推しの子のXYZ   作:断空我

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後編です。

これで、アイと一の出会いは終わりとなります。


最強のアイドルの護衛は最強のスイーパーの弟子(後編)

 

「死んでいないだろ?さっさと起きろ」

 

狙撃されてビルから落ちた一に声をかけるのは高身長で屈強な男性。

サングラスや纏っている衣服などから只者ではないことがわかる。

 

「優しい言葉をかけてくれても……いえ、なんでもないです。冗談です」

 

むくりと一は体を起こす。

普通の人なら心臓付近に衝撃を受けたらすぐに起き上がることはできないどころか意識を失ってしまうだろう。

だが、一はプロのスイーパー。

生半可な鍛え方をしていない。

これくらい問題はないのである。

 

――痛いものは痛いのだが。

 

服の胸元にぽっかりと穴があいているも血は流れない。

 

「すいませんね。こんな小細工してもらって」

 

穴が開いたジャケットを脱ぐ。

更にシャツを脱いで中から現れるのは防弾ジャケット。

 

「フン、ギャラを貰ったくらいの仕事はするさ」

「流石は特注品、傷一つないや……衝撃が凄かったけど」

 

モンキーズが一達を尾行していることは知っていた。

油断させるべく、一はこの男に連絡を取って一芝居うったのである。

男の前は海坊主。

裏社会においてファルコンと呼ばれているプロのスイーパー、本人は否定しているが冴羽獠とはライバルの関係である。

一と海坊主は傭兵時代に味方だったり敵だったりと不思議な関係。

数少ない味方なら信じられる相手。

敵だったら全力で挑まないと生き残れなかった強敵。

 

「モンキーズの連中、仕事が雑になったもんだ。噂は本当らしいな」

「噂?」

「トップが死んだことで後継ぎが先代より劣るという話だ」

「成程、それで、アナコンダとかいう奴を雇ったのかもね」

 

アナコンダという言葉に海坊主が反応する。

 

「知っているんですか?」

「最近、名を売り出した殺し屋だ。ナイフを武器で今の所、ミスはないと……」

「あんだけ殺意マシマシで?一体、どんな標的を始末してきたのやら」

「お前ならあの程度の相手は負けることはないだろう。さて、俺はそろそろ行くぞ」

「ありがとうございます。海坊主さん」

「フン!死なないように気を付けることだな」

 

海坊主はそういうと去っていく。

 

「着替えの服を用意してくれているなんて親切だなぁ」

 

足元にさり気なく置かれた衣服を手に取る。

 

「さて、プロに喧嘩を売ったんだ。どうなるかその身で思い知ってもらいますか……依頼もやり遂げないとな」

 

着替え終えたタイミングで鳴らされるクラクション。

振り返ると一台の車が停車している。

 

「タイミングばっちりだことで」

 

運転席にいる冴羽獠を見て一は車の方へ足を運ぶ。

 

「楽しいデートはどうだった?」

「最高だったよ。最後はビルの屋上から紐なしバンジージャンプしたけど」

「お前が囮になってくれたおかげで連中のアジトを突き止めることが出来たぞ」

「さっすが、今から乗り込むんだよね?」

 

ちらりと後部座席をみる。

冴羽が調達した銃火器が置かれていた。

 

「モンキーズも同情するよ。喧嘩売る相手を間違えたんだ」

「プロに喧嘩を売ったらどうなるかしっかりと教えてやろう。それに明日の依頼人のライブに間に合わせないといけない」

「ライブ……ね」

 

助手席にいる一はちらりと獠をみる。

 

「あのメンバーの中に星野アイの情報を流した奴がいるというのにライブへ連れて行って意味なんかあるのかな?」

「やっぱり、お前も気づいていたか」

「こちらの、というかアイドル達の動きが筒抜けだったからね。そうなったら考えられることは限られる……何より師匠がアイドル達へ声掛けしていたから」

「まぁ、頼りになる弟子だこと。そんなお前だからこそあの子の護衛を任せられたけどな」

「……俺が見捨てるかもしれないって可能性なかったの?俺は嘘つき嫌いだけど」

 

一の言葉に獠は苦笑する。

 

「確かにお前は嘘つきを嫌悪している。だが、それは相手を傷つけるものだろう?あの子は確かに嘘つきだ。だが、お前を傷つける為に嘘をついている訳じゃない。それをわかっているからこそ、助けようとしているんだろ?」

「む」

 

顔を顰める一にニシシシと獠は笑う。

 

「これは赤飯が必要かしらぁ?」

「赤飯の代わりに鉛玉押し込んでやろうかしら?」

 

ギロリと睨む一に獠は笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湾に停泊している一隻の船。

それはトラボルタ・アスグースの所有している船。

船舶内で肥満の体を揺らしながらトラボルタは喜んでいる。

 

「いやぁ、流石は優秀なモンキーズだ。依頼して正解だったよ!」

 

リーダー格の男は小さく頷いた。

傍にアナコンダも控えている。

部屋の中央に手足を縛られて拘束されている星野アイがいた。

喋らないように猿轡がされている。

 

「しかし、映像で見るよりも綺麗だな。これで未成年なんて信じられん」

 

ニタァと笑みを浮かべながら見上げているアイの頬をぺちぺちと叩く。

猿轡を外してアイの顔を覗き込む。

肥満体の男がニタニタと見下ろしているというのにアイは怯えるどころか不思議そうに尋ねる。

 

「貴方、どうして、私を狙うの?」

「美しいからよ」

 

トラボルタは嗤う。

 

「俺は美しいもの、これから熟すであろう存在が目前で絶望、恐怖する姿が好きなんだよ。キミ達のグループは明日、大きなイベントがある。それを乗り切ったら有名になっていくだろう。見たいんだよ。その目前で死ぬキミの顔がねぇ」

 

アイの顎を掴んで持ち上げる。

指先をゆっくりとアイの眼前へ近づけていく。

 

「うーん、そういわれてもねぇ」

 

瞳に指が触れるという距離まで近づけられながらもアイは怯えた様子を見せない。

それどころか困った声を漏らす。

アイ自身、確かに有名になるチャンスは大事だと思う。

だが、彼女の目的は愛を知りたいという気持ち。

 

「(それが叶わらないのは困るかなぁ?)」

「あぁ、楽しみだ。これからどうなるか想像できるか?楽しみだよぉ。キミは最後にどんな顔を見せてくれるのか……あ、そうそう。邪魔者はちゃんと始末したんだな?」

 

アイの気持ちを知らず歓喜しているトラボルタ。

自分の気持ち優先でアイが恐怖していない事に気付いていない。

トラボルタの質問にリーダーは頷く。

 

「勿論、一人は既に、もう一人はじきに……」

 

最後まで言い切る前に船舶内の照明が突如、消灯する。

 

「な!?」

「慌てるな。すぐに予備作動する」

動揺する護衛にトラボルタが告げてすぐに照明が戻る。

 

「なっ!?おい、どこにいった!?」

 

部屋の中央にいた筈の星野アイが消えていた。

 

「バカな!?」

「探せ、すぐに俺の前に連れてくるんだ!いいか、殺すな!?あの小娘の最後の瞳に刻まれるのは俺でないといかんのだ!絶対だぞ!!」

 

トラボルタの叫びと共に慌てて行動に移す護衛やモンキーズの面々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、奴さんが追いかけてくる。さっさと槇村と合流するぞ」

 

冴羽獠の言葉に堀江一は頷く。

二人はトラボルタの船から星野アイを連れて脱出しようとしていた。

 

「師匠。どうやら相手の動きが想定より速い。追い付かれる」

近付いてくる気配に振り返ると同時に一がコルト・パイソンマグナムを発砲。

 

「肥満体男の護衛にしては動きがはやいな。一。俺が殿を務めてやるからお姫様を連れて先に行きな」

「……了解」

「素直に受けるんだな。これは前進だな。良い事良い事」

「早く行っていただけませんかねぇ?」

 

苛立ち込めて伝えると獠はにしししと笑いながら敵の排除に動き出す。

 

「むーむー!」

 

獠が去った後に走り出した一に猿轡をされたアイが話しかけてくる。

連れ出す際に騒ぎ出しそうだったので一の手によって猿轡を戻されていた。

 

「今は、話を聞いている余裕がないから、後で!」

 

アイに返事をしながらコルト・パイソンマグナムで現れたモンキーズを次々と無力化させていく。

ちらりと腕の中のアイをみるも怯えた様子はない。

むしろ、呆然としていた。

 

「肝が据わっているというのか、マイペースなのか。ま、暴れるよりマシ、だな」

 

騒ぐようなら気絶させるつもりだったが、そうするとより重たくなるので大人しくしてくれている状況は助かっていた。

死角から不意打ちをしようとした一人を躱しながら手刀を叩き込む。

 

「迎えの船がくる。もう少しおとなしくしていてくれよ」

 

コクンとアイが頷いたことを確認して歩みを止める。

 

「迷わずここまできたのか」

「ちゃーんと殺してあげるよ。シルバーアイさんよぉ」

 

ナイフを構えているアナコンダは殺意に満ちた目で待ち構えていた。

一はアイをおろす。

 

「むー!むー!むむー!」

 

降ろしていざ、というところでアイが急に叫びだす。

流石にこのまま放っておくのは良くないかと思って猿轡を外した。

 

「はじめ、どうして助けに来てくれたの?」

「今聞く事か?」

「私にとっては大事!」

「…………依頼を受けたからな」

「え、それだけ?」

 

きょとんとしたアイ。

 

「それだけではないさ。お前は最後にXYZといっただろう。あれは“後がない”という意味だ。まぁ、あの時は依頼をしたいということだったのかもしれないが、俺は助けて欲しいという意味に感じた。だから助けに来た。何より」

 

ポンとアイの頭を優しく撫でる。

 

「愛について教える、って依頼を受けている。それを果たすまで死ぬつもりはないし、死なせるつもりもない」

 

安心しろと一は伝える。

 

「俺はプロのスイーパーだ。負けるつもりはない。少しは信じてくれ。裏の世界でナンバーワンっていわれているシティーハンターを」

「う、うん」

 

アイが頷いた。

一はアナコンダと対峙する。

 

「お別れの挨拶は済んだか?」

「そっちこそ遺言は書いたのか?」

「クソガキ!」

 

叫びと共に振るわれるナイフ。

 

「シティーハンターの腰巾着め!シルバーアイなんて名前を持っていながらも所詮、その程度だ!」

 

振るわれるナイフを右へ左に躱しながら言葉を発しない一を他所にアナコンダは叫び続ける。

 

「さっきは運で生き残っただけに過ぎない。貴様程度なんてこの世界にゴロゴロ転がっている。たかだかシティーハンターの腰巾着に過ぎない小僧め!このまま息の根を」

 

最後まで言い切る前に一の足がアナコンダのナイフを叩き落とす。

 

「は?」

 

呆然としているアナコンダの顎へ掌底を一撃。

その場で半回転しながらキックを叩き込んだ。

一は射撃の腕、銃器の扱い方、どれもプロとして一流である。

何より、彼は近接格闘、ジークンドーにおいて達人級の実力を持っていた。

ナイフを得意としているアナコンダを一蹴するくらい簡単だった。

 

「さっきからさ」

 

崩れ落ちるアナコンダを一瞥する。

 

「ぺらぺらと喋りすぎ、そういう奴は大抵が三流だ」

 

そんな奴相手に――。

 

「三流相手にコルト・パイソンを使うなんて弾が勿体ねぇ」

 

座り込んでいるアイの前へ手を差し出す。

 

「さ、お姫様」

 

目線を合わせてアイへ一はキザに笑う。

 

「助けに来ましたよ?」

「……それって、もっと最初に言うことだと思うの」

「うるさいよ。人が真面目にやったのにさ」

 

夜空の下で微笑むアイの姿は今まで見てきた中で美しく、嫌悪感を一は不思議と抱かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ開始前。

アイは深呼吸を繰り返す。

シティーハンターと呼ばれた二人の男達によってライブ会場へ連れてきてもらったアイ。

着ていた私服からアイドル衣装を身にまとう。

普段なら遅刻ギリギリのアイに対して苦情が飛ぶのだが、不思議とそういう様子はない。

それどころかアイを心から心配する声ばかり。

 

「??」

 

戸惑うアイにメンバーの一人が話してくれる。

 

「冴羽さんが、アイのボディーガードしていた人が話してくれたの、アイのいろいろの事」

 

冴羽獠はふざけながらもアイのこと、メンバー一人一人に対して、彼女のアイドルに対しての向き合い方。

メンバーが抱えている悩みに紳士として寄り添い、アドバイスを送っていた。

アイに嫌悪感を抱いていたメンバーも今は思う所があるのか、態度を軟化させている。

 

「……勿論、今までの態度とか、そういうことを許してほしいとかじゃない。でも、アイが真剣にアイドルやっているってことはわかった……だから」

「「「今回のライブも成功させよう」」」

 

メンバーからの言葉にアイは不思議と笑顔を浮かべる。

 

「うん!」

 

仲間との団結。

その一言で片づけていいのかわからないものの、アイはいつものこのライブは違うと感じ始めていた。

そうして、ステージへ出たアイは目を見開く。

 

「ヨッ、ホッ!ホァッ!」

「なんで、俺、まで、こんなことを!?」

「おいおいおい、一ちゃんよぉ。まさかプロが手を抜くなんてことないよなぁ?」

「だ、れがぁああああああああああああああ!」

 

B小町が参加している今回のライブのステージはSS席、S席、A席、という形で振り分けられている。

SS席は金額が高い分、推しのアイドルを近くでみられるようになっていた。

勿論、近づきすぎないようにフェンスなどが設けられている。

SS席の最前列。

アイの応援カラーのペンライト四本を持って踊っている男が二人いた。

冴羽獠と堀江一の二人である。

長年アイドルの追っかけをしているオタクを凌駕する程、息ぴったりの動きに周りが距離を開けているものの。

その熱意に周りも飲まれ始めていた。

 

「アハッ」

 

仲間達が驚いている中でアイは目を見開き、笑みを浮かべる。

それは一が嫌っている笑顔と違い、心の底から嬉しそうにしている笑顔。

いわゆる本物の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、男二人のガチダンスは後に伝説として語り継がれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連中は警察に一斉検挙。苺プロダクションの嫌がらせもろもろは一切なくなったそうだ」

 

新聞を読む槇村。

傍でコーヒーを飲んでいる冴羽。

いつものサエバマンション。

事件から数日後、室内はいつも通りの日常を過ごしている。

 

「まーったく、獠ちゃん裏方ばっかりで今回は疲れたぜ」

「息子に花を持たせたわけか」

 

揶揄う槇村の問いに獠は答えずにパスタをずるずると食べる。

 

「ところで一のあれは大丈夫なのか?」

「しらなーい」

 

槇村の目はキッチンで騒いでいる二人の姿へ向けられる。

 

「はじめ~はじめ~はじめ~!」

「うるさい!今、調理中だからしがみつくな、抱き着くな!」

 

フライパンを持っている一。

後ろから星野アイが抱き着いていた。

仕事は終わり、護衛対象の星野アイとはさようなら……になっておらず、どういうわけかサエバマンションまで彼女は訪れている。

 

「え~~~、数日ぶりのはじめなんだよぉ~しっかりと抱きしめてよぉ、船上の時みたいにぃ~」

「知らない、聞こえない。あの時は仕事だったんだ。仕事とプライベートは」

 

目をキラキラさせながら両手を伸ばして一に抱き着こうとするアイ。

首を振りながら必死に否定する一。

 

「ドキドキしていたくせに」

「うぐ!」

 

アイからの指摘に言葉を詰まらせる。

彼の態度を見て、彼女は嬉しそうに笑う。

 

「もう~折角、はじめだけのアイドルになってあげようと思ったのにぃ」

「そういうのは間に合っています。ほら、テーブルに行け。食事だ」

「はーい」

 

手を挙げて食卓につくアイ。

 

「まるで新婚だな」

 

彼らのやり取りを見て槇村がぽつりと呟く。

 

「ちょっ!?」

 

慌てる一の前でギュルンと音がつきそうな速さで振り返るアイ。

気のせいか両方の瞳に浮かぶ星が桃色に輝いているような?

 

「新婚、新婚新婚新婚新婚だってぇ!はじめ!いっそのこと結婚しちゃう?私とはじめの子どもってきっと可愛いよ!男の子かな?女の子かな?双子とかいいかも~」

 

両手を頬にあてて嬉しそうにするアイ。

 

「槇村さん。恨みますよ」

「すまん。まさかここまでとは」

「はじめ~、今日の夜、一緒に寝よう!」

「嫌だね!てか、お前はアイドルだろう!?アイドルは恋愛禁止じゃないのか!?」

「詳しいね?アイドルのこと勉強してくれたの?キャハ!嬉しいなぁ。ねね、一緒に寝ると気持ちいと思うよ!」

「勘弁してくれぇ!」

 

近付いてくるアイから逃げる一。

そのやり取りを見て獠は呟いた。

 

「人間らしくなったな。息子よ」

 




さて、二人の出会いは描いた。

世紀末の魔術師はこれからやるにして、


そろそろ、第一話にでてそれっきりの彼の事も書きたいなぁ。

スローペースですが、楽しんでいただけるとありがたいです。

アクアの修羅場もまたやりたい。

もし、高校生になったアクアが名探偵コナンのメンバーと関わるなら、どれがいい?

  • 迷宮の十字路
  • ベイカー街の亡霊
  • 十四番目の標的
  • 世紀末の魔術師
  • 紺青の拳
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