ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第一章、完です。此処までありがとうございました!


第十八話:前夜祭は終わりを告げる

 ──翌朝。

 雨が上がっていたので救難信号弾を打ち上げ、しばらくするとギルドの救助隊がやってきた。

 どうやら、アルシュベルドと共にラグナ達の行方が分からなくなったため、捜索を続けていたのだという。

 斯くして、ラグナ達は無事にベースキャンプに帰還する事が出来たのである──

 

「もーうっ!! 心配したデスよ!! アルシュベルドと一緒に落っこちちゃうんデスから!!」

「ふ、二人共無事で良かったニャァー……」

 

 ベースキャンプで待っていたバジルが出迎える。マタビが泣き叫びながらラグナに飛びついた。

 一方──バジルは目をぱちくりとさせながら、そのラグナの背におんぶされているアジサイを指差した。

 

「ところでアジサイどうしたんデス? もしかしてケガしてるとか?」

 

 恨めしそうな目でアジサイはラグナの肩を掴んだ。

 

「……うううう」

「全身筋肉痛みたいだぜ。アルシュベルドとの戦いがよっぽどキツかったんだろ、ハハッ!!」

「……~~~~ッッッ!!」

 

 顔を真っ赤にしたアジサイは、ラグナのうなじに頭を擦りつけた。

 大恥も良い所である。昨晩の顛末を思い出せば思い出す程に、敗北感が込み上げてくるのだった。

 

(ラグナさんのバカ!! 本当に立てなくなるまで抱き潰す人が居ますか!!)

 

「……オメーら」

「おん? どうしたマタビ」

「……イヤ、何でもねーのニャ」

 

 すん、と鼻をひくつかせたマタビはドン引きした顔でラグナの顔を見上げた。

 完全に「察した」のである。

 

(鼻の良いマタビさんには絶対勘付かれてるし)

 

「ええ~? ハンターが筋肉痛ゥー? ふぅーん?」

 

(これ、バジルさんにも勘付かれてるじゃないですか!!)

 

「ともあれッ!! クエストは完了デスね!! お疲れ様デシター!!」

「何がお疲れ様だコラ、あんなん古龍クラスの災害じゃねえか、報酬弾んで貰うからなマジで」

「ア、アハハハハー、まさかあそこまでとはワタシも思わなかったんデスよ……とりあえず、良いご飯でも奢るので……ネ?」

 

 ただでさえ古龍級生物に匹敵すると言われているアルシュベルドの、更なる特異個体。

 それゆえ、あそこまで強くなったのだろう──とラグナは考えるが、それにしても普通の報酬では満足できない。

 

「ってわけで、バジルが奢ってくれるみてーだし」

「え”」

「全員でパーッと飯でも食いに行くか!!」

「おーっ!! だニャ!!」

「……まあ、奢りなら良いでしょう。遠慮なく」

「アハハハハ……さらば、ワタシの財布」」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 その後。バラージュに戻り、商工会に出向いたラグナは──ディシプリンに連れられ、地下の大空洞に赴いていた。

 そこには相変わらず、エスピナスが寝息をたてながら鼻提灯を膨らませている。

 いつ見ても──凄まじい迫力だ。

 

「マガイマガドに加えてアルシュベルドの討伐、ご苦労だったな。両者共にエスピナスに匹敵する脅威だと聞く」

「しかもアルシュベルドは特殊個体だった。バラージュ近辺の大型モンスターに、何か異変が起きている。まるで何かに備えているようだ。今回のアルシュベルドは、それが裏目に出てしまったんだろうな」

「ともあれ、後はもう飛竜祭まで休め。オマエ達には散々世話になっているからな」

 

 そう言って、軍手をはめたディシプリンは、餌のドクガスガエルを両手で掴んでエスピナスの前に出た。

 

「ピーちゃん。ピーちゃん?」

「ぴぎゃ」

「俺が呼ぶとちょっとだけ目ェ覚ますんだよ。可愛いだろ?」

「……大丈夫なのかよ、本当に」

 

 鼻提灯が割れて、エスピナスが少しだけ口を開けた。

 そこにドクガスガエルを放り込むと、ばくんと一飲みにしてしまうのだった。

 今日の餌やりは終わり。エスピナスは普段エネルギーを殆ど使わないので、一日一食でも事足りるのだという。

 ディシプリンはエスピナスを愛おしそうに見つめると──再びラグナに向き直った。

 

「お前らは……切り札(ワイルドカード)だ。バラージュに降りかかる災厄を落とす……切札になれ」

「……買い被り過ぎだぜ」

「謙遜し過ぎだ。頼むぞ──”飛竜落としのラグナ”」

 

 激励の意味を込めてディシプリンはラグナの肩に手を置いた。

 ジュゥ、と音を立てて──ラグナの服に穴が開く。

 軍手に付着していたドクガスガエルの毒液で、布生地に穴が開いてしまったのだ。

 

「あっ、やべ、ドクガスガエルの粘液付いた」

「おい何してくれてんだあんたァッ!? 今から飯屋行くんだぞこれでぇ!? わざわざ店に合う雰囲気のヤツ新調したんだぞ俺ァ!!」

「ちょっと待ってろ、良い服あっから!!」

 

 台無しである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──そうして、その日はバジルの奢りで腹いっぱいの高級料理を喰らったラグナ達。

 バジルが死んだような顔をしていたが、気にしない事にする。

 そうして、いつもの宿屋に戻ったラグナは──ベッドの上で寝転がった。

 その隣に──マタビが寝そべる。

 

「ラグナ」

「……んだよ」

 

 食べた後で眠そうにラグナは欠伸する。そんなのお構いなしにマタビは──ラグナの頬に顔を擦りつけた。

 

「……ありがとニャ。俺様の故郷を、子分共を救ってくれて」

「……ヘッ、こっちだって礼を言いたいくらいだ。カッコ良かったぜ、マタビ」

「ニャ……」

「オメーさ、すげーよ。ああやって、沢山の子分共から好かれてる。俺には──出来なかった事だ」

「ラグナだって、沢山尊敬されてるのニャ」

「俺は──黒い飛竜の事で、大嘘吐き呼ばわりされてたんだ」

 

 マタビは目を伏せる。

 黒い飛竜の事は──彼女にとっても他人事ではない。

 故郷を焼き払い、メラルーたちを散り散りにさせた元凶だ。

 

「……人から信じてもらえねーのは……悲しいのニャ。それで、余計に心がすさんで……」

「悪循環だな」

「……でも。俺様達、同じ相手を追う同士だニャ!!」

「追う? オマエがか?」

「そうだニャ!! 俺様、今回の件でラグナに助けられっぱなしはイヤだって思ったニャ!! 俺様も、すごいオトモになって、いつかは……黒い飛竜を一発ブン殴ってやりてーのニャ!!」

「できるよ、オマエなら」

 

 ラグナは──忖度無しにそう言った。

 

「……大事なのは勇気だ。オメーは……一歩踏み出す勇気を持ってる。だから……きっと、いつかは出来る」

「ニャ……にゃーっ!」

 

 顔が熱くなるような感覚を覚えたマタビ──照れ隠しするように枕に頭を埋めた。

 そして、話題を変えてしまう。このまま褒められ続けると頭が爆発してしまいそうだった。

 

「……ホントにラグナは……女好きなところさえ無ければ、良いヤツなのにニャ」

「その良いヤツから財布をスッてギャンブルで全額溶かしたヤツが居るそうじゃねえか」

「い、いつかは返すのニャ……」

「オメー、ギャンブルで増やそうとか思うなよ、絶対無理だからな」

 

 マタビは目を逸らした。

 早速酒場でラグナとアジサイの我慢勝負を使って賭けの胴元をやっていたのは絶対にバレてはならない、と思った。

 もしバレたが最期、次こそ大樽爆弾に詰め込まれて囮にされることが目に見えていた。

 

「……それよりラグナ、結局我慢比べ勝負は……」

「あん? 俺が負けた」

「やっぱり俺様達が心配してる間に、たっぷりしけこんでたのニャ!!」

「羨ましいか?」

「ンな訳ねーのニャ!!」

 

 思わず叫ぶ。何となく蚊帳の外にされているような気がしたが、それでも「羨ましくない」と断じた。

 

「……おん? ところでアジサイの奴はどうした?」

「今回の件でギルドの人から色々報酬品があるみたいで、聞くなりすっ飛んで行ったのニャ」

「は? 聞いてねーぞ、受取なら俺がやるのに──」

 

 ラグナが怪訝に「報酬品」の中身を考えた時、彼は一つの可能性に行き着く。

 

「しまった、まさかあの馬鹿──」

 

 

 

「みにゃさぁぁぁ~~~ん、元気にやってましゅかぁぁぁー?」

 

 

 

 バタン、と部屋の戸が開き、明らかに様子のおかしいアジサイが飛び込んできた。

 それでラグナとマタビは──全てを察する。

 アジサイの手には、既に空っぽになった酒瓶が握られていた。

 それも年代物のワインだ。

 

「ヒュッ……」

「ヒュッ……」

 

 蒼褪めるラグナとマタビの脳裏に過るは、恐怖の光景。

 アジサイの顔は既に真っ赤に熟れあがっており、呂律が回っていない。

 酔ったアジサイという最大の特級呪物が止める余地もなく完成してしまっている事実は、彼らに絶望を与えた。

 オマケに此処は部屋の中、逃げ場など無い。更に、アジサイのカバンにはまだ封を開けていないワインが入っているのだ。

 

「ありぇー、盛り上がってにゃーですぇー、ヒック……そんなに、ボクのおしゃけが飲めないんれすかぁ~~~?」

「ヤベーのニャ、ラグナ、こいつ完全に出来上がってるのニャ」

「報酬品に高い酒があるから飛びついていったんだな!! クソァ!!」

「ヒック……またびしゃぁんは、かわいいれしゅねぇー」

 

 酔っているとは思えない動きでアジサイはマタビと距離を詰める。

 そしてベッドの上でマタビを膝の上に仰向けに寝かせる。

 

「ニャッ!? ニャにするつもりだニャ……アジサイ!?」

「えへへへへへ、トントントントントントントン」

「ふにゃああああああ♡」

 

 あろうことかアジサイはマタビの尻尾の付け根を凄まじい勢いでトントンと指で軽く叩き始めたのである。

 尻尾の付けねはネコ型獣人最大の性感帯であり、発情スイッチだ。

 マタビの声から正気が消え失せていき、尻が勝手に持ち上がっていく。

 

「えへへへへへぇ、きもちいれすかぁ、またびしゃぁん」

「にゃ、にゃぁ、にゃ、フーッ!! フーッ!!」

 

 むくり、と起き上がったマタビは──湿っぽい目でラグナを見る。

 彼女は既に獲物を狩る獰猛な肉食獣の瞳をしていた。

 

「おいちょっと待てマタビ。良い子だから。落ち着こうな?」

「フーッ!! アジサイだけ、ズルいのニャ、マタビも、マタビも……ラグニャと子供を作るのニャ……!!」

「出来る訳ねーだろ、落ち着けェ!!」

「えへへぇ、らぐにゃさん……♡ ボクのお酒が飲めないんですか?」

 

 凄まじい勢いでラグナの口に酒瓶が突っ込まれた。

 終わりの──始まりだった。

 

 

 

(やっぱアジサイは、一生禁酒させた方が良いかもしれねー☆)

 

 

 

 意識が遠のく。

 メス二匹が馬乗りになって襲い掛かってくる。

 ラグナは己の無力さを今日一番呪うのだった。

 この面子で──飛竜祭に挑むのを、激しく不安に思う。

 

 

 

(クソッ、この……野蛮人(ワイルズ)共がーッッッ!!)

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「カーッ!! カーッ!!」

 

 

 

 烏の鳴き声が窓の外から聞こえてくる。

 宿の窓を開けて──寝間着姿のバジルはそれを招き入れた。

 何処かアンニュイな表情で、彼女は髪を掻き揚げる。

 

「……伝令デスね」

「カーッ!! カーッ!! ”……定期報告だ。バジル君。こちらの調査は順調に進んでいる”」

 

 鳴いていたカラスの声色は、突如壮年の男性の声に変わる。

 環境生物──ベラベラガラスは人の発声を聞いて、その声色や言葉を真似する習性を持つ。訓練した特定の相手としか喋らないため、機密が漏れないとされている。

 

「──”……それでは今日の報告を頼む”」

「……Yes。ミスター・()()()()()。それでは報告を開始シマス──」

 

 バジルは──淡々と此処まで起きた事をカラスに話していく。

 その名も、編纂者としての肩書も仮初偽り。

 裏に隠された使命こそが──彼女の生きる道。

 

(全く。得意の弓を使えないというのは……不便デスネ)

 

 その真の肩書は──ギルドナイト。

 表では治安維持や密猟者の取り締まりを行うギルド内部の粛清者。

 そして裏では、密偵として汚れ仕事も請け負う。

 一通り、報告をし終えたバジルは──改めて決意を表明するように言った。

 

「……以上が、現時点での報告デス。()()()()は──必ずワタシが破壊しマス、ミスター・ファビウス」

 

 

 

【”ギルドナイト”コードネーム:バジル】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 ディシプリンは──エスピナスが眠る地下室の扉を開ける。

 硬く鍵が閉ざされ、彼にしか入れない場所だ。

 その先には長い長い回廊がある。それを抜けた先に──大きく広がるは、あまりにも広大な地下世界。

 青白く光る鉱石によって照らされ、太陽の光が無くとも明るい。

 それを眺め──彼は無機質に呟いた。

 

「ラグナもアジサイも……使えるハンターってのは便利だ。しっかり重用しねえとなァ」

 

 フッと笑みを浮かべ──ディシプリンは、見渡す限りの地下世界に投げかける。

 

 

 

「そんで……一体、何処にあるんかねェ……()()()()

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──飛竜の群れが迫りくる。

 

 ──ハンターたちよ、町を守る鋼の雨(バラージュ)となれ。

 

 ──屍乗り越え、それでも尚──暴走せよ。

 

 ──この物語の真なる名は──

 

 

 

【モンスターハンターSTAMPEED】

 

 

 

 チャプター1「飛竜の集う街・前編」──(完)

 

 セーブしますか?

 

 ▶はい

 

 いいえ

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……あのさぁ、言いてえ事は色々あるんだけどよ」

「はい」

「ニャ……」

 

 後悔しても後の祭り。

 乱痴気騒ぎの後が辺りに散らばっている。

 この場で切腹しても良いと言っても過言ではないレベルの恥ずかしいセリフをたっぷり言った自覚のあるマタビ。

 そして、全ての元凶たるアジサイ。

 何より──二人に一晩かけてたっぷり搾り取られた後で、反撃と言わんばかりにお仕置きしてやったラグナ。 

 しかしラグナの目は死んでいた。幾ら百戦錬磨の彼と言えど、残弾には限りというものがあるのである。

 

「……オメー、やっぱ酒禁止な、アジサイ」

「殺生な……ッ!? いや、聞いてくださいよ。これ、本当に年代物のワインなんですよ、飲まなきゃワインに失礼ですッ!!」

「ワインはラッパ飲みするモンじゃねーんだよ!!」

「……らぐにゃ」

「ンだよマタビ」

 

 枕に顔を埋めたマタビが死にそうな声で言った。

 

「……昨晩俺様、なんて言ったニャ」

「えーと、”俺の子供が欲しい”だの”好き好き大好き”だの”責任取って結婚しろ”だの」

「今すぐ此処で殺せニャーッッッ!! そんな事は言ってねーのニャ、オメーを殺して俺様も此処で死ぬのニャ!!」

「後オマエ、素の一人称”マタビ”なんだな、そっちのが可愛いのに」

「ブチ殺してやるのニャ、今此処でーッ!!」

「ほうーれ、トントントントントン」

「うにゃああああああ♡」

 

 仰向けになっていたのがいけなかった。

 希死念慮に駆られているマタビの尻尾の付け根をトントンしてやると、またしても彼女は狂い悶え始める。

 

「ざっけんニャ、らぐにゃテメーッッッ!! フーッ!! フーッ!!」

「さあてと、取り合えず朝飯食いに行こうぜ朝飯」

「そうですね。お腹が空きました……」

「あ? 待てよ、もう昼じゃねーか!!」

「ちょ、ちょっと待つニャ、まさかこのまま放置とか言うんじゃねーかニャ!?」

 

 ばたむ。

 部屋の扉が閉じられる。

 マタビは──激怒した。必ずやこの邪知暴虐なチンカスを排除せねばならぬと決意した。

 

「ぜってー、いつか痛い目見せてやるのニャ、ラグナコノヤローッッッ!!」

 

 マタビの絶叫が遠のく中、ラグナは全くの素知らぬ顔。

 

「財布パクった分はこれでチャラにしてやるよ、チャラ」

「ついでにボクの昨晩の失態もチャラになりませんか?」

「なるわけねーだろ、反省しろテメーは」

 

 ──第一章、今度こそ完。

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