ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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BGM「英雄の証」


第二十九話:攻め時は今!

「──()()()()()ッ!!」

 

 

 

 先頭を走っていたハンターの大号令がかかる。

 横転した巨龍の頭部目掛けてハンターたちが飛び掛かる。

 しかし、ラオシャンロンとてタダで転びはしない。

 頭部に撃龍槍を受けた事で目は血に濡れて真っ赤になっていたが──怒りの咆哮と共に再び起き上がるのだった。

 

「野郎ッ!! あれじゃあ、頭に追撃しようとしても届かねえじゃねえか!!」

「おーい、飛竜落とし!! 聞いとるかーッ!!」

 

 がこん、と音を立てて撃龍戦車のハッチが開く。

 中から現れたのは珍妙な仮面を嵌めたマント姿の男であった。

 勿論我らが学会のトップ・テッカメン博士である。

 

「お前らかァ!! 俺様の戦車を起こしてくれたのはァ!! 助かったでよ!!」

「いや、それは良いんだが──あいつ、まだくたばってねえぜ!! 撃龍槍はもう無いのか!?」

 

 手負いのラオシャンロンは痛みと怒りでこれまで以上に暴れ狂っている。

 一刻も早くトドメを刺さなければ、被害が拡大することは目に見えていた。

 しかし──

 

「おっと聞いて驚け、撃龍槍の在庫は──今ので最後なんだな。パァーなんだな」

「ウッソだろオイ!?」

「巨龍に突き刺さるような撃龍槍をそう何本も量産できるわきゃねーだろが、撃龍槍だぞオメェ、決戦兵器だからな」

「じゃあどうするんだよ!! もうラオシャンロンに効く兵器は無いんじゃねえか!!」

「だけどな、俺ァ天才科学者だぞ。甘く見るんじゃねえよ。こんな事もあろうかと最終兵器を戦車に積んでいたんでな」

「何だ!? 破龍砲か!?」

 

 ──数秒後。

 ラグナは、撃龍戦車の4番砲塔に死んだ顔で押し込められていた。

 

「あのー? すいません? これは一体何なのでせう? 俺は撃龍槍じゃないんだけど──」

「ハンターの肉体なら耐えられるのも実証済み、”なんと人間大砲”でな!! これでラオシャンロンの頭までピューっと飛ばしてやるんだな!!」

「ざっけんじゃねえ!! オメー、自分で試してみるか!?」

「仰角よーし!! 撃てェェェーッ!!」

 

 ラグナの悪態を聞き入れる事なく、テッカメンはスイッチを押す。

 4番砲塔が大きく轟き──哀れラグナの身体はラオシャンロン目掛けて射出されたのである。

 その様をマタビは、遠い目で眺めていた。彼女は受難を逃れたのである。

 

「……哀れなラグナ……女漁りの報いを受ける時が来たんだニャ……」

「このッ!! 悪魔ーッッッ!!」

 

 ラグナの身体は真っ直ぐにラオシャンロン目掛けて射出された。

 だが、彼はそれでもハンターだ。すぐさまフックスリンガーを未だラオシャンロンの頭部に突き刺さっている撃龍槍に引っかけると、そのまま勢いをつけて巨龍の脳天に着地する。

 

「クソッ、覚えてやがれマジで──!! ……うん?」

 

 ラグナは目の前に仰々しく突き刺さった撃龍槍を見て──笑みを浮かべた。

 

「相当深く刺さってやがるな、この撃龍槍──ならばッ!!」

 

 ラグナは大剣を振り上げる。

 そして撃龍槍に手を掛けると思いっきり跳び上がった。

 巨龍の脳天よりも更に更に高く。

 振り上げた大剣を握る腕に力を限界まで溜めていく。

 

 

 

(──こうなりゃヤケだッ!! ありったけぶち込んでやるッ!! 幾ら古龍と言えど、脳みそへの攻撃には耐えられねーだろ!!)

 

 

 

 そして大きく身を翻し、大剣を思いっきり撃龍槍の尾に叩きつけた。

 再び装置が作動し──撃龍槍が回転し始める。

 そこに破軍大剣から受けた勢いも乗せられ──巨龍の脳に直撃衝撃が加わった。

 

 

 

「ギュオオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 

 

 ぐりん、とラオシャンロンが白眼を剥き、力を失いながら倒れ込む。同時にラグナはラオシャンロンの首を滑り落ち──そのまま背に着地するのだった。

 気絶した古龍に向かって最後の攻撃が始まる。

 ありったけの砲弾が、武器が、古龍の全身に浴びせられる。

 そのまま抵抗することなく、程なくして──老山龍は遂に、絶命したのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「信じられないデスね……それだけ、バラージュに集ったハンターたちが優秀だったということなのデショウけど」

 

 

 

 全てが終わり、巨龍の屍に集って素材を剥ぎ取っていくハンターたち。

 先程まで暴れ狂っていたラオシャンロンは嘘のように静かになってしまっており、最早物言わぬ山と成り果てていた。

 それを見てラグナ達は妙な感慨に耽っていた。信じられないような光景を前に、立ち尽くしてしまっている。

 古龍を討伐した、という実感が湧かないのだ。あまりにも巨大なモンスター故に大人数で立ち向かったから、というのもあるが──命の無情さを前に何とも言えない感覚を覚えていた。

 

「……全てが奇跡的に嚙み合ったって言うべきなんだろうな。何か一つ欠けていたら、ラオシャンロンを倒す事は出来なかった」

「はい──大人数のハンターが居なければ、ピーちゃんが来ていなければ、撃龍戦車が来ていなければ、命懸けで兵器を動かしていた皆さんが居なければ──本当に、どれも落としてはいけないピースでした」

「そんでもって──」

 

 ラグナは布をかけられて運ばれていく遺体に目を運ぶ。

 少なからず犠牲も出た今回の戦い。拳を握り締め──ラグナは改めて、古龍の強大さ、そして人間の矮小さを思い知る。

 

「……俺らも一歩間違えればああなってた。狩猟ってのは、命のやり取りだからな」

「……そうですね」

「ちょっとは俺様の命も慮ってほしいのニャ」

「良いんだよオメーは頑丈だから」

「最悪だニャ」

 

 ラグナとて、今回は命の危機に瀕した場面が幾つもあった。

 死んだ者にせめてもの鎮魂の意を表し──それでも、ラグナは敢えて笑ってみせる。

 

「とにかく。先ずはお疲れさん、だな」

「……第三班は全員、生きて帰る事が出来たようですね」

「死んだ人たちは──バラージュの教会で弔われるようデス。狩猟で死者が出るのは珍しい事ではないデスが──私も名前を知る腕利きのハンターも居マシタので……」

「古龍……とんでもねえヤツだったのニャ……もう戦いたくはねーのニャ……」

「とはいえ、疲れてるところ悪いが飛竜災が終わったわけじゃねえ。残りの期間も──守り切るぞ」

 

 頷くアジサイとマタビ。

 そして──記録を手帳に書き修めたバジルも、遅れて頷くのだった。

 

「バラージュから食料品が沢山届いてるデス! 先ずは砦で心身を休めマショウ!」

「肉を山ほど食べたい気分です。お酒もあれば完璧なのですが」

「……またいつワイバーンが来るか分かんねーのに呑気な事言ってらんねーのニャ。俺様達皆酔い潰すに決まってやがんのニャ」

「1つ、良いか?」

 

 ラグナは──ぽつり、と呟いた。

 三人はラグナに視線を向ける。

 珍しく神妙な顔をしたラグナは、ずっと胸の中に引っ掛かっていたものを吐露した。

 

「……今回のラオシャンロンだが、気にかかる点があまりにも多かった」

「そうデスね。過去の記録を見る限り、比較的おとなしい古龍とされていたのデスが……」

「奴はバラージュに一直線で向かっていた。全く逸れる事なく、だ。これは只の偶然か?」

 

 事実。ラオシャンロンの進路はあまりにも真っ直ぐにバラージュに向かっていたことが確認されている。

 どうして、古龍はバラージュに直進したのか。人間には理解出来ない理由か、それとも──疑問は尽きない。

 

「それにラオシャンロンは気性が荒い古龍じゃねえ。だが、今回の個体は際立って攻撃的だった」

「ラグナさんが言ってたんじゃないですか。個体差だろうって」

「確かに個体差で片付ける事も出来るだろう。だけど、もしそうじゃなかった場合……」

「そんなの、バラージュにラオシャンロンが求めるようなものでもあるとでも言いたいのかニャ?」

「かもな。最早真相は闇の中だが」

 

 ラグナは──ふと、ラオシャンロンの死骸に目を向けた。

 聖騎士隊たちが腕や頭部を解体し、その一部を運び込んでいる。それもかなり大規模に、だ。

 

「……何だ。随分と素材を運んでんな」

「今回の件で借りを作った──ということで、学会と取引して多めに素材を頂いているようです」

「ああ、戦車の」

 

 撃龍戦車を率先してひっくり返しにいった中に、ローズマリーや聖騎士隊の姿があった事をラグナは思い出す。

 

「勿論、ラグナさんにも多めに素材が送られるようです」

「マジか、ラッキー!!」

「えー、羨ましい。ボク、ラオシャンロンの装備で作った双剣欲しかったんですけど」

「そこは山分けだ。互いに使う分だけ取れば良いだろ」

「ラグナさんは良いんですか?」

「恐らく俺は武器には使わねえよ。てか、ラオシャンロンの素材で作った大剣は膨大な龍属性のエネルギーを宿してはいるが、肝心の威力がよろしくないみてーでな……」

 

 同じモンスターの素材で作った武器でも、武器種によって評価は異なる。

 大剣のように一撃が重い武器は、武器そのものの質量で攻撃するが故に物理攻撃力の高いものが好まれる。

 一方で双剣やボウガンのように手数で戦う武器は、一撃の物理攻撃力こそ低い為に武器に宿した属性のエネルギーが重視される。

 これは──属性によるダメージが、同じ属性値、同じ肉質なら武器の物理攻撃力に影響せず、常に一定(モンスターの属性への耐性で増減はする)だからである。

 従って、大剣使いからすれば属性攻撃力が高いだけで物理攻撃力──即ち威力の低いものは敬遠しがちなのだ。

 現代では武器の研究によってこれらの武器の傾向が周知されつつあるが、ラグナは歴戦の大剣使いだ。これまで様々な大剣を触っており、経験則で何が自分の戦い方に合うものかを理解している。

 

「俺はしばらく、この破軍大剣で良いぜ。それよかオマエの場合は色んな属性の双剣を持ってた方が良いだろ」

「そうですね……では、有難く頂きます」

「装備はどうする」

「ラオシャンロンの装備は重いと聞きます。ボクは今のままで大丈夫です」

「んじゃあ、装備の方は俺が貰うか。何かと前に立つことが多いしな」

「俺様も俺様も!!」

「オトモの装備は余った素材で作れるはずだ。心配しなくても作ってやるよ」

「ニャハーッ!! やったのニャ!!」

「……で、これ何の話デシタっけ?」

 

 ラオシャンロンの素材の事で盛り上がるラグナ達をバジルが窘める。

 

「あー、えと、そうだ。ラオシャンロンがどうしてバラージュに向かっていたか、だ。奴は終ぞ進路を一切逸らす事が無かった」

「……」

 

 全員は黙りこくる。

 しかし、結局の所──答えは出なかったのである。

 それもそのはず、当のラオシャンロンはもう既に死んでいるのだから。

 その上でラグナは彼自身の知っている中での知識を一つ語った。

 

「1つ考えられるのは……古龍は仲間の死骸を取り返そうとする習性があるってことだな」

「あ、聞いたことあるデス、それ!」

「どういうことですか? 仲間の死骸を?」

「ドンドルマって町を知ってるか」

 

 その名に聞き覚えがあったのか、アジサイは頷いた。

 

「そこでは古龍の骨があちこちに飾られててな、古龍以外のモンスターを遠ざける役目を果たしているんだと」

「へぇ、成程」

「ところがその所為で仲間の骨を取り返そうとする古龍の襲撃を度々受けてるみてーなんだが……」

「ダメじゃないですか」

「おかげであそこは対古龍の最前線だ、これまでに何度も古龍の襲撃を退け討伐している」

「やめましょうよ古龍骨飾るの……」

「まあ、だから──バラージュにも、もしかしたら……ラオシャンロンの遺骸が何処かに埋まってたのかもしれねーな」

 

 ラグナ曰く、ドンドルマでは相当大々的に古龍の骨を配備しているのだという。

 古龍の武器や防具を身に着けたからといって古龍を呼び寄せるわけではないらしく、原型が残っていなければ流石に判別できないだろう──とのことだが、全ては憶測にすぎず、結局真相は闇の中なのだった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 ──それからしばらく経ち、飛竜災はこれまでにない勢いで落ち着いた。

 バラージュに迫るモンスターの数は激減し、大型モンスターも姿を見せなくなっていった。

 これにより、ギルドは此処までの異変がラオシャンロンの出現に起因するものであることを結論付けたのである。

 結局飛竜祭はと言えば、古龍出現というイレギュラーの中で公平な判断を期するのは不可能と結論付けられ、掛け金は全額払い戻しの上、ブックメーカーにはギルドから補填金を払うという形で蹴りがつく──と何とも「つまらない」結果に終わってしまうのだった。

 

「んまあ、お前らはよくやってくれたよ。ちょっち締まらないオチで終わってしまったけどな」

 

 ディシプリンは帰還したラグナ達を掛け値なしに褒めちぎる。

 飛竜祭も終わり、バラージュの町は落ち着きを取り戻しつつあった。

 町では、何とも言えない結果に終わってしまった飛竜祭を惜しむ声もあれば、超大型古龍の討伐に沸き立ち興奮する声、そして一連結託して立ち向かったハンターたちを改めて称える声でにぎわっていた。

 そんな中、ディシプリンは此処までの締めくくりをするべく、改めてラグナ達を呼び寄せた。

 

「ラグナ。アジサイ。マタビ。バラージュに来てくれたのが──お前らで良かった」

「ヘヘッ、こっちこそあんがとよ。物資とか色々手配してくれたんだろ?」

「ボク達が飢えずに済んだのはディシプリンさんのおかげです」

「何言ってんだ、俺ァ結局後ろに居ただけだぜ」

「後ろに居てくれるのが大事なのさ。あんたは逃げずに戦った。あんたの戦場でな」

「……そう言ってくれると何よりだよ」

「ピーちゃんさんは大丈夫ですか?」

「ああ、骨が折れてたみてーでな……下で寝てるよ。んまあ、飛竜は人間とは頑丈さが段違いだ。しばらくすりゃあよくなるよ」

 

 それを聞き、アジサイは胸をなでおろす。

 ピーちゃんはラオシャンロンから受けたダメージが甚大であることは目の前で見ていたのでよく知っている。

 それでも骨が折れた程度で済んだ辺り、エスピナスという種の頑強さ加減はそこらの飛竜の比ではないのであるが──それはさておき。

 

「んで、飛竜祭が終わって一週間……か。しばらく休めたか?」

「ああ。つっても、あちこちで復興の手伝いして全然休めた気がしねーけどな。それ以外は寝てたし」

「……そんな時に悪いんだけどな、最後の1つ──頼まれごとをしてくれねーか」

 

 ディシプリンは急に神妙な顔付きになる。

 

「……商工会のディシプリンとしての最後のクエストだ」

「最後の?」

「ああ。お前らには散々世話になった。そしてお前らの実力は──とても高く評価している。そんな最高のハンターにこそ、頼みたい」

「今更なんだニャー? もうヤバいモンスターの相手はゴメンだニャ」

「どっちかっつーと、調査だな」

 

 彼は古びた日記帳のようなものをデスクに置いた。

 表紙は変色しており、書かれてから大分日数が経っていることが分かる。

 ディシプリンはページを開き、その中の一節を指差した。

 

「ラグナ。”造竜工廠”って──聞いた事があるか?」

「何だそりゃ。全然聞いたことがねーぞ」

「これは先々代……つまり俺の2代前の商工会長が残した書物の1つらしくてな。倉庫の整理の時に発見した。今まで誰にも見せて来なかったけどな」

「何て書いてんだ? 字の癖が強すぎて読めねえんだけど」

「俺も解読にはちと時間がかかった。結論から言えば、こう記されている」

 

 

 

『酒の席で見知らぬ竜人族から、バラージュの地下に”造竜工廠”なるものがあると聞いた。そこには──”生きた大剣”というものがあるのだという。是非ともお目にかかりたい』

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