ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第三十三話:龍に等しき兵器

「……造竜工廠を管理する竜人の一族、それがあんただったんだな」

 

 一歩踏み出し、問うたのはラグナの方だった。

 にこり、と微笑むとローズマリーは恭しくローブを摘み、礼をする。

 

「この造竜工廠は、我が一族が守り受け継いできたものなのです。

目的は唯一つ──龍に等しき兵器(イコール・ドラゴン・ウェポン)の完成」

「イコール……ドラゴン、ウェポン?」

 

 ラグナは吊り上げられた龍を見上げる。

 その名が示すのは、ドラゴン──即ち古龍に等しき兵器。

 人の手で超自然的な存在たる古龍を作り出そうとする所業だ。

 それを目の当たりにしたバジルは細剣を手に掛け、ローズマリーに突き立てた。

 

「こんなもの、ギルドがタダで見過ごすとでも思ってるのデスか!!」

「思っていませんよ? だから、今の今まで秘匿していたのです。わざわざ、警備用の護竜(ガーディアン)に守らせてまで、ね」

 

 ローズマリーが呟くと共に、辺りから甲高い鳴き声が響き渡る。

 そして、次々に工廠へ降り立つのは──全身を羽毛に包んだ鳥竜であった。

 羽根の先には鋭い鉤爪が生えており、獲物を引き裂くための武器として発達している。

 だが、その目は黒く、生気は一切感じられない。彼らもまた護竜(ガーディアン)なのだ。

 

「セクレト……の、護竜(ガーディアン)……!!」

 

        【造竜種 護竜(ガーディアン)セクレト】

 

「……美しいでしょう? 白き護竜(ガーディアン)の姿を。彼らは天使。神であるハクシ様の御名の下に異端を裁く天使なのです!」

「何が、神の御名ですか……!!」

 

 アジサイが拳を握り締める。

 

「物を食べない。生殖も出来ない。生命としての尊厳を奪ったものを生命として送り出す。どうして、このような非道をッ!!」

「アジサイ……ッ」

「ラグナさんは、護竜(ガーディアン)を悲しい生き物と断じるのも人間の勝手だと言いました。でもッ! ボクはやっぱり、許せない──生まれたなら、幸せに生きたい、美味しいものを食べたい、好きな相手と──結ばれたい」

 

 その全てを奪われた護竜(ガーディアン)という生き物を──アジサイは憐れむ。

 そして、彼らを生み出した存在に怒りすら湧いていた。

 

「勿論、それだけが人生の全てとは言いません、でも……命の選択肢を、生まれる前から人の手で奪うなんて間違ってます!」

「何か勘違いされているようですね。この造竜工廠を守る護竜(ガーディアン)()()()。ここで作られたものではありません」

「えっ……?」

「言った筈ですよ。この造竜工廠は元より、あのイコール・ドラゴン・ウェポンを造るためのものです。尤も、ものを食べられない、繁殖もできないという点では結局護竜(ガーディアン)と同じですが……」

 

 まるで我が子を慈しむようにローズマリーはイコール・ドラゴン・ウェポンに目を向けた。

 

「しかし、これは救済なのです。人の領域に入り込んだモンスター、彼らを排除するのは貴方達ハンターです。しかし──人間が今の営みを続けるのに、あまりにも多くの犠牲を払い過ぎた!」

「……犠牲ってのはハンターの事か」

「これは貴方達ハンターの為でもあるのです! この世界には人間の手に届かないモンスターがあまりにも多すぎる。あのラオシャンロンですら、氷山の一角ですらありません! その全てを人の手でどうにかするには、限界がある」

「だからイコール・ドラゴン・ウェポンを造ったのデスか!!」

「私の一族は、祖先は──いずれ訪れる危機に備えるため、かつて存在した竜都の技術の一部を拝借、そして──第二の龍灯を作り出しました。そして、そのエネルギーを造竜技術の全てに注ぎ込んだのです」

 

 その結果、生み出されたのが──あの人造龍。

 未だ動き出す気配こそ見せないが、古龍に対抗する為に古龍に酷似した兵器を作り出した、という設計思想にラグナはある種の納得を覚えた。

 

「私は哀しい……これ以上、人とモンスターがぶつかり合い、無辜の人々が犠牲になるのが。だから、ハンターの必要のない世界を作り出すべく粉骨砕身してきたのです!」

「人間の代わりにソイツを戦わせるってんのか。確かにソイツが動きゃあハンターなんざ食っていけなくなっちまうだろうな。ところで──」

 

 ラグナは淡々とローズマリーに問う。

 

「……あんたは長生きだから、面識があるはずだ。先々代の商工会長が何で造竜工廠の事を手帳に書き記していたかも知ってんだろ」

「ラグナ、どういうことだ……?」

 

 ディシプリンがラグナの顔を見上げた。だが、構わずラグナは続ける。

 

「答えなローズマリー。あんたの知ってる事を」

「ええ♪ 実は数十年程前、一族の一人が酒の席でうっかり当時の商工会長にこの工廠の事を漏らしてしまいまして」

「やっぱり酒って悪なんだな、聞いてるかアジサイ」

「うッ……どうしてボクに」

 

 決まりが悪そうにアジサイが肩を落とす。

 しかし──

 

「ですので──当時の商工会長には死んでもらう事にしました」

「ッ!?」

 

 ディシプリンが顔を上げる。

 

「死んでもらうって──まさか、ジイさんを殺したのはあんたか!!」

「大変心が痛みましたが……造竜工廠の事を知っている人間には生きて貰う訳にはいかなかったのです。ギルドが邪魔をしにくるかもしれませんし、余計な勢力の介入はされたくなかった」

「……ふざけるな!! そんなことで殺されたら、ジイさんだって死んでも死にきれねえよ!!」

「必要な犠牲だったのです」

 

 笑顔で言ってのけるローズマリーに、ラグナは心底胸糞の悪さを感じていた。

 そしてやっぱりな、と言わんばかりに大剣の柄に手をかける。

 だが、これだけでは終わらずローズマリーは更に喋り立てた。

 

「しかしこのままでは何の弾みで情報が洩れるか分かりませんよね? そこで私は考えました」

 

 ローズマリーは壁に目を向ける。

 ラグナ達も思わずそれに目を向けて──蒼褪めた。

 

「……ウソだろ」

「私以外にこの工廠を知る人は必要ありませんよね? ……機密を知るのは私のみで十分ですから」

 

 壁に吊るされているのは、白く朽ち果てた骸だった。

 全部で十一体。大きいものから、小さいものまで。

 それが指し示したのは──ローズマリーが自らの一族をその手で粛清したことであった。

 

「この場所を知るのは教会でも私のみ。大変でしたよ? 教会から此処まで素材を運ぶのはね。聖騎士達には沢山の素材を集めてもらいましたが、秘密には一切触れさせないように徹底しましたから」

「……とんだサイコ女だ。手段の為なら目的を選ばねえ。大義の為なら何人、いや何匹犠牲にしても構わねえって思ってやがる。思想は結構だが、やり方は最悪だ」

「ッ……」

 

 竜人達の骨を前にして、最早ディシプリンやバジルも言葉が出ないようだった。

 かくしてローズマリーは、護竜(ガーディアン)以外の一切の協力者をその手で排除し、代わりに何十年もの間完全に秘匿された環境でイコール・ドラゴン・ウェポンを開発していたのである。

 

「何人何匹犠牲にする覚悟ですとも。その先の人類の存続の為ならば! 私は悪魔にだって魂を売りましょう!」

「ギルドとしては、貴方の存在を見過ごせまセン!! 此処で拘束しマス!!」

「できるものなら」

 

 護竜(ガーディアン)セクレト達がバジル目掛けて飛び掛かる。

 しかし──所詮は小型モンスターの烏合の衆。ラグナとアジサイがまとめて武器を振るい、その場に切り伏せてしまうのだった。

 

「おい。もうお終いか?」

「まさか──これで終わりなはずがないでしょう?」

 

 ローズマリーが穏やかな笑みを携えたまま、ペンダントを握り締めた瞬間だった。

 工廠の繭が次々に光り輝き出し、そして竜機兵に繋がれていたコードのようなものが音を立てて外れていく。

 

「まだ時期尚早でしたが……致し方ありません。イコール・ドラゴン・ウェポンを起動します!!」

 

 工廠が大きく揺れる。

 ラグナ達は足を取られ、思わずしゃがみ込んだ。

 宙づりになっていた人造龍が地面に堕ちる。

 

「な、なんだ……やっぱり動かねえのか──!?」

「いや──」

 

 どくん。どくん、と何かが脈打つ音が聞こえた。

 そして──機械龍の被る面から赤黒い光が一度迸ったかと思えば、龍は床に手を突き、起き上がり、そして翼を大きく広げるのだった。

 

 

 

「ギギギ──キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッ!!」

 

 

 

   【造竜種”竜機兵”イコール・ドラゴン・ウェポン】

 

 

 

 ラグナ達は思わず立ち竦む。

 サイズだけならば、超大型古龍にもひけを取らない。

 それが、広大な造竜工廠の中で翼を大きく広げて四肢を突いて立っている。

 その事実に打ちのめされそうになる。

 イコール・ドラゴン・ウェポンは、無機質に首を動かすと──目の前に立つラグナ達を標的と認めたのか、動き出すのだった。

 

「マジかよ、マジで動き出した……!!」

「こんなの、外に出して良い訳がありません!!」

「古龍と同じだニャ、こんニャのーッ!!」

 

 イコール・ドラゴン・ウェポンが大きく口を開ける。

 青白い光が収束していく。

 それを見た途端、ラグナは──本能的に感じ取った。

 多量の熱、そして光。もしもこれを浴びれば、ハンターである自分はともかく──ディシプリンは確実に死ぬ。

 

「オッサン、逃げろ!! 出来るだけ速く、だ!!」

「あえっ!? ああああ!!」

 

 ディシプリンは言われるがままに踵を返して走り出す。

 そしてラグナは大剣を構え、自ら盾になるべく前に出た。

 しかし──何となくだが感じ取っていた。これから来る攻撃は防ぎきれない、と。

 

「ラグナさん!?」

「良いから俺の後ろに!!」

 

 ローズマリーが微笑む。

 これから起こる結果を予期しているからだろう。

 勝ち目は元よりラグナ達には無い、と──

 

 

 

「ギュリオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

 ──光が、解き放たれる。

 何かがラグナの前に割り込んだ。

 それは咆哮と共に自ら盾になり、光を──真っ向から受け止めた。

 凄まじい熱、そして衝撃が襲い来る。

 それが波のように何度も何度も襲い掛かり、そして──収まった。

 

「ピー、ちゃん……?」

「エスピナス!?」

 

 最初に声を出したのはディシプリンだった。

 光線を受け止め、立っていたのは──バラージュの守り神、棘の竜だった。

 

「信じられません、どうやってここに!?」

「な、何で来たんだよォ……!? ケガぁしてんのに──!!」

 

 そう呼び掛ける間もなく、全身を真っ赤な血で染めたピーちゃんは咆哮を上げてイコール・ドラゴン・ウェポンに襲い掛かる。

 

「つーか、どうやって来たんだニャ此処まで!? まさか、全部突き破ってきたのかニャ!? あの分厚い壁を!?」

「バラージュはピーちゃんの縄張り……よくねェもんが現れたと察して駆け付けたか──あんたを心配して付いてきちまったのか──」

「ダ、ダメだピーちゃん!! そいつは──危なすぎる!!」

「ギャオオオオオオオオオオン!!」

 

 咆哮して突進するピーちゃん。

 しかし、大きく羽ばたいたイコール・ドラゴン・ウェポンの翼から鋼の爪が大きく開かれる。

 

「ピーちゃん!?」

「ギュリイイイイイイイイイイン!?」

 

 大腕と化した翼で竜機兵はピーちゃんの頭を正面から掴むと、そのまま地面に捻じ伏せた。

 そして──

 

 

 

「……只の飛竜では、相手にもなりませんわ」

 

 

 

 ──何かが、圧し折れる音が聞こえた。

 何度かのたうち回っていたピーちゃんだったが──次第に大人しくなり、そして──動かなくなった。

 

「あ、ぇ、ピー……ちゃん……?」

 

 

 

「ギギギ──キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッ!!」

 

 

 

 勝鬨を上げるような咆哮が工廠を揺らす。

 残酷なまでの力の差を見せつけたイコール・ドラゴン・ウェポンは羽ばたき、そして奥の壁に向かって熱線を放つ。

 凄まじい音が響いたかと思えば、壁はがらがらと崩れ去ってしまうのだった。

 

「ああ、お待ちになって!!」

 

 壁が崩れた方へ去っていく竜機兵の背にローズマリーがフックスリンガーを引っかけて飛び乗った。

 ラグナは追いかけようとしたが、その脇をディシプリンが走っていく。

 

「ピーちゃんッ!! ピーちゃんッ!!」

 

 慌てた様子で彼はピーちゃんに駆け寄った。

 全身が焼け焦げたような傷塗れで、そして口からは血が噴き出ている。

 ディシプリンは必死にピーちゃんに呼びかける。何度も、何度も、何度も。

 

「ピーちゃん!! ピーちゃん!! どうしたんだよう!! 何で来たんだよ、ピーちゃん!!」

 

 ピーちゃんは──返事に答えなかった。

 ぐっ、と瞼を瞑っており、どうやっても答えなかった。

 

「ピーちゃん……? ピーちゃぁん……!!」

「ッ……駄目だ。首の骨が折れちまってる……」

 

 ラグナが見ても、もう助からない事は明白だった。

 呼吸は止まってしまっており、とっくに手遅れだ。

 異次元の力で捻じ伏せられ、そのまま首を圧し折られてしまったのである。

 飛竜とはいえ頑強そのもののエスピナスの真正面から殺害させしめた竜機兵の膂力の凄まじさに、一同は戦慄するしかなかった。

 だが、それ以上にディシプリンは──呼びかける。

 

「ウソだよな、あんなので、ピーちゃんが死ぬわけがねえもんなあ……!?」

「……ッ」

「ピーちゃん……? ピーちゃん……返事を、返事をしておくれよう……!!」

 

 毒のある鼻先の棘を、構わずディシプリンが触れようとして──ラグナはその手を掴んだ。

 死んでも尚、毒は残り続ける。もし触れてしまえば、ディシプリンの命が危ない。

 だが、それでも、と希うようにディシプリンはピーちゃんの名を呼び続けた。

 呼び続けたが──もう、ピーちゃんは鼻息の一つ吹くことはなかった。

 

「あ、あんまりだ、こんなの……あんまりだよう……!!」

 

 ぽた、ぽた、と地面に雫が落ちる。

 

「ピーちゃんは……モンスターなのに、バラージュの皆を守ってくれたんだ……でもな、そんな事、しなくて良かったんだ……ッ!!」

「オッサン……ッ」

「友達だったんだ……ただ、そこに居てくれるだけで、良かったんだ……!! こんなの、こんなのひでぇよ……あんまりじゃねえかよ……!!」

 

 崩れ落ち、泣きじゃくるディシプリン。

 ラグナは顔を伏せ──「すまない」と言おうとした。

 しかし。 

 その前に、ディシプリンは振り向き、頭を下げる。

 

「俺の所為なんだ……俺が、造竜工廠に行きたいだなんて言わなきゃ、お前らを巻き込まないで済んだかもしれねえ。ピーちゃんも死ななくて済んだかもしれねえ。でもな、俺は弱くて、非力で……自分でケジメをつけることが出来ねえ」

 

 そして手を突き、ラグナ達に向かって──声を振り絞るようにして言った。

 

 

 

「……頼む……ピーちゃんの仇を……取ってくれ……!!」

「ああ、分かったぜ」

 

 

 

 二つ返事で──ラグナは承る。

 正気か、と言わんばかりにマタビは叫んだ。

 

「さっきの見たのニャ……!? 今度こそ死ぬかもしれねーのニャ!?」

「……(ハンター)は、武器を持たねえ人の為に戦う」

「ッ……!」

 

 アジサイは──アルシュベルドを討伐した後にラグナが言っていたことを思い出す。

 

「俺には造竜技術が良いかどうかなんてわからねーし、ローズマリーを裁く権利も無い。だけど──依頼人から受けたクエストは絶対に成し遂げる。俺は、俺の力を欲してる誰かのために武器を振るう」

 

 ラグナは目を瞑る。

 あの日の家族が乗った飛行船が、いつも彼の中では──燃えている。

 ラグナは確信した。ディシプリンは、あの時の自分自身と同じなのだ、と。

 モンスターの手で大切なものを喪った気持ちは誰よりもラグナは理解している。

 だからこそ彼は、たとえ勝ち目が無くとも──イコール・ドラゴン・ウェポンに挑まなくてはならなかったのである。

 

「……なればこそ、ボクがついていかない理由にはならないですね」

 

 双剣を構え、アジサイはラグナの横に立つ。

 

「敵討ち、確かに引き受けました」

「……あーもう、しゃーない奴らなのニャ……!! これで俺様が行かなかったら恰好つかねーのニャ!!」

「──つーわけでよ、バジル。ディシプリンのオッサンを見ててくれねーか。そんでもって──()()()()()()、頼むわ」

「……ハイ」

 

 バジルは静かに頷く。そして──彼らの決意をくみ取るようにして告げた。

 

 

 

「──ギルドの要請により、イコール・ドラゴン・ウェポンの討伐を開始しマス!」

 

 

 

【討伐クエスト】

鋼の雨

 

依頼主:商工会長のディシプリン

 

メインターゲット:イコール・ドラゴン・ウェポンの討伐

 

目的地:造竜工廠

 

造竜技術だとか、ジイさんのことだとか、もう頭がごちゃごちゃして訳が分からねえ。ただ一つだけ言えるのは──ピーちゃん……俺の友達の仇を……討ってくれないか……!

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