ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第十話:禍威

「……お前の、故郷!?」

「そうなのニャ……」

 

 マタビは何処か複雑そうに顔を歪める。

 

「……俺様達は元々、もっと山奥の深いところに住んでいたんだニャ。だけど……ワイバーンが俺様達の住んでた集落を滅茶苦茶にして、皆散り散りになっちまったのニャ」

「ッ……なあ、もしかして、そのワイバーンってこいつか?」

 

 ラグナはポーチから黒い鱗を取り出す。

 マタビは目を見開き──そして頷くのだった。

 ラグナは因縁染みたものを感じ取った。マタビもまた、黒い飛竜によって人生を狂わされた一人だったのだ、と。

 

(マタビは黒い飛竜の事をあんまり話したがらなかった……相当怖い目に遭わされたんだな)

 

「そして、移り住んだ廃坑跡で今度はマガイマガドに狙われている、と」

「廃坑跡で採れる鉱石はとても優秀な素材だ。そこをマガイマガドに抑えられちまうと、俺達としても商売あがったりなんでな」

 

 黒い飛竜の事を何も知らないアジサイは特に黒い鱗に触れることもなく、淡々と依頼を確認する。ディシプリンにとってもこの依頼は死活問題に直結するのか、いつになく言葉に熱が入る。

 

「そんなわけで、この件は商工会が持ち帰る事にした。頼めるな? ”飛竜落とし”のラグナ」

「あたぼーよ。マガイマガドは任せとけ」

「それにしてもマタビさん。何故、その故郷から一人抜け出してきたんですか?」

「え”ッ」

 

 マタビがギョッと目を見開き、恐る恐る口を開きだす。

 

「……それには海よりも深い訳がニャ」

「そう言うの良いんで。今日のボクはアルコールが枯渇して機嫌が悪いんです」

「ヒィッ!! ……じ、実はぁ……仲間達を安心させるために、俺様いつも皆を励ましてたんだニャ」

「励ますゥ?」

 

 ──姉御ォ!! さっきの道にデカい狼みてーなモンスターが……!!

 

 ──あのモンスターは俺様がやっつけたのニャ!! だから皆安心して進むのニャ!!

 

 ──流石姉御ォ!!

 

「おい、のっけから大言壮語吐いてんじゃねえか!!」

「いやー、あの後出くわさなくってマジで良かったのニャ……」

 

 ──姉御ォ!! 本当にこの先に安息の地があるんですかァ!?

 

 ──俺様のカンがこっちだと言ってるのニャ!!

 

 ──廃坑山だ!! 本当にあったァ!! 此処なら住めるッ!!

 

 ──流石姉御ォ!!

 

「いやー、あん時はマジで運が良かったのニャ」

「適当な事しか言ってねーじゃねーか!!」

「たまたまどころの話じゃないですよ!!」

「俺様もちやほやされるのが気持ちよくて、つい話を盛っちゃうことがあって……」

 

 ──姉御ォ!! 流石です姉御ォ!! 何で姉御はそんなに凄いんですか!?

 

 ──そりゃそうだニャ、俺様これでも古龍をブッ倒したハンターのオトモをやってたこともあるんだニャ。クシャルダオラは──雑魚だったのニャ。

 

 ──流石です姉御ォ!!

 

 ──姉御は最強だァ!!

 

 ──姉御ォ!!

 

「ぜーんぶ運が良かっただけじゃねーか!! そしてとんだ大ウソつきだ!! ワイバーンから故郷を追われた口で、よくもまあクシャルダオラが雑魚だったとか言えたなあ!?」

「そうやって大言壮語を重ねているうちに、現実の自分と子分に言って聞かせてる理想の自分のイメージが乖離して……気まずくなって住処を飛び出したってところですか」

「ワッ……ァ……」

「泣いちゃった!!」

「でも全部自業自得ですよ」

「チッ、これだからメラルーは……ウソを吐き続けるのが苦しくなったんだな」

 

 ディシプリンが呆れたように腹を揺らした。

 結局、住処を出てからもギャンブル三昧、盗み三昧だったので救いようがない。

 

「”最強のオトモになる”って言って飛び出してきたけど……今更あいつらに会わせる顔がねーのニャ……」

「会わせれば良いじゃねーか、今のテメーの顔を」

 

 ラグナがマタビの頭をわしゃわしゃとかき乱した。

 

「……オメーは今、あの”飛竜落とし”のオトモやってんだからな」

「でも俺様、出来る事あんまりねーのニャ……オトモアイルーは、エリート中のエリートがなれるんだニャ!! ついこないだまでギャンブルと盗みしかしてなかった俺様には真面目に働くなんて無理だニャ!!」

「おい今からコイツ、ギルドに突き出して良いか?」

 

 ディシプリンが額に青筋を浮かべる。盗人は商人の敵だからである。

 

「……俺様が今更、廃坑跡に行ったところで……あいつら、マガイマガドに困ってるけど……俺様に出来る事なんて……」

 

 頭を抱えて蹲るマタビ。

 そんな彼女に──ラグナは言い放つ。

 

「んなもんオメーがどうしたいか、だろ。マタビ」

「え……?」

「オメーはどうしたい? 自分のやりてェ事くらい自分で決めろ」

「俺様は……」

「俺は自分のやりたいことをやってきた。その結果、”飛竜落とし”の異名が付いただけだ。後──女たらしだとかスケベだとか女癖が悪いとかいう事実無根な悪名も付いた」

「いや、それは無かったことには出来ないですよラグナさん」

「何勝手に事実無根にしてやがんのニャ、面の肉質硬すぎだニャ」

「飛竜落としさんよ、悪いが商会にも入ってきてんぞ、あんたの悪いウワサは」

「チッ」

 

 ラグナが舌打ちする。良い話の中でちゃっかり自分のやらかしは無かったことには出来ないのである。 

 ディシプリンの耳にすら入っているので、隠したてのしようがないのであった。

 

「やりたいことをやってきた結果、それを通す為に努力だってした。時には美人局に引っ掛かって文無しになったり、二股がバレて殺されかけたりもした」

「全部女絡みだし自業自得じゃないですか!!」

「せめて狩りに関係のある話をしやがるのニャ!! 後オメー、何で生きてんのニャ!?」

「だけどな、後悔はしてねーよ」

「いや後悔してくださいよ」

「結局、人からどう思われようが──関係ねーんだよ」

 

 ラグナはハッキリと言い切る。

 

「それでも俺は今生きている。誰かの賞賛とか批判とか、んなもん俺にとっちゃどーでもいい。俺は流浪のハンターだ──出会った人間とはすぐ別れて二度と会う事はない」

「ラグナさん……」

 

 アジサイは──そう語るラグナの瞳に、どこか達観したもの──そして諦めのようなものを見た。

 あれだけ女にだらしないエピソードに欠かさないラグナだが、決して彼が語らない部分には辛い過去があったのではないかと思えてしまった。

 

「だからこそ──自分の後悔の無いようにやれば良いだろ」

「……後悔のないように……かニャ」

「子分共に会わせる顔が無くて留守番するならそれでも良し、俺は止めねーよ」

「……俺様は」

 

 マタビは胸を抑える。

 少なからず、子分達を置いてきた罪悪感が彼女の中には渦巻いていたのだ。

 

「……俺様は、それでも子分たちが可愛いのニャ!! あいつらがピンチだってんなら、助けに行きたいのニャ!!」

「ヘッ。言えたじゃねーか」

 

 ラグナが──愉快そうに笑う。

 

「俺様、ウソばっかり吐いてたけど、あいつらが俺様が居なくても安心して暮らせるように頑張ってきたのはウソじゃねーのニャ!! それを壊されるのは……イヤだニャ!!」

「そんじゃあ、やらねえといけねえことがあるよなあ?」

「ニャ?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「オラーッ!! 腰が入ってねーぞ!! 俺が昔居たパーティのアイルーの足元にも及ばねェ!!」

「ひーっ!! 何でニャンニャン棒の素振りやらされてんのニャ!!」

「オトモ用のサポートアイテムを買ってきました。後、出発まで数日なのに素振りって今更意味あるんですか」

「知らね」

「こいつ無責任の擬人化かニャーッ!?」

 

 町の広場の一角で訓練用カラクリ蛙の前でニャンニャン棒を素振りし続けるマタビ。

 それをベンチに座って見守るラグナは、エッチなグラビアを読みふけっているのであった。

 

「後、サポートアイテムについては俺も色々買っている。最悪オメーは俺達が危なくなったら生命の粉塵でも撒いておけばいい」

「じゃあ、この素振り猶更意味がねーんじゃねーかニャ!?」

「オトモの武器は状態異常にするものが良いとされていますが」

「今からそれの素材は集められねーよ、いざ作りますってなると結構大変なんだぜ。戦闘はハナから期待してねーよ、アイテムで俺達を支援しろ」

「じゃあ猶更猶更、この素振り意味がねーんじゃねーかニャ!?」

「バカヤローコノヤロー、努力すれば夢が叶うだなんて無責任な事は言わねーよ、だけど成功者は須らく努力してんだよ」

「言ってる事は正論なのに、こいつに言われると腹が立つのニャ」

「炎のように日々を力強く生きろってなんか偉い人も言ってた気がするぜ、はいはい気炎万丈気炎万丈」

「それはボクが尊敬するカムラの里長の言葉なんですよ、貴方が言うとクッソ腹立つんですが」

「俺もまさに今気炎万丈してっからな」

 

 たらり、とラグナの鼻から赤い雫が垂れる。

 ラグナの持っているグラビアの表紙には──キリン装備を身に着けた胸の大きい女性ハンターの写真が写っていた。

 すぐさまグラビアをアジサイは奪い取る。

 

「一体何処を気炎万丈させてるんですか貴方って人は!!」

「ああ!! 何するんだ、禁欲中の俺の数少ない楽しみを!!」

「こんなものを往来で読んでいる暇があったら、マガイマガド狩猟の準備でもしたらどうですか!?」

「ったーく、アルコール抜いた所為で前よりも気性が荒くなってやがる」

 

 肩を竦めたラグナは古くて分厚いノートを取り出す。

 そこには、モンスターの生態に関する情報がびっしりと書かれており、思わずアジサイは後ずさった。

 

「……マガイマガドは牙竜種のモンスターだ」

「牙竜種って何だニャ? 牙獣種とは違うのかニャ?」

「四足歩行の獣みてーな見た目の竜だ。同じオオカミみたいな見た目をしていても、牙獣種は哺乳類、対して牙竜種は竜……即ち爬虫類だ」

「牙獣種はあくまでも()()()()()()()()()ですからね。牙竜種は地上性の四足歩行の竜を指す言葉です」

「その中でもマガイマガドはワイバーンに負けず劣らずの空中機動力を持つ。身体から出すガスを爆発させて、それを推進剤の代わりにするんだ」

「ボクもマガイマガドの事は又聞きでしか聞いた事がありませんが……マガイマガドの燃えたガスを”鬼火”と呼ぶようですね」

「それが怨念を持った人魂のように見えるから”怨虎竜”の異名を持つ。そして鬼火を受けると、時間経過で爆発する」

 

 もし鬼火を受けた場合、地面に転がって鬼火を消さなければ身体が爆発炎上することは必至。

 マガイマガドの武器の一つであり、対策しなければならない点だ。

 

「──そして、鬼火やられはカムラの里の翔蟲を用いた高速移動で引き剥がす事が可能──というわけデスね!!」

「そうそう、よく知ってんなアジサイ」

「……今、ボク喋ってないですけど」

「は? んじゃあマタビ」

「俺様もちげーのニャ」

 

 全員は振り向く。聞き覚えの無い声だ。ベンチの後ろから足音が聞こえてくる。

 先ず目に着いたのは茶色のコート、そして腰まで伸びた長い髪。

 少女だ。少なくとも年齢はアジサイと同じかそれよりも下か、とラグナは判断する。

 

(……ヘッ、ローズマリーさん然り最近の子の発育は凄いな……これがG級、いやマスターランクか。感謝!!)

 

 尚、ラグナの視線は服の上からでも分かってしまう膨らみに向いていた。思わず感謝の合掌。汚物を見るような視線を向けるアジサイ。

 一見すれば普通の町娘に見えるが、腰から携えたサバイバル用道具に肩から掛けられた大きなカバンが目立つ。

 少女は気さくに手を振ると微笑んだ。

 

「Hello!! You達が──マガイマガドの依頼を受けたハンター、デスね?」

「……あんたは、ギルドの人間か」

「Yes!」

「ギルド!? ま、まさか俺様を捕まえに──」

 

 震えあがるマタビの口を、アジサイが「余計な事は言うな」とばかりに両手で塞いだ。

 

「──ワタシはバジル! ハンターズギルドから派遣された編纂者、デースッ!」

「へんさんしゃ……?」

 

 マタビが首を傾げる。その質問に答えたのはラグナだった。

 

「……ギルド直属の記録係。危険な任務の場合、ハンターに同行して現場判断を行う……だったか」

 

 そう言うラグナの両手はバジルの右手を取っていた。

 

「なあ、それはそれとして今夜空いてる? ──俺とホテルで朝まで語ろうぜ」

「そこーッ!! 息を吐くように口説かないッ!!」

 

 すぐさまアジサイのボディブローがラグナの頭を直撃し、彼は倒れ込んだ。

 

「何しやがるッ!!」

「それはこっちのセリフですがッ!! 仮にも相手はギルドの役職持ち、立派な要人ですが!?」

「だからこそ──攻略のし甲斐がある」

「我慢勝負の途中なの忘れてませんか?」

「いや、こんな美人相手に我慢する方が無茶だろ、もう勝負とかどうでもよくないか」

「この男ッッッ」

 

 アルコールが抜けてイライラが止まらないアジサイ。そろそろ双剣でこのナンパ男の脳天を切り裂いてやりたいと本気で思うのだった。

 その様を見て豪胆にもバジルは笑い飛ばしている。

 

「アハッ! ”飛竜落とし”のラグナ、聞きしに勝る女好きデスねー。でも残念、ワタシこれでも婚約者が居るんデスよ」

「んなーッ!?」

 

 バジルの薬指には──銀色に輝く指輪が嵌めこまれていた。

 ラグナは落胆し、地に手を突き嘆き悲しむ。

 

「そ、そんな……クソッ……ぅううううううう」

「いや、そんなこの世の終わりみたいな態度やめてください、恥ずかしいんで。それでバジルさんは一体何の用事でこちらに」

「ワタシ……今回は飛竜祭の監督役でもあるのデス!」

「監督役?」

「飛竜祭は、その性質上激しい競争になりマスからね。不正行為……他チームへの妨害が行われた事もあってデスね。中立の立場として編纂者が各チームを監督することになってるのデス」

「おいおい、そんなことする奴がいるのかよ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()。他チームのハンターの買収、こっそり忍び込んで武器に細工、素材を偽装して点数稼ぎ……エトセトラ、デース」

 

 ラグナは頭を抱えそうになった。

 全ては自分達の所属しているチームのかつてのやらかしが原因である。

 

「もしかして、商工会が万年ハンター不足なのって……」

「その時のやらかしが尾を引いているのデスよねー。未だに評判が悪いのデス。何なら今のディシプリンさんですら、悪人面の所為で悪いウワサが絶えないのデスよ」

 

 ラグナはディシプリンの顔を思い浮かべた。

 彼自身は真っ当な商人なのだろうが、先代のトップはそうではなかった──ディシプリンが、商工会の悪名や悪行を濯ぐのに苦労したのは想像に容易くなかった。

 

「……というわけで、ワタシは商工会チームの監督役、デース!! 飛竜祭の事で分からない事があったら、ワタシに何でも聞いてくだサーイ!」

「それは良いんだが飛竜祭はまだ先だぞ。何で編纂者サマが俺達の所に?」

「ああ、それは勿論──マガイマガドの依頼の件デス。危険性が高いクエスト、デスからネ。ワタシが現地でサポートさせて頂きマース!」

 

 思わぬ同行者に困惑するラグナ。

 しかし、マガイマガドの脅威は彼の知る限りではそこらのモンスターの比ではない。

 あのアルシュベルドに並ぶのではないか──と考える程だ。助けは幾らあっても困らない。

 

「あ、それと──」

 

 バジルがふらり、とラグナに耳打ちした。

 

 

 

「……ラグナさん、西地域では()()()()()()()()()()()ってことになってるデスけど、どうやって生還したんデス?」

「……」

「もっと言えば、その前に女性関係でトラブルがあったって聞いてるデスけど、本当に酔って海に落ちたんデス? その辺どうなんデス?」

「……スゥウウウウウウウウウウ」

 

 

 

 思わぬ詰問。

 どう考えてもパーティのリーダーに海へ沈められた件である。

 まさかラグナが生きているとは思っていない元のパーティメンバーたちの報告でラグナは死んだことになっていたのだろう。

 ところが、バラージュでクエストをこなしているうちに彼が生きているという情報と、彼が死んだという情報が錯綜してしまっているのだ。

 結果的に今、こうしてラグナは生きているわけなのだが──

 

 

 

「──色々あるのさ、人生ってのはよ」

「ワーオ、やっぱ聞きしに勝るロクデナシ、デース」

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