東方紫恋伝   作:綾(あや)

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初の東方小説です!


幻想入り

 

 

俺は今、人生で最も理解不能な状況に置かれていた。

 

夜道を歩いている最中にふと強い浮遊感を覚え、次に瞼を開けた瞬間、背中が冷たい土と苔の感触を伝えてきた。

 

「いっでぇ!なんなんだよもう」

 

地面に尻餅をつき顔をしかめて目を開くと、視界いっぱいに青葉の天井が広がっていた。眩しい太陽光が木々の隙間から差し込んでいる。

どうやら気を失っていたらしい。上体を起こすとパーカーと丈があるズボンが土埃で汚れていた。

 

「なんで俺森の中にいんだよ」

 

最後に覚えてるのは深夜のコンビニにタバコを買いに行こうとアパートを出たところまでだ。

 

「まさか夢遊病?にしては本格的な森過ぎるしな、ってかケータイと財布……ねえし!」

 

ポケットを探るが、いつも入っているはずのスマートフォンも二つ折りの財布もない。まさか夢じゃないってか?

 

呆然としつつも、とりあえずこの状況を冷静に分析する。森の中に倒れていて、記憶が曖昧、持ち物なし。…どう考えても、ここは俺が知っている世界じゃねえ。

 

「はは。マジかよ、ファンタジーか」

 

自嘲気味に笑いながら身体についた土を払う。幸い怪我はないが自慢の金髪が汚れちまった

 

「なーんて言ってる場合じゃねぇな、とにかく人かなんかを見つけねぇと」

 

それからひたすらに俺はある続け、時には空を飛べたりチートスキルを使えるんじゃないかと試してみたが全くと言っていいほど変化がなかった、残念。どれくらい歩いたのか。鬱蒼とした森を抜けた時、凛太郎は思わず息を飲んだ。

 

そこには、まるで時代劇のセットのような、古風な建物が立ち並ぶ集落があった。

 

「まさかのタイムスリップか?」

 

周りの連中が着ている服も自動車や自転車すら使ってる奴もいない

 

「あーもうわけわかんね!!…とりあえず、腹減ったしなんか食いモン、って金ねえんだわ」

 

大きく腹の音が鳴った。空腹には勝てない。どうするか考えていたその時だった。

 

「泥棒!誰か捕まえてー!」

 

悲鳴が上がり思わずその方向を見ると、そこには一人の男が猛然と走り出てくるところだった。懐には何か詰め込んだ袋を抱えている。

 

「あーあ、マジかよ」

 

こういう時に限って目立つ事態に遭遇する、けど俺は目の前で困っている人間がいるのに見過ごすほど根性が腐っているわけじゃない。やると決めたら本気でやるのが早坂凛太郎だ。

 

「捕まえるか」

 

凛太郎は腰を上げると、その恵まれた長身の体格と元々持っている突出した運動神経によって地面を蹴り、一瞬で加速。泥棒の横っ腹めがけて、渾身のストレートを叩き込んだ。

 

「ぐへっ!」

 

派手な音と共に泥棒は道の真ん中で倒れ込み、抱えていた袋が手から離れてコロコロと転がる。

 

「ったく、人の迷惑考えろや」

 

倒れた泥棒の胸ぐらを掴んで引き起こすと、そのまま袋を奪い地面に叩きつける。騒ぎを聞いて集まってきた人々の間から、一人の少女が駆け寄ってきた

 

「あ…ありがとうございます!」

 

彼女の姿を視界に捉えた瞬間、凛太郎の頭の中で何かが弾けた。

 

(可愛い!!)

 

紫色の短めの髪。和装の袴姿だが、どことなく洗練されていて、人形のように整った顔立ち。特に透き通るような白い肌と、丸く大きな瞳。

 

まるで時が止まったかのように凛太郎の意識は泥棒から目の前の美少女へと一直線に移った。

 

「どういたしまして。こんな美人だったらもっと早く捕まえてたわ」

 

敬語なんて使う気も起きず、自然と口から出たのは口説き文句だった。

 

「ふぇ!?い、いや、その…」

 

少女は戸惑いながらもその褒め言葉に頬を微かに赤く染めている。言い慣れていないのか?可愛い。ますます可愛い。

 

「あの、あなたはどちら様ですか?その服装、この里のものではありませんよね?」

 

少女は気を取り直すと凛太郎を改めて観察するように問いかけてきた。その瞳の奥には、好奇心と知性が宿っているように見える。

 

「俺?俺は早坂凛太郎。ただの高校生さ。で、可愛いお嬢さんの名前は?」

 

「また可愛いって…私は稗田阿求と申します」

 

「あきゅう?…阿求、か。へえ、良い名前じゃん」

 

「それで、凛太郎さん。あなたはこの里では『外来人』と呼ばれる人間に該当します。この世界は、あなたがいた世界とは違う場所なのです」

 

阿求は冷静に、そして淡々と状況を説明する。

 

「なるほどね、納得」

 

「驚かないんですか?」

 

「ま、薄々そう感じてたわ。阿求みたいな超絶美少女がいる世界なら、そりゃあ夢でもファンタジーでも信じるわ」

 

「ちょ、っ……!」

 

再び顔を赤くして言葉に詰まる阿求。その様子を見て、凛太郎は面白そうに笑った。

 

「で、阿求。俺今マジで一文無しなんだけどさ。この世界のこと、飯食いながら詳しく教えてくんない?」

 

凛太郎は腹をさすりながら答える。再び腹が大きな音で鳴った。その態度に、阿求は面食らったような顔をした。

 

「…本当に不思議な方ですね。分かりました。私の家に来てください、聞きたいこともたくさんありますし」

 

「マジ?サンキュー!」

 

こうして、早坂凛太郎の幻想郷生活は、一人の美少女をナンパすることから始まった。

 

 

 

--

 

 

 

稗田家は人里の一角にある、巨大な屋敷だった。阿求に連れられてその門をくぐった時、凛太郎は思わず口をあんぐりと開けて驚いていた

 

「へえ、阿求の家ってマジで金持ちじゃん」

 

「稗田家は人里の最古の家系の一つで、代々『幻想郷縁起』という書物を編纂する役割を担っています。私はその九代目にあたるんです」

 

そう言って阿求は少し得意げに胸を張る。その仕草もまた可愛いなオイ

 

屋敷の広間のような部屋に通され出された高級そうな茶とおにぎりを口にすると、飢えが満たされた。

 

「さて、状況の説明ですが。ここは『幻想郷』。外界から隔離された、妖怪や神様といった非人間的な存在が多く住まう世界です。あなたは外の世界から迷い込んだ『外来人』というわけですね」

 

阿求は凛太郎の向かいに座り、姿勢を正して説明を始めた。その姿は、見た目こそ幼い少女だが、落ち着きと風格があり、まるで当主のようだった。まぁ実際当主なんだが。

 

「つまり俺はなぜかファンタジー世界にトリップしましたよーって感じか」

 

「とりっぷ…?は専門用語でしょうか?あなたは運悪く外界に通じる境界を越えてしまった。持ち物が消えたのも、その境界を通過する際に、外界の物質が弾かれてしまったためでしょう。ここ幻想郷は人々が様々な能力を持っていて、弾幕ごっこという独自のルールも存在しています」

 

「へえ、結構難しい話なんだな。その弾幕ごっこ?とか能力は阿求が作ったのか?」

 

「いえ、作成したのは博麗の巫女で、私は言うならば語り手です。私の能力は『一度見たものを忘れない程度の能力』一度見聞きしたことは、決して忘れることがありません」

 

阿求はサラリととんでもないことを言った。マジかこいつ

 

「それ外の世界の奴等からしたら羨ましすぎる能力だろ。外でも使えたりしねーのか?」

 

「残念ながら、能力は外の世界に出てしまうと使えないんです。ですからこの能力を使って『幻想郷縁起』を書き続けること。それが私の使命なんです」

 

凛太郎の不純な発想を無視し阿求はきっぱりと言い切った。その真剣な眼差しに凛太郎も少しだけ真面目な顔になる。

 

「そっか。悪かったな」

 

「いえ。それで、先ほどの泥棒の件ですが」

 

阿求は凛太郎が持ってきた布袋を丁寧に開いた。中には数冊の古い帳簿が入っていた。

 

「これらは私の家の蔵から盗まれた稗田家の古い記録の一部です。貴方のおかげで無事に戻りました。助かりましたよ、凛太郎さん」

 

阿求は凛太郎を見上げて微笑んだ。その、感謝と安堵が入り混じった優しい笑顔は、凛太郎の心臓を強く打った。

 

(やべぇ、この笑顔。マジで可愛い。外の世界でもトップクラスだろこれ)

 

「いや、別に。可愛い阿求が困ってるなら当然のことだろ」

 

阿求の純粋な可愛さと、普段の生活とはかけ離れた状況のせいで、素直な賞賛の言葉だけがこぼれた。

 

「それにしても、貴方の運動神経には驚きました。一瞬で泥棒を打ち倒すとは」

 

「まあ、体は動く方だからな。やる気がある時は、な」

 

「『やる気がある時は』と、それも記録しておきましょう」

 

「おいちょっと待て、そんなのまで書かなくていいだろ!」

 

「ふふ。それが私の仕事ですから」

 

阿求は楽しそうに微笑んだ。彼女の性格は非常に真面目だが、彼に対しては、どこか親愛や好奇心からくるいたずらっぽい面を見せていた。

 

「それで俺はどうすりゃいいんだ?元の世界に帰れるのか?」

 

凛太郎は真剣な表情に戻り、尋ねた。

 

「…帰る手段は、簡単ではありません。ですが、外界に帰る方法は皆無ではありません。しばらくの間、私達の保護下にいることをお勧めします。慣れていない外来人など妖怪にとって格好の餌食ですから」

 

「ふーん。まあ、可愛い阿求と一緒にいられるなら、しばらくはここにいてもいいかな。あーでも俺、あんまり家事とかは得意じゃねーんだが」

 

 阿求は凛太郎のあまりにも正直で自信満々な物言いに、思わず口元を押さえて笑みをこぼした。

 

「ふふ、ご心配なく。稗田家が一時的に面倒を見ます。外来人は、外界の貴重な情報源ですから。それに、あなたは私の家の物を守ってくれました。感謝の意は示します」

 

「お、マジかよ!さすが阿求!」

 

「ただし、この屋敷からあまり無闇に出歩かないように。私は執筆が忙しいので、日中はあまり相手はできませんよ」

 

阿求はそう言って、改めて釘を刺した。

 

「それはちょっとつまんねーな。でも、阿求の部屋を覗き見して、可愛い寝顔を堪能するとかそういう楽しみがあるなら退屈はしないかも」

 

「は、はしたない!も、もしそんなことをしたら、すぐにこの家から追い出しますよ!」

 

阿求の顔は耳まで真っ赤になった。普段冷静沈着な彼女をここまで動揺させられるのは、凛太郎の持ち前の性格だろう。

 

「冗談だって。わーってるよ。可愛い阿求を困らせる気はないって。じゃあ、護衛。阿求専属の護衛ってことで、一緒に里に出たりはできないわけ?」

 

俺はにやりと笑った。合法的に美女とデートするいい口実じゃねーか?俺天才だわ。すまんな世の非リアたち!

 

「護衛ですか。確かに、貴方ほどの身体能力があれば、護衛として雇う体裁は取れますね。その方が貴方も里の生活に馴染みやすいでしょうし」

 

阿求は真面目に考え込み、そして一つの結論を出した。

 

「分かりました。今日から貴方は稗田家の護衛です。そして、外界の知識について私に情報提供をするという名目で、滞在を許可します。ただし、外出の際は必ず私が許可を出してからです。良いですね、凛太郎?」

 

「了解、これからよろしくな」

 

凛太郎はウインクし、早速新しい生活に期待を膨らませた。

 

 

 

--

 

 

 

翌日、凛太郎は阿求に連れられて、里の外れにある山へ向かっていた。

 

「なあ、阿求。なんで神社なんか行くんだ?」

 

「ふふ。誤解を恐れずに言えば、博麗神社は幻想郷の治安維持を担う、人間と妖怪の境界を管理する場所です。あなたのような外来人を放置するわけにはいきませんから、顔見せをしておく必要があるんです」

 

阿求はいつもの和装に緋袴を揺らしながら、慣れた足取りで山道を登っていく。凛太郎は恵まれた体格のおかげで息一つ切れていないが、阿求の華奢な体躯からは想像できない健脚ぶりに感心した。

 

「それに、博麗神社の巫女は、外界への扉を開くことが可能な数少ない人間です。貴方を元の世界へ帰す手段を知っているかもしれません」

 

「へえ、そりゃいいな。ってことは、可愛い阿求以外にも美少女がいるわけだ」

 

凛太郎はすかさずそう言った。阿求の顔が微かにこわばるのが見えたが、気付かなかった。長い石段を登りきると、古びた荘厳な鳥居が見えてきた。

 

鳥居をくぐった先にあるのは手入れされているとは言い難い、簡素な神社だった。本殿の縁側には一人の少女が座って茶を飲んでいる。白い上着と緋色の袴を身につけた、黒髪の少女。端正な顔立ちだがどこか無関心な、やる気のなさそうな雰囲気を漂わせている。

 

「あら、阿求じゃない。珍しいわね」

 

少女は阿求に軽く手を挙げた。

 

「ご無沙汰しております、霊夢さん。」

 

「相変わらず堅苦しいわねアンタ…後ろにいるのは誰?」

 

凛太郎は目の前の少女を見た瞬間、手を差し出しながら反射的にしゃがみ目線を合わせる。阿求とはまた違う凛とした美しさに見惚れたのだ。

 

「あぁ、そうだよお嬢さん。俺の名前は早坂凛太郎。君に一目惚れした、ただの高校生さ。この世界に来てから可愛い子にばっかり会うんだが、君は特に綺麗だ」

 

凛太郎はいつもの調子でウインク付きの口説き文句を放った。ナンパ慣れした彼の容姿と相まって、その言葉は誰にでも通用する殺し文句だ。

 

霊夢は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにため息をついた。

 

「へえ、随分と軽い男ね。まあいいわ。お賽銭箱に百円玉でも入れてくれるなら、話を聞いてあげてもいいけど」

 

凛太郎が百円玉を阿求から貰った財布から取り出すよりも早く、背後から鋭い痛みが走った。

 

「いってぇ!!」

 

凛太郎は思わず大声を上げた。阿求が両指で彼の背中の制服の上から皮膚を力いっぱいつねっていたのだ。振り返ると阿求は顔を赤らめながら無表情に近い瞳の奥に強い圧力を込めた顔をしていた。

 

「お、おい、阿求?なんで怒ってんの…?」

 

痛みをこらえながら尋ねる凛太郎に、阿求は鼻を鳴らして答えた。

 

「ふん」

 

 一言だけ。その冷たい一言には、凛太郎のナンパに対する明確な不機嫌さが込められていた。霊夢は、その様子を面白そうに茶を飲みながら眺めていた。

 

「あら、阿求。ずいぶんとその外来人にご執心なのね」

 

「違います、霊夢さん。これは躾です。彼は私の家の護衛として雇った人間です。私の護衛が里の治安維持の要である貴女に失礼な真似をすることは、稗田家の沽券に関わりますから」

 

阿求はそう説明したが、その説明はどこか早口で説得力に欠けていた。そしてつねられている凛太郎が必死に離れようとしているが、しっかりと押さえつけていた。

 

「わかった、わかったから阿求!痛い!背中がちぎれる!もうしない!もうしないから!多分!」

 

限界が来た凛太郎は白旗をあげようやく阿求は手を離した。背中には指の形がくっきりと赤く残っていた

 

「で、結局、あんた誰なのよ」

 

「こほん…俺は君に見惚れた外来人、早坂凛太ろ…いっだぁ!?」

 

本日2回目の阿求の怒りを買った凛太郎の悲鳴が森に響いた





今のとこヒロインは阿求さんぶっちぎり、もしかしたら追加するかも?
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