ブルアカ転生記譚   作:背教者

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今話の視点はセリカ→ヒナの順で変わります




怒れる者達の防衛戦

 

 

 アビドスの校舎襲撃への抗戦を始めてから一時間以上が経過した。

 

 鉄蛇警報を契機としたかのように津波の如く押し寄せた連中は、昨日までのヘルメット団のような不良達と違ってそれを本職としている傭兵達だった。

 一口に『傭兵』と言っても種類があるけど、襲ってきたのは金を出されれば何でもする類。

 自然、容赦も無かった。

 

 ズラリと並ぶ戦車や高射砲の数々を前に私達が出来る事は殆ど無かった。

 それらを操る傭兵を狙って妨害する程度。セリア先輩とシロコ先輩がツーマンセルを組んで突撃して武器を奪ったり逆に利用したりで攪乱したけど、それも相手の陣営の一部を潰した程度。

 二人の影響がない部隊が代わりとばかりに砲撃をぶち込んできて―――

 

 幾度とない砲撃に晒された私達の校舎は、遂に崩壊した。

 

「アヤネちゃん……!」

 

 それを見て、私は真っ先に中学時代からの友人の安否を心配した。

 先生に電話をした後に開戦してからロクに通信も使えない状況になって以降、彼女は校舎をあちこち移動しながら使い慣れてない狙撃銃*1で支援してくれていたのだが、それを潰されたのだ。

 戦力面でも、そして仲間の安否の面でも、私は動揺に晒された。

 

 

「おいもっとしっかり狙えよ! アレじゃ半壊程度じゃん! 一時間も掛けてんだぞ!? 建造物破壊くらい効率的に出来ないのか!?」

「るっせぇなぁ仕方ないだろ!? 扱い難しいんだよ!」

「つーか校舎のクセにあんな頑丈なのがおかしいんだよ!」

「昔は栄えてたって話だし金掛かってんだろうなぁあの校舎」

「耐震工事ならぬ対弾工事ってか!? 何十年も前の建造物にそんなのあるかっての!」

「そもそも対弾工事なんてねーよ! 単純に狙いが下手なだけだ、柱を狙え柱を!」

「柱ってどのへんだよ!」

「柱って鉄骨とか鉄筋入っててもっと固くて非効率だろ!」

「あともう砲弾無いから撃てねぇぞ」

「は!? あんだけあった砲弾使い尽くしたのか!? 馬鹿どもがよぉ!」

「ンだとゴラァ!?」

「事実だろうがゴラァ!!!」

 

 

 そんな私を他所に傭兵達がギャアギャアと言い合う声が耳朶を打った。

 歩兵として私達と撃ち合う面子と核兵器を使う面子は別グループの傭兵らしい。全員が仲間という訳ではないようだが、それでも目的は一つのようだった。

 

「校舎を奪うんじゃなくて、壊すのが目的ってどういうコトよ……!」

 

 ギリッ、と歯軋りをしながら弾倉を交換する。

 これまでは無学籍の不良達が自分達の拠点をひいては学籍を手に入れようとしていたのかと思っていた。それが成る筈は無いのだけど、そう考えるだけの学も無いのだろうと。

 だけど―――どうやら、そんな話では留まらない事らしいと漸く私も悟った。

 別グループの傭兵が一つの目的のために動いているという事は、誰かが依頼を出したのだ、アビドスの校舎を壊せと。一か月近くの襲撃で埒が明かないと見て不良達を切り捨てて、プロの傭兵達に依頼を出した。

 そうでないとあれだけの数の兵器が使われるなんてあり得ない。

 

 ただ、それでも疑問は残る。

 

 校舎を壊して、それで何が得られるというのか。

 私達を攻撃して、それで何を得るというのか。

 傭兵達は金だろう。だが、傭兵にその金を差し出してまで、依頼主はいったい何を求めているのか。

 分からない。

 なにも、分からなかった。

 

「―――あああああああっ、もう!!! ふざっけんじゃないわよ!!!」

 

 ムシャクシャして、感情のままに愛銃の銃撃を浴びせる。

 当然こちらにも射線が通るわけで、反撃とばかりに十人以上の銃弾が雨あられと浴びせられる。

 腕に、胴体に、顔にそれらが当たる。

 痛い。

 

 痛いが―――それを、気合で耐える。

 

 全身に痛みが走っても、それ以上の悔しさが私を襲っていた。痛みがそれを上書きしていた。

 半壊の校舎が、まるで自分の無力さの表れかのように感じられた。

 

 ―――同じだ、先輩を一人で行かせた時に感じたものと。

 

 銃火を交える間にも脳裏に浮かぶのは一人の男の背中だ。

 無力感と罪悪感を強く抱く人だった。

 10年もの間、このアビドスを守り続けた人への申し訳なさが私を襲うのだ。

 

「許さない……ぜったいに、許さないッ!!!」

 

 私は怒りに駆られた。

 ずっと前にアビドスから去った顔も知らない先輩達、顔は知ってるけど会った事は無い人達、地元で起業した卒業生、留年し続けている先輩や私と友人を暖かく迎え入れてくれた先輩達が守ってきたアビドスを襲う侵略者たちに。

 そして、それを跳ねのけられず良いようにされてる無力な自分に。

 私は怒りのままに銃弾をばら撒いた。

 

 

 

 ―――嫌気が差すくらい居た傭兵達の場所が大爆発を起こしたのは、その時だった。

 

 

 

 あまりにも大きな爆発。

 それは傭兵達が使っていた戦車や高射砲すらも巻き込んで、連鎖的に爆発、炎上を起こすほどの大惨事を引き起こしていた。

 一斉に上がる傭兵達の悲鳴。驚愕。原因を糾明しようとする声。

 

「……な、なによ、あれ……」

 

 あまりの事態に、一瞬ではあるが怒りも忘れて素で呟く。

 まさかシロコ先輩達が何かしたのかと思って周囲を見渡すが、私と同じくバリケードを盾にしているセリア先輩もシロコ先輩も唖然としていて、ノノミ先輩も困惑顔でこちらを見て来ていた。

 

 

『―――皆さん、無事ですか!?』

 

 

 誰もが困惑する状況で、それを切り裂いたのは安否が危ぶまれたアヤネの声だった。ずっと使い物になってなかった無線用のイヤーヘッドセットから通信が入っていた。

 

「アヤネちゃん!? 通信が……っていうかそっちは大丈夫なの!?」

『心配したんですよアヤネちゃん!』

『私は無事です! 位置を変えていたので崩落には巻き込まれてません!』

 

 私とノノミ先輩の案じる声に、ハキハキとした声でアヤネちゃんが答える。

 声の調子を聞く限り本当に無事らしいと分かってホッと一息ついた。

 

『ん、無事でよかった。通信、復旧したんだね』

『今の爆発でジャミングが解けたって事?』

『そうみたいです。それとその事について報告が―――今の爆発は、ゲヘナの戦車によるものです。援軍ですよ!』

「……えっ? ホントに?」

 

 その時の私の顔は、鳩が豆鉄砲を食ったように間抜けそのものだっただろう。ポカンとしているのが自分でも分かるくらい不意を突かれた朗報だった。

 そんな私の問いかけにもアヤネちゃんは明るく応じた。

 

『そうだよセリカちゃん! シャーレの先生も来てくれてる!』

 

『"―――通信越しでごめん。こんにちは、アビドス高等学校のみんな。シャーレの顧問をしてる先生です"』

 

「先生!」

 

 様子を見計らっていたのか、アヤネちゃんの言葉を契機にして聞き覚えのある大人の女性の声―――先生の声が通信で聞こえてきた。

 その声に私は沈みかけていた気持ちが上向きになってきたのを感じた。

 

「先生、来てくれたのね!」

『"遅くなってごめんね、セリカ。ここからは私達も手伝うよ"』

『ん―――ヘリが2機来た。片方はコンテナを吊ってるけど……』

 

 シロコ先輩の通信を聞いて上空を見れば、こちらに近付いてくる大型の戦闘ヘリが2機見えた。言われたように片方は大きなコンテナを下部に吊るしていた。

 

「先生、あのヘリは味方?」

『"うん、SRTの子達だよ。コンテナは君達への補給物資。真下から離れて、コンテナを下ろすから。ついでにそのコンテナもバリケード代わりにしちゃっていいからね"』

『あら、それは助かります。弾薬が尽きて本当に困ってたので!』

 

 先生の言葉にノノミ先輩が嬉しそうに言った。

 先輩が使うマシンガン―――俗にガトリングガンとも言われるそれは、とにかく弾薬の消費量がえげつない。回転機構用のバッテリーパックの交換もあって継戦能力がやや乏しいのが傷だった。

 そのため早々に弾薬が尽きてしまい、セリア先輩とシロコ先輩の二人が剝ぎ取ってきた銃器を急拵えの武器にして戦っていた。

 そのフラストレーションから解放されるのが楽しみなのか、ノノミ先輩の声音は明らかに期待に満ちている。

 我が先輩ながらゆるふわな感じだけどバイオレンスな気質をしてると思った。

 

 そう思っていると、コンテナを吊ってない方のヘリからロープが垂れてきて、それを辿ってスルスルと下りてくる人影が複数あった。

 そのうちの一人が私の近くに降り立って、同じバリケードを盾に身を隠す。

 

RABBIT1(ラビットワン)、現着しました。シャーレの先生の指揮の下、これよりアビドス高等学校の防衛線に加わります」

 

 白髪に菫色の瞳でタクティカルベストを着込んだその少女は、片耳に付けたイヤーヘッドセットでキビキビと報告を終えた後、こちらに目を向けてきた。

 

「えっと……よろしく」

「はい、よろしくお願いします。ですが自己紹介は後にしましょう。私の事は本作戦中はRABBIT1とお呼びください」

「わ、わかった。あ、私の事はセリカって呼んで」

「分かりました、セリカさん―――RABBIT小隊各員、位置に着きましたか? ……では作戦通りに。先生、お願いします」

『"分かった。でも突撃は待ってね。母校を襲われて怒ってる人がいま全力で向かってるから"』

「え、それって―――」

 

 思い当たる人が一人居て、その名前を口にしようとした瞬間ドガァンッ!!! と盛大な爆発が傭兵達の方で起きた。

 咄嗟にバリケードの陰から様子を盗み見ると、校門を境に敷かれていた防衛線から身を晒すように仁王立ちする女性がいた。

 

 

「よくも、(わたくし)の大切な後輩達を痛めつけてくれましたわね」

 

 

 ズボンタイプのスーツ姿の上から黒いコートを羽織りセミオートマチックライフルを肩に担ぐその女性は、爆発で倒れ伏す傭兵達を睥睨していた。

 その立ち姿からも、そして声音からも、抑えきれない怒りが滲んでいるのは私でも分かった。

 以前用事があるからと校舎を訪れた時はすごく優しい雰囲気だったので、そのギャップもあって私は素直に怖いと思った。

 ぜったいに怒らせちゃいけない人だ……

 

(あまつさ)え、殺めようとまで……絶対に許しません」

『"えっと、ワカモさん。加減はしてね?"』

「善処しますわ」

 

 先生の通信越しのやんわりとした諫言に、全然対応する気が無い返事をしたワカモさんは傭兵達の山へと突っ込んでいった。

 それを見送った私はバリケード後ろにまた顔を引っ込ませる。

 

「……なんか、聞き逃せない話が聞こえた気がするんだけど……殺めようとって……それって……」

 

 余裕が出来たからか、私は戦闘の最中なのに気になった事に思考が回り始めていた。

 ワカモさんが言っていた事が正しいなら……つまりこの傭兵達は、後者の破壊に飽き足らず私達を殺そうとしていたという事になる。

 

 ぞっとした。

 

 ぶるりと、体が震える。

 ぎゅっと、愛銃を抱えた。

 

 ―――その私の背中を、白雪のような髪の少女が摩った。

 

「セリカさん、落ち着いて下さい。ワカモさんという地元の大人の加勢に先生の指揮もあります」

 

 耳朶に柔らかい声音が響いた。

 

「シャーレがあなた達を守ってくれます。だから、今は落ち着いて下さい」

『"そうだよセリカ。シャーレが、というよりSRTの子達が守ってくれる。あなた達の身の安全が最優先事項だから……校舎までは、手が回らないけど"』

『仕方ないわ、物量が違い過ぎるもの。加勢してくれるだけでも御の字よ』

 

 先生の申し訳なさそうな言葉に、セリア先輩がそう言葉を返す。

 それに私は共感を抱いた。

 

「……そうね。セリア先輩の言う通り、御の字だわ。校舎はまた建て直せばいいもの」

『実際対策委員会室とレイト先輩の仮眠室、書類業務用の3部屋あったら正直十分。大半使ってないし、掃除も大変だし』

『シロコ、それはぶっちゃけ過ぎ』

『家庭菜園と調理実習室も要ると思いますよ♧』

「いや、物資保管室と資料保管室の方が要るでしょノノミ先輩!」

『あはは……まあ必要最低限で言えばシロコ先輩の言う事も分かりますけどね』

 

 シロコ先輩の天然かわざとか分からないボケに揃ってツッコミが入る。

 アヤネちゃんだけは先輩だからと立ててるのかもだけど、それはそれとして思う所はある含みも持たせていた。

 

 そうしてる間にも怒り狂ったワカモ先輩は大暴れしていて、SRTのヘリの戦闘支援もあり、傭兵達は次々と倒されていっていた。

 その間にヘリからコンテナが降ろされ、補給するために私達はそちらへと駆け寄る。

 SRTの生徒達はコンテナを中心にバリケードを移して新たな防衛線を築いて、こちらに来ようとする傭兵達を相手してくれていた。

 

『一先ず校舎の事は今はいいですから、先生達も気にしないで下さい』

『"そ、そう? あなた達がそう言うなら……"』

『私達はただでさえ力を借りる立場ですから……こうして加勢して頂けてるだけでも、有難いです』

「ん、確かに。鉄蛇はともかく校舎の襲撃で加勢が来てくれた事がそもそも初めてだしね」

「まあそこはその学校でどうにかすべきって考えですからね~」

「ここまで一つの学校を襲う連中も普通いないからね。事件性がある訳でもないからヴァルキューレが出張りはしないし」

 

 コンテナを開け、手早く補給を済ませつつ、シロコ先輩達が思い思いに言う。

 それは諦めというよりは、そうなって当然という認識からくるものだった。

 実際アビドスの問題だから、他校からの介入を良しとは出来ない気持ちはあった。校舎を襲われてるのに他から助けてもらわないと守れないというのは、それはその自治区を引っ張っていく事も出来ないと言っているも同然だからだ。

 

 私は先生に助けを求めたけど、それも鉄蛇に先輩が一人で向かったから。

 鉄蛇が出てなかったら今までみたいに私達だけで戦おうとしていたに違いない。少なくとも私は先生に電話をしようとはしなかっただろう。

 

 ……もしも今回鉄蛇が出てなくて、そのまま戦い始めて、ジャミングを受けていたら。

 私達は助けを求める事も出来ずに潰れていたかもしれない。

 

 そして、おそらくは――――

 

 一瞬、また沈みかけた思考を頭を振ってリセットする。

 助けが無かったら"そう"なっていただろうけど、私達はいま助けられている。奇しくも私が出した先生へのSOSで。

 でもそのSOSは、本来は私達を助けてほしいために出したものじゃないのだ。

 

「―――先生。さっきまでジャミングを受けてたから私達何も把握できてないんだけど、レイト先輩の方は? 先輩はまだ無事よね?」

 

 私達が助かっても、先輩が死んでしまってたら意味が無いのだ。私達はまだ何もあの人から受け継げてないのだから。

 どうか生きていて欲しい。

 ……でも一時間以上も一人で生きていられるのか、という疑問もあった。

 

『"大丈夫、まだ無事だよ。それにさっきSRTの救援部隊も辿り着いたから"』

 

 期待と不安が綯い交ぜになった内心は、先生の返答で落ち着いた。

 良かった、と。

 か細く声が漏れた。

 

「……ん。さっさとあいつらを片して、私達も先輩を助けに行こう」

「ふふ、そうですね~♪ セリカちゃんのためにも急ぎましょう!」

「へ? な、なによシロコ先輩にノノミ先輩、そんな変な目を向けてきて……」

「んふふ。さて、何でしょう~」

 

 私の問いに、ノノミ先輩はそうはぐらかしてコンテナを出て行った。

 シロコ先輩も微笑みながら私を一瞥して、無言で出ていく。

 困惑する私は助けを求めるように、既に補給を終えていながらじっと様子を見守っていたセリア先輩に視線を向けると―――

 

 ふっ、と鼻で笑われた。

 

「な―――っ! ちょ、セリア先輩、あんた鼻で……!」

「さっさと行くわよ、泣き虫セリカ」

「は、はぁ!? 泣いてなんてないわよ!!!」

『あはは……なんか、すみません先生』

『"ふふ、気にしないで。仲が良いのは良い事だから"』

 

 私の怒りをセリア先輩はさらりと流し続け、アヤネちゃんと先生は通信越しでも分かる苦笑の気配を流していた。

 どうも私はからかわれているような気がしながら、気を取り直してRABBIT1と名乗った少女の隣に向かう。

 

「セリカさん、もう大丈夫なのですか?」

 

 隣の位置に着いてすぐ、RABBIT1からそう問われる。

 それがさっき私が死の恐怖に呑まれかけた事を案じているのは明白だった。

 情けない第一印象を抱かせちゃったな、と内心で頭を抱えながら首肯を返す。

 

「まあ、ね……さっきはありがと。それと情けないとこ見せてごめん」

「いえ……仕方ないと思います。命を狙われるだなんて恐怖、SRTの耐性訓練でも上位に位置する克服し難いものですから」

「あーうん……まあ、先生やSRTの加勢があるし、ウチの先輩達が頼もしいしね……」

 

 一人では克服できなかった。そして先輩達は動揺を見せていなかった。そう言外に自嘲する。

 するとそれを聞いたRABBIT1は目を眇め、ほんの少し思案顔をした。それから私をまっすぐな目で見据えてくる。

 

「そう自虐する必要は無いと思います。セリカさん、あなたは強い方です」

「そ、そう?」

「はい。少なくとも自身の命を狙う相手に、今のセリカさんのように声を掛けられてすぐ立ち直って、立ち向かいまで出来る人は多くない筈です……正直、今ここに戻ってきた事に驚嘆しています」

「う……そ、の……ありがと……」

 

 そう言った彼女は、表情が薄くてもハッキリと分かる微笑みを浮かべた。

 真っ向からの賞賛に顔が熱くなるのを感じて視線を逸らす。それでも彼女の笑みの気配がずっと私に向けられているのを感じて、何となく居心地が悪く感じられた。

 

『"みんな、準備は良い? 5カウントの後に今から伝える指示の通りに動いて。アビドスの皆はそっちに降りたSRTの子達とツーマン、スリーマンセルで動いてね"』

 

 そこで救いのように先生の通信が入った。

 ここぞとばかりに指示を聞いて、頭に叩き込む。その時はRABBIT1も小隊のリーダーらしく真面目な顔で指示に意識を集中させていた。

 指示を聞き終えた後、RABBIT1と顔を見合わせ一つ頷き。

 5カウントの後に始まった作戦で、私と彼女は次々と立ちはだかる傭兵を倒して戦闘エリアを制圧していった。

 

 

 私達の反撃から十数分後、校舎周辺に集まっていた傭兵達は大部分を捕縛し、幾らかは逃亡した事で戦線が崩壊。

 

 

 私達はアビドスの校舎を守り切る事に成功したのだった。

 

 


 

 

 駆ける。

 駆ける。

 ただ砂上を駆け続ける。

 

 戦車は遅い。

 車も遅い。

 己の足と双翼がまだずっと速い。

 

 アビドス砂漠に遥か昔から存在する鋼鉄の怪物を単騎で相手取る人の下へ、ただ駆ける。

 

 

 普段は疲れるからやらない全力疾走を初めて、早一時間余り。

 

 

 遠くで暴れる鉄蛇の姿が見えてきた頃に、それらは現れた。

 戦車をはじめとした重装兵器の数々で作られた防衛線。それを構築しただろう傭兵らしきオートマタが最前に出て銃口を突きつけてきた。

 

「と、止まれぇ! ここから先は―――」

「邪魔」

 

 こちらを止めようとしたのだろうオートマタの銃を蹴飛ばし、オートマタも勢いそのままに蹴り飛ばして黙らせる。

 銃口を突き付けなければ蹴り飛ばさなかったのだけどね。

 そんな私を見て、周囲にいたオートマタや傭兵の少女達が銃を、戦車の砲塔もこちらに狙いを定めてきた。

 

「良いのかしら、白銀条約のために動いている私をここで止めて。アビドスだけじゃない、ゲヘナとミレニアムも敵に回すに等しいのだけれど、そこを理解しているのかしら。もし鉄蛇を相手にしている彼が死んだら……あなた達、殺人幇助の罪にも―――」

 

 言葉の途中で、鉛玉で返答された。

 ぱしっと額に当たって衝撃が伝わってくる。

 ……どうやらここから先へ私を行かせたくないらしい。それも、殺人幇助の罪を問われる事も覚悟の上で。

 

 ―――相手の陣容を見る。

 

 オートマタ、傭兵達の銃器、戦車、高射砲、電子戦設備、トラクターや装甲車……その何れにもどこかの所属を示すエンブレムは刻まれていない。

 カイザーが所有する土地の砂漠にあって、尚。

 

 はぁ、とため息が出た。

 

 見るからに捨て駒だ。傭兵達からどれだけ情報を得ようとも確たる証拠にはならないよう手配されている。

 しかし兵器等を見るに相応の金は掛けている。

 つまりこの連中を差し向けた者は、捨て駒を使い、金を注ぎ込んででも彼を亡き者にしようとしている。

 辿れないように狡猾に、しかし確実に事を為そうとする見えない意志がは感じ取れた。

 

「……面倒は嫌いなのだけどね」

 

 独り()ちながら、肩に掛けていた愛用の機関銃を手に取る。

 

 

 ―――その私の聴覚が、ヘリのプロペラ音を捉える。

 

 

 方角は背後。肩越しに振り返れば、3機の戦闘用のヘリが鉄蛇が暴れている砂漠へ向けて速度を出して飛び行こうとする光景を視界で捉えた。

 

 

「お、おい、ヘリの支援なんてあったか!?」

「いや無い筈だ!」

「じゃあアレは―――あっちの援軍か!」

「落とせ落とせ! 行かせんな!」

「命がけの作戦を成功させたのにパーにされたらやってらんねぇぞ!」

()()()()()()()()()()()()10()()()!」

 

 

「―――終幕:イシュ・ボシェテ(実力行使で行く)

 

 正面からがなり声が聞こえ始め、あのヘリは対鉄蛇の味方だと即座に判断した私は機関銃の引き金を引いた。

 ドガガガガガガガ! と聞き慣れた射撃音と共に傭兵達を、そしてヘリを打ち落とそうとしていた戦車やロケットランチャーの射手を撃滅していく。

 程なく私の頭上を、傭兵達の防衛線もヘリ達は越えていった。

 

 その際に、3機のヘリに刻まれているエンブレム―――『SRT特殊学園』のエンブレムを目視する。

 

「……なるほど。そういえば、シャーレも動いているという話だったわね」

 

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E。

 失踪した連邦生徒会長が指名した『大人』を顧問とし、超法規的権限の行使を可能とする組織。そこが今回動いているという話も出撃前に聞いた覚えがあった。

 

「シャーレの先生……チナツからも人柄は聞いてはいるけれど、どんな人なのかしら」

 

 大人は狡猾だ。

 表面上は笑っていても腹の底では何を考えているか分からないのが常。だから後輩からの良い評価を聞いても、完全には信用できない。

 やはりこの目で見なければ。

 

 ただ、まあ……

 

「今回即座に動いた点は、好ましいわ」

 

 アビドスの一年生からの救援要請に即座に応じ、私に追いつける速さで動き出した事は素直に驚嘆する点だった。

 そう思いながら愛銃『終幕:デストロイヤー』を撃ち続けていると、電子戦設備を撃ち抜いて爆発させた。

 

『―――ちょう、ヒナ委員長、聞こえますか!?』

 

 その途端、片耳に掛けていた無線機から聞き慣れた少女の声が聞こえてきた。

 少し前から通信途絶していたけれど……

 なるほど、いま撃ち抜いた電子戦設備はジャミングのそれだったらしい。

 

「アコ。ええ、聞こえるわ」

『良かった……! いきなり通信が繋がらなくなって驚きました!』

「ジャミングを張ってた連中がいたわ。それで通信が途絶していたみたい」

『え、えぇ!? ジャミングって……貰い事故って事ですか?』

「いいえ。今そいつらに足止めされてるところだから、狙っての事ね。どうやら私を鉄蛇の下へ行かせたくないらしいわ」

『委員長がそれを伝えた上で、邪魔をしてきたという事ですよね?』

「そうね」

『公害そのものな鉄蛇撃退という白銀条約に基づいた作戦行動の邪魔をするだなんて、ゲヘナやミレニアムにも喧嘩を売ってるに等しい行為なのに……その連中はどこの所属なんです?』

「一目で分かるものは無いわね……だからまあ、捨て駒よ」

 

 そう言い捨てた後、起き上がろうとした傭兵達を見つけたので再度『終幕:デストロイヤー』の掃射を浴びせて黙らせる。

 無線機の向こうからは、スゥー……と細く長く息を吸う音が聞こえてきた。

 余程予想外のことで自身を落ち着かせようとするアコの苦心故のものだ。

 

『……とんでもなく面倒な事態の予感がするのですが』

「奇遇ね。私もよ」

『あの男、本当に昔から面倒事しか呼び込みませんね……! 以前の万魔殿からの委員長襲撃依頼の事といい、SRT関連の署名や信任状といい、今回といい、委員長をどれだけ振り回せば気が済むのか……! 白銀条約だってゲヘナでは結ばれてから一度も作戦が必要な事態になってないからいつも遠征任務ですし! ゲヘナには不要じゃないですかこの条約!?』

「条約は万が一の時の対策で必要ではあるし、今回一番面倒に巻き込まれてるのは盟主の彼よ」

『それはそうかもしれませんが……!』

 

 おそらく、命を狙われている。

 確定していないからまだ伝えないが、それをほぼ確信している私は、あまり文句を言う気にはなれなかった。

 

 まあ元々条約の履行のために動いているから文句自体無いのだけど。

 

 万が一何かが起きた時、その時のための備えとして明確に動いてくれる味方がいるというのはそれがどれだけ小さなものだとしても安心に繋がる。

 規模で言えばゲヘナとミレニアムの二強で、アビドスは殊更必要なくはある。

 だが市民の視点から言えば、自分がいる自治区が名前を連ね、実際に動いているという事実は絶大な安心に繋がるものだ。アビドスの市民にとっては顕著だろう。

 巷で聞くアビドスの負担が少ない、恩恵ばかり受けているという意見も理解はできるが……

 

「まあ、今回のこの"面倒事"が何かの転機となるかもしれないわね」

『転機……というと、噂のシャーレですか?』

「ええ。私が足を止めてほぼすぐくらいにSRTのヘリが追い抜いて行ったわ。部長の危機だからか、あるいは生徒の助けを求める声に全力なだけなのか……どちらにせよ判断が早いわね、先生とやらは」

『あぁ……連邦生徒会の防衛室とカイザーの癒着を暴くのもスピード解決でしたね。人柄についてはチナツも褒めちぎっていましたし、あの男も……そんなに良い『大人』がいるのかと私は懐疑的ですが。キヴォトスの"外"からとの事ですがどこの『大人』も同じでしょう』

 

 治安維持の取り締まりで多くの不法行為をする大人達を見てきたからか、偏見たっぷりな意見をアコが言う。

 その気持ちは分かるがその不法をしてきた大人達と先生は別人だ。

 生まれも育ちも、その行動も。

 だからこそ―――彼岸レイトも、信用して動いたのだろうから。

 

 とはいえ言葉で言っても納得は出来ないだろうから、今はとりあえず偏見が暴走しない程度に収めておく事にする。

 気持ちを吐き出すのも重要だ。

 

「今後関わるだろうからそこで見極めればいいわ……それより、イオリ達は今どの辺かしら」

『えぇっと……まだ20kmほど後方ですね』

「……待つ時間が惜しいわ。こいつらの足を折ってから向かう」

 

 骨を折るまではまずしないが、逃げられても困る。かと言って縛る物も無いしその作業の時間も惜しい。

 なので手っ取り早く逃げられないよう両足を折る事にした。ゲヘナでも――なんならトリニティの方が――手足の骨が折れるくらいは茶飯事だし、個人差はあるが一週間から一ヵ月も治療に専念すれば治るから問題ない。

 そう判断して意図的に回線を一時切断し、傭兵達の方へ目を向けると、目が覚めていた者達がびくりと身を震わせた。

 

「ちょ、やめ……! あたしらロクな病院に掛かれないんだよ!」

「足を折るって嘘だろ!? 日常生活にも響く!」

「待ってくれ、謝るから! もうしないから!」

 

 口々に後悔の面持ちで懇願してくるが、それを無視して私は砂を踏みしめて近付いていく。

 懇願の勢いが増して、傭兵達の声色に絶望が混ざり始めるが―――それらも全て無視した。

 

 ……彼岸レイトが死んだら殺人幇助の罪を問えるが、そうでないなら推定無罪になる。

 

 何のお咎めも無しで逃がしては、また同じことが繰り返すされるだけ。

 今回のような事を繰り返す奴を見逃すことはできない。

 

 ただの問題児なら、独房に入れて反省させて終わりだ。

 だがこの者達は傭兵。所属も明かせないならまずもってブラックマーケットに拠点を置くならず者。

 社会に出て犯罪を働く者は"問題児"ではなく―――犯罪者。

 それも、金のために人が死ぬことも許容する倫理観の持ち主達だ。

 

 

 情けを掛ける理由は無い。

 

 

「怨むなら、"そんな事"に手を貸した自分達を怨むのね」

 

 

 ゴキャリと膝や足首の関節を手早く壊し、オートマタは脚部を破壊。

 数分で幾人もの呻きや悲鳴を無視して事を済ませその場を離れる。

 

 

 彼方を飛ぶ3機のヘリは、鉄蛇の下に辿り着いていた。

 

 

*1
卒業生寄贈





 以下の情報が更新されました
 ・怒れる者達
 ・アビドス廃校対策委員会
 ・ゲヘナ風紀委員会
 ・ワカモ
 ・黒見セリカ
 ・RABBIT1
 ・空崎ヒナ
 ・天雨アコ


・怒れる3人
セリカ、ワカモ、ヒナのこと
それぞれ怒っている理由は以下
セリカ:無力な自分と理不尽な状況
ワカモ:後輩達が襲われている状況
 ヒナ:人を殺す事も厭わない者達の倫理観
    +知り合いが殺されそうになっている事

・アビドス廃校対策委員会
在校生仲良しコミュニティ
数の不利を少数精鋭で何とか1時間以上持たせて籠城戦を突破した
レイトが奔走してでも廃校を阻止したSRTの力、助力していたシャーレの存在の有難みを深く感じている

・ゲヘナ風紀委員会
白銀条約のために動いている組織の一つ
最速で動けるヒナが単騎で先行し後から後詰が追う形なのは、とにかくビナー発生から少数で戦い続けるアビドスに少しでも早く加勢するため
ヒナの負担が大きいので一部*1から問題視されている

・ワカモ
過去一キレてる人
穏やかに見えても根っこは変わっていない
前話で先生達に話したり社員達に指示を出したりする時は表面上冷静さは保っていたが、現在は原作の『災厄の狐』ばりに暴れている
さっさとレイトの救援に向かいたくもあるのでとにかく撃滅を優先した
後輩に怖がられた事に後で落ち込む

・黒見セリカ
無力感に苛まれている新入生
助けを求めた判断がアビドスを救う奇跡の一手になった今回のMVP
仲間がいるからこそ死の恐怖を克服できた

月雪ミヤコ(RABBIT1)
セリカと組んだRABBIT小隊小隊長
事前にワカモから共有された『追加報酬手配』の件を聞いてるので本名が敵傭兵に知られないよう自己紹介を後回しにした
命を狙われている恐怖にすぐ立ち向かったセリカに心から驚嘆と感心を寄せ、アビドスの生徒を評価している*2

・空崎ヒナ
珍しくキレている人
ゲヘナの生徒ならキツくお仕置きして独房に突っ込んでいた。問題児だから
他校の生徒もボコボコにして黙らせてから移送していた。問題児だから
トリニティ生徒は優しめに捕らえてから移送で済ませた。後が面倒だから
学籍無し、無所属の責任を取る相手が当人の『犯罪者』だからこそ、その場で報いを受けさせた
ちょっとやそっとでは怒らないヒナも度を超えた相手には容赦しない
正当防衛や公務執行妨害への罰にしてはまだ普通。というかトリニティの方がヤバい*3

・天雨アコ
ぷりぷり怒ってはいるがキレてはない人
委員長が珍しくキレて通信を切った事に自分に向けたものではないのに暫く冷や汗を流した
ゲヘナ自体に白銀の鋼鉄兵器の関わりはもうほぼ無い条約を履行し続ける万魔殿は何を企んでいるのか、そこから依頼を受けて委員長を襲撃するあの男も何を考えているのかと悩み中
それもあってレイトの事は『敬愛する委員長に受け入れられてるクセに負担を増やす厄介な奴』という印象を持っている

*1
主にアコとレイト

*2
ミヤコはレイトに懐疑的な意識なので在校生にも警戒を向けていたが、セリカを契機に考えを改めた

*3
実際にメインストーリーにて、ツルギによって不良達が潰れた缶ジュースみたいにされたり、アカリが腕がありえない方向に折れ曲がっている状態にされる話が出ている

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