問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~自然を愛し愛された者~ 作:鳳凰寺
雪が降っていた。
今日は2030年12月24日-クリスマスイブである。
街には腕を組みながら幸せそうに歩いているカップル
子供にあげるクリスマスプレゼントを買いに来た家族
はたまたせっかくのイベントなのにいつもと変わらず忙しそうに働く店員
実にいろんな人が街に出て来ていた。
そんなクリスマス一色の街の路地裏に彼はいた。
「・・・すぅ・・・すぅ・・・」
路地裏の遥か奥の方で彼は壁にもたれ掛かるようにして寝ていたのである。
「・・・うん・・ん・・・はっ!」
くぐもった声を出したかと思ったら突然目を覚ます。
「やべっ・・・俺寝てたのか・・・」
そう呟くと彼は立ち上がり伸びをし、ほっと息を吐きながら息が途端に白く染まるのをぼーっと眺める
なぜ彼がこんなところにいるのか
それは彼が逃亡中だからである。
黒髪に紅い眼、顔立ちは中の上といったところか。
服装は通っている学校の校章をエンブレムとした紺を基調としたブレザーにズボン。
紅眼は普通ならば珍しい部類に入るだろう。
しかし、彼に限ってはそれほど特異した点にならない。
なぜなら彼の持ち物が異常だからだ。
彼の持ち物のうちの一つは楽器ケースだった。
それだけならまだ問題ない。今どき楽器をやっている男子高校生なんてそこら辺に沢山いるのだから。
だが、もう一つはただならぬ雰囲気を漂わせた日本刀だった。
どう見てもミスマッチにしかならないはずだがこの刀をもうかれこれ10年以上使い続けているだけに、彼が持つと不思議としっくりくる。
「いくらここが路地裏の奥深くといってもあいつらはしつこいからな~寝てる間に捕まってましたなんて事になってたら怖いね~」
と軽薄な口調でかなり物騒なことを呟く。
「そんなことよりも楽器は大丈夫かな?ケース開けたら割れてましたなんてシャレになんねえよ・・・」
捕まる事をそんなこと呼ばわりしながらとりあえず楽器ケースを開けて中身が無事なのを確かめる。
因みに今いる路地裏の上には屋根がある為雪が降ってくることはない。
だからこそ彼はここで休憩をとったのだ・・・寝てしまったが
「大丈夫そうだな・・・いつまでも此処には居られないし、そろそろ移動するかな」
そう言いながら楽器ケースを背負い、刀を腰に挿してクリスマスソングの流れる街の路地裏を歩き出す。
彼も楽器を吹いているせいか最初のうちはクリスマスソングを楽しみながら歩いてたのだが、すぐについさっきまで見てた夢について考える。
決まってこの時期にほぼ毎日見る夢。それは幼い頃の日の夢。決して忘れることなどできない最悪の出来事。
「・・・」
そっと顔を伏せその出来事を思い返す。いつもと違い鮮明に夢に見たのは今日がその日だからだろうか。
暫くトボトボと歩いてた彼は何に気付いたのかふと顔をあげると困ったように苦笑いを浮かべた。
「あちゃ~見つかったか~」
あまりに感傷に浸りながら歩いてたせいか、彼がその気配に気づいた時にはもう隠れてやり過ごせる時間などなかったのだ。
「さて、どう逃げるかな~?」
今すぐ逃げることを諦め、相手を確認しつつどうせなら鬼ごっこを楽しもうと頭のなかで路地裏の地図を引っ張り出し、逃げるルートをいくつか考え始める。
・・・さっきも言ったが、彼は逃亡の真っ最中である。
「居たぞ!!奴だ!!捕まえて殺せー!!」
5,6個逃走ルートが出来上がった頃に黒一色に武装した人が2,3人彼が見つめた先の十字路に現れ、こっちを見つけた途端に叫び仲間を呼んだ。
それを見た彼はニヤリと笑いながら反対方向に駆け出す。
「あ、おいっ!!待てー!!」
相手も焦ったように追いかけてくるが
「待てと言われて素直に待つ奴はいない!!」
とそんなのお構いなしに彼はさらに加速して引き離す。
その後は相手がギリギリ見失わない程度の距離とスピードに調整し、相手を弄ぶかのように次々と現れる十字路やT字路を右左とスイスイ進んでいく。
いつの間に合流したのか彼が逃げているうちに武装した人はどんどん増えていき遂には数百人規模の武装集団と言えるような大所帯が彼を後ろから追いかけてきていた。
「くそっバカにしやがって・・・いい加減捕まりやがれ!!」
しびれを切らしたのか武装集団の一人が叫ぶ。
そういうのも無理はない。実はさっきからずーっと追いかけてきている武装集団だが、彼らもバカではない。
直接追いかける組の他にも色んな所で待ち伏せている組があり挟み撃ちを狙っているのだが、何故か彼は待ち伏せている人がいる通りに絶対に入らない。
「奴には俺たちの仲間が何処にいるのか分かってるのか?・・・いや、ありえない。一般人ならともかく俺たちはエキスパートだ。簡単に気配を察知できるものでは・・・」
そう呟いたのは集団の先頭に立っていた男だ。その男に背後から声がかかる。
「隊長!!せっかく武装してるのにまだ発砲許可は降りないのですか!?」
「ダメだ。路地裏とはいえ此処は街中だ。騒ぎを大きくしたくないし万が一にも一般人に当たってはまずい」
隊長と呼ばれた男はかぶりを振りながらそう告げ、大分走ったはずなのに一向にペースの落ちる気配のない彼の背中を睨む。
「奴は一体いつまでこの茶番を続けるつもりなのか・・・」
隊長がそう独り言を漏らした時、彼がいきなりT字路を右に曲がった。その瞬間隊長の頭の中にあった地図が絶好のチャンスだと告げる。
「みんな!!奴が曲がった先は三方が高層ビルが囲まれた行き止まりだ!!おまけに窓や扉もなければマンホールもない。正に袋のネズミ状態だ!!今度こそ奴を捕まえるぞー!!」
「「「「「おおーーー!!」」」」」
一気に爆発したかのように加速する武装集団。やっと捕まえられるかもしれないのだ、当然だろう。しかしそれこそ武装集団を完全に撒くために仕掛けた罠だった。
「・・・なっ!!」
我先にとT字路を曲がった瞬間武装集団は驚愕の余りピタリと足を止めた。そこは確かにさっき隊長が言った通りの光景が広がる行き止まりだったのだが、彼の姿だけが何処にもないのだ。
「た、隊長!!これは一体・・・!!」
「み、見えてないだけかもしれん!!五感全てを使ってくまなく探せ!!」
その一言で武装集団はしらみ潰しにその通りを探したが、結局彼を発見できなかった。
「くそっ!!奴は一体何処に消えたんだ・・・」
時は少し前に遡る
「そろそろ飽きてきたな~・・・」
追われていた彼はそう呟くと何処で武装集団を撒くかを決めるため、周りをキョロキョロしながら再度地図を頭に浮かべる。
「よし、
彼はニヤリと笑いながら当たり前のように言うと、ある場所に向かって進路を変える。何回か右左と曲がったあと、目的のT字路に差し掛かり右に曲がる。
そして前のビルまで後5mほどに迫ったとき
「ふっ」
彼は軽く踏み切る。それと同時に彼は風を操り着地するであろう場所に風を集めていく。集められた風はどんどん圧縮されていき確かな硬度を持った。
圧縮された風の上に着地した彼は屈伸の要領でそのまま深く沈むと圧縮した空気を一気に解放し、そのエネルギーも上乗せして一気に跳び上がる。
それだけで高層ビルの7割り以上の高さまで軽く跳躍した。
「よっ!ほっ!」
落下が少し始まったタイミングで再び足元に風を圧縮させ、今度は壁蹴りのように風を蹴る。これを2,3回繰り返すと彼は簡単に高層ビルの屋上へとたどり着いた。
「ふぅ・・・」
彼は軽くため息をつくと下はどんな状況になってるかな~とわくわくしながら下を見る。すると下では期待通り武装集団がわらわらと群がってるのが見えた。
「どんなに探しても下には俺はいないのにな~面白れ」
彼は腹を抱えてアハハと笑う。しばらく武装集団を観察してると頬に雪が落ちてきているのに気づき、改めて雪が降ってることを認識した彼は空を見上げる。
そういえばあの日も雪が降っていたな~と思いだした彼は大切な少女のことを思い浮かべた。
「お兄ちゃんは元気にやってるぞ・・・"美玖"・・・」
そう呟きながら彼は慈愛に満ちた、しかし哀しい笑顔を空に向かって浮かべた。
そうして感慨にふけっていた彼は、視界の端で一瞬きらりと光ったのを見た。
「ん?なんだあれ?」
その方向をみると、何かがひらひらと舞いながら落ちてくるのが見えた。
「これ手紙か?なんで空から手紙が降ってくるんだ?」
落ちて来る物を捕まえた彼は思わずそう呟く。そして手紙は自分の手の平に迷わずに落ちてきた。
おまけに宛名には、自分の名前が達筆な字で書かれていたもんだから、思わず不敵な笑みが浮かんでしまう。
「世の中不思議なことがあるもんだな~でも面白そうだから取りあえず開けるか」
と言って彼は迷わずに手紙の封を切り、内容を読んでいく。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの"箱庭"に来られたし』
箱庭?と思わず呟いた瞬間彼の視界が一瞬にして真っ白になる。
次に彼が理解したのは雲一つない大空を始めとする綺麗な自然と真下に見える澄み切った湖、そして自分が空中に放り出されているという異常事態だった。
初めまして。鳳凰寺です。
第一話を読んで下さりありがとうございました。
お見苦しい点ばかりではございますが、どうか温かい目で見守ってください。
また、ご意見ご感想心よりお待ちしております。
次話も楽しみにして頂けるとすごくうれしいです。
それでは、次回お会い致しましょう!