ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第三話:ごめんで済むならギルドナイトは要らない

「いつだ!? 一体いつの間に盗られた!?」

 

 町のベンチで荷物を全部ひっくり返したが、やはり財布は1つ無くなっていた。

 幸い──ラグナはスペアの財布を持っており、そこに残りの金を入れていた。

 だが、盗られた財布にはある意味ではお金よりも大事なものが入っていたのである。

 端的に言えば、ハンターにとっては狩猟免許証の代わりと言えるギルドカードだ。

 

「こんな町中でギルドカードが無いのに武器携行してんのはマズい!! 免許不所持でしょっ引かれる!! 罰金で済めば良いが……!!」

「どうするんですか!? 何か心当たりは!?」

「心当たり!? そんなもん──」

 

 ふとラグナは町中の掲示板に目を向ける。そこには──黒いネコ型獣人の絵が描かれた注意書きが貼られていた。

 

【※盗人メラルーにご用心!!】

 

【メラルーは黒い体毛のネコ獣人種です。イタズラ好きで盗みが得意です。町中でも注意しましょう。】

 

 ラグナは黙りこくる。

 メラルーは、アイルーによく似た獣人だ。

 人の良き隣人であるアイルーとは違い、メラルーは狩猟中のハンターに襲い掛かって道具を盗むことでよく知られている。

 そんな習性を持つのでアイルーと違い、社会的信用は皆無。時には討伐対象にすら指定される始末である。

 

「なあおい、アジサイ。さっき白いアイルーにぶつかったんだがよ、鎧に小麦粉がくっついてんだわ。これってまさか」

「……メラルーです!! 小麦粉で体毛の色を誤魔化したんですよ!!」

「だよなぁ!? クッソ!! クルッソ!! ハァーッッッ!!」

 

 怒りのあまり打ち震えながらラグナは地面に突っ伏した。完全にやられた。

 財布を盗んだのは、あの時ぶつかってきた白いアイルー……もとい、変装したメラルーだったのである。

 

「此処は二手に分かれるぞ、俺は繁華街の方を!!」

「ボクは市場の方を探しますッ!!」

「済まねえ、後で礼はたっぷりする!!」

 

 歓楽都市と呼ばれていたこともあり、歓楽街には猥雑で派手な店が立ち並ぶ。

 

「俺がアイツなら、盗った金を何に使うか──」

 

 ハンターの基本。

 それは、狩る対象の気持ちになって相手の行動を先読みすることだ。

 ラグナは──ふと一件の大きな建物に目を遣った。

 豪奢な装飾を施したお城のような建物。入り口には──豊満な胸を強調した女が妖艶な目付きで立っていた。

 

「ねえ、そこのカッコいいお兄さん、ウチで遊んでいかない?」

「……ヘッ、わりーな。俺は今火急の用事があってよ」

 

 そう言うラグナの足は──言葉とは全く裏腹に高級娼館の方に向かっていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──それから3時間程経っただろうか。

 地道に聞き込みを続けていたアジサイだったが、一向に白いアイルーの情報は見つからない。

 やはり、盗った金を使う為に繁華街に向かったか、と考える。

 

 

 

(そう言えばラグナさんは繁華街の方に行ったはず、一体──)

 

 

 

 アジサイは繁華街に向かう。

 辺りには娼館だとか賭場だとか酒場だとか怪しい店が立ち並んでいる。

 そんな中、彼女が真っ先に目にしたのは──

 

「毎度ー、ウフフ、まさかウチの嬢を骨抜きにしちまうなんて、あんた腕利きだね、また来いって言ってたよ」

「おう、こっちこそ頼むわ」

 

 ──スッキリした顔で娼館から堂々と出てきたラグナであった。

 アジサイはすぐさま、ラグナに掴みかかった。

 

「何やってるんですか貴方って人はーッッッ!?」

「何って狩猟だよ狩猟」

 

 賢者モードなのか気怠そうにラグナは答える。

 狩猟の意味合いが全く違う。

 

「貴方の財布が盗まれたから一緒に探してるんですよ!? だというのに、こ、こんなエッチな店に白昼堂々とッ!!」

「頭では分かってたんだ。だけどな、下半身には逆らえなかった。おかげで残る財産も消し飛んだぜ」

「脳みそが下半身についてるんですか貴方はーッッッ!? 何で貴方だけ良い思いしてるんですか!!」

「男にはな、やらなきゃなんねー時があるんだよ、タッパとケツのデカいチャンネーには……抗えねえんだ」

「今じゃないでしょ、今じゃーッッッ!!」

「いだだだだだ!! やっぱりこの子腕力バケモノ!!」

 

 ラグナに関節技を決めるアジサイ。道行く人々が「痴話げんかかな?」と奇異なものを見る目で視線を送る。

 

「本当に最低ですッ!! 何で貴方みたいな人に憧れたのか……己の見る目の無さに辟易しますッ!!」

「待て待て、俺は狩人としてのカンに従ってだな──」

 

 

 

「チッ!! 今日もしけてんニャ!!」

 

 

 

 その時である。娼館の隣の建物から──白い体毛のアイルーが出てきた。

 建物には「カジノ」と書かれている。

 

「ま、良いのニャ、どーせ元手は後から幾らでも増やせるのニャ。さっきみたいに間抜けそうなハンターからスッてやれば──」

「……」

「……な? 言ったろ? 狩人のカンに従ったって」

 

 数秒後。

 白いアイルーは何重にもロープで縛り上げられ、ラグナに首根っこを掴まれていた。

 アジサイが体毛を手で叩くと小麦粉が落ちていき、本来の黒い体毛が露わになる。

 

「こ、これは、許されねーのニャ……メラルー虐待でギルドにタレ込んでやるのニャ……」

「何でテメーの持ってる財布には俺の顔写真付きギルドカードが入ってんだ? 何か申し開きはあるかコラ」

「ごめんなさい大変すいませんでしたニャ」

「ごめんで済むならギルドナイトは要らないんですよ」

 

 捕縛されたアイルー……ではなくメラルーは頭頂部に拳骨を加えられ、涙目で許しを請う。

 しかし、そんなことで解放されるわけがなく。ラグナはすぐにメラルーの荷物を漁り始めた。

 

「クソッ!! 金が無ェ!! こいつ、ギャンブルで全部スりやがった!!」

「ニャーハハハハハ!! このマタビ様をナメてもらっては困るニャ」

 

 マタビ、と名乗ったメラルーは高らかに言った。

 

「ギャンブルは好きだが大当たりした事は一度もない、まさに”伝説のカモ”とは俺様の事ニャ!!」

「ざっけんじゃねえ!! ギャンブルなんてやめちまえ!!」

「せめて何か換金できるものは無いでしょうか!?」

「あるぜ。()()()()()だ。盗人としてギルドに突き出しちまおう」

「ご、後生だニャ!! それだけは勘弁するのニャ!!」

「テメーの所為でなーッ!! 俺ァ全財産無くなったんだよ、どうしてくれんだ!! テメェの身体で返すしかねーだろが!!」

 

 財産の半分を吹き飛ばしたのはラグナ自身の性欲の所為なのだが、それはさておき。

 メラルー・マタビの荷物の中はロクでもないものしか無かった。

 武器であるニャンニャン棒、使えそうもないガラクタ、腐りかけの肉、その他、しょうもないモンスターの素材の端切れ等々。

 

「ダメです、やっぱりこの子をギルドに突き出すしか……」

「元より、そのつもりだわ!」

「後は──何ですか、これ。鱗……? 飛竜の鱗のようですが」

 

 アジサイが手に取ったのは──リオス種のそれに酷似した鱗だった。

 しかし、太陽に照らすとその色は黒ずんでいる。

 

「黒い、飛竜の鱗──」

「その鱗──ッ!?」

 

 すぐさまラグナはそれを引っ手繰った。

 

「……おい、マタビ。こいつを何処で拾った?」

「え”!?」

「何処で拾ったと聞いてんだッ!!」

「え、えーと……そいつは昔、このバラージュの近くの沼地で見かけたんだニャ……!!」

 

 恐る恐るマタビは口にする。

 

「あいつはリオレイア……? いや、もっと恐ろしいナニカだったのニャ……!!」

「ッ……居るのか。あいつが、バラージュの近くに」

 

 ラグナの脳裏に浮かぶは──記憶の中に最も色濃く焼き付いた黒い飛竜だった。

 見間違いではなかった。幻ではなかった。

 黒い飛竜はやはり──実在するのだ。

 

「ねえ、ラグナさん。どうしたんですかいきなり……?」

「おいマタビ。盗みの件はこの鱗でチャラにしてやる」

「え!? 良いんですかニャ!?」

「ただし──オマエ、俺達のオトモになれ」

 

 ラグナはマタビの頭を掴む。

 

「……へっ!? オ、オトモ!?」

「ああそうだ。どうせメラルーを雇ってくれるヤツなんてなかなか居ねえだろうからな。盗みなんかしなくても真っ当な稼ぎを約束してやる」

 

 ハンター稼業を続けていて長いラグナだが──自分に全く気配を悟らせずに財布を盗むマタビの技量は高く買っていた。

 何かしらの役に立つかもしれない、と彼は考える。

 

「あの、ラグナさん……こんなコソ泥を仲間に引き入れたら絶対後悔しますよ」

「かもな。だけど、俺にとっちゃ──財布の中身や女よりも、この鱗の方が大事なんだよ」

 

 黒い鱗をアジサイに見せつけながら、ラグナは豪快に口角を上げた。

 いずれにせよ命は助かったマタビは大泣きしながら地面に頭をつける。

 

「な、なんと寛大なご判断!! 俺、一生ついていきますのニャ!!」

「おう、これからよろしく頼むわ」

「本当に良いんでしょうか……」

 

 ……なお、アジサイの懸念は当たっている。

 

 

 

(ヘッ、バカな奴らだニャ!! 折りを見て金目のモノを盗んで逃げてやるのニャ!!)

 

 

 

 盗人の性根が、そう簡単に変わるはずがないのである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「えーとさァ、何か……増えてね?」

 

 

 

 その後。

 約束の時間になったので、ラグナ達は商工会に向かった。

 堅牢そうな石造りの建物の奥に通され、案内された先に座っていたのは──でっぷりとした腹の中年男性だった。

 彼こそが依頼人・ディシプリン氏である。しかし、呼んでいたアジサイ以外にも見覚えの無い大剣使いが居たので眉を顰めた。

 

「えーと? アジサイ君だっけ? あと、知らねえハンターが居るけどさァ、誰よオタク」

「あ、俺はラグナって言います」

「彼は優秀な大剣使いです。トラブルに見舞われてギルドカードを一度紛失していますが……実力は保証します」

「はへー、つまり彼をウチの商工会組に推薦したいってワケか」

 

 葉巻を咥えると、ディシプリンは値踏みするようにラグナを見た。

 

「……強いハンターはどれだけ居てもいいよ。でもさァ、俺も君の実力って奴が見てみたい。ギルドカードがあるなら普通一目瞭然なんだけど」

「生憎、一度失くしてしまっていて」

「間抜けだなァ……」

 

 間抜けと言われてもラグナには反論の余地が無かった。

 何故ならば実態はもっと悪い。パーティのリーダーの女に手を出し、身包み全部剥がされて海に放り出されたなどとは言えない。

 

「んで、そこのメラルーは?」

「俺の小間使──じゃなかったオトモです」

「あっそ。盗みはしないようにちゃんと躾てあるんだろうな」

「そりゃあ勿論。今は盗みをしないようにしてあるんで」

「離せーッッッ!! メラルー虐待だニャーッッッ!!」

 

 当のマタビはと言えば、ラグナの背中にロープで縛られていた。

 

「うんまあ、いいや……とりあえずお前ら、地下に来いよ。良いモン見せてやるからさ」

 

 そう言ってディシプリンは立ち上がる。

 ぷりん、と彼のでっぷりとした腹が揺れた。

 触りたくなる衝動に駆られたラグナだったが、すんでのところでやめた。偉い。

 

「見せたいモノって何ですか?」

「ウチのペットだよ、ペット。ピーちゃんって言うんだけどさ」

「ピーちゃんか、可愛い名前だな」

「そうだろうそうだろう、大層可愛がっててだな」

 

 地下室に続く螺旋階段に案内される。

 どうやら商工会の地下はかなり大きな空間が広がっているらしく、ひんやりした空気が頬を伝った。

 

「ラグナだっけ? 君にはさァ、とある依頼を受けて貰いたいワケよ」

「依頼っすか」

「そう。所謂テストってところだな。ピーちゃんの餌をとってきてほしい訳」

「ピーちゃんって……」

「ピーちゃんって……まさか」

 

 地下室に辿り着き──全員は絶句した。

 低く大きないびきのようなものが地下室を震わせている。

 思わずラグナもアジサイも武器を構えそうになった。 

 

 

 

「そう!! 紹介しよう、この子がエスピナスのピーちゃん!!」

「ZZZ……」

 

          【飛竜種”棘竜”エスピナス】

 

 

 

 二人は横転しそうになった。

 そこに寝ていたのは、リオレイアに似ているものの遥かにガタイの良い飛竜だ。

 全身からは毒々しい色合いの棘が生えており、見るだけでそれが危険だと思い知らされる。

 棘竜エスピナス──ギルドからは古龍すらも退ける非常に危険な飛竜種とされている存在である。

 ラグナはすかさずディシプリンの胸倉を掴む。

 

「ちょっと待てやーッッッ!! なんつーモン飼ってんだあんたーッッッ!! 古龍級生物をペットにしてんじゃねーッッッ!!」

「ニャーッ!! 何でワイバーンがこんな所に居るのニャ、大事件だニャーッ!!」

「おいおいおいおい、暴力反対暴力反対、この街じゃあ皆周知の事実だよピーちゃんの存在はさ、町の守り神みてーなもんだよ」

「ギルドからは何も言われてないんですかァ!?」

「いつの間にか、この地下空間に居座っちゃってさぁ。何にも悪さしないし、殆ど寝てばっかりだから経過観察ってことになってんのよ」

 

 ディシプリンがエスピナスの背中を指差した。

 そこには、人が騎乗するためのサドルのようなものが取り付けられている。

 

「後、あの背中のサドル。多分、前に誰かに飼われてた証拠なんだよね。遠い地にはライダーっていうモンスターに乗る人らが居るらしいし? 元はライダーに飼われてたんじゃないかって言われてる」

「そういうことか……幾ら大人しいエスピナスと言えど、普通人間に懐いたり慣れたりするはずが無ェからな」

「だから今は経過観察ってことになってんだよ。人を襲う様子もないし。後いい加減離せ」

「あ、すいませんでした……」

 

 ったくこれだから野蛮人はよー、と襟を直したディシプリンはエスピナスを親指で指した。

 

「……さ。分かったら、依頼だ。ピーちゃんの餌取りだ。バラージュ近くの”泥濘の湿原”に生息するドクガスガエルの採取をお願いしたいんだよね」

「ドクガスガエル……エスピナスの餌だったな、そういや」

「そう。だけど最近、沼地にめちゃんこ強いモンスターが居座っちまって困ってたんだわ。本当だったらアジサイ君に依頼しようと思ってたんだけどよー、ま、君で良いか」

「めちゃんこ強いモンスターって何だよ」

「……10日程前、餌の採取を依頼したハンターが帰って来なかった」

 

 険しい顔でディシプリンは言った。

 

「その後、導蟲やガルクを使ってギルド総出でそいつの捜索が行われたんだけど……死んでたんだわ。何処でだと思う?」

「さあ、モンスターに襲われたんだろうけど──」

「”地面の中”」

 

 二人は顔を見合わせた。

 ハンターの死に方は様々だが、地面の中で死ぬのはなかなか考えられない。

 そもそも、ハンターは自らの力では穴を掘って地面には入れないのである。

 となればモンスターに引きずり込まれたと考えるのが普通だが──そんな芸当ができるモンスターは早々居ない。

 

「……そのハンターの身体に付着していた結晶の欠片から、ギルドは沼地にあるモンスターが居座った、と断じた」

 

 ディシプリンは──ラグナに書類を手渡した。

 

 

 

「奴の名は”尾晶蠍”アクラ・ヴァシム。本来なら砂漠地帯を根城にしてる厄介者だ。ピーちゃんの餌確保のためにも、コイツを……討伐してくれ」




【討伐クエスト】
沼地に潜むは煌めく死

依頼主:商工会リーダー・ディシプリン
メインターゲット:アクラ・ヴァシム一匹の討伐
目的地:泥濘の湿原

ペットのピーちゃんの餌を確保したいんだが、沼地にアクラ・ヴァシムが居座っちまっている。地面に引きずり込まれたが最期、二度と陽の光は拝めない。あんたが優秀なハンターだってんなら、その手で証明してみせるんだな。
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