「……やぁ、少年! 警察に通報しようとしてくれていたのかな? ごめんごめん、私が追っていたヴィランだったんだが……まさか君一人で完封してしまうとは! 見事な手際だったよ!!」
オールマイトは豪快に笑いながら、出久のマントの中で気絶しているヘドロヴィランを、ポケットから取り出した空の清涼飲料水用ペットボトルへと手際よく押し込んでいく……
その動作の端々に滲む圧倒的な身体能力と、何より間近で放たれる「平和の象徴」としての威圧感に、出久はごくりと唾をのみ込んだ
ーすごい……! マントの硬さや流動性を一瞬で見抜いて、一番安全な方法で収容してる……! これが、トップヒーロー……!ってんなこと言ってる暇無かった……!
「あ、あのサイン……ってもう書いてる!?」
言いながら持ってたノートには、いつの間にかサインが書かれてた……
「ハッハッ!このくらいわけないさ!」
「あ、ありがとうございます!!」
後、気になったことも聞くことにする
「あ、あの……! 一応、正当防衛のつもりだったんですけど、勝手に"個性"を使ってしまって……」
恐縮しながら頭を下げる出久に、オールマイトはキュッとペットボトルのキャップを閉めると、白い歯を見せて親指を立てた
「ハッハッハ!先ほどの個性使用は自衛のためなのは明らかだし、被害も最小限、おまけに私たち以外誰も見てないからね、今回は私の不手際で君を危険に晒してしまったわけだし、特別に目をつぶろう!
では私はこれを警察に届けてくる! プロの活躍は、またテレビで見てくれたまえ!!」
そう言いながら、オールマイトは脚に力をこめる……
出久のマントを手に持ったまま……
「あっ!?ちょっ、待ってくだ——」
気づいた出久が、声をかけるも、間に合わなかった……
ードォンッ!!
オールマイトが踏み込むと共に出久の体も引っ張られた……
「どわぁぁっ!?」
慌てて千変万化の万能布(オールグリーン)を操作して、自身が落ちないように支える…
空中へ跳躍したオールマイトが、それに気づいたのだろうか、驚きの声をあげる
「なっ……!? 少年、何をしているんだ!? 離したまえ、危険だぞ!!」
「いや、無理ですって!?ってかオールマイトがマント持ったままだったからつられてしまったんですよ!?
今離したら落ちちゃいますし!?」
「あ、ごめん!?って風圧で顔が恐ろしいことになっているぞ少年!? 今降りるから目をつぶって口を閉じて——ッ!!」
上空数百メートル……豪々と耳を割る風切り音の中響くオールマイトの声を聞きながら、出久は具現化したマントの強度を『堅』で極限まで高め、オールマイトに振り落とされないよう必死にしがみついた……
眼下に広がる街並みがミニチュアのように小さくなっていく……
その圧倒的な高さと風圧の中で、出久の胸の鼓動は、かつてないほど激しく打ち鳴らされていた——
死ぬのではないか、という恐怖で
ビル群を見下ろす高い屋上へと着地したオールマイトは、大きく息をつきながら着地の衝撃を逃がした
「ふぅ……! いや、少年ほんとごめん!?
大丈夫だったかい!?」
「は、はい……」シヌカトオモッタ……
降ろされた出久はマントの具現化を解きながら、深く息を整えオールマイトに頭を下げた……
「すみません、すぐに解除すれば良かったのに、間に合わなくて……」
「いやいや、こちらこそ掴んだまま飛んでしまって……」
オールマイトも頭を下げながら謝罪する……
唐突に始まった、この世界初の念能力者と、平和の象徴の謝罪合戦……
その時だった……
——ゴハッ……!!!
「え……!?」
オールマイトの口から、大量の血が噴き出した……
「えぇぇぇっ!?」
豪快な筋肉の巨躯が蒸気をあげながら一瞬にして収縮し、まるで風船の空気が抜けるように縮んでいく……
溢れ出る白い煙の中から現れたのは、落ちぼれた影のような、ガリガリに痩せこけた男の姿だった——
「うわああぁぁぁぁッ!? に、偽物!? 幻覚!? 敵の攻撃——!?」
「ゴホッ……ゴホッ……! 静かにしたまえ少年……私が……オールマイトだ……」
「嘘だぁぁあっ!?」
血を拭いながら、力なく笑う痩せた男に、出久は衝撃で目を見開いた
ーでも、確かに嘘はついてない……!?オーラの量と濃度がさっきとは比べ物にならないほど低いけど、感じる質は全く同じだ!?
目を"凝"らしてオーラを見ても、嘘はついてないので更に混乱する出久…
「驚かせてすまないな……これが、私の本当の姿(トゥルーフォーム)だ」
「いや、見た目違いすぎでしょう!?変身系個性なの!?って思うレベルですよ!?」
「まぁ、そういうものだよ…これはトップシークレットだから、ネットに書き込んだりばらしたりしないでくれよ?」
そう言いながら、オールマイトはシャツをめくり上げ、痛々しい巨大な傷跡を出久に見せた……
「!?……その傷は……?」
「5年前、とある敵との戦いで出来たモノだよ…」
「五年前……っというと毒々チェーンソーですか?」
「詳しいな?……っだがそんなチンピラにやられるほど私もやわじゃない、別の…それも強大な敵にやられたものだよ」
服を直しながら言うオールマイト
「呼吸器半壊、胃袋全摘……度重なるしゅじゅつと後遺症で憔悴して、私のヒーローとしての活動限界は今は1日三時間が限界なんだ」
「それ、引退した方がいいレベルですよね?」
さすがにそれを聞いた出久が真顔で言う……
先程のリアクションが嘘のようだ……
「いや、引退はしない……
『平和の象徴』は、いついかなる時も笑顔で人々を救わねばならないからね」
ーどんな理由があれ、決して悪に屈しては行けないんだ……
寂しげに笑いながらも、瞳に覚悟を灯したオールマイトの姿に、出久の胸が強く締め付けられた……
しかし、オールマイトはすぐに表情を変え、話し始める
「さて、私はこれを警察に届けて……あれ?」
ポケットを探るオールマイトの動きが、ピタリと止まる
「ポケットが……軽い……?」
「え……?」
出久とオールマイトの視線が交錯する……
その時だった
——ドカァァァァンッ!!!!!
遠くのショッピング街の方角から、空を突き破るような爆発音が轟いた
黒煙が空へと立ち上り、悲鳴と怒号が遠く風に乗って届いてくる
「しまっ……!? さっきの空中での騒ぎの際、ポケットから落ちたのか……!?」
顔を青くするオールマイト
「(待って……あの爆発音……!?)」
出久の脳裏に、嫌な予感が激しく走り抜けた
「かっちゃん……!?」
「へ?」
出久はオールマイトの返答を待つことなく、屋上のフェンスへと向かって足を踏み出した——