ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第十四話:ギルドの要請により──

「ヴォウッ」

 

 間もなく、アルシュベルドがマガイマガドの亡骸に勢いよく飛び降りる。

 そして、辺りに──赤黒い雷が満ちた。

 

「全員、散開しろッ!!」

 

 ラグナが叫んだ。

 

 

 

 ──程無くして、鼓膜を吹き飛ばすような爆音。

 そして、身体を容易く吹き飛ばす程の爆風が吹き荒れた。

 

 

 

 ラグナの身体は塵のように吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

 アジサイはバジルを抱きかかえると、翔蟲で空に飛びあがったが──爆風で煽られて墜落する。

 

 

 

「ヴッッッオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 

 咆哮したアルシュベルドは、マガイマガドの死肉を喰らい、貪り始めた。

 

「ヴォウッ──ウォゥォォォ」

 

 そしてひとしきりそれを貪り、満足したのか──再び赤い稲光を放ちながら何処かへ飛び立っていく。

 漸く身体が動くようになったラグナは、破軍の剣を杖代わりにしながら立ち上がる。

 

「全員、無事か……?」

「ボクは……何とか」

「えと、アジサイが受け止めてくれたおかげでワタシも無事デス!!」

「……まさか、アルシュベルドがもう1匹居るなんて」

「ひょっとしたら、まだいるかもしれねーな……だが、こないだの個体とは気性が明らかに違ェ。このままだと被害を出すぞ」

 

 体の傷は死線を潜り抜けてきた証。

 歴戦の個体ということは──通常のアルシュベルドを優に上回る力を持つということ。

 放置することは危険だ、とラグナは考える。そして、今まで確認されていなかったマガイマガドが廃坑跡に現れた理由も得心がいった。

 マガイマガドの傷、そして彼が捕食を繰り返してエネルギーを補給していたこと。

 考えられるのは──ただ一つ。

 

「……マガイマガドはアルシュベルドと縄張り争いをしていた。互いに高い機動力を持つモンスターだ、もつれ込むうちに廃坑跡まで来ちまったんだろうな」

「まさか今のマガイマガド、弱ってたんデスか!? あの強さで!?」

 

 バジルが目を見開く。そうなれば全力のマガイマガドは如何程の強さだったのか、と途方に暮れてしまうのだった。

 

「有り得ねえ事は無いな。既にアルシュベルドに生命エネルギーを吸われた後だったのかもしれねーよ。それで生きてるんだから、マガイマガドもとんでもねえバケモンだ」

「どっちにしても、傍迷惑デース!!」

「……ねえ、ラグナさん。マタビさん、何処に行ったんでしょうか」

 

 ぽつり、とアジサイが言った。

 

「え」

 

 ラグナの顔から血の気が引いた。

 そう言えば、ラグナはマタビの姿を見ていない。声も聞こえない。

 思わず──辺りを見回す。

 そして、岩の影でボロ雑巾のように転がっているものを見つけた。

 

「マタビ……マタビッ!!」

 

 ラグナは急いで駆け寄った。

 マタビは──返事をしなかった。

 彼女は全身から血を流し──動かなかった。

 

「……大変だッ!! マタビが!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──廃坑跡のベースキャンプは、激しい雨が地面を打ち鳴らしていた。

 

「あ、姉御ォ……!!」

「命に別状は無ェが……しばらく寝かせておいた方が良さそうだな」

 

 頑丈なのは流石獣人族といったところか、と思ったラグナだったが口にはしなかった。

 大樽爆弾の爆発でも軽傷で済んでいたマタビが動けなくなるほどの威力。

 改めてラグナはアルシュベルドというモンスターの恐ろしさを思い知らされるのだった。

 

(無理もねえ。ただでさえ強いアルシュベルドの歴戦の個体……か。下手したらマガイマガドよりも……)

 

 普段あれだけ騒がしいマタビは、メラルーたちの用意したベッドの上で何も言わず横たわっている。

 回復ミツムシで体力は回復されており、傷も癒えつつある。しかし──負ったダメージはあまりにも大きい。

 アジサイが沈痛な面持ちで唇を噛み締めた。

 

「ごめんなさい……ボク、咄嗟の事でマタビさんまで助けられなくて」

「いや、バジルを助けて正解だ。もし巻き込まれてたら確実に死んでただろうからな」

「ッ……被害が出た以上、あのアルシュベルドを放っておくわけにはいかないデス……」

「あれはあまり良くねえ暴れ方をしてるからな」

「何を冷静にしてるのニャ!!」

 

 辺りを取り囲むメラルーたちが憤慨した。

 

「オメーらがしっかりしねー所為で姉御が大怪我したのニャ!!」

「オマケに今度は、ヤバい飛竜が出てきたってホントかニャ!?」

「お前達、ハンターならもっとしっかりするのニャ!!」

「あ、あんた達デスねえ……!! そんな言い方──」

 

 流石にバジルが何か言おうとしたのを、ラグナは手で制する。

 そして──座り込み、メラルーたちに目線を合わせたかと思えば頭を下げた。

 

「……お前達の言う通りだ。こいつがケガした責任は、俺にある」

「ラグナさん……!?」

「俺がもっとしっかりしていれば、こいつはケガしてなかった。俺の所為だ。お前達の大事な姉御に……申し訳ない事をした」

「……ッ」

「依頼人の身内にケガを負わせたのは、ハンターの責任だ」

 

 アジサイは──ラグナの態度に驚きを隠せなかった。

 他者の事に責任など取りたくないなどと宣っていたいたラグナだったが──彼の面持ちは、後悔に満ちていた。

 

「コ、コノヤロー!! 詫びれば姉御が許すと思ってるのかニャ!!」

「……その辺に、しとくのニャ」

 

 声がして──メラルーたちはベッドの方に視線を向ける。

 

「……それ以上、ラグナを詰るのは……俺様が許さねーのニャ」

「あ、姉御ォ!!」

 

 マタビはベッドから起き上がっていた。しかし、頭が痛むのか──手でこめかみを抑える。

 

「……ラグナは……弱っちい俺様を信じて待ってくれたのニャ。他人にも、自分にもウソを吐き続けてきた俺様を……!! だから、俺様も命を張ろうと思ったのニャ!!」

「ッ……姉御ぉ……でも、姉御は最強で──」

「俺様、最強なんかじゃないのニャ!!」

 

 マタビは──叫んだ。

 

「ハンターのオトモなんて、今までやったことないのニャ……!! 知識は全部、ハンターから盗んだ本で得た受け売りだニャ!! 古龍になんて出会ったことないし、それどころかマガイマガド相手にだってずっとビビりっぱなしで逃げたかったニャ……!!」

 

 シーツを握り締め、マタビは吐き出すように続けた。

 もう全部楽になってしまいたかったのだ。今、この場で。

 自分の嘘の所為で作られた虚構の「姉御」。その所為でラグナが責められ続けることに耐えられなかったのだ。

 

「オマエ達はホントーにバカな子分共だニャ……古龍がどうにか出来るなら、あの黒い飛竜なんて簡単に追っ払えているのニャ!!」

「姉御……」

「そんな頭の悪いオマエ達が、それでも、それでも……俺様……可愛くて、可愛くて……仕方が、なかったのニャ……」

 

 懺悔するように、マタビは頭を下げた。

 罵詈雑言も全て受け入れる覚悟でいた。見捨てられる覚悟でいた。

 もう彼らの「姉御」では居られない、と思っていた。

 

「だから、ラグナの事を許してやってほしーのニャ……ラグナは、こんなどうしようもない盗人を拾ってくれた……初めてのハンターなのニャ……」

「ッ……マタビ」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()のニャ!!」

 

 

 

 誰かが──そう言った。

 マタビは顔を上げる。

 続いて、他の誰かが声を上げた。

 

「分かってて皆、知らねーフリをしてたニャ!!」

「姉御がどうしようもねーヤツな事くらい、分かってんのニャ!! 分かってついてきてるのニャ!!」

「俺達、姉御のおかげで此処までやって来れたのはホントだニャ!!」

「姉御が教えてくれたことのおかげで、今まで生きて来れたんだニャ!!」

「辛い時でも、乗り越えてきたんだニャ!!」

「盗人が何だニャ、俺達皆同じ盗人だニャ!!」

 

 子分たちが次々に声を上げる。  

 ラグナは──微笑んだ。

 メラルー達は、ウソで塗り固められた虚構の「姉御」を慕っていたわけではない。

 どんな時でも皆を鼓舞してくれて、いざという時は命を懸けてくれる「姉御」を慕ってくれていたのだ、と。 

 

「姉御!! 俺達……幸せ者だニャ!!」

「俺達の為に命を張って頑張ってくれる姉御がリーダーで、本当に良かったニャ!!」

 

 泣き腫らしたマタビはシーツに顔を埋め、嗚咽を上げながら──呟いた。

 

「みんニャ……ホントーにバカな子分共だニャぁ……」

 

 それを見て、ラグナとアジサイは顔を見合わせる。

 

「……ヘッ、良い親分と子分じゃねーか」

「そうですね……本当に、そう思います」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 しばらくして場が落ち着いた後、マタビは肩を回す。

 もうすっかり具合は良くなったようだった。

 

「心配かけたのニャ、二人共。俺様、もう大丈夫だニャ──」

「確かに、それだけ喋れるなら平気そうですが……」

「いや、マタビは此処で待っておいてくれ」

「え」

 

 マタビが不安そうにラグナを見上げる。

 しかし、彼はニカッと笑い──マタビの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「メラルーたちには、オマエが必要だ。こいつらは不安がってる。もしもの事があった時の為に、お前がこいつらを導け! これは、オマエにしか出来ない事なんだ」

 

 これは勿論、戦闘に不慣れなマタビをこれ以上無理させるわけにはいかない、という判断からだ。

 それと同時に──これ以上、不穏な空気が長引くとメラルーたちが暴れ出しかねない。それを抑えられるのは、姉御たるマタビだけだ。

 その意図を読み取ったのか、マタビも頷く。

 

「……ラグナ。分かったのニャ!!」

 

 だが同時に──マタビも、己の力不足を強く思い知る。

 故に芽生えつつあった。──ラグナの隣で戦えるオトモになりたい、と。

 大事な時に、大事なものを守れるオトモになりたい、と──

 

「……でもラグナ。俺様も、いつかは……いつかは……!!」

「分かってる。期待してるぜ、マタビ」

「ニャ……!」

「それじゃあ、ワタシもギルドの仕事を全うさせていただきマスよ!」

 

 本を開いたバジルの肩にフクズクが停まる。

 

「ギルドの調査員の報告によれば、アルシュベルドは膨大な龍属性エネルギーを放ちながら、廃坑跡の各地を大暴れしてるデス」

「制御できてねえんだな……自分のチカラを」

「人里への侵入は秒読み、可及的速やかな狩猟が必要と判断」

「……そうか。仕方がねぇな」

 

 残念そうにラグナは言った。

 道はもう1つしか残されていない。共存の可能性はこの時点で潰えた。

 編纂者はこのような火急の事態が起きた時、該当のモンスターの処遇を決定する権限がある責任者だ。

 これは、ハンターが勝手な判断で大型モンスターを討伐するような事が無いようにするためである。

 そしてバジルは──ギルドの名の下にアルシュベルドの狩猟方針を固めた。その判断にラグナもアジサイも異論を挟むつもりは無かった。

 

「従って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「了解ッ!!」

「拝命しました」

 

 

【討伐クエスト】

 

白光翳り鎖は朽ちて

 

依頼主:ギルド編纂者のバジル

 

メインターゲット:アルシュベルド一匹の討伐

 

目的地:廃坑跡

 

アルシュベルドの暴走は止まる事を知りまセン。残念デスが、命を奪う以外に道は無いようデス……人里にアルシュベルドが出て行く前に、一刻も早い対処を!

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