バリバリと骨を貪り喰らうマガイマガド。
その背後から──迫るはラグナだ。
「──よう、暇か?」
大剣による強烈な一薙ぎがマガイマガドの後ろ脚を殴りつけた。
つんのめったマガイマガドだったが──敵の存在を確認すると、ひらりと巨体に似合わぬ軽々とした動きで飛び退き、向き合う。
そして──
「グッッッッゴォオオオオオオーッッッ!!」
──咆哮を上げるのだった。
アジサイはそれを受けて身体が硬直してしまう。
オロミドロとは比べ物にならない轟音、そして迫力。
他の竜すらも捕食対象にする圧倒的強者。しかし、その咆哮を大剣で受け止めたラグナはいの一番に飛び掛かるのだった。あまりにも手際の良い動きにバジルは舌を巻く。
「速い──立て直しが──!! これが”飛竜落とし”の狩りデスか──」
大型モンスターの咆哮は歴戦のハンターですら怯ませてしまう。
しかし、そのタイミングを極限まで見極めた熟練のハンターは、咆哮を武器によるガードで受け流して反撃に入るのがとても速い。
マガイマガドの前脚を踏み台にしたラグナは早速大剣を振り上げるが──
「グオオオオオオオッッッ!!」
──直後。
マガイマガドの周囲に紫色の靄が充満していることに気付く。
「マッズ──ッ!!」
靄はマガイマガドのガス。
それが発火し、爆ぜる。大剣を盾代わりにして衝撃を受け止めたラグナだったが、そこに追撃と言わんばかりに尻尾を槍のように構えたマガイマガドがラグナを突く。
「がっは──!?」
吹き飛ばされるラグナ。
更に畳みかけるようにしてマガイマガドは跳躍して前脚の刃を展開、そのままラグナ目掛けて降り下ろす。
それが見えたラグナはごろんと転がり、致命の一撃は辛うじて避けたのだった。
呻くように鳴いたマガイマガドは鬼火を噴き出すが──今度は後ろ脚に感じた甲殻を削る感覚に振り向く。
アジサイがセツ=Dの刃を回転させながら舞い踊るように斬り刻んでいる。
「グルルルルルルルルルルッ!!」
「よそ見は厳禁ですッ!!」
マガイマガドの意識はアジサイに向く。
尾を振り回し、更に鬼火を弾幕のようにして飛ばすが、そのいずれもアジサイは舞い踊るような乱舞と共に全て躱してしまうのだった。
しかし、マガイマガドが尾を振るい、刃を振り回すだけでガスが辺りに充満し、そして爆ぜる。これでは迂闊に近づけない。
「こ、こんなヤツに、どうして立ち向かえるのニャ、二人共……!!」
それを見ながらマタビはへたり込む。
此処まで戦ってきたモンスターの中でも、マガイマガドは図抜けて凶暴で、巨大で、そして──強い。
だが、ハンター二人は決して臆しはしない。
「きゃあっ!?」
マガイマガドの尾が振り回され、アジサイの腹を突く。岩壁に叩きつけられ、ずるりと彼女は倒れ込む。
「アジサイッ!!」
マタビが叫ぶ。マガイマガドが空高く跳ぶ。次の狙いは、後ろで大剣を構えるラグナだ。
マガイマガドは体から放出したガスを燃やして推進剤として高く跳躍するのは知識としては知っていた。
だが、想像以上の速度で跳躍したマガイマガドに流石のラグナも面食らってしまうのだった。
「おい嘘だろ、こいつ──!! 飛竜以上の機動力だぞ!?」
スリンガーを構え、閃光弾を打ち放とうとするラグナ。だが、空中で再び鬼火を爆発させたマガイマガドはそのままラグナに突っ込む。
(ダメだ、速すぎる間に合わねえ──ッ!!)
「ラグナッ!!」
マタビが叫ぶ。
鬼火が爆ぜ、マガイマガドの巨体がラグナを押し潰した──はずだった。
「うッッッおおおおおおおおおおおおおおーッッッ!!」
しかし。
ラグナは大剣を盾として構え、真正面から受け止める。
マガイマガドの刃、そしてラグナの大剣が正面からぶつかり、鍔迫り合いが始まった。
「ラ、ラグナ……!!」
「マタビさん。これが、ハンターなのデスよ」
「……ッ」
「どんなに傷ついても、怖くても、逃げるわけにはいかない。だって逃げたら──戦う力の無い人達はどうなるのデスか!」
じり、じりと後ずさりながらマガイマガドの巨体を押し返そうとするラグナ。
それを見てマタビの手にも自然と力が入る。
「俺様には……俺様は……ッ」
「ッッッらああ、人間ナメんじゃねええええええええーッッッ!!」
「グゴォッ!?」
マガイマガドの巨体が──吹き飛ばされた。
「すごいニャ……力押し!!」
思わずマタビの口から感嘆の声が漏れる。
自分より遥かに小さな生き物に力負けしたことに当惑しながら起き上がるマガイマガド。
その背後から、アジサイが襲い掛かる。
彼女の眼光が赤い紫電となって迸る。
(鉄蟲糸技──”鬼人空舞”ッ!!)
高速で回転しながらマガイマガドの背を切り刻むアジサイ。
悲鳴を上げたマガイマガドは怯んで地面に倒れ伏せる。
そのままアジサイはラグナの隣に再び並ぶのだった。
「大丈夫か? アジサイ」
大剣を納刀しながらラグナが問う。アジサイは──腹を抑えながら、苦し紛れに答えた。
「全然ヘーキです。それよりラグナさん、ヤツの行動パターン……大体分かりましたか」
「ああ。鬼火の爆発で牽制、そこに本命の打撃を入れる。これがマガイマガドの必勝パターンだ」
「つまり、最初の鬼火を受ければ立て続けに打撃を受けてしまうわけです。鬼火爆発の後には必ず本命があるのを意識すれば良い」
「問題は……その二段攻撃をどうやって躱すか!!」
パチパチと身体に付いた鬼火を手で払って消しながら──ラグナは大剣を構えた。
しかし、マガイマガドは既に態勢を立て直しており、尻尾を振り回すと鬼火を弾幕のようにして発射する。
ラグナ達はそれを躱していくが、これでは回復薬を飲む暇も無い。
先の猛攻によるダメージは確実にラグナ達を蝕んでいる。もしもマガイマガドの攻撃を次まともに受ければ厳しい──とラグナは考えていた。
「オトモするのニャッ!! ラグナ!! アジサイ!!」
その時。マタビが弾幕の中を駆けるのがラグナには見えた。
そして生命の粉塵が辺りに撒き散らされ、ラグナとアジサイの身体を包み込んでいく。
彼らの身体に活力がみなぎり、そして傷が急速に塞がっていく。
「ッ……俺様、怖いけど、何にでも出来ないけど、だからって何もしないまま終わりたくねーのニャッ!!」
弾幕の中を逃げ回りながらマタビが泣きながら叫ぶ。
「ナイスだぜ、マタビッ!!」
「これなら、多少無茶が出来ますッ!!」
鬼火の弾幕を潜り抜けたラグナは再びマガイマガドの身体を踏み台にして頭を切りつける。
更にそこにアジサイが追撃と言わんばかりに翔蟲を飛ばして身体を切り刻む。
それでもマガイマガドの抵抗は激しい。巨体が暴れる度に鬼火が爆ぜ、思わぬ衝撃に二人は再び吹き飛ばされてしまうのだった。
「こいつ、マジで暴れん坊だな……!!」
「全く攻撃の勢いが止みません……!!」
二人の身体に鬼火が纏わりつく。
じりじりと熱が鎧を焦がす。時限式の爆弾がくっついているようなものだ。
「回復ッ!! 回復だニャ!!」
それでも彼らが余裕を保っていられるのは、被弾する度にマタビが粉塵を撒いてくれることが大きい。
おかげで何度でも立て直し、攻撃の隙を突いて二人は反撃に出られる。
だが──何度も自分に襲い掛かってくる小さな生き物に、マガイマガドは──鬱積が溜まりつつあった。
近付いてくるならば──吹き飛ばせば良い。
「グオオオオオオオオオンッ!!」
後ろに跳んで距離を取ったマガイマガドがぐるぐると尻尾を振り回し始めた。
マガイマガドの尾に、鬼火が収束していく。ラグナは本能的に危機を感じ取った。
「あれ、ヤバいのが来るな──!! アジサイッ!!」
「分かってますッ!!」
ラグナが大剣を盾にして構える。アジサイが地面に伏せた。
特大の鬼火の嵐が凄まじい勢いで放たれた。
「うっ──オオッ!!」
荒れ狂う暴威。
大剣で防いでいなければ吹き飛ばされていただろう、とラグナは考える。
だが──そこに、刃から鬼火を噴き出したマガイマガドが正面から突っ込んでくる。
度重なる剣によるガードでラグナの腕は痺れており、この突進を受け止めることは出来ない。
すぐさま納刀したラグナはスライディングしてマガイマガドの腹の下を滑って難を逃れるのだった。
そして、マガイマガドはそのまま勢いを止めず、部屋の壁を突き破って何処かへ逃げてしまうのだった。
「……クソ、噂に聞きし暴れん坊だ。アジサイ!!」
「平気です。すんでのところで翔蟲で空に飛んだので」
「それよかあいつ逃げやがった──追うぞ」
壁に開いた大穴の先がどうなっているかは分からない。
しかし、導蟲はマガイマガドの足跡に反応し、それを緑色に光らせて示す。
それを伝って二人はマガイマガドを追いかけるのだった。
「ワタシたちも追いかけるデスよ!」
バジルが本を閉じ、導蟲の光を指差した。
マタビは頷き──ラグナと逆の方向に走っていく。
「マ、マタビさんッ!?」
「俺様大事な用事を思い出したのニャ!! 先に行っててニャーッ!!」
「はぁーっ!?」
こんな時に離脱するマタビに、バジルは頭を抱える。
しかし、ラグナ達の狩猟を記録してギルドに報告するのが編纂者の仕事。
仕方なく彼女はラグナの走っていった方に向かうのだった。
(あーもう、ラグナ達になんて説明するんデスかーっ!!)