アリア・マンシュタインの物語   作:ネコ博士

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第一話

アルサーンの静かな街外れに、古びた孤児院があった。赤い屋根と白い壁、庭には小さな花壇と鉄棒、砂場があり、そこに暮らす子どもたちは日々の生活を淡々と営んでいた。

14歳のアリア・マンシュタインは、その中でも目立たない存在だった。背は少し高めで銀色の髪を後ろでまとめ、朱色の瞳を穏やかに輝かせる。子どもたちの遊びに混ざることもあるが、どちらかと言えば観察する側に回ることが多かった。

朝の光が差し込む食堂で、子どもたちは簡単な朝食をとる。笑い声、皿を合わせる音、椅子のきしむ音――アリアはすべてを耳で捉え、些細な違いに気づく。

「……今日のジョルジュ、少し元気がないかも」

心の中で呟く。その観察力は、ただの好奇心以上のものだったが、彼女自身はまだそれを特別とは感じていない。ただ日常の一部として、無意識に注意を向けているだけだった。

孤児院には小さな規則があった。洗濯や掃除、食事の準備、学習の時間。職員は子どもたちの行動を見守るが、厳格すぎるわけではなく、優しさと秩序のバランスが保たれていた。アリアはそのルーチンを自然に覚え、誰かに言われる前に行動することも多かった。

そして、二年に一度の能力測定の時期がやってきた。孤児院の廊下に張り出された通知を見つめるアリアは、心臓の高鳴りを感じる。

「私は…普通じゃないのかもしれない。でも、怖くはない」

小さな独り言は、まだ漠然とした自覚に過ぎない。彼女はただ、自分の力を試す機会だと受け止めていた。

測定会場は大きな体育館。全国から集まった子どもたちが、緊張と期待の入り混じった空気の中で並ぶ。アリアは列の端に立ち、静かに周囲を観察した。年上の子どもたち、同じ年齢の子どもたち、それぞれの目の輝きや動き。細かい仕草から心の動きを察知するのは、彼女にとって自然なことだった。

測定が始まる。簡単な思考力テスト、記憶力テスト、反応速度テスト――ひとつひとつを順にこなしていく。試験官の微妙な表情、道具のわずかな揺れ、声のトーンの違いまで察知し、正確に結果に反映する。

最後のステージは個別能力評価。アリアの番になると、試験官が慎重に説明する。小さな実験装置に触れると、彼女は自然に力の流れを読み取り、最適な反応を導く。周囲の子どもたちは目を見開き、試験官も眉を上げた。

「……これは、非常に高い潜在能力です」

試験官の低い声が体育館に響く。数字やデータが示す結果は、アリアが孤児院で過ごしてきた日常では想像もできないものだった。観察力、判断力、学習速度――すべてが突出していたのだ。

アリアはその結果に驚きこそあれ、恐怖は感じなかった。能力はただ、彼女の一部として存在するもの。まだ特別な使命感も神格化される感覚もない。ただ、自分の力が静かに、しかし確かに試され、認められた瞬間だった。

そしてその日の夕方、アリアは孤児院の庭で小さな石を拾い、手のひらで転がす。風に揺れる花の香り、遠くで遊ぶ子どもたちの声――すべてが、これからの未来の静かな序章に思えた。




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