ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第十三話:暴虐舞刃・マガイマガド

「グッゴオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 

 

 廃坑跡、中層。

 陽の光が差し込むこの山道は、マガイマガドにとって絶好の狩場となる。開けた場所こそ、縦横無尽に暴れる怨虎竜の本領発揮だ。

 その辺をうろついていた鳥竜・ゲネポスを捻じ伏せたマガイマガドは頭からそれを喰らい、頭蓋の骨をばりばりと噛み砕く。

 そして再び全身から鬼火を噴き出させるのだった。

 マガイマガドは、食事によって鬼火のエネルギーを急速的に回復させる。その生命力の強さは「食べている限りは死なない」と言われている程である。

 しかし、そんなマガイマガドの身体に鉄糸が絡みつく。翔蟲を放ったのは勿論アジサイだ。

 

「ラグナさん、今ですッ!!」

「よう、食事中か? じゃあコイツも喰らっていきな!!」

 

 ラグナはマガイマガドの背中に飛び乗り、それを踏み台にして再び飛び上がった。

 

(エリアルスタイル──”空中溜め斬り”!!)

 

 空で大剣を振り上げて力を溜め、そのままマガイマガドの脳天に破軍の剣を突き刺す。

 マガイマガドの悲鳴が響いた。確かな手応えだ。

 マガイマガドの頭部の角には罅が入っており、このまま攻撃し続ければ破壊できるのは目に見えている。つまり──マガイマガドの甲殻ではラグナの攻撃を受けきれない事を意味している。

 

(やっぱり頭部の肉質は柔らかい!! 尖ってる部分は鋭いが、同時に脆いんだ!! って事は──)

 

 ラグナはマガイマガドの尾に目を向けた。あの最大の武器も、攻撃し続ければいつかは圧し折る事が出来るということだ。

 しかし同時に辺りに靄が再び広がり、爆ぜて燃え上がる。考えを纏めさせる時間は与えないと言わんばかりに。

 降り立ったラグナはすぐさま転がって爆発から逃れるが──また、あの槍のような尻尾が彼の首を狙って突き刺してくるのだった。

 

「あっぶね──ッ!!」

 

 首元に大剣を持ってきて防ぐような器用な真似は出来ない。故にラグナは体をねじってすんでのところでそれを避けてみせる。

 だが、突き刺さった尻尾からガスが噴き出し──爆ぜる。

 その衝撃でラグナの身体は巻き上げられてしまうのだった。

 

「ぐああ!? クソッ……!! なんて奴だ、攻撃と鬼火、どっちかだけなら防げるのに……!!」

 

 トドメを刺さんとばかりにマガイマガドが刃を生やした腕を振り上げる。無論、ラグナは起き上がり大剣で受け止めようとするが──

 

「ラグナさんッ!! 援軍、連れてきましたッ!!」

 

 その巨体が横から突っ込んできた何かに吹き飛ばされる。

 そういえば、さっきからアジサイの姿が見えなかったと思っていたラグナだったが──彼女は意外な場所に居た。

 マガイマガドを突き飛ばしたのは、先程捕食されていた巨大な獣竜・ウラガンキンだ。

 

「うろついてるのが見えたので! この子に同族の敵討ちをしてもらいますッ!!」

「アジサイ、オマエ……そこに居るのか──!?」

 

 ラグナは舌を巻く。アジサイは──ウラガンキンの上に飛び乗っていた。

 そして、ウラガンキンの身体には翔蟲の鉄糸が巻き付いている。

 これが──翔蟲を用いた狩猟の醍醐味・操竜。

 話には聞いていたが、モンスターを鉄糸によって操り人形のように制御する技だ。

 マガイマガドは起き上がるなり、反撃しようとするが──ウラガンキンがその身体全部でぶつかってきたことで、再び地面に転がってしまう。

 同時にウラガンキンの身体を縛っていた鉄糸が解け、今度は翔蟲がマガイマガドの身体の周囲を舞う。

 

「操竜、いきますッ!!」

 

 アジサイはマガイマガドの背中に飛び乗り、今度は鉄糸をマガイマガドの身体に巻きつける。

 咆哮して抵抗するマガイマガドだったが──突進する向きをアジサイが制御したことで壁に自らぶつかって悲鳴を上げる。

 

「一回ッ!!」

 

 その反動で方向転換したアジサイは、今度は別の崖にマガイマガドをぶつける。

 

「二回ッ!!」

 

 よろめいたマガイマガドだったが、まだ暴れる余力があるらしく、再び起き上がってアジサイを振り落とそうとする。

 

「三ッッッ回ッッッ!!」

 

 体中の筋肉が悲鳴を上げる中、アジサイは無理矢理マガイマガドの頭を壁に向け──ぶつけた。

 

「グゴオオオオオオオオオオ!?」

 

 三度に渡る脳への衝撃に耐えかねたのか、マガイマガドは地面に倒れ込む。ほぼ同時に起き上がったウラガンキンは天敵たるマガイマガドへの恐怖からか、そのまま何処かへ逃げてしまうのだった。

 

「これが操竜……!!」

 

 翔蟲の糸が解けて、アジサイは地面に放り出される。

 ラグナがマガイマガドの身体を踏み台にして跳びあがった。

 

「ッ……ラグナさん!!」

「十二分だアジサイッ!! 俺に任せろッ!!」

 

 ラグナは力任せに尻尾に大剣を叩き込んだ。 

 大剣が──槍のように鋭いマガイマガドの尾に叩きこまれた。

 後に続くようにしてアジサイが飛び掛かり、尾に刃を叩き込む。

 ミシッと音がして甲殻に浅い罅が入った。

 手応えはアジサイも感じたのだろう。何度も攻撃していれば──いつかは壊せる、と。

 

「グッゴオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 しかし。

 マガイマガドとてやられっぱなしではない。

 起き上がるなり鬼火を噴き出して爆発させる。二人はその衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 そして、そこに合わせて尻尾を振り回す。

 

「あの尻尾さえ何とかなりゃあ、楽になるのに!!」

「ラグナさん!! そう言えばマタビさんの姿が見えません!!」

「ああ!?」

 

 そう言えば、とラグナは辺りを見回した。

 さっきまで絶え間なく降りそそいでいた粉塵も無い。

 マタビが──居ないのだ。

 思わずラグナは岩陰に隠れながら記録を続けるバジルを睨み付けた。彼女はラグナの視線に気づくと首を横に振った。

 

「ッ……」

 

 ──俺様、ウソばっかり吐いてたけど、あいつらが俺様が居なくても安心して暮らせるように頑張ってきたのはウソじゃねーのニャ!! それを壊されるのは……イヤだニャ!!

 

 ラグナはマタビの言葉を思い出す。

 さっきまでマガイマガド相手に恐怖を押し隠して戦っていたのだ。逃げてもおかしくない。怖気づいても無理はないと思ってしまった。

 だが、それでも──子分の為に震える身体を押して狩場にやってきた勇気はウソではないはずだ、とラグナは信じていた。

 

「ラグナさん、マタビさんまた逃げたんじゃ──」

「……ッ」

 

 答える余裕もない。

 怒り狂うマガイマガドが暴れ、鬼火が爆ぜる。

 そして、それを目隠しにしたマガイマガドが舞いながら尻尾を振り回し、そして刃で斬りつけてくる。

 仮に刃を避けたとて、あまりにも巨大なマガイマガドの身体にぶつかってしまえば、吹き飛ばされるのは避けられない。

 ラグナもアジサイも大きく仰け反ってしまうのだった。

 そして、その隙を見逃すマガイマガドではなかった。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 咆哮したマガイマガドの全身に鬼火が迸り、突貫してくる。

 ラグナもアジサイも今起き上がったところだ。避けたところでマガイマガドの巨体からは逃れられない。

 仮に逃れられたとして、マガイマガドが暴れた後には必ず鬼火が爆ぜる。

 

「万事休すか──ッ!!」

 

 ラグナは大剣を構え、盾のように地面に突き刺した。

 アジサイも翔蟲で逃れようとしたが──先程の操竜で翔蟲が疲弊してしまっており、まだ糸を吐けない。

 彼女の顔が恐怖で歪んだ。

 

「後ろに隠れろ、アジサイ!!」

「ですが──ッ!!」

 

 ラグナとて防げるという確証があったわけではない。

 しかし、防がなければ二人共一撃でノックアウトは確定だ。

 突っ込んでくるマガイマガドに轢き潰されてしまう。

 ラグナが焦燥と共に大剣を構えたその時だった。

 

 

 

「ッッッニャアアアアアアアー!!」

 

 

 

 猫の叫び声が何処からともなく聴こえてきた。

 ラグナは視線を上げる。

 崖から何かが走って飛び降りてくる。

 

「ラグナーッッッ!!」

 

 一瞬だったが、ラグナは飛び降りてきたのがマタビだと確信していた。

 その両手には──巨大な大筒が握られている。そして、それが空中で何かを発射した。

 

「いっけぇぇぇぇーっっっ!!」

 

 それは槍のようなものだった。

 マガイマガドの腰に突き刺さり、そして──食い込むように回転してスイッチ音が鳴る。

 

「ありゃ──撃龍槍か!?」

 

 ラグナは思わず目を見開いた。

 巨大なモンスターに突き刺し、回転することでダメージを与える兵器だ。

 しかし、ラグナが知るそれよりも明らかにサイズは小さい。

 

「携行できる小型の撃龍槍か!? そんなものをどうやって──」

「グオオオ!?」

 

 腰に突き刺さった小型撃龍槍は──回転してマガイマガドの身体に捻じ込まれる。

 そして炸薬が破裂し、マガイマガドを大きく転倒させる。

 何が起こったのか理解できていないラグナとアジサイだったが、これ以上ない好機だった。

 

「攻め時は、今ですッ!!」

 

(鬼人化ッ!!)

 

 アジサイの目から赤い眼光が迸った。

 全身の筋肉が活性化し、視野が大きく狭まる。

 そして一気にマガイマガドに間合いを詰め、漸く糸が回復した翔蟲を操作する。

 

(鉄蟲糸技──”螺旋斬”ッ!!)

 

 体を思いっきり引き寄せ、回転するセツ=Dの刃でマガイマガドの尾を切り刻む。

 そして、そこに飛び上がったラグナが尻尾目掛けて──大剣を振り下ろした。

 

(エリアルスタイル──”空中溜め斬り”ッ!!)

 

 ありったけの力を溜めた乾坤一擲の斬撃。

 それは見事にマガイマガドの尻尾を圧し折り──勢いよく地面に槍のような尾が突き刺さるのだった。

 

「グゴオオオオオオオオ!?」

 

 悲鳴を上げるマガイマガド。

 流石に自慢の武器を失ったことで動揺しているのだろう。

 

「グオオオオオオオオオオッ!!」

 

 狂乱したマガイマガドは尻尾を振り回し、鬼火を飛ばす。

 しかし、砕けた尾は先程よりもリーチが短く、地面に突き刺さるような鋭利さも無くなっていた。

 容易く剣で尾による一刺しを防ぐラグナ。その後ろからアジサイが飛び出し、続け様に舞うような斬撃を浴びせる。

 それが功を奏したのだろうか──

 

「グッ!? グオオオオオオオオオ!!」

 

 小さき獲物に手こずるのが想定外だったのか、はたまた流石のマガイマガドも消耗してきたのか──狂乱した様子で何処かへ逃げていくのだった。

 それを見届けたマタビは──ラグナ達の元に駆け寄った。

 

「待たせたのニャ!!」

「マタビ、今のは……!!」

「元の住処に戻って、使えそうなカラクリを探してきたのニャ!! 今のはネコ式撃龍槍──の試作品だニャ!!」

 

 マタビが抱えていた大筒は発射の反動で根元から圧し折れてしまっていた。もう二度と使えないだろう。

 

「マタビ、オマエ……こんな事が出来たのか!?」

「俺様、此処に捨てられてたカラクリの事なら分かるのニャ! イタズラの為に研究してたのが役に立ったのニャ!!」

「……ごめんなさいッ」

 

 アジサイが頭を下げた。

 

「……ボク、てっきりマタビさんが逃げたのかと……思って。マタビさんが居なかったら、今頃ボク達は大きな痛手を負ってました」

「いや、俺様もいきなり居なくなったから心配させたのニャ。それに今までの事があるし……メラルーが信用されないのは慣れてるのニャ」

「頑張ったな、マタビ」

 

 ラグナがマタビの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「子分の為に命を張ったオマエの姿、確かに見届けた。オメーは、立派なオトモだ」

「え、えへ……ちょ、チョーシが良いのニャ、ラグナ……」

 

 それに対し、思わずマタビはふにゃりと笑う。そして──何かに気付いたように目を見開くと、視線を逸らした。

 

「……で、でも、別に褒められたからって嬉しいわけじゃねーのニャ!! その辺、勘違いしねーでほしーのニャ!!」

「ンだよ。素直じゃねーヤツだな」

「見直しましたよ、マタビさん」

「うう、アジサイもチョーシが良いのニャ!!」

 

 しかし──緩みかけた空気を引き締めるように、後ろからバジルがやってくる。

 

「安心するのは早いデスよ! マガイマガドが逃げた先は……多くのモンスターが生息するエリア、デス!! マガイマガドは、捕食を続けてる限り──死なないデスよ!!」

「オメーも大変だな。防具無しで狩りに同行して」

「コソコソするのは慣れてマスので! 自分が死なないように狩猟を記録しながらハンターをサポートするのが編纂者の仕事デスから!」

 

 ラグナは同情しそうになった。超人揃いのハンターに対し、編纂者の身体能力は一般人の域を出ないことが殆どだ。そんな中、ギルドに狩猟経過を報告したりハンターの支援をしなければならないので、ある意味一番命を張っている役職である。

 

「というわけで! こっちもスタミナ付けるデスよ!」

 

 バジルが出したのは──携帯コンロだ。

 彼女は何処から取り出したのかコック帽を被り、そして背負ったカバンから良い匂いのする食材を取り出していく。

 

「バジルちゃんの特製キャンプ料理の時間、デース!! こっちもスタミナ付けて、マガイマガドを今度こそ仕留めちゃってくだサーイ!!」

 

 手慣れた様子でバジルはフライパンにバターとベーコンを放り、焼き始める。

 スパイスをかけると鼻腔を突き抜ける良い匂いが辺りに漂うのだった。

 そこにバジルは、タマゴを割って上に乗せる。

 

「た、確かに一休みしても良いかもしれません……」

「旨そうだな!! バジル、ありがてえ!!」

「腹が減ったのニャー……」

「にしー、腹が減っては、戦は出来ないのデース!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「グッゴオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 餓えた身体を満たす為、辺りに居る小型モンスターの捕食を一心不乱に繰り返すマガイマガド。

 ガスが辺りに満ち、そして鬼火となって爆ぜる。 

 体が生命の危機を感じているからか、次第に鬼火の色は赤く染まっていき──爆炎となって燃え広がる。

 

「……よう。待たせたな」

 

 マガイマガドは振り向き、咆哮した。

 ラグナ、アジサイ、マタビの三人が──迎え撃つようにして武器を構える。

 

「……どっちがくたばるか……決めようぜ」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 咆哮するマガイマガドは鬼火を全身に纏って突貫する。

 しかし、既に此処までの戦いで三人はマガイマガドの動きに慣れつつあった。

 直進するマガイマガドは急に曲がる事が出来ない。

 マタビはラグナの背中に飛び乗り、ラグナとアジサイは散開してマガイマガドの突進を避ける。

 だが、急転したマガイマガドは──鬼火を爆発させてラグナ目掛けて空中から襲い掛かる。

 

「──そう来ると思ったぜッ!!」

 

 しかし、既に振り向いていたラグナがスリンガーから閃光弾を放つ。

 それは宙高くで爆ぜ、辺りには眩い光が満ちた。

 空中でそれを受けたマガイマガドは制御を失い、地面に墜落する。

 

「打合せ通り、ですっ!! ”螺旋斬”ッ!!」

 

 そこに、アジサイがマガイマガドの頭に張り付いて刃を高速回転させた。

 頭部の角が──音を立てて砕け散る。

 

「グッゴオオオオオオオオッッッ!!」

 

 角はマガイマガドにとって、異性にアピールするための誇りとも言える部位。

 それを欠いたことで更に怒りを爆発させるマガイマガドは暴れようとした。

 アジサイはそれを見て翔蟲を使って逃げる。それを追うマガイマガド。

 

「グオッ!?」

 

 しかし──マガイマガドは急に全身を痙攣させて動けなくなってしまう。

 何が起きたのか分からない、とばかりに藻掻くが最早四肢の自由は奪われた。

 その足元には、大型モンスターの重量で作動するシビレ罠が置かれていたのである。

 

「わりーな、マガイマガド。オメーに恨みはねえが……往生してくれや」

 

 ラグナが大剣を抜いて跳んだ。

 マガイマガドが獲物を貪っている隙に、先んじてシビレ罠を設置していたのだ。

 全ては──バジルの用意したキャンプ飯を食べている時に練った策である。

 

「ありったけだッ!! ぶつけるぞッ!!」

「勿論ですッ!!」

「援護するのニャッ!!」

 

 ここぞとばかりにマタビが鬼人の粉塵を辺りにばら撒いた。

 それを吸い込んだラグナとアジサイの筋肉が一気に硬さを増し、腕力が跳ね上がる。

 両者の目からは赤い紫電が迸った。

 

「これでッ!!」

「終わりですッ!!」

 

 マガイマガドの脳天にラグナが大剣を叩き込んだ。

 アジサイが背中を双剣で斬り刻んだ。

 それがトドメとなり──何かがふつり、と切れたかのように、マガイマガドは呻くと──その場に崩れ落ちるのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 マガイマガドが息絶えたのを確認したラグナ達は、斃れた獲物から素材を剥ぎ取った。

 

「いやー、しかと見届けマシタよ!! 素晴らしい狩猟デシタ!!」

「今回は……マタビさんが居ないと危なかったですね」

「ふふーん、もっと俺様をあがめるのニャ!!」

「前言撤回して良いですか?」

 

 折角狩猟が終わったというのに、ギスりかけるアジサイとマタビ。

 そんな彼女達を横目に、ラグナはマガイマガドの死体をあちこち調べていた。

 そして──マガイマガドの胴を見遣る。

 

「……この傷」

「どうしたんデス?」

 

 狩猟経緯を記録していたバジルが、ラグナに問いかけた。

 

「コイツを見てくれ。これは俺達との戦闘で付いた傷じゃねえ」

 

 マガイマガドの胴の甲殻には──何かロープのようなもので締め上げられたような痕が付いていたのである。

 ラグナが何かを調べていることに気付いたアジサイとマタビも駆け寄る。

 

「気になってたんだよ。マガイマガドが何でこんな所に出てきたのか……そして、この締め付けられたような傷」

「傷がどうかしたんですか?」

「古龍にも襲い掛かるというマガイマガドに傷を負わせられる生き物はそう多くねえ。……ってことは必然的に候補は絞られる」

「た、確かに、この傷……ボクも見覚えが……」

「うん?」

 

 マタビが空を仰ぐ。

 彼の脳裏に過った悪いカンは──直ちに当たることになった。

 

 

 

「──ヴッッッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 

 荒天を劈く野太い咆哮。

 空で羽ばたくは──全身を白い体毛で覆った鎖刃竜。

 ラグナは、後ずさる。それが此方に敵意を向けていること。そして、全身に赤い稲光を纏っていること。そして──長き戦いによって刻まれた古傷が付いていること。

 それが示す意味は──

 

「アルシュベルド……この間の個体でしょうか!?」

「違うッ!!」

 

 ──ラグナは叫ぶ。この時点で彼は嫌な確信を得ていた。開闢の山林で出会った個体とは明らかに気色が違う、と。

 

 

 

「あの時のヤツより明らかにデカいし、古傷塗れ……アレは()()()()()だッ!!」

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