「奴らを合流させんなッ!! 連携されたら手の付けようがなくなるぞ!!」
「はいっ!!」
──響狼・オルガロン。
牙獣種の中でも、夫婦での連携に長ける生粋の「狩人」。
その最大の武器は──
「ウルルルルルル──フウウウウウウウッッッ!!」
──風船のように膨らませた強靭極まりない肺から一気に押し出される空気爆弾。
それを受けたラグナの身体は軽々と宙に吹き上げられ、地面に叩きつけられる。
「野郎ッ……相変わらずのパワー……!!」
「ガオオオオオオオオンッ!!」
咆哮し、ラグナに迫りくるカム・オルガロン。
その前脚と口には白い光が迸っている。
危険を感じ取ったラグナはすんでのところで転がって躱すが──直後、地面に白い結晶が次々に生えていく。
「これって、さっきの──」
「オオオオオンッ!!」
思いっきりカム・オルガロンが前脚を地面に叩きつけた。
それを合図にするようにして、地面に生えた結晶が──次々に爆ぜた。
「ッッッがああああああ!?」
意識外から襲い掛かる衝撃にラグナは対応する事が出来ず、衝撃と共に地面を転がる事になる。
ラオシャンロンの防具・暁丸でなければ、今頃気絶は確実であった。
呼吸器を潰され、咳き込みながらラグナは息も絶え絶えに起き上がり、再び跳びかかってくるカム・オルガロンに対し大剣でガードして受け止めるが、今度はその衝撃を利用して跳ね上がった雄狼は尻尾でラグナを薙ぎ払う。
ガードの合間を潰すかのような攻撃に、ラグナは仰け反り、辛うじて大剣を地面に突き立てることで耐えきるのだった。
(強い──!! 以前に戦ったオルガロンとは比べ物にならねえ攻撃の重さだ……!!)
アジサイの方を助けたいが、向こうを気にしている暇すらない。
後ろからはディシプリンの情けない悲鳴が聞こえてくる。
「ひいいいいいいいいいい!?」
岩陰に潜みながらガチガチと歯を震わせるディシプリンは、生まれて初めて目の当たりにした「狩り」に圧倒されていた。
空気の爆弾が爆ぜる。
巻き上げられるアジサイ。だが、彼女は翔蟲を使って空中で姿勢を制御すると、鉄糸を飛ばして間合いを詰め「螺旋斬」で斬りかかる。
しかし、既にノノ・オルガロンの周囲にはあの結晶が生えており、その咆哮と共に結晶が音を立てて爆ぜていく。
「きゃあっ!?」
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるアジサイ。
それを追い詰めるべく、ノノ・オルガロンは軽々とした身のこなしでアジサイに前脚を叩きつけようとする。
しかし──
「おらーっ!! 閃光ーっ!!」
──マタビが投げた閃光弾が炸裂。
ノノ・オルガロンは飛びあがった矢先に転げ落ち、その隙にアジサイは態勢を立て直すのだった。
「ナイスです、マタビさん!」
「ア、アジサーイ!! こいつら、不気味だニャ!! 殺意は感じるけど、それ以外の感情が全く読み取れねーのニャ!!」
「アオオオオオオオオンッ!!」
全身の毛を逆立たせて咆哮するノノ・オルガロン。
肺を一気に膨らませて息を吐きだすと、四肢に冷気が纏わりつき、氷が毛皮を固めていく。
「形態変化!? 氷を纏った!?」
「此処からが本番って事かニャーッ!?」
一方、ラグナが相対するカム・オルガロンも、咆哮を放つ。
同時に四肢に冷気が纏わりつき、凍り付いていく。
「……野郎、氷の力も健在か……!!」
「アオオオオオオオオン!!」
宙返りしてラグナを飛び越えるカム・オルガロン。
同時に背中に生えている棘が射出され、ラグナの脳天目掛けて降り注いでいく。
振り向き様に避けたラグナだったが、棘が突き刺さった地面が凍り付く。
更に、着地したカム・オルガロンは右前脚に白い光を迸らせると、思いっきり力を込めてラグナを殴りつける。
それを大剣で受け止めたラグナだったが──間もなく、足元に再びあの白い結晶が生えていることに気付いた。
「やっべぇっ!!」
攻撃をいなすようにごろん、と転がった。
すぐさま、さっきまでいた場所が音を立てて爆ぜていく。
「あの結晶は──何なんだよ……!!」
「アオオオオオオオオオンッ!!」
疑問を挟む間もなく、間合いを取ったラグナに空気爆弾が襲い掛かる。
走り抜けていくラグナだが、後方の地面からは氷柱が次々に生えていく。
先程以上の威力を誇る冷気を帯びた空気弾、もしも受けてしまえば体中に霜が張ってしまうのは目に見えていた。
「何か隙を作れそうなもの──」
ちらり、とラグナは地面に落ちた色の違う石に目を向ける。
(破龍石!! スリンガーの弾には持ってこいだ!!)
とにかく一瞬で良いので、カム・オルガロンを怯ませられそうなものを、と考えたのだ。
フックスリンガーをすぐさま飛ばし、石をスリンガーにセット。
そして、走りながら狙いをつけ、大狼目掛けて放つ。しかし──
「ガオッ!!」
ひらり、と素早い身のこなしでオルガロンは避けてしまうのだった。
そればかりか破龍石は地面から生えた石の結晶に当たってしまう。
内心舌打ちするラグナ。しかし次の瞬間、結晶が赤い光を帯びていき──爆発したのだ。
「おっと!? ……これは使えそうだな!!」
迫りくるオルガロン。
前脚から次々に白い光が迸り、結晶が生えていく。
またしても相手を追い詰めてから爆発させて仕留める算段だろう、とラグナは考える。
だが──
「それはつまり──先に爆発させちまえば、テメェが巻き込まれる諸刃の剣だろ!!」
──スリンガーの弾を一斉射。
オルガロンの周囲に生えた白い結晶にそれはぶつけられ、爆ぜた。
同時に、隣り合って生えていた結晶も連鎖的に赤く染まっていき、次々に爆発していく。
今度はオルガロンが転倒する番だ。ラグナは飛び掛かり、オルガロンの背に乗るのだった。
それを横目で見ていたアジサイも──地面に転がっている破龍石を拾い上げると、ノノ・オルガロンの周囲に生えた結晶に投げ付ける。
「ギャインッ!?」
同様に、連鎖的に結晶が爆発していく。
不意の一撃を受けたノノ・オルガロンもまた、倒れ込むのだった。
「あの石……属性エネルギーで燃えて爆発するのか!? 燃料には持ってこいだが──」
ディシプリンが驚いたように目を見開いた。
「好機です!! 鉄蟲糸技──”螺旋斬”ッ!!」
「エリアルスタイル改──”空中撃墜斬り”ッ!!」
倒れ込んだオルガロン目掛けて、ラグナ達は一斉に大技を叩き込む。
終始、結晶や素早い動きで歴戦のハンターたちを翻弄し続けた二匹の響狼だったが──間もなく、あっけなく仕留められることになるのだった。
※※※
「……何なんだコイツ等はよ」
しかし。
狩りが終わった後、二匹の死骸を調べていたラグナは頭を抱える事になった。
二匹の大きく開いた口から先は──食道が著しく狭まっており、とてもではないが獲物を飲みこめるとは思えない。
そして、股ぐらを調べてみれば、本来ならばそこにあるはずの生殖器官が退化してしまって無いのである。
あまりにも生物として不自然な特徴に、腐っても学者気質であるラグナはうんうんと唸ってしまうのだった。
「口はあるのに消化器官が無い、オルガロン特有の雌雄の差はあるのに生殖器官も退化してやがる……! まるでこれじゃあ、オルガロンって生き物を模した動く人形だ……!!」
「ですが! 生殖器官が退化しているのに、どうやって繁殖したのでしょうか……?」
「生き物である以上は、絶対に親が居るはずだニャ!」
「しかも、見ろよ。こいつらの死骸……さっきの結晶みたいなモンが生えているぜ」
ディシプリンが恐る恐る指差した。
体液の代わりに溢れ出した白い液体が結晶化している。
それは、地面から生えている白い結晶と形が同じなのである。
あまりにも生物として異様過ぎる二匹のオルガロンに戸惑うラグナ達。
彼らに答えを出すように──バジルは告げた。
「その認識で概ね間違ってないデスよ。彼らは
「禁足地調査って──」
ラグナも学術院に居たのでその話は聞いていた。
絶滅したと思われていたアルシュベルドが再度発見され、大騒ぎになった例の事件だ。
その後、アルシュベルドは東地域から出て各地に進出しており、この度の飛竜祭でもバラージュ地方に姿を現した。
しかし──それ以上の事は、ギルドから統制されているのか不自然なほどに情報が無かったのである。
当然、人によって造られたとされるモンスターの存在も。
「護竜って何なんだよ!? 人がモンスターを造るなんて、本当に可能なのか!?」
「失われた古代の技術デスよ。現代では再現は不可能とされていマス」
「ではなぜ、今まで
「
「混乱……そうだよな。悪い事に使おうって考えるヤカラも出てくるだろうし」
ディシプリンが納得したように言った。
「しかし、数か月前──東地域にある”守人の里”で見つかったとある書物から、造竜工廠なるものが現在のバラージュ地方に存在することが判明。その調査の為、ワタシは送り出されたのデス。身分を隠して──ネ」
「そういうことか。公に出来ねえモンを調査するのが、あんたの本当の役割だったわけだ。だが──確証はあったのか?」
「あったのデスよ。この一帯に生えている結晶──”竜乳”がバラージュの付近でも見つかっていたのデス」
「竜乳?」
「YES。東地域の生態系を司る巨大なエネルギー源──”龍灯”。そこからあふれたエネルギーが結晶化したものが、貴方達の目にした竜乳結晶なのデス」
「エネルギー源、だから燃えて爆発したってわけか……! 俺達ゃ、ひょっとして火薬庫の中で戦ってたのかもな」
「竜乳は
それを聞き、ラグナ達は黙ってしまった。
そうであれと願われ、設計された造られた命達。
彼らは生命ならば誰しも持つ摂食、そして生殖を奪われ──定められた役割の為に動く兵器であった。
そのような存在があってはならない、有り得ないと考えつつも、今しがた自分達が命を奪った存在が──他でもない造られたものである証拠は次々に出てくる。
「つまるところ、兵器として造られたってことだろ。人間の都合のいい、兵器として、だ。人間の言う事を聞いて、勝手に増えたりもしねえし飯も食わねえ。龍灯という無限のエネルギーさえあれば動く」
ディシプリンが感心したように笑う。
だが──その笑みもすぐに消えた。
彼の胸の中には、何時も好き勝手に地下室に居座り、そして好きなだけ餌を食べて寝てしまう隣人の姿があった。
「便利で結構……
「俺様……分かんねーのニャ……誰が、悪いのか……!」
衝撃的な事実を前に受け入れられないマタビが膝を突いた。
「
ラグナはぽつり、と零した。
「モノは食えねえし、エッチも出来ねえ。そんな悲しい生き物を、果たして──どんな気持ちで作ったんだろな。ましてや、雌雄で大きな違いのあるオルガロンを、だ」
「……ラグナさん」
「だってこいつらは、最初っからそんなもんは必要ねえって切り捨てられたんだろ。人間の手前勝手で、だ。でも──それでもこいつらは長い間、生きていた。生き続けていた」
ラグナは──息絶えたオルガロンに目を向けた。
彼らがどれほどの長い期間を生きてきたのか──造竜技術はとうに失われている。
それを考えれば、取り返しのつかないことをしてしまったような気分になる。
しかし、不老の護竜も殺せば死ぬ。彼らの冷たくなった体を撫でると、何処かラグナは安心した気分になった。
「……ひょっとすると、こいつらを悲しい存在だって断じるのも……人間の手前勝手なのかもしれねーけどな」
「生み出した人間に罪はあれど、生み出された彼らに──罪はないと思います」
「……さて。問題は
「おいおい、ちょっとくらい感傷に浸らせろよ」
「そして、この辺りに竜乳結晶があるということは──逆説的に証明してしまっているのデスよ。
ラグナは息を呑んだ。
護竜という大型モンスターたちを半永久的に動かして尚も有り余る膨大なエネルギー。
それを供給し続けるものが果たしてどのような代物なのか、想像したくも無かった。
「東地域では、
「……どっちにしても、そんなもん放置出来ねえだろ。いつか絶対問題になるぜ。管理する者も誰も居ねえのに、そんな危ないモンを動かし続けるわけにはいかねえ」
ディシプリンの言葉に頷くラグナ。しかし──同時に疑問を持つ。
(……造竜工廠……か。
「それと、出口が閉まってしまいました」
双剣で斬りつけながらアジサイが不服そうに言った。
これでは帰ることもままならない。
「……どうやら、地上に戻るより先に工廠を調べた方が良さそうだぜ」
「何処にあるんだニャ……」
「あるじゃねーか。あの、いかにも怪しい建物がよ」
ラグナが指差したのは地下世界で象徴的に聳え立つ中央の巨大な建造物。
その中は大聖堂のように荘厳な空間になっていた。
そこから先は、更に巨大な穴が広がっており、ラグナ達は螺旋階段を降りながら一歩、また一歩と進んでいく。
「……なんか嫌な空気を感じるな。あてずっぽうで入ったが造竜工廠ってのは案外近付いてるのかもしれねえぜ」
「それ、多分正解だニャ。この下からすごい死臭がするのニャ」
「あっ!!」
「どうしたのですか」
「……昇降機がこんなところにあるのデスよ!!」
「それを先に言ってください」
螺旋階段を降りている途中に、対岸に昇降機らしきものがあるのを望遠鏡で周囲を観察していたバジルが発見する。仕方なくラグナ達は後に戻り、昇降機に乗るのだった。
「そんでもってよ、この機械も竜乳で動いてんだろうな」
「恐らくは。蒸気機関のように竜乳のエネルギーを変換するものがあるのかもしれまセン」
「それにしてもやけに大きな昇降機ですね。まるで何かを運び込むためのような」
「そりゃあ運ぶだろ。工廠なら材料が必要じゃねえか?」
ディシプリンが手帳をお守りのように握り締めた。
もうじきに、先々代が夢見たものが近付いていることに興奮、そして──恐怖が込み上げていた。
そうして昇降機が降りていくうちに、広大な地下空間フロアに辿り着く。
ラグナは──真っ先に声を上げた。
「ンだよ、あれ……!!」
──それは、龍だった。
ラオシャンロンのような巨大な四肢を持ち、そして飛竜のような巨大な翼を持つ──橙色の龍。
表情はうかがい知れない。鉄の仮面のようなもので目が覆われてしまっている。
しかし、舌はだらんと垂れ下がってしまっており、生きているとは到底思えない。
そして異様だったのは、表情を隠す仮面のみならず、四肢、背中、尻尾、そして翼に至る全身に後付けされたような鋼の鎧が付けられていることであった。
「……古龍か!?」
思わずラグナが叫ぶ。しかし──龍はだらんと四肢を垂らしたまま動かない。
言い知れない緊迫感がその場に漂う。
「死んでいるのでしょうか?」
「体に沢山、ロープのようなものが繋がれてるデス……!! エネルギーを送り込まれているのデショウか?」
「まるでへその緒だニャ……へその緒はあんなに数はねーけどニャ」
どくん、どくん、と鼓動を打つのは龍の身体に幾つも繋がれた紐のようなもの。
それが先程の竜乳と同じく、白い光を放っている。
昇降機が降り、ラグナ達は改めて、この地下の空間を見回した。
無造作に置かれた、モンスターの体の一部のようなもの。
辺りからは薬品のようなにおいが漂っており、咽込んでしまう程だ。それが生き物の死の匂いを打ち消しているのだろう。
周囲には巨大な繭のようなものが幾つも置かれており、それらのいずれもが心臓のように拍動している。
そこからは先程の太いロープのようなものが生えており、天井に吊るされた、あの龍に繋げられている。
「素晴らしい! 私の可愛い
何処からともなく声がした。
パチパチ、と乾いた拍手の音が聞こえてくる。
ラグナ達の視線は自然に正面に向いていた。
拍手の主は、にこやかに彼らを出迎える。
「……ローズマリー……?」
信じられないものでも見るようにディシプリンがその名を呼んだ。
彼女はにっこり、と微笑む。
教会に居る時と全く変わらない服装のまま、笑顔で──彼女は告げた。
「フフッ、皆さんお揃いで──私の造竜工廠にようこそ!」