ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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第三十五話:たったひとつの冴えた方法

「キィイイイイイイイイイイインッッッ」

 

 

 

 倒れ伏せるラグナ達を前に、イコール・ドラゴン・ウェポンが地面に手を突いた。

 天井に液体金属の氷柱が形成されていく。

 チェックメイトだ、とローズマリーがせせら笑った。最早逃げ場はない、と。

 しかし、その時だった。地面に突如穴が開き、イコール・ドラゴン・ウェポンの前に何かが飛び出す。

 

「──閃光爆弾を、喰らえニャーッ!!」

 

 ロケットランチャーのように構えたそれを打ち放つと、眩い閃光が大聖堂を埋め尽くし、イコール・ドラゴン・ウェポンは仰け反った。

 そして、硬化しかかっていた液体金属が雫となって落ちていく。その隙に血を吐きながらも起き上がる二人の狩人。

 その口の中では既に秘薬が噛み砕かれ、ズタズタになった筋繊維を無理矢理再生させていく。

 

「ナイスだ、マタビッ!! 今の一撃、お前が生き残っていなかったら巻き返せなかった!!」

「ヘヘッ、開発した閃光弾とランチャーが役に立ったのニャ!」

「ッ……ラグナさん、あの液体は……!」

「恐らくは()()()()()!! 金属のうち()()()()()()()()()()()()だ。そこに、銅やスズなどの金属が混ざると化学反応を起こして硬化する!! そうして硬化した合金を──アマルガムと呼ぶんだ!!」

 

 すらすらとラグナは現状で推測できるだけの見識を語る。

 

「尤も、あれだけの量を一気に硬化させて凶器に変えるのは、古代の技術ってヤツだろうがな!!」

「となれば問題は結晶です! とはいえ、此方は──スリンガーで先に爆発させれば良さそうですが!」

 

 アジサイは周囲を見回す。

 スリンガーの弾になりそうなものがなかなか見つからない。

 竜乳は属性エネルギーに反応して爆発するため、ただスリンガーの弾を撃ち込んだだけでは意味が無いのである。

 属性を帯びた都合の良い石ころなど転がっているはずがなく──

 

「それならあったのニャ!! さっき地中で拾ってきたのニャ!!」

「オメー天才ッ!! 天才メラルー!!」

 

 ──盗人、此処に極まれり。

 破龍石の欠片を投げたマタビ。それを受け取るラグナはすぐさまスリンガーにセット。

 呻いたイコール・ドラゴン・ウェポンが、再び地面に手を突っ込み、天井からはアマルガムの雨を、そして地上には大量の竜乳結晶を発生させる。

 だが、最早ラグナは迷わなかった。セットしたスリンガーを全て、イコール・ドラゴン・ウェポンの周囲に撃ち込む。

 燃え盛った結晶は全て、竜機兵がブレスを吐きだす前に誘爆し──辺りは爆炎に飲み込まれる。

 

「キャオオオオオオオオオオウ!?」

「しゃかりきッ!! これで、さっきの分はお返ししたぜ!!」

 

 爆炎の中でのたうち回るイコール・ドラゴン・ウェポンに──赤い残光を目から迸らせた鬼姫が迫る。  

 手に握るはラオシャンロンの素材で鋳造された武器・双焔だ。

 

(鉄蟲糸技──”鬼人空舞”ッ!!)

 

 頭部を、首を、そして背中を、連続で彼女が切り刻む。

 双焔に宿された膨大な龍気が、古龍の骸によって造られた竜機兵の身体を切り裂く。

 物理的なダメージは薄くとも属性によるダメージは極めて通りやすいのだろうか、イコール・ドラゴン・ウェポンは嫌がるように悲鳴を上げて翼脚でアジサイを振り落とそうとするが──

 

「──わりーな。顔面がお留守だ」

 

 ラグナが一気に距離を詰め、空中で大剣を叩き込む。

 ぐらり、と巨体が揺れた──

 

「……ですが、届きませんよ? 鋼の躯体には!!」

 

 ──しかし、すぐさま踏みとどまったイコール・ドラゴン・ウェポンはローズマリーの期待通りに暴れ始める。

 ラグナ目掛けて突進して大きく吹き飛ばし、かと思えば──振り向きざまにアジサイ目掛けて翼脚で殴りつける。

 確かに龍属性はイコール・ドラゴン・ウェポンに対して大きな弱点になり得る。だが、しかし。そもそもとして古龍の身体で組み上げられた竜機兵は、他の生き物と頑丈さが違うのだ。

 事実、大剣で殴ったラグナも全く手応えを感じていない。どの部位も鋼のように硬く、剣を通せる気がしないのである。オマケに、傷をつけられたはずの背中も竜乳の光と共に急速再生していく。

 

「そんな! 折角攻撃出来たと思ったのに! これでは意味が無いじゃないですか!」

「野郎……無敵か!? これじゃあ殺そうにも殺せねえ!!」

「一番のオオワザを突破したからなんだというのです!? 古龍を屠るのを目的に造られた兵器!! それが貴方達人間如きに劣るなどあってはならないし、有り得はしないというのに!!」

 

 周囲の液体金属を吸い上げ、自身の身体に纏わせるイコール・ドラゴン・ウェポン。

 その鎧は更に重厚化していき、ラグナ達の刃を通さない。

 そればかりか、動きは更に激しくなっていく。

 ラグナとアジサイを同時に翼脚で掴んだイコール・ドラゴン・ウェポンは咆哮すると──そのまま壁に投げ飛ばす。

 瓦礫から這い出たラグナだったが、すぐそこに、イコール・ドラゴン・ウェポンがブレスを吐きだす姿勢を取っており死を覚悟する。

 すぐさま大剣を盾代わりにして受け止めるが、みしみしと剣から嫌な音が鳴り響く。

 

(これ、やばいな……ッ!!)

 

 ブレスは掻き消えた。

 しかし、最早ラグナは立っているのもやっとだ。

 ブレスを吐き終えたイコール・ドラゴン・ウェポンは翼脚を振り上げて襲い掛かってくる。

 それを最低限の動きで転がって躱すと、彼は竜機兵の腹下を潜り抜けて後ろ脚に回り込むのだった。

 だが、幾ら斬りつけようと手ごたえを全く感じない。さっきよりも肉質が悪くなっているまである。

 このままでは──じり貧になるのは目に見えていた。

 

「だ、大丈夫かニャ、ラグナ……!?」

 

 粉塵を撒いたマタビがラグナに駆け寄った。

 ダメージは回復できたが、回復アイテムが尽きれば嬲り殺しにされるのは此方の方である事はラグナも分かっていた。

 故に──賭けに出ることにする。

 

「……マタビ、悪い。ちょっと工廠を探して、使えそうなモンをかっぱらってきてくれ!!」

「かっぱらうゥ!?」

「……泥棒猫のオマエにしか出来ねーことだ。頼む!」

「ひ、人使いが荒すぎだニャ!! こんな広い工廠を探せってのかニャ!?」

「大丈夫。オマエが帰ってくるまでの間、何とか戦線は持たせる。絶対に、だ」

 

 向こうにいるアジサイも頷く。ラグナの意図を察したのだろう。

 逆転の一手は見つかるかもしれない。だが、その代わり──マタビによる回復も出来なくなる。

 文字通りの不利な賭けだ。しかし、この不利な賭けを通さなければ、ラグナは一生この竜機兵を倒せないことを察していた。

 それに──全くアテが無いわけではない。

 

(元はと言えば……造竜工廠にあるという”生きた大剣”を俺達は探しに来たんだ!! 危険な代物だろうが……今はソイツに頼るしかない!!)

 

「おや、猫が一匹離れましたか」

 

 それを見ていたローズマリーだったが、マタビを追いかけることはしなかった。

 むしろ粉塵を撒く役が居なくなって、ラグナ達の寿命が縮まったまであるからである。

 

「……ラグナさん。いよいよボク達、絶体絶命ですよ」

「バッキャロー。此処から狩りってのは面白くなってくるんだよ」

 

 並び立ち、狩人たちは改めて獲物に向かい合う。

 肉体の疲労は重く圧し掛かる。だが、それでも──

 

「それに──こんなヤツに負けてたら、黒い飛竜なんざ狩れるワケねーだろが」

「……ラグナさんのいう黒い飛竜は──本当に只の飛竜なんですか?」

 

 呆れたようにアジサイが言った。引き下がる理由には足りないのであるが。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「何処だニャ、何処だニャ、使えそうなものーっ!!」

 

 

 

 聖堂の扉から、マタビは工廠の中へと忍び込む。

 しかし、そんな彼女を取り囲むのは警備用の護竜(ガーディアン)たち。

 最早龍灯が停止し、彼らの無限のエネルギーも有限のものと化したが──それでも、セクレト達は侵入者を排除する為にマタビを取り囲む。

 

「ケルルルルル!!」

「げぇっ!! こいつら……こんなところにも居たのかニャ!?」

 

 マタビは引き下がる。

 今すぐラグナ達の下に帰りたい。

 だが──それは果たして正しい事なのか、と案じる。

 ラグナは今まで、どんな敵が相手でも決して逃げはしなかった。

 そして、それに感化されたマタビもまた──逃げる事をやめた。

 

(……護竜(ガーディアン)だとか竜機兵とか、正直俺様に何とかできるとは思えねーけど、ラグナもアジサイも、弱音なんて絶対吐かなかったのニャ……!!)

 

 背中からドスゲネポス銃剣を抜刀し、マタビは──自らがすっかりラグナに毒されていることに気付いた。

 

「あーあ、ラグナのヤツ、絶対にセキニン取ってもらうのニャ……マタビがこんなになったのは、ラグナの所為だニャーッ!!」

 

 飛び掛かってくる護竜(ガーディアン)セクレト達。

 しかし、それらを銃剣で薙ぎ払い、突く。

 ドスゲネポスの麻痺毒が回ったのか、次々にセクレト達は痺れて倒れ伏せていく。

 そこにトドメと言わんばかりに大樽爆弾Gを設置し、突っ切ったマタビは──トドメと言わんばかりに無げナイフをお見舞いする。

 狙いは勿論、仕掛けた大樽爆弾Gだ。

 

「──アデュー、だニャ!!」

 

 爆轟が巻き起こる。

 護竜達は爆炎に焼かれ、まとめて絶命するのだった。

 そして振り返ることすらせずに、得体のしれない液体の滴る通路をマタビは駆けていく。

 地図は無い。だが、盗人としてのカンが告げている。

 きっとこの先に──「お宝」があるのだ、と。

 

(ナメんニャ!! コソ泥だけで生計立ててきたメラルー一家のリーダー、マタビ様とは俺様の事だニャ!!)

 

 すんすん、と鼻をひくつかせたマタビは一際頑強そうな扉に辿り着く。

 その鍵穴に針金を突き刺すと、ものの数秒で扉は音を立てて開くのだった。 

 中に押し入ったマタビは──思わず立ち尽くす。

 

「この部屋……!! 硝子貼りになってるのニャ……!!」

 

 イコール・ドラゴン・ウェポンの姿が遠巻きに見える。

 丁度、大聖堂を見下ろす位置なのだ。そして──マタビは、部屋に接地された水槽に目を向けた。

 その中には──ぶくぶくと膨れ上がった肉塊が浮かんでいる。

 ゾゾ、と毛を逆立てながらもマタビは抜き足、差し足で周囲を見回していく。

 

「あっ……!!」

 

 そして漸く──その中の一つに目を向けた。

 剣だ。

 しかし、柄には肉塊が纏わりついており、そして剣自身も絶え間なく拍動している。

 見ただけでこれが危険なものであることは彼女にも本能で理解出来た。

 

「大剣が……生きているってのは、こういうことかニャ……!?」

 

 ごくり、と生唾を飲み込んだ。

 恐怖で立ち竦む。

 しかし──ラグナ達はもっと怖いはずだ、と念じる。

 マタビは懐から小さな爆弾を取り出した。

 ガラクタや火薬をありったけ詰め込み、自身の知識をもとに作り出した最高傑作だ。

 

「や、やってやるのニャッ……こ、こいつで水槽をブッ壊すのニャ……!!」

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