RPGのストーリー開始前に殺されるモブに転生した俺、死亡フラグを回避してラスボス助けたら女主人公が現れてなぜか修羅場になった。   作:白波 鷹

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第27話 後悔したくない

 そうして、ツィオラさんと『ヒュドラ』の爆風で周囲がその衝撃に身を守る。すると、そんなツィオラさんの隣に師匠が並び、声を上げた。

 

「―ならば、わたしも残ろう」

「え……?」

 

 師匠の言葉にツィオラさんが声を上げる中、師匠はふっと笑みを浮かべて声を返す。

 

「わたしもかつては『騎士団』の団長を務めていた者だ……あなた一人で首一つなら、私も戦えば二つくらい取れる可能性もある……そうだろう?」

「フェレール……あなた……ええ、そうね。なら、少しでもあの子達が安全に逃げられるよう力を貸してもらえるかしら?」

「当然だ。子供達を守るためなら、この命惜しくはない……お前達! 私とツィオラが時間を稼ぐ! お前達は他の者達とともに急いでここから逃げろ!」

「お、お師匠様!」

 

 そうして、悲痛な声を上げるマフィに師匠は笑みを返すと、『ヒュドラ』へ突撃していった。

 

「久しぶりの実戦だが……相手にとって不足はないっ!」

「ギャアアアアオ!」

 

 そう言って、師匠が『ヒュドラ』へと近付いていくと、再び『ヒュドラ』の首の一つが炎を吐こうと口を開いた。しかし、師匠はその『ヒュドラ』の首の死角に入ると、宙を舞い、その首に剣を向けるが―師匠の剣はその鱗に弾き返され、宙を舞ったまま師匠が舌打ちしながら声を返していた。

 

「ちぃっ! 何という硬さだ……!」

「フェレール、下がって!」

「っ!? 了解した!」

「食らいなさい! フレアバースト!」

 

 師匠に向かって口を開いていた『ヒュドラ』に向かってツィオラさんの炎の魔法がぶつかり、爆風が巻き起こる。だが、ダメージはあまり与えられていないようで、吐き出す炎は止められたものの、『ヒュドラ』は雄叫びを返しただけだった。

 

「やっぱり、そう簡単にはいかないわね……」

「剣どころか魔法も通用しないとは……さすがはこれまで討伐されなかっただけはあるな……」

 

 そうして、二人が声を上げると、バルフォードさん達が訴えかけるように声を上げた。

 

「お、俺達も加勢させてくれっ!」

「その必要はない! そちらは子供達の避難を頼む!」

「で、でもっ……!」

「言ったはずよ! ここは私達で食い止めるから、フェレールの言う通りあなた達はその子をお願い!」

「っ……!」

 

 二人の言葉にルアールとクラムも言葉を失う中、その間も師匠に向かって『ヒュドラ』の炎が飛ばされて避け、ツィオラさんが援護するように魔法で攻撃していく。

 

 そんな中、レシアーナが悲痛な叫び声を上げていた。

 

「何言ってるんですか!? 私一人で帰ってどうすれば良いんですか!?」

「レシアーナ……」

「わたし、まだ教えてもらいたいことがたくさんあるんです! 魔法も店の経営の仕方だって全然分からないんですよ!?」

「……」

「りょ、料理だってしたことないですし、他にも全然……全部頼り切りだったのに、いきなり一人にされたって生活なんて絶対に無理です! だから―」

「―レシアーナ」

 

 ツィオラさんは今にも泣き出しそうに目の端に涙を浮かべて必死に声を上げていたレシアーナの言葉を遮ると、寂しそうな笑顔で声を返した。

 

「―約束、守れなくてごめんね」

「っ……! うっ……うっ……!」

 

 そんなツィオラさんの言葉に師匠も他のみんなも辛そうに下を向いて答えることができず、絶望したレシアーナが足元から崩れ落ち、大粒の涙がこぼれる。誰もが絶望する中、ツィオラさんは真剣な表情になると、声を上げた。

 

「……この魔法を使った後はもう戦えなくなるから普通なら自殺行為に等しいけど……その首を一つくらい道連れにできるなら安いものだわ……地獄の業火を見せてあげる」

 

 その声とともにツィオラさんは杖を構えると、そんなツィオラさんの邪魔をさせないように師匠が『ヒュドラ』の視線をツィオラさんから外させるよう剣撃を放つ。

 

「万物を燃やし尽くす古の炎よ、―」

「こっちだ!」

「ギャアアアアオ!」

 

 飛んだ剣撃でもやはりダメージはあまり与えられないものの、『ヒュドラ』の首が師匠へと向かう。さらに、その横から剣をぶつけ、弾かれて空を舞う。

 

「全ての罪をも浄化するその力で我が前の敵を燃やし尽くせ―下がって、フェレール!」

「っ……!」

 

 そうして、ツィオラさんの言葉に師匠が地面を蹴って『ヒュドラ』から一気に離れる。その瞬間、ツィオラさんが魔法を宣言した。

 

「―受けなさい! インフェルノ!」

「ギャアアアアオ!?」

 

 ツィオラさんの魔法が『ヒュドラ』に直撃し、中心の首が断末魔とともに消えていくのが見えた。しかし、その他の首にはほとんどダメージを受けておらず、残りの四つの首が力尽きて地面に膝を着いたツィオラさんを憎々しげに睨むと、怒りの鳴き声を上げた。

 

「……やっぱり、一本が限界だったみたいね」

 

 どうにか杖に掴まっているものの、ともすれば倒れそうなツィオラさんはその顔に自嘲気味な笑みを浮かべており、そんなツィオラさんに四つの首が同時に炎を吐き出そうと口を開く。

 

 泣いたレシアーナや急いで駆け寄ろうとする師匠達の動きがスローモーションのように動く中、『ヒュドラ』はその炎をツィオラさんに吐き出すべく徐々に大きくしていった―。

 

 

 ◇

 

 

 ―私が「あの人」を「お婆ちゃん」なんて呼んでいたのは理由がある。

 

 といっても、大した理由じゃない……ただ単に「お母さん」とかそう言うのが恥ずかしかっただけだ。

 

「―あなたには魔法の才能がありそうね」

 

 そう言って、両親が居なかった私はあの人に引き取られた。

 才能で買われた以上、それに応えられなければ捨てられるかもしれない。だから、私は魔法を鍛えようとしていたのだが―

 

「―あの、魔法の勉強をしなくて良いんですか?」

 

 しかし、どれだけ経っても魔法のことを教えてもらえることはなく、やっていることと言えば、この人の手伝いと店番くらいのもので、魔法については全く教えてもらわなかったのだ。

 

 そして、とうとう夕食を一緒に食べている中で、私がそう聞くと、彼女は意外そうな声で声を返してきた。

 

「魔法の勉強をしたいの?」

「あ、いえ……その……興味はあります。ただ、それよりも、私を拾ってくれた時に魔法の才能があるから拾ってくれたんですよね? だったら、少しでも早く覚えないと……その……捨てられたりするんじゃないか、って思って……」

 

 怒らせたりしないか怖かった私は両方の人差し指を突きながらそう言うと、彼女は一瞬呆気に取られたような顔をした後、大笑いしてきた。

 

「な、なんで笑うんですか……?」

「いや、まるで私があなたを才能だけで買った、みたいに言うからおかしくて……」

「だ、だって、私を預かってくれた時に言ってたじゃないですか……私には魔法の才能がありそうだ、って……」

「え? あぁ、言ったけど……それは、そのままの意味よ?」

 

「そのままの意味……?」

「ええ。あなたには魔法の才能がありそうね、って思ったから言っただけで深い意味はないの。レシアーナを預かったのは私がただ預かってあげたいと思っただけだし、店の手伝いとかしてくれてるから、それ以上のことは別に特に考えてないわ」

「どうして……」

 

「ん?」

「どうしてですか……? じゃなきゃ、あなたのような『宮廷魔導師』と呼ばれるお方がわたしなんかを引き取る理由なんてないはずじゃ……」

「理由? それは簡単よ。あなたは昔の私によく似てるなって思ったからね」

「わたしが似てる……?」

 

「うん。私も両親を失くしてずっと一人だったから今のあなたの気持ちもよく分かるわ」

「そ、そうなんですか……?」

「そうよ。それで私も似たような感じで拾ってもらって、こんな風になれたの。だから、レシアーナも同じようになってもらいたいから預かったのよ」

「わたしが……似てる……」

 

 その話を聞いた時、わたしはすごく嬉しかった。ずっと遠くで感じていたこの人とわたしの共通点があると言ってくれたことは、本当に嬉しかったのだ。

 

 だから、私はあの人のために頑張らなきゃと一生懸命魔法を勉強し続けた。

 何度も失敗しては挑戦し、魔法の道具の使い方も覚えていった。あの人はそんな私を時にしかり、時に呆れ、時に喜びながらも応援し続けてくれた。

 

 そんなある日のことだ。

 

「―え? 私のことをどう呼べば良いかって?」

 

 わたしの質問にそう答えた彼女にわたしは小さく頷いた。すると、あの人は両腕を組みながら唸るような声を返してきた。

 

「うーん……わたしは別に普通に名前で呼んでもらって良いけど……お母さんっていのも変だしね」

「お母―!? そ、それならお婆ちゃんって呼びます!」

「はあ? いや、お婆ちゃんって……」

「だ、だって、実際は結構老け―あ、痛たたたたっ!?」

「ごめんね~? 最近、歳のせいか耳が遠いみたいで……で? 老け、なんだって?」

「ふ、拭けてないところがあったので、店の机を拭いて来ますっ!」

 

 そうして、逃げるわたしに呆れつつも、あの人はいつも最後に笑ってくれていた。

 正直、甘え過ぎてるなとは自分でも思う……でも、ずっと両親が居なかったわたしはどう接すれば分からなかったんだ。

 

 本当はお婆ちゃんとか師匠とか……そんな風に呼びたかったわけじゃない。この人と一緒に居られることが嬉しかったし、もっと別の呼び方をしたかった。

 

 それでも、私は最後まで言えなかった。何故だろう……その後悔が今、私に残っている。

 

 自分で言うのもなんだが、わたしは調子に乗りやすいところがある。

 だから、何となく、素直にそれを表現するのは恥ずかしくて、わたしを拾ってくれた「あの人」のことをお婆ちゃんなんて言って悪態を付いてたけど……本当はずっと呼びたかったんだ。

 

 ―「お母さん」って。 

 

 ◇

 

「―お母さん!」

「レシアーナ……?」

 

 涙を浮かべたレシアーナが声を上げると、ツィオラさんが驚いた様子で声を上げる。しかし、そんなツィオラさんに向かって『ヒュドラ』の炎が迫っていく。

 

 そして、誰もそれを止めることができず、絶望して声を失うが―次の瞬間、ツィオラさんの戸惑った声が響いた。

 

「え……? 燃えてない……?」

 

 完全に死を覚悟したはずのツィオラさんは自分の体が燃えていないことに気付き、戸惑いの声を上げる。彼女だけじゃなく、この場に居た全員が何が起こったのか分からず戸惑っていた……そう、ツィオラさんの前に立った俺を除いて。

 

「なっ……!? 君、いつの間にこんなところに……それに、『ヒュドラ』の炎が飛んできたはずなのに、どうして……!?」

 

 そして、ツィオラさんが自分の目の前に俺が立っていたことに気付いて声を上げると、俺は戸惑う彼女に向かって、周囲の視線が俺に集まる中、声を返した。

 

「……ツィオラさん。一つだけ聞いても良いですか?」

「え? な、何……?」

「ついさっき、この状況は誰かが残って時間を稼がないといけない、って言ってましたよね?」

「え、ええ……言ったけど……」

「なら、その役目は別にツィオラさんじゃなくて―俺でも良いんですよね?」

「―え?」

 

 そう言うと、俺はツィオラさんにニッコリと笑みを返すと、『ヒュドラ』に向かって剣を向けながら声を上げた。

 

「選手交代ですよ。さあ、『ヒュドラ』……今度は俺が相手だ」

 

 そう言う俺のすぐ横にあるステータス画面……そこには新たに『竜属性ダメージ軽減』と書かれていたのだった―。

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