ワンナイトから始まる狩猟生活   作:タク@DMP

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BGM「正義は綻びて」


第三十七話:それでも俺は

 ※※※

 

 

 

「……んだ、ここ」

 

 

 

 ラグナが目を覚ますと──そこは、古びた聖堂だった。

 巨大な龍灯が鼓動するように脈打っている。

 起き上がり、手元に転がっているボーンブレイドを握り締めた。

 そして、肌がじりじりと焼け焦げるような殺意のする方を見遣る。

  

「……黒い……ドラゴン……ッ!?」

 

 思わずラグナはたじろいだ。

 学術院に居た頃──大きな騒ぎになった黒き龍。 

 それにそっくりではあるが──全身の鱗はぼこぼこと沸き立っており、頭部はまるで悪魔のように沸き立っており、最早龍の形状だけを模した不定形の怪物であった。

 そして、その身体に白い陶器のような鎧が纏わりついていき──黒龍は白き姿へと変貌していく。

 背から生えた翼に巨大な手が生えた、翼脚を持つ龍。

 

「ッ……いや、白くなった!? オマエは一体──!!」

 

 じん、と頭が痛む。ラグナの脳裏には──ひとつの名前が過った。

 

「救世主……? ゾ・シア……?」

 

 

 

「キュオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!」

 

 

 

        【造竜種”白熾龍”ゾ・シア】

 

 

 

 ゾ・シアは自らの頭を掻きむしり、頭に纏わりついた陶器の如き鎧を右腕の巨大な翼脚で引き剥がそうとする。

 しかし、それを止めようと左腕の翼脚が掴む。

 その姿は──まるで悶え苦しんでいるようだった。自らの中に巣食う黒い衝動に抗うように、龍は全身を掻きむしり、そして──叫ぶ。

 ラグナは──どうしても、この龍にだけは剣を振るおうとする気になれなかった。

 今のゾ・シアの姿が──自身に重なって見えたからである。

 

「……そうか。オマエは……今の俺、ってわけか」

 

 ラグナは今の自分がどうなっているのか、察した。

 これは夢のようなものであり、今のラグナの意識は完全に閉ざされてしまっている。

 あの肉塊のような大剣を握ってしまった時点で、ラグナの意識は大剣の素材となった細胞に蝕まれてしまっていた。

 守りたいという意思と相反するように、全てを破壊して蹂躙したいと叫ぶ本能。

 その二律背反する矛盾に苛まれた造竜の細胞。

 

「……キュオオオオオオオオオオオンッ!!」

「安心しろよ。面倒くせぇヤツの相手は──慣れてんだ」

 

 ラグナはゾ・シアに向かって痛快に笑う。

 面倒くせぇヤツ──アジサイの顔を思い浮かべながら、ボーンブレイドを抜刀した。

 戦いたくはない。だが、終わらせてやりたい。

 目の前の龍を永遠にし苛む苦痛から解き放ってやりたい。

 それを聞いたゾ・シアは──不思議そうに首を傾けると──頷き──そして咆哮するのだった。

 

「……あんがとよ。俺ァ……最後まで足掻いてみてえのさ。何故なら俺は──飛竜落としのラグナ様だからな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 理性を失ったラグナ──否、ラグナロクは大剣を握っているとは思えない俊足でアジサイに斬りかかる。

 それを翔蟲で上に跳び上がることで躱すアジサイ。しかし、剣を薙ぎ払うだけで衝撃波が巻き起こり、後ろの柱が真っ二つに切り裂かれ、更に壁にも一文字の傷が刻まれる。

 最早、人間だった時とはけた違いの膂力を誇るラグナロクの剣閃に恐怖すら覚える。

 喰らえば人体は防具諸共両断されることは確実だ。

 

「ルルルルルルルウウウウウウウウ!!」

「ラグナさん!! 目を覚ましてくださいッ!! 聞こえますかッ!! ラグナさん!!」

 

 再び翔蟲を伸ばしたアジサイはラグナの背後に回り込み、脇を腕で抑えつけ羽交い絞めにする。

 しかし、ラグナの腕力は想像以上に高くなっており、手を掴み返したラグナはアジサイの身体を振りほどくとあろうことかその身体を投げ飛ばす。

 

「マズい──ッ!?」

「ルルルルルルルルルルルルルルッ!!」

 

 大上段に振り下ろされる剣閃。

 アジサイは反射的に翔蟲で受け身を取った。

 衝撃波だけで天井にぶら下がっていた鉄骨が断ち斬られ、がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。 

 地面に降り立ったアジサイだったが、更に周囲には竜乳の結晶が次々に生えていることに気付いた。

 その結晶目掛けてラグナロクが剣を叩き込むと、次々に龍属性エネルギーが伝播し、部屋中の結晶が爆ぜていく。

 

「きゃああああ!?」

 

 爆炎に焼かれながら、アジサイは膝を突いた。

 人間の時からは考えられない圧倒的なフィジカル。

 そして、護竜(ガーディアン)と同じ、竜乳を扱う力。

 最早、人の形をしたモンスターであることは誰が見ても疑いようがなかった。

 

「アハハハハハハハハハッ!! 素晴らしいッ!! 素晴らしいわ、ラグナ様ッ!! 造竜幹細胞に適合できるだけの潜在能力……人間の器に閉じ込めておくには惜しい才能ッ!! 人の身体としての限界を超えれば、此処までになれるのですね!!」

「ッ……違う!! こんなの、ラグナさんは望んでいないッ!! いや──ボク達だって望んでませんッ!!」

「ラグナ、さっさと正気に戻るのニャ!! そんな姿じゃあ、娼館にも行けねーのニャ!!」

 

 マタビがラグナの頭に掴みかかる。

 その隙にアジサイがラグナの腕に繋がれた大剣に螺旋斬を喰らわせる。

 纏われた肉塊は然程硬くないのか斬撃によって削られていく。

 だが、肝心の刀身は想像を絶するほどに重厚で、アジサイは切りつけながら途方に暮れるのだった。

 

「あ、アジサイ、やべーのニャ、これ本当に壊せるのかニャ!?」

「壊せるとか壊せないとかの問題じゃないです、やるしかありません……!!」

「確かに、剣を破壊さえすれば力の供給は止まりますわ。でも──剣を破壊できるかどうかは別問題ッ!! イコール・ドラゴン・ウェポンの攻撃に耐えきり、その身体を両断したリグヴェナロクを破壊するなど、不可能なのですッ!!」

「ナメないでください……ボクの武器だって、古龍の力が宿ってるんです!!」

「ですが──武器以前に貴女が死んでしまっては意味がありません!」

「ルウウウウウウウウウッ!!」

 

 思いっきりラグナロクは地面に頭を打ち付け、マタビを振りほどく。

 喀血し、伏せたマタビだったが、それに追い打ちをかけるようにラグナロクは背中を踏みつける。

 

「ぎっ、にゃあああああ……ッ!?」

 

 みし、みし、とマタビの背中から何かがきしむような音が響いた。

 このままでは彼女が殺されてしまう、と危惧したアジサイは咄嗟にラグナロクの顔面に渾身の螺旋斬をぶつけるのだった。

 しかし──ラグナロクはそれを鬱陶しそうに真正面から受け止めると、背すじから生えてきた尾を鞭のようにしならせ、アジサイを弾き飛ばす。

 

「がはっ!?」

 

 そして、マタビの身体も蹴り飛ばし──その場で野獣の如き咆哮を上げるのだった。

 

 

 

「ルウオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!」

「……お終いです。さあ、トドメを!!」

 

 

 

 大きく剣を振り上げるラグナロク。

 倒れ伏せたアジサイは翔蟲を飛ばそうとしたが、いずれも鉄糸を飛ばす余力が残っていないようだった。

 

(時間が……足りない……!)

 

 アジサイは目を瞑る。

 

(ボク達、此処で皆──殺される……!!)

 

 凄まじい衝撃波が放たれる音がした。

 しかし──いつまで経っても痛みも死も訪れなかった。 

 恐る恐るアジサイは、目を開ける。

 そこには──

 

「ルッ、ルッ、ルオオオオ……ッ!?」

 

 ──大剣を握っていない左腕で兜を引き剥がそうと藻掻くラグナロクの姿があった。

 思わず振り返る。斬撃は大きく逸れており、壁を大きく切り裂いている。

 アジサイは──無傷だ。

 

「ッ……どうしたのです、ラグナロクッ!! 動きなさいッ!!」

「ラグナさんッ!!」

 

 アジサイは鉄糸を回復させた翔蟲で大きく距離を詰める。

 そして、ラグナロクに飛び掛かり──押し倒した。

 藻掻き、じたばたとするラグナロク。それを取り押さえるアジサイは必死に肉塊で繋がれた大剣と手を双焔で斬りつける。

 

「ラグナさんッ!! ラグナさんッ!! 聞こえますかッ!! 聞こえていますかッ!!」

「ルッ、オ、オオオ……!?」

「今、助けます……絶対に、元に戻してみせます!!」

「おのれ──余計な事を──ッ!!」

 

 ローズマリーが血走った眼で小型のボウガンを構えた。

 その狙いはアジサイの側頭部だ。かつての先々代商工会長を葬った時のようにアジサイを直接手に掛けてしまおうという算段である。

 しかし──彼女の背後に何かが回り込み、背後から殴りつけた。

 

「がはっ!?」

「無粋な真似は──やめるのニャ!!」

 

 メラルーの復活は早い。

 ゲネポス銃剣の柄で殴られたローズマリーは倒れ込み、しかし──確かな殺意を以てマタビを睨んだ。

 

「ッ……メラルー風情が……!!」

「そうやって、人を見下してるから痛い目見るのニャ!!」

 

 そして最後の大樽爆弾を彼女の傍に置くと一気にバック宙で距離を取る。

 

「やっ、やめ──」

「ちったぁ反省しやがるのニャ!!」

 

 投げナイフが大樽爆弾に突き刺さった。

 そして、轟音を立てて爆ぜたのである。

 爆轟と共にローズマリーの身体は放り投げられ──無惨にも地面に落とされたのであった。

 それを見届けたマタビもまた、アジサイの下に飛び降りる。

 

「ラグナさんから大剣を手放させますッ!! 協力してくれますかッ!!」

「なにあたりめーの事言ってやがんのニャ!!」

 

 剣を破壊出来ずとも、剣と手を繋ぐ肉塊を破壊出来れば良い──と考えた二人はラグナロクの右手に刃を突き立て続ける。

 だが、再び兜の中から赤い眼光が迸ってアジサイの細い首にラグナロクの左手が伸びた。

 伸びたのだが──今度はその身体が痙攣し始める。

 ゲネポス銃剣の麻痺毒がラグナロクを襲ったのである。

 たとえ造竜と言えど、麻痺からは逃れられない──

 

「この命は、貴方に拾われたんです……諦めませんッ!! 絶対にッ!! 絶対、元に戻しますッ!! ラグナさんッ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……何で足掻くのかって?」

 

 

 

「……そりゃあまあ、どうせ終わるなら綺麗に終わりてえからだよ。俺は──結局、夢には追いつけなかった。だけど……夢を託した相手ならいる」

 

 

 

「せめて、そいつをちゃんと送り出して逝きてぇじゃねえか」

 

 

 

「……んまあ、その……何だ。ちょっと前の俺なら絶対有り得なかったんだけどな。今の俺には……荷物が増えすぎちまった。大事な大事なお荷物たちがな」

 

 

 

 ラグナは、ボーンブレイドをゾ・シアに切りつける。

 その白い陶器のような鎧は剥がれ落ち、中からは黒く醜く悍ましい龍の顔が表れていた。

 黒龍の業火を躱しながら──ラグナは一言、また一言穏やかに言葉を紡いでいく。

 

「……オメーも大変だったな。利用されたりなんだりで」

 

 

 

「……人を護るのが使命だから? 大したヤツだよ。俺は──結局終いまで自分の事でいっぱいいっぱいで、オマケに……後始末まで任せる事になっちまった」

 

 

 

「……でもよ、俺だってオトコノコだ。オマエみたいないい加減なヤツが今更何言ってんだって話だけど……」

 

 ラグナは苦笑交じりに言った。

 

「──あんなに俺の夢を信じて、一緒に付いて来てくれて──慕ってくれる女の子を泣かせたくねえんだよ。名前は……名前は──」

 

 

 

 

「──ラグナさんッ!!」

「──ラグナッ!!」

 

 

 

 

 声が、聞こえた。

 とても懐かしく、そして遠い声が。

 激闘の中でラグナの身体は黒に蝕まれ、最早名前すらも忘却しつつあったが──その声で、自分が何の為に抗っていたかを思い出す。

 

「アジサイ……マタビ……ッ!!」

 

 内側から巣食う衝動を押しやり、ラグナは大剣を大きく振り上げ、力を一気に溜める。

 そして──黒く醜い龍の頭部にボーンブレイドを叩き込んだ。

 

 

 

「ああ、最期まで飛ぶさ。あの空を我が物顔で翔ぶ──飛竜たちのようにッ!!」

 

(エリアルスタイル改──”空中真溜め斬り”ッ!!)

 

 

 

 ──造龍の頭部が大きく裂ける。

 それでも尚、抵抗しようとしたゾ・シアだったが──次第に、何かを受け入れたかのように大人しくなり、そして──白い粒子となって消え失せたのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 渾身の一撃だった。

 筋繊維全部が千切れるかと思うほどの力を込め、アジサイは肉塊に双剣を押し付ける。

 龍気が迸り、赤い稲光となって辺りに飛び散る。

 

 

 

「──ッッッらああああああ!!」

 

 

 

 肉塊が──双焔によって切り裂かれる。

 そして、大剣が地面を転がった。

 それでも尚、大剣からは黒い触手のようなものが伸び、ラグナロクを再び侵そうとしたが──触手はぴたり、と止まり──そして、枯れ木のように朽ちていく。

 

「ル……ァ……」

 

 呻き声を上げて暴れていたラグナロクだったが、触手が朽ちると共に──体中を覆っていた黒い肉塊も溶け落ちていく。

 そして、肉塊からはすっかり色あせてしまった鎧と兜が露出する。

 アジサイはすぐに、ラグナの兜を取り外した。中からは──未だに苦しそうに悶えるラグナの顔が露わになる。

 だが、頬にまで浸食していた黒い罅は次第に消失していき、彼の呼吸も一先ず落ち着いたのだった。

 

「ったく、世話かけさせやがってだニャ……」

 

 それを見て、アジサイはへたり込む。リグヴェナロクは未だにぼごぼごと音を立てていたが、暴走する気配もない。

 

「よ、良かった……良かった、です、ラグナさん……!」

 

 そう言ってアジサイがラグナの胸に倒れ込んだのも束の間。

 

 

 

 ──ドゴオオオオオオオオオオオオンッッッ!!

 

 

 

 大聖堂の奥で陣取る龍灯が──爆ぜた。

 そして、天井からも瓦礫が次々に落ちていき、辺りで白い爆発が起きていく。

 

「や、やべーのニャ、アジサイ!!」

「……脱出しましょう。此処は危ないです!」

「そ、そーだニャ……!! このままじゃ俺様達生き埋めだニャ!!」

 

 最後の力を振り絞り、アジサイはラグナを背負う。

 そして振り返った。落ちてくる瓦礫の中に、イコール・ドラゴン・ウェポンの死骸もリグヴェナロクも埋もれていく。

 

「……これで、良かったんです。きっと」

 

 二度と──造竜技術は掘り起こされる事はない。

 永遠に土の下で埋まっていてくれていい。

 アジサイは、ラグナの体温を感じながら──崩れていく造竜工廠を後にするのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 ラグナを背負ったままアジサイとマタビは何とかさっきの部屋に辿り着く。

 ピーちゃんの亡骸の前で今か今かと狩人の帰還を待ちわびていたバジルとディシプリンが顔を上げる。

 

「アジサイ!! マタビ!! おい……ラグナは……!」

「……意識は戻っていませんが、生きています」

「お前ら……やってくれたのか……!」

「……でも──」

 

 辺りから爆発が起こる。

 地下の龍灯の崩壊は、造竜工廠全体どころか地下都市全域に及びつつあった。

 

「な、なにがあったのデス!?」

「龍灯が破壊されたんです! このままじゃ、此処は崩れます! 脱出しないと!」

「折角イコール・ドラゴン・ウェポンをぶっ潰したのに、俺様達まで巻き添えだニャ!」

「ッ……そう、だな」

 

 ディシプリンはちらり、とピーちゃんに目を向けた。

 そして──最後の別れを告げる。

 

「……ピーちゃん。ごめんよ。俺……お前の分まで長生きするからよ」

 

 一行はまだ動いている昇降機に駆け寄り、上へ上へと逃げる。

 その間にも造竜工廠は爆発が次々に巻き起こり、崩壊していった。

 だが、造竜工廠を脱出しても尚、地下都市全体は揺らぎ続けていた。 

 竜乳があちこちから漏れ出し、爆発し続けている。

 

「そういえばワタシたち、どこから脱出すれば良いのデス!? さっき来た洞窟は閉まっちゃったのデスよ!?」

「いいや、アレを見てくれよ」

 

 ディシプリンが指差した。

 岩戸が降りて閉ざされていたはずの洞窟に大きな穴が開いている。

 

「見ろよ……ピーちゃんのおかげで、俺達ゃ帰れるぜ」

「……急ぎましょう。あの子が作ってくれた道を無駄にするわけにはいきません」

 

 彼らは急ぎ、洞窟へと入って行く。

 揺れはいつまでも続いていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

 

 

 

 命からがら、ローズマリーは逃げ果せていた。

 造竜工廠の裏口には隠し通路があり、地上に簡単に行ける昇降機があるのだ。

 そこは広大な地下道に繋がっており、バラージュから逃げ出すのも可能だ。自分を死んだことにしてギルドの手を逃れるなど容易い。

 彼女は傷だらけの身体を引きずりながらも──恍惚とした笑みを浮かべていた。

 

「す、すばらしいものを見られました……! まさか、あれほどの、あれほどの適合者が居るとは! 時間は、長い……今度は、この研究成果を……!」

 

 手に分厚い本を後生大事に抱きかかえながら、ローズマリーは薄暗い通路を一歩、また一歩と進んでいく。

 だが、足を止めた。

 通路を塞ぐようにして、そこには白い髪の少女が立っていた。

 目は宝玉のように真っ赤で、頬には枝葉のような紋様が刻み込まれている。

 

「……ローズマリー。久しぶり」

「あ、ああ……どうして、此処に……!!」

 

 抑揚のない声で淡々と──少女はローズマリーの名を呼ぶ。

 

「その様子だと、大失敗したみたい。地下諸共、貸し出した護竜(ガーディアン)達も、イコール・ドラゴン・ウェポンも……運命を共にした……でしょ?」

「で、ですが、成果は得られましたわ! リグヴェナロクは、プランDはやはり間違っていなかった! 確かに造竜工廠は潰えましたが、この結果をもとに更なる造竜を作り出せるはずですわ!」

「誰にやられたの?」

「ハンター……”飛竜落とし”のラグナ様です! ですが、彼はもう──」

 

 そう言いかけたローズマリーは──言葉を止めた。

 少女の背後から唸り声、そして護竜(ガーディアン)特有の青白い光が浮かんでいる。

 

「……つまり、()()()()()()()()()()ってこと。イコール・ドラゴン・ウェポンも、リグヴェナロクも……古龍に対抗するどころか、只の人間に潰されるだけの代物に過ぎなかった。違う?」

「わ、私を消すつもりですか!? 貴方達とは技術も交換した仲ではありませんか!! 多額の融資だってしたはずです!! 恩を仇で返すつもりですか!?」

「それはこっちの台詞。人間如きに潰されるような計画に、これ以上協力は出来ない」

 

 少女の背後から何かが飛んだ。

 そして、ローズマリーの身体を押し倒し、そして頭に向かって牙を剝く。

 筋肉繊維が剥き出しになった狼の如き龍。

 ローズマリーの腹に大きく食い込んだ牙は醜く曲がりくねっており、そして牙からは赤黒い龍気が迸っている。

 

 

 

     【造竜種”護兇爪竜”護竜(ガーディアン)オドガロン亜種】

 

 

 

「こ、こんなところで──この野蛮人(ワイルズ)共が──ッ!!」

「──オドガロン、やっちゃって」

 

 ローズマリーの頭は一瞬で食い千切られ、鮮血が辺りに飛び散った。

 護竜(ガーディアン)に獲物を摂食する機能は無い。

 だが、かつての記憶と本能のままに、オドガロンと呼ばれた護竜(ガーディアン)はローズマリーの身体を貪り続ける。

 それでも、消化器官が退化してしまっているので肉塊を咀嚼することなく、辺りに撒き散らしてしまうのであるが──

 

「……さあ、行こうオドガロン。此処からは私達の番だ」

「ウルルルルオオオオン!!」

 

 吼えたオドガロン亜種は踵を翻し、ローズマリーだったものをその辺に放り投げる。

 傍に立ったオドガロンの顎を撫でながら──鮮血に塗れながらも少女は呟いた。

 

 

 

「世界のコトワリを変えるのは……私達、完全なる調和団(パーフェクトネイチャー)だよ」

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