ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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チャプター1「飛竜の集う街・前編─飛竜落としのラグナ」
第一話:野蛮人(ワイルズ)は惹かれ合う


 ──ウミベノ村近くの森に、雌火竜・リオレイアの死骸が転がっていた。

 脳天には幾つもの深い刺し傷が残っている。

 下手人は──パンツ一丁の偉大夫で、その肩には身の丈はあろうかという剣が携えられていた。髪は黒いが、燃え盛るような橙色のメッシュが入っている。

 その形相は、まさに鬼神──あるいは修羅の如く。

 

 人は彼を──モンスターを狩る者・モンスターハンターと呼ぶ。

 

「ほ、本当に狩ってしもうたのか……裸一貫、しかも──なまくらの骨剣で」

「ちと切れ味は悪いが、申し分なかったぜ。前の持ち主の手入れが行き届いていたんだな」

 

 リオレイアの死骸を目の当たりにして驚嘆の声を上げるのは、腰の曲がった老人だ。

 耳は尖っており、背は子供くらい。老人は所謂竜人族と呼ばれる種族だった。

 

「貴方は一体、何者なのですじゃ……!?」

「村長さん、言っただろ? 大したことはない。タダのハンターだぜ」

 

 この時代、ハンターは数あれど──このハンターのように防具無しで、しかも村に捨て置かれていたナマクラ骨剣(ボーンブレイド)で火竜を仕留めてしまうような男は上澄みも上澄みである。

 村長の老人はハンターに駆け寄り、頭を深々と下げる。

 

「……感謝しますぞ、名も知らぬハンター殿。貴方はこのウミベノ村の英雄ですじゃ」

「そりゃあ大袈裟だぜ。死にかけを助けられた礼代わりだ。拾ってもらった命は命で返すのが礼儀ってもんよ」

 

 ハンターは──顔を上げた途端、ニカッと快活な笑みを浮かべてみせた。

 彼が死に体で村の浜に流れ着いたのは数日前の事。

 村人の介抱の末、ハンターは息を吹き返した。そして、その礼と言わんばかりに近くに出没しては村を脅かしていたリオレイアを仕留めてみせた。

 この村はギルドの集会所や武器を作る加工屋こそあるが、立地が辺鄙過ぎてなかなかハンターが寄り付かない場所だったのである。

 今からハンターを呼ぶとなると、時間があまりにも掛かり過ぎる。そこで、この行き倒れ男が自ら名乗りを上げた。

 

 ──助けてもらった礼だ! 俺がリオレイアを狩る! 今すぐな!

 

 ──今すぐゥ!?

 

 防具を用意する間もなく、裸一貫で飛び出した男はリオレイアを討ち果たし、今に至る。

 

「貴方程のハンターの名、是非とも覚えておきたい」

「ラグナ。”飛竜堕とし”のラグナ。ワイバーンは俺の専門だ」

 

 ラグナは──老人のしわになった掌を握り、朗らかに名乗った。

 

「この辺は長閑だから、しばらくは何も起きねえだろうが……新しいハンターを呼んだ方が良いぜ。妙な風が吹いている」

「それは恐らく……”飛竜祭”が近付いているからでしょうな」

「飛竜祭?」

 

 聞きなれぬ単語にラグナは思わず疑問を呈した。老人はすぐさま返答する。

 

「此処から遥か先──バラージュと呼ばれる城塞都市がありますのじゃ。そこには数年おきに飛竜の群れが接近する”飛竜災害”が発生するのです。都市の有力者たちはハンターを呼び、これの撃退に当たるのですじゃ」

「……へえ。要するに……そこに行けば飛竜が沢山見られる、と」

「危険ですぞ!?」

「危険も承知。俺は──ずっと、追っているものがある」

 

 ラグナはリオレイアの死骸から鱗を一枚、ナイフで剥ぎ取った。

 それを太陽の光に照らす。緑色に光るそれを見て──目を細める。

 

「爺さん。黒いリオレイアって見た事あるか?」

「黒いディアブロスの話なら聞いた事がありますがな」

「だよな。でも俺は見た。小さい頃に、一度だけ」

 

 嵐の中──墜落して炎上する飛行艇。

 その中でただ一人、ラグナは生き残った。

 悠然と羽ばたき、そして火を何かに向かって噴きかけるのは──全身が黒い鱗に覆われた、雌火竜。

 

 

 

「……黒いリオレイア……幼い頃に出会ったそれを俺はずっと追っている。飛竜が多く集うバラージュに行けば、俺もきっと──」

 

 

 

 一生かけて追うと決めた。

 だから、ラグナは今もハンターを続けている。

 たとえこれから何があろうとも──あのリオレイアだけは追い続ける、と決めている。

 

「……旅立つのですな」

「元よりヤツを追う為にハンターをやってるんだ。村を守るのは、別の誰かに頼んでくれ」

「ならばせめて防具と武器、そして路銀を融通させてくだされ。そこのリオレイアの素材を使えばそこそこのものは作れるはずです。前に村に居たハンターはケガで引退してしまい……加工屋も大層暇していますのじゃ」

「ああ、悪いな。何から何まで……」

「しかし、一つ聞きたい事がありますのじゃ」

「何だ? 何でも聞いてくれ」

 

 老人は──首を傾げた。

 これほどまでの実力を持つハンターが浜辺に打ち上げられていたか、だ。

 彼は武器も防具も持っておらず、ほぼ裸一貫のまま浜辺で気絶していた。

 ハンターである身分を示すギルドカードすら持っていなかったのである。

 恐る恐る老人は、それを問うた。すると──ラグナは悪びれもせずに答えた。

 

 

 

「パーティリーダーの女に手ェ出そうとしたら樽に詰め込まれた挙句、荒れ狂う夜の海に流されちまってな……」

「……」

 

 

 

 最悪である。全てが台無しであった。

 

 

 

「……世界の女は俺のモンだと決まっているのに……クソッ、何がいけなかったんだ……!!

 

 

 

 老人は──恩人相手に対し、流石に口にこそしなかったが、脳内でラグナの問に対する答え合わせをすることにした。

 

 

 

()()じゃよ……)

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(……さて。バラージュは此処から遥か南の城塞都市……と聞いていたが……)

 

 

 

 草食獣・アプトノスが引っ張る荷運車に乗せて貰ったラグナ。

 中継地となる街まで凡そ2日程掛かるという。飛竜祭の開催日まで3ヵ月を切っており、逸る気持ちを抑えるように欠伸を噛み殺していた。

 

(うかうかしてたら、アイツに逃げられちまう。だが、がっつきすぎは厳禁……か)

 

 女を追うのには慣れている。

 両親と乗っていた飛行艇を落とされたあの日から、ずっとだ。

 全身を黒い鱗に包み、赤い眼光を放っていた異様な雌火竜は──ラグナの永遠の獲物だ。

 これまで何匹狩ってきたか分からないリオレイアだが、只の一度もあのような黒い個体とは出会わなかった。

 だが、飛竜の群れが集うバラージュならどうだろうか──と思案した。

 獲物が来るかは分からない。だが、箱は開けてみなければ中身が入っているか分からない。

 

 それだけに、気持ちが焦れる一方だ。こうして移動中の時間が一番、退屈で──憂鬱な気分になる。

 

(しかし……──幾ら俺と言えど、()()は選り好みするようにしてる)

 

 ちらり、と正面に目を遣った。

 ラグナよりも一回りも小さな少女が荷台の壁にもたれかかっていた。

 編み笠を被っており、背中の大きく開いたノースリーブの着物を身に着けている。そして、編み笠からは首元まで伸びた銀髪が覗いていた。

 正直、一人旅をするには無防備すぎる恰好ではないか──と思ったラグナだったが、生憎ストライクゾーンからは大きく外れている。

 

(はあ……もっと胸とタッパの大きいお姉さんなら口説いたんだがなァ。ガキじゃねーか)

 

「……さっきから視線を感じます」

 

 ぽつり、と少女が呟いた。

 編み笠を指で退け、じとっと湿っぽい視線をラグナに向ける。

 

「……まるで、人の事を値踏みしているようです。失礼だと思いませんか?」

「まさか! こんなご時世に女の子一人旅とはなかなか度胸があると思っただけだぜ」

「これでもボクはハンターなんです」

 

 そう言って少女はカバンからカードを一枚取り出した。

 成程、確かにそれはハンターズギルドの記した正式な免許証・ギルドカードであった。

 そこに刻まれていた名前は──「アジサイ」。

 

「……へえ、そりゃあ結構。それで? アジサイちゃんは何しに行くんだ?」

「飛竜祭」

「!」

「……バラージュ商会のトップ・ディシプリン様からの依頼で、此度の飛竜祭のハンターに選ばれたんです」

 

 そう言って彼女は紹介状と思しき書類をラグナに見せつける。

 

「なんと。そりゃあビックリだ。飛竜祭ってのは招待制なのか」

「腕利きのハンターが町の有力者に召集され、期間の間にどれだけ飛竜を狩ったかを競う。それが飛竜祭のルールなんです。これはギルドが決めた正式な競技です」

「狩猟数を競うほど飛竜が湧くのか」

「ええ。空を覆い尽くす程に。だからハンターは質と量、両方が求められるのです」

 

(参った。それじゃあ行っても俺は何も出来なさそうだな)

 

 ラグナは歯噛みした。

 狩猟行為は生態系管理の観点から、一部の例外を除いてギルドの許可なく行うことは出来ない。その例外がウミベノ村のようなギルドの管轄外の地域でモンスターによる危機が差し迫っている場合、だ。

 しかし、バラージュ周辺はギルドの管轄内の地域であり、好き勝手な狩猟は許されない。飛竜祭もギルドの監視の下で行われているのだろう、とラグナは考える。

 故に部外者であるラグナが勝手に参加して飛竜を狩ることは許されないのだ。

 

(で、肝心のこの子の腕は……と言えば)

 

 ちらり、とラグナは少女が背負う得物に目を遣った。

 奇妙な武器だな、という感想が真っ先に浮かぶ。円形の刃の中心に取ってが付いたような剣だ。

 

「そのドーナツみてーな武器は?」

「セツ=D。オロミドロの素材を使った双剣です」

「双剣!? しかも素材は……音に聞く泥翁竜じゃねえか」

 

 人は見かけに寄らない、とラグナは素直に感心する。殆どのハンターがリオレイアは愚かイャンクックすら狩るのがやっとの中、大型の海竜種を狩猟できるのは上澄みだ。

 オロミドロは此処から遥か遠く、ユクモ地方の山奥の泥濘地帯に生息するとされている大型の海竜種だ。

 彼女がその武器を持つということは、少なからず一度は泥翁竜を仕留めたことがあるという証左であった。

 

「それで貴方は?」

「こう言うもんだ」

 

 そう言ってラグナは真っ新なカードをアジサイに見せた。

 リオレイア討伐の功績が認められ、ウミベノ村の集会所で再発行してもらったギルドカードだ。

 

「……ズブの素人じゃないですか」

「いやー、ギルドカードを一度失くしちまってな、お恥ずかしい」

「そんな人にナメられてたんですか、ボクは……はぁ、頭が痛くなってきました」

 

 

 

「うわぁぁぁーっっっ!?」

 

 

 

 運転手の叫び声で二人は同時に運転席を見遣る。

 アプトノスの手綱を握る運転手が空を見上げている。

 

「どうした!?」

「ひ、飛竜だ……イャンクックが……!!」

「何だと!? この辺には出ねえって話だったじゃねえか!!」

 

 すぐさまラグナとアジサイは荷台の鍵を開けて外へ飛び出す。

 大きな嘴を持つ飛竜が二匹、此方を狙うようにして空を旋回している。

 いうなればそれは怪鳥と呼ばれるモンスター・イャンクックだ。

 しかし、ラグナの知るそれとは違い、全身は褐色に染まっている。

 

「イャンクックは臆病で、荷運車を見かけても滅多に襲ってこねえはずだが……!!」

「あいつらはダメだ!! ()()()だ!!」

 

 

 

「クェェェエーッッッッ!!」

 

 

 

 すぐさま荷運車を走らせようとするも、二匹の怪鳥は甲高い鳴き声を上げながら空から飛びかかってくる。すかさずアジサイがポーチから何かを取り出すと空へ投げ付けた。

 

「閃光ッ!!」

 

 その掛け声でラグナは目を隠す。

 空には眩い光が満ち、二匹の怪鳥は地面に叩き落とされたのだった。

 ハンターの常備品・閃光玉。飛んでいるモンスターは驚き、地面にたちまち落ちてしまう程に強い光を放つシロモノである。

 振り返ったラグナは荷運車の運転手に向かって叫ぶ。

 

「早く安全な所に!! 旦那、此処は俺達に任せろッ!!」

「は、はいいっ……!!」

 

 荷運車が逃げていくのを見送り、ラグナは背負っていた大剣──ボーンブレイドを構える。

 アジサイもまた、車輪型の双剣・セツ=Dを両の手に構えるのだった。

 

「群生種だぁ……!? 聞いた事がねえな!!」

「飛竜祭の時期に湧き出すイャンクックのことです! 通常種よりも体躯は小さいですが……大量に群れ、そして凶暴化しています……!!」

「にしちゃあ数が少ねえが……群れからのはぐれモノってところか!!」

 

 

 

       【鳥竜種”軍怪鳥”イャンクック群生種】

 

 

 

 二匹の怪鳥は目が眩んでまだこちらを視認出来ていない。

 しかし、すんすんと鼻をひくつかせており──獲物である荷運車を狙って一目散に走り出すのだった。

 

「狙いは積み荷の食料か!! テメェらの分じゃねえよ!!」

「止むを得ません、ギルド管轄外……そして緊急事態につき此処で狩猟します!!」

「あークソ、緊急クエストの事後報告ってクッソ手続きが面倒なんだぞ!!」

「言ってる場合ですか!」

 

 イャンクック達が既に瞬きを始めていることにラグナは危機感を覚えていた。

 明らかに通常の個体よりも閃光に対する耐性が強い。そして、それにアジサイも気づいている。

 すぐさまアジサイは手から拳サイズの虫を二匹、放つ。その虫の尾からは光る糸が吐き出され、その掌に巻き付いていくのだった。

 

(えっ、空、跳んだッ!?)

 

 そのまま翅を広げた虫はイャンクック目掛けてすっ飛んで行き、その勢いに引っ張られ、アジサイもイャンクックに急接近する。

 

「鉄蟲糸技──”螺旋斬”ッ!!」

 

 まさにそれは激しき舞踊の如く。

 舞い踊りながら円刃でイャンクックの身体を嘴から体まで切り刻む。

 その様を見てラグナは感心した。風のウワサで聞いた事がある。ユクモ地方のとある里には、鉄の如き糸を吐き出す蟲を用いて空を自在に駆け回るハンターが居る、と。

 そして既に他の地域にもそれは輸出されつつある──と。

 

(確か、()()……だっけか!! 聞いちゃいたが、あの糸……相当頑丈だな!! あの糸を引き戻す勢いだけで空を跳べる勢いだ!!)

 

 そして、それに耐えうる動きを見せつけるアジサイもまた、ラグナの想定以上に

 それに怯えたのか、もう一匹が飛び立とうとするが──

 

「俺も負けてらんねえなッ!!」

「え?」

 

 今度は呆気にとられたのはアジサイの方だった。

 飛び立ったイャンクックに対し、ラグナは蟲の力も何も借りずに──跳んだ。

 

「ウソ、あの大剣を持ったまま……!? 翔蟲もなしに!?」

「──落ちやがれッッッ!!」

 

 大剣を思いっきり振り上げたラグナはイャンクックの脳天へ大上段にそれを振り下ろしたのだった。

 

(ボ、ボクでも翔蟲無しで武器を持って跳ぶのは無理なのに……!! ボクよりもよっぽど重い武器を持って、何も補助無しに……飛竜目掛けて跳んだ!?)

 

 骨剣がイャンクックの頭蓋に食い込み、そして捻じ込まれる。

 

 怪鳥の絶叫がその場に響き渡った。

 

 ……所詮、群れから逸れた怪鳥。

 イャンクック二匹が討伐されるのは時間の問題であった。

 

 ただし、先にイャンクックを仕留めたのはラグナの方だった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──結局、事後報告とイャンクック二匹の死骸をギルドに引き渡す為、ラグナ達は立ち往生するハメになった。

 ギルドへの報告はアジサイの連れていたフクロウのような生き物・フクズクが伝書を運んでくれたことで成立した。

 半日ほど待たされ、最寄の街からギルドの遣いと、イャンクックの死骸を回収するための運搬車がやってきたのである。 

 

「はぁぁー、やっぱめんどくさかったぜ、事後処理。書類ってヤツはどうしてああもかったるいんだろうな」

 

 そうして近くの町についたのはそれからさらに1日後。

 すっかり疲れ切ったラグナは酒場で管を巻いていた。

 向かいの席には──アジサイが不服そうに頬を膨らませていた。酒は飲める年齢らしく、さっきからチビチビと麦酒を飲んでいる。

 ラグナとアジサイは遅ればせながら先日の狩猟の宴を二人で行っていた。イャンクックの件で少なからずギルドから報酬が支払われたのである。

 

「……おいどした? 今日はラグナ兄さんのおごりだぜ、たんと飲んでいけ」

「何者なんですか」

「おん?」

「あの重い大剣を持ったまま跳ぶだなんて。おまけに、その剣──見た所、ロクに斬れないナマクラじゃないですか。なのに、先に戦ったボクよりも早く──あのイャンクックを倒していた」

 

 ボクの方が武器の質も良いし、手入れも怠っていないのに──とアジサイは零す。

 

「これは命の恩人に貰った剣なんでな。しばらく使わせて貰うことにしてんだよ」

「……ただのウッカリさんではないようです。一体何処のハンターなんですか」

「もしかして俺、口説かれてんのか? 悪いな、俺ァ年上のお姉さんが好みでね」

「子供扱いして誤魔化さないでください!」

「肩書も、実績も──俺にとっちゃどうでも良いんだよ。ただ、腕を磨いている。……たった一匹、狙うべき獲物と出会った時の為に」

「そのために、ハンターを……?」

「ああ。嬢ちゃんは何でハンターやってんだ」

「……ボクの住んでいた島では、習わしのように皆、厳しい修練を積むんです。全ては島を襲うモンスターに対抗するため」

 

 道理で、とラグナは改めてアジサイの身体を見た。

 華奢だが筋肉は異様な程に引き締まっている。幼い頃から鍛えてきた証拠だ。

 ハンターの武器は一般人では持つことすらままならないのである。

 

「そして習わしに従い、ボクは修行に出たんです。願ったり叶ったりでした。閉ざされた島の中だけじゃなくて……外の世界を見てみたかったから」

「そんであれだけの狩りが出来るなら大したモンだぜ」

「いえ。ボクはまだまだです。……”お前の狩りは翔蟲に頼り過ぎだ”ってよく言われるんで」

「……そうかぁ? 十分に見えたけどな」

「まだまだ、なんです」

 

 ギリッ、とアジサイは唇を噛み締めた。

 

「……どうしても、追い越したい人が居るんです。その人に比べたら、ボクの技なんて……まだまだ、です」

「……んまあ、言わんとしてることは分かるよ」

 

 ラグナもその気持ちは分かる。

 これまで何匹もモンスターを狩ってきたが、あの黒い火竜には今の実力でも到底追いつける気がしないのである。

 だが、それでも──

 

「目指す、って気持ちがあれば十分だ。どうせ一朝一夕で成し遂げられることじゃねえ。なら……上手くいった時くらい喜ぼうや」

「……ラグナさん」

「折角の酒の席だ。じゃんじゃん飲んでけ」

「……ありがとうございます。ラグナさんって見掛けによらず、いい人なんですね」

「余計な事言うんじゃねえ。後な、俺みたいなのにホイホイついていったら痛い目見るからな。この席が終わったら俺達解散だぞ」

「言われなくても分かってますよ」

 

(そんで俺は娼館にでもいって好みのチャンネーでも漁ってくるか)

 

 あくまでもラグナにとって目の前のアジサイは狩猟の対象外なのである。

 そんなこと露も知らず、くぴ、と麦酒を一気に飲み干すアジサイ。

 その顔はほんのりと赤らみ始めていた。

 ……そして、彼女は酒の追加注文を始めたのである。ラグナよりも遥かに速いペースで。

 

「……おーい、アジサイさん? ちょっと飲みすぎじゃねえ? 大丈夫?」

「あひぇ? なんれすかぁ……?」

 

 数分後。

 アジサイの様子が明らかにおかしい。

 飲ませたのではない。彼女の方が勝手に飲んで酔っ払いだしたのである。

 

「ラグナしゃぁん、お酒ってぇおいしいれすねぇ」

「おいマジかコイツ、ちょっと水を──」

「ねえラグナしゃぁん、ボクのお酒が飲めないんれすかぁ……?」

 

 次の瞬間、凄まじい力でアジサイがラグナの頭を鷲掴みにした。

 何処にこんな怪力が眠っていたのかラグナには皆目見当も付かなかった。

 この少女、こんな体格だが──潜在能力は遥かに自分よりも上だ、とイヤでも思い知らされる。

 

「えっ、いやちょっ、力強──オマエ、一体今までこんな──」

「──えいっ」

 

 間もなく、酒瓶がラグナの口に突っ込まれた。

 この店で一番強いアルコールの酒である。

 それを無理矢理喉奥に押し流され──ラグナの意識はブラックアウトした。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「う、うーん……頭、痛……」

 

 

 

 ……その次の日の事である。

 ラグナは激しい頭痛と吐き気で目を覚ました。

 知らない天井。知らないベッド。

 そして何も身に纏っていない自分。思わずラグナはゾッとしてベッドの隣を見た。白いシーツの下で何かがもぞもぞと動いている。

 

「……うにゃ」

 

 白いシーツを捲るとそこには──同じく、生まれたままの姿のアジサイが丸まっていた。

 ラグナは全てを察する。ヤっちまった──と。

 

「おい、ウソだろ……こんなちんちくりんに……」

「うん? なんか、寒……」

 

 むくり、と何も身に纏っていないアジサイが起き上がる。そして、辺りを見回して──ラグナの顔を見た。

 彼女の顔が──まるで灼熱のように赤くなっていく。

 

「あ、あわ、あわわわわ……まさか──ッ!!」

「おい待て落ち着け」

「まさか、酒に酔ったボクを襲って……ッ!?」

「あ”?」

 

 ……ラグナはチンカスである。

 誰もが認める女好きであり、それが原因でパーティを追放された前科持ちである。

 しかし、それでも彼はハンター。獲物は選り好みする。

 昨日の事を──この少女は何も覚えていないのか、と憤りが噴出した。

 

 

 

「襲ったのはテメーだ、この酒カス女ーッッッ!!」

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