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「こ、こいつぁ酷ェ……マガイマガドの比じゃねえ数の食い腐しだ……!!」
──廃坑跡・第二鉱山跡地。
アルシュベルドの痕跡を追っていたラグナ達だったが──道中で、明らかに様子のおかしい死体を幾つも見かけた。
新しいもの、古いもの。そのいずれにも、導蟲は反応していた。
全て──アルシュベルドの捕食痕だ。
あれほど巨大な飛竜が何匹も居れば当然報告にも上がっているため、やはりこれらは全て同一個体の仕業だ──とラグナは考える。
「……殆ど手ェ付けずに次の獲物を狙ってやがる。マガイマガドとは逆だ。食う為じゃなくて、目の前のものを殺す為に暴れてるみてーだ……ッ!!」
「アルシュベルドも最初は何らかの理由でエネルギーを溜め込もうとしたのが始まりだったのデショウ。しかし、何のために?」
遺骸を調べるバジルが不審そうに言った。
締め上げた痕が見られる遺骸も見られた。
首を圧し折られたドスゲネポスには、やはりあの締め上げられたような痕があった。
「マガイマガドと戦う為か……!? だが、何かが引っ掛かる……!!」
「龍属性エネルギーは、モンスターを暴走させるんでしょうか……?」
「全てがそうってわけではないデスが……龍属性エネルギーを溜め込み過ぎた所為で様子がおかしくなったモンスターの例は幾つかありマス。カムラで起きたらしい赫耀動乱はその最たるデス!」
「ッ……強すぎるエネルギーはモンスターにとってもリスクが大きい。どっちにしても、俺達はアルシュベルドを手に掛けねえといけねえ」
崖下を見下ろす。
そこには、一心不乱に屍の山を貪るアルシュベルドの姿があった。
どくんどくん、と脈打つ鎖は赤黒い稲光を帯びながら肥大化しており、アルシュベルドの目も赤い稲光を放っている。
最早本人ですら持て余す量の龍属性エネルギーがアルシュベルドを蝕んでいるのだ。
「ワ、ワタシ!! 此処で記録してマスね!! お二人の健闘をお祈りしてマス!!」
「おう! あぶねーのに付いて来てくれてサンキュな! ……死ぬなよ」
「こっちのセリフ、デス!!」
バジルが手を振って二人を送り出す。
使命を胸に飛び降りたラグナ達は──「獲物」と遂に相まみえるのだった。
「……よう。オトモが世話ンなったな」
「ヴッ……ヴォオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」
【飛竜種”鎖刃竜”アルシュベルド(歴戦)】
何かを堪えるように、吼えるアルシュベルド。
翼から滴る鎖からは赤黒い稲光が渦を巻き、四つに別たれてうねうねと宙を舞った。
ざり、ざり、と鎖を引きずるアルシュベルドは全身から紫電を迸らせると、ラグナ達目掛けて鎖を振り回しながら飛び掛かる。
「避けろッ!!」
「はいッ!!」
散開する二人。
しかし、アルシュベルドはそのまま宙返りするように飛び上がると、着地。
そのまま鎖を地面に叩きつけて、辺り一帯にまたしても赤黒い紫電を広げていく。
その範囲は尋常ではない。文字通り、地の果てまで届く勢いだった。
「ファァァァアアアウウウウウウウウウウウウウウーッッッ」
嘆きにも聞こえる甲高い咆哮と共に、地面に広がった龍気が爆ぜる爆ぜる爆ぜる。
その衝撃を受け止めきったラグナだったが、腕は痺れてしまい、膝を突いてしまうのだった。
翔蟲で空へ昇ったアジサイは鬼人化を解放。
身体のリミッターを強制的に解除し、セツ=Dを回転させながら、鉄糸を飛ばして急接近──そのままアルシュベルドに斬りかかる。
螺旋斬がアルシュベルドの鎖を切り裂いた。
「ヴオッ!? ウォオオオオ!!」
「やっぱり、鎖はデリケートなようですね!! エネルギーの吸収に用いるということは……体内器官に直結しているということ!!」
「身体設計の欠陥だぜ……ッ!! 一番傷ついちゃいけねえ部分が一番の武器ってのはなァ!!」
大剣を振り上げたラグナは跳躍し、もう片方の鎖に大剣を突き立てる。
しかし、アルシュベルドは力任せに両翼を振り上げると鎖を振り回してラグナ達を吹っ飛ばす。
先のマガイマガドに勝るとも劣らない、否──それ以上の膂力。
「ヴォオオオオオオオオオオン」
再び龍属性エネルギーを帯びたアルシュベルドが襲い掛かる。
散開したラグナ達だったが、宙返りして地面に降り立ったアルシュベルドは地面を蹴って鎖を振り回しながら殴りかかる。
前脚による一撃は躱したラグナ達だったが、飛び散るように別たれた鎖にぶつかってしまい、地面に膝を突いてしまう。
鎧越しでも感じるすさまじい衝撃。まさに力任せという言葉が似合うファイトスタイルだ。
(ッ……その身体設計の欠陥を補うどころか余りあるパワー!! これこそが、アルシュベルドの強み……!!)
そして、弱点と言えど大剣で何度斬っても千切れる気がしない筋肉繊維で出来た「鎖」。
硬く鋭いが、それ故に脆かったマガイマガドの甲殻とは真逆だ。
特に龍属性エネルギーを帯びている時に下手に近付けば、それを浴びてダメージを受けてしまう。
アルシュベルドとて、弱点をただ無防備にさらしているわけではないのだ。
「進化する必要のない、
鎖はバラバラに広がり、広範囲を打ちのめす。
アルシュベルドの攻撃を避けるならばある程度その軌道を読み、より遠くに逃げなければ被弾してしまう。
それならば──と、被弾上等でラグナは大剣でのガードを試みる。
そして鎖を踏み台にしてアルシュベルドの脳天目掛けて破軍の剣を振り下ろした。
「──らァッ!!」
「ヴァウッ!?」
手応えは確かにある。
硬い頭蓋に守られた頭部。
しかし──絶対に破れない守りではない。
暴れる鎖を避ける為に宙返りで地面に降り立ったラグナは──アルシュベルドの動きの法則性を見出しつつあった。
「ヤツの攻撃……必ずあのサマーソルトキックからの宙返りを挟んでやがるな!! 龍属性を纏った後の宙返りから、本命の攻撃が来る──ッ!!」
焦る中でも冷静にラグナは分析を重ねていく。
アジサイも、それを受けて最適解を導き出していく。
彼は若いが──歴戦のハンター。初めて戦った相手のアルシュベルドであっても、今までの経験や此処までの戦いの観察からどうすれば対処できるかを導き出せる。
「宙返りは目視でも避けられます!! その後の攻撃を翔蟲で対処しますッ!!」
「オーケー、ならこっちも方針は決まった!!」
アルシュベルドがラグナ目掛けて蹴りを見舞う。
しかし、それは大剣によるガードで簡単に対処が出来る。
問題はその後の攻撃だ。大剣を納刀し、アルシュベルドから間合いを取る。
「フォオオオオオオオオンッッッ!!」
暴れながらアルシュベルドが殴りつけてくる。
避ければ広がった鎖に捉えられる。故に──ラグナは大剣を構え、アルシュベルドの前脚に合わせて斬り上げる。
「フォオオウッ!?」
激突するラグナの剣とアルシュベルドの前脚。
相手のモンスターの体重を利用して、衝撃を受け流し、逆に相手を転ばせる相殺斬りだ。
アルシュベルドは態勢を崩して地面に倒れる。そこにラグナはスリンガーを打ち込み、急接近し斬りつけた。
じりじりと迫りくるような焦燥の中で、ラグナは光明を掴みつつあった。
「やっと見えて来たぜ……お前の動きッ!!」
「フォオオオオオオウッ!!」
更にその間にも後ろからアジサイが絶え間なく双剣による斬撃を浴びせ続けている。
鬱陶しく思ったのか、アルシュベルドは尻尾で彼女を突き刺すが──ひらり、とアジサイは宙を舞い、躱してしまうのだった。
(鉄蟲糸技──”螺旋斬”ッ!!)
その勢いで空中から翔蟲を飛ばしたアジサイはアルシュベルドの前脚に急接近し、柔らかい鎖を斬り刻む。
「ヴォオオオオオオオオオンッッッ!!」
叫ぶアルシュベルド。
龍属性エネルギーが更に溢れ出す。
怒り狂う鎖刃竜は鎖を振り回し、二人を薙ぎ払う。
そして──今度はアジサイ目掛けて、あの宙返り蹴りを見舞うが──
(鬼人化ッ!!)
目から赤い紫電を迸らせたアジサイはそれを走って躱す。
アジサイはラグナに目配せした。次の攻撃が来る──と。
「ファァァァアアアウウウウウウウウウウウウウウーッッッ」
燃え盛るようにエネルギーが溢れ出し、アルシュベルドが地面に前脚を叩きつけた。
鎖が広がり、そこから龍属性エネルギーが地面一帯に広がる。
しかし──この攻撃は既に何度も見た。
ラグナもアジサイも全速で走り出す。目指すはアルシュベルドの懐だ。
龍属性エネルギーが爆発するまでには時間がかかる。そして、エネルギーが前脚の鎖から放たれる以上、アルシュベルドの胸元が最大の死角となるのだ。
「”螺旋斬”ッ!!」
「”集中貫通斬り”ッ!!」
熱で激しく膨張した鎖。
それこそがラグナ達の狙いだった。
爆発が連鎖していく中、衝撃が収まったタイミングを見計らい、地面に広がった鎖目掛けてラグナとアジサイは全力の一撃を見舞う。
大剣が大きく食い込み、鎖を蹂躙するように薙ぎ払っていく。
そして、双剣が高速で回転し、鎖を更に斬り刻む。
「フォッ!? フォオオオオオオオオ!?」
熱膨張した鎖への致命の一撃。
エネルギーを吸収する器官への痛撃を受けたアルシュベルドは悲鳴を上げて倒れ込んだ。
好機と見たアジサイは、翔蟲を放つ。
鉄糸がアルシュベルドを拘束した。そのまま操竜につなげるつもりなのだ。しかし──
「ヴォッ──ヴォオオオオオオオオオンッッッ!!」
──鉄糸は千切れ、アルシュベルドは咆哮する。
アジサイは想定外の事態に後ずさった。
「な、何で……!? 操竜が出来ない──!?」
「ファアアアアアウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」
聞いた事の無いような耳を劈く咆哮が、辺り一帯を揺るがす。
アルシュベルドから更に龍属性エネルギーが流れ出していき、青い眼は鮮血の如き赤へと塗り替えられていく。
そして口からも赤い紫電が漏れ出していく。
黒い体表には罅割れたような赤い傷が現れていく。
鎖は更に膨張し、急速に発達していく。
(この現象、見た事ありマス……イビルジョーと同じ……龍属性が暴走して、身体に変調をきたした……いわば特殊個体!!)
通常の個体では考えられなかった挙動に、崖上から見守っていたバジルも歯噛みする。
想像していた限りの最悪の事態が起きてしまった。
(最早通常の歴戦個体にあらず、デス……!! ……ワタシが名付けるならば──)
龍属性エネルギーはアルシュベルドを蝕み続けており、最早長くは生きられない。
それでも尚、執念深く目の前のものを喰らい、破壊し尽くすその姿。
「命の黄昏……”昏き残光のアルシュベルド”──ッ!!」
アルシュベルドが地面に鎖を突き刺す。
地面に龍属性エネルギーが満ちたかと思えば、一気に罅が入り──地面が崩れ落ちた。
「やっべ──ッ!? 足場が……!?」
下は空洞になっていたのだろう。
翔蟲で飛べるアジサイはともかく、ラグナは飛行する手段を持たない。
フックスリンガーを引っかけられそうな場所もない。
アルシュベルドと向かい合いながら落下するラグナ。
すぐさま翔蟲を放ったアジサイが傍に現れる。
「ッ……アジサイ!!」
「最後まで付いていきますッ!!」
瓦礫と共に着地する二人。降り立ったのは──広い地下空洞。
さっきの爆発で天井が開き、豪雨が絶え間なく降りそそぎ始める。
「ヴォオオオオオオオオオオオアアアアアアッッッ!!」
【飛竜種”鎖刃竜”昏き残光のアルシュベルド】
「……アジサイ。お前にはあいつがどう見える」
「……同情はしません。この場で──可及的速やかに仕留めます」
「頼もしいな。ハンターは……そうじゃねえとよ」
ラグナは──自らの内心にわきつつあった辛気臭い気持ちを捨てた。
最早、アルシュベルドが長くは持たないことなどラグナも分かっていた。
故に──だからこそ武器を構える。
燃え盛る命に、最大限の敬意を示す為に。
「……さあ、来いよアルシュベルド。こいつは俺達とオマエの狩りだ。恨みっこなし──どっちがくたばるか決めようぜ」
【クエスト更新:討伐対象・昏き残光のアルシュベルド】