「それでは作戦概要を説明するのデス!」
ギルド代表者としてバジルが円卓に立つ。
バラージュの街の大広場にはバラージュの有力者たちが揃って集められていた。
その中には勿論ディシプリン、そしてラグナを始めとした飛竜祭に参加するハンターたちの姿もあった。
彼らはいずれも、パーティのリーダーや中核を務める実力者ばかりだ。
「本作戦はバラージュ北部に現れ、今も南下している古龍・ラオシャンロンの討伐作戦となりマス!」
ハンターたちはどよめいた。
「どの道、撃退したところで何処かで被害を出し続ける。倒せるなら此処で倒してしまった方が良いだろう」
「今更帰れるか! 名が廃るぜ!」
口々に言うハンターたち。
相手は古龍。それも、常軌を逸した超大型古龍の一角、古きより生ける災害と恐れられてきた相手だ。
だがハンターたちとて、此処で逃げ帰るような小心者は居ない。彼らはいずれも、元居た地域で幾多もの大型モンスターを狩猟して名を上げてきた猛者なのだから。
「現在、ギルドの総力を結集して兵器を北部砦に集中させているデスが、他の砦も警戒は続けねばなりまセン! 古龍の出現は、他の飛竜たちを恐慌させるには十二分な理由デス! 従って、防衛隊総出でラオシャンロンを砦に誘導し、閉所で袋叩きにして仕留めマス!」
しかし、それでも古龍と出会った事すらないディシプリンからすれば恐怖以外の何物でもなかった。
ディシプリンは意気揚々と古龍相手に戦うと宣言してしまったことを若干後悔しつつもラグナに問うた。
「なあおい学術院の秀才よ、ラオシャンロンってのは……やっぱりヤバいのか?」
「ラオシャンロンがやべーんじゃねえ、古龍がやべーんだよ。他の大型モンスターとは生物としての格が違う」
「どう違うんだ」
「町に住んでる普通の人間が、武器も持たずにリオレウスに勝てるか?」
ディシプリンは沈黙する。
何故なら彼からすれば、バラージュに迫ってくる飛竜たちでも十二分に脅威に感じるからである。
「……それほどの差があるのか」
「勿論、例外はあるが──概ねそうだと思って良い。俺でも一人では歯が立たねえだろうな」
と涼しい顔で言ってのけるラグナの言葉には謙遜など何もない。
古龍相手には全く油断が出来ない、失敗するかもしれない、と示しているのである。
「ラオシャンロンは今までに確認された超大型古龍の中じゃあ、まだ大人しい方だろうな。ブレスを吐かねえし、何か超常的な能力があるわけでもない。デカいだけだ」
「ホッ……」
「だけど、ヤツは進行方向に何があるかを顧みねえ。その質力だけで、目の前の全てを蹂躙する、生ける災害だ」
「……やっぱりヤベーヤツじゃあないか!!」
「そのデカさから、自然界で天敵になる生き物は先ず居ないとされている。デカいから重いし硬いししぶとい、古龍だからなかなかくたばらねえ。そう言う生き物さ」
「……そんな奴を何とか出来る方法なんてあるのか!?」
ディシプリンが叫んだその時だった。
「ちょーっと待っとれ!! 皆静かにしよう! 俺様だ!」
いつの間にかバジルの説明は終わっており、壇上に乗り込んできたのはテッカメン博士であった。
「おー、皆見たところ揃っとるな、俺はテッカメン博士だよ」
「誰だあの人」
その珍妙な風貌にラグナは思わず指を差してしまった。
「学会のトップだ。見た目はトンチキだが腕だけは確かだぜ」
パチン、と指を鳴らすテッカメン博士。
すると──壇上に垂れ幕を被った何かが車輪の音を鳴らしながらやってくる。
「ラオシャンロンだかパオシャンロンだか知ったこっちゃないが、ここにどんな兵器があるかゆっくり見せたるよ。よぉー目擦ってな、耳穴かっぽじってよぉ見よ!」
垂れ幕が引っ張られて取られる。
そこには──砲塔を備えた戦車のような兵器があった。
キャタピラで動く履帯、そして細長い槍のようなものを射出する為に作られたであろう巨大な大筒。
「こいつぁ撃龍戦車だで。最新型撃龍槍を何本も搭載できる戦車でな。これならいつでもどこでもラオシャンロンに必殺の一撃をバッチリ当てられるでな」
「おお、すげぇ!! 最新型撃龍槍って言うと、アレか! 砲塔から飛んで行くタイプの!」
ラグナは感心したように手を叩いた。
これまでの常識では、撃龍槍とは定点設置するタイプの兵器であり、射出されて回転することで相手にダメージを与えるものであった。
しかし、この最新型撃龍槍はまるで投げ槍のように目標目掛けて飛んで行き、突き刺さったうえで爆発して相手に大ダメージを与えるシロモノなのである。
エルガドで”撃龍船”として実用化されていたものを、陸上兵器として転用したものが、この”撃龍戦車”なのだ。
「ほんだけど今日のところはよ、見本だで、サンプルだで、ガワだけにしとく。おい商会!! 俺達の方にも物資をバッチリ回せ! さもなくばバラージュはラオシャンロンにザブゥッと攫われるぞう!!」
「言われなくても分かってるさ。その代わりがっかりさせんなよ鉄仮面!」
啖呵を切るディシプリン。いずれにせよ、撃龍戦車や最新型撃龍槍の存在がこの作戦の要になることは間違いない。
「先ずは先行部隊がラオシャンロンを大渓谷に誘導! そして、谷の上や砦からハンターたちはラオシャンロンを攻撃するデス!! 最終目標は──討伐!!」
ハンターたちが沸き立つ。
最早一歩も引けない古龍との戦いが始まろうとしていた。
「ラグナ。俺はオマエらに恥じないよう、算盤と金で戦う。オマエらは──安心して戦え!」
「任せておけ!」
※※※
「ラグナ! 戻ってきたのニャ!?」
翼竜に掴まって移動し、砦に戻ってきたラグナは──改めて、アジサイやマタビと顔を合わせていた。
「……んまあ、大変な事になった。ラオシャンロンは正真正銘の古龍……これまで戦ってきた相手とは訳が違う」
「……ボクも古龍と戦うのは初めてです。それも、大型を超えた超大型古龍だなんて」
「俺も超大型は初めてだ」
ラオシャンロンをラグナも実際に見たことがあるわけではない。
だが、ラオシャンロンが公式記録で撃退及び討伐されたのはこれまでに4度。
そのいずれも、特殊な砦にラオシャンロンを誘導し、そこを兵器で集中砲火することで撃破せしめている。
「同様にして、今回もラオシャンロンを谷に誘導し、そして四方八方から集中砲火することで倒すことになったんだが……」
「どうしたのですか?」
「──それだけじゃあ死なねえだろうな、ヤツは」
重い空気がその場に横たわった。
「古龍ってのがどれほどヤバいのかオマエらは知らねえだろう」
「確かに戦った事はありませんが──」
「俺が今まで古龍と戦ったのは2回だ。最初の1回では──パーティメンバーが全員死んだ」
「ッ……」
アジサイの顔が蒼褪める。
ラグナが古龍に対して苦い思い出があるのは明白だった。
「ある街にクシャルダオラが接近していてな」
その名を聞いて、アジサイは余計に震えあがった。
鋼龍の異名を持つ古龍。鋼のような硬い鱗を持ち、大風を巻き起こす頂上能力を持つとされている。
「町に居たハンターたち総出で迎え撃つことになったんだ。当時未熟だった俺は、後ろの方でバリスタを撃つことしか出来なかったが──」
ラグナは瞼に浮かぶ激闘を、そして血で血を洗う惨状を思い出す。
大竜巻が幾つも巻き起こって歴戦のハンターが吹き上げられていく光景。
それを無力にも見ていることしかできない自分に、絶望した。
「後ろに居たから俺は助かったんだろうな。終わった後に並べられた死体を見たが、もう誰が誰だか分からねえ。人体が原型を留めてねえヤツばっかりだったよ」
「ッ……古龍とは、それほどまでに」
「当時のメンバーは皆、俺よりも強かった。それが全滅したんだ。だけど──援軍が来て、そのおかげでクシャルダオラは討伐できた」
ラグナは思い返す。
そのハンターの、とても頼もしい背中を。
無力だった彼は、そのハンターを助太刀することすら叶わなかったが──その後ろ姿は今も尚目に焼き付いている。
「んまあそうは言っても……最初はハンター辞めてやろうかと思ったけどな」
それでもラグナは──今もハンターを続けている。
彼は壁に掛けた破軍大剣に自らの想いを託すように触れた。
「だけど……俺が怖いなら、
──今はショックで立ち直れなくて、武器も持てないかもしれない。
──でも、僕は知っているよ。君は逃げずにあの戦場に残った。君なら──凄いハンターになれるさ。
──だから大丈夫さ。君ならできるできる!
ラグナは目を閉じる。
白い鷹のエンブレムを鎧にあしらった、穏やかな面持ちのハンターだった。
そんな彼を思い起こしながら、ラグナは改めて決意を固める。
「んまあ、その──何だ。結果がどうあれ、俺は逃げないし後悔しねえ」
「……ボクだって同じです。だってラグナさん、言ったじゃないですか。しがみついてでも付いて来いって」
「怖かったら逃げて良いんだぜ?」
「まさか!」
「俺様もオトモするのニャ!」
マタビがラグナの背に飛び乗る。
「古龍を乗り越えたなら、黒い飛竜なんてヘーキヘッチャラだニャ!」
「……へっ、そうだな。オマエの言う通りだ」
少なからず勇気づけられたのか、ラグナは笑うのだった。
※※※
山が、動く。山が、崩れる。
「ゴォオオオオオオオオオオオオアアアアアアーッッッ!!」
【古龍種”老山龍”ラオシャンロン】
龍が進軍する。
赤い鎧のような鱗に全身を包んだ、地を這う巨龍。
脚を踏み鳴らせば大地が揺らぎ、そして木々が圧し折れて潰されていく。
モンスターたちは圧倒的な脅威を前に狂乱して逃げ惑うしかない。
上空には何匹もの翼竜、そしてそれにしがみついたハンターたちがラオシャンロンの行方を見守っている。
既にラオシャンロンは大渓谷に差し掛かりつつあり、バラージュへの進軍に王手をかけつつあった──
そこに悪意は無く、生きるだけで全てを地均しする巨龍とされるラオシャンロン。
だが、巨龍の瞳には言い知れぬ憎悪が滲んでいた。
引き寄せられるように、ラオシャンロンは真っ直ぐにバラージュへ進んでいく。
彼には知覚出来ていた。今は亡き同胞が、進む先に居るのだ──と。