アリア・マンシュタインの物語   作:ネコ博士

6 / 7
大学編:第ニ話

春の光がキャンパスに差し込み、芝生の緑は新芽の色を帯び始めた。アリアは14歳で入学して以来、大学生活に少しずつ慣れつつあった。しかし、彼女を取り巻く空気は依然として複雑であった。名門マンシュタイン家の血筋、卓越した頭脳、そして士官学校進学確定の噂――これらが混ざり合い、周囲の学生たちの心理に微妙な波紋を広げていた。

午前の講義が終わると、図書館の片隅でリゼットとノートを開いた。リゼットは同じ研究室に配属された学友で、最初からアリアの冷静さと頭脳に一目置いている。二人がノートを広げて座ると、近くの男子学生たちの声が耳に入ってくる。

「アリアって本当に士官学校行くんだってな」

「マンシュタイン家の血筋だから協力したら得が大きいかも」

声は小さく、しかし意図的に聞かれるようにしている。アリアは目を細め、微かに笑みを浮かべる。耳に入る情報のひとつひとつを分析する――嫉妬、期待、警戒、取り入ろうとする心理、そして潜在的な敵意。孤児院での生活で培った観察力が、ここでも役立っていた。

午後の実験は、核反応シミュレーションのグループ課題。教室に集まった学生たちは年上ばかりだが、アリアの指示に自然と従う。理論を整理し、計算手順を的確に示す彼女の態度は、年齢差を感じさせず、むしろ信頼を生む。教授も、その冷静な判断力と精密な計算能力に目を見張る。

隣に座るライバルの女子学生が小声で呟いた。

「……あなた、本当に14歳? マンシュタイン家の血筋……」

その声にアリアは軽く笑みを返すだけだが、心の中ではその心理を精密に分析していた。嫉妬が強いこと、協力したいという気持ちが微かに表れていること、そして自己主張が強くなるタイミングを計算できること。これにより、アリアは距離を保ちながらも、必要なときにリーダーとして導く準備を整えていた。

実験が進むにつれ、アリアの論理的な思考と精密な計算は、グループの作業効率を飛躍的に高める。複雑な反応式も瞬時に整理され、結果は理論通りに導かれる。教授は横目でその様子を見て微笑んだ。

「アリア・マンシュタインの計算は正確で速い。しかも14歳……本当に驚異的だ」

アリアは教授の視線を意識せず、淡々と作業を進める。その冷静さが、同級生たちの嫉妬心をより強める。彼女の存在は、尊敬と警戒、そして取り入ろうとする心理を一挙に生み出す磁場のようだった。

休憩時間、リゼットが小声で耳打ちした。

「周り、あなたに注目しすぎよ。期待している人もいるけど、取り入ろうとする人もいる」

アリアは微かに頷く。

「分かってる。でもまずはやるべきことをやるだけ。周囲の心理に惑わされる必要はない」

その言葉通り、アリアは自分の研究と学問に集中する。孤児院で培った忍耐力と観察力が、周囲の複雑な心理に対応する盾となる。

午後の後半、グループの議論は白熱していた。ライバルの女子学生が意見をぶつけるたび、アリアは冷静に分析する。反論の根拠を確認し、必要に応じて理論的に反論する。しかし感情的な争いには一切巻き込まれない。周囲の心理を読み取り、適切な距離を保ちつつ、自分の立場を守る。

実験終了後、アリアは一人で図書館の窓際に座った。春の光が差し込み、木々の葉を揺らす風が心地よい。彼女の心は冷静で、しかし確かな決意に満ちていた。孤児院で培った観察力、忍耐力、そして名家マンシュタイン家の血筋を背負うことの意味。これらを理解し、受け入れた今、アリアは大学生活を戦略的に生き抜く準備が整っていた。

夕暮れ、芝生に座ってリゼットと語らう。

「あなた、まだ14歳なのに……本当に驚くわ」

「驚かせるためじゃない。やるべきことをやるだけ」

二人の間に静かな理解が流れる。アリアの未来は明確だ。二年で大学を修了し、士官学校へ進む。その道はすでに計算されており、周囲の嫉妬や尊敬も、彼女の冷静な判断でコントロール可能だ。

夜、キャンパスの石畳を歩くアリア。春風が髪を揺らし、静かに決意を確認する。周囲の心理、名家の血筋、そして自分の頭脳を武器に、14歳での大学生活を確実に切り開いていく。士官学校への未来を見据え、アリアは再び小さな体で大きな世界へと歩を進めた。

「この大学で、必ず自分の道を作り上げる……」

芝生に落ちる夕日の光と長い影。14歳の少女は、小さな体に宿る冷静さと意思を武器に、未来への第一歩を確実に踏み出していた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。