ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第二十四話:第二波

 砦内の防衛施設に駆け付けてみれば、バサバサと大きな羽根がはためく音、そしてハンターたちの悲鳴が響き渡る。 

 暗い施設内を篝火やランプが照らし出し、侵入者の影を暴いた。

 

 

 

「キュオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 

 

 砦に侵入したのは、巨大なフクロウのような鳥。

 藍色の羽根に道化師の帽子のように長く伸びた飾り羽が見える。

 その姿を見て思わずアジサイは叫んだ。

 

「デッカいフクズクです!?」

「ちげぇな……翼を見ろ。フクズクは羽根が羽毛に覆われてるが、あいつの翼は被膜で出来てやがる」

 

 バサッと鳥竜が翼を広げたのが見えた。

 イャンクック等と同様、大きく広げられた指の間に被膜が展開されており、更に指の爪はイャンクックなどのそれとは比べ物にならない程長く、鋭利に発達している。

 この翼の仕組みの違いから、フクズクと目の前の竜は全く違う生き物であると言える。

 

「ありゃあ、ホロロホルル……夜行性の鳥竜種だ!!」

 

 砦内の誘導区域に飛び降りたラグナ達。

 先んじて戦っていたハンターたちは膝を突き、地面に転がって呻いている。

 

「た、たすけ──う、ごけない……!! わぁぁ!?」

 

(やっべぇ、アイツ連れ去られる!!)

 

 そのハンターの1人をホロロホルルは両足で首を掴み、空中に連れ去る。

 だが、すぐさまラグナが閃光弾を打ち放ち、ホロロホルルは驚いて足を離した。

 そして、落下したハンターを──翔蟲で飛び上がったアジサイが抱きかかえて地面に下ろした。

 

「た、助かった……!! まだ、か、体がう、ごかなくって……!!」

 

 意識がもうろうとしているのか、ハンターは上手く言葉を出せないようだった。

 

「ヤツの鱗粉にやられたな。辺りが暗いから見えにくかったのか」

「此処はボク達に任せてください!!」

 

 折を見て、ネコタクがやってきて、斃れたハンターたちを救助して連れ出す。開かれた戦闘区域で、ラグナ達の狩猟が始まった。

 

「……砦に侵入した以上は狩らせて貰うぜ」

「待って下さい──何か、妙な音が──!!」

 

 アジサイは上空を見上げる。

 そこには、大きく翼を広げた藍色の影。そして赤い眼光。

 ラグナ達が散開すると同時に、地面に深々と爪を突き立てたのは──もう1匹のホロロホルルだった。

 

「2匹目!?」

「いや、2匹だけじゃねえ!!」

 

 砦の建造物の屋上。

 砲台の付近。次々に赤い眼光が現れ、此方を向く。

 

「ッ……まだ他にもモンスターが居やがる……!!」

「クェェエエエエエーッッッ!!」

 

 群生種のイャンクックが身を乗り出し、砦の壁から降りてくる。

 そんな中、何処からともなくギルド職員の声が響き渡った。

 

 

 

『通達!! 通達!! 第二波襲来!! 第二波襲来!!』

 

 

 

 

 早すぎる、とラグナの額に汗が伝う。

 話によれば第一ウェーブの後は3日以上のインターバルが開くのがこれまでの飛竜祭の常識だったからだ。

 しかし、あまりにも突発的に第二の襲来は始まった。砦の中に次々とモンスターが雪崩れ込む。

 それを撃退するべく砦の中に待機していた他のハンターたちも次々に馳せ参じていく。

 

「ッ……ラグナさん……!!」

「やるしかねえか──!!」

 

 ラグナが大剣を構えようとしたその時だった。

 

「ラグナッ!! 聞こえるデスか!?」

 

 城壁の上から声が聞こえてくる。

 柵から身を乗り出しているのは──バジルだ。

 ラグナが見上げると、彼女は切羽詰まった表情で叫ぶ。

 

「大変デス!! 急にモンスターたちが雪崩れ込んできて──大型飛竜も二匹、やってきたのデスよ!!」

「大型が!?」

 

 話が変わってくる、とラグナは勇んだ足をその場に踏み留めた。

 もしも大型までこの場に乱入されれば戦線は壊滅しかねない。

 

「幸い、第四戦闘区域に誘導して閉じ込めてるデスけど、このままじゃ壁が壊されるのも時間の──」

「──分かった、俺が行く!!」

 

 ラグナは──モンスターの群れをかき分けて、その場を離脱して砦の梯子を伝って這い上がる。

 隔離されているならば、その間に狩猟してしまった方が良いからだ。

 当然、アジサイも後に続こうとするが──振り返ったラグナがそれを制するようにして叫ぶ。

 

「オメーはそこで他のハンター共を援護!!」

「で、ですが、一人では無茶です!!」

「アホか!! この数じゃあ他のハンターには荷が重い!!」

 

 そう言ってラグナは一人、去ってしまうのだった。

 追いかけようとするアジサイだったが、そんな彼女の前に飛び降りるのは──全身を黒い羽毛に包んだ黒い飛竜。

 現れるなりそれはアジサイを闘うに足る相手だと認めたのか、咆哮を上げるなり襲い掛かってくるのだった。

 蹴りを双剣の一薙ぎではじき返すアジサイだったが、あまりの威力の重さにそれがただの中型モンスターではないことを察する。

 

「クェエエエエエーッッッ!!」

 

 その影は──イャンクックに酷似していた。

 しかし、狼ように鋭くとがった耳、そして全身を覆う黒い鱗。

 何よりあまりにも多すぎる体中の生傷。極めつけには、荒々しく獰猛な目付き。

 

「──イャンガルルガ……!!」

「クェエエエエエエーッッッ!!」

 

 

 

      【鳥竜種”黒狼鳥”イャンガルルガ】

 

 

 

 イャンクックに似てはいるが、闘争の為に動くもの全てに喧嘩を売る凶悪過ぎる気質の戦闘生物・それがイャンガルルガだ。

 その戦闘力は群生種共とは比較になろうはずもない。いずれにせよアジサイは、この場を離れる事が出来ない事を確信する。

 ラグナの判断は間違っていなかった。今自分が居なくなれば、イャンガルルガを抑えられるハンターが居らず、モンスターの群れを止められない。

 飛び掛かるなり激しく嘴で啄んでくるイャンガルルガ。それを鬼人化して無理矢理躱すアジサイだったが、背後から迫りくるホロロホルルが激しく羽ばたいて鱗粉をばら撒くのが見えて、翔蟲で空中に逃げる。

 

「ッ……数が多すぎる──!!」

 

 そんな弱音が思わず飛び出した。

 当然、空に逃げたアジサイを追撃するようにイャンガルルガは飛んでくるが──

 

「アジサイーッッッ!! 閃光だニャーッッッ!!」

 

 ──何処からともなくマタビの叫び声が聞こえてきて、アジサイは目を閉じる。

 次の瞬間、飛んできたイャンガルルガの目の前が大きく光り──驚いた黒狼鳥は地面へと落下していくのだった。

 目を瞑っても感じられる眩い光、これが閃光玉のものであることを察したアジサイは、落ちたイャンガルルガに乱舞を叩き込む。

 

「マタビさんッ!! ありがとうございますッ!!」

「こっちの相手は──任せるのニャ!!」

 

 アジサイの背後に立つのは、ドスゲネポス銃剣を携えたマタビだ。足は震えてはいたが──共に来てくれるならば此処まで頼もしい事もない。

 

「極力引き付けて合流しねえようにするのニャ!!」

「助かります!! 二匹いっぺんに相手するのはキツすぎるので……!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ッ……よりによってこいつらか……!!」

 

 

 

 隔離された第四戦闘区域に降り立ったラグナは歯噛みした。

 そこには、壁や設備を攻撃し続ける巨大な飛竜二匹。

 片方は虎の柄のような体色を持ち、大きな顎を持つ飛竜。

 片方は全身を黒い体毛に包み、ムチのようにしなる長い尾を持つ飛竜。

 飛竜種の中でも比較的原始的な身体の構造をしており、前脚と後ろ脚の両方を持つ機動力に長けたグループだ。

 

「ティガレックスに……ナルガクルガ……!!」

 

 

 

【飛竜種”轟竜”ティガレックス】

 

【飛竜種”迅竜”ナルガクルガ】

 

 

 

 

「ゴォオオオオオオオオオオオオアアアアアアーッッッ!!」

「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッ!!」

 

 

 

 城壁によじ登り、破竜砲を壊そうとするティガレックスとナルガクルガ。

 しかし、そこにラグナは──スリンガーの閃光弾をお見舞いする。

 二匹は強い光に目が眩み、地面にまとめて落ちるのだった。

 

「む、無茶だ!? 大丈夫なのか!?」

「ハンターが一人だけ!?」

 

 破竜砲やバリスタを構えていた衛兵たちから驚きの声が上がる。

 しかし──その不安を払拭するようにラグナは叫ぶ。

 

「──狼狽えんじゃねえ!! こいつらまとめてラグナ様の獲物だ!! 文句あっかコラ!!」

 

 漸く目が慣れてきたのか、ナルガクルガがラグナ目掛けて襲い掛かる。

 しかし、その攻撃をあろうことかナルガクルガの頭を踏み台にして飛び跳ねることで躱したラグナは、宙返りしたかと思えば、ナルガクルガの背中に大剣を突き立て、更に今度は背中を踏み台にしてティガレックスの脳天に大剣を叩き込む。

 

「……ゴォアアアアアアアアアアーッッッ!!」

 

 怒りによって全身を充血させ、力強く喉の底から咆哮するティガレックス。

 その勢いで地面が抉れ、土が吹き飛ぶ。バリスタを構えていた兵士たちは怯え竦み、動けなくなる。

 しかし、それをラグナは正面から大剣で受け止め、全く臆することなくティガレックスの頭部に再び大剣による一撃をお見舞いするのだった。

 

「ゴァァァ!? ゴオオオオオオーッッッ!!」

 

 大口を開けたティガレックスは宙に飛んだラグナを喰らうべく大口を開けて迫る。

 しかし、身をよじらせたラグナはそれをすんでの所で回避し、背中を滑って地面に降り立つ。

 そこにすかさずナルガクルガが突進してくるが、正面から飛んできた迅竜を大剣のガードで受け止める。

 

「──ッ……日和ってる、場合じゃねえか!!」

 

 ブツン、と身体の力を抑える何かが千切れた。

 これ以上は体に負荷がかかる、と無意識に彼がセーブをかけていた「タガ」が外れていく。ラグナは大剣を力任せに押し込み、ナルガクルガの身体を押し戻す。

 

「シャァッ!?」

 

 ナルガクルガは驚愕した。

 自分の体重を受け止めるどころか──押し返す程の膂力を目の前の生き物が見せたからだ。

 再びラグナを狙おうとするナルガクルガだったが──そこに破竜砲やバリスタの集中砲火が飛んでくる。

 

(……さあて、と。もう一匹も来るよなあ)

 

 そこに後隙を縫うようにしてティガレックスがラグナ目掛けて飛び掛かってくる。

 しかし、それすらも飛び上がったラグナは素早く大剣を振り上げ、ティガレックスの顔面目掛けて剣を斬り下ろす。

 全てが──狙い通り。

 

 

 

(エリアルスタイル改──相殺撃墜斬り!!)

 

 

 

 完璧なタイミングで鼻先に大剣が叩き込まれ、巨体が転げ落ち、ナルガクルガに叩きこまれる。

 

「……さぁてとよ、決めようじゃねえか。どっちが狩られる側だったかをよ」

 

 そうラグナが言った矢先だった。

 砦の向こうから──更にイャンクック達が這って侵入してくる。

 大きくため息を吐いたラグナは──大剣を構える。

 

 

 

「……良いぜ。死にてえヤツから掛かって来やがれ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ス、スゴいデス……!!」

 

 

 

 翌朝。

 バジルは驚嘆していた。

 第四戦闘区域に積み重なっていたのは無数の飛竜の屍。

 その上でラグナは──大剣をイャンクックの屍に突き立てていた。

 

「……これ全部、ラグナが倒したのデス!?」

「……アホ。破竜砲やバリスタのサポートが無いと、俺でも無理だったわ」

 

 最初に隔離していたティガレックスやナルガクルガは勿論、イャンクックの群れも全滅。

 それを一人でやってのけたラグナという男に改めてバジルは恐ろしさを感じる。

 だが、流石に死ぬ程疲れたのか──焦点の合っていない目でバジルを睨むと、ふらふらしながらラグナは大剣を背に納刀する。

 

「……おい。特別手当なり報酬なり出るんだろーなこれ。高くつくぞ」

「出るデスけど……よくもまあ、この数を……!!」

「それよか、向こうは大丈夫なんだろうな? 状況を聞かせろ」

「ハ、ハイッ」

 

 バジルは──まとめた狩猟記録を読み上げていく。

 

「第一戦闘区域に誘導した飛竜たちは無事、全員討伐したデス……!!」

「……そっちも大変だったみてーだな、俺ン所に援軍寄越す間も無かったみてーだが」

「そ、そうデスね……」

 

 援軍を送れなかったことに引け目を感じているバジルだったが、同時に──ラグナの狩猟に果たしてどれ程のハンターがついて行けただろうか、と考える。

 きっと、並大抵のハンターではラグナの動きには追いつけない。故に──ラグナは普段、自らの動きをセーブしているのではないかという疑念すら浮かんだ。

 ラグナ・オークロックは──大剣という自己完結した武器の都合、一人の時が最も最大限に彼自身の力を躊躇なく振るえるということだ。

 

「犠牲は」

「応急修理した兵装のいくつかがダメになっちゃったデスけど……犠牲者は、ゼロデス……!」

「……アジサイのヤツ、上手いことやってくれたか」

 

 眠気と疲労で意識をもうろうとさせながら、ラグナは体を引きずっていたが、とうとう自分の身体を支えることすら出来なくなり、倒れようとする。

 それを受け止めたのは──翔蟲で駆け付けたアジサイだった。

 

「うっ……アジ、サイ……」

「ラグナさん、大丈夫ですか!?」

 

 彼女は心配そうにラグナを抱きかかえる。

 そんなアジサイを落ち着かせるように、穏やかな声色でラグナは返した。

 

「……生きてはいるよ、生きては」

 

 アジサイは──山のように積まれた屍を見て息を飲む。

 これら全てをラグナが一人で引き受けたと思うと、改めて自分とのレベルの差を思い知らされるのだった。

 

(横に並んだ、なんて思っていたボクは恥ずかしい……!! 全然、それどころじゃない!! ラグナさんは普段──ボクに合わせてたのか!?)

 

 ごくり、とアジサイは息を吞む。

 ラグナが手を抜いていた、などとは言わない。しかし、パーティでの狩りは一人でチームワークが求められる。それゆえ、必然的にパーティの中で一番実力が低い者に合わせた狩りをしなければならないことはアジサイも知っていた。

 アルシュベルド狩猟の時ですら、ラグナは完全に本気を出していなかった。否、隣に居るアジサイに合わせる為に出せていなかったのではないか──と。

 

(な、なんて人だ……まだ底があっただなんて……!!)

 

「……カラダのリミッター、全部外れた……もう動けねーよ……」

「部屋で休みましょう、ラグナさん。マタビさん、ラグナさんの回復を」

「はいニャ!!」

 

 粉塵をばら撒くマタビ。

 ラグナの身体の傷が癒えていく。

 しかし、それでも肉体の疲労が取れるわけではない。

 ラグナは──アジサイに抱き着くと、そのまま押し倒してしまう。

 

「わ、わわ、ラグナさん!? ダメですよ、こんなところで──」

「すー……すー……」

 

 そして聞こえてくるのは静かな寝息。

 完全にラグナは気絶したように寝入ってしまっていた。

 

「……も、もう、寝ちゃっただけですか」

「おーい、こんなところで盛るんじゃねーのニャ」

「盛ってないですよ!!」

 

 ラグナを抱き起し、背負うアジサイ。彼女とてハンターだ。成人男性くらいならば余裕で支えられる。

 そして、揶揄ってくるマタビに赤面しながら叫ぶが──

 

「は? とんでもねえ服で乳繰りあってたヤツが何を言っても説得力ねーのニャ」

「……」

「アジサイが逆バニー服をノリノリで着てたって悪質なデマが流れてるんデスけどー?」

「……」

「どっちでもいいから、後はもう若い二人に任せるのニャ」

 

 ──アジサイの顔は真っ赤になっていく。

 そして──ラグナを背負ったまま崩れ落ちるのだった。

 

 

 

「もう、許してください……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……ふが?」

 

 ラグナは──息苦しさで目を覚ます。

 鼻の穴が両方共塞がっている。つまんでいるのは──アジサイだ。

 

「……起きましたか」

「んが、アジサイ……?」

 

 起き上がったラグナは寝ぼけ眼でアジサイの顔を見遣る。

 

「全く最悪です、案の定マタビさんとバジルさんにバレて──」

「あじさーい……」

「にゃあ!?」

 

 猫のような声をアジサイは上げてしまった。

 寝ぼけたラグナが抱きつき、そのままベッドに押し倒して来たのである。

 

「ちょっとラグナさん、起きてください!!」

「ねみーんだよ……」

「そうかもしれませんが!!」

「……アジサイがチューしてくれたらぁ、起きるかも」

「うッ……ま、まあ、昨日ラグナさんは凄く頑張っていたので」

 

 アジサイたちが連携して中型モンスターの群れを鎮めている中、一人で大型モンスターを引き受けていたラグナ。

 直接その雄姿を見る事が出来なかったアジサイではあったが、熾烈な戦いが繰り広げられていたことはモンスターの屍を見れば一目瞭然であった。

 

「……ラグナさん。やっぱりボクは、まだまだです。今のボクでは、ラグナさんの力を最大限に……」

「確かに、今のオメーじゃあ俺にはまだまだ及ばねえよ。オマエは俺よりもハンターとしての年季は短いからな」

 

 きゅっ、とアジサイは自らの口を結ぶ。

 

「……でもな、一人であんな死に物狂いで戦ったのはいつぶりかって話だ。すっげー……不安だったぜ」

 

 うんざりしたようにラグナが言った。

 

「……隣にオマエが居れば……絶対に、その方が楽だったよ。俺が崩れたらあの数のモンスターがなだれ込んでくるんだ、プレッシャーも半端ない。後ろに……隣にオマエが居てくれた方が絶対に良い」

「……ラグナ、さん」

「それに、オメーは俺が今まで組んだ中では……間違いなく五本指に入る。もっと信用しろよ、俺を……俺は”飛竜落とし”のラグナ様なんだぞ。その俺が、あのモンスターの群れをオマエに任せたんだ。そして隣にオマエが居てほしいって願ったんだぞ」

 

 アジサイは──心底疲れたようなラグナの顔を見て、それがお世辞でも何でもないことを察した。ラグナもまた、一人で戦うのは怖かったのだということ。それでも、恐怖を跳ねのけて、あえてアジサイにあの場を任せたということ。

 信用されているのだ、という実感が──アジサイの心を満たしていた。

 

「ふぁあ、ねみぃ、俺……やっぱ二度寝するわ」

「……本当に、この人は……」

 

 アジサイは自然と、目を閉じて半ば寝入りつつあるラグナの顔に口を近付けていた。

 

 

「……いいですよ。ラグナさんのお願いなら、ボク……」

 

 

 

「──おっと、エッチな展開には持ち込ませねーデスよ」

 

 驚いたアジサイは思わずラグナの顔面を鷲掴みにした。

 悲鳴を上げたラグナが今度こそ跳び起きる。

 

「何だァ!? 敵襲!?」

「バ、バジルさん!? いつの間に!?」

「何かあった時に備えて、部屋の合鍵を持っていたのデスよ。二人共、モンスターの群れへの対処、ご苦労様デス」

「ふがぁ……何だ? どうしたんだ? 俺、全然状況が理解出来てねーんだが……」

 

 今度こそ跳び起きたラグナは部屋を見回す。

 そして、キスする寸前だったアジサイは気恥ずかしさで慌てながらバジルに問うた。

 

「なにかあったのですか?」

「何かあったもクソもねーデスよ。事態は最悪デス。全ての答え合わせが出ちまったのデスよ」

「……答え合わせだァ? んまあ、ギルドの調査員は優秀だからな。んじゃあ聞かせろよ、答えって奴を」

 

 バジルは苛立ち混じりに資料を読み上げた。

 

「先ず、驚かないでくだサイね。ラグナとアジサイが寝てから──丸一日経ったのデス」

「ウソだろ!?」

「……ボクもさっき起きたんですが、そんなに経ってたんですか」

 

 ラグナは目を丸くした。とはいえ、そのことをバジルも咎めるつもりは無かった。二人が居なければ、間違いなくこの北の砦は落とされていたからである。

 

「実は一昨日の晩の襲撃は、この北の砦でのみ発生していたのデス。モンスターの群れは、バラージュの北部から雪崩れ込んでいたのデスよ」

「他の砦では異常が無かったのか」

「不審に思った駐留ギルド職員が調査したところ、先程とんでもねー報告が上がったデス」

 

 そう言って、バジルは手紙を読み上げ、そして辟易したように眉を顰める。

 

「皆気になってたと思うのデスよ。どうして飛竜祭の流れが乱れて、始まる前の時期からイャンクックが暴れていたのか。どうして大型モンスターの生息域が変わっていたのか。そして極めつけには、ウェーブを無視した一昨日の襲撃」

「……その理由が全部分かったってのか?」

 

 バジルは頷く。決定的な証拠が挙がった、とでも言わんばかりに。

 

「昨日の昼、バラージュの遥か北部にある”断崖の岩山”で局所的な地震が発生したのデス。翼竜で駆け付けてみたところ、山が急激に動き──崩れ出したらしいのデス」

「山が崩れた……!?」

 

 ラグナもアジサイも顔を見合わせる。

 地震だけで崩れる程、山というものはヤワではない。

 嫌な予感が彼の中に噴出していた。

 

「──そして、崩れた山から這い出てきたのは──赤い鱗を持つ巨大な()。まさに、老いた山と形容される巨大な龍デス」

 

 ラグナは──その文言に覚えがあった。

 そして疑問を挟む前に、バジルは答える。

 

 

 

「──()()()()()()()。古龍・ラオシャンロンが──バラージュに向かって進軍しているのデスよ!!」

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