見習い魔女エマの紀行録   作:クエクト1030

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 魔法の才能を持った少女、エマ・モルゲヴォーネン。
何でもない幸せな家族と、旅立つまでのとても小さなお話。


1日目、穏やかな旅立ち

 私には魔法の才能があるらしい!

 

 ある休日の朝、その日はよく冷えていたから、ホットチョコレートを淹れたの。

蜂蜜とバターを載せたパンを齧りながらテレビをつけて、

パパとママと一緒に今日のヴァルメスエッセンは何にしようかって話してた。

そうしたら、玄関のチャイムが鳴ったの。

誰かなって気になったけど、その時私は近所のマックスおじさんだってピンときたんだ。

だって、先週からマックスおじさん、パーティを開くぞ~!ってずっと意気込んでて。

私もパパもママも、おじさんの気のいい性格が好きだから結構楽しみにしてた。

それで、私が開ける!って言って飛び出して、いざ開けたらびっくり。

そこにいたのは私の倍くらいある身長の女性二人で、黒いコートに黒い帽子を被ってた。

黒いコートじゃなくて、ローブだったかも。とにかく、その二人を見て思った事と言えば、

"魔女"っていう単語だったよね。

 

 私が戸惑ってると、パパが出てきて、怪訝な目を向けながら私を後ろに下げてくれた。

それで、どちら様でしょうかって話しかけて、要件を聞こうとしたの。

二人は、そちらのご息女には魔法の才能があるため、魔女としてスカウトに参りました。

なんて言って、皆で口を開けてぽかん。でもパパは、"やばい"人の可能性があるってすぐに思って、

語気を強めていったの。でも二人はすぐに気になる事を言ってきた。

 

「超自然的現象を目撃したことがあるかと思います」

「それは、物理法則によって説明される現象ではなく、娘さんが無意識に発露させた魔法です」

「今ここでそれが魔法であると認識したため、以後は勝手に発露する事は無くなるでしょう」

「ですが才覚は依然としてそのままのため、一般人と共に生きる上では息苦しくなります」

「魔力や魔法への感覚は成長するにつれ訓練せずともある程度は鋭くなります」

「そして...こうして"非現実的な現象"に気が付くほど、"多数"との摩擦により疲弊するでしょう」

 

 一人はそう言うと、掌を開いて、その上に氷の結晶を作ったんだ。

作ったっていうのは、冷凍庫で作るとかじゃ勿論違う。

私は、その人の掌になんだか上手く言葉で言い表せないけど...

不思議な感覚、魔力って言うものなんだろうね。

その感覚を感じ取ったの。それで、その力が大きくなったら、それが氷に"変わった"。

"変わった"からなのか分からないけど...氷は、傍から見たら突然出現した事になるね。

パパとママは、目の前で起きた光景に困惑してた。

でもそれは私も同じ。確かに不思議な感覚を感じ取りはした。

昔から不思議な現象はたま~に起きてたし、不思議な事が起きても経験してたから、

絶対に信じられない、なんて事は無かったの。

だから...私が一番驚いて...それで輝いて見えたのは。

 

「こちらは入学許可証です。娘さんが30歳を超えるまでは有効です」

「サインと、本人の血液による拇印を押す事で許可証は効力を発揮します」

「応諾後、約120時間後に案内人が訪問いたします」

「入学にあたっての説明書もお渡しいたします」

 

 もう片方の人が、氷を見て困惑する私たちに事務的な抑揚が無くちょっと低めの声で、

一番前に出ているパパに書類を手渡した。

 

「それでは私達はこれで失礼いたします」

「困惑させてしまい、申し訳ありませんでした。それでは。」

 

 書類を渡すと、二人は外に出て扉を閉めちゃった。

パパとママはまだこの状況を呑み込めてなくて、書類を近くのシューズボックスの上に置いてから

マジシャンだったのか、とか。でも不審者よね、とか。警察に通報するかとか、話し始めてた。

私はあの二人が気になって、話し合っているのを背に玄関をそっと開けてみたんだけど...

あの魔女の二人は、消えてた。

死角にいるとかあるかもしれないって思ったけど、ぐるっと見回してもどこにもいない。

走って帰った?それとも車?でも音はしなかったし、どっちにしても二人が外に出てから

私が玄関の扉を開けたのは十数秒後くらい。

だからきっとこれは...

 

「魔法で、どこかに行ったんだ」

 

 掌の氷、ワープ。入学許可証...

大人気の小説みたいに、夢みたいな出来事が目の前で起きた。

 

 その日から私は、パパとママにその学校に行きたいって懇願した。

当然こんな怪しい話をよく思わなかったけど...

目の前で魔法を見たからかな。私も、何か起きろーって思って念じたら風が吹いたの。

それも、結構強くて。お家の中で発生したからカーテンはすごい動いてたし、

風に飛ばされてテーブルに備えてある花瓶が落っこちちゃったり。

ティッシュは空中に踊って、花びらが渦を作って...

制御なんて出来なかったから、5分くらい家の中を荒らして、やっと収まった。

パパとママは現実にあるのか、じゃあ入学許可証使った方が...って話し合ってて。

私がお家の中を滅茶苦茶にしちゃったのに、怒る事なんてなく私の事で話し合ってたの。

正直、風を起こしたはよくても全然制御も出来なくて、ずっと続くんじゃなかって怖かった。

そんな事が出来てしまう事が分かれば、パパとママが私に向ける視線が

変わってしまうんじゃないかとも思った。怒られるような事だし、嫌われてしまうかもしれない。

でも、パパとママはハッと気が付いて...そんな事を考えて顔を少し青くしてた私に

 

「大丈夫、大丈夫だぞエマ。怖かったな、怪我はないか?」

 

 ...そう言って、頭を撫でながら心配してくれたの。

パパの掌は守ってくれる安心感があって、ママの掌は包み込んでくれるような安心感がある。

その時私は、この人たちがパパとママで、生まれてきても良かったんだって思った。

別に、希死念慮とかで悩んでたわけじゃないよ?普通に幸せに日常を過ごしてた。

元からパパとママは大好きだった。でもね?

こうやって、日常が壊れる事が起きても、私の事を心配して、愛してくれるのは...

きっと、簡単に出来る事じゃないんだ、って。

 


 

 その日、私は家族の、両親の愛情が輝いて見えた。

暖かくて、背中を押して貰えて、休む事が出来て、安心する、暖かな陽光。

普遍的なものかもしれない。でも、その"当たり前"は決して軽んじられるべきではないこと。

それが普通で、普通こそが特別で、最も暖かく心を和らげ、そして足を進めるための力になる。

 

 だから私は───────入学する事にした。

【魔法学園アストヒク】へと。

 

 




 頑張って連載します...。
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