推しの子のXYZ   作:断空我

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パソコンが壊れてほとんど投稿できず、執筆中だった分を年明けに投稿します。




大団円

――これは星野アイが双子の子ども、アクアとルビーを産んでから約四年後の話。

 

 

 ピンポーンという音が鳴る。

 

「ん、社長達かな?いまいきまーす」

 

 ぱたぱたと玄関へ向かうアイの姿に息子の星野愛久愛海は嫌な予感が過る。

 アクアは時計を見た。

 社長達が訪れるといった時間よりかなり早い。

 それに当事者であるアイへ連絡せずにインターホンを鳴らしてやってくるのだろうか?

 芸能界に詳しくないアクアは疑問を抱きながらも様子を伺うことにした。

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

「ルビーか」

 

 ひょことソファーから顔を出すのは双子の妹の瑠美衣。

 四歳児の体故か眠たそうに目元をこすりながら顔を出す。

 

「ルビー、大人しくソファーのところで待っていることはできるか?」

「う、うん。それにしてもどうしたの?ママもいないし」

「迎えがきたみたいなんだ。少し様子を見てくるから」

 

 頷いてソファーの方へ向かうルビー。

 そのまま横になって眠ってしまう。

 これで何かあっても身バレすることはないだろう。

 そう考えて玄関へ向かうアクア。

 

――双子のお子さん、元気そうだね。

 

 聞こえた声にアクアは目を見開き、急ぐ。

 嫌な予感が的中した。

 外れて欲しいと願っていたのに。

 玄関に向かうと立っているアイの前にフードで顔を隠した男が白い花束を手に立っている。

 花束の中で何かが輝く。

 

「(あれは刃物だ!)」

 

 家へよく遊びに来るあのおじさんの指摘通り“目が良い”アクアは男が何をしようとしているのかすぐにわかった。

 だが、目の前の状況に声も動くことも出来ない。

 何故ならフードから覗く男の顔に見覚えがあったから。

 

「(あの男だ。俺を、雨宮吾郎を殺した男だ!)」

 

 生前に殺された瞬間がフラッシュバックして動けないアクア。

 何度か命の危機的な状況に四歳という年齢ながらも遭遇してきてタフになっていた筈。

 だが、この状況下においてアクアは動けない。

 

「(なんで、なんで動かない!急がないといけないのに)」

 

 地面に足がくっついてしまったみたいに動かない状況に苛立つアクア。

 そして、この場にいない彼らへ苛立ちをぶつける。

 

「(なんでこの場に冴羽のおじさんも香さんもいないんだよ!)」

 

 女性に現を抜かす冴羽と制裁役かつ自分達に優しくしてくれる香。

 数少ない頼りになる人達がいないことにアクアは苛立ち。

 

 

 

 

――お前が、お前がファンを。

 

 

 

 男が花束を投げ捨てナイフを握りしめる。

 アイはみているだけだ。

 このままでは刃が彼女を貫く。

 

「(助けて、助けて!誰か!)」

 

 アクアは助けを求める。

 その祈りは届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 この場で聞いたことのない第三者の声。

 男が声の方を見て青ざめる。

 立っていたのは2mを超える筋骨隆々の男。

 スキンヘッドにサングラスが印象に強く残る。

 

「(あの人)」

 

 アクアは思い出す。

 スキンヘッドの大男をアクアは見た事がある。

 アイが仕事で不在時、ベビーシッターとしてやってきていた香が時々、連れて来てくれた喫茶店の店員。

 

「どうして、あの人がここに?」

 

 戸惑いを隠せないアクアの前で大男は口を開く。

 

「今、その物騒なものを置いてとっとと逃げたら見逃してやる。もし、それをそこの娘に振り下ろしたら」

「な、なんだよ!アンタに関係ないだろ!?」

「関係ならあるさ」

 

 大男は拳を鳴らす。

 サングラス越しの眼力が強くなった気がする。

 それだけでフードの男は腰を抜かす。

 

「あぁ、くそっ!」

 

 ナイフを投げ捨てて逃げていこうとした時。

 

「警察が犯罪者を見逃すわけないでしょう」

 

 聞こえてきた声と共に男がぐぇっと声を上げて地面に倒れる。

 

「あれ、海ほたるさんに冴香さんだ!」

 

 呆然としてしまっていたアイだが、ようやく状況に思考が追い付いたのだろう。

 大男と女性へ声をかける。

 

「俺は海坊主だ!」

「相変わらずね、星野さん。はじめましてかしら?キミが星野愛久愛海君ね?私は野上冴子。警視庁の刑事よ」

 

 妖艶な笑みを浮かべる女性。

 男を投げ飛ばしてその両手に手錠をつけていた。

 その鮮やかな動きにアクアは驚く。

 

「け、刑事だと!?なんでここに!」

「シノハラリョウスケさんね?貴方には雨宮吾郎さん殺害容疑を含めて確認した事が沢山あるわ」

「え(俺の殺害容疑!?)」

 

 アクアは驚きを隠せない。

 何年もニュースにすらなっていない“生前”の自分の状況。

 それが警察によって明かされるかもしれない。

 

「ふ、ふざけるな!俺達を裏切ったアイが罰せられず、どうして俺が!ファンの為に行動した俺が罰せられることに」

「貴方ねぇ」

 

 呆れながら冴子が言葉を発しようとした時。

 

「ふざけるなよ。お前」

 

 ぶるぶると体を震わせながら海坊主と名乗った男がつかつかと前に出る。

 強面の大男が床を踏みぬきそうな程の靴音を鳴らしながらリョウスケへ近づく。

 

「な、なんだよ」

「お前のやったことはファンの為にやった事じゃない。ファンを貶める行動なんだぞ!」

「な、お、俺が貶めるだと!?ふざけるな!そこの女はアイドルのくせして子供を作っていたんだぞ!?俺はアイが、俺達を裏切って」

「何があろうとファンが推しを殺すのは間違っている!」

 

 断言する海坊主の言葉にリョウスケは戸惑いを隠せない。

 

「ファンであるといって人を殺して、その後、アイ本人を殺すことが何になる?お前の行為によってお前以外のアイのファンがどれだけの悲しみやショックを受けると思うんだ」

「そ、それは、でも、ソイツが」

「お前以外のファンが一人でもアイを殺すことを望んだのか?望んでいたか?少なくともファンの一人である俺は望んでいないな。いいか?一ファンとしてお前のやろうとしたことをなんだったのか教えてやる」

 

 リョウスケの額へ指を押し付けて海坊主が告げる。

 

「ファンの為という言い訳で取り繕ったくだらない八つ当たりだ」

「あ、あぁ……あぁ」

 

 海坊主の指摘に建前を砕かれたリョウスケ。

 彼に残されたのは人を殺したという罪と激しい後悔だった。

 かつて有名女優を殺す依頼を受けた海坊主。

 抹殺対象のファンだった海坊主は本気で殺すことはなかった。

 アイの歌声に魅了され、ファンとなった海坊主にとってリョウスケの言い分が許せない。

 

「……あまりの展開にスルーしそうになったけど、ファルコン。貴方、アイさんのファンだったのね」

「美樹!?」

 

 リョウスケと連行する冴子と入れ替わるようにして一人の女性がやってきた。

 

「あー、えっと、海ほたるさんの彼女さん!」

「美樹よ。貴方と面識はあるわね?アクア君」

「あ、はい……」

 

 あまりの展開に目を白黒させるアクア。

 はっきりいって生前が大人とはいえ脳みそがキャパオーバーでショート寸前である。

 

「それよりもアイさん、貴方!どうして来訪対応の際にチェーンをつけておかないの?ファルコンが間に合ったから良かったものの、一歩間違えたら子ども達も危険に巻き込まれていたのよ?」

「あはははは……ごめんなさい」

「謝る相手が違うんじゃない?」

 

 美樹に指摘されてアイはアクアを抱きしめる。

 

「ごめんね。アクア、危険な事に巻き込んじゃって」

「あ、うん。その、この人達はママの知り合い?」

「うーん。ママの知り合いというか、アクア達のお父さんの知り合い、そしてなんとなんと!この二人はスイーパーなのです!」

「スイーパー?」

「お、お兄ちゃん!?この人達、誰!?え、どういう状況!?」

 

 アイの告げたスイーパーの意味を尋ねようとした所でアクアを心配して玄関までやってきたルビーは目の前の状況に戸惑っていた。

 

「ちょっとお兄ちゃん。どういう状況なの?」

「俺が知りたいよ。この場にいないけど、さっきまで警視庁の刑事までいたし」

「刑事さん!?なんでアイドルのママが刑事さんと知り合いなの?」

「俺が知りたい、しかも俺達の事情まで知っているみたいだ」

「流石!超人気アイドルのママ!交友関係も凄い」

「あーまー、うん」

 

 しれっとアイへ抱き着いているルビーの態度に呆れながらアクアは海坊主と美樹へ視線を向けた。

 明らかに普通の人、この場で言うと堅気と思えない人達。

 彼らとアイは一体、どういう関係なのだろうか?

 

「さて、星野さん。念の為だけど、鑑識等が立ち入るから場所を変えましょう。そろそろ時間も押しているしね」

「時間?でも、ドームライブまでは」

「そっちじゃないわ」

 

 戻ってきた冴子が微笑む。

 

「四年間も待たされたんだから、サプライズで早い再会があってもいいんじゃないかしら?」

「四年間?」

「え!?戻ってきているんですか!」

 

 冴子の四年間という単語に首を傾げるアクア。

 対してアイは今までにないくらい目をキラキラと輝かせた。

 今までに見た事のないアイにアクアはおろか抱き着いているルビーも驚きを隠せない。

 

「えぇ、その為に最高のボディーガードが二人もいるんだから」

「……仕方あるまい」

「星野さん、任せてね」

 

 ため息を零す海坊主とにこりと微笑む美樹。

 支度を始めるアイ。

 

「野上さん」

 

 戸惑いながらもアクアは冴子へ尋ねる。

 

「何かしら?」

「さっきから話している彼って、誰の事ですか?その、もしかして冴羽さんとも関りがあったりします?」

「……どうしてそう思うのかしら?」

「えっと、前に喫茶店で冴羽さんが海坊主さんと話しているところを見たことがあって」

「はぁ~」

 

 アクアの質問に冴子はため息を零す。

 

「獠ったら」

「アイツにそんな気配りできるわけがない」

 

 呆れている冴子の隣で海坊主がぽつりと呟く。

 

「アクア君。これから行く場所に貴方の望む答えがあるわ。私達から教えてもいいんだけど、あなた自身の目で確認してくれないかしら?」

「わかりました」

 

 疑問を抱きながらもアクアは頷いた。

 この後、彼らはマンションを後にするのだが、海坊主の車のデカさにアクアとルビーが驚いたことはいうまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、用意した計画も貴様らのせいで台無しだよ」

 

 とある劇場。

 なんの演目も、誰もいない劇場。

 客席の中心部に一人の男がいた。

 屈強な肉体を黒いコートに身を包み、禁煙の客席内で葉巻を吸っている。

 髪を後ろで束ね、鋭い銀色の双眼は目の前の相手を睨む。

 対峙している相手は二十代前半だろう。

 癖のある黒髪、灰色のジャケットにダークグリーンのズボン。

 何より銀のオッドアイが目立つ。

 彼の名前は堀江一(ほりえはじめ)。

 シティーハンターである冴羽獠の仲間であり義父義子の関係である。

 そして、星野アイと夫婦であり、アクア、ルビーの父親。

 だが、二人が生まれてから一度も一は父親として会えていない。

 

「裏世界に存在する脚本家と呼ばれる人物。ソイツは自分の望む展開に対象を持ち込み始末することからその異名をつけられた。しかし、噂の存在もとんだ三文芝居を書くものだね。これなら子ども達のお遊戯会の方が何倍もマシだ」

「同じ血を持っておきながら貶すか」

 

 脚本家と呼ばれた男は鋭い目で一を睨む。

 それ以上に一が鋭い目で睨み返す。

 

「同じ血があること自体、嫌な話だね。そもそも俺と母を放り出したくせに今更の父親面か?」

 

 飄々とした態度を取っているが一の内心は激しい怒りを含んでいる。

 目の前の脚本家と一は血の繋がった親子関係。

 しかし、彼は幼い一と母を戦場の真っただ中に捨てた。

 流れ弾で母は死亡、残された一は少年兵として戦場を駆け抜ける。

 傭兵として活動していた冴羽獠と出会うまで孤独。

 冴羽獠と親子になるまで彼は家族という温もりを知らなかった。

 それ故に一は彼を父親とみていない。

 堀江一にとっての父親は冴羽獠、只一人。

 

「フン、まぁいい。だが、どうしてここがわかった?」

 

 白々しい脚本家の態度に一は足元を指さす。

 

「アンタがボコボコにした友人がSOSをだしてくれたからさ」

 

 脚本家は足元に倒れている少年の頭を持ち上げる。

 

「あははは、ごめん。一兄さん、捕まっちゃった」

「爽やかに言っているけれど、顔がボコボコだな。輝君よ」

 

 神木輝。

 劇団ララライの若きエース、ありある出来事から一と冴羽を実の家族同然に慕うようになった男の子。

 その彼が脚本家の企みに気付き、一達にこの場所を伝えてくれた。

 

「私と同じ領域に至る可能性がありながらこの様か」

「……僕は貴方みたいな人になりたくないね。できるなら冴羽さんや兄さんみたいな強い人になりたい……誰かの為に力を使える人に」

「つまらん」

 

 軍用靴で神木の頭を踏みつける。

 衝撃で脳が揺らされたのか、意識を失ってしまう。

 

「話を戻そう。私は貴様の絶望する姿がみたかった。だが、貴様らの仲間が悉く邪魔をしてくれた。どうやらけじめは自分がつけなければならないらしい」

「よく言うよ」

 

 立ち上がった脚本家に一は呆れる。

 

「自分で始末するといいながら外に沢山の手駒を用意しておいて」

「手段といってもらいたいね」

 

 脚本家が懐から拳銃を取り出す。

 サイレンサー付き拳銃。

 

「どこまでも用心深い事」

 

 片方の指先を神木の頭へ向けながら脚本家は銃口を一に向けた。

 

「用意周到といってほしいね。さらばだ、息子よ」

 

 会場内に響く銃口。

 

「む、ぐ、ぐぅぅう!?」

 

 乾いた音を立てて落ちる拳銃。

 そして、義手。

 

「貴様、なぜ、いや、どうやって!?」

 

 脚本家の目はコルト・パイソンを構える一へ向けられた。

 放たれた一発は脚本家の銃を弾き飛ばしている。

 だが、弾丸を仕込んだ義手は別の方向からの銃弾で破壊されていた。

 

「周りに部下を配置していたっていったけどさ」

 

 愛銃を構えながらゆっくりと脚本家に近付く。

 

「アンタが着席してから俺が入場するまでに全部、片付けておいたのさ」

 

 一が舞台袖をみる。

 

――最高の家族にして、最強の男が立っている。

 

 冴羽獠、シティーハンター。

 握られているコルト・パイソンの銃口から硝煙が出ていた。

 彼の手によって脚本家の弾丸が仕込まれている義手は破壊されたのだ。

 

「し、シティーハンター!だが、どうして私の義手に」

「過去にジェネラルとかいう殺し屋もアンタと同じ義手だった。同じ手は通用しないさ。特に奴と似たような卑怯な方法は特に!」

 

 叫ぶ一に動揺する脚本家。

 獠が舞台袖から降りる。

 

「アンタの敗因は俺の息子を甘く見た事さ。ソイツはもう一人前の男だ」

 

 追い打ちをかけるように冴羽獠はそういうと一の傍に向かう。

 

「ナイスタイミングだったぞ」

「師匠が合わせてくれたからですよ……彼の事、頼んでもいいですか?」

「あぁ、決着……つけるんだな?」

「えぇ」

 

 動けない脚本家の足元から気絶している神木を抱きかかえる。

 

「獠!」

 

 舞台袖から槇村香が駆け足でやってくる。

 

「診せて……うん、命に別状はないと思う」

「一君は?」

「決着をつけるのさ。過去からの決着を」

 

 三人が離れた事を確認して一はコルト・パイソンを懐へ仕舞う。

 

「追い詰められた振りをするのはやめろよ。片手に隠し持ったナイフ。出したら?」

「……一流?貴様は三流だよ。今の甘さで貴様は私を殺すチャンスを見逃したのだから」

 

 隠し持っていたサバイバルナイフを構える脚本家。

 巨漢と思えないほどの俊敏さで迫る。

 ナイフが一の心臓へ迫る瞬間。

 

「いい加減にしろ!」

 

 叫びと共に繰り出された手刀が脚本家のナイフを叩き落とす。

 続いて放たれた掌底が彼の顎を打ちぬく。

 

「三流だの、一流だの、てめぇの価値観は心底、どうでもいい!お前のくだらない計画やらいろいろなもので俺は本当に大事なものに会えなかったんだよ!わかるか!?大事な息子と娘の生まれる瞬間に立ち会えなかった!」

「ぐっ、貴様ぁ」

 

 放たれる拳を手で受け流し腹部に拳を一発。

 

「四年だ!てめぇ、てめぇのせいで子守りを全部、アイに任せてしまった。一人だけで二人の子供の面倒を見るのがどれだけ大変だと思う?知らないだろうな!アンタは子どもを産んでも捨てるだけだったからな!」

 

 ギリリと血が出そうになるほど、拳を握りしめる。

 

「俺はあいつらに“愛している”と四年間もずっと言えなかったんだぞ!」

「生意気な、父を、父を殺すというのか!?」

「俺の父親は冴羽獠、只一人!」

 

 回し蹴りが脚本家の首元を捉える。

 白目をむいて地面に崩れ落ちた脚本家の後頭部に向けてコルト・パイソンを取り出し。

 発砲音が会場内に響く。

 

「くそ最低なアンタに感謝することもなければ、地獄なんて生ぬるいところへ突き落してやる義理もない。生き地獄を味わえ」

 

 放たれた弾丸は脚本家のすぐ横に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったようだな」

 

 会場の外に出ると冴羽獠、後ろの方に野上冴子や海坊主といった仲間の姿がある。

 

「えぇ」

「脚本家は?」

「アイツは生き地獄へ招待しましたよ。手筈通り、冴子さんの手柄にしてください」

「ありがとう、遠慮なくいただくわ」

 

 そういって冴子は会場の中に足を運ぶ。

 

「長かったな」

「えぇ、大事な時間を失いました」

 

 脚本家の暗躍がわかったのは双子が生まれる少し前。

 自分がいればアイの命も危ないかもしれない。

 そう考えた一は一度、姿を消した。

 彼の最愛の妻と子供たちを守る為、可能な限り獠や海坊主達が監視しており脚本家の部下達は手出しできずにいた。

 だが、その状況がずっと続けていられるわけがない。

 全てに決着をつける準備をしていた。

 その時が今日だった。

 奇しくもアイの所属するB小町のドーム公演当日だったのは神の悪戯というべきなのか。

 

「これからどうするつもりだ?」

 

 獠の問いかけに一が応えるよりも早く衝撃を受けて彼は地面に倒れる。

 

「え、あ、アイ!?」

 

 彼に抱き着いていたのは星野アイ。

 一の最愛の人。

 

「えっと、アイさん。おーい」

 

 アイはぐりぐりと一の胸元に顔を押し付けたまま一言も発しない。

 

「おーい、そろそろ……ぁ」

 

 何か言葉を発しようとした所でこちらをみている二人の子ども。

 

「もしかして、アクアとルビー……か?」

 

 一の言葉にゆっくりと近づいてくる二人。

 

「貴方は」

 

 アクアが確かめるようにぽつりと声を発する。

 

「俺はキミ達の父親だ。そう名乗っていいのかわからないけれど」

「パパ~~~~!」

 

 戸惑う一に向かって抱き着いてくるルビー。

 少ししてアクアも一に抱き着いた。

 

「名乗っていいよ。父親と名乗っていいんだよ?一は、あれだけ愛しているっていう気持ちを伝えてくれたんだから」

 

 うずめていたアイが顔を上げる。

 

「……え、なんでその事を」

「あー、いけないいけない。盗聴器を外し忘れていたなぁ」

 

 獠が棒読みで一のジャケットに隠していた盗聴器を取り出す。

 会場内のやり取りを聞かされたことに一は恥ずかしくなる。

 

「パパが“愛している”って気持ち、伝わったよ!四年間も会えなかったけれど、ちゃんと伝わったから」

 

「うん……俺も、俺も伝わった。“愛している”って」

 

「私も“愛している”よ。ずっと言いたかった。一に、アクアに、ルビーに、“愛している”って」

 

 アイは一度、離れると嬉しそうに三人に抱き着いた。

 家族四人の抱擁。

 その光景に誰もが微笑ましくなる中。

 

「そろそろ行かねば、ライブに間に合わなくなるんじゃないか?」

 

 ぽつりと呟いた海坊主の言葉に全員が「あー!」と叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイの所属するB小町のドームライブはなんとか大成功に終わった。

 大遅刻確定の状況下だが、そこは海坊主と冴羽獠、一があり得ない道を走った事によるルート短縮でなんとか間に合う。

 車に乗っていた香やアクアは「車で走るような場所じゃない」とフラフラになり。

 アイは子どもの様に無邪気に喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は流れてアクアとルビーの高校入学式の日。

 

「ほらぁ、パパ!ママ!早く!」

「急かさないでくれって、こういう礼服って慣れないんだよ」

「あははは!一、似合ってなーい」

「そういう母さんも微妙に崩れている」

 

 家族になった星野家のメンバー。

 アクアとルビーの二人は私立陽東高校へこの春に入学した。

 ルビーは母であるアイと同じアイドルを目指して芸能科へ。

 当初はアクアも芸能科を検討していたが、少し前に発生したクモの入れ墨を持つ集団に一が襲われた時の出来事からスイーパーも将来の候補に入れているため一般科に在籍することにした。

 

「お前ら、そろそろ家族写真撮った方がいいんじゃないか?」

「あ、爆弾魔さんが呼んでいるよ」

「アイ、その呼び間違いはシャレにならないから……」

「もうママ!ボマーさんに失礼だよ!」

 

 ルビーに手を引かれてアイは歩く。

 続く形で一とアクアが追いかける。

 

「準備はいいだか?ハイ、チーズ!」

 

 ボマーの合図と共にシャッターが押される。

 

「ねぇ、一」

「なに?」

「一の事、愛しているよ」

「俺も愛しているよ」

 

 そういって二人は周りの視線を気にせず互いをハグする。

 




最後に色々でてきておりましたが、色々あったんですよということです。

次に見たエピソード

  • 一とアイの結婚式
  • 一とアイの出会い
  • 一と次元大介の出会い
  • 星野家とルパン一味の遭遇
  • シティーハンターエピソード
  • 赤いペガサス編
  • アクアの修羅場
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