ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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チャプター2「飛竜の集う街・後編─目覚めし巨龍と鋼の雨」
第十九話:無茶しやがって……


 ──城塞都市バラージュ。

 またの名を歓楽都市バラージュ。陸路、水路の中継地点となる交通の要所。

 それ故にギャンブルや風俗と言った娯楽文化が発展、町もそれを奨励してきた。

 しかし──数十年程前から、群生種イャンクックを始めとする飛竜(イャンクックは鳥竜種だが)が町に大挙して雪崩れ込む”飛竜祭”が周期的に発生するようになった。

 それゆえ、バラージュは同じくモンスターの大群が周期的に襲い掛かる「カムラの里」から得たノウハウを生かし──飛竜の群れからの防衛システムを構築。

 

 そして、娯楽へのモチベーションがやたらめったらと高いこの街の人々は、飛竜からの防衛戦すら娯楽に変えた。

 

 

 

「さぁー、よってらっしゃい見てらっしゃい!! 本日から飛竜祭のベッティングカードを発売だ!!」

 

 

 

 それこそが──飛竜祭。町全部を巻き込んだ、一大エンターテインメント。

 町の有力者たる四つの組織。彼らの抱えるハンターチームのうち、果たして何処が一番飛竜の群れを狩る事が出来るのかを競う。

 そして、民衆は四つの組織のうち、何処が優勝するのか、そして順位がどうなるのかを予想するかを賭けるギャンブルに興じるのだ。

 

「オッズ一位は?」

「やっぱり、貴族会だろう。全体的にレベルが高い上に新たに上位ハンターを二人雇ったらしい」

「俺は商工会だね。やっぱり”飛竜落とし”のラグナが居るのがデカい。俺の親戚が昔、あの人に世話になったんだ」

「”鬼姫”ちゃんも可愛いくて強いらしぞ」

「だけど、残念だがそこ止まりだな。幾ら強いハンターが居るって言っても、一人が一日に狩れる数はたかが知れてる」

 

 飛竜祭に伴い、町の活気は更に増していき、ハンターをサポートする為に各飲食店や加工屋、娯楽店は更に活性し、町には屋台すら並んでいる。

 ハンターが前線で戦うならば、街民は後方から町を盛り上げてハンターを支援しようという考えだ。

 

「んまあ、暗い気持ちになるよりかはマシなんだけどな。ちーと、浮かれすぎじゃねえかあ?」

「ええ。本当にお祭り騒ぎと言ったところでしょうか」

「ところでマタビは」

「あっちでポーカーに興じてましたよ、ラグナさんの金で」

「あの野郎ッッッ」

 

 そんなラグナ達は前線で戦うハンターだ。

 故に、今日から始まる飛竜祭の開会式に招待されている。

 周囲には同じく鎧や武器を背負ったハンターたちが集っており、ぎゅうぎゅう詰めである。

 目の前の巨大ステージには、我らが商工会トップ・ディシプリンに加え、教会トップのローズマリー、そして貴族会のお偉いさんや学術会の会長と言った面々が並ぶ。

 中央に立って開会式の挨拶をするのは主催の市長だ。

 

「こうしてみると貫禄あるなあ、ディシプリンのオッサン」

「前が見えねェのニャ」

 

 人の金で勝手にポーカーに興じた駄猫の顔面はへしゃげていたので、ディシプリンの晴れ舞台を拝むことは出来そうにない。無念。

 

 

 

「さあ、役者は揃いました。ハンターの諸君は奮って、バラージュに迫る飛竜の群れを打ち落としてもらいたいッ!!」

 

 

 

 市長の演説で歓声が上がる。

 遂に始まろうとしていた。飛竜祭が──

 

 

 

「ハンターたちよ!! 飛竜を落とす鋼の雨(バラージュ)となれ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「そんじゃあ、これより商工会組──”第三班”の作戦を説明しマスねー」

 

 

 

 商工会組に所属するハンターはオトモを含めて30人程。

 いずれも、飛竜の討伐経験がある選りすぐりの精鋭たちだ。

 そして、その中で3~4人程度のパーティを組んで防衛に当たる事になる。

 そのパーティのいずれにも、サポーター兼監督役としての編纂者が担当に付く。

 ラグナ達に割り当てられたのは”第三班”。担当者は──マガイマガドの時から引き続き、バジルだ。

 

「バジルさんに来ていただけるとありがたい限りです」

「俺達としても慣れているヤツが来てくれると、やりやすい」

「同感だニャ」

 

 ラグナとしても、見知った顔が担当になるのは安心感がある。

 キケンな場所でも記録を続ける仕事人魂は見届けているので、信頼しているのだ。

 褒められて少し照れた様子のバジルだったが、咳払いすると事務的な説明に戻る。

 

「今回、商工会組が防衛するのは北側。町の周囲には幾つもの防衛砦が仕掛けられてるデスが、そこに接近してくる飛竜をバリスタや閃光弾で打ち落とすのは町の保有する防衛隊の役目デス」

 

 バリスタなどの兵器は練度を問わずとにかく人数が必要になる。町の保有する私設部隊が動員されているのだ。

 

「となるとハンターの役割は遊撃か」

「Yes! ハンター隊は、普段はバリスタや破竜砲で飛竜を攻撃。巨大モンスターが攻めてきた場合、状況に応じて持ち場を離れて撃退することになりマス」

「任せておいてください、ここらでお遊びはいい加減にしろってとこを見せてやりましょう

「まだ何も始まってねーのに、やたら張り切ってんなコイツ」

 

 そんなラグナ達が今まさに居るのが防衛砦・外層。

 渓谷を塞ぐようにして作られたこの場所は、文字通りの最前線防衛ラインだ。

 多数のバリスタが設置されており、既に防衛準備はこの数か月の間に完了している。

 

「と言う訳で、此処は防衛の最前線!! もうじきにイャンクックの群れが攻めてくるはずデス!! 張り切っていきマショー!!」

「この防衛設備は誰が準備したんだ?」

「そりゃあもう、ワタシの監督の下、デス! 編纂者たるこのワタシが、対飛竜防衛の観点から色々口出しをして資金繰りから何から何まで準備したのデス! そう簡単に破られるはずがないのデスよ!」

「ご苦労様としか言いようがないですね」

「これでもワタシ、働いてマスので!」

 

 そう言うバジルの目にはくっきりと隈が出来ていた。

 ラグナ達は同情する。編纂者の仕事とはかくも大変なモノなのか、と。

 

「数か月かけた砦は完璧デス!! この防衛設備が破られたら──木の下に埋めて貰っても構わないデスよ!!」

 

 ──と、バジルが自らの胸を叩く。

 そこまでは良かったのだが──そこで彼女は、ラグナがいつのまにか目の前から居なくなっていることに気付いた。

 

「……あれ? ところでラグナは何処に行ったデス?」

「確かに。ついさっきまでいたはずなのにニャ」

「……まさか」

 

 アジサイが振り向く。

 

「ああ、そこのお姉さん? 今ちょっと良いかな──」

 

 あろうことかラグナは、そこを通りがかったナルガクルガ装備のお姉さんに声をかけていたのである。

 バジルの額に青筋が浮かんだ。アジサイもポキポキと拳骨を鳴らす。

 

「やっちまってくだサーイッ!! アジサイ!! 人が一生懸命喋ってる時にナンパするヤツに容赦は要りまセーン!!」

「言われなくてもですッ!!」

「あいつホント、ロクでもねーヤツだニャ!! 痛い目見せてやるのニャ!!」

 

 すぐさまアジサイはラグナに飛び蹴りをブチかます。

 

「ごぁあ!? な、何で──」

 

 脇腹に飛び蹴りを受けたラグナは悶絶し、そのまま倒れ込み──動かなくなった。

 

「ったく、とんでもない人ですね! 見損ないました! 人が今から命懸けで防衛しようって時に……どこまで性欲本位で動いたら気が済むんですか!?」

「あ、あの、ちょっと良いですか?」

「大丈夫でしたか! このスケベ野郎に何処か触られたりしませんでしたか!? ホテルに誘われたりしませんでしたか!?」

「ち、違うんです……」

 

 ナルガクルガ装備の女ハンターは、ラグナの手からチャームを拾い上げる。

 武器に付けてオシャレをする装飾品のようなものなのだが、狩猟にも有効な効果を発揮するシロモノなのだ。

 

「えっと、私、これをさっき落としちゃって……この人に拾ってもらったんですけど……」

「……」

「……」

「……」

 

 アジサイは──ラグナに視線を向ける。

 

「えっと……ごめんなさい、ラグナさん……」

「多分聞こえてねーのニャ……」

「これってもしかして、ワタシの責任になっちゃうんデスかね……?」

 

 ナルガクルガ装備の女ハンターが何処かに行った後も、ラグナは悶絶して動かない。クリーンヒットである。

 取り合えず回復薬を飲ませよう、とアジサイが道具箱に向かおうとしたその時だった。

 

 

 

「ア”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

 今度は遠くから──サイレンのような音が鳴り響く。

 思わずアジサイもマタビも上空を見上げた。

 とてもではないがバリスタも閃光弾も届かないような高度を──巨大な影が横切ったのである。

 直後、アジサイの目の前に何かが降ってきた。それを思わずアジサイは両の手で受け止める。

 

「え? 何ですかコレ、ウンコ──」

 

 アジサイが困惑した次の瞬間、それは──ジューと焼けるような音と共に煙を放ち──爆ぜたのである。

 

「アジサイーッッッ!?」

「アジサイサァァァァン!?」

 

 爆発の後には、クレーターが開いていた。

 そこには装備が黒焦げになったまま横たわったアジサイの姿があった。

 

「ア、アジサイ!! アジサーイ!! ヤベーのニャ、起きねーのニャ!! 秒でバチが当たったのニャ!!」

 

 そして、事はこれだけでは終わらず、あちこちでも同様の爆発音が響き渡る。

 当然、バリスタや砲台は爆発に巻き込まれて次々に破壊されていく。

 

「嫌ーッッッ!! ワ、ワタシの防衛設備が!! ワタシの数か月間の努力がーッッッ!!」

「気を確かに持つニャ、バジル!!」

「ア、アハハハハハ、星が綺麗デス……彗星カナ? イヤ、違う、違うな。彗星はもっとバーって動きマスからネ、アハハハハ」

「バジルーッッッ!?」

「報告!! 報告!! イャンクックの群れが大きく散開!! 大型飛竜がこの砦に飛来している模様!!」

 

 ギルド職員が駆けずり回る。

 そうしている間に、大型飛竜とやらは大きく旋回したかと思えば一気に防衛砦の中に降り立ち、不気味な咆哮を轟かせる。

 マタビは思わず城壁の上からそれを見下ろした。

 大きく膨れ上がった首、そして全身にびっしりと生えた赤黒い鱗。吼えただけで鱗は辺りに散らばり、更に爆発していく。

 

「とんでもねーヤツが来ちまったのニャ!?」

「Yes!! イビルジョーやラージャンに並ぶ、古龍級生物!! 生態系の破壊者デース!!」

「バジル、何なのニャ、あいつ!!」

 

 まさに、生ける爆撃気球という言葉が相応しい。そして、飛竜種であるが故に環境を選ばずに何処にでも現れる。

 ふりまかれるは爆発する鱗「爆鱗」。まともに受ければアジサイのように一撃でノックアウトされかねない程の威力の爆発を引き起こす。

 そんな爆鱗をばら撒く災禍の名は──

 

「あいつは──バゼルギウス! 初手から一番来てほしくないのが来ちまったデスよ……!!」

 

 

 

「ア”オ”オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

 

     【飛竜種”爆鱗竜”バゼルギウス】

 

 

 

「こ、こうなったらラグナとアジサイに頑張って貰うしかないデス!! ギルドの要請により、バゼルギウスの狩猟を開始するデス!!」

 

 このままではバゼルギウスの鱗で防衛設備が破壊されるのは時間の問題であった。

 しかし、ラグナもアジサイも返事が無い。片やドロップキックで、片やバゼルギウスの鱗で倒れてしまっている。

 バジルの顔から血の気が引いた。

 

「ぎにゃーッッッ!! 狩猟前から、主力ハンター二人が乙ってるデースッ!!」

「終わってやがんのニャ……」

 

 

 

【ラグナ、アジサイ、戦闘不能:現在2乙】

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