依頼がまず無いから普段意識しないし。
原理や条件が不明だからあまり頼りにしたくないという考えもあるからかもしれない。
『……何やらふわふわした回答ですが、まあいいでしょう』
そんな私の答えに、ワカモさんが微妙な顔をしながらそう言った。
まあ指揮している私の影響で強くなったという話を聞いたのに、強化している本人である私がよく分かっていないと言われればそんな顔にもなるよね……
そう私が思うのを他所に、表情を真面目なものに戻したワカモさんが再度口を開いた。
『あなたのその力、通信越しの指揮でも有効なのでしょうか』
"シャーレのビル奪還戦の時がドローンで戦場を俯瞰して、通信越しの指揮だった。その時にワカモさんが言った事が起きたから有効だと思う"
『それは重畳の至りです』
私の答えに、ワカモさんはほっと一瞬頬を緩めた。
それをすぐに引き締め直して私を見据える。
『では、シャーレの先生に依頼させて頂きます。どうか我が社『
"分かった! 任せて!"
『――――――』
迷う要素なんて無かったから私はその頼みに間髪を入れず肯定を返した。
ただそれは、ワカモさんにとっては意外なものだったようで、何かを続けて言おうと口を開いていた彼女はポカンと呆気に取られた顔で固まった。
両隣の二人、運転席に座る子達からも息を呑む気配を感じた。
―――本当にキヴォトスの"普通"は歪んでいる。
『……躊躇いのない快諾、感謝致します。報酬については後程話し合いましょう。では指揮をお願いする面々の簡易的な戦闘データを条約回線経由になりますが共有致します。少々お待ちを』
数拍の後、意識を復帰させたワカモさんが早口でそう言って端末を操作し始めた。
程なく、白銀条約のサーバーの中にいくつものデータがアップロードされ始めた。それらをシッテムの箱のサポートを借りながら把握していく。
その中で便利屋の社長を名乗る子やその社員の子達とも自己紹介をし合い、こちらとも協業関係を構築。
そうして白銀条約とは別にアビドスを襲う災禍への対抗戦力が構築されたのだった。
以下の情報が更新されました
・キヴォトスの指名手配と賞金首
・連邦捜査部S.C.H.A.L.E
・エクスペンダブルプライド
・便利屋68
・キヴォトスの指名手配と賞金首
※本作独自設定です
◆指名手配
ヴァルキューレ関与と無関与がある
関与する場合、複数自治区に跨っているか対象者が無学籍やブラックマーケット所属で社会的立場を持っていない
無関与の場合、単一自治区に留まり基本厳重注意や監視などで済む
本作の場合、美食研究会、温泉開発部、便利屋68*1、魑魅一座などが無関与にカテゴライズ
本作の花鳥風月部は賞金首ではないが、ヴァルキューレが過去に関与しているため一段上の警戒枠。コクリコが顔を晒していれば賞金首扱いされていた可能性大
◆賞金首
必ずヴァルキューレが関与する
キヴォトス全域で指名手配される
本作だと六囚人などがカテゴライズ
本作におけるキヴォトスでは以下の段階を踏んで凶悪度が増していく
◆Lv.1
・単一自治区による指名手配。ヴァルキューレ無関与
部活動申請はしている美食研究会、温泉開発部、申請していない便利屋68*2など
◆Lv.2
・単一自治区による指名手配。ヴァルキューレ関与
本作花鳥風月部
◆Lv.3
・複数自治区による指名手配。ヴァルキューレ関与
ブラックマーケットの傭兵、調印式爆破アリウススクワッド、EXPO後ミライ
◆Lv.4
・賞金首
カイテンジャー達
◆Lv.5
・矯正局脱獄犯
原作の七囚人や本作の六囚人
◆Lv.6
・殺意を持った犯行の容疑者
本作のアビドス襲撃傭兵や依頼したカイザー
・連邦捜査部S.C.H.A.L.E
先生が顧問、レイトが部長の連邦生徒会直轄の超法規的権限を持つ部活
何でもやれる訳ではないが、手順に則れば大抵の事は何でも押し通せる
あまり企業と提携するのはよろしくない立場だが『アビドス高等学校を守るため』『アビドスの市民を守るため』という建前があるため最終的に問題は無い
なお先生はそこまで考えずに協業関係を結んでいる
・ExpendablePride
シャーレと最初に提携した民間企業。略称『EXP』
クリーンな業務と賞金首捕縛業務の斡旋が主な傭兵用の民間ハロワみたいな会社
賞金首関連で各自治区と提携済み
企業版シャーレなので建前されあれば相性は悪くないが競合他社的関係でもあるので微妙な部分もある
・便利屋68
EXPと最初に提携した企業?
報酬の事なんて一つも決めてないのにあれよあれよと荒事に関わり始めている
情けは人の為ならず
アウトロー……??? となる相手に社長を自慢するのが社員達の楽しみ