カンピオーネが別世界に行くのは間違っているのだろうか 作:Zakurosu666
そこは、世界の裏側
時間も空間も意味を失い、ただ可能性だけが漂う虚無の海
其処には二人の人物が居た
方や、全ての災厄を解き放ち、最後に「希望」を残した神殺しの母、パンドラ
方や、エピメテウスの落とし子であり、神を屠りその力を奪う魔王
カンピオーネ
「えーと、何のようですか?」
明は首を掻きながら、目の前の少女のような容姿をした義母に問いかけた。
「少し貴方にお願いがあって呼んだの」
「お願い?」
「本題の前に、貴方はまつろわぬ神に付いてどこまで知っているかしら?」
パンドラは悪戯っぽく、それでいてどこか憂いを含んだ瞳で問う
「え、確か神話の伝承から外れ、自らの意志で地上に現れて災厄をもたらす神々の事ですよね。確か」
「ええ、おおむねその通りよ」
「あなたは今まで、まつろわぬ神を殺し権能を簒奪してきたわよね」
「その通りだが?」
明は首を傾げた。
カンピオーネにとって神殺しは生存本能に近い。当たり前のことを確認される違和感
「でも、そのまつろわぬ神がなぜか最近になって多く現れたか、考えたことは?」
(そうだ、何故か最近、降臨の頻度が多くなっている。それに奴ら、妙に強かった。今の質問がそれと関係あるのか?)
「貴方の考える通りよ。」
「本来、神々は神話という檻の中に留まり、その役割を演じている。」
「稀にその枠組みを拒絶し、実体を持って現世に降臨するのがまつろわぬ神だった」
「だった……? 其は一体」
パンドラは指を一本立て、重大な事実を告げる
「神々は本来、複数の世界を管理するのが仕事でもあるの。でも、最近ある世界に、神々は天界から降りて移住してしまったのよ」
「大丈夫なのか!? その世界!!」
明は慌てた
神々が地上に降臨する。それは即ち、天変地異を振り撒く厄災そのものだからだ。
「大丈夫、貴方が危惧する事は無いわ。その世界に降りる際、神々は…神威を封印したの」
「神威?」
「神を神たらしめる権能と力」
「地上に降りた神々は、それが完全に封印されたと思っている」
「でも違う。その封印されし力が漏れ、自我を持ち、勝手に形を成してしまった」
「自分こそが神であるという狂った自我をね」
パンドラの表情が曇る。
「それが、最近こちらの世界にまで流れてきているまつろわぬ神の正体」
「つまり、あっちの世界の神々が捨てた力が、意志を持って暴れているのよ」
「はあ!? ちょと待て、何でその世界で生まれたのが俺たちの世界に来るんだよ!」
「あちらの世界では、神の力を使うと天界に強制送還されるルールがあるの」
「でも自我を持った神威は、天界に行かずに世界の外へ押し出され……結果として私たちの世界へ漂着してしまうのよ」
明は唖然とした。
つまり、自分たちが命懸けで殺してきた神々は、別世界の神々が放置した「抜け殻」だったというのか
「なら、その下界に降りた神たちは動かないのか!」
「気付いてないわ。あの神たちは今、下界での暮らしに夢中だもの」
「待て……そもそも、何で神々が力を封じてまでそんな世界に降りたんだ?」
明は、何か高潔な理由があるのではないかと期待した
世界を救うため、あるいは人を導くため。
だが、パンドラから返ってきた言葉は、彼の期待を無惨に打ち砕く
「それは」
「そ、それは?」
「退屈しのぎと娯楽のためよ」
一瞬がフリーズする
「…………はぁ!? 」
だが直ぐにもどるり
「フ、フザケンナ! 糞神どもが!!」
明の怒りが爆発した。
「落ち着いて!!」
「落ち着けるわけないだろ! 」
「世界のためとか介入しなきゃいけない理由があるならまだしも」
「娯楽の為だって!? あんまりじゃないですか! いわば俺たちカンピオーネは、神々の尻拭いをしてるってことだろ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
数時間後
ようやく肩で息をしながら落ち着いた明に、パンドラは苦笑しながら本題を切り出した
「はぁ……貴方には、その世界、オラリオという都市がある世界を見てきて欲しいの」
「……あ、あまり神を殺さないでね?」
「なんでだ? 諸悪の根源なら、ボコボコにして天界に連れて行けばいいじゃないか」
「その世界で神を殺すことは最大の禁忌なの。」
「それに、殺したら復活まで時間がかかるし、何よりあっちの神々は傲慢だから、自分が人間に害されるなんてこれっぽっちも思っていないわ」
パンドラは明の胸に手を当て、優しく微笑む。
「あちらの神々はファルナという恩恵を授けて眷属を作るけれど、貴方には刻めないし、刻む必要もないわ」
「……さあ、行ってらっしゃい。」
「送った先にウラノスという話の通じる神がいるから、詳しいことは彼に聞いて」
「……あ、攻撃しちゃダメよ?」
「はいはい、解りましたよ」
明の返事と同時に、視界は真っ白な光に包み込まれた
◆◆◆◆◆◆◆◆
気づけば、明は冷たい石造りの広間に立っていた。
目の前には、巨大な石座に深く腰掛けた威厳ある老人――ウラノス
「汝が、パンドラが言っていた者か」
「……そう言うあんたが、ウラノスか」
カンピオーネの直感が、目の前の存在を「敵」として認識し、全身の血が沸き立つ。だが、明はそれを力ずくで抑え込んだ。
「汝の身分は『パンドラ・ファミリア』の団長、レベル5の冒険者として登録してある。フェルズ、あれを」
黒いローブの怪人物から、地図と手紙を受け取る
「今はただ、この都市を見てくれ。頼みたいことが出来たら、フェルズを遣わす」
「……ああ、わかったよ」
明は背を向け、祈祷の間を去ろうとする。
その背中に、ウラノスの静かな声が飛んだ
「最後に……このオラリオにいる神を、出来るだけ殺さないでくれ」
「パンドラにも言われたよ。……まあ、あいつらが分を弁えてるうちは、な」
明が去った後、フェルズが困惑気味に呟いた。
「ウラノス……彼は一体? それに、神を殺さないでくれとは……」
「フェルズよ。……もし、神を殺せる存在がこの地に降りたとしたら、どうなると思う?」
「何を……下界において神殺しは禁忌、そもそも人に神は殺せません」
「……彼については探るな。あれは、我ら神の常識を破壊する災厄そのものだ」