ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第三十話:最後のワガママ

「造竜工廠……生きた大剣……?」

「ラグナさん、造竜工廠とはどういうことでしょうか? まるで竜は造れるとでも言わんばかりですが」

「バカな。()()()()()()()()()()()()だろ。きっと何かの比喩に違いない。それこそ──此処に記されてる”生きた大剣”のようにな」

 

 ラグナは嫌な汗を伝わせながら否定する。

 造竜工廠という如何にもなネーミング、しかしそこから考えられる用途は──有り得ないしあってはならない。

 しかし、そこに記された”生きた大剣”と言う言葉も何か引っ掛かるものがある。

 

『造竜工廠には古代の技術、そしてモンスターに関する膨大な資料が集められているという』

 

『詳しい事を聞きたかったが、その竜人族とは結局会えず仕舞いだ』

 

『バラージュの地下は明るい。太陽の日差しは届かないはずなのに、何処から光が漏れているのだろう』

 

『ダメだ。バラージュの地下はあまりにも広すぎる。蟻の巣状に幾つも枝分かれしていて、このままでは帰れなくなる。調査は一度中断する』

 

 次から次へと、妙な記述が沸いて出てくる。

 一同は齧りつくように手記に目を通していた。 

 

「……どうやら、バラージュには広大な地下空間が広がっていて、その何処かに造竜工廠なるものがあるらしい。そして──此処で日誌の記述は終わり、後は白紙が続いている」

 

 ぱらぱら、とディシプリンは残るページを捲った。しかしいずれも、何も記されていないページばかりだった。

 

「もしかして炙り出しなどの仕掛けが施されているとか」

「ねーよ。色々試したが、そう言った類のものは無かった」

 

 アジサイの問に、ディシプリンは困ったように返す。彼なりに「造竜工廠」なるものについて突き止めようとはしたらしい。

 しかし、結局実地に赴く以外に真相を知る機会はないようだった。

 

「そんなに気になるなら、今の今まで何で温めておいたんだ?」

「怖かったんだよ──この日誌の最後の記述の日付……その次の日に、先々代は死んだようだ」

「ッ!?」

「……死んだって」

「射殺されたらしいぜ。後ろからボウガンでズドン、だ」

 

 ラグナとアジサイは顔を見合わせる。 

 下手人が分かっていない以上、この怪文書を記した先々代は暗殺されたということになる。

 

「この手記の事を知る人間は俺だけだ。だが、地下が危険と言う事、そして──先々代が死んだ件もあって、誰にも相談してこなかった。何だか厄ネタの匂いがしてな」

 

 流石のディシプリンも自分が殺されるのは怖かったのだろう、とラグナは考える。

 先々代の不審な死を考えれば無理もないのであるが。

 

「……先々代とあんたはどんな関係だったんだ?」

「俺は元々孤児でね。先々代に引き取られて育ったんだ。親代わりさ。だから──恩がある」

 

 俺が引き取られた時は既に爺さんだったがな、とディシプリンは続けた。

 そんな親代わりの相手の死の真相、そして彼が死の間際に追い求め続けてきたもの──それをずっと彼は解き明かしたいと考えていた。

 だが、そんな大義とは関係なく──ディシプリンが地下を調査したいと思っていた理由は唯一つ。

 

「……んまあ、色々眉唾な事も多いが……一言で言うなら、ワクワクするだろ」

「あんた──」

 

 ラグナは──ディシプリンに手を差し出し、両の手で握り締めた。

 

「すっげー分かるぜ、その気持ちッ!!」

「だろ?」

「ボク達何を見せられてるんですか」

「自分から危ないものに首を突っ込むなんてヤベー奴らだニャ」

「あんたらは信用できるハンターだ。だからこそ、頼みたい。俺からの──最後のワガママだ」

  

 ディシプリンはニヒルに笑う。

 

「……勿論、断ってくれるなら断ってくれても構わん。よく考えて返事をしてくれ」

「俺から断る理由はねぇよ。その造竜工廠とやらにはモンスターの資料もあるんだろ? もしかしたら、黒い飛竜についても何か書かれてるかもしれねえじゃねえか。それに──」

 

 ──バラージュの地下は未知の領域だ。

 ラグナはここ数日、ずっとラオシャンロンの出現した理由を考えていた。

 全ての事象には必ず原因がある。古龍の行動には全て意図が存在する。

 ラオシャンロンがバラージュを目指した理由が、未だ開拓されていない地下にあるのではないか──とラグナは推測する。

 

(答えを確かめるなら、どうやら地下に行くしか無さそうだな)

 

「生きた大剣なる武器も気になりますし──ボクもラグナさんが行くなら一緒に行きます」

「俺様も賛成だニャ! 大儲けのチャンスだニャーッ!!」

 

 第三班の全員が賛同し、ディシプリンは頷いた。

 

「……あんがとよ。あんたら、やっぱ最高だ」

「そんでどうする? ギルドに話は通すか?」

「いや、この件は他言無用で頼みたい。先々代の件がどうしても頭に過ってな……」

「分かった。んまあ、狩猟じゃなくて只の地下探索だしな。いちいちギルドに届け出る事もねえだろ」

「それにギルドに届け出たら、折角掘り出したモンを調査の為だとか言って没収されちまうかもしれねえだろ。それは勿体ない」

「なーにが勿体ない、デスって?」

 

 全員は振り返った。

 そこには──いつの間にかバジルが立っていたのである。

 

「……話は聞かせて貰ったデスよ」

「一体いつの間に!? しかもどうやって入った!?」

「ノックくらいしたらどうなんですか」

「この造竜工廠の件──是非とも、ワタシも同行させて貰うデスよ」

 

 いつになく真剣な表情でバジルが言った。

 有無を言わさない、拒否権は無いとでも言わんばかりに。

 

「なぁ、別に狩猟じゃねえしギルドに届け出を出す必要はねーだろ?」

「何言ってるんデスか。バラージュの地下に繋がる数少ない出入り口を──そこのディシプリン氏は把握しているんデス。そうデスよね?」

「……そうだ」

 

 こくり、と彼は頷いた。

 

「流石に話が回るのが早いな。ギルドも造竜工廠を探していたのか」

「正確に言えば、この町に居る編纂者で造竜工廠について知っているのはワタシだけデス。この件は──ワタシが専属で受け持ちマス」

「……どういうことだ、バジル」

「造竜工廠の事は──他言無用でお願いしマスよ。くれぐれも、ね」

 

 身を翻した彼女は、声の抑揚を全く変えないまま去っていく。

 そんな彼女にラグナは問いかける。

 

「待ちな!! ……造竜工廠……あんたはその意味を知ってんのか? まさか……本当に命を造る術が──」

「”Need not to know”」

 

 バジルは振り向きざまに細剣をラグナに向ける。

 それはモンスターと戦うにはあまりにも脆く、しかし──人を貫くにはあまりにも容易いシロモノであった。

 

「それは()()()()()()()()()、デス。今の所は──ネ」

「……あんた。まさか──」

「──明日の同じ時間、この場所で待っていマス。貴方達には──この町の真実を知る権利があるデスから」

「この町の真実……?」

「くれぐれも、普段以上の狩猟の準備をしてきてくだサイね」

 

 去っていくバジルを見送ったディシプリンは──神経質に両手の指を絡ませた。

 

「……ジイさん……あんた……どんな厄介事に首を突っ込んだんだ……?」

「ちょっとラグナさん、大丈夫でしたか!?」

 

 アジサイがラグナに駆け寄る。

 しかし、彼は一切動じる様子を見せずに彼女に優しく微笑んだ。

 

「いや、大丈夫だ。ただ──他言無用ってのはキッチリ守った方が良さそうだな」

「どういうことですか……!? バジルさんは一体何者なんですか……!?」

「……多分アイツは──ギルドナイトだ」

 

 びくり、とアジサイが怯えたように肩を震わせる。

 その言葉が何を意味するかくらい、彼女も知っている。

 

「ギルドナイトってのは表の治安維持だけじゃなくて……身分を隠して行動する者も居ると聞いたぜ」

「……ギルドは、造竜工廠について知っている……?」

「もう分からねーのニャ……誰が悪いのか……」

「……すまん」

 

 ディシプリンがぽつりと謝罪する。

 ギルドも横から介入してきたことで、改めて自分が突き止めようとしていたものがあまりにも大きすぎるものであることを薄々勘付きつつあったのだ。

 

「……俺の所為で、えらい事に巻き込んじまったみたいだ」

「謝んなよオッサン。俺達、すごいものを見られるかもしれねーんだぜ」

「……すごいもの、か。それで済めば良いが……」

 

 

 

【調査クエスト】

最後のワガママ

 

依頼主:商工会長のディシプリン

 

メインターゲット:無し

 

目的地:バラージュ地下遺跡

 

先々代が探していた「造竜工廠」。あんた達なら見つけてくれるんじゃないかって思ってな。俺も同行するが、極力足手纏いにならないように尽力するよ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──その日の晩。

 ラグナ達は宿で束の間の休息を取っていた。

 アジサイはベッドに座ってワインをグラスに注いでちびちびと飲んでいる。

 それ以上は飲まないように早々にラグナは瓶を片付ける。明日は調査に出かける事になっているのだから。

 

「……はふ。ワインは落ち着きますね」

「アルコールを抜いた期間が長かったからか、依存が落ち着いたみてーだな」

「人を依存症患者みたいに言わないで下さい」

「依存症じゃねーなら何だってんだ」

「なーに勝手にチルタイムしてやがんのニャ!!」

 

 マタビが憤慨した。

 彼女からすれば何も知らないうちに勝手に話が進み、いつの間にか怪しいことに巻き込まれてしまっているようなものだからだ。

 尤も、バジルが介入するまでは大儲け話だと騒いでいたマタビにどうこう言う権利は本来無いはずなのであるが──

 

「オマエら何にも気にならねーのかニャ!? バラージュの地下、そしてバジルのあの変わり様!! あれはマジだったのニャ!!」

「マジだろうな。ギルドは少なくとも造竜工廠について何か知っている」

「ラグナァ……絶対これ嫌な予感がするのニャ……」

「とにかく。明日に向けて準備するしかねえだろ。回復薬、秘薬、粉塵、全部持っていくぞ」

「新装備を試す良い機会です」

「地下にモンスターが出てきたら大事だニャ。使わねえのに越した事はないのニャ」

「……そうだな」

 

 インナー姿のままラグナはベッドに寝転ぶ。

 ラグナの脳裏には、いつになくわくわくした表情のディシプリンが浮かんでいた。

 

「なあ、ディシプリンのオッサンは今まで商会の事やピーちゃんの事で俺達に依頼してたろ。だから──きっと、ハンターに私的な依頼をするのは初めてだったんじゃねえかって思うんだ」

「……先々代が死んだ件、きっとずっとモヤモヤしてたに決まってんのニャ」

「それだけじゃねえよ。きっとオッサンは本気で造竜工廠の事を探したくてたまんねーんだよ」

 

 ラグナは痛快に言ってのける。

 

「人は誰しも違う何かを追いかける。生まれながらのハンターだ。俺がデカパイのチャンネーを追いかけるように、あのオッサンは造竜工廠を追いかけていた、ただそれだけの事さ」

「せめてそこは黒い飛竜と言ってほしかったですね」

「そこと同列にされんのはディシプリンのオッサンも不服だろがニャ」

「しゃーねーだろーがよー、結局飛竜祭でも一回も姿現さなかったしアイツ」

 

 最早本来の目的はどこへやら、だ。

 しかし、ラグナはそれでもこの脇道を進むことにする。

 ハンターの力を求める人に手を貸さなければ──ラグナはハンターの道を選んだ意味が無い。

 

「全く──仕方ありません。ラグナさんが進むならば、ボクも同じ道を進むとしましょう。それはそれとして──」

「おごっ!?」

 

 アジサイは──思いっきり体重をかけてラグナの顔面に腰かけた。

 拗ねたように頬を膨らませ、自分を見てくれない事への不満を表に出すが──その顔は決してラグナからは見えはしない。

 呼吸が出来なくなり、ラグナはバンバンとベッドを叩く。もっともこれしきでハンターという超人が死ぬはずがないのであるが。

 

「よくもまあボクの前でデカパイのチャンネーだなんて言えましたね? 懲りるという言葉を知らないんですかアナタ」

「もゴーッ!! もゴーッ!!」

 

(またイチャついてやがんのニャこいつら)

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