「落ち着いてくれ!」
台風が接近しているため、土砂降りの雨の中。
アクアは歩道橋から飛び降りようとした少女を後ろから抱き留める。
泣きながら暴れる彼女を強く、傷つけないようにしながらアクアは強く抱きしめた。
「落ち着いてくれ、俺は、キミの味方だ」
アクアの言葉が聞こえたのか、彼女は暴れるのをやめて声を出して泣きじゃくる。
「(間に合って、よかった)」
雨が強く降りしきる中、アクアはぽつりと呟く。
これは星野アクアが有馬かなと再会して、恋は甘口の実写ドラマに出演してから少し後の話。
「アクアが恋愛リアリティーショー!?」
苺プロのオフィス。
星野ルビーに誘われてアイドルをすることになった天才子役といわれた女優の有馬かな。
彼女は気になる男の子、星野アクアが何の仕事をしているのか気になって社長をしている斉藤みやこへ尋ねた。
「うわぁ、本当にアクアがこれにでるの?」
「なんか誘われたんだって~」
ソファーに腰掛けるかなの隣に座りながらルビーと一緒にパソコンのプロモーションムービーをみる。
一人目は鷲見ゆき、高校一年生でファッションモデルの高校一年生。
二人目は熊野ノブユキ、ダンサー。
三人目は黒川あかね、舞台女優。
「げっ!?」
「どうしたの?先輩?」
「まさか、ここで姿を見せるなんて驚いただけよ」
四人目は森本ケンゴ、バンドをしている。
五人目はMEMちょ、動画配信者として活動している高校三年生。
そして、最後に星野アクア、活動はじめたばかりの役者として参加。
--チャラい男性を演じている。
「「いや、だれ!?」」
普段のアクアと思えない別人ぶりにルビーとかなは目を見開く。
知的でクール(にみえる)印象からかけ離れている。
アクアの顔を見たMEMちょが「イケメン、素敵かも~」と呟く。
「え、マジ?MEMちょにそういってもらえるなんてとても嬉しいや」
「「は?死ね」」
「はがぁ!?」
ルビーとかなの冷たい言葉が漏れた。
タイミング悪く、ドアを開けて入ってきたのは少し前に苺プロのドライバー兼マネージャー補佐として雇われたボマー。
彼は自分に言われたと思ったのかショックを受けてしまう。
「あ、ごめんごめん。ボマーさんに言ったわけじゃないの」
「驚くじゃねぇか……何を見ていたんだ?」
黄色いバンダナに大きなアザのある顔のボマーは安堵の息を吐きながらパソコンを覗き込んだ。
「あ~、アクアが出ている奴か、中々に良い演技だ」
「え?わかるの?」
「まぁ、これくらいはわからんかったらやっていけないだよ」
裏の世界じゃという言葉をボマーは飲み込む。
今はほとんど足を洗って表の仕事をしているが元は裏の世界の人間。
相手が嘘をついているかどうかはわかったりする。
その関係でアクアが演技していることを見抜いたのだ。
「しかし、誰と誰がくっつくのかそんなことに今どきの若いもんは興味を持つんだか」
「くっつくこともあれば、そうでない可能性もあるの。まぁ、アクアの場合がどうなるのかわからないけど」
何せあの両親の子どもだしとみやこは心中で思った言葉を呟いた。
アクアが黒川あかねという少女を知ったのは演技の参考で友人からの紹介で劇団ララライを訪れた時が一回目。
二回目はTV番組のプロデューサーを務める鏑木からの紹介で参加した恋愛リアリティーショー「今からガチ恋♡始めます」というもの。
目立てず爪痕を残せないと焦った彼女が撮影中に起こした炎上騒動によって自殺寸前まで追い込まれたあかねは歩道橋から飛び降りようとした。
それを助けたのがアクアだ。
同じ参加者と親しくなり、それなりの関係を築いていた事からあかねの身に何か起こるかもしれないと四歳の時の出来事を思い出したアクアは雨の中、外に飛び出す。
今にも歩道橋から落ちようとしていた彼女を助けることに成功した。
「(今度は、体が動いた)」
あの時は動けなかった自分が誰かを守れた。
その事実と目の前で泣いている女の子を助けることが出来たという結果にアクア自身も安心を感じていた。
その後、再び冴子のお世話になりながらもアクアはあかねを助ける為、前世の知識、そして動画配信者として活動している参加者のMEMちょや他の今ガチ参加者、知り合いの源さんの伝手を使いに使ってあかねのイメージの変革につながる動画を作成、編集をして炎上騒動を収めることに成功した。
炎上騒動から数日後。
「それで、お兄ちゃんはあかねちゃんとくっつくの?」
サエバハウス。
両親が二人でディナーということで残されたルビーとアクアの二人は冴羽獠と香のところへ遊びに来ていた。
「いきなりなんだ?」
ルビーの言葉にアクアは作業の手を止める。
「私もルビーちゃんに同意。告白するの?アクア君、それともされちゃう?」
「あかねちゃん、可愛いよねぇ、他の子も良いけどぉ、こんな劇的な接近があったら気になっちゃうなぁ」
じりじりと近づいてくるルビーと香。
二人の態度に呆れながらアクアは洗っていた皿を乾燥機へ並べる。
「あかねをあんな状態になるまで放っていた番組サイドの問題だ。俺はあのままにしておくのは違うと思っただけで、そこに好意があったとかそういうのは違う」
「クールなんだからぁ~」
「そこは愛している女の為にとか、言って欲しい」
「わかるわかる!」
きゃーーーと騒ぐ二人の様子に呆れるアクア。
「何を言っているんだか」
アクアにとって失意のどん底にいた黒川あかねが命を落とすことは違うと感じた。
何よりあの時、橋の上で何もかも諦めて飛び降りようとした彼女の姿。
それがどういうわけか暴漢にナイフを突き立てられそうだったアイと重なってしまった。
助けたい、アクアはその一心で行動しただけで下心の類はない。
「罪悪感だけの行動なら気を付けろよ?」
ビールを静かに飲んでいた冴羽の言葉にアクアは振り返る。
「罪悪感なんて」
「心の問題というのは酷くデリケートだ。治ったと思っていても突然、再発なんてこともありえる。ま、今回の事がお前にとってプラスかマイナスになるのかはわからないが」
立ち上がった冴羽はそのまま。
「もっこりするときは教えなさい!とっておきのホテルの場所をこの俺が」
「思春期の若者に何を教えようとしとんじゃ~~!」
1000tハンマー(本作初登場!)と書かれた一撃が炸裂する。
「俺はあぁならないように気を付けよう」
冴羽獠を反面教師にして決して女性関係で修羅場は起こさない。
そう誓ったアクア。
しかし、アクアはわかっていない。
彼の父親が星野アイを射止めたように、彼もある女性たちの心を射止めてしまう事を。
この時の彼が知る由もないが。
◆
――愛している。
自室でアクアの好きなタイプを調べていた黒川あかね。
自暴自棄になってすべてを捨てようとした自分を救い上げてくれた彼の好きな人を演じる。
演技をすることは好きだ。
助けてくれた人へ恩返し。
そのつもりで彼の好みの女性、アイを演じた。
アイ、アイドルを推している者の中で知らぬ者はいないといわれている伝説的アイドル。
――うん、まぁ、似ているんじゃないか?
試しに彼の前でアイを実演した。
しかし、彼の表情に大きな変化はなかった。
彼の求めているアイでないことはわかる。では、何が足りないのか?
アイの分析を続ける、その中で自分の中で浮かんだ仮説を混ぜていく中。
――愛している。
14歳くらいまでのアイは人を愛しているようにみえなかった。
それが16歳くらいで劇的な変化が起きている。
誰かを本気で愛しているんじゃないか?
あかねは自身の仮説を混ぜ合わせながら完璧で究極なアイドルであるアイをイメージしていく。
イメージしたアイが傍で囁く。
――アイは欲張りなんだ!
囁かれた言葉と共にあかねの瞳に星が宿る。
キラキラと輝く星と漆黒の輝きを放つ星。
――欲しいものを手に入れる。
散々、番組に振り回されたのだから少しくらい利用してもバチは当たらない筈。
私は彼の傍で輝く星になりたい。
彼の一番星でありたい。
そう、先に出会ったからといって彼が選ぶとは限らない。
「負けないよ。私がアクア君を手に入れるから」
◆
「本日から苺プロダクションでお世話になる黒川あかねです。演劇をメインに活動しております。アクア君とは清いお付き合いをさせていただく予定です」
――どうしてこうなったのだろう。
星野アクアは目の前で広がる光景に自問自答してしまう。
ガチ♡恋のイベントを無難に(告白の件はうやむやになんとかして)終わらせた一息つこうというところでまさかの参加者の黒川あかねとそのマネージャーが苺プロダクションへ移籍してきた。
「ミヤコさん、どういうこと?」
「…………偶然って怖いわよね」
苺プロ社長のミヤコ曰く、ボマーが偶々立ち寄った居酒屋で意気投合した相手が黒川あかねのマネージャーで、芸能関係であることと今の会社に不満があることを零していたところ、人手不足を思い出したボマーがその場で勧誘。
酒の勢いということもあり、後日、改めてそのマネージャーがあかね相談のもとダメ元で訪れたところ→本当に人手不足→即戦力→即採用!併せて黒川あかねさんもいらっしゃい!なんていうミラクルが起こったらしい
「本当にそれ偶然?てか、ボマーさんって」
「裏方もそこそこ優秀なのに、勧誘も優秀なのかしら?」
額に手を当ててため息を零すミヤコ。
ミラクルプレーを起こしたボマーは楽しそうにあかねのマネージャーと談笑している。
「アクア君」
二人の様子を見ているとあかねが声をかけてくる。
「すっごい偶然だね!」
目に星を宿していた。
「色々あったけれど、アクア君と一緒の事務所で働けるなんて最高だよ!これからもよろしくね!」
「あ、うん」
本当に偶然なのか?とアクアは一瞬、疑ってしまった。
「え、えっと、ガチ♡恋では友達からのスタートみたいな関係だけど、いくいくはそ、その、恋人、もしくは生涯の」
「なっ!?黒川あかね!?」
扉が開いて驚愕の声が響く。
「あ、アンタ、なんでここに!?」
立っていたのは有馬かな、そして星野ルビーとアイ。
「あ、かなちゃん。久しぶりだね。ここの事務所所属だったんだ。知らなかったなぁ」
「う、ウソつくんじゃないわよ。それより、なんでアンタが」
「私も今日からここでお世話になるんだ。アクア君だけじゃなくてかなちゃんとも一緒なんて。嬉しいなぁ。これからもよろしくね?」
笑顔だが目は全く笑っていないあかねはかなにゆっくりと近づく。
戸惑いながら離れようとするかなの耳元へ顔を近づける。
瞬間、あかねの星が強く輝いた。
「アクア君は渡さないからね?」
静かに宣戦布告をした。
「お兄ちゃん、これどういうこと?」
「わ~!今日は可愛い子が沢山だねぇ~」
不思議そうにするルビーと能天気なアイの言葉にアクアは胃が痛むのを感じた。
「あ、あれ。置いていかれている!?」
本題であるMEMちょのスカウトの件をアクアが思い出したのはそれから十分後のことだった。
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