当時14歳だったレイは、アローラ地方へと預けることとなった。彼女の両親は行方不明であり、レイの引き取り手がいないまま、エーテル財団が幼いレイを支援しながらも教育することとなった。レイは真面目にポケモンについての雑学を懸命に励み、エーテル財団の職員達やポケモン達と接する。
その途中、ルザミーネが高熱で倒れていたレイを発見し、彼女を休養させる。
レイはルザミーネに対して、好意を向けられていたことから、この子ならば私のポケモンへの愛の理解と、私達の子供の代わりになってくれると静かに不敵な笑みを浮かべていた。コスモッグを略奪したリーリエと親に背くグラジオよりも、彼女を優先しようと考えていた。
エーテル財団で思うように働いてくれればとルザミーネは願っていたが、まだこの時は想定外な結末になるとは思ってもなかった。
レイが幼かったとはいえ、ポケモンに対する価値観は他のエーテル財団と比べて、異常といっても良い程に過保護過ぎていたことだった。
エーテル財団の財団達も少し考えすぎでは?と首をかしげていたが、レイは自分のことよりも他人やポケモンに向き合うことの方が多くなっていた。
働いてから1年判、Zワザの実験に疑念を持ったレイの一言に、研究員達一同は一瞬にして静まり返った。
【レイはアローラ出身ではあるが、Zワザについては何も知らない】
知らない理由として、彼女が「Zパワー」の研究班から意図的に距離を置いていたから。
Zエネルギーの解析は当時、倫理的にグレーゾーンが多く、ポケモンの感情を“エネルギーとして利用する”という側面をレイは危険視していた。
「絆を力に変える……その考え方は、素敵だと思う。でも、もし“その絆を搾り取る”ことになったら…一体、誰が止めるの?」
まだ幼いで留められていた彼女だったが、この発言が上層部の反感を買ったことで、以降のZ関連の情報から外されることとなった。彼女の疑問について賛否両論ではあったものの、現状のZワザについては正式にアローラ地方のみで扱われるという結論に至った。
レイはポケモン達に対して余りにも優しすぎる、故に財団達との認識が異なっていた。そのため、後に旅を始めた際もレイはZワザの使い方を知らない。
そしてレイはルザミーネ本人に自主的にエーテル財団を辞めること、旅に出るためにアローラ地方から離れることも伝える。そんなレイをルザミーネ自身の本意で引き留めて独占しようとすれば、間違いなく周りは怪しむだろう。
ルザミーネは予想外な展開に驚いたものの、黙認せざるを得ないことではあった。
「…とても、残念ね」
「ルザミーネさんが残念でも…みんなからは、価値観の合わない私のことを不審に思われてます」
「たとえ、そうだったとしてもっ…貴方は、まだ子供なのよ?
せめて…もう少し残るだけでも」
「…ごめんなさい、ルザミーネさん。
もう決めたことだから…今までお世話になりました」
ルザミーネは、残念そうな顔をしつつもレイの退職を受理した。
アローラ・エーテル財団施設の職場。
かつて人工楽園と呼ばれたその白い研究施設の一角で、レイは静かにIDカードを机に置く。
「……もう、私にできることはここにはなくなった」
白衣の袖をたたむ手は、かすかに震えていた。ポケモン保護の最前線に立ち、ウルトラホールの調査や保護活動に携わってきた日々。
だが、組織は大きく変わり始めてしまった。
倫理よりも結果を優先する動きと未知のポケモンを「資源」と見る目。
そして何より、「命の重さ」に鈍感になっていく空気。
「ポケモン達を“管理”することは、救うことじゃない……」
レイはZパワーリングを受け取らず、Zワザの修行も受けなかった。
「…あの力は、ここに残る人の力だから…私は干渉しない」
そう言って、彼女は施設を出ていく。
実験の対象だったココドラを、レイは退職と共に引き取って、そのまま静かに去っていった。
エーテル財団は、レイの退職を「静かに処理」した。
表向きは「休職・療養」。
内部では、彼女の存在を「なかったこと」にしようとする者さえいた。
彼女のデータを削除し、“追跡できないよう”にしていたという。
それでもレイの離脱は、一部の職員の間で小さな伝説となった。
「真にポケモンを思う者が、アローラを去った」と。