バゼルギウスは早速巨大な胴を振り上げ、爆鱗を振りまきながら地面に叩き落とす。
しかし、既にその攻撃は見切ったと言わんばかりにラグナとアジサイは散開。
そして今度はバゼルギウスの脚部に刃を加える。アジサイは脚に張り付きながら刃を振り回し、ラグナは抜刀攻撃を加えながら即離脱して尻尾を斬っていく。
「改めてバゼルギウスの資料を確認したが、コイツは全身性感帯も同然だ!! 飛竜の攻撃のセオリーで頭部に攻撃しなきゃいけねえって先入観があったから俺達ゃ苦戦してたが……」
「鈍重なバゼルギウスでは足元に張り付いた敵に攻撃することが出来ません!!」
爆鱗が爆ぜる音が聞こえてくる。
しかし、その爆風は他でもないバゼルギウスの大きく膨れ上がった胴によって阻まれてしまっているのだ。
先程までのバゼルギウスの爆鱗の落ちる位置、そして行動を見たラグナ達の結論。
それが──バゼルギウスの死角である足元を中心にして立ち回る事であった。
「通常、ワイバーンの足肉質は硬い!! 剣で攻撃してたらすぐ刃こぼれしちまう!!」
「ですがバゼルギウス相手ならば、どうでしょうかッ!!」
そして、その巨体に対してあまりにも後ろ脚は貧弱だ。
ラグナ達の攻撃によってバランスを崩したバゼルギウスは情けない悲鳴を上げながら転げて倒れてしまうのだった。
「ンヒィィィーッ、ンヒィィィーッ」
「チャンスだッ!!」
「はいっ!!」
ラグナとアジサイは──既に、互いの考えていることが理解出来ていた。
先ず、此処まで苦戦していた理由は熟練ハンターである二人の中に刷り込まれた無意識な立ち回りの固定化だ。
「さっきまでとは、二人の動きが違うデス──!! バゼルギウスの死角をもう見切ったのデスか!?」
「すげぇな、あの人ら……やっぱ並大抵のハンターじゃねえぜ!!」
「これが”飛竜落とし”と”鬼姫”の狩りか! ”飛竜落とし”もすげえが、それについていってる”鬼姫”も十二分に激ヤバだ!!」
「いや、むしろ翔蟲ありの機動に、何でラグナはついていけてるんだ!? あいつ、翔蟲も何も使ってねえだろ!? まるで──伝説の龍歴院のハンターみたいじゃないか!!」
飛竜種に限らず、ワイバーンには体つきによって行動の傾向がある程度決まっている。
例えば──イャンクックやリオレイアのように1対の大きな翼に1対の後ろ脚のみを持つタイプは、ブレスを躱す為に出来るだけ頭部を狙って立ち回る事が求められる。
ブレスは口から放たれ、直線上に飛んでいくため、頭部に張り付きながらブレスの死角となる場所に位置取るのが最適解なのだ。後は、種類に応じて相手の肉弾攻撃を躱す、飛行した場合の対処を行う、と様々に分岐していく。
バゼルギウスの場合は話が変わってくる。下手に頭部に張り付くと、膨れ上がった胴体から爆鱗がばら撒かれ、それに巻き込まれてしまう。
ブレスとは違い、爆鱗は無軌道に散乱するため、頭部を狙って張り付くと傍に落ちた爆鱗の爆発に巻き込まれかねない。また、バゼルギウス自身が体当たりや頭突きといった肉弾攻撃を多用するため、正面に立つことにリスクが発生するのだ。
その代わり──バゼルギウスは足元がお留守になりがちだ。そして、巨体故に足元に張り付かれやすい。そして、足を攻撃されると巨体を支えきれなくなり転倒してしまうのである。
(──エリアルスタイル、空中溜め斬り!!)
倒れ込んだバゼルギウスの頭部に、ラグナが空中溜め斬りを叩き込む。そして、そうして出来た傷口に──アジサイが翔蟲で自らの身体を引き寄せ、思いっきり回転斬を打ち込んだ。
ダウンした時こそ、まさに絶好のチャンス。尤も柔らかい頭部への攻撃が存分に通る。
「効いてます、ラグナさん!! 狙い通りです!!」
「ああ、攻撃力はとんでもねえが防御は手薄だ、これならいける──ッ!!」
「プ、プルルルルルルルル!!」
辛うじて起き上がったバゼルギウスは、再び爆鱗をばら撒きブレスで着火する。
しかし、それを読んでいたラグナ達はバゼルギウスが起き上がった時には既に大きく距離を取っていた。
もう足は攻撃させまいとばかりに飛んだバゼルギウスは、ふらふらと低空飛行しながら爆鱗を周囲にばら撒く。
「ヤツの真下に行くな!! 離れるんだ!!」
「はいッ!!」
しかし、既に爆鱗のからくりは解けた。
当然だがバゼルギウスから常に距離を取り続けていれば爆鱗に巻き込まれることはない。
そして、咆哮するバゼルギウスがラグナ目掛けて突っ込んでくるが──
「せぇいっ!!」
──その瞬間、ラグナは大きく跳躍。
そして地面に伏せる。間もなく、爆轟が巻き起こるが──伏せていたことで爆風を直に浴びずに済むのだった。
よたよた、と起き上がるバゼルギウスは爆炎の中に居るであろう標的を睨もうとするが──再び足に衝撃を受ける。
(ラグナさんを狙ったなら、こっちがお留守!! 鬼人化、ですッ!!)
目から赤い紫電を迸らせたアジサイが連続でバゼルギウスの足を攻撃し続ける。
堪らず飛び上がるバゼルギウスだったが、そうなれば爆鱗が体から落ちるのが分かっているアジサイは再び離れ、また難を逃れるのだった。
バゼルギウスが地上に居る時は足元を、そして飛んだら一気に離脱する。
これを徹底するだけで──二人の被弾率は大きく下がった。
それでも時折、爆ぜた爆鱗に巻き込まれたり、巨体に跳ね飛ばされることでダメージを受ける事もあったが──
「おらおらーっ!! 粉塵で回復だニャーッ!!」
それをマタビが粉塵でカバー。
二人の体力は尽きる事が無い。完璧な連携だ。
「破竜砲、撃てぇい!!」
そうこうしている間に、修復された破竜砲から砲弾が撃ち込まれる。
バゼルギウスの柔らかい胴体にそれは直撃。爆鱗が爆発し、炎が上がる。
よろめいたバゼルギウスは、胴体を上げ、大量の爆鱗をばら撒こうとするが──
「オラーだニャーッッッ!!」
──背後から忍び寄ったマタビがドスゲネポス銃剣をバゼルギウスの脳天に突き刺す。
神経毒が頭部から全身に回り──爆鱗竜の身体が大きく痙攣し始めた。
そのままラグナは落とし穴トラップをバゼルギウスの近くに埋め込んだ。装置が地面を穿孔し、ネットが展開される。
そしてアジサイはシビレ罠の地雷を更にその奥に貼った。
「……シメーだ!! フィニッシュムーブ!!」
麻痺したバゼルギウスに向かって叩き込まれる怒涛の攻撃。
大剣が空中からバゼルギウスを突き刺し、お留守の足元をアジサイが切り刻む。
そして麻痺毒から解放されて一歩踏み出したバゼルギウスの身体が、がくんと落ち込む。
落とし穴に嵌ったのだ。
「……勝負アリ、デスね」
上から眺めていたバジルが呟いた。
バゼルギウスは羽ばたいて落とし穴から抜け出したが、今度はよろめいた途端にシビレ罠に引っ掛かった。
動けなくなったバゼルギウスは立て続けにラグナとアジサイの攻撃に加え、破竜砲の砲火を受けており──力尽きるのは時間の問題であった。
「わりーな、同情はしてやるが──死んでくれ」
そしてフラフラになったバゼルギウスの頭部に──引導を渡すようにしてラグナが大剣を突き刺す。
爆鱗竜の頭蓋に罅が入り、同時に断末魔の咆哮を上げてバゼルギウスは巨体を揺らして倒れるのだった。
※※※
「──というわけで、第一ウェーブが終わった訳だが、定例の報告に入ろうか」
【商工会トップ:ディシプリン】
──飛竜祭が開催されてから四日程。各砦には絶え間なくイャンクックの群れ、時たまそれ以外の大型モンスターが襲来した。
飛竜の襲撃には波があり、インターバルを挟むのである。その間に、各陣営が討伐したモンスターの数をギルドが集計するのだ。
各陣営のトップたちは町の集会所に集まっており、此処までの経過を報告し合っていた。
集会所の円卓には商工会の頭であるディシプリンも座っており、いつものようにブスッとした様子で座っている。
「──商工会組の砦は開幕一日目に崩壊しかかったんけぇ? ったく運が悪い連中でよ。やっぱり普段から金金言ってるからバチが当たったんでよ」
そんな中、ゴリゴリに訛った口調でディシプリンを詰るのは鋼鉄の仮面を被った白衣姿の男だった。
「おめさん所がどんだけ金かけて新しい兵器作ったか知らねえけどな? あんなもん、壊れちまったら何の意味もないでよ」
「おい。前から気になってたが──こんな席でもオマエさんは仮面をつけないと気が済まんのか?」
「バカ言ったらいけねえでよ、これはな、昔フラヒヤ山脈で魔法使いたちに──」
「その話は前も聞いた、魔法使いという名のインチキ集団ということもな」
「とにかく──鉄より硬ェブリキで作ったんだからな、ブリキだぞオメェ、それを被ったらビッタだ」
【学会トップ:テッカメン教授】
「良いかぁ、ディシプリン。二つだ。二つ予告してやる。一つ、今年こそ俺達学会組がおみゃーさんたちの鼻を明かしてやる。二つ、閉会式の場でオマエさんは泣いて俺様に泣き縋る」
「所詮予告は予告、アテにならんよ、テッカメン」
「ハッ、スカした事を言ってるのも今のうちでよ」
「そこの二人。そろそろギルドからの一次発表だ。静かにしてくれたまえ」
上品な男の声が響き、二人の視線がそちらに向いた。
長い髪をたなびかせた美麗な顔の青年だ。彼は不敵に笑みを浮かべると、前髪を払う。
「この私の美しさが翳ってしまうじゃないか。紳士的に行こう」
【貴族会トップ:シャイン・マスカット氏】
言っていること自体は少しおかしいが、一見まともそうに見える。
しかし──問題点は、この男の格好の一点にあった。
ディシプリンは今更突っ込むのも野暮だとは思っていたが、それでも指摘せずには居られず──口を挟む。
「……なあ、ちょっと良いか」
「何だい? この私に何か落ち度でも?」
「随分な格好だが……一体どういうつもりなんだ」
「決まっているだろう。私の美しさをこの場に居る全員に誇示するためさ」
ディシプリンは丸眼鏡をかけ直す。
自分の目が腐っているのか、それとも世界がおかしいのか。
いずれにせよ、誰かが言わなければ始まらない気がした。
「だとしても──全裸で会議に出る必要は無くないか?」
シャイン・マスカットは──フルチンで円卓に座していた。
涼しい顔で彼は前髪を掻き揚げると「愚問だね」と言ってのける。
「この私の美しさを知らしめるのに、衣服など却って邪魔だ。違うかい?」
「すんませェェェん!! 公然わいせつの現行犯が此処に居まァァァす!!」
手を挙げるディシプリン。しかしシャインは気にも留めない。
「バラージュの郊外に先日建設した”黄金のマスカット像”を存じているだろうか? アレも何一つ衣服を纏っていない。つまりはそういうことだ」
「あの金の無駄遣いの極みみてーな巨大なわいせつ物か」
何と10メートルの高さを誇る純金製の像である。
「あれも私の美しさを外から来る人間、あるいはモンスターに知らしめるために建造したんだ」
「何で誰も止めなかったんだ!!」
「尤も、建設してすぐに飛来したモンスターに局部だけが破壊されてしまったのだが……」
「破壊されてよかったよ本当に、バラージュの名に泥どころか生ゴミぶっかけるところだったわ」
「兎にも角にも、今年は我々貴族会が優勝する。そして──私の美しさは永遠に語り継がれるだろう」
シャイン氏が陶酔に浸った時であった。
会議室の扉が開き、衛兵が二人立ち入ってくる。
「全裸で会議室に入って行った者がいると聞いたぞ!!」
「シャイン・マスカット!! オマエを公然わいせつで逮捕するッ!!」
「……フッ」
軽く微笑むシャイン。
彼は手錠を掛けられ、そのまま連行されていく。
「……今回は私の敗け、ということにしておいてやろう。だが次はこうはいかない」
「オメーは何しに来たんだァァァーッッッ!!」
ディシプリンの怒声も何処吹く風で、フルチンのままシャインは連行されていった。
こうして、貴族会のトップ抜きで報告会が進むことになってしまったのである。
「うふふ、相変わらずにぎやかな方達ですね♪」
【教会トップ:ローズマリー】
そんな様子を見て、教会トップのローズマリーは微笑んでいた。賑やかどころの話ではない気がしたディシプリンだが、話を本題に戻す。
「そんで、ギルドで集計されたポイントの発表だが──」
「はい。厳正な調査の結果、現在の各陣営のポイントの集計が完了しています。イャンクック1匹を1ポイントとし、それよりも討伐難度が高いモンスターは種類や個体の強さに応じてポイントが増えていきます」
トップたちは紙を受け取り、そして──目を丸くした。
商工会:25ポイント
学会:17ポイント
教会:13ポイント
貴族会:15ポイント
真っ先に立ち上がって反駁したのはテッカメンだった。
「ちょーっと待っとれ! 何で商工会の奴らがこんなに稼いでやがる! イャンクックを取り逃した数も多かったと聞いたでよ!」
「恐らく一日目に討伐されたバゼルギウスのポイントによるものでしょうね」
ギルド職員が冷静に言う。
「バゼルギウスは古龍級生物……一匹で15ポイント入ります。設備の損傷でイャンクックこそ取り逃した数が多い商工会でしたが、バゼルギウス討伐の功績は大きいかと」
「バーゼルギウスゥ!? そんなバケモンを狩れるハンターが今年の商工会には居るんけぇ!? まさかウワサの飛竜落としだな!!」
「そのまさかだ、テッカメン。オメーらはハンターの装備の研究だの飛竜の生態だの何だの調べていたみたいだが、肝心のハンター本人の情報不足だったようだな」
「ハッ、まだ飛竜祭は始まったばかりだぎゃ、今に見とれよ、巻き返してやるでよ」
悪態をつきながらテッカメンは会議室から出ていってしまう。そんな彼の後姿を見送り、ローズマリーは困惑した様子で言った。
「競争とか関係なく、バラージュの町を守れるのが一番ですのに」
「違いねえ」
と、口では言いつつもディシプリンは内心得意げなのだった。
(流石”飛竜落とし”! 俺達も出来るだけの支援でオマエ達を助けるぜ)